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2007年2月28日

復党第二幕

安倍内閣の支持率低下が止まらない。共同通信、NHK、朝日新聞に続いて毎日新聞の世論調査でも支持と不支持が逆転した。就任直後に80%という高支持率を獲得しただけにその下落ぶりが一層際立つことになる。参議院選挙に勝つため国民的な人気を見込んで白羽の矢を立てた自民党にとっては「こんな筈ではなかった」との思いが強いだろう。

しかし本人はここまでくると逆に怖さがなくなり、迷うこともなくなったのではないか。当初は八方顔を立てて立ち位置も定まらなかったが、今では自分の思い通りにやろうと覚悟を決めたように見える。開き直りとも言えるが、本人にしてみれば、支持率が下がり始めてからというもの、総理経験者をはじめ会う人達がみな異口同音に「支持率など気にせずに自分の思い通りにやれ」と言い続けたのだから、その忠告に従っただけだと思っているかもしれない。

1月27日、柳沢厚生労働大臣が女性を「産む機械」と発言し、野党だけでなく与党内からも「辞任」を求める声が上がった。女性を敵に回しては選挙に勝てないとの判断だが、特に辞任を強く主張したのは参議院自民党と津島派の面々である。総主流体制の安倍政権に、久々に小泉時代を思い出させる角福戦争以来の党内対立の構図が現れた。2月1日、野党は予算委員会の審議を拒否して柳沢大臣の辞任を迫ってくる。間近に地方選挙も控えていた。女性を敵に回すという意味では、小泉政権下で支持率を激減させた田中真紀子外務大臣更迭劇と似た状況である。この時安倍総理は自ら党内を説得して辞任論を押さえに掛かり、柳沢厚労大臣擁護の決断をした。安倍総理としては支持率低下を怖れるよりも自らの任命責任につながるリスクを避けたいと判断したのだろう。

この決断の結果、2月4日投票の愛知県知事選挙は大勝するはずの与党推薦候補が予想以上に苦戦した。自民党内には不満がくすぶる。早期の内閣改造を促す声が永田町に流れ始めた。しかし安倍総理は翌5日に自民党の中川幹事長と会談して柳沢厚生労働大臣の続投を確認、6日には「続投は私の最終判断だ」と述べて辞任論や改造論を突き放した。

この辺りから去年の復党問題以来存在感が見えなかった自民党の中川幹事長が気になる言動を始める。5日に行われた安倍総理との会談では「リーターシップをどんどん発揮して欲しい」と総理の指導力に注文をつけた。その直後の記者会見では、共同通信社の世論調査で「首相に指導力がない」と答えた人が前月よりも大幅に増えたことに関連して、「この数字はしっかり受け止めるべきだ」と語った。7日夜には小泉前総理、竹中平蔵氏と会食した。8日には「若い人達が官邸に入っている。若いということは経験不足だ」と官邸の未熟さを指摘した。そして極めつけは18日に「閣僚には安倍首相に絶対的忠誠心と自己犠牲の精神が求められる。そうでない閣僚は官邸を去れ」と発言した。いかにもマスコミが飛びつきそうな言い方で、世間の耳目を集めようとする意図が明白だ。

これらの言動が何を意味するか。発言は「ほめ殺し」と似ている。安倍総理を支える発言のようで実は安倍総理の指導力のなさを印象づけている。また「指導力の発揮を求める」という言い方は、暗に内閣改造を求めているようにもとれる。中川幹事長は新聞記者の出身だから言葉の使い方についてはプロである。おそらく計算し尽くして発言しているに違いない。そしてこの時期に小泉、竹中両氏と会食してみせたのは、自分のバックに小泉前総理がいることを示す必要があったということだ。

