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2008年8月31日

政治家の切り崩し方

 去年の参議院選挙以来与党が最も力を入れてきたはずの民主党分断策が初めて形となって表に出た。民主党から3人の参議院議員が離党して、2人の自民党系無所属議員と合流し、新党を立ち上げようとした。その後1人が離党を撤回したので、参議院民主党は2人減る事になった。民主党分裂は予想通りで驚くには当たらないが、注目すべきはその規模とタイミングである。与党は「これは第一弾だ」と言っているので続きがあるのだろうが、それにしても「凄み」を感じさせない「第一弾」であった。

 去年の参議院選挙で野党に権力の半分を奪われた与党は、野党の言い分を取り入れて与野党協力の政権運営を行うか、あるいは権力の半分を奪い返すために野党と対立して切り崩し工作を行うか、この二つしか道はなかった。解散・総選挙で権力を奪い返す方法もあるが、参議院には解散がないため、与党は選挙で権力を奪い返す事が出来ない。従って切り崩し工作で参議院の野党陣営から17議席を引き剥がす事が唯一権力回復の道である。

 与党が衆議院で三分の二以上の議席を持っていなければ、与党は再議決が出来ないから、野党とは対立せずに協力して政権運営に当たるしかなかった。ところが幸か不幸か郵政選挙で与党は三分の二を越える議席を持っていた。与党は再議決を使って野党と対決する路線を選択した。これが「ねじれ」政治の始まりである。それは同時に水面下で野党切り崩し工作に取り掛かる事を意味した。

 政治家の切り崩しに使われるのは通常「買収」と「脅し」である。大義を説いて考えを変えさせた例など私は知らない。政治家にとっての死活問題は選挙である。落選は「死」を意味するから、選挙での当選を確約する事が政治家には最も魅力的だ。そのためには「選挙資金の面倒を見る」という「買収」か、「選挙区に強力な対立候補を立てるぞ」という「脅し」か、或いは「言う事を聞けばスキャンダルは出さない」と耳元で囁く事が最も効果的である。

 去年の参議院選挙後、私は「与党が最も力を入れているのは野党議員一人一人のスキャンダル情報の収集である。それも本人だけでなく家族、親戚にまで範囲を広げてスキャンダルを探しているはずだ」と言ってきた。それがこれまで私の見てきた権力の常套手段だからである。スキャンダル情報を集める目的は暴露するためではない。暴露しないからこそスキャンダルは価値がある。スキャンダル情報を握っていれば誰にも知られずに政治家を動かすことが出来るのである。

 1986年に衆参ダブル選挙を仕掛けた中曽根総理の党内切り崩し工作は見事だった。中曽根派以外の全派閥がダブル選挙に反対する中、中曽根総理は「脅し」と「買収」を使い分けて派閥切り崩しを行った。まずは最大派閥の竹下派をターゲットにした。竹下大蔵大臣のスキャンダルが写真週刊誌に報じられて竹下氏の姿勢が一変する。竹下氏がダブル選挙に同意するとスキャンダル報道も下火になった。次いで田中角栄氏が病に倒れて後ろ盾を失った二階堂グループが切り崩された。「選挙資金の面倒を見る」というのが口説きの決め手だった。中曽根総理の意を受けて竹下氏が盟友関係にある安倍晋太郎氏を説得し、金丸幹事長も賛成に転じて反対は宮沢派だけになった。中曽根派だけの賛成が半年も経たないうちに宮沢派だけの反対に変わった。こうして衆参ダブル選挙が実現した。

 参議院選挙惨敗後の自民党は86年のダブル選挙とは比べものにならないほど逼迫した状況にある。与野党協調路線をとらずに野党切り崩しの道を選んだ以上、党を挙げて切り崩し工作に全力を傾けるだろうと、その手腕に注目していた。その結果が今回の「第一弾」である。いささか拍子抜けした。離党届を出した渡辺秀央、大江康弘の両参議院議員はかねてから反民主党的行動を取っており、いわば離党予備軍の主役である。この2人以外の議員が離党して、2人が離党していなかったら今回の離党劇には「凄み」があった。後に続く人間がまだ居る事を確信させたからである。しかし主役が先に飛び出したのでは余りに軽い。「他に居るの?」と思わせてしまう。

