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2011年7月25日

選挙を巡る政治の潮流

 いまだに「解散」という亡霊が永田町を徘徊している。しかし震災からの復興を急がなければならない時に「政治空白」は簡単に許されるべきではない。菅総理がもくろむ「脱原発解散」も自民党が言い始めた「09年総選挙見直し解散」もレベルが低いとしか言いようがない。

 菅総理の「脱原発解散」批判は前に書いたので、自民党が言い出した「解散」について考えを述べる。そもそも自民党が菅政権の震災対応を批判したのは、危機に際して組織を動かす事ができない政治技術の未熟さであった。

 国難を乗り切るためには、一時的にではあるが与野党の協力体制を作り、縦割りの行政機構をまとめて動かす強力な指導力が必要である。ところが菅総理は自らのパフォーマンスに終始してそうした対応をせず、お膝元の民主党さえまとめきれないでいる。

 野党第一党の自民党はそう言って菅政権を批判した。しかし見ているとこの政党も口では批判するがそれを変えさせる政治技術を持ち合わせていない。衆議院の勢力比を考えると内閣不信任案の提出すら覚束ない。ぐずぐずしているだけであった。それが不信任案を提出できるようになったのは、民主党の中に賛成者がいるという他人頼みの情報に従ったからである。

 しかしそれは不信任案可決の状況を作り出し、菅総理に「退陣」を言わせて死に体に追い込む一方、「退陣表明」を理由に不信任案を否決し、不信任案を提出した自民党執行部の力も削ぐシナリオであった。菅総理と谷垣自民党総裁を同時に死に体に追い込む目的があった。

 メディアは菅総理の「粘り腰」ばかり注目しているが、その裏で谷垣自民党総裁の求心力も低下している。その一端を見せつけたのが、浜田和幸参議院議員の「一本釣り」である。メディアは「とんでもない人間」の「とんでもない行動」のように報じているが、舞台を作ったのは自民党の実力者であった村上正邦元参議院議長らである。

 かつての実力者が現在の自民党執行部を認めていない事になる。理由は自民党が菅政権を批判しているのと同じ理由で、自民党もまた震災対応に党利党略を越えた対応をしていないからである。自民党は「ねじれ」を理由に、まるで昔の社会党のように「何でも反対」しているが、そんな場合ではないだろうという訳だ。

 浜田議員が「一本釣り」に応じた事は、執行部に対する批判や不満が自民党に内在している事を示している。政権交代後、与謝野馨氏、平沼赳夫氏、舛添要一氏ら自民党の要職にあった人たちが党を離れたのは、自民党がこのまま続くとは思っていないからである。民主党の分裂模様ばかりが報道されるが、一皮めくれば自民党も深刻である。

 そうした中で民主党執行部は「菅総理を早期に退陣させるため」と称して、公債特例法案の成立の見返りに「民主党マニフェストの見直し」を表明して国民に謝罪した。「見通しが甘かった」と謝罪したのは、「選挙の時に国民を騙した」と受け取られかねない表現である。それだと「09年の選挙をやり直せ」と言う話になる。

 しかし「マニフェストの見直し」は「想像を超える未曾有の震災」に対応するものであり、「マニフェストが間違っていた」ためではない。民主党マニフェストを「バラマキ」と言って「ポピュリズムの極致」のように言う論説があるが、それは全く民主主義やポピュリズムを誤解した議論である。その事については折に触れて書いてきたのでここでは繰り返さないが、ともかくマニフェストを作成した時点で考えられていた事と異なる状況が生まれれば「見直す」のは当然で、「選挙をやり直す」論拠にはならない。

 「マニフェストを見直して解散しろ」と言う自民党の主張は「震災復興のために与野党が協力し、強力な指導力で行政機構をまとめ上げる」という考えに真っ向から反する。まるで自民党が批判してきた菅政権と同レベルである。そんな事を主張している限り、自民党は永久に政権を取る事など出来ない。