これに対して安倍総理は19日夜、「心配していただく必要はない」と中川発言を切り捨てた。総理と幹事長とのやりとりとしては相当にただならぬ気配を感じさせる。

もともとこの二人、就任当初から微妙な関係にあった。安倍総理は総裁選挙を戦った麻生太郎氏を幹事長にしたいと考えていた。それを翻意させ、中川幹事長を実現させたのは森元総理である。問題なのはその話が表に出たことだ。安倍総理が幹事長人事で自分の意志を貫くことが出来なかったという話は、安倍総理の権力者としての資質を疑わせ、指導力のなさを天下にさらした。皮肉だが指導力のなさが中川幹事長を誕生させたと言える。     

就任直後、中川幹事長は総理の中国訪問に力を尽くし、安倍政権はロケットスタートを切ることが出来た。当初の高支持率は中川幹事長の力によるところが大きい。そこまでは良かった。しかし復党問題で二人の関係は決定的になる。安倍総理がこの問題を中川幹事長に丸投げしたところから問題が複雑になった。党内では小泉前総理を始めとする小泉支持勢力が復党に反対である。賛成なのは参議院自民党を中心とするかつての反小泉勢力。しかし安倍総理にとっては郵政造反組の中にこそ思想信条の近い同志がいて復党させたい。この複雑な方程式をどう解くか。中川幹事長自身は小泉前総理と同じ立場だから、踏み絵を踏ませ、白旗を掲げさせることを条件に復党を認めることにした。そのため安倍総理が最も復党させたかった平沼赳夫衆議院議員は復党を拒否、直後にストレスが高じたためか脳梗塞に倒れた。安倍総理としては悔やんでも悔やみきれない結末となった。この復党問題のごたごたをきっかけに安倍政権の支持率低下が始まった。

2月20日、中川幹事長はついに小泉前総理の登場を求める。国会内の控室で中川幹事長、石原伸晃幹事長代理が同席する中、小泉前総理は塩崎恭久官房長官に「目先のことに鈍感になれ。鈍感力が大事だ」と述べるとともに、「改革に終わりはない。抵抗勢力に配慮しすぎると思われているから、改革イメージが後退している」と安倍政権が小泉改革の継承者の役割を十分に果たしていないと苦言を呈した。

こうした中川幹事長の一連の動きに対する安倍総理の回答は、「郵政造反組で落選中の衛藤晟一前衆議院議員を復党させよ」という指示だった。安倍総理に強い指導力を求めた中川幹事長が受け入れざるを得ない事を逆手に取り、まさに直球勝負の球を投げ込んできたのである。中川幹事長は復党問題で支持率が低下したことを理由に、昨年の衆議院選挙落選組の復党を参議院選挙後に先送りする考えを示していたが、岐阜選挙区では藤井孝男前衆議院議員の無所属での参議院選挙出馬に対して自民党が推薦する決定を下していた。青木幹雄参議院幹事長との手打ちの結果だと言われている。これに抗議して公認候補であった大野つや子参議院議員は出馬見送りを決めた。

衛藤晟一氏の復党指示はいったん収まっていた復党問題を再び蒸し返すことになった。復党させる理由を安倍総理は、「自分と同じ考えを持っているから国造りに参加して貰うのは当然」と述べている。そうであれば平沼赳夫氏も復党出来なければおかしい。中川幹事長が昨年末に決めた復党の条件は有名無実になったも同然である。

一方、安倍総理の指示は連立を組む公明党にも衝撃を与えた。衛藤氏の地元で自民党票をあてにしていた公明党は衛藤氏が参議院比例区に出馬を予定していることに猛反発、衛藤氏が大分では選挙活動を行わないと表明しても、すぐには怒りが収まりそうにない。
       
安倍総理の一球はすさまじい破壊力を秘めた一球になるかもしれない。

小泉総理は「自民党をぶっ壊す」と言って国民の支持を集め、自民党内の抵抗勢力を排除することで、結果として自民党を選挙で大勝させたが、安倍総理は支持率低下にひるまずに小泉総理に排除された同志を復党させることで、自民党と公明党の党内に不満の種をまいている。今年夏の選挙結果次第では、不満のマグマが噴き出して政界を揺るがす再編のきっかけを作るかもしれない。「自民党をぶっ壊す」ことになるかもしれない復党第二幕がどのような展開を辿るのか興味津々である。