 次にタイミングである。小沢代表の代表選出馬表明にぶつけたと言われるが、それならただの嫌がらせである。打撃にならない。臨時国会が始まれば海上給油法案など民主党分断につながる格好の材料がいくつもあり、離党がもっとインパクトを持つタイミングがあったはずである。しかしそれよりも前に仕掛けをした。仕掛けが早すぎたのか、それとも「買収」と「脅し」が効かなかったのか、姫井由美子議員は1日で離党を撤回した。

 これまで与党幹部が口にしてきた民主党分断の最大のタイミングは衆議院選挙で民主党が過半数を取れなかった時である。小沢代表の責任論を浮上させ、執行部に不満を持つ勢力が批判の声を上げた時、政界再編を仕掛けるというのがシナリオだった。それまでにスキャンダルも含めて切り崩しの材料を溜め込んでいるのだろうと私は見ていた。今回の「第一弾」はその時の「受け皿」作りを狙ったのかもしれない。しかしこれでは逆に警戒され封じ込められてしまう可能性がある。

 次の衆議院選挙で与党が過半数を獲得し、民主党の政権交代が実現出来なかったとしても、与党が三分の二を越える事は難しい。再議決はなくなる。参議院で否決されれば全ての法案は通らない。圧倒的に野党に有利な国会になる。そうなれば参議院の野党を切り崩す事は今より難しくなる。政権交代が出来なかったことで小沢代表の責任論が浮上したとしても、民主党が衆議院で倍以上の議席数を獲得する事は確実だ。それが民主党分裂の引き金になると考えるのは相当に無理がある。しかし与党の考えはそうではない。何か秘策でもあるのだろうか。

 何があるかと考えると、やはり北朝鮮から拉致被害者を帰国させる事しか考えられない。前回のコラムでその事を書いた後、福田総理が拉致被害者の帰国を第一目標に外務省幹部にはっぱをかけているという報道があった。日本の自主的な外交努力で拉致被害者が帰国できればそれは本当に喜ばしい。しかしそのためにアメリカにお願いをし、アメリカにすがりつく事になると、また別の問題が派生する。金融不安にあえぐアメリカ経済の尻拭いをさせられかねない。それともそれでもやろうというのだろうか。


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2008年8月22日

奇妙な夏がまた来た

 去年の8月は奇妙な政治が進行していた。参議院選挙で惨敗した後だけに緊張感を持って政権運営に当たるべき総理が、自分の思い通りに臨時国会の召集が出来ず、何の指導力も見せないまま沈黙を守っていた。「改造人事に時間がかかるのは身体検査があるから」などと馬鹿げた解説が横行し、小池百合子防衛大臣(当時)だけがアメリカでこれ見よがしの派手なパフォーマンスを繰り広げていた。

 その事を「弛緩国家」と題するコラムに書いた。尋常でない緩んだ政治が日本を覆っていると思ったからである。その中で、与党には①臨時国会の召集を意図的に遅らせ、②インド洋での海上給油活動を期限切れにし、③海上自衛隊を引き上げさせて、④その責任を民主党に押し付け、⑤そのことで民主党を分断する狙いがある、との見方を書いた。与党が参議院選挙惨敗から失地回復するには民主党分断以外に方法がないからである。

 海上自衛隊が引き上げる際、安倍総理は国際社会に対する責任が果たせなかった事を理由に辞任表明し、そのことで民主党の小沢代表にも責任論が浮上するシナリオが練られていると私は見ていた。小沢代表のクビを取る為に安倍総理が犠牲になるシナリオである。ところがそうなる前に安倍総理が政権を投げ出し、シナリオは不発に終った。安倍総理には受け入れ難いシナリオだったのだろう。シナリオに対する反発がみんなを困らせる代表質問直前の辞任になった。

