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不思議な国会だった »

がっかり・裏切り・拍子抜け・党首討論

 168臨時国会最初にして最後の党首討論が1月9日に行われた。本来は毎週水曜日に行われるはずなのに最近ではほとんど行われず、今回も7ヶ月ぶりの党首討論だったが、そのせいもあってメディアの評価はすこぶる悪い。

 朝日新聞は「座布団を投げたくなるほどがっかりした」、読売新聞は「有権者の期待を裏切る」、毎日新聞は「何故避けた大連立の説明」、日本経済新聞は「極めて遺憾」、産経新聞は「拍子抜け」、東京新聞は「看板が泣いている」など翌日の各紙の社説はいずれも手厳しい。
 それには一々「ごもっとも」と言うしかないのだが、しかしこれを「党首討論」ではなく「党首討論の・ようなもの」だと思っている私には色々面白いところがあった。

 そもそも党首討論のモデルは英国議会の「プライムミニスター・クエスチョン・タイム」だが、これは日本の党首討論とはいささか趣が異なる。毎週水曜日の午後3時から下院本会議場で30分間行われ、時の首相に対して一般の議員が質問できる。ただし野党党首に質問の優先権があり、多くは野党党首と首相との間で論戦が交わされる。時間も短いため掘り下げた議論ではなく、首相が何を考えているかを問い質す場である。

 私は20年ほど前に当時のサッチャー首相とキノック労働党党首の「クエスチョン・タイム」を見た事がある。教育バウチャー制度の導入がテーマだった。キノックがバウチャー制度を「不平等につながる」と批判すると、サッチャーが「それは古い共産主義者の考えだ」と反論し、議場は野次に包まれた。キノックだけでなく一般の議員も議長の指名を受けてサッチャーに質問した。主役は首相で、首相に何人かの議員が挑戦する30分一本勝負といった感じだった。

 「クエスチョン・タイム」は短い時間で毎週やるところに意義がある。深く掘り下げた議論は国民に難しすぎるが、議論の「さわり」を短時間で毎週やってくれれば国民にも分かりやすい。サッチャーが国民の人気を集めたのはこの「クエスチョン・タイム」のお陰だと言われている。

 これを国会活性化の方法として取り入れるよう主張したのが旧自由党時代の小沢一郎氏である。旧自由党と自民党との連立協議のなかに盛り込まれ、2000年の臨時国会から「党首討論」という名前で始められた。しかしこれが毎週行われる英国議会の「クエスチョン・タイム」と同じにならなかったのは、日本では本会議や予算委員会などで一般の議員が総理に質問する機会を与えられていたためである。それまでの慣行をやめてまで党首討論をやる話にはならなかった。そのため与党は本会議や予算委員会に総理が出席する週は党首討論を中止すると主張し、党首討論は毎週開催ではなくなった。委員会や本会議に総理が出席しない週だけの開催となった。

 しかも英国と違って一般の議員には質問の機会が与えられず、名前の通り党首しか参加できない。二大政党制でないため当初は全野党の党首が質問に立つことになり、時間も英国議会より長い45分となった。しかし議席数で時間を配分すると社民党などに割り当てられるのはたった1、2分で小政党には意味のない場となった。一方で野党にとってじっくり総理を攻めるにはやはり予算委員会が良いということになり、多くの国民が見ているわけでもない長時間の委員会審議が相変わらず重視された。

 こうして国民の関心を呼ぶ短時間で毎週の党首討論は実現しなかった。だから私はこれは「党首討論の・ようなもの」だと思っている。そもそも「党首討論」という翻訳も宜しくない。「クエスチョン・タイム」は首相に対する「質問時間」である。掘り下げた討論をするほどの時間もない。せいぜいが討論の「さわり」をやる場だ。それをどういうわけかメディアは勝手に「党首同士が激しく討論をする場」だと決めてしまって、「掘り下げた議論をせよ」などと言っている。そう考えれば現状はどうしても「がっかり・裏切り・拍子抜け」という事になる。

 毎週やれというならば与野党に今の考え方を変えてもらうしかない。与党が譲歩して総理にはご苦労様だが委員会質疑に出席する週も党首討論をやってもらうか、野党が譲歩して委員会質疑への総理の出席を減らして党首討論を充実させるしかない。しかし与野党が譲歩できないというならば、メディアが過剰な期待をやめて私のように「の・ようなもの」と思って眺め、そこから見えてくることを国民に解説するしかない。

 今回の党首討論では民主党の小沢代表が二つのテーマを取り上げた。年金の照合問題と自衛隊の海外派兵を巡る問題である。しかも年金の照合問題にかなりの時間を割いた。そのことから分かるのは民主党にとって与党を攻める最大材料はやはり年金問題だという事だ。いかに「福田クリンチ内閣」でも年金問題だけは簡単に擦り寄って来られないと見ているようだ。

 「全加入者に通知を出せ」と主張する小沢代表に対して、福田総理は「今年4月から始めて10月までには全加入者に年金特別便を送る」と答え、さらに来年4月からは民主党の言うように年に一度全加入者に通知を出すと言った。このタイムスケジュールはなにやら総理の考える解散・総選挙の時期と関係がありそうだ。そう考えて要チェックにした。

 次に注目したのは、そしてこれが今回の党首討論の最大の特徴なのだが、福田総理が何度も「小沢代表と考えている事は同じだ」と言った事だ。福田政権が民主党と違うのはタイムスケジュールだけだという。福田総理は小沢代表が参加を拒否している社会保障国民会議について全く言及することをしなかった。そうしたところに小沢代表に対する心配りが感じられる。こんなに相手を思いやる党首討論をこれまで見たことがない。これを福田総理の人柄によると考えるか、それとも大連立を語り合った「共犯関係」がなせる業と考えるか、あるいは難しい政権運営を迫られている総理の低姿勢に徹する戦術と考えるか。福田総理の顔を見ながらしばしそのことを考えた。それだけでも今回の党首討論は私には十分に面白かった。

 同じ事は自衛隊の海外派兵を巡る議論にも現れた。小沢代表がこの問題にわずかな時間しか割かず、持論を展開しながらも突っ込んだ話にしなかった事や、福田総理が湾岸戦争時の小沢自民党幹事長時代の話を持ち出したことなどに、双方の相手に対する配慮というか、これから水面下で起きてくる動きのためにそうなったのではないかと感じさせる何かがあった。

 そして民主党が3月政治決戦の中心テーマにしようとしているガソリン税引き下げ問題を小沢代表が持ち出さなかったのはどういう理由からなのだろうか。それを今ここで持ち出すと仕掛けが壊れてしまうからなのか、それともまだそれを持ち出す時期ではないからか、それは中心テーマではなくなるからなのか、ただ単に時間がなかっただけなのか。ガソリン税の話が出てこなかったことにも別の意味で興味をそそられた。

 かたや早期に解散に追い込みたい民主党、かたや何とか選挙を遅らせたい福田政権が今しのぎを削っている。双方が自分たちの主張を掲げて戦う準備が出来れば、党首討論もぶつかり合う論戦の場になったのかもしれないが、今はまだそんな状況ではない。
 そうしたときの党首討論に丁々発止とやり合う論戦を期待しても仕方がない。論戦の中には相手がどのような陣形を構築しようとするのかを探るための論戦もある。
 そのように考えて、あまり「がっかり」や「拍子抜け」をせずに、「党首討論の・ようなもの」をどうやって「党首討論」にしていくかをメディアには考えてもらいたいものだ。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

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-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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