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2008年10月27日

続・「私が決めます」

 株価がバブル経済崩壊後の最安値を更新した10月27日、麻生総理は解散先送りを決断したとの報道が流れた。言われていた10月末解散、11月30日総選挙はなくなったという事である。再び解散総選挙の時期が不透明になったかのように見えるが、これで選択肢は12月解散、1月総選挙に限りなく近づく事になった。選挙の争点は経済危機を救えるのは与党か野党かの一点になる。

 11月総選挙を逃すと12月には来年度予算編成を行なわなければならないから、選挙は予算が成立した後の来年春か、或いは任期満了かと言われていた。しかしそこまで選挙を先延ばしする事は極めて難しい。与党内最強派閥と言っても良い公明党が許容できるのは来年の1月まで。議員も既に走り始めている。これらの怒りを買わない限界は年末年始がぎりぎりである。それならば来年度予算編成を済ませてから解散するというのが最も有力な選択肢になる。かねてから公明党の太田代表は「解散総選挙は年末年始が第一選択肢」と言ってきた。それを飲む形の解散になる。

 正月に選挙をやるというのは珍しい。珍しいが戦後では2回ある。1949年と67年である。そのうち1949年は少数与党の第二次吉田内閣が政権基盤を強めるために行い大勝した。弱小派閥の麻生総理が自らと重ね合わせて「験をかつごう」と思えば、まさにぴったりの時期である。吉田総理は12月23日に解散して1月23日に選挙を行ったから、麻生総理は12月25日に解散して来年1月25日の選挙にすれば良い。

 予算編成を行なってからの選挙となれば、予算案に対する信を問う事になり、大義名分も立つ。その予算案に経済危機に対する本格対策を盛り込み、野党の民主党がそれを上回る対策を作成できるかどうか、それを国民に問う事が出来る。与党は財務省を味方につけているから、いわば政府与党の土俵に民主党を引きずり込む事が出来る。

 現在の支持率の低迷状態を引きずらないためにも、新年を迎えて国民の気分を一新させる必要がある。おめでたい気分になれば国民の不満も多少は減る。さらにアメリカ大統領選挙で政権交代が起きたとしても、1月選挙なら麻生総理がオバマ氏との間に交流する機会を作る時間があり、「政権交代」のマイナス効果を減殺する事が出来る。

 12月解散は、冒頭解散を見送った後に考えられる解散の時期としては、早期解散の枠内に入り、「逃げた」とは見られないぎりぎりのタイミングである。これを逃せば麻生政権はただ漂流するばかりになり、与党内から引きずりおろされる可能性が高まる。

 麻生総理は近く解散についての考えを表明すると言われるが、「政局よりも政策」だとか「私が決めます」などと意味のない発言を繰り返すのはやめて、はっきり「予算案に本格的な経済対策を示して12月に解散する」と明言すべきである。そうしないと国民の不安心理を払拭する事はできない。そしてそれこそが支持率低下に歯止めを掛ける唯一の方法である。「アキバ」や「マンガ」で支持率回復を狙うのはただの「勘違い」で、支持者をますます減らすだけだ。


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第6回銀座田中塾
日時:11月6日又は12日
    午後6時半~8時半
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2008年10月24日

「私が決めます」

 解散について聞かれると麻生総理は決まって「私が決めます」と言う。解散権は総理にあり「私が決めます」と言う必要はない。「私が決めます」と言う総理は珍しい。解散と公定歩合について総理は嘘を言っても構わないとされているから、これまでの総理はたいてい「私の頭の中にはない」とか「考えていない」と表現してきた。そして「ない」と言いながら解散を断行した。

 解散をやる気もない総理が「ある」と言ったらおしまいである。言った途端に議員は走り出して止めようがなくなる。総理の意図とは関係なく解散せざるを得なくなる。だから総理は本当に解散を決意するまで決して「ある」とは言わない。ところが麻生総理は自民党総裁選の最中から解散を意識した発言を繰り返してきた。解散をするために選ばれる総理だからである。総理に就任した9月24日頃は臨時国会での冒頭解散を考えていたようだ。月刊誌にわざわざその事を吐露している。麻生総理は最初から「ある」と言った珍しい総理なのである。

 ところが総理就任後に自民党が行なった選挙調査を見て愕然とした。民主党に政権を奪われかねない結果が出ていた。当選が危ぶまれる議員の中からは選挙先送りの声が出て来た。敗色濃厚な戦いと知りながら選挙に打って出るべきか。迷っているところにニューヨーク証券市場の株価大暴落のニュースが飛び込んできた。世界金融危機の始まりである。ここは権力者の資質が問われる場面であった。

