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2008年7月25日

政局は佳境に入ってきた

 5月末に「早すぎる観測気球」というコラムを書いた。通常国会が終らないうちから、自公の国対委員長が臨時国会の召集時期を「8月のお盆明け」と表明した事に対して疑問を呈した内容である。
 6月上旬には「政局はこれからが本番」と題するコラムを書いた。メディアが筆を揃えて「政局は凪に入った」と解説した事に対する反論である。その中で民主党の自公分断策と公明党の自民党離れの兆候を指摘し、この夏には自民、公明、民主の三党間に暗闘が始まるという見通しを書いた。
 7月上旬の「政局は<激しく>動いている」というコラムでは、福田総理の脱小泉路線への傾斜と自民党内の亀裂の拡大、さらに公明党と自民党との間で解散の時期を巡る綱引きが激しさを増していることを指摘し、解散が来年の通常国会冒頭までに行われる可能性が高まったと書いた。

 そして今、政局は秋を待たずにいよいよ佳境に入ってきている。
 7月中旬から自民党内に臨時国会の召集時期を8月ではなく9月下旬に先送りすべきだとの考えが急浮上してきたのである。

 そもそも臨時国会の召集時期を8月下旬に繰り上げる考えが尋常ではない。臨時国会は9月末か10月召集と言うのがこれまでの常識である。それを大幅に繰り上げる理由は海上給油法案を再議決しなければならないと考えるからである。再議決を織り込んでの召集というのは、与党は民主党との話し合いや妥協を一切考えず、数の力で押し切る事を意味する。野党に対していわば「喧嘩を売る」行為である。

 与党が8月下旬召集を強行すれば、民主党は「売られた喧嘩は買わざるを得ない」理屈になる。相手が力で押して来るのに力で対抗出来ないようでは政権を狙う野党とは言えない。野党は参議院過半数の力で押し返すしかない。そこで生きてくるのが通常国会で可決された総理問責である。メディアは問責決議をただのパフォーマンスと軽く見ているが全く分かっていない。問責決議は私が年の初めから主張してきたように福田政権を解散総選挙に追い込む武器にはならない。リクルート事件並みのスキャンダルでも起きない限り力を発揮できない事は初めから分かっている。しかし問責決議は国会対策上極めて有効な武器になりうるのである。

 与党が臨時国会を野党無視の形で召集すれば、野党は問責決議を盾に総理の所信表明を拒否する態度に出れば良い。福田総理はそれでも所信表明演説を行うか、これは見ものである。もし演説を強行すれば国会史上前代未聞の事が起こる。野党の居ない衆議院本会議場で総理は所信表明演説を行う。当然参議院本会議にも野党は出ない。江田参議院議長は本会議開会のベルを押す事が出来るのか。開会したとしても議場の大半が空席の中で総理は所信表明を行う事になる。がらんとした本会議場で演説する総理の姿が世界に発信され、福田総理が国会では信任されていない様を世界が見る事になる。

 折りしも民主党代表選が9月8日から21日まで行われる。仮に8月下旬に国会を召集してもその期間は休会せざるを得ない。去年の臨時国会では自民党が安倍前総理の政権投げ出しによって総裁選挙を行い、国会を休会にさせた。自民党は民主党に対して代表選挙の期間中の国会審議に応じろとは言えないのである。そう考えると8月下旬召集にはほとんどメリットがない事になる。

 9月召集を主張しているのは自民党の参議院である。野党に過半数を取られている参議院だけに「喧嘩を売る」ような国会対策が利益にならないことを肌身で感じているのだろう。自民党は既に党の中でも衆参「ねじれ」が起きている。

 すると公明党もこれに応じた。こちらも海上給油法案のために政治的な不利益を蒙るのは真っ平だという事のようだ。11月のアメリカ大統領選挙の結果、民主党のオバマ候補が勝利するような事があれば、アメリカの安全保障戦略そのものが変更される可能性がある。それなのに今から再議決を前提にしてどれほどの意味があるというのか。それよりもかねてから主張しているように、来年6、7月の東京都議選から離れたところでなるべく早く総選挙をして欲しい。公明党は自民党にはっきり要求を突きつけるようになった。民主党の自公分断策が効いて来た証拠かもしれない。国会を開いて矢野絢也元公明党委員長、福本潤一元参議院議員、池田大作創価学会名誉会長らの喚問が民主党から要求されてはたまらない。その考えが背景にあるのかもしれない。