 今年も8月が巡ってきた。私の目には再び奇妙な政治が映っている。去年、安倍総理は8月末に臨時国会を召集しようとした。海上給油を継続するためには再議決の時間を織り込む必要があったからである。これに反対したのは二階国対委員長ら与党である。召集は9月10日にずれ込んだ。これで海上自衛隊のインド洋からの引き上げが決定的になった。海上自衛隊は11月にいったん引き上げ、国会で法案が再議決された今年1月に再びインド洋に派遣された。従って今回の期限切れは来年の1月中旬である。

 今回は時間的余裕があるというのに与党は8月末に臨時国会を召集しようとした。再議決を前提とした召集案である。与党が衆議院の数の力で国会を押し切ろうとすれば、野党は参議院の数の力で押し返すしかない。国会は対決一色になり、民主党が準備してきた自公分断策が飛び出す事になる。参議院で矢野絢也元公明党委員長や池田大作創価学会名誉会長の国会喚問が実現する可能性が出てきた。これに公明党が反応した。

 公明党は再議決を前提とした海上給油法案の成立に難色を示し、臨時国会の会期をなるべく短くして国民生活に関わる国会にするよう求めた。もとより公明党が賛成しなければ再議決は成立しない。この時点で海上給油法案の継続は事実上不可能となった。民主党とも折り合える国際貢献策を考えざるを得なくなった。

 前の臨時国会で海上給油に代わる国際貢献策として民主党が主張したのは、アフガニスタンにおける国連主導の治安維持活動への協力である。これに対して与党は「海上給油の方がリスクが少ない」として反対した。私は日本の自衛隊を「軍隊」だと思っているので、リスクの多少を理由にする考え方に怒りを感じた。警察官や消防士もそうだが、兵士は生命の危険を顧みずに職務を遂行する職業である。リスクのない仕事を求める軍隊は恥ずべきで国際的にも評価されるはずがない。

 そもそも日本が行う海上給油は日本国民の税金でアメリカから買った油を無償で外国に提供する一種の経済支援である。これは冷戦後のアメリカの対日戦略に基づいている。かつての日本はアメリカに自国の安全を委ねることで、より一層の経済成長に邁進する事が出来た。日米同盟が死活的に必要であった冷戦時代にはそれが可能であった。日本は軍事に金をかけず、せっせと金を貯め込んだ。しかし冷戦後は状況が一変する。アメリカは冷戦の間に日本が貯め込んだ金を吐き出させる戦略に転換した。

 巨額の兵器購入や米軍再編に関わる資金協力など日米同盟が財政支出を増大させる一方で、郵政民営化に見られるように世界屈指の金融資産を狙う動きも激しくなった。今や日本は戦後に蓄積した資産を世界から狙われる最大のターゲットとなっている。かつて日本は湾岸戦争に1兆円を越える資金提供をして馬鹿にされたが、実は海上給油もそれと変わらない。金だけの支援なのである。当時のアメリカは日本を大国になったと錯覚したから金だけの貢献を馬鹿にしたが、今では金を引き出す対象だと見下しているので海上給油は評価される。

 福田総理は去年10月の大連立騒ぎで一時は「民主党の安保政策を丸呑みする」事を決断した。民主党とは接点を持てるはずなのである。ところがここに来て海上給油法案の継続にこだわりを見せ始めた。そのせいか臨時国会の日程も決まらない状態が続いている。これが私の目には奇妙な政治と映っている。公明党の要求に耳を貸さず、民主党との対決路線をも辞さない理由とは何なのか。それほどのリスクを犯しても余りある何かが用意されているということだ。