 私の経験から言って、突発的な危機に際してすぐに立ち上がり、あれこれ指示をするリーダーは信頼するに足らない。必ず間違いを犯す。危機に際してまずはじっと状況を見極め、一呼吸おいて指示を出すリーダーこそが信頼足りうる。その一瞬を我慢できない人物は臆病な性格でリーダーに向かない。今回の株価の暴落はアメリカの問題であり、日本の総理はじっとして危機の本質を見極めれば良かった。しかし選挙回避の口実が出来たと思ったのか、麻生総理はすぐさまこれに反応した。「危機に際して政治空白は許されない」と言って選挙先送りを決めた。少し前に与謝野経済財政担当大臣は「日本は蚊に食われた程度の影響だ」と言ったが、総理は「危機だ、危機だ」と騒ぎ出した。

 危機だから選挙を先送りすると言う理屈は実は成り立たない。与党にとって危機こそ選挙のチャンスである。選挙をするからと言って内閣が消滅する訳ではない。内閣は選挙中も機能し続ける。野党は演説するしか能がないが、与党は政府と組んで様々な対策を打ち出す事が出来る。産業界も国民も危機になれば政府の方を向いて対策をお願いする。誰も野党など相手にしない。それなのに経済対策が先だと言って選挙を先送りした。

 選挙より経済対策が先だと言うのにも首を傾げる。危機の本番はまだこれからである。今は金融商品という名のギャンブルに狂った人間が損をした段階で、それは自己責任で解決してもらうしかない。しかし額に汗して働いてきた人たちが被害を受けるのはこれからだ。その被害の程度がどれほどになり、何が最も有効な救済策かは一呼吸おいて作る方が良いものが出来る。慌てて作れば税金の無駄遣いになりかねない。危機の火元であるアメリカで新政権が始動するのは来年1月である。それなら日本もそれまでの間に選挙を済ませ、本格対応を取ろうと考えるのが筋道である。

 「世論調査で国民は解散よりも景気対策を望んでいる」と麻生総理は言った。しかし「解散」と「景気対策」を二者択一にするところに問題がある。二者択一にすれば誰だって「景気対策」を選ぶに決まっている。「景気対策」は自分の生活にプラスだが、「解散」はプラスになるのかマイナスになるのかが分からない。分からないものを選ぶ人間はいない。そもそも「解散」は政策課題ではない。「景気対策」と一緒に並べる方がおかしい。それを混同しているメディアは露骨に政権に協力しているか、頭が悪いかのどちらかである。総理は意味のない選択肢にしがみついている。

 結局、麻生総理が選挙を先送りした理由は、選挙で落選しそうな議員たちの悲鳴に動かされただけである。それがこれからも与党の中で通るだろうか。全くそうは思わない。わずか20名の弱小派閥のリーダーが今後も政権運営を行なおうとすれば、党内最大派閥と公明党の協力が絶対的に不可欠だ。その二つともが早期解散を求めている。さらに選挙に勝てる議員たちは既に走り出している。当選の可能性があるのは選挙運動を熱心にする候補者である。彼らは選挙をこれ以上先延ばしにされたら怒り狂うだろう。当選して永田町に戻ってくるはずの議員の声を聞かずに政権運営も何もない。

 麻生総理が本気で選挙に勝とうと思うなら、落選が予想される議員の声など聞かず、むしろそんな議員は切り捨てて、差し替えを行なうべきなのだ。民主党の小沢代表は現在それを行なっている。厳しく査定され公認を取り消された候補者もいる。それに引き換え自民党の公認は大甘である。小泉チルドレンをはじめ落選候補がうじゃうじゃいる。そんな体たらくを棚上げし、選挙が危ないからと時期を先延ばしするようでは話にならない。勝つ努力もしないで勝とうとしているだけの話だ。

 戦いは状況が有利か不利かで始めるものではない。戦わなければならない大義があるから始める。しかし戦うからには必ず勝利を目指す。どんなに不利な状況でも勝利に向けて努力する。解散をするために戦うために選ばれた総理がその気概を見せないのはどういうことか。いまさら解散の時期を探るようでは「天命」が泣く。そして「私が決めます」などとは言わないことだ。それを言えば、自分の思い通りにならない状況が党内にあり、それに抗して突っ張っていると思われる。実際私は総理の思惑がどうであろうと別のところで解散の時期は決まると思っている。

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2008年10月23日

怒る納税者と怒りを忘れた納税者

 納税は国民の義務である。義務を果たさない国民は罰せられる。だから国民には納めた税金がどう使われるかに口を挟む権利がある。税金の使い方を決めるのは政治だから、納税者は口を挟むために政治家を選び、政治家を使いこなさなければならない。当たり前の話だが、この国では忘れられている事が多い。

 その事を感じさせてくれたのが9月29日のアメリカ下院による金融安定化法案の否決であった。否決によってニューヨーク証券市場の株価は大暴落、世界金融危機の始まりと言われた。日本のメディアは「アメリカの下院議員は世界経済の事を考えず、自分の支持者だけを見ている」と否決を厳しく批判した。しかし私は全く逆にアメリカの民主主義は健在だと感じた。