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3月1日夜9時の「政治ホットライン」は北方領土面積二等分論の提唱者公明党の高野博師参議院議員にじっくり北方領土問題を語ってもらいます。2日の「言いたい放題・金曜ナイト」は毎日新聞編集委員の村田昭夫氏が出演、3月株価暴落説と安倍政権の経済政策について聞いてみようと思います。

2007年2月21日

国会TV映像ダイジェスト「政治ホットライン」

今回は民主党の大塚耕平参議院議員をお招きして、今国会の民主党の論点を聞いた。大塚議員は、元日銀マンであり、民主党金融政策検証委員長、参議院財政金融委員を務めている。民主党は今国会の大きなテーマのひとつである「格差」をどのようにとらえているのか。また、自民党の所得格差への取り組みとの違いをどのような論点で追求していくのか?などについて金融通で、財政に詳しい大塚議員に詳しく話しを聞いた。

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国会TVの視聴は年額¥10,500・月額¥945<税込>です。
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2007年2月20日

続・問題発言

 国会ではその後も柳沢発言を巡って追及と謝罪が続いている。発言の不適切さは本人も認めているわけだから、発言について追及しても謝罪が繰り返されるだけで生産的な議論にはならない。

 発言の不適切さをひとまず横に置いて見ると、問題は将来の年金財源をどのようにして確保するかという点にある。現在の年金制度では現役世代が支払う保険料を財源に充てることになっているから、少子高齢化が進めば制度が維持できなくなるのは明白である。それをどのようにして乗り越えるかを政治は説明しなければならない。しかし納得のいく説明がないために「どうせ自分たちが年金受給年齢になる頃には、制度は崩壊していて年金を受け取ることなど出来ない」と考える若者が多い。そのせいか年金保険料を支払わない国民が4割にも達している。

 この危機的状況をどう解消するか。柳沢大臣は「女性に頑張って子供を産んでもらう」必要性に言及した。現役世代の数を増やそうという訳だ。ではそのために政治は何をすべきか、女性に「頑張ってもらう」だけなのか、他に政治がやるべき事はないのか、国民としてはそこのところを議論してもらわないと困る。

 そう思っていると、2月13日に国会TVの番組に出演した民主党の大塚耕平参議院議員が同様の事を言った。「柳沢発言は問題点がずれてしまっている」と発言したのである。
 
 大塚議員は日本銀行出身で参議院財政金融委員会に所属しているいわば財政金融のプロだが、その大塚議員は
 
 「将来の苦しい財政をどうするかというときに、一つは働き手を増やす。もう一つは財政の無駄を省くという方法がある。柳沢大臣は前者だけを言って、後者のことに言及していない。問題にすべきはその点だ」と言って、こう続けた。
 
 「現在、国と地方の予算は合わせて300兆円あるが、その2割は削ることの出来る無駄な経費だと言われている。つまり60兆円が削減可能と言うことになる。完全に無駄をなくすことが出来なくとも努力すれば少なくも10兆円は出てくるのではないか。10兆円と言えば消費税分に当たる。それを財源に充てれば当面消費税の税率を上げなくとも社会福祉は充実できる」。

 かつて民主党は年金の基礎的部分を全額消費税によってまかなう考えを表明したことがある。消費税の増税を主張したわけで、勇気ある決断と評価された。
 
 1988年に消費税導入を決めた竹下政権は短命に終わり、その後の参議院選挙で自民党は歴史的敗北を喫した。その後消費税3%を5%に上げた橋本政権も参議院選挙に敗れて退陣を余儀なくされた。以来、これらの選挙敗北がトラウマとなって日本の政界では消費税がタブー視されることになった。

 しかし世界の先進諸国では福祉の財源として間接税導入は常識である。それがなければ福祉大国にはなれない。小さな政府をめざし、「福祉は悪だ」と考えるアメリカでも、ジェームズ・ベーカー元国務長官などは「所得税をやめて消費税だけにすることが最も公平な究極の税制かもしれない」と発言したことがある。民主党は世界の常識に従い、政界のタブーに挑戦する勇気を示したのである。