 最近の政治の動きを見て想像出来るのは、北朝鮮の拉致再調査の動きと連動している可能性である。この問題では今年秋までに再調査を終了させることで日朝の実務者同士が合意した。秋というのが何時のことかは分からないが、再調査の結果、何人かの拉致被害者が帰国すれば、支持率が低迷する福田政権にとって逆転満塁ホームランになる事は間違いない。北朝鮮との国交正常化交渉にも道が開ける事になる。北朝鮮の金正日総書記にそれを決断させるには、アメリカの全面的協力が不可欠だ。そのためにアメリカは北朝鮮のテロ指定国家解除をいったんは見送り、北朝鮮に圧力をかけていると見てもおかしくない。それならば福田政権はアメリカが求める海上給油を何としても継続するしかない。

 最近、山崎拓前副総裁が北京の北朝鮮大使館を訪れて非公式会談を行ったり、シェーファー駐日大使と麻生幹事長が会談している様子を見ていると私にはそのような想像が湧いてくるのである。しかしそれらは全て日本独自の外交というより、金正日総書記やブッシュ大統領など外国に全面依存する以外には実現されない。拉致問題がいくらかでも解決するのは喜ばしいが、私の想像の通りだと日本の政権が外国に頭が上がらなくなるという深刻な問題もまた起こるのである。
 私の想像が真夏の夜の夢と消えるのか、それとも現実となって現れるのか、もうすぐ分かる事になる。

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2008年8月17日

「居酒屋タクシー」の裏

 7月上旬に「小悪に躍るメディアのお粗末」というコラムを書いた。食品をめぐる不祥事が最近続々摘発されるようになった背景には、福田政権による消費者庁設立のための地ならしの狙いがあると思えるのに、メディアは摘発を行っている権力側の意図には目を瞑り、ひたすら小悪だけを非難する「お粗末さ」を指摘したものである。

 その中で当時メディアが「税金の無駄遣い」として鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てた「居酒屋タクシー」についても、「何を目的にこの問題が顕在化し、問題解決の背後で何が動いたのかは未だに分からない」と書いて、これがリークされた背景を考えずに騒いでいるメディアの愚かさを指摘した。

 「居酒屋タクシー」をリークしたのは誰か。実態を知っているのは霞が関とタクシー業界の内部である。しかしタクシー業界がリークをする筈がない。実態を暴露しても何の得もないからだ。情報をリークされたのが民主党の長妻昭議員である事を考えると霞が関の可能性が高いと思われた。霞が関が何のために自らの恥部をさらすのかと疑問を持つかもしれないが、私に言わせればこれは官僚機構が揺らぐような重大問題ではない。

 やっていたのは権力を握る高級官僚ではなく、郊外の自宅から通って来るノンキャリアたちである。タクシーの運転手は遠距離を乗ってくれる上得意の客だからこそ普通の客にはやらないサービスをした。タクシーの運転手がサービスの見返りに役所の職務に関わる便宜供与を求めた訳ではない。だからたいした問題ではなかった。

 何が問題かと言えば、役所には税金で購入されたタクシー券があり、仕事があろうがなかろうがそれで帰宅するのが常態化していた事である。「勤勉」とは名ばかりのダラダラと長時間労働を続ける日本のホワイトカラーの労働生産性は世界でも低い事で有名だ。その典型が親方日の丸の公務員労働者である。それが必要もない長時間労働をした挙句に税金で購入されたタクシー券で帰宅していた。

 深夜残業をやめるか、公費でのタクシー帰宅を認めなければ問題は解決する。税金の無駄遣いではあっても官僚機構の根幹に触れる話ではない。それを何でこんなにと思うくらいにメディアは大騒ぎした。民主党の指摘に対して霞が関は抵抗もせずにさっさと事実を認めて処分を行い、問題はすぐ一件落着した。その経緯を見てますます情報提供者は霞が関内部だと確信した。

 民主党の議員の中には「衆参ねじれが起きたため、霞が関も情報を隠蔽できなくなり、情報が公開されるようになった」と言って、「ねじれ」の効果を強調する者もいた。何も知らない国民にそう思わせて、民主党への支持を増やそうとしたのだろうが、「ねじれ」が起きたぐらいで情報を表に出すほど、この国の官僚機構は柔ではない。