 そもそもアメリカの金融危機はアメリカ下院の採決によってもたらされたものではない。異常な金融資本主義によってもたらされた。真面目に働いて価値を生み出す世界の話ではなく、一攫千金のギャンブルの世界が破綻した話である。議会が何をしようと破綻は必ず起きた。しかも困った事にそれが世界経済に影響するほど肥大化していた。

 株の配当益を求めるのは堅気の人間だが、株の売り買いで利益を得ようとする人間はギャンブラーである。ギャンブラーが損をするのは自業自得で、同情して助けるのは愚かである。ところがギャンブラーの世界を救うためにアメリカ国民の税金が投入されそうになった。

 これに納税者が怒るのは当然である。黙って税金を使わせるわけにはいかない。その納税者の声に政治家が応えた。まともに民主主義が機能した話である。しかし一方でアメリカ経済が既にギャンブルの世界に組み込まれている事も紛れもない現実である。放って置く訳にもいかない。だから翌週の10月3日に修正が施されて法案は成立する事になった。これもまた見事に民主主義が機能している事を証明した。

 一度目の否決は決して無駄な否決ではない。今後アメリカが異常な金融資本主義から立ち直る過程で必ず生きてくる。あの法案が一度も否決されずに通っていたら、つまりアメリカ国民が異常な金融資本主義にノーを突きつけていなかったら、アメリカ経済の健全化は間違いなく遅れる。

 アメリカで金融安定化法案が修正され成立した10月3日、日本では農林水産省が問題となっていた汚染米の焼却処分を始めた。その日同時に農水省はコメの流通業務に従事していた職員11人が業界から接待を受けていた事を発表した。するとこの国のメディアは「接待」のニュースを大きく取り上げ、「焼却」のニュースは小さく報じた。いつもながらの「おバカ」ぶりである。

 「小悪に躍るメディアのお粗末」で指摘したが、この国の官僚は知られては困る事を隠蔽する時、自分たちにはさして影響がなく、しかし「おバカ」メディアが飛びつく「小悪」をぶら下げて「目くらまし」をやる。メディアは正義派ヅラをして大騒ぎをし、結果として官僚の思い通りになる。「年金未納問題」も、「居酒屋タクシー」も、官僚に上手に利用された事例である。そして今回も同じ手口を農水省が使った。

 職員の接待問題など汚染米を巡る農林水産省の構造疑惑に比べたら大した話でない。そんなことよりも納税者が目を向けるべきは汚染米の焼却である。農水省は国民の税金で買ったコメを承諾もなしに燃やした。コメを燃やしたのは税金を燃やしたのと同じである。しかも焼却にも税金がかかる。汚染米を購入さえしなければ燃やす必要もなかった。税金の無駄遣いとはこの事である。購入した農水省の責任はどうなるのか。責任追及もしないうちから燃やして良いのか。納税者なら疑問を持って当然である。

 「汚染米と言っても健康に影響する程の事はない」と責任者の農水大臣が言った。それならば汚染米は農水大臣以下農林水産省の全職員と関係業界に購入してもらい、その人たちの食用にすれば良い。それなら税金の無駄遣いにならない。その人たちが食べたくなければ自分の費用で焼却してもらう。責任を取らせるというのはそういう事である。そうすれば今後汚染米が輸入されたり、それが食用と偽られて国中に出回る事はなくなる。ところが納税者が怒らないから、農水大臣は胸を張って再び汚染米(税金)焼却の方針を発表する。

 国会では海上給油法案の審議が続いている。これも税金の使われ方に疑問符がつく問題である。日本国は誰から、どういうルートで、いくらの油をどれだけ買い、誰に提供しているのか、民主主義国ならばそれを国会に詳らかにする義務がある。ところが政府は再三にわたり軍事上の機密や、テロリストを利するとして詳細を明らかにしない。世界の民主主義国で税金の使い方を問われて拒む国はない。軍事上の機密だとかテロリストを利すると言うのなら「秘密会」を開いて与野党の議員だけに開示する方法もある。どこの国でもそうしている。

 軍の作戦をいちいち議会に報告する必要はない。しかし税金の使い方を議会に秘密にする事は許されない。それがシビリアンコントロールというものである。防衛省の背広組が組織のトップになるとか、政治家が防衛大臣になる事がシビリアンコントロールではない。軍が納税者の承諾なしに戦費を使う事を許さない。それがシビリアンコントロールである。

 アメリカ議会に軍人が呼ばれて証言を求められる事がある。その時軍人は必ず議会が軍に予算を付けてくれた事に感謝する。軍が議会に従属している事をまざまざと見せつける儀式である。それを見る限りアメリカの軍隊にはシビリアンコントロールが効いている。しかし海上給油の詳細を国会に提出しない自衛隊にはシビリアンコントロールの原則が貫かれていない。それでもなお納税者はこの組織を税金で養い続けるつもりだろうか。海上給油法案を巡る国会審議を見ているとそうした事を考えさせられる。

