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総理の首を絞める国対政治

 与野党馴れ合いの55年体制を象徴する言葉に「国対政治」がある。
 万年与党の自民党と万年野党の社会党が表では対立しているように見せながら、水面下で裏取引をしていた事を指す。国会運営を円滑にするための裏取引ならば、日本だけでなくどの先進民主主義国でも行われていて、別に悪いことでも何でもない。与野党が激しく対立するだけが政治ではない。与野党がいかに妥協するかが民主主義政治にとって最も大事なことである。そのために裏舞台で与野党の幹部が取引する事は大いにあり得る。

 ところがわが国の「国対政治」には国会運営を円滑にするための裏取引以上の大問題があった。一つは裏取引に絡んで与党から野党に金品が渡されていた事である。初めのうちはマージャンでわざと負けたり、本人ではなく夫人宛にプレゼントが渡されたり、恐る恐る行われていたことが次第に大胆になっていった。野党が審議拒否をすると国会を再開させるために与党から野党にカネが流れる。そのうち野党がカネを要求するために審議を止めるようになる。最後は国会内で紙袋に入れた札束が手渡されるまでになっていた。

 もう一つは自民党内の権力闘争に「国対政治」が利用された事である。権力者の足を引っ張るために与党の国対と野党とが組んで重要法案を通らなくする。与党の国対の後ろに権力者の足を引っ張ろうとする張本人がいる。これをやられるとどんな権力者もお手上げになる。例えばかつて旧田中派内部で権力闘争が起きた。田中角栄元総理に対して金丸・竹下グループが反逆を企て「創政会」という勉強会を作った。そのとき金丸氏は自民党幹事長、竹下氏は大蔵大臣だった。すると国会で社会党と公明党が強硬に反対して予算が通らなくなった。金丸幹事長と竹下大蔵大臣の責任問題が浮上した。社会党と公明党の後ろには田中角栄氏がいた。角栄氏は金丸幹事長の首を挿げ替えて宮沢喜一氏を幹事長に起用しようとした。この工作は実現間際まで行った。それが頓挫したのは角栄氏が突然脳梗塞に倒れたためである。角栄氏が倒れなければ中曽根政権の次は竹下政権でなく宮沢政権が誕生していた。

 このように世界に例のない「国体政治」がまかり通ったのは、野党が政権を取ろうとはせず常に自民党の「隠れ応援団」だったからである。だから「国対政治」は55年体制を象徴する言葉だった。政権を取ろうとする野党が誕生してからは、少なくも与党から野党にカネが流れたり、与党内部の権力闘争に野党が協力する事はないはずである。与野党に国対は存在しても以前とはまるで役割が違うと思う。ところが最近の自民党国対を見ていると「おや」と首を傾げたくなる事がある。

 例えば今回の「つなぎ法案」の提出と委員会での強行採決である。
 この通常国会の最大焦点は予算関連法案が年度内に成立するかどうかで、それを確実にするためには与党が衆議院の三分の二の数で再議決をする必要がある。ところが野党が参議院で否決をしてくれれば再議決できるが、否決もせずにずるずると年度末を迎えると大変なことになる。ガソリン税の暫定税率が期限切れとなり、軽油の値段は4月1日の午前0時から、ガソリンも3日頃から値下げになる。いったん下がった値段を政府与党が再び値上げすれば大混乱が生じて政権運営もままならなくなる。

 それを避けるために政府は国会を例年よりも前倒しにして1月18日に召集した。1月末までに予算関連法案の衆議院通過を図り、仮に参議院で野党が否決しなくとも60日条項を使って衆議院で再議決するためである。そこには野党が反対しても予算と予算関連法案を原案のまま押し通すという与党側の明確な意思が示されていた。道路族のドンである青木幹雄前参議院会長が主導する参議院自民党はこの1月末衆議院通過を強く主張していた。

 これに対して民主党の小沢代表は「本体の予算の議論より先に予算関連法案を成立させるのは邪道だ」と批判した。確かにこれまでは予算本体の議論をしてから関連法案の議論に入っていたので邪道と言えなくもない。民主党はそのように主張して徹底抗戦してくることが予想された。参議院自民党の主張どおりに1月末に関連法案を強行採決すると、直ちに与野党全面対決になり、国会は解散含みの異常事態となる。福田総理は参議院自民党の要求を退けて2月中旬の衆議院通過に目標を変更した。

 何のための1月18日召集だったのかという気もするが、結局政府与党は野党の要求を受け入れて修正することを決断した事になる。「道路」で突っ張って「飛んで火に入る夏の虫」になるよりも、「3月決戦」を避けた方が得策だと判断したのである。と言うか選挙になれば衆議院の三分の二を失う事が確実な与党にとっては、まだ三分の二を失っても良いという状況にはなっていないということである。

 ところがそこに降って湧いたのが「つなぎ法案」だった。予算関連法案を2ヶ月間だけ期限切れにしないための法案だという。与党は「セーフティネット」と呼んだが、極めて「虫のいい」法案である。予算関連法案を原案のまま押し通す当初の考えに比べると全く堂々としていない。自分たちの主張が正しいと思うならば当初予定の通り予算関連法案を強行採決すれば良い。それが出来ないのなら野党の言い分を取り入れて修正するしかない。暫定税率廃止はさせずに野党と修正協議するなどという考えはどう考えても通らない。「奇策」とも言えない「愚策」である。

