政局は<激しく>動いている
6月上旬に「政局はこれからが本番」と題するコラムを書いた。全てのメディアが通常国会での「与野党決戦」だけに注目し、「与野党決戦」が不発に終ると一斉に「政局は凪に入った」と言い出した事に異議を唱えたものだ。その中で私は政局につながる観測気球が次々に打ち上げられていることを紹介し、民主党が自公分断を画策していることや自公の間に隙間が出始めた事を指摘した。その後も政局を巡る観測気球は次々打ち上げられている。
6月17日、福田総理は通信社のインタビューに答える形で突然「消費税アップは決断の時期に来ている」と観測気球を打ち上げた。観測気球であるから当然その後は発言をトーンダウンさせる。
こうした観測気球の読み方には二通りある。一つはそれが本音である場合。権力者はその観測気球によって周囲の反応を確かめるのが目的だ。どこにどれだけの敵と味方がいるかを確認する。この場合は自民党内と公明党の反応を見るのが狙いだった。その後発言をトーンダウンさせれば事態は鎮静化するが、しかし権力者の口から一度出た言葉は尾を引く。実現への道は開かれた事になる。
もう一つは潰すために発言する場合。やりたくないが政治力学上誰かの面子を立てなければならない時に、発言をして面子を立て、しかし発言で反対が高まるようにして実現させない。今回の場合だと財務省や「財政再建派」の面子を立てて実際にはやらないことになるが、今回の福田発言はそちらでなく前者だと思う。
つまり福田総理は与党内の反応を見ると同時に自分は「財政再建派」である事を示し「上げ潮派」をけん制した。最近の「上げ潮派」中川秀直氏の動向に含むところがあったのだろう。その上で消費税に国民を注目させ「2,3年後の課題だ」と発言して政権を取った後の民主党への揺さぶりの布石とした。民主党の手で消費税アップをさせるよう追い込む布石である。おそらく福田総理は民主党政権の誕生を間もないと見ているのだろう。そこから全てを発想しているように思われる。よく「他人事みたいにものを言う」と言われるが、この人は流れを変える事に力を注ぐより、流れをそのまま受け入れるタイプの人物と私には見える。
消費者庁構想もそうだが、ここに来て福田総理は「独自カラー」を出そうとしている。その色はどうやら「脱小泉・脱安倍カラー」だ。「静かなる革命」という言葉を好んでいるようだが、要するに誰かさんのようにけたたましく「改革、改革」と叫ぶのは嫌いなのだ。誰かさんとは前の総理とその前の総理である。消費者庁構想についてはいずれコラムで取り上げるが、福田総理は「誰かさんと違って騒がなくとも私は霞が関改革をきちんとやる」と考えていて、だからこれだけは何としても任期中に目途をつける覚悟でいるように見える。前にも書いたが消費者庁実現の目途をつけるまでは解散も内閣総辞職もやらない。逆に言えば、目途さえつけばいつでも総辞職か解散に踏み切る。歴史に業績さえ刻み込めれば、負けが決まっている解散総選挙など他の人にやらせても良い。問題はいつの時点で目途がつくかだ。臨時国会なのか、通常国会まで引きずるのか。
7月2日、公明党の神崎前代表が「支持率が上がり福田首相の手で衆議院解散になるのか、支持率が低迷して次の首相で解散になるのかわからない」と発言した。公明党の前代表が公の場で総理の退陣に言及したのだから衝撃度はウルトラ級だ。自公の間の隙間が思ったより大きい事を伺わせた。同時にそれは任期満了まで解散を先延ばしにするなという意思表示にもとれる。秋の臨時国会で解散か、来年の通常国会冒頭での解散か。民主党小沢代表の予測がにわかに現実味を帯びてくる発言だ。
7月3日、神崎発言に小泉元総理が反応した。「あと半年というところまで引き延ばせば本当に追い込まれ解散になってしまう」と来年春までの解散に言及した。ここにきて小泉氏は任期満了選挙というかねてからの持論を覆した事になる。また「内閣改造をやれば解散を自分の手でやるだろうと思う人が多くなる」と述べて、総辞職ではなく解散を自らの手で行うよう促す一方で、「改造は難しい」とも述べて改造に失敗すれば総辞職しかないと断言した。さらに「私と逆の意見でも決断すれば支持しますと福田総理に伝えている」事を明らかにし、福田総理と小泉氏の考えには開きがある事を認めた。