 政権を握っている自民党に対しても、最高権力者である総理大臣に対しても、自分たちに都合が悪ければ情報を隠蔽して出さないのが日本の官僚機構である。それが「ねじれ」ぐらいで野党の民主党に情報を提供するはずがない。提供する時には何らかの意図が隠されているはずで、それを読み解かないと「足元をすくわれかねない」と前のコラムでは書いた。

 何の目的で霞が関の内部から「居酒屋タクシー」の情報がリークされたのか。そう思っていると雑誌「選択」の8月号にその理由を明らかにする記事が掲載された。「NTT再統合の野望に黄色信号」と題する経済記事である。要点をかいつまむと、独占的地位の維持を狙うNTTが旧郵政省出身の総務審議官と組んで光ファイバー網の開放を先送りしようとしている。これに対して経済産業省や公正取引委員会、さらには自治省と民主党などが反対の包囲網を敷いている。そうした中で6月下旬、総務審議官の次官への昇格が見送られた。この人物は過去にNTTからタクシーチケットの提供を受けて処分されていた。6月に「居酒屋タクシー」問題が勃発したことが「次官昇格人事を潰す口実になった」という内容である。

 これは中々説得力がある。この総務審議官は私も良く知っているが、放送業界と通信業界の既得権益を擁護する立場の官僚である。放送業界と通信業界の既得権益とはNHKとNTTの事で、この二つの組織を守る事が旧郵政省にとっては必須の職務であった。そして日本ではこれまで権力を握ろうとする者は必ずこの二つの組織を支配した。

 かつては田中角栄氏がこの二つを支配した。角栄氏が了承しなければNHK会長は決まらず、NTTの資材調達費の1%は決まって政界へのリベートとなった。その田中角栄氏から権力を奪い取った中曽根康弘、金丸信の両氏もこの二つの組織を支配した。最近では野中広務氏がこの二つに君臨した。NTT社長人事、NHK会長人事の裏には常に政治家を巻き込む戦いがあり、族議員はNTTとNHKの利益のために駆り出されている。

 そうした事の見返りにNTTとNHKも政界・官界工作に力を入れている。族議員の海外出張に同行して面倒を見るのは勿論、国内出張にも人を貼り付けてお世話をする。旧郵政省出身の官僚とも密接な関係を築くようにするのだが、それが今回は次官昇格を見送らせる原因となった。

 野中広務氏が議員辞職して以来、この二つの組織に君臨する議員の姿は見えなくなった。いたとしてもかつての力はないようだ。総務審議官の次官昇格が見送られた人事がそれを示している。もしかつてのような権力者が君臨していたら、既得権益を守る総務審議官の次官昇格は間違いがなかっただろう。それならば「居酒屋タクシー」もリークされる必要がなかった。情報化時代と言われながら、日本のメディアの世界が先進諸国と異なるのはNTTとNHKを巡るこの異様な構造があるためだが、その構造に変化が現れ始めている事を「居酒屋タクシー」は教えてくれている。

2008年8月 7日

臨時国会と民主党代表選挙

これからの政治を読む最大の鍵は臨時国会の召集時期だと以前から言ってきた。8月末召集というのは海上給油法案の再議決を前提としたいわば「けんか腰」の国会運営である。それが本当に出来るのかと私は疑問を呈してきた。国際貢献が必要だからと言って8月末召集を強行すれば、通常国会で小沢民主党代表が打った「総理問責決議」の布石が効いてくる。野党はこれを盾に冒頭から福田総理の所信表明をボイコットし、国会は前代未聞の与野党全面対決に突入する。

