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2012年8月26日

「冷戦後」という現実

 1991年12月にソ連が崩壊し第二次世界大戦後の冷戦体制に終止符が打たれた時、アメリカの政治家の多くはモスクワに向かった。歴史的瞬間を自らの身体で感じたいと思ったのだろう。また冷戦の終焉はそれまでの国家戦略を根底から見直す必要をアメリカに迫っており、そうした緊張感も多くの政治家をモスクワに向かわせたのだと私は思った。

 一つの歴史の終わりと新たな歴史の始まりを感じさせる動きだったが、日本に歴史的瞬間を体感しようとする政治家は現れなかった。冷戦の終焉を国会が議論することもなかった。政治家だけではなく日本全体が冷戦の終焉を遠くから見ていた。

 日本人にとっての戦後は、敗戦の荒廃から立ち上がり、他国にはない「勤勉さ」で高度経済成長を成し遂げたという成功物語である。平和主義に徹して冷戦による暴力の世界とは無縁でいることが成功の理由だと思い込んでいた。日本人は冷戦の終焉を「平和の配当が受けられる」と喜び、「自らの立場が根底から変わる」とは考えなかった。

 しかしアメリカは冷戦の終焉を喜んでなどいない。アメリカ議会では、ソ連の核の拡散をどう防ぐか、米軍の配備をどう変更するか、ソ連に代わる諜報の標的は何かなど、新たな秩序作りに向けた議論が3年余り続いた。その議論の前提にあるのは、米ソのイデオロギー対立で抑えられていた民族主義、宗教、文明の対立が世界中で噴き出し、世界は著しく不安定になるという認識である。

 その不安定な世界をアメリカが一国で管理する戦略とは何か。アメリカはそれまで以上に世界の情報を収集・分析する必要に迫られ、首都ワシントンのシンクタンク機能は強化され、諜報活動も冷戦時代以上に必要と認識された。一方で安全保障戦略の中枢は軍事から経済に移行すると考えられ、対ソ戦略を基にした米軍の配置を見直し、経済分野における諜報活動が強化されることになった。

 そうした中で「ソ連に代わる脅威」とみられたのが日本経済である。日本の経済力を削ぐ事がアメリカの国益と判断され、日本経済「封じ込め」が発動された。その一つが「年次改革要望書」を通して日本に国家改造を迫る事である。また一つは高度経済成長の司令塔であった官僚機構を弱体化させる事であった。さらに日本国家の血管部分に当たると言われる金融機関を抑え込むためBIS規制が導入された。

 アメリカの「年次改革要望書」は自民党の宮沢政権から麻生政権まで引き継がれ、小泉政権はこれに最も忠実に対応したが、09年の政権交代により鳩山政権の誕生でようやく廃止された。官僚機構でアメリカが標的にしたのは大蔵省と通産省である。東京地検特捜部が「ノーパンしゃぶしゃぶ」をリークし若手官僚を逮捕した接待汚職事件で大蔵省は威信を喪失、貿易立国を主導してきた通産省も輸出主導型経済を批判されて往時の面影を失った。そして自己資本比率8%の達成を迫るBJS規制は日本の銀行を貸し渋りに追い込み、企業倒産の増大と経済活動の停滞という「失われた時代」に日本を突入させたのである。

 アメリカが日本経済を目の敵にした理由は、戦後日本の経済成長は日本人の「勤勉さ」によるものではなく、冷戦のおかげだと考えるからである。アメリカのソ連封じ込め戦略は、アジアでは日本、ヨーロッパでは西ドイツを「反共の防波堤」にするため、両国の経済成長を図る事にあった。敗戦国の日本と西ドイツがアメリカに次ぐ経済大国となりえたのは冷戦のおかげである。しかし日本の高度経済成長はアメリカ経済にまで打撃を与えた。

 日本製品の集中豪雨的輸出がアメリカの製造業を衰退に追い込み、1985年、ついにアメリカは世界最大の借金国に転落する。一方の日本は世界最大の金貸し国となった。それでも冷戦体制にある間はアメリカが日本と決別することはできない。アメリカの軍事力に「タダ乗り」して金儲けに励む国をアメリカはただ批判するだけであった。