 冒頭の金融安定化法採決の話に戻るが、同じような事が日本にもあった。2003年の金融危機に際して小泉政権は当初「りそな銀行の破綻も辞さず」の姿勢をとった。資本主義を腐敗させないために必要な「自己責任原則」を貫こうとしたのである。ところがそれによって株価は暴落、バブル崩壊後最安値の7607円を記録した。すると小泉政権は一転して2兆円の公的資金を投入し「りそな銀行救済」に乗り出した。金融市場は「大銀行は自己責任を追及されない。公的資金で救済される」と判断して株価は急反発した。金融危機は回避されたがこの国の「自己責任原則」は崩壊した。

 この時小泉政権の政策転換を最も支持したのは日本のメディアである。この国のメディアはいつも納税者の立場に立たない。弱い者の味方の様な顔をしながら実は税金を使う側の味方である。そのせいか納税者も怒りを忘れておとなしい子羊のようになるのである。


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2008年10月15日

拉致はなぜ起きたか

 アメリカが北朝鮮に対するテロ支援国家の指定解除をした事で、拉致問題は置き去りにされたとの見方が広がっている。日米同盟を拉致問題解決の鍵だと思ってきた人は裏切られた気持のようだ。しかし私は拉致問題の解決をアメリカに依存する事に疑問を抱いていたので、むしろ外交の現実や日米同盟の意味を真剣に考える機会が訪れたと考えている。

 なぜ拉致事件が起きたのか。つきつめれば北朝鮮にとって日本は怖い国ではなかったからだ。まず北朝鮮は日本警察の捜査能力を恐れていなかった。さらに北朝鮮の犯行である事が発覚しても日本には反撃する能力がない事を知っていた。つまり戦後の日本が選択した安全保障体制は北朝鮮には効き目がなかった。日米同盟だけでは拉致事件を防ぐ事も解決する事も出来ないのである。

 朝鮮戦争が始まったのは1950年6月だが、戦争が膠着状態に陥っていた51年9月に日本は独立国となるためサンフランシスコ平和条約を締結し、主席全権委員である吉田茂総理は単独で日米安保条約に署名した。日本占領軍からアメリカ以外の軍隊は撤収し、米軍だけが日本に駐留する事になった。朝鮮戦争の出撃基地を必要としていたアメリカと戦後復興を優先するため軍事をアメリカに委ねようとした吉田の考えが一致した結果である。

 しかし日本が独立するのに軍事をアメリカに委ねる考えには抵抗があった。吉田は米軍を「番犬」だと説明して理解を得ようとした。安保条約に反対する党人政治家松野鶴平に「犬とえさ代は向こうもちだ」と語ったという。同じ自由党の中でも鳩山一郎は再軍備を主張して激しく対立し、吉田に総理辞任を迫った。これらの反対を封じ込めたのが52年8月の「抜き打ち解散」である。自由党は吉田派と鳩山派に分かれて分裂選挙を戦った。結果は自由党が大勝、党内でも吉田派が勝利した。こうして再軍備路線は敗れ日米同盟路線が確立された。およそ半世紀後の郵政選挙と似た分裂選挙だったが、吉田路線が半世紀以上も続いているのに、小泉路線は早くも消えかかっている。

 朝鮮戦争のお陰で日本は工業国として戦後復興を成し遂げた。吉田の目的は達成されたが日米安保はそのまま継続された。日本はソ連、中国の核に対しアメリカの核の傘を必要としたからである。高度成長真っ只中の60年には岸信介総理によって新安保条約が締結された。期限は10年だがその後も破棄されずに現在でも効力を有している。

 しかし日米安保を巡ってはこれまで様々な議論があった。日本が高度経済成長を成し遂げるにつれ、米国内には「安保ただ乗り論」が浮上した。アメリカにのみ軍事的負担を負わせて日本は金儲けに専念しているという批判である。また「経済大国は必ず軍事大国になる」と言ってキッシンジャーは日本が核保有国になる事を予言した。言い換えれば日本がアメリカの核の傘から脱して自立するという予言である。一方で中国は日米安保は日本を「軍事大国化=自立」させない「ビンのふた」であるとして脅威を感じるどころかむしろ歓迎した。

 60年安保当時、自民党の椎名悦三郎副総裁は米軍を「お番犬様」と敬語をつけて呼んだが、それでもまだ米軍は「番犬」だった。それが85年に日本が世界第二位の経済大国となり、アメリカが世界一の債務国に転落した頃から、アメリカの反撃が始まった。日本をソ連に代わる「次の脅威」と位置づけ、日本経済の強さの秘密を徹底分析し始めた。