同じ日、古賀誠選挙対策委員長が自民党本部で怒りを爆発させた。道路族と呼ばれて悪者扱いされている事に我慢ならぬという怒りである。これは福田総理に聞こえるように発言している。これから始まる一般財源化された道路財源の分捕りを前にした戦闘宣言だ。しかしこれを打ち破らないと福田総理は支持率も上がらなければ選挙を出来る状況にもならない。それは古賀氏も分かっている筈だから国民の見えない形でうまい知恵を出せという催促なのかもしれない。
7月4日、いよいよ森元総理が観測気球レースに参戦した。こちらもこれまで「内閣改造はない」と予測してきた事を一転させ、「7月後半からお盆休み前までに福田総理は改造に踏み切る」との見通しを述べた。と言うことは福田総理は総辞職をせずに自らの手で解散せよと言うことだ。そしてその時期を「来年6月か7月」と予想した。これは公明党が最も嫌がる東京都議会選挙と重なる時期である。こうなると森発言は神崎発言に対する反撃とも受け取れる。自公が改造と解散を巡って激しく綱引きをしている事になる。
洞爺湖サミットの後の7月は改造を巡っていよいよ政局が大揺れになる。8月8日の北京オリンピック開会式の前なのか後なのか、それとも改造はやらないのか。改造をやれば福田総理は総辞職ではなく自らの手で解散に踏み切る可能性が高まる。その時期は自らの業績を残せる目途がついた時だ。
そして国民がオリンピック競技に熱狂している頃には臨時国会の開会を巡って今度は与野党の綱引きが始まる。ここに来て初めて通常国会会期末に可決された問責決議の重みが増してくる。これを無視して与党が一方的に国会を召集し、福田総理の所信表明を行う事が出来るのか。行えば冒頭から与野党は戦争状態だ。福田総理は戦争を決断するのか、それとも野党の顔を立てる何らかの方策を用意するか。後期高齢者医療制度、海上給油法案、消費者庁設置法案、北朝鮮の核問題など様々な問題の帰趨と絡みながら、暑い夏はいよいよ政局本番の秋を迎えていくのである。
お知らせ:
7月の「銀座田中塾」は
7月7日または28日の午後6時半~8時半
テーマ:「日本の政治はどうなっているのか(2)」
中曽根康弘と小泉純一郎
参加ご希望の方は
電話03-5541-2070
Email:morim-p@gol.com
にお申し込みください。
参加費:2500円(飲み物・おつまみ付)
会場:東京都中央区新富1-16-8
新富町営和ビル5F
銀座モリギャラリー



コメント (2)
福田さんが、政権交代が想定に入っているとしたら、選挙後自民党は分裂すると見ているのだろうか?小泉新自民党とその他?道路族的な議員は相当落ちているだろうから…。
それから、一番肝心なのは、官僚がどの様に変わっていくか?今回は相当負けるし、公明も、その後離れていくだろうから、ある程度長期化する。その中で、残った官僚は、自民党べったりではなく、先を見て動くだろう…。共産党が出ずに、公明党がスタンスを変えつつあり、そこに役人が離れれば…。もし選挙が行われる時に、野党側が社会保障選挙のみで戦い、政権をとった場合、最優先目的の道筋が出来た時、例えば二年内に総括の選挙を行う事を公約にする…。
肝心な最初の選挙時期が、アメリカ型金融グローバリズムの崩壊が更に進んだ時期に、解散となれば上の様なシナリオが罷り通るかもしれない。社規保障とともに、スダグフレーション対策が急浮上するだろうけれど、その様な中では、いつもと違う思い切った事が出来る筈だ。
投稿者: おumaちゃん | 2008年7月 6日 14:51
既存メディアとは、全く違う切り口からの鋭い指摘。参考になります。氏の解説がもっと公の場で読めるようになることを期待いたします。
投稿者: 牛 | 2008年7月 8日 21:06