 極めつけは自民党の古賀誠選挙対策委員長の23日の講演である。古賀氏は「海上給油法案には与党内にも温度差があり、国論も二分されている。成立から逆算して開会の時期を決めるのは慎重であるべきだ」と発言した。また解散・総選挙の時期については「年明けしか考えられない」と通常国会冒頭解散を示唆した。これに対して伊吹幹事長は直ちに翌24日、8月下旬召集の方針を改めて表明して見せた。自民党内の「ねじれ」は衆参にとどまらず、執行部内にも拡大されてきた。

 こうした声を集約して福田総理は月内にも臨時国会の召集時期を決断することになる。その決断が意味するものは単に国会の召集時期にとどまらない。それによって改造のあるなし、その時期、自らの手で解散・総選挙に着手するかどうか、するとすればその時期はいつかまで、今後の政局の重要課題全てに絡まる決断になる。
 「この秋は 雨か嵐か 知らねども 今日のつとめの 田草とるなり」という二宮尊徳の言葉を最近のメールマガジンに書いた福田総理だが、田草の取り方を間違えると、嵐が来なくとも飢饉に襲われる事になる。まさに今が正念場である。

2008年7月16日

日本の商人道

 前回のコラムで食品の産地偽装問題を書いていると、そう言えば日本の消費者は昔から騙され続けていたよなあという気になった。騙す商人が悪いのか騙される消費者が愚かなのか、私が知っている事例の一端を紹介する。

 1970年代後半にエズラ・ボーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書き、日本経済が世界から注目され始めた頃、海外旅行に行く日本人が日本製品を土産に買ってくるようになった。日本製が外国製品にひけを取らなくなり、外国に行っても優良商品として売られている事の誇らしさと、それが日本で買うより断然安かったからである。私の友人などセイコーの腕時計をいくつも買ってきて周りに配っていた。

 その頃インドネシアに住む日本人に会いに行った。空港の免税店で日本酒を買って持っていくと、「お前ダルマを買って来なくて良かった」と言われた。ダルマとはウイスキーの「サントリー・オールド」のあだ名である。当時の日本は酒と言えばウイスキー、ウイスキーと言えば「サントリー・オールド」が超人気であった。日本人男性への土産にはうってつけの1品である。それを何故「買って来なくて良かった」かというと、インドネシアの酒屋では空港の免税店より安い値段でダルマが売られていたからである。だから貰っても有難味がないと言う話だった。

 私はダルマが免税の値段よりも安く売られている事が解せなかった。サントリーウイスキーの盗品を売りさばく闇のルートでもない限り免税品より安くなる筈がない。ところがその後、アメリカ議会で日本製品のダンピング疑惑が追及される議論を見て初めてそのカラクリが分かった。

 アメリカ議会で非難されていたのはソニーの「ウォークマン」である。追及した議員は日本の秋葉原より安い値段で「ウォークマン」がニューヨークで売られている事実を挙げ、ダンピングだと批判していた。ソニーと言えば日本を代表する一流企業である。それが槍玉に挙げられていた。

 その議員は、ソニーは外国での売り上げシェアを拡大する為、利益を無視して安売りし、その損失分を日本国内で高く売ってカバーしていると言った。それによって外国メーカーはシェアを奪われ、倒産に追い込まれ、失業問題が発生している。安売りが可能になるのは日本人消費者が騙されて高い物を買わされているからだ。日本人消費者は騙されないで怒るべきだ。そうすれば失業を輸出することもなくなり、お互いにハッピーになれる。日本の消費者が目覚めてくれれば摩擦はなくなる。そんな調子の演説だった。

