Calendar

2007年7月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

Recent Comments

« 年金問題の闇
メイン
選挙の予測は当たらない »

見果てぬ夢のC-SPAN

 前回までのタイトル「国会TV縮刷版」が今回からは「国会探検」に変わった。

 理由は、私が日本初の政治専門チャンネルとして1998年に立ち上げた「国会TV」から私自身が身を引き、「国会TV」とは無縁になったからだ。

 以前「政治を育てるテレビ」でも紹介したが、私が「国会TV」を構想したのはアメリカの議会チャンネルC-SPANと出会ったことによる。議会チャンネルと聞くと議会の審議をただ垂れ流す国営放送のようなイメージを持っていたが、C-SPANはむしろジャーナリズムであることを前面に打ち出し、しかし既存のジャーナリズムとも一線を画すユニークな存在であった。

 「国が国民に議会見せる」のではなく、「国民が議会を監視する」ためのテレビだというのがC-SPANの根本哲学である。だから国から補助金はもらわない。どの委員会を放送するかも政党や政治家から指図されない。C-SPANが独自の考えで決める。批判されないことが「公平」ではない。国民の2割から「右寄り過ぎる」と批判され、別の2割から「左寄り過ぎる」と批判されることが「公平」だと言う。もちろん政治を面白おかしくデフォルメして視聴率を追及することなど絶対にやらない。視聴率追及は堕落の原因だと考えている。議会だけを放送する訳でもない。政治家に直接国民が電話で質問するスタジオ番組「コール・イン・ショー」を毎日放送している。

 しかし私が何よりも感心したのは、C-SPANが選挙権のない若者の政治教育に力を入れていたことである。全米の高校と大学を中継車が回って歩き、学生に政治討論をさせて放送する傍ら、教師には議会審議を教材に使うよう呼びかけていた。

 ちょうど冷戦体制が終わりを告げようとしていた頃、世界も日本も政治は大きな曲がり角を迎えていた。日本ではリクルート事件と消費税の導入によって国民の政治不信が頂点に達し、小学生が将来なりたくないと答えた職業に「政治家」があった。

 日本にもC-SPANのようなテレビが必要だ。そう思って知り合いの政治家、学者、ジャーナリストらに話をすると、みな賛同してくれた。ところがいざ「国会TV」を立ち上げようとすると思いがけない障害が次々に発生した。

 旧文部省に政治教育のためのテレビの必要性を話すと、「社会党と共産党の議員しか見せない先生がいますからね」と冷ややかに言われた。

 旧郵政省はNHKと民放の既得権益の擁護者だから新規参入を阻止するのが仕事である。

 日本にケーブルテレビや衛星放送の多チャンネルは永久に普及しない。だから法律で義務付けでもしない限りC-SPANのようなテレビは実現しないと言われた。

 国会事務局は奇怪なことを言った。「国会テレビが出来ると速記者が首になる」というのである。「そんなことはない」と言おうと思い調べてみると、日本の国会には異常なほど数多くの速記者がいることがわかった。どの国の議会でも1つの委員会に速記者は1人だが、わが国では同時に4人が速記を取り15分おきに交代する。なぜかと言えば速記者の養成学校が国会職員の唯一の天下り先だった。衆議院と参議院の職員が平等に天下りできるように衆議院と参議院で速記の字体をわざわざ変えて養成学校は2つもあった。

 そして旧大蔵省も国会TV絶対反対だった。なぜなら国会を事実上手のひらの上に乗せて政治のシナリオを書いてきたのは権力の中の権力といわれた大蔵省だからである。大蔵省が仕切る予算委員会は、だから数ある委員会の中でも特別の意味を持ち、NHKが予算委員会だけを中継するのもそのためである。国民は予算委員会が国会だと今でも思っている。外国の議会にも予算委員会はあるが日本のように特別の意味を持っているわけではない。

 放送を開始した当初から、「国会TVを民間がやるのはおかしい」、「国会の審議だけを放送しろ」、「国から補助金をもらえ」などと言われ続けたが、一方ではC-SPANが成り立つことが出来た「ベーシック・サービス」というビジネス・スキームが日本では訳のわからぬ理由で消滅してしまった。そのためCS放送では続けられなくなり、インターネットで事業を続けてきたが、ついに私の力ではどうすることもできなくなった。

 私が引いた後も「国会TV」は存続する。ただしC-SPANのような内容ではない。国会審議だけを放送するチャンネルとして再建を目指すことになった。私としては誠に残念だが致し方ない。

