Calendar

2009年2月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28

Recent Comments

« 2009年1月 | メイン | 2009年3月 »

2009年2月27日

日本の外交感覚

 麻生総理は「外交がお得意」なのだと言う。「支持率が下がれば下がるほど得意の外交に力を入れて支持率挽回を図る」とメディアは解説している。2月にはロシアのメドベージェフ大統領やアメリカのオバマ大統領と首脳会談を行った。それがどれほど麻生総理を満足させたかは知らない。しかし「国民の支持を失った指導者が外交に力を入れると国益を損ねる」と言うのが外交の世界の常識である。それを許している日本にはまともな外交感覚がない事になる。

 明治以来の外交史を振り返ると、悲しいことだが確かにこの国の外交音痴振りが目に付く。「明治の元勲」と言われた人たちの外交感覚は幼稚である。尊皇攘夷を錦の御旗にして徳川幕府を破った明治新政府が真っ先にやった事は尊皇「尊」夷への転換だった。日本の伝統をかなぐり捨てて外国の真似をした。真似をするのは良いのだが一流の真似ではない。明治の元勲は二流にあこがれた。

 明治4年に海外視察に出発した岩倉使節団は、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国に圧倒され、小国プロシアでやっと真似をすべき国を見つけた気分になった。特に大国フランスとの戦争に勝利した鉄血宰相ビスマルクに影響された。大久保利通や伊藤博文は帰国後ビスマルクの写真を部屋に飾ったと言う。ビスマルクは大の議会嫌いで、鉄(大砲)と血(兵隊)によって政治を行うことの重要さを彼らに説いた。薩長藩閥政府が「超然主義」と称して議会政治を無視し、官僚政治を推し進めた理由はビスマルクに心酔したからである。

 明治38年の日露戦争勝利は国民を熱狂させ、国際社会に日本の名を轟かせた。特にバルティック艦隊を撃破した日本海海戦はアメリカのセオドア・ルーズベルト大統領を興奮させた。ルーズベルトは極東で最も恐れていたロシアに対する防波堤として日本を利用しようと考えた。彼は率先して日露の講和に乗り出し、ポーツマスではロシアに戦争を終結するよう迫った。

 一方でルーズベルトは、ペリー来航から半世紀でここまで力をつけた日本海軍に恐怖した。太平洋を日本に支配されないためハワイ要塞化を考え、日本を仮想敵国とする「オレンジ作戦計画(ウォー・プラン・オレンジ)」に基いて大西洋艦隊の太平洋巡航というデモンストレーションを敢行した。

 「オレンジ作戦計画」は日露戦争が始まった明治37年に米海軍によって策定された。サンフランシスコ・オアフ・ミッドウェイ・グアム・マニラ・沖縄を経て日本本土に迫る戦争計画である。後に日米が衝突した太平洋戦争で米軍はほぼその通りのルートで日本を攻撃した。

 アメリカが日本を仮想敵と見るのは国家として当然である。ところが日本側には「甘え」があった。朝鮮総督となった伊藤博文は執務室に天皇とルーズベルトの写真を飾り、大西洋艦隊の太平洋巡航を日本側は日本との同盟を強調する姿勢と見た。新聞は日本に寄港した米艦隊を「友好の印」と記事に書いた。

 日露戦争を「ロシアがもう少し戦争を継続すれば日本は負けた」と分析したのは陸軍の石原莞爾である。彼は列強に伍せるほど日本の国力はないと見て、アメリカとの「最終戦争」に備えるため、満州という実験国家でソ連型の計画経済を行い、重化学工業化を進めようとした。そして日本は十分な国力を持つまで「決して戦争をすべきではない」と主張した。

 ところが石原の意に反して日本は戦争に突入する。どのような戦略と作戦計画で日本は中国とアメリカに勝利しようとしたのか、それが全く分からない。ハワイを奇襲攻撃するだけで何故アメリカに勝つことが出来るのか。ひたすらドイツ、イタリアとの「同盟」の力を頼み、ソ連との「不可侵条約」を信じたとしか思えない。果たして他国を信じ、他国の力に頼ろうとする外交などこの世にあるのだろうか。

 戦後の日本外交はさらにひどい。冷戦が始まり、朝鮮戦争が起きたおかげで、日本はアメリカによって戦争の発進基地、補給基地と位置づけられ、工業国として復興されることになった。経済復興を最優先に考えた吉田茂は日米安保条約を締結し、軍事をアメリカに委ねる事にした。独立国としてはあり得ない選択である。条約の署名は吉田がたった一人で行った。従属的な内容だったからである。同行した池田勇人など後輩を立ち会わせれば責任が及んで政治生命に影響することを吉田は恐れた。

 それほどに従属的な条約を対等に近づけた岸信介は60年安保闘争で政権を失った。しかし岸の功績は別のところにある。石原が東条英機によって追い出された後の満州で、岸と椎名悦三郎の官僚コンビは計画経済を練り上げ、それを本国に持ち帰り、官僚が民間経済をすべて統制する戦時体制を作り上げた。いわゆる「1940年体制」である。それを二人は戦後日本の経済成長モデルとして復活させた。

