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アメリカという国(4)

 アメリカの第44代大統領にはヒラリー・クリントンが確実と見られていた。少なくも共和党は民主党の大統領候補をヒラリーと見ていた。共和党の知恵袋でブッシュ大統領の選挙参謀であったカール・ローブは、1年以上も前からヒラリーとの戦いを想定し、彼女の弱点を研究しつくしている。

 ヒラリーとの戦いになれば、本選挙で彼女に勝てるのはジュリアーニ前ニューヨーク市長である。だからジュリアーニが共和党の大統領候補に本命視されていた。ヒラリーもニューヨーク州選出の上院議員だが、地元での人気度はジュリアーニの方が上である。凶悪犯罪を撲滅してニューヨーク市を蘇らせ、9・11のテロ事件ではテロとの戦いの陣頭に立って全米のみならず世界から賞賛された。地元で負ける候補者が全米を代表する大統領になれるはずがない。ヒラリーVSジュリアーニならジュリアーニが勝つのである。

 ところが予備選挙が近づくとジュリアーニの足を引っ張る動きが始まった。現ニューヨーク市長のブルームバーグが共和党を離党して無所属で大統領選挙に出馬する動きを見せ始めたのである。そうなると共和党支持者の票は割れてジュリアーニに勝利の目はなくなる。そのためかどうか知らないが、本命と言われたジュリアーニが予備選挙緒戦のアイオワ、ニューハンプシャーで全く運動をせず、選挙資金も投下せず、早々に選挙戦からの撤退を決めてしまった。誠に不可解な動きで裏に何かがありそうだが、こうして代わりにマケイン上院議員が共和党大統領候補の座を確実にした。

 マケインはベトナム戦争の英雄ではあるがヒラリーの敵ではないと私は見ている。なぜならこの二人は共に上院の軍事委員会に所属し、一緒に活動してきた仲間だが、その活動振りを見ていると既にマケインはヒラリーに負けている。

 そもそもヒラリーが軍事委員会を希望したのは大統領になるためである。アメリカ大統領は軍の最高司令官であるから軍事に疎い事は許されない。ましてや兵隊の血を流す決断が出来ない人間は大統領になれない。湾岸戦争の開戦を決める議会の採決で、多くの民主党議員が反対票を投ずる中、ゴア上院議員だけは賛成票を投じた。それはゴアが将来大統領選挙に出馬することを心に秘めていたからである。大統領になるためには民主党支持層に支持されるだけでは足りない。国民に支持されるためには戦争に反対する事は許されないのである。

 ヒラリーが実現したいのはアメリカに国民皆保険制度を導入することである。言ってみれば戦後の日本のような国家を目指している。「大きな政府」が目標だ。「小さな政府」を目指すブッシュ政権とは対極にある。そして思想的にもキリスト教の伝統的価値観とはかけ離れている。

 彼女が大統領夫人時代に出版した「IT TAKES A VILLAGE」という本はアメリカで物議を醸した。題名はアフリカの諺で「子供を育てるのは村」という意味である。つまりコミュニティの大切さを説いたものだが、これはアメリカの「伝統的価値観」であるキリスト教の思想と相容れない。キリスト教では子供を育てる義務は両親にあり、一夫一婦制度や個人の家庭が社会の基本である。ブッシュ大統領の支持基盤であるキリスト教福音派などは特にそのことに厳しい。

 しかしヒラリーの思想は70年代のヒッピーの影響を受けている。ヒッピー文化は先住民族であるインディアンの影響を受けてキリスト教に対する反逆の思想である。インディアン文化は東洋思想と通じていて、万物には魂があり、至る所に神がいて、個よりも集団を大切にする。しかし一神教のキリスト教はそうした考えを絶対に認めない。

 かつて私は「アメリカの超能力」というテーマで「ミディアム」と呼ばれる日本で言う「いたこ」を取材した事がある。あの世とこの世をつなぐ「ミディアム」は死者の言葉を現世に伝えるが、彼らはキリスト教会から激しく迫害され、「バイブル・ベルト」と呼ばれる教会の影響力が強い地域には住むことが出来ない。しかしそれでもアメリカには「ミディアム」ばかりが住む村があったりする。それはこの国の底流に先住民族文化が脈々と流れていることを示している。

 アメリカでは無知な大衆ほどキリスト教の影響を受けやすく、インテリほどキリスト教の教えから自由である。先進的な女性ほど中絶の自由を主張してキリスト教会と対立する。良くも悪くもインテリ中のインテリであるヒラリーは、あらゆる意味でブッシュ政権とは対極にいて、それだけに大統領になるためにはハードルがある。だから彼女は軍事委員会に所属して自らの弱点を埋めようとした。

 その軍事委員会で彼女はインテリ女性にありがちな生意気さを引っ込め、男性議員にお茶をついでまわり、愛嬌を振りまいた。その人たらしぶりは見事に男性議員の心をつかみ、彼女は軍事委員会の人気者になっていった。ヒラリーは酒も強い。委員会メンバーでモスクワに出張した時にウオトカの飲み比べをやり、マケインが彼女の軍門に下っている。しかもマケインはそのことをうれしそうに周囲に明かした。この時点で既にマケインはヒラリーに食われている。

 だからジュリアーニが撤退した時点で政治のプロは、世論調査の結果がどうであろうとヒラリー大統領の誕生を確信した。ところが草の根選挙から勝ち上がってきたオバマの勢いが止まらなくなり、オバマ旋風の熱気がアメリカを覆うようになった。

