Calendar

2007年11月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

Recent Comments

« 鳩山発言を吟味してみる
メイン
再び鳩山発言を吟味してみる »

未体験ゾーンは続いていく

 7月の参議院選挙で与党が惨敗し民主党が参議院第一党になった時から「日本の政治は未体験ゾーンに入った」と言われていたが、それが何を意味するかを理解している人がいかに少ないかを今回の大連立騒動は示してくれた。多くの人が自社対決時代の政治構造や白黒二元論の世界で政治を見ており、複雑な数式を解かなければ政治が機能しなくなるとは思っていないようだ。だから「連立は自公政権を助ける」とか「小沢氏は自民党に戻りたいのだ」とかいう的外れの批判が出てくる。結局,、未体験ゾーンを理解していたのは政権を担当している与党の幹部と野党では民主党の小沢代表だけだったという事が今回の顛末でよく分かった。

 党首会談を行う前に福田総理は「韓信の股くぐり」という言葉を口にしていたが、党首会談の後、謝罪の弁を述べて辞任を撤回した民主党の小沢代表もまた「韓信の股くぐり」をやった。小沢氏は大連立が謝罪に値するとは全く思っていない。ただあまりにも政治の奥深さを知らない人が多いのでその人たちの前で一応謝罪の格好をして見せた。腹の中では「仕方がねえなあ」と思っていたかもしれない。それにしても国民が理解できないのは仕方ないが、民主党の国会議員が理解できないのは何とも情けない。小沢代表ならずとも政権担当能力に「?」マークが付けられる事になった。

 いずれにしても未体験ゾーンはこれからも続いていくが、それがどれほどにこれまでの政治の常識と異なっているかを気がつくままに並べてみようと思う。まず解散権は総理大臣の専権事項と言われているが、私の見るところ福田総理には事実上解散権はなく、民主党の小沢代表の方に解散を仕組むカードが移っている。

 

 「福田総理は小沢騒動で民主党ががたついている今こそ解散をやるべきだ」という年内解散論や来年の予算成立後、あるいは洞爺湖サミットの後などのタイミングで解散・総選挙が行われるのではないかとの見方がある。しかし与党にとって選挙で現在より良くなる事は一つもない。衆議院の三分の二を占めている与党が仮にその議席を確保しても何も今と変わらない。現実には三分の二を確保する事はまず不可能で、せいぜいが過半数を確保して政権交代させない事しか出来ない。しかしその場合も「ねじれ」がさらにひどくなるだけで政権運営はいよいよ厳しくなる。せいぜい「直近の民意は自公政権にある」と言えるだけの事だ。そして過半数を確保できなければ権力の座から滑り落ちる。

 つまり福田総理にとって解散・総選挙は、民主党に政権を取られてしまうか、全く政治が機能しなくなる「死に体」になるか、その二つの選択でしかないのである。それが分かっていて解散など出来るだろうか。総理の解散権はないに等しいのが現在の政治状況なのである。

 一方、民主党の小沢代表には与党を解散に追い込むカードがある。例えばテロ新法を早期に参議院で否決する。そうなれば与党は国際公約を果たすために衆議院で三分の二の賛成で再可決せざるを得なくなる。すると参議院は自らの意思を衆議院によって否定された事になるから、そうさせた福田総理の問責決議案を提出して可決する。問責決議案に法的拘束力はないので直ちに総辞職や解散に至らないが、参議院が福田総理を総理と認めていないことになるから、来年の通常国会で福田総理は施政方針演説を参議院で行えない異常事態となる。結局福田内閣は総辞職をして他の総理に交代するか、国民の民意によって参議院の意思を撤回させるしかなくなる。つまり解散総選挙せざるを得なくなる。このようにして民主党の小沢代表は解散権を持っていないにも関わらず解散をさせる事が出来る。

 ところが現在の民主党の対応を見ていると早期にテロ新法を参議院で否決しようとしていない。テロ新法の前にイラク特措法の廃止法案を審議しようとしており、また守屋事務次官の証人喚問で名前があがった額賀財務大臣と久間元防衛大臣の証人喚問をそれ以前に実現しようとしている。いずれも時間のかかる作業である。そうしたことを与党も反対していないから、テロ新法の審議はいつ始まるか分からない。要するに与野党が暗黙の合意の上でテロ新法の審議入りを引き伸ばしていると私は見る。つまり小沢代表には早期に解散に追い込む気はないのである。おそらく年内に選挙をしても民主党が過半数を越える議席は取れないと見ているからではないか。

