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予算案強行採決の裏 »

選挙を叫ぶ人たち

 「今年中に選挙がある」と叫んでいる人たちがいる。その一つはメディアで、新聞各紙は年の初めに衆議院選挙候補者の顔ぶれを一斉に掲載した。衆議院選挙が今年中に必ずあると確信した記事のつくりだったが、何故確信したかについての説明はない。「空気」や「雰囲気」で確信したのか、そうでなければ参議院選挙の大勝に浮かれて「選挙だ、選挙だ」と叫んでいる民主党に調子を合わせたのか、しかし解散総選挙は民主党ではなく総理大臣の専権事項なのである。

メディアは「海上給油法案を巡って解散総選挙になる」とか、「ガソリン税を巡って3月決戦がある」とか報道していたが、その可能性がなくなると自分たちの思い込みは棚に上げて野党の弱腰を批判し始めた。そして今度は洞爺湖サミットの後だとか、9月の民主党代表選挙で小沢代表の求心力に衰えが見えた後だとか、再び勝手に選挙の時期を決めて「やっぱり選挙だ」と騒いでいる。何故選挙なのかと言えば、「福田総理は父親が出来なかった解散をやってみたい」とか「公明党が秋の解散を考えているから」とかを理由に挙げる。いずれも解散の理由としては説得力がない。

メディアは野党の弱腰を批判するが、野党が福田政権を解散総選挙に追い込むには総理の問責決議案を参議院で可決するだけでは足りない。野党は問責決議案の可決を楯にその後の国会を長期にわたって混乱させなければならない。日本の政治が全く機能しなくなって初めて総理も解散に踏み切らざるを得なくなる。総理はそれまで解散に応ずる必要はなく、ただ野党の「暴挙」を批判していれば良い。解散のために国家の機能を麻痺させても国民が野党を支持すると判断した場合のみ野党は強気に打って出る事が出来る。

もう一方で政府与党が強行姿勢をとらず、野党の要求を聞き入れれば、野党は問責決議案を提出する理由を失う。選挙のためには政府与党が野党の主張を無視して強行採決をし続けてくれないと困る。与党の強行姿勢があって初めて「決戦」は可能になる。

 1月の海上給油法案は前者の例で、法案についての国民の賛否は相半ばしていた。仮に長期に国会審議を空転させれば野党が国民から支持されなくなる恐れがあった。だから海上給油法案を巡っての解散総選挙はありえなかった。
 「3月決戦」は後者のケースで、福田総理は道路族のドンである青木幹雄前自民党参議院会長の要求を退けて、1月末の予算関連法案の強行採決を見送り、修正に応ずる姿勢を示した。福田総理が強行をやめた時点で、野党が総理の問責決議案を提出する理由がなくなった。だから「3月決戦」は消えた。いずれも野党が弱腰なのではない。極めて論理的な理由で解散総選挙にならないのである。

 年の初めに私は「2008年は選挙の年か」というコラムで、今年中に選挙があるという見方に疑問を呈した。
 なぜなら衆議院選挙は自民党にとって何のメリットもないからだ。参議院選挙で過半数を失った現在の与党は、衆議院で三分の二を上回る議席を持っていることだけが唯一の命綱である。三分の二がなければ国会で民主党が反対する法案は只の1本も通らない。自民党は成立させようと思う法案の一つ一つを民主党と協議して了解を取りつけなければならなくなる。仮に次の総選挙で過半数の支持を得て自民党が政権を担当することになっても、三分の二の議席を確保するのはまず無理だ。そして三分の二を失えば選挙でマニュフェストに掲げた政策を実現することは全くできない。ひたすら民主党に頭を下げるだけの政権になる。おかしな話だが日本では参議院を制する者が政治全体を支配出来る。これが世界に類例のない極めて特殊な日本の二院制の現実なのである。

 だから自民党が衆議院選挙に踏み込むのは、選挙で民主党が分裂し、参議院の民主党から17人以上が離党して自民党と組むことが確実な時だけである。そうなれば自民党は力を回復できる。それ以外に自民党に有利な選挙はない。自民党にとって選挙に代わる選択肢は民主党の分断である。小沢代表と反小沢グループの間に楔を打ち込み、分断する以外に自民党が生き伸びる道はない。既にそうした工作が記事となってメディアに溢れている。現在水面下で進行しているのはそういう政治である。

 したがって選挙の時期がいつかなどと考えても余り意味はない。来年の9月には衆議院議員の任期が切れるから、それまでには必ず選挙がある。おそらく福田総理と小沢代表との間で双方にとって都合の良い時期が模索されていると思う。そしてその時には選挙と平行して再編の動きが表に出る。ただし民主党が単独過半数を確保できる見通しが強まれば民主党分裂の可能性は低くなる。再編ではなく選挙による政権交代という民主党が待ち望んでいたことが実現する。

 メディアが騒ぐ前から選挙を叫んでいたのは民主党で、こちらが選挙を叫ぶ本家本元と言える。参議院選挙の大勝直後から「次は衆議院選挙だ、政権交代だ」と威勢の良い声が上がっていた。はしゃぎたい気持ちは分かるが、権力を取ろうとするのなら少しは冷静に政治の現実をみつめ、戦略を組み立てて貰いたい。
 日本の極めて特殊な二院制の下では、去年の7月29日から自民党という権力は既に片肺飛行となっている。だから急いで選挙をやらなくとも民主党に困る事は一つもない。それなのになぜ選挙を急ぐのか。時間が経つと民主党への支持が減っていくとでも思っているのだろうか。よく分からない政党である。