 それよりも選挙を巡っては最近注目すべき動きがあった。公明党が「150選挙区、定員3人」の中選挙区制を諦め、小選挙区を残しながら比例代表に軸足を移す方針に転換したという報道である。小泉政権時代、自公は中選挙区制の導入で一致していた。小選挙区制をやめる事は小沢一郎氏が主導してきた政治体制との決別であり、自民党単独政権時代への復帰である。それを自公が約束していた。

 ところが公明党が小選挙区制を残す方向に転換するというのだ。「3人区」の導入は大阪で橋本知事が作った「大阪維新の会」と競合し、みんなの党とも競合する。それが「3人区」を断念した理由だと言うが、この方針転換はこれまでの自公の選挙協力にひび割れを生じさせかねない。さらに公明党の山口代表と連合の古賀会長が会談するというニュースも流れた。民主党の選挙支援組織と公明党との会談は何を意味するのだろうか。

 いずれにしても現在の日本の選挙制度は破綻状態にある。09年の衆議院選挙で「一票の格差」は2.3倍となり、最高裁から「違憲状態」の判断が出された。参議院ではさらに著しい。去年の参議院選挙の「一票の格差」は5.07倍となった。

 「一票の格差」問題はまともな選挙をやるための喫緊の課題である。これを解決しなければとても国民の意思が通る選挙など出来ない。それを無視して党利党略や個利個略で解散されても、被災地は無論のこと国民全体が困る事になるのである。

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東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 301号室
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2011年7月17日

ポピュリズムの罪

 「薬害エイズ事件の真実」(現代人文社)という本がある。薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われた帝京大学安部英教授の弁護団と厚生省元生物製剤課長の郡司篤晃氏、それにミドリ十字元社員の岡本和夫氏が執筆し、2008年に出版された。

 安部英氏は非加熱製剤を投与されエイズに感染して死亡した患者の母親から1996年1月に殺人罪で告訴され、国会で証人喚問された後、8月に東京地検に逮捕され、9月に業務上過失致死罪で起訴された。しかし2001年3月、一審で無罪判決を受け、二審公判中の2005年に88歳で死亡した。日本中が大騒ぎをした事件だから記憶されている方も多いと思う。

 それから3年後にこの本は出版された。執筆者たちは血液製剤によるエイズ感染という悲惨な出来事に対して、冷静に原因究明と再発防止に取り組むことをせずに、感情的に犯人探しに狂奔し、一人の医者に全責任を押し付け、うっぷん晴らしをした世界でただ一つの国、日本のメディアと検察、そして政治家を糾弾している。私はこの本を読んでこの国にまとわりつくポピュリズム(大衆迎合)の恐ろしさを感じた。

 本の内容を紹介する。第二次大戦後、GHQは日本に民間の血液銀行を作るよう指示し、日本の血液供給は民間の血液銀行から出発した。ところが1964年にライシャワー駐日大使が暴漢に襲われ、輸血で肝炎を発症する。これによって政府は血液の供給を献血で行う事にし、日本赤十字社の独占事業とする事を決めた。しかし日赤は製薬会社ではない。血液原料は独占しても薬を作る技術はなく、一方の製薬会社には製薬技術はあるが原料がないという構造が出来上がった。製薬会社は血友病治療の濃縮製剤を95%輸入に頼るようになった。

 独占禁止法が強いアメリカでは赤十字が血液事業を独占する事は出来ず、民間の製薬会社が新規技術を開発して血液製剤を作っている。その結果、アメリカが世界の血液製剤市場を独占するようになった。そのアメリカで80年代エイズが蔓延し始めた。アメリカに奇妙な病気が流行っているという情報を受け、厚生省は83年にエイズ研究班を設置した。

 84年にアメリカのギャロ博士らによってエイズウイルスが発見される。しかし濃縮製剤によってエイズに感染するかどうかは誰にも分からなかった。従ってアメリカでは非加熱製剤の使用は禁止されず、危険性の低い加熱製剤への変更を考慮すべきであると指摘された程度であった。