 そうなると12月15日までの会期内にテロ新法は決着する事にならない。会期の再延長が必要になる。どれほどの延長幅になるかがこれからの焦点だが、来年1月末までの大幅延長になる可能性がある。これは常識を超えた会期延長である。しかし未体験ゾーンではそうしたことがあり得る。与野党が全面対決しながら、しかも解散総選挙にならずに、海上給油をなるべく短期間で再開させるためには、テロ新法の審議をずるずると引き延ばし、参議院本会議での否決ではなく60日間を経過したための事実上の否決に持ち込むシナリオがあり得る。

 テロ新法は11月13日に衆議院を通過したからその60日後は来年の1月12日である。その時点でテロ新法は参議院で事実上否決されたとみなされ、衆議院で再議決することが可能になる。そこで衆議院が再議決しても参議院本会議で否決したのを覆されるわけではないから、野党は福田総理の問責決議案を提出しない。従って解散総選挙にはならずに海上給油は2ヶ月余の中断で再開される。野党からすれば衆議院で三分の二の議席を与党が持っているので海上給油の再開はやむを得ない、次の衆議院選挙で政権を取れるようがんばろうと言うことになる。

 「たら、れば」の話になるが、あのとき大連立を受け入れていれば、自衛隊の海外派遣を巡る恒久法の制定で与野党が合意していた。恒久法の内容には民主党の主張が大幅に取り入れられ、来年の通常国会で3月をめどに成立が図られた。恒久法が出来る来年3月まで、海上給油を止めたまま新しい貢献策に移行するか、あるいは3月までなら海上給油を再開して続けるか、そのどちらかが政権協議の中で選択された。しかし大連立がなくなったのでその展開は消えた。
 それでは大連立がなくなったから早期の解散総選挙になるかというとそうもならない。結局は2ヶ月余の中断で海上給油は再開されるのではないか。

 私の見方が当たるかどうかは分からないが、現状からみればこの可能性が最も高いと思う。ただ政治には刻々と様々な要素が付け加えられるから、シナリオも刻々と変容する。そこが政治の面白いところで、従ってすべからく断定的には考えない。断定的に政治を見ると全て間違う事になる。小沢代表が早期の解散でも過半数を獲得できると確信する事情が生まれれば大幅延長をした後でも参議院で法案を否決、問責決議案を可決して解散に持ち込む可能性はある。また福田総理の方に海上給油の再開を先延ばしした方が得だという事情が出てくれば、大幅延長をせずに法案を通常国会に先送りする可能性もある。その時々見方は変えていかなければならない。

 ところで臨時国会が年をまたいで1月末まで延長された前例が一つだけある。14年前の128臨時国会である。細川内閣が提出した中選挙区制を小選挙区制に変える政治改革法案が野党自民党の反対で成立が危ぶまれていた。与党は会期を翌年の1月29日まで大幅延長したが、1月21日の参議院本会議で自民党に加えて社会党からも反対者が出て法案は118対130で否決された。そのまま会期末を迎えれば廃案となり細川総理は政治責任を問われる。総辞職か解散・総選挙が浮上する展開であった。

 このとき会期切れぎりぎりの前日に状況が動いた。1月28日深夜に行われた細川総理と自民党の河野洋平総裁による党首会談で局面が打開された。こうして現在の小選挙区制に道を開く政治改革法案が国会最終日に成立した。与党が野党自民党案に大幅譲歩した結果である。党首会談で細川総理の横にいたのは小沢一郎新生党代表幹事、河野総裁の横にいたのは森喜朗自民党幹事長である。この二人にとって年を越えた臨時国会の延長や与野党が全面対決している中での党首会談による局面打開など実は未体験ゾーンではない。経験済みの手馴れた政治手法なのである。

 これから小沢代表は民主党にとって最も有利なタイミングを見計らって解散に追い込む事を考えるだろう。与党はその小沢代表を無力化するか、大連立を組む以外にこの窮状を脱する方法はないのだが、今回の一連の結果として小沢代表を無力化すると政治の混迷が深まると確信したのではないか。政治というのは相手が自分と同じレベルでないと戦いのシナリオを書く事ができない。あうんの呼吸が分からない相手と戦うのは疲れるばかりで消耗だ。
 今回小沢氏が「恥を忍んで」民主党代表に復帰したことは、与党幹部から見れば唯一の話の通じる相手であり、かつ最も警戒すべき相手の再登場と映っているのではないか。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/3584

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.