 C-SPANと同じようなテレビはアメリカに次いでイギリスに誕生し、アジアでは日本に先駆けて台湾に実現したが、日本では成り立つことが出来なかった。

 日本に議会が開設されたのは百年以上も前のことだ。東洋の島国に言論によって物事を決する仕組みができたのは奇跡だと言われている。明治天皇の五箇条のご誓文には「広く会議を興し、万機公論に決すべし」とあるが、坂本竜馬が「船中八策」にしたためたものがルーツとされている。竜馬に言論による政治を教えたのは誰か、歴史研究としても興味あるテーマだ。いずれにしても百年以上前の日本は議会先進国だったのである。

 ところが官僚支配が長く続くうちに日本では国会を軽視し、蔑視し、馬鹿にするような風潮が生まれた。これほど政治家を軽んじ、国権の最高機関と言われる国会が無視されている国も珍しい。

 例えば、わが国の国会には「秘密会」がない。外交の機密情報は国民の前に明らかにする訳にはいかないが、与野党の議員がその情報を知らなければ自国の存亡にかかわる重大な問題を論ずることは出来ない。だから各国の議会には「秘密会」が存在し、議員には秘密保持が義務づけられている。

 わが国の国会に秘密会がないということは、議員には国家の重要な機密情報が知らされていないことを意味する。官僚とごく一部の政治家だけが国家の命運にかかわる情報を握り続けている。情報を議員に知らせると、それが旧ソ連、中国、北朝鮮に筒抜けになるという理由で冷戦時代には官僚が情報を独占してきた。しかし冷戦が終わった今でもそれを引きずっているのはどうしたことか。

国会は国民の代表が集う国権の最高機関と言われながら、国民にはその実態が全く知らされない聖域となっている。この聖域を守ろうとする者にはC-SPANのように国会のあるがままの姿を映しだすテレビは困った存在だと思われたに違いない、

 C-SPANのようなテレビは様々な障害によってひとまず姿を消すことになった。しかし国会がいつまでも聖域のままで良いはずがない。これからは文章によって聖域の探検に乗り出すことにする。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/3548

コメント (5)

こたびの参議院選は民主党側が得れば日本に初めて2党政治のチェックが花開く重要な幾だからメディアはしっかり知らしめてくれな

(C-SPANなくなるとは残念だ音声だけでも発信できればいいのに)

HPがあのようになったので何か変化がと思ってましたが…。
国会TVで偶然、田中さんと知り合い。ここに至るまで色んな気持ちで応援もしましたが、最終結論がどのような経緯かは判りませんが、とりあえずご苦労様でした。A亭さんの言うように、ヒョットしたらあと僅かなとこまで(政権交代で動き出す…)と思っていた矢先でありました。それにしても、政治家さんの自分勝手さが判った次第でありました。若い代になったらよくなるかともかっては思いましたが、年代の差ではないのですね。選挙とはいえ、あまりにも相手側を攻撃する(冷静に見ていると直ぐ自分の事を棚に上げているのが判ってしまう)ようでは、なかなか救われないと考えてしまう。この人達に対して、真面目な国会TVをやろうとしてもなかなか結果は出ないのかもしれない。

放送のデジタル化の中で標準チャンネルとなったイギリスの「BBC Parliament」のように、日本でも地デジ化を契機に国会中継専門チャンネルができないものでしょうか。
デジタル放送は本来多チャンネル化が大きな利点のはずなのに、ハイビジョンばかりが利点として強調されています。田中さんが他のところで書いておられましたが、ハイビジョンの利点が誇大に宣伝され、放送局もコンテンツ供給の問題から、多チャンネル化よりハイビジョンを利点として強調しているように見えてなりません。
「日本版C-SPAN」、まだまだチャンスはあると思います。

技術的にはそうなんでしょうが、政治的環境が?最低でも政権交代、しかし、小沢さん的だとどうなるのか判らない。民主主義とか空気とか見えにくい物に対する評価ができない日本と言う事ではないでしょうか?数字に出るからといった単純なリストラをすると株価があがると言う事を追認した社会なのだから…。

「見果てぬ夢」,本当に残念でした

ね。郵政省も支援する雰囲気がな

かったし,自民党内でも少々意地悪

な議員がいて進みませんでした。

しかし田中さんは何時までも頑張

っているので嬉しいですよ。私は

日本で始めての政治資金規正法違

反で処罰されました。政界の上層

部に巻き込まれた感じでした,仕方

ありません。田中さんのご活躍を

お祈り致します。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.