 安部氏の刑事事件となる患者が非加熱製剤を投与されたのは85年の5月だが、非加熱製剤の危険性が学会で指摘されたのは直前の4月である。そのためギャロ博士らエイズウイルスの専門家からは「安部氏の治療方針は世界の医療水準に適っていた」と指摘されている。

 それなのに安部氏はなぜ逮捕・起訴される事になったのか。外国においても非加熱製剤の投与を受けてエイズに感染し死亡した患者はおり、当然ながらアメリカでは日本を上回る数の患者が死亡している。しかしアメリカでは医師に対してエイズ感染の責任を追及する動きは見られず、エイズ感染の科学的な究明と対策に莫大な公的資金が投入された。日本ではエイズ感染の究明と対策に力を入れる代わりに、一人の生贄が血祭りに上げられ、検察の捜査に多額の税金が使われた。

 外国と日本との違いはポピュリズム対する姿勢の違いだと私は思う。この国ではメディアと捜査機関と政治がポピュリズムに狂っているのである。まずは大衆に迎合するメディアがある。部数を競い合う新聞と視聴率を競い合うテレビは、複雑な問題をいかに大衆に受け入れられやすいストーリーに仕上げるかに力を入れる。弱者の側に立って権威ある者を叩くストーリーが最も大衆に受ける事をメディアは良く知っている。

 メディアは血液製剤によるエイズ感染が世界中で起きていた事実には目を瞑り、血友病治療の権威である安部氏がミドリ十字に便宜を図るため加熱製剤の使用開始時期を遅らせ、感染患者を増やしたというストーリーを作りあげた。「安部氏はミドリ十字から多額の金銭を受け取り、金で医師の良心を売った」と報道された。とりわけ悪質な報道を行なったメディアとして、この本の執筆者は毎日新聞、桜井よしこ氏、NHKスペシャル『埋もれたエイズ報告』、TBS『筑紫哲也ニュース23』を名指しで批判している。

 メディアの大衆迎合路線にすぐ乗るのが政治と検察である。エイズ騒ぎの最中に就任した菅直人厚生大臣(当時)は抗議活動をしていたエイズ訴訟原告団を省内に招き入れ、「倉庫に隠されていたファイルを発見した」と言って「謝罪」した。しかしファイルは倉庫にあっただけで別に「隠されていた」ものではなく、「謝罪」する意味も不明だった。しかしパフォーマンスしか考えない政治家によってエイズの「悲劇」は「事件」へと捻じ曲げられる。

 国会の証人喚問は常に質問する政治家のただのパフォーマンスに過ぎず、問題を解明した事など一度もないが、安部氏に対する議員たちの質問は、頭から安部氏の責任を問うだけで、エイズについての科学的見地からの質問は全くなかったとこの本は書いている。中でも枝野幸男議員は「今度、東京地裁の刑事部でお会いするのを楽しみにしています」と捨て台詞を吐いて質問を終えたという。

 こうして非加熱製剤が投与されてから13年後に安部氏は逮捕された。罪名は業務上過失致死罪だが、メディアは殺人者扱いの報道を続けた。それは「安部氏が製薬会社から金を貰ったから事件が起きた」というストーリーを検察も公判で繰り返したからである。ポピュリズムのメディアと歩調を合わせるように検察も冷静な判断をせず、大衆の顔色を伺う体質を持っているのである。

 しかも検察が悪質なのはストーリーに都合の悪い証拠を隠蔽した事である。海外まで国費を使って出張し、エイズ問題の権威であるギャロ博士やシヌシ博士の嘱託尋問を行なったにも関わらず、ストーリーに不利になると分かると検察はそれを隠し続けた。しかし業務上過失致死と殺人者であるという主張は矛盾する。裁判は一審無罪となった。