 91年にソ連が崩壊して日米安保の必要条件が消えた。冷戦の崩壊は世界的に民族主義の台頭をもたらす。それを契機に日本も自立への道を歩みだすかと思ったが、現実はまるで逆の方向、隷属の方向に歩みだした。クリントン大統領と橋本龍太郎総理は「日米安保再定義」を行い、アジアには中国と北朝鮮が存在するという理由で安保条約を存続させた。しかし既にアメリカは中国、北朝鮮と独自のパイプを持ち、「日本パッシング(無視)」の状態にあった。日米安保はもはや中国と北朝鮮に日本の力を行使させないための「ビンのふた」でしかなかった。ところが不思議な事に日本人は誰もそうは思っていなかった。

 アメリカのブッシュ大統領は北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだが、私は全く信じなかった。かつてイランと国交断絶しているはずのアメリカからイランに向けて食糧のコメが輸出されている現実を見た事がある。アメリカに限らず外交とはそういうものだ。二枚舌、三枚舌でないと世界は生き抜けない。思った通り、北朝鮮がミサイル実験を繰り返す度に日本はアメリカにすがりつき、イージス艦やMD(ミサイル防衛)などアメリカが求める兵器を買うようになった。いずれも高価な買い物だがブラックボックスがあって日本には知らされない。北朝鮮はアメリカに武器販売の利益をもたらし、同時に日本の自衛隊を兵器ともどもアメリカのコントロール下に置く事に貢献した。

 これほどアメリカに貢献してくれる北朝鮮をアメリカが利用しないはずはない。そのアメリカに拉致問題の解決をお願いするとはどういうことか。私にはどうしても理解が出来なかった。アメリカは拉致問題に同情はするだろう。しかし腹の中では「自分で解決すべき問題でないの」と思うはずだ。主権に関わる問題を他国にお願いをして解決してもらう国など世界中にあるはずがない。同盟国に協力を求める事はあるだろう。しかしそれは当事国が中心的活動をしていることが前提だ。それもせずにお願いをする国などない。拉致被害者の家族が日本の政治家ではなくアメリカ大統領にお願いをする姿は、私には悲しすぎるし恥ずかしすぎた。日本が自分では何も出来ない国になってしまった事をまざまざと見せつけられた。

 拉致被害者の家族は麻生総理にも面会して解決を要請した。私に言わせれば拉致が起きた根源はつきつめれば吉田茂が署名した日米安保条約にある。残念ながらそれによって日本は自立して外交を行う国でなくなった。国益よりも他国の評価を気にし、しかも多少の金があるために研ぎ澄ました外交感覚を持つ事が出来ない。

 インド洋の海上給油が必要な理由は、それをしないと国際社会から評価されないからだと言う。しかし国際社会から嫌われる事を恐れる国など世界中にあるだろうか。アメリカもロシアも中国もイギリスも立派に国際社会から嫌われている。国益を追求すれば嫌われるのは当たり前だ。戦後復興を成し遂げ、高度成長を達成するまでの日本は世界中から嫌われ蔑まれてきた。事の是非はともかく日本はそれをバネにさらに上を目指してきた。その頃の自民党政権はアメリカの言いなりにはならなかった。言いなりになるような顔をしながらしっかり相手にボディブロウを打ち続けた。だから日米関係は常に「摩擦」や「戦争状態」だった。しかし80年代半ばからそれが変った。日米関係に「戦争」はなくなり日本はアメリカの「飼い犬」になった。

 麻生総理が所信表明で述べたように、自らを「第92代内閣総理大臣」と歴史の流れの中に位置づけるなら、吉田茂の孫である事を誇るのではなく、吉田路線を乗り越える新たな日本政治を切り開くと拉致被害者の家族に誓わなければならない。そうしないと拉致問題は永遠に解決されない。そしてこの国は本当にただただ溶解していく事になる。


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「銀座田中塾」第5回
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2008年10月12日

国会探検特別篇その1:日本の政治はどうなっているのか

今回の国会探検は、7月22日に行われた銀座田中塾「日本の政治はどうなっているのか(2) ─ 中曽根康弘と小泉純一郎」の模様を音声資料で一部公開します!

長年にわたって日本の国会をウォッチしてきた田中良紹さんからみて、今の日本はどうなっているのか。小泉的なるものとは何だったのか。ベテラン政治記者が歴史をひもときながら解説していきます。

■日本の政治はどうなっているのか(2) ─ 中曽根康弘と小泉純一郎(公開は終了しました)
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2008年10月 9日

さまよえる解散総選挙

 国民に人気のある自民党総裁を華々しく選出し、その勢いで解散総選挙に打って出るというのが与党のシナリオであった。ところが日本政治の構造変化を読めない三文シナリオライターが書いたのか、想定はことごとく外れた。総裁選挙は盛り上がらず、発足時の内閣支持率にも「ご祝儀」はつかず、それどころか日を追う毎に低下の傾向を示している。解散を打つために選ばれた総理は今や解散を打てない総理に変わりつつある。