 しかしアメリカ議会の演説を伝える日本のメディアはなかった。日本のメーカーが外国で安売りをし、その分を国内でカバーしているなどと報道できるメディアが日本にあるはずがない。ソニーもサントリーもセイコーもメディアにとっては広告料を一杯払ってくれる大スポンサー様であった。

 それより少し前、日本は「エコノミック・アニマル」と世界から蔑まれていた。その頃世界を股にかけて商売していたのは商社である。当時日本の商社の猛烈な売り込みエピソードを聞かされた事がある。商社の商法は利幅を押さえてシェアを取るというやり方であった。利益を1%と低く押さえて海外と競争する。だから日本の商社は強いと教えられた。そのやり方が新興国日本の経済発展の秘訣だったのかもしれない。それをメーカーも真似するようになった。しかし経済大国になるにつれてそのやり方は世界から嫌われた。

 日本の消費者は世界のことなど知らないから、物価が高くても給料が上がれば平気だった。給料を上げることが国全体の目標で、その事に自民党も社会党も労働組合も経営者も力を入れた。しかし人件費が上がれば国際競争力は失われる。次第に日本経済は窮地に追い込まれるようになった。中小企業が真っ先に人件費コストに耐えられなくなり、人件費の安い海外に生産拠点を移すようになった。産業の空洞化が始まり消費者は自分で自分の首を絞める事になった。

 当時自民党幹事長だった金丸信氏と経済摩擦の話をした事がある。なぜこんなに日本は外国から嫌われるのか、日本が悪いのかそれとも競争に負けた外国が僻んでいるだけなのか、それを私が聞くと金丸氏は「昔から日本には客を騙して逃げる商売があったからなあ。悪いのは日本かも知らん」と答えた。金丸氏によると、日本には天井の抜けた蚊帳とか骨のない傘とかインチキ商品を売って歩く行商人が一杯いたという。その伝統がこの国には残っているというのだ。

 金丸氏は甲州ワインの山梨出身だが、その甲州ワインも値段の安いのはほとんどがスペインから輸入された安物ワインで、詰め替えされ甲州ワインと称して売られている事を教えてくれた。本物の甲州ワインがそんなに多く作れるわけがない。だからそれは公然の秘密なのだと言った。そういえば超人気のサントリー・オールドには「本物のウイスキーではない」という噂が常に纏わりついていた。あれだけ売れているのに熟成させていては生産が追いつくはずがないというのである。数種の原料を混ぜ合わせているだけではないかと言われたが、誰もそれを追及しようとはしなかった。

 真実を追究するよりも、サントリー・オールドを飲めるようになる事が一種のステイタス・シンボルであった日本社会の構造を壊さない事の方が大事だと思われていたように思う。それが高度成長期の日本の姿であった。

 高度成長が終って日本をバッシングする国はなくなった。誰も日本経済に脅威を感じなくなった。そうなって初めて日本の商法が国内で問題視されるようになった。悪質業者に騙される消費者を保護するために政府は役所を一つ作ろうとしている。しかし役所がないと日本の消費者を守る事は出来ないのだろうか。それはまた別の機会に考えてみる。

2008年7月11日

小悪に躍るメディアのお粗末

 食品の産地偽装が後を絶たない。牛肉、豚肉、野菜、そば、カニ、うなぎ、鶏肉など「またか」と思わせるほど業者の悪事が次々に暴かれ、メディアは大いに悲憤慷慨している。安い外国産を国内産と偽って大儲けするのは消費者を欺く行為だから断罪しなければならないが、しかしなぜ今偽装報道がこれほど連続するのかを私は考えている。

偽装の発覚は内部告発によると思われるから、ここにきて内部告発が集中的に続いていることになるのだが、本当にそういう事なのだろうか。権力者の手の内を見続けてきた私には、これは権力にとっても必要な事だからではないかと思ってしまうのである。

 例えば9日に書類送検された千葉県の鶏肉業者が偽装を行いそれが発覚したのは2年前の事である。それが今頃になってニュースになった。警察がここにきて初めて事件にしたからだ。こういう時期だからメディアは取材に殺到した。昔の話で取材に来られた鶏肉業者は驚いた。「儲けるためにやった。大なり小なりみんなやっている」と彼は正直に答えた。メディアは鶏肉業者を悪者に仕立てなければならないから、その平然としたもの言いに呆れてこの男を非難した。