 ところが民主党が昨年末にまとめた「政権政策」では、かつての主張を変更し、消費税の増税に否定的になったことが明らかになった。参議院選挙を意識するあまり節操をなくしたのではないか。党内にも批判の声があると言われている。
 
 その事について大塚議員はこう説明した。
 
 「確かに7、8年前には消費税を上げることが正しいと思ったし、それを打ち出したことで民主党の人気が上がった面もある。しかしこの7,8年で状況は全く変わってしまった。まず医療、年金、介護など全ての面で国民負担が増えた。定率減税も廃止された。これだけ国民負担が増えれば消費税を上げる状況ではなくなってしまっている。一方では官製談合に象徴されるように税金の無駄遣いが次々に明らかになった。まずは税金の無駄遣いをなくすことから始めるべきではないか。将来の少子高齢化を考えれば消費税を上げることはいつか必要になるとは思う。しかし今ではないということだ」。

 「国と地方の財政の無駄をなくせば少なくも10兆円の財源が出てくる」。
 
 それが民主党の政策の前提になっている。しかしそれは可能なのか。霞ヶ関の各官庁と地方公共団体に本当に斬り込むことが出来るのか。それを質すと、
 
 「出来るか出来ないか、それは我々に政権を取らせてみるしかない。我々はやると言っているのだから、一度やらせてみたらどうか」という答えが返ってきた。

 そうであるならば民主党は少子高齢化社会にどう立ち向かうかのグランドデザインを、力を入れて国民に発信すべきだ。選挙目当てに消費税額アッブを断念したという話ばかりが伝えられている。柳沢発言をそうしたメッセージを発信するための絶好の機会ととらえて大いに利用すべきではないか。頭を下げさせているだけではそれこそ「もったいない」。

 おそらく柳沢大臣の罷免を実現させれば政権に大打撃を与えられると思ったのだろうが、安倍政権がそこまで追い込まれれば、それが打撃にならないだけのサプライズ人事を断行する可能性もある。私が安倍総理なら柳沢氏の後任に厚生大臣経験者である小泉純一郎氏を任命する。本人は嫌がるだろうが、小泉前総理には安倍政権を作った任命責任がある。三顧の礼ならぬ九顧の礼ぐらい尽くして口説けばあり得ない話ではない。小渕元総理は総理経験者である宮沢喜一氏を「平成の高橋是清」として大蔵大臣に任命したことがある。
 
 民主党が参議院選挙で与党過半数割れを実現しても、それですぐさま政権が交代するわけではない。安倍政権の政権運営が不安定になり、自民党内の権力闘争に火がついて、「政界再編」に結びつく様々な動きが出てくるという事で、民主党が政権交代を実現するためにはまだ一山も二山も乗り越えなければならない山がある。
 
 その民主党が国民に「一度やらせてみたい」と思わせるためには、政権を揺さぶるだけではなく、やはりしっかりとした日本の将来設計を機会ある毎に発信し続けることが必要なのだ。

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2月23日(金)の「言いたい放題・金曜ナイト」にはインサイドライン編集長の歳川隆雄氏が出演します。支持率低下がとまらない安倍政権の行方、6カ国協議の成果と拉致問題の今後、チェイニー来日の裏側などを話して貰います。皆さんも質問をどうぞお寄せ下さい。

2007年2月14日

国会TV『アメリカを読み解く』ダイジェスト

今回の国会TVダイジェストは「アメリカを読み解く」です。ゲストはアメリカ文化に詳しい越智道雄明治大学教授です。アメリカの文化、風俗、歴史など様々著作を書かれてきた越智氏がこのほどアメリカとユダヤ文化の関係を30のキーワードで読み解く新著「新ユダヤ成功の哲学」を書かれました。今回はこの本で記された、アメリカ史の中で重要な役割を果たしてきたユダヤ人とその文化についてお聞きしていきます。

