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 20世紀最後のアメリカ大統領であるクリントンは、21世紀を「情報化とグローバリズム」の時代と位置づけ、光ファイバー網の全米普及を訴えていたゴア副大統領と組んで情報通信革命を主導した。

 1996年には放送と通信の世界に競争原理を導入するため60年ぶりとなる電気通信法の改正を行った。法案に大統領が署名する儀式は通常ホワイトハウスの大統領執務室で行うが、このときクリントンとゴアのコンビは式典を議会図書館に移し、華々しいデモンストレーションと共に署名した。

 会場に設けられた大スクリーンにインターネットの画面が映し出され、全米の若者とネットサーフィンを楽しみながら、クリントンは「これまで1つの電話局と3つのテレビ局と古い法律がアメリカを縛ってきた。私が今日古い法律を変える。これで通信と放送を縛ってきた規制はなくなる。これからは国が主導するのではなく民間の力で新しい時代を切り開こう」と演説した。

 独占企業であった「1つの電話局」AT&Tはすでにレーガン時代に7分割されていたが、しかし分割されてもなお地域独占であった。クリントンはそれらに相互参入を認めることで競争を激化させた。結果として電話料金はみるみる下がり、私のワシントン事務所の通信コストは10分の1に圧縮された。それがアメリカにインターネット社会を花開かせる事になる。

 三大ネットワークに代表されるアメリカの放送界には80年代からケ-ブルテレビという新たな世界が誕生し、地上波テレビとは異なる放送の世界を形成していたが、湾岸戦争でCNNが一躍メジャーとなったように、ケーブルテレビ業界からはその後も新規参入のチャンネルが育っていった。イラク戦争ではFOXニュースが新たに名を上げた。こうした新興チャンネルが育っていく背景には既得権益の側には立たないアメリカ政治の力がある。

 資本主義は放っておけば強いものがますます強くなる。既得権益は競争を嫌がり新規参入を排除する。それは自然の流れだがそれを放置すれば経済は活性化せず資本主義は自滅する。そこに政治の役割がある。だからアメリカでは政治は既得権益の側につかず、なるべく新規参入の側を応援する。

 アメリカがソ連との冷戦に勝利したのはビル・ゲイツを生み出す国だからだと言ったのはギングリッチ元下院議長である。アメリカには巨大企業IBMに挑戦する新興企業マイクロソフトを育てる土壌があった。その結果パソコンが社会の隅々にまで普及して本格的なコンピューター社会が到来した。それがなければ精密誘導兵器の誕生もなかったというのである。ソ連がどれほどの人員とカネを投入して国家プロジェクトを立ち上げてもビル・ゲイツが生まれる素地がなければ、あの精密誘導兵器は出来なかった。だからソ連は精密誘導兵器を見せられたときアメリカとの競争を断念したと言うのである。

 アメリカが情報革命に力を入れていた頃日本はそれとは全く逆の方向に向かっていた。中曽根政権は1985年に電電公社を民営化したが、レーガン政権のように分割はできず、巨大独占私企業のNTTが誕生して肝心の電話料金は全く下がらなかった。通信コストが下がらないことは日本の国際競争力にマイナスなのだがそれを問題にする者もいなかった。

 また中曽根政権は日米貿易摩擦の解消を理由にアメリカからBS(放送衛星)を買ってきて難視聴対策を理由にNHKに打ち上げさせた。BSはデジタル技術の開発によってアメリカでは打ち上げの必要がなくなったお払い箱の衛星だが、日本はアメリカに逆行してBS放送を開始した。表向きの理由である難視聴対策は実は嘘で中曽根政権の狙いはNHKを戦前の同盟通信にも似た国家的情報機関にすることであった。それまでも放送界は銀行と同様に役所が全てを許認可する護送船団の業界だったが、頂点のNHKをさらに肥大化させ、ピラミッド型の構造をより強化しようとしたのである。

 こうしてアメリカがケーブルテレビを中心に放送事業の規制緩和と新規参入を促進しようとしているとき、日本は逆に新規参入を排除して護送船団の強化に取り組んでいた。そのためケーブルテレビ産業には様々な規制がかけられ、一方で世界のどの国もやっていないBS放送が開始された。BS放送はコストも高くチャンネルが少ないため、NHK、民放、新聞社が参入するだけの既得権益の世界となっている。

 こうした政策によって肥大化させられたNHKはそのために内部に腐敗がはびこり、尽きる事のない不祥事が連続することになる。同様に既得権益に守られた民放も下請け製作会社を奴隷化することで莫大な利益を得るようになり、放送倫理の喪失とIT業界からのM&Aの脅威に晒されるようになった。

 情報通信分野における世界の潮流はやはりソフトパワー大国アメリカが先頭を走り、その後をかつての日本のように新興国が追いかける構図だが、その中で80年代以降は日本だけが異なる道を歩んでいる。それで果たして良いのだろうかと心配になる。そしてこうした状況は、日本という国がアメリカとは違って情報を全く重視しない国だと言う事を示している。