 ところが冷戦が終われば事情は異なる。もはや「タダ乗り」を許すわけにはいかない。アメリカの軍事力にすがりつかなければ日本の安全保障は維持できないと思わせる一方で、そのためには出費を惜しまないようにする必要がある。日米安保体制は冷戦の終焉で終わる運命にあったが、中国と北朝鮮の存在を理由に「アジアの冷戦は終わっていない」とアメリカは宣言し、日米安保は再定義され継続された。

 しかし中国と北朝鮮はかつてのソ連と異なる。ソ連は世界を共産主義化しようとしたが、中国も北朝鮮も世界を共産主義化しようとはしていない。していないどころか「改革開放」という名の資本主義化を目指している。ただ両国とも軍事に力を入れているところがアメリカにとって都合が良い。中国と北朝鮮の脅威を強調すれば日本から金を搾り取ることが出来るからである。

 北朝鮮がミサイルを撃てば日本はイージス艦やMD(ミサイル防衛)やアメリカの兵器を購入する。しかしその北朝鮮が最も手を組みたがっている相手がアメリカである事をアメリカはよく知っている。一方の中国はアメリカにとって今や日本以上に重要な経済パートナーである。相互依存度もダントツなら、日本をしのぐための技術開発でも米中は協力している。しかも核を持つ大国同士だから戦争することはありえない。アメリカは中国に追い越されたくはないが、いずれ米中2国で世界を管理する日が来るだろうと考えている。

 地下資源があるとみられる北朝鮮にもアメリカは興味がある。ミャンマーのような民主化を達成できれば、中国以上の影響力を行使できると考えている。日本の小泉政権がアメリカの頭越しに北朝鮮と国交正常化を図ろうとしたが、アメリカは断固としてそれを許さなかった。同じように日本が周辺諸国と手を結ぶことをアメリカは望まない。日本はアメリカとだけ友好関係を築き、中国が大国化するのを牽制するために利用できる存在であればそれで良いのである。それが冷戦後のアメリカの基本戦略である。

 8月10日に韓国の李明博大統領が竹島に上陸して領土問題に火をつけた。大統領はその後も民族主義を煽る言動を繰り返して日本を挑発している。この人物の政治手法は小泉総理と似ている。アメリカを政権運営の後ろ盾としながら、小泉総理が靖国参拝で日本国民の反中国感情を刺激したように、慰安婦問題を持ち出して韓国の反日感情を刺激している。おそらくアメリカの許容範囲と見ているのだろう。

 15日には尖閣諸島に香港の活動家が上陸して逮捕・強制送還される事件が起きた。いずれも日本にとっては許しがたいが、日本の領土問題には第二次大戦とその後の冷戦体制が色濃く影を落としている。北方領土問題はそもそも太平洋戦争に勝利するためアメリカがソ連に千島列島を帰属させると約束して対日参戦を促した事から始まる。竹島は冷戦体制であったが故に日本は日韓協力を優先させて韓国の暴挙を見逃してきた。そして尖閣問題でアメリカは介入しない事を明言している。

 竹島や尖閣をアメリカが「日米安保の対象地域」と発言しても、国益にならない領土問題にアメリカが介入する事はない。つまり領土問題は日本が独力で解決する以外に方法はないのである。すでに世界が冷戦型思考を切り替えているのに、日本だけは「アジアの冷戦は終わっていない」とアメリカに教えられて冷戦型思考を引きずってきた。しかしこの夏に起きた領土を巡る不愉快な出来事は、日本が自身の戦後史を振り返り「冷戦後」の現実を直視するための格好の機会である。日本は自力で生き抜くしかない「冷戦後」の現実を下敷きにして今後の国家戦略を構築していくべきなのである。


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2012年 8月29日(水) 19時〜 (開場18時30分)

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第1部:スター貸会議室 四谷第2(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml

※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で第2部を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。

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JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
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(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

2012年8月11日

ここからが中盤

 国民に13.5兆円の負担を強いる消費増税法が成立した。民主、自民、公明の圧倒的多数の賛成によって成立した。成立に至る過程を見れば、国民生活より民主、自民、公明の政略的思惑が優先された結果である事が分かる。

 野田総理にすると、「ねじれ」がある限り予算の執行を可能にする赤字国債発行法案に自民党が反対する事は必定で、昨年の菅総理同様に就任1年程度で自らの首を差し出し、自民党に譲歩を求めなければ予算執行が出来ない運命にあった。その壁を乗り越えるには自民党を自分の側に引きずり込む必要がある。

 また国際金融市場では、日本の財政赤字を口実に投機筋が「空売り」を仕掛けてくる恐れもあり、財政健全化に取り組むパフォーマンスをして見せる必要もあった。そのため「待ったなし」とも言えない消費増税を「待ったなし」とフレームアップし、消費増税を選挙公約に掲げる自民党に協力を迫ったのである。

 一方、多数の浪人を抱える自民党は1日も早い解散・総選挙が最優先課題である。とは言え消費増税を単独で掲げれば選挙に負けることは必至で、民主党の政権担当能力を争点に選挙をした方が得策であった。だから参議院で「問責決議」を連発し政権を揺さぶる戦術を採った。そのため言いがかりとしか思えない問責決議が次々可決されていく。その延長上で自民党のベストは消費増税法案を否決して野田政権を解散に追い込む事であった。

 ところが野田総理と小沢一郎氏の真逆の姿勢に自民党は動かされる。総理は増税に 「政治生命を賭ける」と言い切り、小沢氏は増税反対に離党も厭わぬ強い姿勢を見せた。民主党分裂が確実になると見た自民党は野田政権との合意に舵を切った。これで消費税政局序盤の舞台装置が出来あがった。

 小沢氏は消費増税を民意によって実現しようとしていた。これまで消費税を堂々と選挙に掲げたのは大平総理ただ一人である。しかし結果は大惨敗であった。自民党は「増税をしない」と国民をだまして選挙に勝ち、それから増税をするという手法に転じた。中曽根総理とその後を引き継いだ竹下政権はそのようにして消費税を実現した。

 官房副長官として渦中にいた小沢氏は、その後細川政権で消費税を福祉目的税に変えようとしたが失敗する。それからの小沢氏は消費税を民意によって実現する方向に考えを変えたと私は見ている。それが09年の民主党マニフェストに現れている。

 増税の必要性を「理屈」で説得するのではなく、「利益」を与えて説得する方法である。以前「増税の『理』と『利』」に書いたが、薩長同盟を成し遂げた坂本龍馬のやり方である。龍馬は「倒幕」の理屈で薩長を結びつけたのではない。それぞれが欲しがるものつまり「利益」を与えて薩長を結びつけた。小沢氏は国民に「利益」を与えてから消費税導入の必要性を説得しようとしたのである。

 小泉政権は「トリクルダウン」と呼ばれる経済政策をとった。金持ちを優遇すればそのおこぼれが貧乏人にもしたたり落ちるという理論である。しかし現実には待ってもしたたり落ちてこなかった。それよりも格差が拡大して国民は不満を持った。そこで民主党マニフェストは政府が直接国民に利益を与えようとした。それが「子ども手当」や「高校授業料無償化」、「農業所得補償」などの政策である。

 その財源は無駄の削減でねん出し、4年間は消費税を上げないと公約した。裏を返せば4年後には上げる可能性があるという意味である。4年間は無駄を削減する努力をするが、削減が限界に来たら、国民に「サービスを打ち切るか」それとも増税によって「サービスを続けるか」の選択を選挙で問おうとしたのが民主党マニフェストだと私は理解した。