 選挙は予断を許さないが、3月4日のテキサス、オハイオの選挙結果で全てが決まることになりそうだ。オバマ優勢ばかりが伝えられているが、実は現在無効票に数えられているフロリダ、ミシガンを有効にするかどうかという問題がある。両州はヒラリーが圧勝していると言われるが、無効にするとフロリダ、ミシガンの代議員が本選挙で民主党に投票しなくなる恐れがあり、最後はそれを認めるだろうと言われている。そうなると又情勢が変わる。しかしいずれにしても3月4日の結果が極めて重大である。

 ところでオバマ旋風を見ているとジミー・カーターを思い出す。ジョージア州知事だったカーターは草の根運動で支持を集め、現職のフォードを破って大統領となった。ワシントン政治の経験がない全く無名の候補が熱狂的な支持を集めた背景には、ウォーターゲート事件による深刻な政治不信がある。「ワシントンは腐敗している」という国民の失望が「ワシントンの経験がない」候補に支持を与えた。それ以来アメリカでは「ワシントン・アウトサイダー」が大統領になる条件となった。レーガン、クリントン、ブッシュと歴代政権はいずれも「アウトサイダー」の政権である。

 2000年に行われたブッシュ対ゴアの激しい選挙戦でも、ブッシュは「ワシントン・アウトサイダー」であることを最も強調した。しかしそのブッシュの政治に国民は深々と失望している。今回の有力候補3人はいずれも上院議員で「ワシントン・インサイダー」だが、国民はブッシュを見て「アウトサイダー」も駄目な事に気がついた。そして失望の深さが裏返しとしての熱狂となり「最も経験のない」オバマ期待を高めている。

 オバマへの支持は政策ではない。ただ未知であることへの期待である。だからカーターに似ている。そのカーターは大統領として有能ではなかった。イラン革命に対応できず、政治経験のなさをさらけ出して1期で共和党に政権を明け渡した。国民の熱狂というのはその程度である。だから国民が全てを決める直接民主主義は危険だと昔から考えられている。

 オバマが有能かどうかは何とも分からない。イラクから米軍を撤退させるというが、それに伴う世界戦略は全く不明である。従って今の時点で言えば、マケイン大統領ならブッシュ政治の継承、ヒラリー大統領はその対極、オバマ大統領は全く未知数ということになる。共和党にとってはオバマの方が戦い易いのではないか。世論調査やメディアの見方とは異なるが、私はマケイン対ヒラリーならヒラリーが勝ち、マケイン対オバマならマケインが勝つと思う。オバマの「チェインジ」はヒラリーに対しては有効で、その次に戦う相手が現職大統領ならば有効さは持続するが、共和党候補が現職大統領でないマケインでは「チェインジ」の効力は持続せず、息切れするように思う。

 ところで誰が大統領になるのが日本にとって最適かという話がこの時期には必ず流れる。ヒラリーが最悪でマケインが最良というのが専らだが、全く意味のない話だと思っている。どちらのリップサービスが良いかという程度の話で、誰になってもアメリカの本質は変わらない。世界を支配するためには何でもやる。アメリカの国益が最優先。他国を助けるのも国益に合致した時のみ。同盟関係にあるから助けてもらえるなどという柔な考えは早く捨てた方が良い。

 アメリカが相手にしているのは大国で、日本のような周辺国はそのために利用されるだけである。だから「経済大国」という思い出はさらりと捨てて、周辺国であることを自覚し、周辺国としての生き方を徹底した方が良い。そうしないと本当に戦後蓄積した資産を喪失することになる。

 ブッシュ政権を操ったネオコンはユダヤ系だったが、ユダヤ民族はそれこそ周辺国としての生き方を徹底している。アメリカ社会に入り込み、メインストリームにはならなくとも影響力を発揮する術を磨き、その地位を築いている。そしてネオコンのように大統領を操るまでになった。その生き方を日本は見習うべきである。
 明治以降アメリカに移住し、功なり名を遂げた日本人は多い。しかしそうした人達と日本との関係は途絶えている。日系の連邦議員には反日の立場に立つ者もいる。そうしたことを真剣に考え直してみるところから日米関係が始まるのではないか。

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コメント (1)

「今回の三浦ロス疑惑蒸し返しは?」
この三浦ロス疑惑蒸し返しというものが起こる前に何か起こっていたか?

①沖縄問題、②イージス艦「あたご」 の二つであります。本土での報道は②の事件が起こった後は、①の報道は相当少なくなってます。しかし、同じ、軍隊の問題で、少し落ちつくと再び沖縄問題に戻っても不思議が無いし、下手をすると同じ軍隊の問題、無駄な税金を使っている(米軍へのおもいやり予算と防衛庁から防衛省へさせて良いものか?という共通の話)。

 従って、このようなシ状態からどのようにさせるかと言えば更に他の関心事を作る事。あたごの問題のスピンと言う人もいますが、今の自衛隊にそんな事が出来る力はありません。つまりう沖縄問題のスピンではないでしょうか?

 琉球新報を見ていても今でも毎日のように現地のムードは変わらないと報道されています。 コンディが来日する予定は当然判っているでしょうしね。コンディはあたごの事が無ければ、あたごの帰還の際に、高らかに日米安保の賜物だと言ったのでしょうね。
http://ryukyushimpo.jp/


 

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

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『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
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