次に予想されるのは民主党が去年以来準備してきた自公分断策である。どこかで審議に復帰した野党は矢野絢也元公明党委員長、福本潤一元参議院議員、そして池田大作創価学会名誉会長らの国会喚問を要求する。公明党としては海上給油法案の延長の見返りに国会喚問が実現されてはたまらない。その前に国会を解散するよう福田総理にねじ込む事になる。もとより公明党が反対すれば海上給油法案の再議決は不可能になるから、海上給油法案を臨時国会最大のテーマに掲げた福田政権は何も実現できずに野垂れ死ぬか、破れかぶれの解散に突入せざるを得なくなる。与党にとっては最悪のシナリオであった。

 どうやら与党は8月末招集を断念した。とは言っても公明党が主張した9月末ではなく9月5日召集を考えている。公明党の言うがままでは自民党内に不満がくすぶると判断したのだろう。しかし実際には9月末にならないと国会は始まらない。なぜなら民主党の代表選挙が9月8日から21日まで行われ国会は自然休会に入る。つまり民主党代表選挙を織り込んで公明党の主張よりも早めに召集する事にした。

 もはや再議決を前提とした海上給油法案は臨時国会最大のテーマにならない。与党は民主党とも折り合える国際貢献策を考えるしかない。それを模索しながら景気対策や国民の暮らしに関わるテーマを取り上げざるを得ない。福田総理にすれば消費者庁設置法案を何としても成立させたいところだろう。一方で与党が再議決という「けんか腰」をやめた事で、野党は「総理問責」を棚上げし国会審議に応ずる事が出来る。こちらも国民の暮らしを巡る論戦に力を入れる事になる。

 「総理問責」をただのパフォーマンスと見た人が大勢いた。しかし私は再議決をなくす布石として立派に役目を果たしたと見ている。まだ通常国会が終らぬうちから臨時国会召集を8月末と表明した与党に対し、野党が何の手も打たないようでは間が抜けていた。総理問責決議はその事に対応して打たれた布石である。ところが問責決議を「解散総選挙に追い込むための伝家の宝刀」などとありもしないことを思い込んだ政治の素人がいた。その人たちは「時期外れのただのパフォーマンス」と批判した。
 
 優れた政治というのは誰にも気づかれないうちに目的を達する事である。国民が大論争を繰り広げないと物事が決まらないような政治はレベルが低い。国民には不幸な政治である。それは古今東西、民主主義であろうがなかろうが言われてきた政治の本質だ。ところが最近の日本では小泉政治以来、敵と味方を峻別し、大騒ぎを繰り返す事が民主主義であるかのような勘違いが続いてきた。それは民主主義でも何でもない。政治が幼稚化しただけの話である。アメリカでもイギリスでも政治家に最も求められるのは政策を実現するスキル(技術)であり、政策立案能力や論争術は二の次だ。そして静かに成し遂げた政治家ほど高く評価される。目に見えない布石の配置、それこそが政治のスキルなのである。

 ところで与党の9月5日召集案には二つのシナリオがある。一つは民主党代表選挙が無投票の場合。5日は開会式だけにして総理の所信表明は9日以降となる。代表選挙が行われた場合には、総理の所信表明を22日以降にするというものだ。つまり無投票になれば8月末召集に近い国会日程になる。閉幕日が分からないので何とも言えないが、例年に比べると長めの臨時国会の日程である。長めの国会は与党と野党のどちらに有利か。野党に有利は言うまでもない。

 つまり民主党は代表選挙を無投票にした方が、国会で十分に自らの主張をアピールできる事になる。与党のシナリオは民主党に対して「代表選挙を無投票にした方が長い国会日程を確保出来ますよ」と言っているようなものだ。それとも与党は民主党代表選挙が無投票にはならないと確信して、このようなシナリオを作ったのだろうか。

 8月6日に日本記者クラブで講演した民主党の前原誠司副代表は、自らは代表戦に出馬しないとしながら「代表選挙は必ず行われると確信している」と述べた。代表選挙が必要な理由は、「党のマニフェストを常にブラッシュアップしなければならないからだ」と言った。小沢代表が参議院選挙で掲げたマニフェストに対して、対立候補が異なるマニフェストを掲げて代表選挙を戦い、そのことでマニフェストが「ブラッシュアップ」されると言うのである。

