政局は佳境に入ってきた
5月末に「早すぎる観測気球」というコラムを書いた。通常国会が終らないうちから、自公の国対委員長が臨時国会の召集時期を「8月のお盆明け」と表明した事に対して疑問を呈した内容である。
6月上旬には「政局はこれからが本番」と題するコラムを書いた。メディアが筆を揃えて「政局は凪に入った」と解説した事に対する反論である。その中で民主党の自公分断策と公明党の自民党離れの兆候を指摘し、この夏には自民、公明、民主の三党間に暗闘が始まるという見通しを書いた。
7月上旬の「政局は<激しく>動いている」というコラムでは、福田総理の脱小泉路線への傾斜と自民党内の亀裂の拡大、さらに公明党と自民党との間で解散の時期を巡る綱引きが激しさを増していることを指摘し、解散が来年の通常国会冒頭までに行われる可能性が高まったと書いた。
そして今、政局は秋を待たずにいよいよ佳境に入ってきている。
7月中旬から自民党内に臨時国会の召集時期を8月ではなく9月下旬に先送りすべきだとの考えが急浮上してきたのである。
そもそも臨時国会の召集時期を8月下旬に繰り上げる考えが尋常ではない。臨時国会は9月末か10月召集と言うのがこれまでの常識である。それを大幅に繰り上げる理由は海上給油法案を再議決しなければならないと考えるからである。再議決を織り込んでの召集というのは、与党は民主党との話し合いや妥協を一切考えず、数の力で押し切る事を意味する。野党に対していわば「喧嘩を売る」行為である。
与党が8月下旬召集を強行すれば、民主党は「売られた喧嘩は買わざるを得ない」理屈になる。相手が力で押して来るのに力で対抗出来ないようでは政権を狙う野党とは言えない。野党は参議院過半数の力で押し返すしかない。そこで生きてくるのが通常国会で可決された総理問責である。メディアは問責決議をただのパフォーマンスと軽く見ているが全く分かっていない。問責決議は私が年の初めから主張してきたように福田政権を解散総選挙に追い込む武器にはならない。リクルート事件並みのスキャンダルでも起きない限り力を発揮できない事は初めから分かっている。しかし問責決議は国会対策上極めて有効な武器になりうるのである。
与党が臨時国会を野党無視の形で召集すれば、野党は問責決議を盾に総理の所信表明を拒否する態度に出れば良い。福田総理はそれでも所信表明演説を行うか、これは見ものである。もし演説を強行すれば国会史上前代未聞の事が起こる。野党の居ない衆議院本会議場で総理は所信表明演説を行う。当然参議院本会議にも野党は出ない。江田参議院議長は本会議開会のベルを押す事が出来るのか。開会したとしても議場の大半が空席の中で総理は所信表明を行う事になる。がらんとした本会議場で演説する総理の姿が世界に発信され、福田総理が国会では信任されていない様を世界が見る事になる。
折りしも民主党代表選が9月8日から21日まで行われる。仮に8月下旬に国会を召集してもその期間は休会せざるを得ない。去年の臨時国会では自民党が安倍前総理の政権投げ出しによって総裁選挙を行い、国会を休会にさせた。自民党は民主党に対して代表選挙の期間中の国会審議に応じろとは言えないのである。そう考えると8月下旬召集にはほとんどメリットがない事になる。
9月召集を主張しているのは自民党の参議院である。野党に過半数を取られている参議院だけに「喧嘩を売る」ような国会対策が利益にならないことを肌身で感じているのだろう。自民党は既に党の中でも衆参「ねじれ」が起きている。
すると公明党もこれに応じた。こちらも海上給油法案のために政治的な不利益を蒙るのは真っ平だという事のようだ。11月のアメリカ大統領選挙の結果、民主党のオバマ候補が勝利するような事があれば、アメリカの安全保障戦略そのものが変更される可能性がある。それなのに今から再議決を前提にしてどれほどの意味があるというのか。それよりもかねてから主張しているように、来年6、7月の東京都議選から離れたところでなるべく早く総選挙をして欲しい。公明党は自民党にはっきり要求を突きつけるようになった。民主党の自公分断策が効いて来た証拠かもしれない。国会を開いて矢野絢也元公明党委員長、福本潤一元参議院議員、池田大作創価学会名誉会長らの喚問が民主党から要求されてはたまらない。その考えが背景にあるのかもしれない。
極めつけは自民党の古賀誠選挙対策委員長の23日の講演である。古賀氏は「海上給油法案には与党内にも温度差があり、国論も二分されている。成立から逆算して開会の時期を決めるのは慎重であるべきだ」と発言した。また解散・総選挙の時期については「年明けしか考えられない」と通常国会冒頭解散を示唆した。これに対して伊吹幹事長は直ちに翌24日、8月下旬召集の方針を改めて表明して見せた。自民党内の「ねじれ」は衆参にとどまらず、執行部内にも拡大されてきた。
こうした声を集約して福田総理は月内にも臨時国会の召集時期を決断することになる。その決断が意味するものは単に国会の召集時期にとどまらない。それによって改造のあるなし、その時期、自らの手で解散・総選挙に着手するかどうか、するとすればその時期はいつかまで、今後の政局の重要課題全てに絡まる決断になる。
「この秋は 雨か嵐か 知らねども 今日のつとめの 田草とるなり」という二宮尊徳の言葉を最近のメールマガジンに書いた福田総理だが、田草の取り方を間違えると、嵐が来なくとも飢饉に襲われる事になる。まさに今が正念場である。


