三菱、野村は米金融危機で“漁夫の利”を得るのか?
三菱UFJフィナンシャル・グループが米証券第2位のモルガン・スタンレーに最大9000億円を出資して役員も送り込むことになったのに続いて、野村ホールディングスは破綻した米証券第4位のリーマン・ブラザーズのアジア太平洋部門、欧州・中東部門を買収することになった。それに先だってすでに今年前半には、みずほコーポレート銀行が米証券第3位のメリルリンチに1000億円、三井住友銀行が英銀バークレイズに1000億円を出資している。9月の危機勃発の中で、そのメリルリンチは米銀行第3位のバンク・オブ・アメリカに約5兆2000億円で救済合併され、またリーマンの北米投資銀行部門はバークレイズに1800億円で買収されている。
80年代のバブルとその崩壊期に国際展開に失敗し、結果的にその後のサブプライム関連の金融商品ブームに乗り遅れて、その分だけ傷も少なかった日本の金融機関が、ここへ来て一気に世界的な金融大再編の嵐の中に飛び込んだ恰好だが、果たして日本勢は漁夫の利を得て「一周遅れのトップランナー」のように国際金融界の上層に躍り出ることになるのか、それともまたかつてのように、国際化と言いながらも外国人ディーラーなどを超高給で雇って単に食い物にされただけという経営管理能力の欠如を再び露呈することになるのか。
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【コメント】
■須田慎一郎「イカサマ賭博に手を出した」
■高野孟「三菱UFJは大丈夫か?」
■財部誠一「アジア、ヨーロッパでの営業拡大を一気に進めるためのインフラを買った」
■田原総一朗「野村はリーマンの社員を格安で雇う」
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須田慎一郎氏(経済ジャーナリスト)
「イカサマ賭博に手を出した」 (9/29)
東京三菱UFJがモルガンスタンレーに出資した9000億円は「エイ、ヤッ!」でバクチを打ったようなもの。しかもその賭博場はプロから見れば「とんでもないところにバクチを打ったな」と思わせるイカサマ賭博が疑われているところで、そこに東京三菱UFJは投資にまわせる余剰資金2兆円の約半分をつぎ込んだ。私は、このバクチに負ける可能性は十分にあると思う。
たしかに株式の取得が20%を超えた場合には、将来的にモルガンの経営が安定して利益が再び発生すれば、その利益は自動的に東京三菱UFJの決算に加算される。また、9000億円であの名門金融機関のモルガンスタンレーの経営権を握ることもできる。経営陣は「これはグローバルな金融機関になるための千載一遇のチャンスだ」と感じたんでしょう。ですが、逆に言えばこの考え方が浅はかなのです。
なぜなら、9000億円の出資なんてモルガンが抱えているリスクに比べればわずかなもの。1兆円程度の出資で経営が本当に落ち着いてくれればいいが、モルガンにはまだまだ現実化していないリスクがあるかもしれず、最終的には数十兆円の規模に上る可能性もある。
そこを考えていくと、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融取引があって、これが全てのガンとなっている。これが昨年の12月末で6200兆円の元本があるとされていて、場合によっては7000兆円を超えているとも言われています。この種の取引をあらわす数字では、兆の上の単位である「京」が使われたほどです。
CDSというデリバティブ取引の規模はもはやそういったレベルに達していて、それにどっぷりつかっていたのがリーマンやモルガンであり、あるいはつぶれたベアスターンズやAIGだったのです。
現在、どこにどれだけのリスクがあり、どの会社がどれだけ損をするのかが全くわからない。これが、今回の金融危機の本質なのです。
そういった状況にもかかわらず、(モルガンの株式の)20%を握ったことで、将来的に20%の利益が入ってくると考えているのはまったくのナンセンス。たった3日間でモルガンの損失をすべて確定させ、9000億円で救済できると見極めることは不可能だし、彼らもそこまでは言っていない。
しかも東京三菱UFJは博打に関しては素人同然で、もしかしたらイカサマ賭博かもしれないところに「よくもまあ9000億円も出しましたね」というところです。博打場に誘い込まれた若旦那が莫大な掛け金を出してしまった。はたして、丁が出るのか半が出るのか。いま、そのサイコロが振られたところです。
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高野孟氏(THE JOURNAL主幹)
「三菱UFJは大丈夫か?」 (9/29)
財部コメントの、野村と三菱の金の出し方が違うという指摘は、極めて重要だ。マスコミでもこのような観点はこれまで全く出ていない。
昨日のサンプロの第1コーナー「どうなる?金融危機」では、武者隆司=ドイツ証券副会長が出演。この人は前から「金融危機はすぐに収まる」という楽観論で、私はおかしいんじゃないかと思っていたが、前日まで米国金融事情を視察して帰ってきたら打って変わって悲観論になって、「金融市場はほとんど麻痺状態で、今や大恐慌前夜」だという論調。私は「ほら、やっぱりそうでしょう」と言いたかったが黙っていた。