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2007年2月12日

問題発言

 「アメリカ人は怠け者だと日本の総理大臣が国会で発言した」とアメリカのメディアが報道して大問題になったことがある。
 
 1992年の通常国会のことで、発言したのは宮沢喜一総理大臣である。宮沢総理は、当時のアメリカ社会が「ものづくり」よりも「マネーゲーム」に力が入っていることを、「アメリカの労働の倫理観に疑問を感じる」と予算委員会で発言したが、それが「怠け者発言」と報道された。
 
 当時は日本製の自動車や電気製品が集中豪雨的にアメリカに輸出され、貿易摩擦が日米間の最大の問題であったことや日本経済がバブルの最盛期であったのに対してアメリカ経済は不況のどん底だったことから、発言はアメリカ人の怒りに火をつけた。
 
 ジャパン・バッシングが起こり、「戦争に勝ったのはどっちだ」、「世界最新鋭の兵器を作れる労働者が怠け者なのか」といった発言から、「もう一度原爆を投下しないと日本人は反省しない」と恐ろしいことを言い出す上院議員まで現れて、アメリカ社会の怒りはなかなか収まらなかった。

 もともとこの報道はアメリカのメディアが国会を傍聴して記事を書いた訳ではない。日本のメディアが宮沢発言を「アメリカ人は怠け者」と表現したのにアメリカのメディアが飛びついたもので、私は発言の全てをそのままアメリカ社会に発信すれば誤解が解けるのではないかと思ったが、現実には「怠け者」という言葉だけが一人歩きしていた。

 ちょうど私がアメリカの議会専門チャンネルC-SPANの配給権を取得した直後の出来事だったので、私はC-SPANに呼びかけて日米双方向の衛星討論番組を企画し、その中に宮沢総理の発言の全容を挿入して全米に放送しようと考えた。衛星会社JSATが協力してくれて2時間の衛星討論番組が実現した。東京にある伊藤忠商事の社内スタジオとワシントンDCのC-SPANスタジオに日米の政治家を招き、両者の討論を全米1000のケーブルテレビ局と日本の80のケーブルテレビ局に生中継して、日米それぞれの視聴者から電話で意見を受け付けることになった。

 日本側の出演者である加藤紘一官房長官(当時)は、アメリカ国民の怒りを鎮めようと冒頭から弁解に努める一方、アメリカ社会のすばらしさを賛美し続けたが、アメリカの視聴者からかかってきた電話はどれもこれも怒りどころか極めて冷静で、身構えていたこちらが拍子抜けするものだった。
 
 「騒いでいるのはメディアと政治家だけ。メディアと政治家の言うことをそのまま信じるのは危険です。彼らは商売でやっているだけですから。我々の地域には日本人が住んでいて、日本人がどういう人たちかは分かっています。こんなことで関係が悪くならないようにする事の方が大事です。それより小錦(KONISHIKI)が横綱になれるかどうかの方に関心があります。外国人だからと言って差別はしないで下さい」
 
 概ね以上のような内容の電話がアメリカ各地の視聴者からかかってきた。メディアに乗せられるのが大衆だと思っていた私は大衆に対する考えを改めなければならないと思った。

 今年1月に「女は産む機械」という柳沢発言が報道されたとき、「何をバカなことを」とまず思った。次に「柳沢大臣を罷免したくとも今の安倍政権にそんな余裕はない。それは出来ないだろうが、辞めさせないと火種を抱え込むことになってこれも苦しいなあ」と政局の行方に思いを巡らした。その後で「何故そんなことを言ったのか」を考えた。

 すぐに思ったのは人口調査をしている専門家の中に人を無機化して考える習性があるのではないかという想像である。遺族にとってはかけがえのない遺体も毎日扱っている葬儀屋にとってはただの物体でしかないように、日々出生率の統計を扱っている専門家には出産可能な女性たちを「装置」に例える事が日常化していて、説明を受けた柳沢大臣の頭の中にその言葉が残っていたのではないかと思ったのである。だから許されるという訳ではないし、想像は当たっていないかもしれないが、すぐにはそう思った。
 