 しかし民主党が参議院選挙で勝利したことはマニフェストが国民から支持されたことを意味する。仮に代表選挙で異なるマニフェストを掲げた候補者が勝利して、民主党のマニフェストが変更されてしまったら、参議院選挙の民意を民主党が無視する事にならないか。「ブラッシュアップ」は党内で日常的にやるものだ。そうして作成した新たなマニフェストを次の選挙で国民に示して判定を受ける。国政選挙で負けたなら代表選挙でマニフェストを競わせる必要はある。しかし国民に支持されたマニフェストを代表選挙の結果で変えて良いものか。マニフェスト選挙の理解が私とは異なる。

 それより前、7月30日に日本記者クラブで講演した岡田克也副代表は個人的見解として、野党の党首選挙は衆議院選挙と連動させるべきだと発言した。権力を握る与党の党首は定期的に党首選挙をやる必要があるが、政権を狙う野党の党首は衆議院選挙で政権を取れなければ交代する。それまでは党首選挙をやる必要はないとの考えである。これは筋が通っている。であるならば参議院選挙に勝利した小沢代表は次の衆議院選挙まで党首選挙はしなくて良い事になる。

 その上で岡田氏は「マスコミの宣伝効果を考えれば代表選挙には数十億円分の価値がある。宣伝のためにはやった方が良い」と言った。これは分からなくもない。どれだけマスコミが飛びつく魅力的な候補者が出てくるか、それがポイントになる。

 そうなると民主党の選択は、代表選挙をやる宣伝効果と、国会審議でアピールする事のどちらが効果的かという話だ。魅力ある候補者同士の代表選挙にマスコミを乗せられるか、それとも早くから国会で与党を相手に丁々発止の論戦を挑んで与党を追い込むか。そのどちらが党に有利かを判断する。

 少なくも「代表選挙をやらないと民主的な政党とは思われない」とか、「開かれた党内議論が必要だ」などという幼稚な議論は早く卒業した方が良い。そんな事を言う政党は先進民主主義国にはない。あくまでもどうする事が選挙で有利になるかを冷徹に計算し、党利党略を極めることこそ政権交代を繰り返している先進民主義国の政党である。

2008年8月 2日

福田と麻生の共通の色

 今回の内閣改造人事のポイントは麻生幹事長起用の一点に尽きる。これは「福田おろし」の主役になる役者を芝居が始まる前に引き抜いてしまったようなものだ。「福田おろし」を仕掛ける側は当面芝居を打てなくなった。福田総理が麻生氏をどのように口説いたかは知らないが、「近く貴方に総理の座を譲る」と言ったとしてもおかしくない。

 麻生氏は2度目の幹事長就任である。1度目は1年前、参議院選挙惨敗後の安倍改造内閣の時であった。「自民党をぶっ壊すと言う人(小泉純一郎)を選んで、事実(自民党は)ぶっ壊れたので、立て直すのが使命だ」と就任の弁を語った。参議院選挙惨敗は小泉元総理に責任があると明言した訳で、それまで誰も言えなかった「反小泉」を自民党執行部が初めて公言した瞬間だった。

 麻生氏はさらに安倍総理に官房長官を与謝野馨氏にするよう進言した。「反小泉」の財政政策を推進するためである。安倍総理はそれを受け入れ、幹事長も官房長官も総裁派閥でない人間が就任する事になった。幹事長と官房長官はカネを握るポストである。どちらかは必ず総裁派閥が押さえるものだ。それを他派閥に明け渡した総理は極めて珍しい。そのせいでもないが安倍総理はすぐに政権を投げ出す事になった。麻生氏は「反小泉」政治を実現する機会を失った。