 ところが政権交代が実現した直後から一斉に「ばらまき批判」が巻き起こった。野党に転落した自民党が悔しさのあまり批判するのは分からなくもないが、メディアまで「鳩山不況が来る」と騒いだのである。民主党の政策は国民に富を分配することで消費を刺激しようとするもので、私から見るとアメリカの「レーガノミクス」の変形である。減税ではないが国民の消費を拡大させて経済成長を図ろうとしたのである。

 しかしそれが「ばらまき」の一点張りで否定され、今や消費を冷やすことが確実な消費増税に切り替わった。「レーガノミクス」も当初は「ブードゥー・エコノミー(インチキ経済学)」と散々馬鹿にされたが、それがアメリカの財政赤字を財政黒字に転換させた実績がある。消費を冷え込ませる政策をデフレ下で採用するなど狂気の沙汰だと私は思うが、民主、自民、公明の政治家たちはそうではないらしい。しかし財政赤字を黒字に転換させた時のアメリカの例を少しは考えてみた方が良い。

 ともかく国民が参画できない中で消費増税は決まった。ここまでが長い政局の序盤である。ここからいよいよ国民の参画できる中盤の政局が始まる。それは「近いうち」と言われる衆議院選挙までの政局である。

 今国会での「待ったなし」の課題は実は赤字国債発行法案と選挙制度改革法案だが、それが中盤の主要テーマである。自民党は赤字国債発行法案を通さなくすることで解散に追い込もうとしているようだが、それを通さなくすればそれこそ選挙どころの話でなくなる。国家機能が麻痺するのに選挙などやっていたら国民は既成政治家全員を落選させて全とっかえをしたくなるだろう。

 そしてどうしても自民党が突っ張れば野田総理は解散よりも総辞職を選ぶのではないか。その時には谷垣総裁も退陣を迫られる。序盤の攻防で危うくなっているのは野田総理よりも谷垣総裁と私には見える。自民党の中に谷垣総裁の首を絞めようとする動きが激しく見えている。

 そしてご注目なのは選挙制度改革である。議員定数を5議席減らすだけの自民党案が大勢になれば増税で負担を強いられる国民の怒りは燃え上がり、45議席減らす民主党案が通れば自民と公明の選挙協力は終わる可能性がある。どちらも自民党には厳しい。そして衆議院選挙が現実に行われれば「第三極」がどれほどの勢いを持つかが分かる。

 無論、衆議院選挙では民主、自民、公明を足せば過半数を上回る可能性はある。「消費増税は信任された」と報道されるかもしれない。しかしこの政局は中盤だけでは終われない。その先には来年夏の参議院選挙に向けた終盤の政局が待ち受けているのである。それをクリアしないと消費税は実現されない。その過程で政治の舞台が大きく変わることを国民は期待するようになるのではないか。


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2012年8月 6日

ハマコー死す

 浜田幸一元衆議院議員が死んだ。私はこれまで数多くの政治家を見てきたが、心に残る政治家となるとそれほど多くはない。しかしハマコー氏には日本の政治構造について様々な意味で教えられた気がする。

 若い頃ヤクザの世界に身を置いた事から、永田町では特異な目で見られてきた。優等生タイプの政治家や官僚にとっては苦手の存在だったかもしれない。歯に衣着せずにズバリと本質を突くところがあった。

 自民党を「自ら眠ったまま起きない党」と批判し、「自民党に権力などない。、本当の権力者は霞が関だ」と言い、「日本は国家の体をなしていない。村のレベルの政治だ。これでは世界に太刀打ちできるわけがない」と嘆いていた。「みんなで決めて、みんなで守る、みんなのための政治」というのが口癖で、民主主義政治の本質を掴んでいた。

 私がハマコー氏を知ったのは30年ほど前、自民党三役の一人である総務会長の「番記者」をしていた時である。ラスベガス賭博事件で議員辞職したハマコー氏は返り咲きを果たしたが、どの派閥からも敬遠されていたため、金丸信総務会長の部屋に常駐するようになった。