 貿易立国を国是とし、自動車と家電製品など製造業の国際競争力を「国家総動員」で高める仕組みである。通産省を司令塔に、財界も労働界も、与党も野党も、メディアも国民もすべてが輸出主導の経済体制に協力した。それが日本の高度経済成長を生み出す。その影響で世界経済は混乱した。集中豪雨的な日本製品の輸出攻勢に海外の製造業は大打撃を受けた。中でもアメリカは深刻だった。こうして日米経済戦争が勃発する。

 90年代にアメリカは日本を仮想敵国と断定した。ソ連に対する「封じ込め戦略」を日本経済にも適用した。一方でアメリカは「経済大国となった日本は必ず自立する」と考えた。キッシンジャーは「経済大国が軍事大国化しなかった例はない。アメリカの核の傘から日本は自立する」と予言した。しかし日本は経済大国になっても自立するのが嫌いだった。アメリカに「甘える」道を選択した。

 湾岸危機が起きた時、日本政府は国会も開かずにひたすらアメリカに資金協力を打診した。アメリカに協力をする事で何とか解決して貰おうと考えた。これにアメリカが呆れた。中東の石油は資源のない日本にとって経済の生命線である。国家の生死に関わる重要問題を国会で議論もせず、ひたすら他国に解決して貰おうという「甘え」は何なのか。「日本を経済大国だと思ったが間違いだった。経済が大きくなっても所詮は従属国だ」。ワシントンはそう考えた。

 アメリカに対日脅威に代わる対日侮蔑が生まれた。金がある間は大事にするが、国家として相手をする必要はない。ところが金を出しても感謝されない日本では、「アメリカは金より人的貢献を求めている」と、またまたアメリカの顔色を伺う事を言い出した。アメリカが何を求めているかではなく、日本が何をやるかを自分の頭で考えようとしない。アメリカは表で笑顔を見せながら腹の中では馬鹿にする。それがこの20年ほど続いている。

 日米同盟以外の外交構想を持つことの出来ない国をアメリカが重視するはずがない。自分のことを自分の頭で考えられない国を世界が相手にするはずもない。それでも大事にされるのは日本人が金持ちだからだ。振り込め詐欺がなくならないほど日本人は金持ちだ。それは世界も知っている。麻生総理が望めば外国首脳は誰でも会ってくれるだろう。しかしそれが日本の不幸なのである。


第10回銀座田中塾
日時:2009年3月5日又は13日
   午後6時半~8時半
テーマ:一神教の政治と多神教の政治
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

2009年2月24日

国会探検特別篇 その5:終るアメリカ一極支配

今回の国会探検は、1月13日に行われた銀座田中塾「終るアメリカ一極支配」の模様の一部を音声でお送りします!

田中良紹さんいわく、「日本で流されるアメリカの情報は外務省の情報」。日本人が持っているアメリカ観の間違いを徹底解説します!

■終るアメリカ一極支配(公開は終了しました)
----------------------------------------------------------------------------------------
■国会探検特別篇 アーカイブ
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/cat415/
----------------------------------------------------------------------------------------

第10回銀座田中塾
日時:2009年3月5日(木)、13日(金) ※内容は両日とも同じです
   午後6時半~8時半
テーマ:一神教の政治と多神教の政治
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

2009年2月18日

「ハ・ズ・カ・シ・イ」

 2月17日の記者会見で中川昭一財務金融大臣が「けじめをつけるため予算が成立した時点で辞表を提出する」と言った時、私はまた酔っぱらって会見しているのかと思った。辻褄の合わない事を平気で発言したからである。

 辞める理由は何なのか。醜態をさらした事で辞めるなら予算を絡める話にならない。体調不良が理由なら、本人が予算審議を続ける事は出来ないから、辞めない限り予算は成立しない。「予算成立後に辞める」というのはどこから見ても理屈にならない。理屈にならない事を言うのは麻生内閣がなりふり構わず「予算を成立させたい」からである。しかし予算は「公」のもので、醜態や体調不良で辞めるのは「私」の問題だ。それを秤にかけようとするところに政治の堕落がある。「公」と「私」の区別がつかない政治は、ローマでの醜態以上に「ハ・ズ・カ・シ・イ」。

 その日、アメリカのクリントン国務長官が来日していた。メディアは朝から「アジア歴訪の最初の国に日本を選んだことは日本重視の表れだ」と報じていた。世の中で複数の人間と交渉をする時、一番大事な交渉相手と真っ先に会う人はいない。その他の人の話をすべて聞いた後で一番大事な相手と交渉する。外交も同じである。国務長官は最後に中国に行くが、それならアメリカが最重要と考える相手は中国である。

 そう言うと日本では「日本軽視だ」と憤るバカがいる。日本は同盟国で、中国は仮想敵国なのにおかしいとバカは憤る。しかし同盟国だから大事にされる道理はない。自国の利益をいかに守るかが外交である。自国に脅威を与える国は最重要だが、脅威を与えない国は眼中にない。当たり前の話だ。日本が「最初に来てくれ」と言うから最初に来て、「日米関係は重要」と発言すれば日本が喜ぶから言って見せた。それは日本政府に貸しを作る事になる。