 9月24日に第92代内閣総理大臣に選ばれた麻生太郎氏には早期解散が期待されていた。だから自民党総裁に選ばれた時本人は「選挙に勝って初めて天命を全うした事になる」と語り、組閣人事も選挙までの「つなぎ」で、本格政権はその後だとして「お友達」ばかりを集めた。選挙が間近である事が前提の組閣であった。

 早期解散を巡るシナリオの1つは代表質問が終った直後の10月3日解散である。これは公明党が求めていた。予算委員会を開かずに解散するためには、「審議を逃げた」と非難されないようにしなければならない。責任を民主党に負わせる必要があった。総理が所信表明で民主党に答えられない質問をし、民主党が答えない事を理由に解散するシナリオが考えられた。これだと10月26日か11月2日が投票日になる。

 もう1つは補正予算を成立させてからの解散である。衆参2日ずつ審議をして10月中旬に解散する。これは民主党が求めた。一応の景気対策には手をつけるから非難はされないが、投票日が11月9日となってアメリカ大統領選挙直後となる。仮にオバマ候補が勝利してアメリカに政権交代でも起きれば、間違いなく与党に不利な選挙になる。永田町では10月3日の解散が本命と見られていた。

 ところがそうしたシナリオを全て吹き飛ばす事態が起きた。自民党が麻生政権発足に際して行なった選挙調査で、与党が過半数に及ばないという結果が判明した。政権交代が確実になるのである。ところが議員たちは既に走り出している。特に公明党は11月2日投票で完全に選挙態勢が組まれていた。麻生政権は苦しい状況に追い込まれた。そこにアメリカから神風が吹いた。

 9月29日、アメリカ下院が金融安定化法案を否決したため株価が暴落し、世界的な金融不安が生じた。「危機に際して政治空白は許されない」という格好の口実が出来た。麻生政権はそれに助けられて解散総選挙を先送りする事にした。しかしだからと言って次のシナリオがあるわけではない。解散の時期を捜し求めて海図なき航海にさまよい出る事になった。

 こうなると自民党議員の本音は来年9月の任期満了まで選挙はやらないで欲しいという事になる。最後は「追い込まれ解散」になってしまうが、もしかするとその前に「奇跡」が起きて状況が好転するかもしれない。「奇跡」に一縷の望みを託す考えになる。しかし来年9月まで解散をせずに持ちこたえる事も容易ではない。早期解散を求めている公明党が許容できるのは来年の1月まで。公明党の協力がなければ来年の通常国会を乗り切る事は出来ない。しかも自民党内部には麻生総理に対する失望感が強まっている。どこで引きずり降ろしが始まるかもわからない。

 民主党に打撃を与える方法が見つからなければ選挙を先送りしても状況の好転は望めない。民主党に打撃を与えるには、民主党に審議拒否をさせてメディアに批判させる方法がある。そのため海上給油法案を審議入りさせ、民主党の審議拒否を誘う事になった。しかし相手の手の内が分かれば民主党もそれには乗らない。粛々と審議をし、粛々と反対する事になる。何日間の審議になるかは知らないが、10月中に法案は成立する。そこで解散なら11月中に選挙が行われる。

 麻生政権からはさらに補正予算に次ぐ追加的な経済対策の必要性も叫ばれるようになった。1兆8千億円程度の補正予算では何の景気対策にもならないからだ。10兆円規模の第二次補正予算が準備されているという。少しでも選挙を有利にするためには「バラマキ」が必要という事だ。昨日まで「バラマキはけしからん」と言っていた自民党が大手を振って「バラマキ」が出来るようになった。まさに経済危機様々である。こうなるとまた選挙の時期は先に行く。

 テレビの「おバカ」キャスターは「経済危機だから政治空白を作るべきでない」という政府与党の口実を真に受けて「党利党略で解散すべきではない」などと主張する。そんな情緒的な事を言うのは世界でも日本人ぐらいだ。第一に株の暴落に驚くような政治では先が思いやられる。第二に今回の経済危機がどうなるかはまだ誰にも分からない。どうなるかを見極めないと対策の立てようもない。危機はこれからやってくるが、それを待っていたら2年ぐらい選挙は出来ない事になる。第三に火元のアメリカは選挙の真っ最中だ。この危機を制圧できるのがどちらの候補者かをアメリカ国民は選ぶ事が出来る。危機に対応するための一番の方法はしっかりとした政権を作る事だ。それを理解できない日本人は愚かとしか言いようがない。

 「株価に一喜一憂するような政治リーダーを持つ国民は不幸だ。それでは国の舵取りなど出来ない」とかつての自民党の政治家は言った。また「国家が危機に陥った時、戦前は大命降下が危機を救った。戦後は選挙だ。選挙こそ国家の危機を救う最善の方法だ」と言ったのもかつての自民党の政治家である。それは真理だと思っている。それに比べて今の自民党は情けない。株価に一喜一憂する政治リーダーが現れ、現状を国家の危機だと言いながら選挙を先送りしようとする。何とも日本の政治に昔日の面影はなくなった。