 それが議員立法で衆議院の委員会に提出され強行採決された。それをやらせた自民党国対の目的は何だったのだろうか。全く理解に苦しむのである。つなぎ法案を成立させるためには衆議院で強行採決、しかし参議院で否決され、再び衆議院の三分の二で可決するしかない。いわば伝家の宝刀を抜いておいて野党と修正協議しようと言うわけだがそれは出来るはずがない。解散は回避出来なくなる。

 予算関連法案を押し通した結果の選挙ならば与党にはまだ大義がある。暫定税率を廃止せず1万4千キロの道路を作るというのは一つの考えである。しかしつなぎ法案を巡る激突で解散総選挙になれば、民主主義のあり方そのものが問われることになり与党には一層不利になる。にもかかわらず自民党国対は委員会採決にまで持ち込んだ。おそらく本会議での成立、参議院に送るところまでは考えていなかったろう。議長斡旋を織り込んだ上での戦術だったと思われるが、それでも民主党にマイナス、福田政権にプラスの戦術とは思えない。

 選挙によって状況を好転させる事が出来ない自民党が今最も力を入れているのは民主党の分断工作である。それが駄目なら頭を下げて大連立をお願いするしか生き残る道はない。したがって自民党の中では小沢代表と反小沢グループの分断が機会あるごと常に意識されている。しかし今回のつなぎ法案の強行採決は民主党の分断を誘ったり、民主党にダメージを与えることにはならない。むしろ福田政権の方が傷ついた。テレビで強行採決が放映された直後には世論調査で内閣支持率が一挙に落ち込んだ。

 私の目には今回の国会戦術が自民党内権力闘争の現れと映っている。民主党との修正に前向きな福田総理に対してそれを牽制しようとする勢力がある。「下手な修正をしたら足を引っ張りますよ」という事を分からせるため今回の一連の動きが仕組まれた。内閣支持率がどんどん下がれば「シャッポを代えるしかない」との空気が自民党内に出てくる。それを狙っている人たちにとっても今回の動きは悪くない。そうした思惑が交錯して表に出てきたのが今回の「つなぎ法案」の強行採決ではなかったか。

 そう言えば前の国会でもインド洋の海上給油を中断しないため早期に国会を召集しようとした安倍前総理に対して、冷たく突き放したのは二階国対委員長だった。臨時国会の召集が9月10日と遅れたことで11月1日で期限の切れるテロ特措法の延長は間に合わないことが確実となった。そのため海上自衛隊はいったん引き上げざるを得なくなり、テロ特措法は延長ではなく新法作成という方向になった。その結果テロ特措法の延長にこだわった安倍前総理が突然政権を投げ出した。国対は総理の首を絞める事があるのである。

 つなぎ法案が取り下げられて国会では道路を巡る議論が本格化した。しかし修正協議の期限となる3月末までにはまだ相当時間がある。いつ、どのような形で予算関連法案が衆議院を通過するのか、参議院ではどのような日程が組まれるか、そしてどこで福田・小沢の党首会談が行われるのか、日銀総裁人事とも絡みながら、ガソリン国会は与野党の間だけでなく、それぞれの党内抗争をも巻き込みながら複雑に推移していくのである。

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コメント (3)

国会とは何をするとこなのだろうか?国会しか出来ない事は沢山ある。今日、岩国の市長選が行われるが、なぜ、地方が押し付けられるだけの事になるのだろうか?国会や政府というものが、何の為にあり、誰と交渉するのだろうか?交渉する相手が違うのでは無いのだろうか?その交渉もせずに、地域に押し付け、その手段としてお金(公金)が使われる。
 それれにしても、国会の論議はなんとかならないものだろうか?質問しても答えが返ってこない。なんとかこの論議に本音が出てくるように出来ないのであろうか?質問する側の問題もあるのも事実ではありますが、本音の論議の中で、着地点を考えるのだと思います。建前の論議、特に本会議のような催しを少なくして、国会議員の存在意義を高めて欲しい。
 矢祭町が日当制を導入したが、国会議員もなんて話にもなってしまう。地方議員においてはこれから、ボランタリーなチェック機関へと変化していくと思うけれど、国会議員は違うのだと思う。やはり集団主義の党議拘束について踏み込まないと進歩が出てこないのかもしれない。クロスボーディングかあ、政党の上からすると面倒だと思うのだろうね…。それにしてん、本会議だけでなく、委員会でもそうだけど、質問に関係ない議員は暇そうですよね。我々も出席率が良い悪いだけでなく、もう少し他の評価方法をあげられるようにならないといけないのでは?

当確でましたね。どちらがやっても責任を持ってやれば良いのだけれど、権力を持っているのに楽な道しか取らないから困るだけど…。戦争が終わって何年経つのだろう。

福田さんは、どう見ても、第二の森さんになるのだと思いますが、特に何か間違った発言をしたとたんにね。ホルタ大統領とグスマン首相にあて、「今回の襲撃は極めて卑劣で許し難いもので、強く非難する。わが国は引き続き東ティモールの平和定着の取り組みにできる限りの支援を行っていく」と珍しくはっきりした事を言ったけど。沖縄の件については、だいぶ大甘な事を言ってた。どこの国の総理か判らないと誰かが言ってた…。まあ、今回はぎりぎりセーフの発言だったような気がします。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

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『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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