 いずれにしても日本がアメリカから重視されようが、されまいが、そんな事のどこが問題なのかが私には分からない。大事なことは日本が世界でどう生きていくかを自分の頭で考える事だ。他人の視線ばかり気にする人間が周りからバカにされるように、アメリカの視線を気にする日本はアメリカからバカにされる。にもかかわらず「最初に訪問したのは日本重視の表れ」と喜んでいる日本人は本当に「ハ・ズ・カ・シ・イ」。

 オバマ政権の最大課題は北朝鮮でもアフガンでもテロとの戦いでもない。瀕死の経済をどう立て直すかだ。そのためには金が要る。どこから金を引き出すか。それが最大関心事である。だから国務長官は最初にアジアに来た。中国と日本の金が狙いである。外交は形を変えた戦争だから、自国の利益のためにはありとあらゆる手段を使う。表で笑顔を振りまきながら、裏では恐喝と騙しの連続である。外交では寸分たりとも弱みは見せられない。その時にこの国の外交当局は「拉致問題」でアメリカにお願いをする日程を組み入れた。

 「拉致問題」は日本の主権問題である。決してアメリカにお願いをする話ではない。アメリカにしても出来るのは同情だけだ。自国の問題でもない事で解決に乗り出す事は出来ない。だからヒラリーは国務長官として拉致家族とは面会しなかった。権力から離れた一人の母親として面会した。当然である。ところが日本人にはそれが分からない。アメリカが拉致問題を忘れていないと喜んでいる。

 戦争でしか解決できなかった80年前の大恐慌よりさらに深刻だと言われる危機をどう乗り切るかで世界は丁々発止の駆け引きを繰り拡げている。国際協調は大事だが各国とも自国の利益を最優先にするのが現実だ。保護主義をけしからんと叫んでみても始まらない。保護主義とそれを乗り越える努力とが交錯するところに外交がある。アメリカと日本の利益も同一でない。そうした時にこちらから助けをお願いする外交センスが私には分からない。拉致問題はあくまでも日本が自らの主権で解決すべき問題である。拉致家族にはお気の毒だが、アメリカに助けを求めていく姿は、日本人としてとてもとても「ハ・ズ・カ・シ・イ」。

 その夜のテレビを見ていたら、眉間にしわ寄せキャスターがまたまた愚かな事を口走った。危機なのだから早く国会で予算を通すべきだと主張した。民主主義も議会政治も分かっていない発言である。一体政府の作った予算が国民のためになる予算なのか。それをじっくり見極めずに予算を通すのは独裁国家の政治である。民主主義はそうではない。異なる立場の人間が共生をするための政治である。野党は政府の作る予算に徹底反対しなければ存在理由はない。与野党が激しく対立して初めて共生するための妥協が生まれる。

 アメリカ議会を見れば一目瞭然である。オバマ政権は上下両院とも民主党が多数を占める強力政権だ。その気になれば景気対策法案を強行できる。一方野党共和党は徹底抗戦した。これも野党であれば当然である。対立を続けていくと法案成立に時間がかかる。オバマはどうしたか。共和党に譲歩して法案を修正した。だから議会で早期成立した。これが民主主義では当たり前の議会政治である。

 アメリカと違って日本では与党が参議院で少数である。早く予算を成立させたければオバマ政権以上に譲歩しなければならない。それが世界の民主主義国の常識である。それなのに霞ヶ関が作った予算をそのまま通せと主張するのはどういうことか。「霞ヶ関独裁」を認めろと言っているようなものだ。そんな事を言う政治家やキャスターは、民主主義の「ミ」の字も知らない愚か者である。ところが愚か者に限って大きな顔をして「民主主義」とか「ジャーナリズム」とか言っている。こんな日本はひたすらひたすら「ハ・ズ・カ・シ・イ」。
 
 4日前に乗ったタクシーの運転手がこう言った。「オバマって人は笑っていても、目が笑っていない。あれはただ者じゃないね。麻生さんなんかと全然違う。二人が並んだら差が歴然とするよ。オバマみたいな政治家が出てこない日本はもう駄目だね」。日本の庶民はメディアよりも政治家よりも数倍鋭い。ところが麻生総理は自ら望んでオバマと並びたい。一生懸命外務省が「お願い」をして24日にオバマ政権初の賓客としてワシントンに招かれる事になった。しかし今訪米をして日本に何の利益があるのか。これだけ支持率の低い政権を相手がまともに扱う筈がない。足下を見られて不利な条件を持ち出される可能性がある。それなのに自らの延命という「私」のために訪米する姿を想像すると今からとても「ハ・ズ・カ・シ・イ」。

第10回銀座田中塾
日時:2009年3月5日又は13日
   午後6時半~8時半
テーマ:一神教の政治と多神教の政治
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

2009年2月15日

鼠は猫を噛むか

 「郵政民営化には反対だった」、「賛成は小泉総理だけだった」という新旧最高権力者の発言は「漫才」としか思えないほど「笑ってしまう」ものだったが、これに小泉元総理が反撃した。こちらはおかめとひょっとこの漫才コンビとは違って、白塗りの大衆演劇スター風に堪忍袋の緒が切れたという顔で登場し、メディアを大いに沸かせた。しかしメディアの騒ぎとは裏腹に、私には「負け犬の遠吠え」としか聞こえなかった。