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    18時半~20時半
場所:東京都中央区新富1-15-8
    営和ビル5F銀座モリギャラリー
電話:03-5541-2070
Email:morim-p@gol.com
会費:2500円(飲み物・おつまみ付き)
都合の良い日をお申し込みください

2008年10月 2日

政治家の資質

 政治家の質の劣化が言われて久しい。しかし政治家も国民も言われているほどは感じていないようだ。選挙の度に質の劣る政治家が選ばれている。質の劣る政治家にも色々あるが、ここで問題にしたいのはテレビのバラエティ番組などに嬉々として出演している雑魚ではない。雑魚は「誰にでも政治を理解してもらうのが政治家の務めである。それが民主主義だ」などと言うが、所詮は票が欲しいだけである。愚民の票でも一票は一票と考えている。これは衆愚政治の思想で民主主義とは関係ない。昔から直接民主主義を排し、間接民主主義を採用してきた先人の教えを理解できない愚か者で取り上げる価値もない。

 問題にしたいのは政権の中枢にいる政治家の資質である。権力を握っていない野党の政治家もとりあえずは横に置く。野党議員の質がどうであろうと国民に深刻な影響を及ぼす事はない。質が悪ければ政権が取れないだけで、政権を取って初めて資質が問われる存在になる。政権を担う政治家が無能だと国は間違いなく衰退する。国民生活に深刻な影響が出てくる。だから政権を担う政治家の資質は厳しく吟味されなければならない。

 長らく政権を維持してきた自民党には政権を担当するに足る能力があった。だから国際社会も驚く戦後復興と経済成長を成し遂げた。政治は結果が全てであるから自民党の中に何があろうと能力は認めなければならない。しかし冷戦が崩壊し、日本国内でバブルが崩壊した頃から事情は変わった。国際社会における日本の地位も国民生活の内実も低下した。自民党の政権担当能力に疑義が生じた。それから20年近く経って二人の総理が政権を投げ出した。自民党の政治家に本当に権力者の資質があるのか、チェックする必要がある。

 9月22日に自民党総裁に就任し、24日に国会で内閣総理大臣に指名された麻生太郎氏が行った組閣人事は驚くべきものであった。人事は権力者の資質を判断する貴重な機会である。人事によって人は権力者を認めるか、或いは離れるか、それが決まる。そして人事には必ず権力者が目指す政治の意志が表れる。ところが麻生総理の組閣には政治の意志が見えなかった。前にも書いたが、安倍元総理と共通の「お友達が集う内閣」で、総裁選の論功だけが浮き出ていた。

 恐ろしくスケールの小さな人間が権力を握った。組閣から読み取れるのはその一点である。しかもこの人事は選挙までの間の「つなぎ」で、本格人事は選挙の後に行うのだと言う。まるで人事を弄んでいて緊張感がない。選挙が近い事もあって誰も口には出さないが、自民党の中に麻生総理の資質について失望感が広がった。しかし資質のない総理を担いでしまった以上、自民党はそれを何とか繕いながら選挙を戦うしかない。

 29日に麻生総理は初めての所信表明演説を行った。これがまた所信表明演説と呼べるものではなかった。118年続く議会の歴史の中で、92代の総理演説を全て知っている訳ではないが、おそらく前代未聞、空前絶後の演説ではなかったか。所信表明演説とは、国家が直面している課題にリーダーとしてどう立ち向かうかを表明するものである。課題を羅列する必要も長く演説する必要もない。しかし何にどう立ち向かうかは表明しなければならない。ところが麻生演説にはそれがなかった。

 福田前内閣が作った緊急経済対策と補正予算に触れ、日本経済は全治三年と述べた後は、ひたすら民主党に対する挑発的質問を行った。総理大臣の演説というより自民党総裁として野党に喧嘩を売る演説であった。「補正予算に賛成か、反対か」、「海上給油に賛成か、反対か」、「消費者庁に賛成か、反対か」と問われても、審議をする前には答えようがない。むしろ答えられない事を前提に質問したのだろう。予算委員会を開かずに解散する場合、「逃げた」と批判されないように、民主党が答弁しなかった事を理由に、民主党に責任を擦り付けるための質問だと思った。

 世界最先端の少子高齢化社会に向かう日本がどのような方向を目指すべきか、それが全く示されなかった。この総理は国民を見ようとしていない。見ているのは選挙の敵である民主党だけだ。人事でも狭い交流範囲からしか起用しなかったように、政策も目先の景気対策にしか興味がない。自民党は先を見ない人物を総理に担いでしまった。