 今回再び麻生氏は幹事長就任の条件として与謝野氏の処遇を求めた。従って経済財政担当大臣に与謝野氏が就任した事は、麻生氏にすれば去年出来なかった事を実現する機会が再び巡ってきた事になる。そして大事な事は福田総理も同じ考えであることだ。それが麻生幹事長起用となり、また改造人事の随所に現れている。福田カラーは麻生氏と同様に「反小泉」の色なのだ。

 福田総理は自民党執行部と重要閣僚に郵政造反組、すなわち「反小泉」の人材を起用した。政調会長に保利耕輔氏、消費者行政担当大臣に野田聖子氏を充てたのである。小泉総理によって党を追放された人間を党の中枢と福田内閣の重点政策の担当大臣に起用した事は、福田カラーが明確に「反小泉」である事を示している。中でも保利耕輔氏の起用には小泉元総理とは対照的な「福田好み」がにじみ出ている。けたたましく「改革」を叫んでテレビでもてはやされる政治家は「嫌い」だが、地道にこつこつ実績を積み上げるタイプの寡黙な政治家を福田総理は「好き」なのだ。

 今回の人事で福田総理は小泉元総理周辺以外には満遍なく目配りを施した。敵を小泉周辺だけにして、他はなるべく敵を少なくしようとする人事配置である。山崎派や古賀派はポストの数で優遇し、津島派には総務会長を、小派閥は領袖クラスを入閣させた。隙間風が言われる公明党にも配慮を欠いてはいない。麻生幹事長には目障りだろうが公明党の味方である古賀選挙対策委員長を留任させた。ただ古賀派の入閣者数が多いのは裏側で古賀氏に譲歩させた何かがあるのかもしれない。選挙対策委員長の役割の何かか、或いは道路特定財源の一般財源化を巡る部分での取引があったとしてもおかしくない。

 民主党が選挙で特定郵便局長会の支援を受ける体制が出来つつあり、また郵政造反組が結集する平沼新党の動きなどを見ていると、自民党は「反小泉」にシフトせざるを得なくなってきているのだろう。今回の麻生幹事長の就任の弁を聞くと、権力から脱落しかかっている政権与党の危機感がにじみ出ている。

 そこでこれからどうなるかである。「政局が大好きな」小泉元総理は7月初めに「改造は難しい。失敗すれば総辞職せざるを得なくなる」と語ったが、麻生幹事長を取り込んだ事で改造の失敗による総辞職の可能性はなくなった。受け皿になる総裁候補がいないからである。まさか小池百合子では悪い冗談もいい加減にしろという話で党内はまとまらない。

 また小泉元総理は「改造をやれば福田総理が自分の手で解散するとみんなが思う」と言い、「解散は来年の春まで」と言ったが果たしてそうだろうか。
「今回の改造の目的は安心、安全の政策実現のためだ」と福田総理は言った。それならば政策が実現される前に解散するわけにはいかない。そして改造したばかりで大臣の首を切るというのも常識的ではない。できる限り内閣を延命させようと思うのが人情だ。少なくも臨時国会に提出する予定の消費者庁法案などの目途がつくまでは、解散はやらないし、総辞職もない。

 しかし福田総理は消費者庁法案の目途がつけば政権に恋々とせず、解散でも、総辞職でも踏み切る用意があるように見える。福田総理にとっては解散でも総辞職でも良い。改造をしたからと言って自分の手で解散をしなければならないと考えるタイプに思えない。解散は誰かに譲っても良い。

 そこから冒頭に書いた「禅譲」の可能性が出てくる。臨時国会で消費者庁法案を成立させれば、福田総理はそこで麻生幹事長に禅譲する。麻生氏は直ちに解散するかもしれないし、やりたい政策課題を実現するため任期切れの来年9月まで引っ張って解散する可能性もある。とにかく公明党は衆議院選挙が都議選の時期から離れれば良いわけだから、先に延ばす可能性もあると思うのである。

 いずれにしても麻生幹事長の誕生で、政局的には色々の可能性が考えられるようになった。ただ一つだけはっきりしているのは、今回の改造で自民党が「反小泉」の色に染まってきた事である。

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
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国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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