小泉元総理にすれば「小泉構造改革の一丁目一番地である郵政民営化」をここまでこけにされては黙ってはいられない。特に麻生総理の発言は議事録に残る国会での公式発言である。そこで自分のことを「奇人、変人にしては正しい」と上から目線で馬鹿にされた。支持率激減の麻生総理にとって「衆議院の三分の二」は唯一の命綱である。それがなければ一日たりとも政権運営は出来ない。誰のおかげで「三分の二」を握っていられるのか。そうした思いもあっただろう。既に「負け犬」ではあるが、ここはどうしても反撃せざるをえなかった。

 メディアが注目したのは、「第二次補正予算の再議決に賛成でない」と言ったこと、そして「選挙の顔に麻生総理で良いのか」と言った点である。再議決に自民党内から反対が出て否決されれば、麻生内閣は即刻総辞職か解散になる。また麻生総理で選挙を戦えないとなれば総裁選挙を前倒しするしかない。いずれも自民党は分裂含みの政局になる。

 私が「遠吠え」と言ったのは、小泉元総理が何を言おうが、自民党には既に分裂をする力などなくなっているからである。まず第二次補正予算の再議決に小泉元総理が反対できる筈がない。一度賛成した法案に反対するためには誰もが納得できる大義名分が必要だ。小泉元総理にその大義名分があるか、答えはノーである。そんな行動を取れば自滅するだけで、地盤を譲った息子の選挙にも影響する。小泉元総理は定額給付金に反対できる筈がないのである。おそらく公明党や創価学会には定額給付金に賛成の意向を直接伝えている筈だ。その上での発言と私は受け止めた。大体が予算を巡って自民党内から造反が出ることなど100%あり得ない。それが政治の常識である。

 予算ではなく野党が麻生内閣不信任案を提出すれば、自民党から賛成が出る恐れがあると言う人もいる。しかしそれもあり得ない。93年の宮沢内閣不信任案に小沢一郎氏らが賛成したことを思い出しているのだろうが、あの時は小選挙区制の導入を巡って自民党内に対立がありその大義名分によって分裂が起きた。今、麻生内閣不信任案に賛成するような対立が自民党内にあるかと言えば全くない。対立の目となりうる「郵政民営化」は現在の政治課題ではない

 それでは自民党が選挙を前に麻生総理に代えて次の総裁を選ぶのか。それが出来る位なら去年の10月段階で動きが出ていた。昔の自民党ならそれをやった。麻生総理に資質がない事は組閣と所信表明演説で分かっていた。そして10月にやるべき解散を先送りしたことで行き当たりばったりの政治になる事も決定的であった。昔の自民党ならばその時点でなるべく傷を小さくする形で総理の首をすげ替えた。それが今の自民党には出来ない。森元総理を辞めさせ、安倍元総理を辞任に追い込むところまでは出来た。しかし今の自民党は麻生総理と心中する道を選んでいる。

 「総理の頭は政局だらけ」というコラムで書いたように、麻生総理の頭の中は選挙の事で一杯である。すべてを選挙に絡めている。金融危機が起きれば、真摯に危機に立ち向かうより、選挙に利用しようと考える。だから「まずは景気対策」などと叫んで2兆円のバラ撒き策を打ち上げる。郵政民営化をことさら批判するのも選挙のためである。この総理の頭には参議院選挙の惨敗が小泉構造改革のせいだと強烈に刻みつけられている。小泉構造改革を批判する事が民主党に流れた票を取り戻す道だと思いこんでいる。だから政治のイロハや党内力学を無視してでも小泉批判に熱を上げる。

 参議院選挙惨敗の理由が小泉構造改革ならば「ねじれ」はひとえに小泉政治がもたらした事になる。衆議院で与党に三分の二の議席を与え、参議院で過半数割れをもたらした。実は衆議院で三分の二の議席がなければ政治の停滞は起こらない。与党は初めから野党の主張を取り入れざるを得ないから妥協の政治が行われる。アメリカでオバマ政権の景気対策法案が議会で承認され、麻生総理が「うらやましい」と言ったそうだが、承認された理由はオバマが野党に譲歩したからである。危機に際して野党と対立するのは愚かな政治である。日本でも妥協さえすれば景気対策はすぐにでも出来る。それをやらないで野党と対立しているのは頭が選挙で一杯だからである。

 ともかく小泉元総理の発言で自民党内に深刻な事態は起こらない。小泉元総理に影響力があると思っているのは「おバカ」なメディアの世界だけだ。小泉元総理の影響力は政界ではなくメディアの世界にだけ残っている。そこで自民党に知恵者がいればその影響力を利用することを考える可能性はある。小泉元総理と麻生総理に「出来レース」をやらせるのである。

 どうせこのまま選挙になれば自民党が敗れることは間違いない。しかも相当に負ける。とはいえ麻生総理を代えることも出来ない。そこで考えられるのは自民党に分裂選挙をやらせることである。その一方の旗頭に小泉元総理を持ってくれば「おバカ」なメディアが飛びついてくる。その報道で国民の目を自民党に引きつけ、民主党を見えなくし、自民党の負け幅を少なくすると同時に、民主党政権誕生後の政界再編の目を強固なものにする。