 無罪判決が出るとメディアはどう報じたか。「市民感覚から離れた司法」(毎日新聞)、「無念の傍聴席」(読売新聞)、「命の代価 だれが・・・」(朝日新聞)。大衆迎合のメディアにとっては予想外の判決であった事が良く分かる。それまで「エイズ問題の諸悪の根源は安部医師」という誤った報道を続けた責任から逃れるため、冷静に判決文を読む事もせずに感情的な記事を書いて大衆に媚びる。これが日本のジャーナリズムの本性である。

 日本はエイズ問題の解明と対策に力を入れるより、悪者を血祭りにあげてみんなでうっぷんを晴らした。振り返ればロッキード事件もリクルート事件も似た構図である。ロッキード事件は世界各国で起きたが政治家を逮捕したのは日本だけ。リクルート事件はメディアが国民を煽って検察が「でっち上げ」に動いた。いずれも大衆は熱狂した。ロッキード事件が政治家を志すきっかけだったという菅総理はいわばポピュリズムの申し子である。総理の退陣を機に国民は「ポピュリズムの罪」を噛み締めてみるべきではないか。

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2011年7月10日

粗にして野だが卑ではない

 暴言問題で辞任した松本龍前復興担当大臣は辞任の記者会見で自らを「粗にして野だが卑ではない」と言った。被災者の神経を逆なでした発言で呆れられていた時だから、誰もその発言をまともに取り上げなかったが、私は菅総理に対する痛烈な批判と受け止めた。

松本氏は自らの発言が被災地の信頼を失った事を認め、その責任を取って辞任した。しかし自分は辞任するのだから「粗にして野だが卑ではない」と言ったのである。「卑」という言葉が出たのはなぜか。松本氏の頭の中には国民の信頼を失っても辞任しない菅総理があったのではないか。

そもそも松本氏は「菅総理は6月中に辞任すべき」と明言していた。閣僚の中でそう発言したのは松本氏ただ一人である。ところが菅総理は辞任せず、復興担当大臣の重責が松本氏に回ってきた。他に引き受け手がいなかったからである。望まれて任命されたのではない事を本人が一番良く知っている。固辞しても断りきれないと見るや「ならば私流でやりますよ」となった。

弱味を見せているのは総理である。自分は最高権力者より優位にある。サングラスをかけて「民主党も自民党も公明党も嫌いです」と記者会見しても総理は文句を言えない。被災地でサッカーボールを蹴るパフォーマンスを復興担当大臣の「キックオフ」にして、テレビカメラの前で「上から目線」の発言をしても菅総理は何も言えない筈である。それが松本氏の「私流」だった。松本氏にとってはさぞ気分が良かったに違いない。

「オフレコ」の命令にメディアが服従していれば問題は起こらなかった。しかし一社だけ服従しないメディアがあった。それで国民の知るところとなり、国民の反発は予想を超えた。もとより望んで就任した大臣ではない。辞任を決める時も任命権者に相談する気などさらさらない。自分の方が優位にあるのだから総理を無視した。そしてその気持ちが辞任しない総理を「卑しい」と言わしめた。

松本氏の辞任は菅総理にとって「寝耳に水」だった。「あの程度の暴言なら許容せざるを得ない」とおそらくは思っていた。辞めさせれば自分の延命に関わる。そして今や人事をやろうとしても誰も言う事を聞いてくれない。最高権力者と言っても既に権力はないに等しい。松本氏の後任を選ぶにも副大臣の昇格という選択肢しかなかった。権力者の威令が示された人事ではない。

このように菅総理の延命策はことごとく自らを追い詰めていく。国会の会期延長問題では野党はおろか与党執行部とも溝が出来た。「浜岡原発」の停止要請では地方自治体に不信感を抱かせ、「玄海原発」の再開問題で誰かから入れ知恵された「ストレステスト」がさらに不信感を増幅させた。そして海江田経済産業大臣との閣内不一致も露呈させた。