 いつものことながら偽善者面のメディアの報道にはうんざりする。確かにこの男はとんでもないが、彼が平然としていたのはこれが2年前に終ったはずの事件だからだ。それよりもなぜ2年前の事件を今になって報道させられるのかをメディアは考える必要がある。そうした感度が今のメディアに欠落している。

 おそらく鶏肉業者の言う事は正しい。みんながやっているに違いない。これまでも摘発しようと思えば出来る事を誰もやらなかった。最近になってそれが暴かれるようになった。しかし全てが摘発されているわけではない。一罰百戒というやつで氷山の一角だけがやられる。やられた業者は「何で俺だけが」と運の悪さを嘆き、見逃された業者はしばらくの間だけ自重する。いずれほとぼりが冷めれば又元に戻る。それが私の見てきた日本という国の実像である。

 産地偽装だけでなく「赤福」や「船場吉兆」など老舗も含めての食を巡る不祥事は、何故か福田総理が登場してから次々摘発されるようになった。この事実は一体何を物語っているのだろうか。私には福田政権の消費者庁設立構想と無縁でないと思っている。その地ならしに思えて仕方がない。

 消費者はこんなに悪質業者の被害に遭っている。これを何とかしないと国民生活の安全は守れない。消費者庁の必要性を説得するためには国民の被害の事例を山ほど積み上げる必要がある。だから昔なら行政が口頭注意か改善命令で済ませていたものを事件化するようになった。福田総理が最も力を入れる政策に協力するため役所は競って悪質業者の摘発に乗り出した。こうして鶏肉業者のように2年前の事件までも蒸し返されて立件された。官僚政治らしいいつもながらのパターンである。

 私の見方はそうなのだが、メディアの見方はいつもその手前の小悪で終っている。権力が流す情報の裏側にある狙いを追及するところに至らない。前にも書いたが、かつてメディアは年金未納問題を鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てて政治家を糾弾した。誰にでもちょっとした間違いで年金未納はあり得ると思うのだが、「国民が真面目に納めているのに政治家が納めていないのはけしからん」と日本人らしい正論を振りかざした。それに野党も飛びついた。メディアと野党が騒いだお陰で国民の怒りは未納にばかりに向けられて、負担が増えて給付が減るという年金法改正案への怒りに火がつかなかった。

 年金未納者の情報をリークしていたのは誰なのか。権力が流している事に気がつかないメディアと野党のお粗末さで年金法改正案は無事成立した。国民は今頃になって年金制度のあり方に文句を言っているが、大事なときに小悪に怒って大きな悪を見逃したメディアを信じたのだから自業自得と言われても仕方がない。

 権力から見れば小悪を大問題のごとくに怒るメディアは御し易い。メディアに気づかれないように事を成し遂げるには、小悪を目の前にぶら下げてやれば、待ってましたとばかりに騒いでくれて国民の目をそちらに釘付けにしてくれる。

 最近も「居酒屋タクシー」でメディアは大騒ぎした。それが税金の無駄遣いである事はその通りで、決してかばう気はないのだが、ただ官僚政治が一筋縄でない事を見続けてきた私には何故この問題が顕在化したのか、誰からもたらされた情報なのかを考えないと足元をすくわれる危険があると本能的に思うのだ。

 「居酒屋タクシー」を利用していたのは都心に住む高級官僚ではない。郊外に住むノンキャリア組だろう。役所では仕事があろうがなかろうがタクシー券がある限りそれで帰宅するのが常態化していた。その点は問題である。そうでなくとも日本のホワイトカラーの生産性は低い事で有名だ。ダラダラと会議ばかりやるために生産性が低くなる。役所こそ率先して生産性向上に努めるべきで、基本的に深夜勤務はなくすべきである。