 私が前から言ってきた「窮鼠猫を噛む」作戦がこれかもしれない。両者が了解の上での分裂劇なら小泉元総理も下手な心配をせずに麻生批判を行うことが出来る。実際は「負け犬」でしかないのだが堂々と主張が出来る。そして念願の政界再編の軸を自ら作ることが出来る。麻生総理にしてもこのまま民主党にやられてしまうより、小泉構造改革で自民党から民主党に移っていった旧支持者を取り戻し、選挙後に小泉グループと合体するか、あるいは民主党の中を分断することが可能なら、政権交代のダメージをいくらかでも和らげることが出来る。無論、選挙に敗れても総裁のままでいられるかもしれない。

 「肉を切らせて骨を断つ」ような戦術だが、どうしても惨敗する事がはっきりすれば、麻生総理がその道を選ぶことはあり得る。小泉元総理も小泉政治の目を少しでも残す事を考えれば、願ったりの道である。本来ならばあり得ない「再議決での造反劇」や「内閣不信任案への賛成」が起きるような事になれば、それは「鼠が猫を噛む」作戦だと考えた方が良い。


第10回銀座田中塾
日時:2009年3月5日又は13日
   午後6時半~8時半
テーマ:一神教の政治と多神教の政治
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

2009年2月12日

民営化って何なの?

 麻生総理が「私は郵政民営化に反対だった」とか「国民は誰も分社化の事など知らない」と言い出したら、その後見人を自認する元総理が「郵政民営化に賛成なのは小泉総理だけだった」と、びっくりするほど面白い発言が冬の花火のように打ち上げられ、日本の政治はM-1グランプリかと思えるほどオモローなレベルになって来た。

 どうもこの方々は2005年の郵政選挙に熱狂して投票所へ足を運んだ国民の事など全くお考えにならずに政治をおやりになっているのではないか。そんな事を考えていたら、2年前に「民営化はしたけれど」というコラムを書いたのを思い出した。詳細は原文を読んで頂きたいが、要点は以下の通りである。

1.郵政選挙で国民が選んだのは郵政民営化ではない。国民は「古い自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉総理に共鳴した。
2.資本主義社会であれば「官から民へ」は時代の流れで、問題は民営化に賛成か反対かではなく、民営化の中身が良いか悪いかである。
3.例えば中曽根内閣の国鉄民営化と電電民営化は両方とも失敗だった。
4.国鉄民営化は政治利権のために赤字鉄道を作り続けた後始末である。赤字を税金で穴埋めするため民営化せざるを得なくなった。今でも国民は税金で国鉄の赤字分を払い続けている。中曽根総理が労働運動を解体するためと言ったのは大嘘で旧国労主導が旧動労主導に代わっただけである。ストライキはないが労組の影響力は今でも強い。
5.電電民営化は工業化社会から情報化社会へ移行するため必要だったが、巨大独占私企業NTTを生み出し、「産業のコメ」となる電話料金の値下げに失敗した。結果として日本はIT社会に立ち遅れ、相も変わらず自動車と家電製品の輸出で食いつないでいる。
6.郵政民営化は電電民営化に似て巨大企業JPグループを生み出した。郵政民営化が成功か失敗かはこれから評価されるが、ひとつだけはっきりしているのは、それが衆議院選挙での自民党の大勝と参議院選挙での自民党の大敗を招いた事だ。つまり「ねじれ」を生み出したのが小泉政治の最大成果である。

 郵政民営化が騒がれていた頃、総務省の幹部たちが考えていた事は、民営化に反対ではなく、民営化によってどれだけ利益を得るかである。そのためには最後まで反対して値を吊り上げる必要があった。人間なら誰でも考える事を彼らも考えていた。表では賛成と反対がぶつかっているように見せながら、水面下では民営化の条件を巡って戦いが繰り広げられていた。巨大独占私企業が出来て利益が温存されるなら誰も民営化には反対しない。だから巨大独占にならない「分社化」が最大の問題だった。

 電電公社の民営化も「分割」が唯一にして最大の問題だった。アメリカではレーガン大統領が巨大独占電話会社AT&Tを7つに分割した。電話事業に競争原理を導入し、電話料金の値下げと技術革新競争を促すためである。それを見た日本でも土光臨調は分割民営化を考えた。国鉄の地域6分割と同じ形にし、その際に巨大放送局NHKも地域分割して、日本の放送と通信の世界に競争原理を導入する案を考えた。

 ところが電電公社は分割に猛烈な抵抗をした。先頭に立ったのは労働組合である。日本最大の組合員数を誇る全電通は組合が弱体化されると言って抵抗した。これを後ろから支えたのは社会党ではない。自民党労働族と郵政族議員である。郵政省の指令の下に徹底抗戦した。あまりの抵抗に土光臨調は分割をいったん先送りした。その結果巨大独占私企業NTTが誕生した。