 ところがアメリカ議会下院が金融安定化法案を否決したため株価が暴落、それが世界に波及する情勢になった。これを幸いに自民党は解散を先送りする事にした。金融危機を前に政治空白は許されないとの口実だが、真っ赤な嘘である。本当は今すぐ選挙をやると惨敗の可能性があるからだ。しかしこの先送りの判断も誤算になる可能性が高い。先に行けば行くほど経済危機はひどくなり本格的に日本経済に波及する。今ならまだ許される政治空白も先に行くほど許されなくなる。

 選挙のプロなら危機は与党に追い風と考えるはずである。街頭で演説する以外に手の打ち様のない野党に対して、権力を握る与党は様々な戦術を繰り出す事が出来る。総理や閣僚は街頭に出ることなく、官邸から国民を安心させる施策を次々に打ち出せば良い。候補者はそれと呼応して街頭で支持を訴える。かなり有効な手が打てたはずだ。ところがどんな手を打ったら良いかも分からないから、そうした選挙戦術を考える事が出来ない。火元のアメリカは今選挙の真っ最中である。共和党も民主党も金融危機を選挙に有利に利用しようとしている。それが政治というもので、選挙をやめれば良いというものではない。

 自民党の期待通りでなかったとは言え、麻生人気は今ならまだ小沢代表を上回る。しかしこれも先に行くと逆転される可能性がある。去年の参議院選挙を思い出してもらいたい。選挙前の安倍人気は悪くなかった。だから自民党は安倍人気を利用して小沢代表と比較させる戦術を取った。ポスターも安倍氏の顔の1種類。それを日本中にあふれさせた。ところが選挙が進むにつれて世論調査で小沢氏が安倍人気を上回った。安倍氏は懸命に民主党を攻撃した。しかし喜ぶのは自民党支持者ばかりで無党派は離れていく。その挙句が惨敗となった。

 自民党はその事を忘れたのだろうか。党首力勝負に打って出てもそのやり方に国民は飽き飽きしている。麻生氏が表に出れば出るほど自民党の票が減る可能性がある。小泉元総理は他に取り柄はなかったが喧嘩だけは上手だった。負ける喧嘩はしない。押したり引いたり柔軟だった。そして民主党を批判するより自民党を批判したから人気があった。しかし麻生総理は「喧嘩好き」でも「喧嘩上手」ではない。これも政治家の資質としては問題だ。国際社会とやりあう時、「喧嘩腰」では話にならない。相手を警戒させないで気づかれないように布石を打ち、気づいた時には有利な態勢を構築している。攻められたら最後の最後まで粘り通す。それが政治家に必要な資質というものである。

 ともかく自民党は解散を先送りして「奇跡」を待つ事になった。これで我々には楽しみが増えた。「つなぎ」でしかない閣僚が本格的な国会審議をしのげるか。代表質問で真面目に政策を語った小沢代表が大人に見え、総理はまるで子供だったが、党首討論でそれを逆転できるのか。そして何よりも資質に欠けた総理を与党がいつまで担ぐのか。早期解散を主張していた公明党もまた麻生総理に喧嘩を売られた。どこまで付き従う事になるのか。最大派閥が手を離せば一瞬にして転落する政権を自民党はどこまで続けさせるのか。見所は色々ある。

 メディアは無能な総理と散々批判したが、福田前総理には資質があったと私は評価している。参議院の過半数を野党に握られた状態で野党と戦うのは、状況が読めない愚かな政治家である。福田前総理は時勢が読めるから戦う事をしなかった。それで指導力のない総理と思われたが、幕末に幕藩体制に幕を引いた徳川慶喜そっくりである。慶喜は徳川幕府が続かないと分かっていた。だから大政奉還をして公武合体(大連立)を策した。しかし西郷隆盛の謀略で鳥羽伏見の戦いが始まると、総大将にも関わらず江戸に逃げ帰って上野寛永寺に篭りそのまま引退した。まるで大連立と政権放棄に良く似ている。当時は慶喜に人気はなかったが、歴史はきちんと評価している。

 幕府の大勢は慶喜の大政奉還に反対した。主戦論を展開した中に陸軍奉行の小栗上野介がいる。由緒正しき家柄の生まれで最後まで幕府を守ろうとした。下級武士上がりで大政奉還派の勝海舟とは激しく対立した。小栗はフランスと手を組み官軍と戦おうとした。官軍の後ろにはイギリスがいる。小栗の言うとおりにすればイギリスとフランスが日本で代理戦争を繰り広げる事になった。慶喜も海舟もそれに反対した。上野介は最後は慶喜に罷免されたが、福田前総理はそれとは逆に「そんなに戦いたいのなら、やってごらん」と麻生氏に政権を明け渡した。そんな福田氏は民主党に喧嘩を仕掛ける麻生氏を、「客観的に自分を見る事の出来ない男だ」と思っているかもしれない。

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
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国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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