 総務会長の部屋の前にたむろする「番記者」に混じって待機し、金丸氏がトイレに立つたびにお絞りを持って待ち受けるなど、忠勤を励む毎日を続けた。若い「番記者」にも気さくに声をかける親しみ易い人物だったが、ハマコー氏を苦手とする中曽根総理はハマコー氏を「猛獣」、金丸氏を「猛獣使い」と呼んだ。

 そのハマコー氏が初めて予算委員会で質問に立つ事になり、質問内容について相談を受けた事がある。ハマコー氏は財布から1万円札を取り出し、「日本の年間予算を1万円にたとえて、教育費、社会保障費、防衛費などの割合を説明すれば、国民に国の構造を分からせる事が出来るのではないか。どう思う?」と聞いてきた。

 確かに予算額何兆円とか何千億円と言われても国民にはピンとこない。しかし千円とか百円の世界になれば国民にも分かり易い。大衆の心を掴む政治とはこれだなと相談を受けながら逆に感心した覚えがある。

 そのハマコー氏が大問題を起こしたのは予算委員長に就任した時であった。竹下内閣が誕生して入閣を希望したハマコー氏は願いをかなえられなかった。代わりに与えられたのが予算委員長のポストである。無論、予算委員長は軽いポストではない。閣僚経験者がやるような重いポストなのだがハマコー氏には不満だったようだ。そのためか異例の委員会運営を始めた。

 予算委員会初日の午前の審議は社会党の山口鶴男書記長が質疑者だった。ところが山口氏が質問をしている最中に浜田委員長は休憩を宣した。野党が猛反発して陳謝を要求すると、ハマコー氏は「NHKの放送に合わせた」と言って陳謝を拒否した。NHKは国会中継を正午で打ち切りニュースに切り替える。ハマコー氏はそれに合わせたと言ったのである。まるでNHKが主体で国会はそれに従属しているかのような口ぶりだった。

 翌日、今度は共産党の正森成二衆議院議員の質問の最中に質問をさえぎるようにして、「殺人者である宮本賢治君を国政に参画せしめるような状況を作り出した時から、日本共産党に対して最大の懸念を持ってきた」とメモを読み上げた。NHKが国会中継を打ち切る夕方の時間をにらみ、放送に入るように計算された読み上げだった。

 前代未聞の出来事に野党は浜田委員長の更迭を要求した。するとハマコー氏は「辞めるときは野党幹部を道連れにする」と凄んだ。それは国対政治の裏側をばらす事をほのめかしていた。誰もハマコー氏の首に鈴をつけられなくなり、辞任まで6日間も審議が空転した。

 「55年体制」の国会では野党が予算委員会で自民党のスキャンダルを追及し、審議を拒否して予算を通さなくする戦術が繰り返された。予算が通らなければ国家の機能は麻痺し、国民生活に多大の影響が出る。そこで与党は審議を正常化するため裏舞台で野党にカネを渡した。はじめは懐柔策であった裏金が、次第に野党から要求されるようになり、野党は与党からカネを取る為に審議を止めるようになった。ハマコー氏はそれを「ばらす」と言ったのである。

 こうした国対政治を可能にしていた道具の一つがNHKの国会中継であった。NHKは「慣例」と称して20以上ある委員会の中から予算委員会しか中継しない。それも最初の2,3日だけを中継してそれ以後は中継しない。野党は限られた中継の中で国民受けするスキャンダル追及のパフォーマンスを目一杯やるようになる。そして中継が終わると決まって審議拒否に入る戦術が繰り返されてきたのである。

 政治家がテレビを意識するためにまともに議論しなければならない問題がパフォーマンスに摩り替えられてしまう。ハマコー氏の「暴走」は、私に「政治とテレビの関係」を考えさせるきっかけとなった。

 世界の議会中継のあり方を調べるうち、先進民主主義国では議会のテレビ中継を認めていない事が分かった。戦後すぐからNHKが国会中継を行なってきた日本は、先進民主主義国から「政治家を大衆迎合的にさせ、ポピュリズムを生み出す」と批判されてきた事を知った。