 NTTはその後4分社化されるが、アメリカでは1996年にクリントン政権が7つに分割されたAT&Tに相互参入競争を促し、あっという間に電話料金が10分の1以下に下がった。それがアメリカをインターネット社会化し、ITと金融がアメリカ経済を活性化した。巨大独占企業が君臨する日本はお隣の韓国にも遅れを取り、森政権になってから世界に追いつくための計画を作成するが、肝心の総理は「IT」が何のことかも分からなかった。

 電話料金は情報化社会の「産業のコメ」だから、電話料金が高い日本の経済は海外に比べて不利になる。「失われた10年」の要因のひとつに日本の通信コストをあげる人もいる。このように電電民営化は日本経済を停滞させたが、郵政民営化の議論と良く似ているのは、どちらも対象となる主体が分割を望んでいないことである。

 その本音部分を麻生総理が言い出した。なるほど総理は総務省の利益代弁者である事が良く分かった。「だったらあの郵政選挙はなんだったのか」とか「小泉構造改革に騙された」とか国民には色々言いたい事があるだろうが、考えてみれば麻生総理は国民の目を覚まさせてくれたのである。国民はこれまで「民営化に賛成か反対か」というピンボケのレベルでしか物事を考えてこなかった。しかし民営化は時代の流れ、良いも悪いもない。考えるべきは民営化の中身である。

 民営化には国民の利益になる民営化と、ならない民営化がある。官僚に法案を作らせたりすると官僚の利益を優先した民営化になる。国民がよくよく中身を吟味して、誰に利益があるのかを見極めないと騙される。4年前には全く考えずに選挙に行って失敗した。しかし今度こそ失敗は繰り返さない。民営化の中身を考える事が出来る。それは麻生総理のおかげである。ありがたいことだ。麻生総理ありがとう。

2009年2月 7日

「かんぽの宿」のイヤな感じ

 日本郵政の「かんぽの宿」一括譲渡問題で、火付け役の鳩山総務大臣と野党が共闘して追及に当たる構図が出て来た。オリックス不動産への一括譲渡は白紙に戻る見通しだと言う。何か不正が暴かれて正義がまかり通るかのように報道されているが、これまでの材料だけで私はこの譲渡が不正なものだと断定する気にならない。にも拘らず野党が追及に力を入れる様子に「またか」とイヤな感じを持っている。

「またか」と言うのは、同じような話をこれまで何度も見させられてきたからである。例えば何年か前に「年金未納問題」というのがあった。タレントの未納から始まって現職閣僚や国会議員まで未納が次から次へと暴かれた。眉間にしわ寄せキャスターなどは「公人中の公人である国会議員がけしからん」とスタジオ中に顔写真を並べて連日怒っていた。しかし私はこの話が年金改革法案の審議の真っ最中に出て来た事に疑念を抱いていた。

 人間には誰しも不注意がある。悪意で未納をしたとも思えない。それなのに何故こんなに騒ぐのか。メディアは視聴率が取れると踏んで騒いでいるだけだが、情報の出所はどこか。メディアが自力で未納記録を見つけ出せる筈がない。権力からリークされた情報を鵜呑みにしているなら権力の情報操作に加担している事になる。それを正義派面してやられれば、そっちの方がよほど社会悪だ。

 そう思って見ていると、菅民主党代表がこれに飛びついた。小泉内閣の現職閣僚を槍玉に挙げ「未納三兄弟」と呼んで激しく追及した。結果はどうだったか。小泉総理にとって目障りだった福田康夫官房長官が辞表を出し、次に追及していた菅代表自身も辞任せざるを得なくなり、代わって代表になる筈の小沢一郎氏も辞退するはめになり、そのドサクサで窮地に追い込まれた民主党は消費税導入に道筋をつける「三党合意」に取り込まれた。

 そして国民負担が増えて給付が減る年金改革法案はその陰で無事成立し、後になって小泉総理の未納も明らかになったが、あれほど騒いで菅代表に辞任を迫ったメディアは今度は誰も小泉総理の首を取ろうとしなかった。民主党だけがその無能振りを満天下にさらしてバカを見た。

 また何年か前に「偽メール事件」というのがあった。当時の小泉政権にとって最大の問題は「耐震偽装事件」である。角福戦争の昔からゼネコンは旧田中派、建設業界は旧福田派という縄張りが出来ていて、建設業界と旧福田派との結びつきは強かった。ゼネコン汚職が摘発されて旧田中派の利権構造は潰されたが、旧福田派を資金面で支えた建設業界に司直の手は及ばなかった。そこに降って湧いた「耐震偽装問題」は小泉政権を直撃する大事件であった。

 ホテルやマンションの耐震偽装は地震で崩れてしまうまで分からない筈だった。崩れてしまえば地震のせいにされて見逃される可能性もあった。まさに悪質な「完全犯罪」である。しかも日本中に被害が及んでいる可能性もあった。野党はこの一点だけを追及しても十分すぎるのに、当時の民主党は「4点セット」と言って焦点をぼかした。