 すると国会審議の答弁書作成のために深夜勤務になるという指摘があった。それなら答弁書作成をやめさせる良い機会だった。およそ立法府の議論の下書きを行政府の官僚にやらせる事は三権分立の建前からしておかしい。立法府が行政府の手のひらに乗ってしまうのはそのためだ。野党も重箱の隅をつつくような質問をやめて政治家としての大臣の識見を問うようにすれば、官僚作成の答弁書など要らなくなる。役人に聞かなければ分からないテクニカルな問題は国会審議でなくとも質問主意書で十分に行える。

 ところが「居酒屋タクシー」問題はそのような方向の議論にはならなかった。役所は速やかに非を認めて直ちに大量処分を発表した。処分されたのはノンキャリアの職員たちである。これで「居酒屋タクシー」問題は一件落着し、メディアは官僚機構に一矢を報いた気分になった。しかし何を目的にこの問題が顕在化し、問題解決の背後で何が動いたのかは未だに分からない。結局は官僚機構の小さな是正に終っただけだ。とにかくこまごまとした小悪情報に目を奪われて悲憤慷慨ばかりしていると大きな悪を見逃す事をメディアは肝に銘ずる必要がある。

2008年7月 5日

政局は<激しく>動いている

6月上旬に「政局はこれからが本番」と題するコラムを書いた。全てのメディアが通常国会での「与野党決戦」だけに注目し、「与野党決戦」が不発に終ると一斉に「政局は凪に入った」と言い出した事に異議を唱えたものだ。その中で私は政局につながる観測気球が次々に打ち上げられていることを紹介し、民主党が自公分断を画策していることや自公の間に隙間が出始めた事を指摘した。その後も政局を巡る観測気球は次々打ち上げられている。

 6月17日、福田総理は通信社のインタビューに答える形で突然「消費税アップは決断の時期に来ている」と観測気球を打ち上げた。観測気球であるから当然その後は発言をトーンダウンさせる。

 こうした観測気球の読み方には二通りある。一つはそれが本音である場合。権力者はその観測気球によって周囲の反応を確かめるのが目的だ。どこにどれだけの敵と味方がいるかを確認する。この場合は自民党内と公明党の反応を見るのが狙いだった。その後発言をトーンダウンさせれば事態は鎮静化するが、しかし権力者の口から一度出た言葉は尾を引く。実現への道は開かれた事になる。

 もう一つは潰すために発言する場合。やりたくないが政治力学上誰かの面子を立てなければならない時に、発言をして面子を立て、しかし発言で反対が高まるようにして実現させない。今回の場合だと財務省や「財政再建派」の面子を立てて実際にはやらないことになるが、今回の福田発言はそちらでなく前者だと思う。

 つまり福田総理は与党内の反応を見ると同時に自分は「財政再建派」である事を示し「上げ潮派」をけん制した。最近の「上げ潮派」中川秀直氏の動向に含むところがあったのだろう。その上で消費税に国民を注目させ「2,3年後の課題だ」と発言して政権を取った後の民主党への揺さぶりの布石とした。民主党の手で消費税アップをさせるよう追い込む布石である。おそらく福田総理は民主党政権の誕生を間もないと見ているのだろう。そこから全てを発想しているように思われる。よく「他人事みたいにものを言う」と言われるが、この人は流れを変える事に力を注ぐより、流れをそのまま受け入れるタイプの人物と私には見える。

 消費者庁構想もそうだが、ここに来て福田総理は「独自カラー」を出そうとしている。その色はどうやら「脱小泉・脱安倍カラー」だ。「静かなる革命」という言葉を好んでいるようだが、要するに誰かさんのようにけたたましく「改革、改革」と叫ぶのは嫌いなのだ。誰かさんとは前の総理とその前の総理である。消費者庁構想についてはいずれコラムで取り上げるが、福田総理は「誰かさんと違って騒がなくとも私は霞が関改革をきちんとやる」と考えていて、だからこれだけは何としても任期中に目途をつける覚悟でいるように見える。前にも書いたが消費者庁実現の目途をつけるまでは解散も内閣総辞職もやらない。逆に言えば、目途さえつけばいつでも総辞職か解散に踏み切る。歴史に業績さえ刻み込めれば、負けが決まっている解散総選挙など他の人にやらせても良い。問題はいつの時点で目途がつくかだ。臨時国会なのか、通常国会まで引きずるのか。