 テレビはもはやレベルが下がりすぎて論評の対象にもならないが、そのテレビ局を系列化して天下り先を確保した新聞社の劣化も著しい。企業、役所、政治家等の情報操作に利用されている事がありありの記事やピントの外れた解説を読むと、これがジャーナリズムかと暗澹たる思いになる。せめてジャーナリズムなどと胸を張らずに、「こういう見方もありますがどうでしょうか」と謙虚な姿勢でいて欲しいと思う。

 90年代半ばには情報通信革命と歩調を合わせるようにアメリカに様々な金融商品が出回るようになった。金儲けに疎い私などはほとんど理解できないのだが、天気や気温を当てることが金融取引になるなどというデリバティブ(金融派生商品)の話を聞くと、何でもかんでも金儲けの対象になるようで頭が混乱してくる。しかしアメリカ経済が好況を呈するようになると、通信技術の発達と相まってバーチャルな世界で巨額の資金が瞬時に動き回るようになった。

 1997年、アメリカのヘッジファンドがアジアの国々で空売りを仕掛け、買い支える事が出来なくなったタイ、フィリピン、マレーシア、韓国、インドネシアは変動相場制に移行せざるを得なくなり通貨が急激に下落した。いわゆるアジア通貨危機である。タイでは企業の倒産が相次いで失業者が町に溢れ、マレーシアではGDPが6.5%も落ち込み、韓国ではIMF(国際通貨基金)が経済再建のために介入して財閥グループの解体を行い、インドネシアではインフレのために暴動が起きて32年間独裁者として君臨したスハルト大統領が退陣した。この出来事は現代では戦争をしなくとも、空売りを仕掛けるだけで国家を破綻させ、政権を変える事が可能であることを示している。空売りが軍隊の代わりになるのである。

 このとき日本は宮沢政権が300億ドルの資金を提供して各国から評価されたが、同時に提案したアジア通貨基金の構想にアメリカが反対した。アジア通貨基金構想はアジア各国がアメリカのドルから自立して経済統合を目指そうとするものだが、その主導権を日本が握ることにアメリカは反対だった。アメリカはアジアの統合において中国が主導権を握ることには強い抵抗を見せないが、日本が握る事は絶対に許さない。

 こうした対応をみるとアメリカにとって中国は大国だが、日本は周辺国に過ぎないことがわかる。中国は「仮想敵国」になるかもしれないが、しかし大国であることをアメリカは認めている。しかし日本はかつて経済大国となり一瞬「仮想敵国」になるかもしれないと思わせたが、結局はただの従属国に過ぎない事が良く分かった。そんな日本に国際的な役回りなど出来るはずがないしやらせたくもない。それがアメリカの考えであると私には見える。

 橋本元総理がかつて日本が巨額の米国債を保有していることに言及し、あたかも日本の優位性を誇示するかのような発言をしたが、おそらくアメリカはそれを何とも思っていない。どれほど日本から借金をしても、それが返済できなくとも、日本が何も出来ない事は十分に分かっている。既に自衛隊は単独で日本を守る軍隊ではなく、アメリカ軍の一部となっている。だから日本は何があってもアメリカについてくるしかないと思っている。

 かつて自民党の椎名悦三郎元副総裁はアメリカを「お番犬様」と呼んだ。その言葉にはやむをえず防衛はアメリカに委ねるが、あくまでも飼い主は日本だとの自負心が感じられる。そう言いながら戦後の日本はせっせと金儲けに精を出してきた。しかし今やアメリカは「お番犬様」どころか「ご主人様」になって、借金の尻拭いから不祥事の後始末までさせられそうな気配なのである。(続く)

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「日本おける第三の道」
小泉時代、不良債権は一気に遣らないと危ない(即国有化、モラトリアム)と思ってたから、やりかたが危ないなあと思っていたし、一万円を切り始めた時、本当に壊す気があるのだろうかと思った。土俵を割るのはある意味近道だけど、不幸だ。しかし、その最後の局面で後戻りをしてしまった。結果としては、多くのコストをかけて表面的な平静を作った。当然、残念ながら表面的な物で終わってしまった。本来は、この小泉時代をシッカリ検証して、同じ道を取らない様な第三の道を歩まねばならない。かっての時代に戻ろうとする遣り方でも改革が足りないと言う遣り方でない方法。今回の金融システム問題は、進めば進むほど日本にも返り血が飛んでくるかも知れない。
 今、大阪財政と橋下さんが話題で取り上げられているけれど、大阪と東京の差は何だろうか?この事を考えると最初に書いた表面的な改革の結果の差だけである。昨年、ANAホテルが売却された時、本当は、東京都が庁舎を売却しないかと見ていた。今ならとんでもない値段で売れる。それで、だいぶ先の事だが、契約次第では、湾岸に新庁舎もたてる事もできる。それは兎も角、なぜかオリンピックという訳の判らぬ期待へと転化しただけであった。
 いずれにしてもここに及んで、道路の話でさえ、まだ優先順位が定まっていないのだからどうしょうもない。そのまんまさんには期待はしてないが、自分で払った税金の使い道は自分で決めさせてくれと位は言って欲しかった。当然、それで足りないものを上手く振り分ける事は何も問題は無い訳だし…。自民党だけでないけれど、税金が政治資金に入っているのだから、そろそろ何とかして欲しい。勿論選挙民ももう少し変わらなければならないけれどね。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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