 行政に隷属する事で世界でも有名な日本の司法は「耐震偽装事件」に目くらましを施した。急遽「ライブドア事件」を摘発し、国民の目をそちらに向けさせた。「耐震偽装」はかつての「ゼネコン汚職」に匹敵するもので、政界捜査が必須の事件であるにも拘らず、政界捜査を行なう地検特捜部は「ライブドア事件」の担当となり、政界捜査をした経験のない警視庁が「耐震偽装」を捜査する事になった。この時点で既に事件の幕引きは終了した。小泉総理の所属派閥に捜査の手が及ばない事がはっきりした。さすがは行政に隷属する日本の司法である。

 司法が駄目ならこの悪質犯罪を追及できるのは政治しかない。せめて野党が国会で全力を挙げるかと思った。ところが愚かな民主党は「牛肉偽装」とか「ライブドア」にも追及の矛先を向けた。さらに愚かなのはライブドアと小泉周辺との結びつきを追及する事が最も小泉政権の命取りになるとの妄想を抱いた事だ。権力が目くらましに用意した方に飛びついた。その結果が「偽メール事件」である。またもや当時の代表が辞任せざるを得なくなった。自業自得ではあるが民主党は再び無能振りを満天下にさらした。

 世界は日本の司法を政治権力からも行政からも独立していない下請け機関と見ている。時の権力に都合の悪い者は摘発されるが、時の権力には決して手を出さない。大物政治家逮捕の例を見れば良く分かる。ロッキード事件での田中逮捕も、その後の金丸逮捕も、時の権力にとっては目障りな存在であり、しかも権力の地位を自らが退いた直後に逮捕された。それなのに日本の司法を時の政権から独立しているかのごとく考える野党は権力を知らない素人である。

 「居酒屋タクシー」で官僚に一矢報いた気になっているメディアと野党にも呆れた。あれは霞が関のノンキャリアの勤務実態に緩みがあった話で、権力とか利権と関係する話ではない。個人タクシーが酒をサービスしたのはお得意さんだったからだろう。役所が残業をさせなければ良かっただけの話である。むしろなぜあの時期にあの情報がリークされたかが問題なのだが、それは誰も追及しない。

 そして「かんぽの宿」に戻るが、騒ぎだしたのは権力の側である。そこには当然権力の意図があるはずだ。鳩山総務大臣の個人の正義感だと思うほどおめでたい人間は政治の世界にはいないだろう。その意図が何かを突き止める事が先決である。総務省と日本郵政の内部にシナリオを書く者がいる。鳩山大臣はそれに振り付けられて躍っているだけだ。これは麻生政権の窮鼠猫をかむ策略かもしれない。とにかく情報は権力の側にあるので情報の出し方、内容は如何様にでも操作できる。それを考えずに飛びつくと痛い目にあう事は間違いない。

 専門家でないので断言は出来ないが、従業員全員の就業を保証した上での一括売却で、言われている金額が不当に安いのかどうか、また個別売却が現実に可能なのかどうかも含めて考えれば、今の段階で私にはそれほど問題があるようには思えない。

 前にも書いたが麻生政権は既に内部に「敵」と「味方」がいる。野党が手を下さなくとも余命数ヶ月である。そういう時に野党が力を入れるべきは、政権追及よりも政権獲得後の次なる手の打ち方である。重要度は第一が来年の参議院選挙対策、参議院で単独過半数を取らなければやりたい政策は実現しない。政策のためには何よりも政局優先である事を肝に銘ずるべきである。第二が霞が関との関係構築、立法の司令塔を政党にするため何が必要かを考えるべきである。さらにアメリカとの関係構築である。世界が構造変化する時期の同盟関係とはいかなるものかを構想すべきである。持っている知恵はそちらに使った方が良い。


第9回銀座田中塾
日時:2009年2月5日又は12日
   午後6時半~8時半
テーマ:日米関係の過去・現在・未来
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

2009年2月 4日

「敵」はどこにいるのか

 麻生総理の「敵」がどこにいるのかさっぱり分からない状況が続いている。少し前までは明確だった。民主党の小沢代表が「敵」の総大将だった。だから昨年9月29日に行った所信表明演説では、代表質問を行う予定の小沢代表に対し、異例とも言える逆質問を行って挑発した。解散を念頭に「敵」に先制パンチを浴びせ、味方陣営を奮起させるのが狙いである。

ところが解散を先送りして戦いを回避した途端に状況はぐるりと変わった。予想されたことだが、「敵」が民主党だけではなくなり、麻生総理には横からも後からも鉄砲の弾が飛ぶようになった。麻生総理は今や十字砲火にさらされている。

 権力者は孤独である。権力という魔力は常に周囲のすべてを「敵」に回す可能性がある。「三国志」を読めば、親兄弟や家族ですら味方でなくなる可能性がある。そのため権力者は「敵」になる芽をいち早く摘み取る必要がある。考えを変えさせて味方に引き込むか、殲滅して影響を拡大させないようにしなければならない。「敵」を最小化し、味方を最大化する努力を怠ると、あっという間に「敵」に包囲され、権力を失う。

 麻生総理には解散を回避したことで公明党を「敵」に回す恐れがあった。公明党を味方に引きつけるためには定額給付金に固執しなければならない。すると世論を「敵」に回す事になった。9月末まではまあまあだった内閣支持率が解散先送りと同時に下がり始め、10月中旬には支持と不支持が逆転、その後はつるべ落としとなった。支持率下落の原因を真剣に分析し素早く対応しなければならないのに、嫌なものは見ない性格なのか、それとも世論を見くびったのか、「説明が足りないから」とか、「予算が成立すれば支持率は上がる」とか、手前勝手な理由をつけて世論を無視する姿勢をとった。