大震災からの復興に当って「政治空白」を避け、与党と野党、国と地方が協力体制をとろうとする時に、与党と野党、国と地方の間に不信感を植え付け、ただ一人「政治空白」を作ろうとしているのが菅総理である。菅総理の延命策が日本を機能不全に追い込もうとしていると見る事も出来る。

そのため政界では菅総理に対して「北風と太陽」が演じ分けられている。一方で強く退陣を迫る北風組と、もう一方では延命策を授けて総理を助ける太陽組がいる。しかしその延命策が菅総理を追い詰めていくのだから、太陽組が本当に延命させようとしているかは疑問である。太陽組の誘導に乗せるために北風を吹かせ、太陽でマントを脱がせる可能性も高いのである。

1年足らずではあるが菅総理の政治手法を見ていると、「ポピュリズム」以外に政治を知らない事が良く分かった。小さな政党に所属してきた生い立ちがそうさせるのかもしれない。この人は大組織を動かす術を全くと言って良いほど知らないのである。

政治家の仕事は政策を国民に訴える事ではない。政策を実現する事である。政策を訴えるのは学者でも評論家でも出来る。しかし政策を実現するのは政治家にしか出来ない。実現するためには反対勢力も含めて現存する組織を動かす必要がある。しかし小政党にいると大組織を動かすノウハウを習得する機会がない。メディアを使って国民に訴える以外に政治の方法を知らない。

そういう政治家は何が国民にとって大事かよりも、何を国民は望んでいるかに関心が向く。国民に迎合する事を優先して考えるようになる。これが欧米の民主主義が最も警戒し、最も排撃する「ポピュリズム」である。民主主義が難しいのは国民に主権を委ねながら、しかし国民の言うがままにはならない政治を実現しなければならないところにある。

古代ギリシャの昔から国民に迎合する政治は民主主義を破滅させる事が実証されてきた。近年ではナチスのヒトラーが民主主義的憲法の中から民主主義の手続きによって生まれてきた。国民の願望をメディアを使って盛り上げると国民の熱狂が民主主義を殺すのである。西欧では民主主義を「善」とは考えない。絶え間なく監視しないと「最悪の政治制度」になると考えている。

国民の願望に敏感な「ポピュリズム」総理は「脱原発」で解散・総選挙に持ち込もうとしていると言われる。「フクシマ」の惨状を見れば「脱原発」に国民の心が動く事は間違いない。しかし菅総理に解散権があるにしてもそれを実現する事は不可能だと私は見ている。

第一に果たして「脱原発」が選挙の争点になりうるだろうか。自民党や公明党が「原発推進」の政策を掲げ、「原発を今後も増やそう」と主張するとは思えない。これからのエネルギー政策の争点は何年がかりで「原発」を減らしていくか。そして何を代替エネルギーとするかという事だと思う。その青写真を今すぐ出せる政党はない。これから作るしかないのだから時間がかかる。仮にこの夏に「脱原発」をテーマに選挙をやるならば争点はインチキなものになる。

 第二に菅総理が解散を決意しても賛成する閣僚がいるだろうか。閣僚が反対すれば総理は閣僚の首を切らざるをえなくなる。何人の首を切って閣議決定に持ち込めるか。考えただけでも恐ろしい。

 昔、イギリスに「ブラディ・メアリー」と呼ばれた女王がいた。カソリック教徒のメアリー一世はプロテスタントを殺しまくったために「血なまぐさいメアリー」と渾名され、今でもカクテルにその名を残している。閣僚の首を切って解散する事になれば後世「ブラディ・カン」の名が日本の政治史に刻まれる事になるかもしれない。

 私は不信任案が採決される前日の夜に菅政権の命脈は尽きたと思っている。それからの事はすべて次の体制を作るための移行プロセスである。菅総理が延命のために死力を尽くすのもその一要素であり、それらの力のベクトルを包み込みながら、政治は与党と野党、国と地方が協力体制を作れる体制に移行しつつある。メディアは菅総理に権力があると錯覚しているが、それは単なる一要素に過ぎず、過大評価すべきではないと思うのである。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
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国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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