 7月2日、公明党の神崎前代表が「支持率が上がり福田首相の手で衆議院解散になるのか、支持率が低迷して次の首相で解散になるのかわからない」と発言した。公明党の前代表が公の場で総理の退陣に言及したのだから衝撃度はウルトラ級だ。自公の間の隙間が思ったより大きい事を伺わせた。同時にそれは任期満了まで解散を先延ばしにするなという意思表示にもとれる。秋の臨時国会で解散か、来年の通常国会冒頭での解散か。民主党小沢代表の予測がにわかに現実味を帯びてくる発言だ。

 7月3日、神崎発言に小泉元総理が反応した。「あと半年というところまで引き延ばせば本当に追い込まれ解散になってしまう」と来年春までの解散に言及した。ここにきて小泉氏は任期満了選挙というかねてからの持論を覆した事になる。また「内閣改造をやれば解散を自分の手でやるだろうと思う人が多くなる」と述べて、総辞職ではなく解散を自らの手で行うよう促す一方で、「改造は難しい」とも述べて改造に失敗すれば総辞職しかないと断言した。さらに「私と逆の意見でも決断すれば支持しますと福田総理に伝えている」事を明らかにし、福田総理と小泉氏の考えには開きがある事を認めた。

 同じ日、古賀誠選挙対策委員長が自民党本部で怒りを爆発させた。道路族と呼ばれて悪者扱いされている事に我慢ならぬという怒りである。これは福田総理に聞こえるように発言している。これから始まる一般財源化された道路財源の分捕りを前にした戦闘宣言だ。しかしこれを打ち破らないと福田総理は支持率も上がらなければ選挙を出来る状況にもならない。それは古賀氏も分かっている筈だから国民の見えない形でうまい知恵を出せという催促なのかもしれない。

 7月4日、いよいよ森元総理が観測気球レースに参戦した。こちらもこれまで「内閣改造はない」と予測してきた事を一転させ、「7月後半からお盆休み前までに福田総理は改造に踏み切る」との見通しを述べた。と言うことは福田総理は総辞職をせずに自らの手で解散せよと言うことだ。そしてその時期を「来年6月か7月」と予想した。これは公明党が最も嫌がる東京都議会選挙と重なる時期である。こうなると森発言は神崎発言に対する反撃とも受け取れる。自公が改造と解散を巡って激しく綱引きをしている事になる。

 洞爺湖サミットの後の7月は改造を巡っていよいよ政局が大揺れになる。8月8日の北京オリンピック開会式の前なのか後なのか、それとも改造はやらないのか。改造をやれば福田総理は総辞職ではなく自らの手で解散に踏み切る可能性が高まる。その時期は自らの業績を残せる目途がついた時だ。

 そして国民がオリンピック競技に熱狂している頃には臨時国会の開会を巡って今度は与野党の綱引きが始まる。ここに来て初めて通常国会会期末に可決された問責決議の重みが増してくる。これを無視して与党が一方的に国会を召集し、福田総理の所信表明を行う事が出来るのか。行えば冒頭から与野党は戦争状態だ。福田総理は戦争を決断するのか、それとも野党の顔を立てる何らかの方策を用意するか。後期高齢者医療制度、海上給油法案、消費者庁設置法案、北朝鮮の核問題など様々な問題の帰趨と絡みながら、暑い夏はいよいよ政局本番の秋を迎えていくのである。

お知らせ:
7月の「銀座田中塾」は
7月7日または28日の午後6時半~8時半
テーマ:「日本の政治はどうなっているのか(2)」
     中曽根康弘と小泉純一郎
参加ご希望の方は
電話03-5541-2070
Email:morim-p@gol.com
にお申し込みください。
参加費:2500円(飲み物・おつまみ付)
会場:東京都中央区新富1-16-8
    新富町営和ビル5F
    銀座モリギャラリー

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
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国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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