 それでは支持率は上がらない。さらにいつまでも「説明不足」とか「いずれ上がる」と言い続ける訳にもいかない。「すべては私の責任です」と言うようになった。しかし責任は認めても責任はとらない。こうなるとただの開き直りである。こうして麻生総理は世論を「敵」に回したまま、味方に変える努力を放棄した。

 11月に民主党の小沢代表との「党首討論」に臨む時、周囲は麻生総理に念入りな振り付けを施した。それがことごとくマイナスに作用した。私は「ロボット総理」とコラムに書いたが、麻生総理は振り付けられた演技をロボットのように忠実に演じて小沢代表に完敗した。この振り付けをどう総括したのか知らないが、これは明らかな作戦ミスで利敵行為である。昔なら切腹ものだ。しかし麻生総理の周辺で責任をとらされた形跡はない。麻生総理がこのミスを深刻に考えていないからだが、周囲にいる「敵」はこうして見逃された。再びミスを起こす余地が残されている。

 霞ヶ関の官僚機構を味方につけようと、かつて知ったる総務省に依拠すれば財務省を「敵」に回す。財務省を味方にしようと消費税に言及すると、与党の一部が「敵」に回る。公務員制度改革に手心を加えて霞ヶ関全体に喜ばれようとすると、与党から離党者が出て「敵」に寝返った。最近になって官と対立するポーズを取り始めたが、ただのポーズに見えてしまうから効果がない。小泉元総理は「敵」を作るのがうまかった。「敵」を作ることで世論を「味方」につけた。ところが麻生政権では「敵」と「味方」が入り乱れ、何がなんだか分からない。

 そうした中で1月28日に行われた政府演説は前代未聞であった。麻生総理の施政方針演説が金融危機に対して「お気楽な」認識しか示さなかった事は前回述べたが、中川財務金融大臣の財政演説と与謝野経済財政担当大臣の経済演説には本当に驚かされた。

 メディアでも報じられたが中川大臣はわずか16分間の演説中26カ所もの読み間違いを犯した。人間誰しも間違いはある。しかし26カ所は尋常でない。この日中川大臣は鼻をすすりながら演説をしたので風邪気味だったのかもしれない。しかし金融危機に一番手として立ち向かわなければならない大臣である。政治決戦の年の冒頭演説にしては恐ろしく緊張感を欠いていた。麻生政権を支える気迫が失せたと疑われても仕方がない。

 さらに興味深かったのは与謝野大臣の経済演説である。金融危機に立ち向かうためには「国民の信頼と協力が何よりも大事だ」と再三強調した。勿論その通りなのだが、私にはもはや「国民の信頼と協力」を期待できない麻生総理に対する強烈な批判に聞こえた。国民の7割以上が支持しない総理の下では金融危機は解決できないと述べたようなものだ。しかもそれを裏付けるように与謝野大臣は原稿の読み飛ばしをした。「麻生総理のリーダーシップの下、政府横断的に」というくだりで、「麻生総理のリーダーシップの下」を読み飛ばしたのである。本人は否定するだろうが、これは間違いなく意図的な読み飛ばしである。麻生総理にリーダーシップがないことは数々の迷走ぶりで既に証明済みだ。その総理に対して「リーダーシップ」という言葉を使う気にはならなかったのだろう。

 2年前の臨時国会では安倍元総理が読み飛ばしをした。「来年開催される北海道サミットで、(中略)引き続きリーダーシップを発揮して参ります」というくだりを読み飛ばした。その翌日に安倍元総理は辞任したから、演説の時点で既に辞任を決意していたか、そうでなくとも11月に海上自衛隊がインド洋から引き上げて来る事は分かっていた。当然責任を問われる。北海道サミットまで総理を続けることはあり得ない。だから読むことが出来なかった。

 与謝野大臣の読み飛ばしを拡大解釈すると、まもなく総理でなくなる人の下で経済政策を行う事はないと思っているのかもしれない。政府演説がそのように聞こえてくるのはかつてないことである。主要閣僚まで「敵」か「味方」か分からない。尾辻自民党参議院会長は代表質問の中で「野に下ることは恥ずかしいことではない。恥ずべきは政権たらんとして迎合することだ」と麻生総理に下野の勧めを説いた。一見麻生総理を批判して野党を利する発言のように見えるが、麻生総理に忠実に従う発言で政権の足を引っ張るより、こちらの方が実は麻生総理の行く末を本気で心配しているかもしれない。それほどまでに麻生総理の「敵」と「味方」は分からない。


第9回銀座田中塾
日時:2009年2月5日又は12日
   午後6時半~8時半
テーマ:日米関係の過去・現在・未来
場所:東京都中央区銀座6-13-15
    銀座ウォールレジデンス401号
会費:2500円(飲み物・軽食)
どちらかの日を指定して
電話:03-3357-0828
Email:morim-p@gol.com
モリギャラリーにお申し込みください

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.