野村のリーマン・ブラザーズの一部買収や三菱UFJのモルガン・スタンレーに対する9000億円出資については、武者は、「モルガン・スタンレーもゴールドマン・サックスも銀行持株会社化する[預金の裏付けもなしに40~50倍ものレバレッジを利かせてマネー・ゲームを展開する投資銀行=証券会社から、自ら預金を持ちFRBの規制と同時にいざという場合の救済も受けられる商業銀行に転換する]ので日本にとってはチャンス」と述べた。そこで財部は、本サイトのコメントのような観点から「野村は分かるけれども、三菱の9000億円については、投資銀行のビジネス・モデルが崩壊した後に、一体何を得ようとしているのか疑問だ」と自説を述べたが、武者は「グローバルなホールセール・バンキングの成長性」[が見込めるのでそれに日本が乗るのは得策]を強調するにとどまり、田原さんもその点をそれ以上深めなかった。しかし、財部に番組中のヒソヒソ話で聞いたところでは、「三菱内部は深刻」だという。9000億円の決断はトップ数名だけで行われ、社内は全くの寝耳に水で疑問の声が噴出。何のための出資かの理屈付けはこれから取り組むのだという。余りに異常な話で、背後には日米政府間の“政治”が働いていた可能性もある。
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財部誠一氏(経済ジャーナリスト)
「アジア、ヨーロッパでの営業拡大を一気に進めるためのインフラを買った」(9/26)
「THE JAPANESE ARE BACK」
ウォールストリート・ジャーナルはこんな見出しで日本の金融機関による米国投資銀行への出資や買収を表現してみせた。80年代、バブル経済の頂点で日本企業はロックフェラー・センターなど米国を象徴する商業ビルを買いあさって顰蹙をかったことがある。その後バブル崩壊でまったく存在感を失っていた日本企業が久方ぶりに存在感を現したというわけだ。
これをどう評価したらいいのか。
最初に理解すべきは、この10年、世界の低金利、金余りの受け皿となってきた米国投資銀行のビジネスモデルそのものが終わったという現実である。自己資本の40倍も50倍ものマネー取引をすることで異常な高収益をあげてきた投資銀行はしょせんマーケットしだいで、マーケットがひとたび逆回転した瞬間、自己資本が吹き飛んでしまうというお粗末千万なビジネスモデルだった。名門投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻は、米国投資銀行というビジネスモデルそのものの終焉を意味している。ゴールドマン・サックスの商業銀行免許取得やメリルリンチが商業銀行のバンカメに身売りしたことからもわかるように、これまでの投資銀行ビジネスに彼ら自身が一線を画そうとしていることは明らかだ。
その前提にたって考えてみると、モルガン・スタンレーに出資する三菱UFJと、破綻したリーマン・ブラザーズのアジアとヨーロッパ部門を買収する野村とでは、その意味するところが随分と違う。
野村はリーマンのアジア、ヨーロッパを丸ごと買収するわけではない。必要な業務だけ絞込み、なおかつ「リーマン」の名前も残さない。いわばアジア、ヨーロッパでの営業拡大を一気に進めるためのインフラを買ったというニュアンスが非常に強い。これはこれでひとつの見識といえる。元リーマンの社員たちが大量に辞めなければ、それなりの効果をもたらすのではないか。
対照的に、いまひとつ意図をはかりかねるのが三菱UFJだ。彼らはモルガン・スタンレーが再び栄光を取り戻すと信じているのだろうか。はたまたモルガン・スタンレーから投資銀行業務を学ぶつもりなのか。あるいは20%の持株比率でモルガン・スタンレーを牛耳れるとでも思っているのだろうか。疑問ばかりがうかんでくる。
もっとも純投資だというなら、わかりやすい。
世界最強の投資家、ウォーレン・バフェット氏がゴールドマン・サックスに出資する理由は明快だ。株価が暴落した業界最大手の株式を大量保有することが資産形成の王道だというのがバフェット氏の投資哲学だ。要するに、安いから買っただけの話で、投資銀行業務を学ぼうなどというインセンティブはいっさいないはずだ。これはわかる。いまが史上最安値であるかどうかは神のみぞ知るところだが、歴史的安値圏であることは確実で、絶好の長期投資のチャンスだ。
いずれにしてもなんのための出資であり、買収であったのか。
その目的を当事者に聞いてみなければなるまい。
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田原総一朗氏(ジャーナリスト)
「野村はリーマンの社員を格安で雇う」(9/25)
リーマンの社員には、野村證券の5~6倍の給料を貰っている人間がたくさんいる。
だか、アメリカの金融業界では失業者があふれていて、辞めろと言われてもリーマンの社員には行く所がない。
ここを野村はチャンスとみた。野村はリーマンの社員の給料を大幅に下げて雇うだろう。これができるから野村はリーマンを買収した。
このように、今回の金融危機を通じて世界は一つのマーケットになりつつある。
モルガンスタンレーとゴールドマンサックスは銀行化され、証券と銀行の垣根もなくなった。銀行になるとFRBが金を貸してくれるからだ。これで証券と銀行の垣根も、そして国の垣根も全部吹っ飛んでしまった。
裏を返せば、そこまでしないといけないほどアメリカは行き詰まっているということだ。
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