 しかしベトナム戦争に敗れたアメリカが「ポピュリズムを生み出さない事」を条件にテレビ中継を認め、その影響でイギリス議会もテレビ中継を検討するようになっていた。そのアメリカとイギリスを取材するうち、私はアメリカの議会中継専門テレビ局と提携して日本にも国会中継専門テレビ局を実現させようと考えるようになった。私が22年間勤務したTBSを辞めたのはそのためである。

 ちょうど冷戦が終る頃で、アメリカは「ソ連に代わる日本経済」を最大の仮想敵と見ていた。そのアメリカ議会審議を日本に紹介する事業を私が始めると、最も賛同してくれたのがハマコー氏であった。自民党広報委員長をしていた事から、私が作るアメリカ議会の審議ビデオを買い上げてくれ、国会議員はもとより地方議員にまで配ってくれた。

 本人は「政治家だけでなく子供にもこういうビデオを見せて世界を知らせる必要がある」と語っていたが、自民党の大半は「見たって意味がない」と冷ややかであった。ハマコー氏が広報委員長を辞めると、自民党はアメリカ議会の審議ビデオを買わなくなった。

 ハマコー氏がテレビで活躍するようになってからは疎遠になったが、今、3党合意で消費増税法案に賛成しながら、一方で内閣不信任案や問責決議案を提出しようとする自民党を見て何と言うかハマコー氏に聞いてみたかった。自民党はハマコー氏が言ったように「自ら眠ったまま起きない党」を続けているのだろうか。


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2012年8月 2日

自民党の乱?

 小泉進次郎衆議院議員ら自民党の中堅・若手11人が「3党合意を破棄せよ」という緊急声明を谷垣総裁に提出した。谷垣総裁は「重く受け止める」と答えたという。「政策は丸投げ」だったが「政局大好き人間」であった小泉元総理の子息らしく、政局に対する感覚は「並」でないようだ。これが「乱」に繋がるかいささかの興味を引く。

 「並」の政局勘とは、3党合意によって消費増税賛成派が国会議員の圧倒的多数となり、それが政権与党民主党を分裂させ、離党した小沢氏らのグループは力のない弱小勢力に成り下がったという見方である。「並」は消費増税派が勝ちを制したと見ている。これに財界、官界、メディア、日本の富を狙う外国勢力などがエールを送っている。

 私はそうした見方とは真逆の事を言い続けてきた。消費税に賛成する気もなかった自民党が野田、小沢、輿石氏らの策略によって3党合意に引きずり込まれ、「増税政党」というレッテルを貼られた上、解散の確約もとれず、次第に追い込まれていくのではないかという見方である。

 3党合意によって永田町には「大政翼賛会的状況」が現出した。確かに消費増税法案が成立する事は必至である。しかし消費増税が実現するまでには2度の選挙を経なければならない。いずれの選挙も消費増税の是非が選挙争点になる。

 来年夏の参議院選挙より前に衆議院選挙が行なわれ、民主、自民、公明の3党が合計で過半数を上回れば3党合意は信任され、消費増税は実現に近づく。しかし実現に近づけば近づくほどそれを意識した国民は次の参議院選挙で反消費税派を勝利させる可能性が高まる。反消費税派が勝てば「ねじれ」が生まれて消費増税は実現しない。

 衆議院選挙と参議院選挙を別々に行なえば、国民の支持がスウィングして「ねじれ」が起き易いのが昨今の傾向である。3党合意で今は圧倒的多数を占める民主、自民、公明だが、2度の選挙で勢力を減らす事は確実である。とりわけ重要なのが来年夏の参議院選挙で、その結果が日本政治の行方を決める。

 原発問題もあって既成政党に対する国民の不信は増すばかりである。戦後政治の中心にあった自民党が存続の危機に見舞われることだってありえない話ではない。そう思わせるのが選挙制度改革の行方である。民主党は「0増5減」の小選挙区に加え、比例代表連用制によって40議席削減を提案している。一方の自民党は「0増5減」のみを提案した。