 まず民主党には次の選挙で何を実現しようとしているのかをはっきりして貰いたい。単独過半数を得て政権交代を果たしたいのか、単独過半数は得なくとも自公政権を倒せばよいのか、それとも少しでも議席を増やしたいだけなのか、そのいずれかによって戦略戦術は違ってくる。少しでも議席を増やしたいだけならばいつ選挙をやってもかまわない。必ず議席は増える。単独過半数を得ないで自公政権を倒すには、社民党と国民新党との連立政権を作るしかない。何やら寄せ集めだった新進党に良く似ている。急いで選挙をやるとこの確率が最も高い。

 そうではなく民主党単独政権を実現するのだと言うなら、単独過半数を得るための戦術を考えなければならない。衆議院は300小選挙区と180比例区だから、単純に言うと民主党は小選挙区で150以上、比例で90以上の議席を獲得しなければならない。ところが現在民主党は小選挙区で53、比例区で61議席しかない。つまり小選挙区で3倍、比例区で1.5倍に議席を増やさなければならない。安倍政権のように強行採決を連発してくれれば良いが、福田政権の柔軟路線では解散に追い込むことも容易でない。その上議席を3倍にするにはそれなりの時間と準備が要る。急いで選挙するのが得策とは思えない。

 さらに本気で政権を取りに行くのならもっと大事な事がある。政権を取った翌日から民主党は権力の側にまわる。これまでとは全く逆の立場に立つ。攻めるのと守るのでは全く異なる資質が要求される。アメリカン・フットボールでは攻守で選手を交代させるが、こちらも別人がやった方が良いくらいに仕事振りが違う。これまで経験がない守りの能力を民主党議員は身につけなければならない。

 与党になると、これまで批判をしていれば良かった官僚をうまく操縦して使いこなさなければならない。組織ぐるみで言うことを聞かない相手を操縦するのは大変だ。しかも相手には業界、族議員という仲間がいて後ろから鉄砲を撃ってくる。軟体動物のような連中だから議論で屈服させるのも容易でない。議論以外の手立てを研究しなければならない。去年小沢代表が「民主党にはまだ政権担当能力がない」と言ったのはこの事だろうと思う。官僚が横を向いて動かなくなるか、官僚に絡め取られてしまうか、それが想像されるような未熟な政治家が多いと言いたかったのだろう。
 選挙を叫ぶのもいいが、民主党が本気で政権交代を考えるなら、その先の事も準備しておかなければ無責任になる。

 ところで幕末維新の出来事を現在の政治状況と重ね合わせてみると興味深い事がある。ペリー来航から始まる攘夷(外国人排斥)運動を、倒幕(政権打倒)運動に変えたのは長州の吉田松陰や高杉晋作らだが、武力倒幕を叫ぶ長州と薩摩を結びつけて幕府に対抗する一大同盟を作り上げた坂本竜馬は、実は武力倒幕に反対だった。竜馬は平和的な権力委譲を目指して大政奉還のシナリオを書く。同時に竜馬は議会制による新政府の仕組みを構想して「船中八策」をまとめた。この私案は後に新政府の「五箇条のご誓文」に盛り込まれて近代国家の礎となる。

 武力倒幕派と激しく対立していた竜馬は、最後の将軍徳川慶喜が大政奉還の建白書を受け入れて平和裏に政権を朝廷に返還する決断をした事を聞き「この公(慶喜)のために一命を捨てん」と誓ったという。しかし直後に竜馬は暗殺され、武力倒幕派が勢いを増して、遂に戊辰戦争が始まり、竜馬が望む平和的な政権交代は実現しなかった。

 去年の大連立騒ぎの時、小沢代表は「福田総理が民主党の安全保障政策受け入れを表明した」と興奮気味に語ったという。安全保障政策は国家の根幹に関わる基本中の基本だから、それは徳川慶喜の大政奉還にも似た決断だと私は思ったが、民主党の中では無視されて、やはり選挙で政権交代をと言う話になった。
 竜馬は新政権樹立に当たって徳川体制を打倒せず、それを新政権の中に生かす事を考えたが、理解したのは勝海舟など少数だった。選挙を叫ぶ人たちを見ていると竜馬の心は分からないだろうなあと思ってしまう。いつの世も単純で分かり易いのがまかり通ってしまうのだ。

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コメント (1)

初めて投稿します。
田中先生の「自民党が衆議院選挙に踏み込むのは選挙で民主党が分裂するとき」というのに心あたりがあります。

それは、2日23日に山本拓衆院議員の国政報告会で、中川秀直元自民党幹事長が講演で話されたことです。日銀総裁人事で「福田総理は、民主党が反対している人(武藤副総裁)を無理に押すことはないだろう」として、大学入試問題を引用して「デフレの時は積極的金融政策という常識が分かる人物が総裁に相応しい」と暗に別人物を念頭に述べていたのです。

最初は、表向きは民主党が反対しているがその裏には自民党の実力者もいる。自民党(町村派)内の町村氏VS中川氏のライバル争い、経済財政政策の違いがあるのだろうと思った。確かにそれもあるのだろうが、裏の裏を読めば、中川氏が民主党内の対立に油を注いでいるのでなかろうか?

講演では、道路特定財源の暫定税率(ガソリン税)の問題について、「福田総理は一刻も早く民主党に対案を出してもらい修正を望んでいる」とし、「小泉元総理も述べていたが、一般財源化を考えるべきではないか」として、道路特定財源の暫定税率の一般財源化を述べていた。
これも民主党に主張にそった提案だが、これも民主党分裂へのトラップなのか。どちらにせよその時は自民党も分裂し政界再編となろう。これは小泉元総理が考えているのだろうか。

http://blog.goo.ne.jp/forza_awara/e/e973ddb95d6e0f46f2901812e9eab03c

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

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『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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