 消費税法案は今月まもなく成立するが、そうなれば国民の関心は「身を切る改革がどこまで行なわれるか」に移る。国民が負担を負うのに官僚や政治家が身を切らないのは許されないからである。果たして自民党の言う5議席減だけで国民は納得するだろうか。

 一方、民主党が提案している連用制で議席を減らすのは民主党と自民党だが、公明党や共産党などの中小政党には有利な結果が生まれる。この連用制に自民党は反対を貫けるか。貫けば「増税政党」の上に「身を切らない政党」の烙印を押される。さらに連用制は自民党に決定的なダメージを与える。これまでの自公選挙協力が解消される可能性があるのである。

 自民党候補者はこれまで各小選挙区でそれぞれ3万票程度の公明党票に乗って当選してきた。だから公明党の選挙協力がなくなると選挙結果は一変する。公明党はこれまで比例代表票を自民党に依存してきたため選挙協力に応じてきたが、連用制が採用されればその必要もなくなる。消費税法案の成立はその連用制導入を後押しするのである。

 当初自民党は野田総理が「政治生命を賭ける」と言った消費税法案を否決して解散総選挙に追い込む戦略だった。来年の衆参ダブル選挙を避けたい公明党も同様であった。しかし自民党は3党合意が民主党分裂を誘えると見て応じる事にした。なぜか小沢氏が声高に消費税反対を叫んだからである。公明党は民自連携が知らないところで行なわれるのを恐れて3党合意に踏み切った。

 それが昨今の国会審議を見ていると両党の政治家からぼやきが聞えてくる。消費税反対派が地元で増税反対を訴えているのを横目で見ながら消費税の必要性を言わなければならないつらさをぼやいているのである。「本当は私も増税より経済成長が先だと思っているが、党が決めた事だから賛成した。それなのに民主党が賛成で固まっていないのはどういうことか」と野田総理に食ってかかる自民党議員もいた。

 「3党合意は罠ではないか」とうすうす感じる議員が出てきたのではないか。「話し合い解散」の確約があると思っていたらそうでない事も分かってきた。自民党も公明党も増税を主張して選挙をやるしかなくなった。そうなると経済成長も言わなければ選挙で国民の支持は得られない。

 そこで語られているのが「コンクリートから人へ」を「人からコンクリートへ」と転換させる話である。自民党は「国土強靭国家」、公明党は「防災・減災ニューディール」とネーミングは異なるが、両方とも借金で公共事業をやる話である。

 東日本大震災の後だけに「防災」と言えば国民の支持を得られると判断しているのだろうが、その主張は高度成長期の自民党政治を髣髴とさせる。それが無駄な鉄道を作り、無駄な道路を作り、無駄な空港を作り、無駄なダムを作り、膨大な財政赤字を作って消費税の負担を国民に負わせる事になった。

 国民に対して増税に賛成して貰う見返りに借金で公共事業をやるという話は、そのように捉えられるのではないかと他人事ながら心配になる。自民党はそうした主張で本当に政権に復帰できると思っているのだろうか。

 冷戦後の世界はどの国も政治は不安定である。安定した秩序が崩れ、次の秩序がまだ出来上がっていないからである。既存の組織や既存の団体に頼る政治は続かない事が至る所で照明されている。日本で言えばもはや経団連や連合に頼るだけで選挙をやれる時代ではないのである。

 そうした中で自民党の中に小さな「乱」の目が生まれた。私にはこちらの方が先にある選挙を見据えた動きに見える。それが「並」ではないと感じさせる由縁である。


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■お知らせ

田中良紹さんが講師をつとめる「壬辰田中塾」が、8月29日(水)に開催されます!

田中良紹さんによる「政治の読み方・同時進行編」を、美味しいお酒と共に。

ぜひ、奮ってご参加下さい!

【日時】
2012年 8月29日(水) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第2(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml

※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で第2部を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。

第2部:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、記入欄に「年齢・ご職業・TEL」を明記してお申し込み下さい。

21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。

http://www.the-journal.jp/t_inquiry.php

(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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