 その後の新聞報道によると、過去10年間の国会の答弁議事録を調べた結果、柳沢氏の発言には「機械」や「装置」に例える例が多いという。
 
 2月7日に国会TVに出演した評論家の金子仁洋氏は、「唯物史観教育のせいだ」と言った。「人は死ねばゴミになる。人は働く機械」という思想はマルクス・レーニン主義の唯物史観だというのである。戦後の大蔵省にはマルクス・レーニン主義の影響が色濃くあり、だから金持ちを作らない税制、平等社会を作ることに力点が置かれた。そのことが格差のない一億総中流の国を作り、旧ソ連や中国から「日本はマルクスの理想を実現した国家だ」と賞賛されたが、一方では官僚支配の規制だらけの社会を実現させた。現在の日本政治に課せられた最大の課題は官僚支配からの脱却である。柳沢氏は大蔵省の官僚出身だから唯物史観の影響を受けていたというのが金子氏の見方だった。

 ところで報道された柳沢発言の問題のくだりを読むと、年金の将来を考えると少子化の解消のために女性に頑張ってもらわないといけないという文脈で、その中で女性を「産む機械」に例えている。「女性は産む機械だ」と言った訳ではないが、問題なのはむしろ少子化を解消する役割を女性だけに負わせるようにとれるところにある。
 
 少子化の原因の根本的な部分は経済にあって、子供を産まなくさせた大きな契機として日本では石油ショックとバブル経済後のリストラの影響が指摘されている。柳沢大臣もそれを知らないはずはなく、政治の責任も大きいわけだが、柳沢大臣の講演の全容が分からないので真意については何とも判断が出来ない。

 ところがそのうちに「産む機械」が一人歩きを始めた。

 テレビのコメンテーターが口々に「こんなひどい大臣は辞任すべきだ」と言い、街頭でインタビューされる大衆も同様の意見を述べていたが、そのうち「国民はみな怒っている」という話になった。野党は予算委員会冒頭から審議拒否に入るという。愛知県知事選挙と北九州市長選挙は柳沢発言の影響で野党に有利になると言う話まで出てきた。そうなるとちょっと待てよと言う気になる。

 「メディアや政治家の言うことをそのまま信用はしない。自分の頭で考える」と言ったアメリカの視聴者とは違って、納豆ダイエットが放送されれば、翌日には全国の店頭から納豆が消えてしまうという国の国民だから、自分の頭で考える前にメディアと政治家に乗せられてしまうのではないか。それが気になって知り合いの普通のオバさんたちに聞いてみた。みんな「バカな事言ったよねえ」とは言うが、すごく怒っているかと言えばそれほどでもない。国会TVにかかってくる視聴者からの電話も、「怒っている」、「それほどでもない」の両方だった。

 テレビでは在日外国人にインタビューして「欧米ならばあり得ない発言で辞任は当たり前だ」と発言させる。それはそうだと私も思うが、「欧米なら審議拒否などあり得ない」とは言わせない。私は「女性は産む機械」発言が海外に伝えられることも恥ずかしいが、野党が審議拒否をしている事が伝えられればそちらの方も恥ずかしい。日本が議会制民主主義の国かどうかが疑わしいと思われるからだ。

 先進民主主義の国で与党が選挙公約に掲げたことを実行するのに野党が議会で物理的に抵抗して阻止しようとする国などない。与党には思う存分にやらせる。国民が支持したのだから当然の話だ。その結果国民にまずいことが起きてくればそれを批判し、次の選挙で勝利を狙う。それが野党のやるべき事である。物理的抵抗をして法案の成立を阻止しようというのは政権を取ろうとする野党のやることではない。

 かつての社会党は過半数の候補者を立てることをしない政党だった。つまり政権交代を狙ってはいないわけで、労働組合のようにストライキをして修正を勝ち取る事だけを目標にしていた。与党に代わって国家の経営に当たろうという気はなく、難しいことは与党に任せ、その与党と取引をする事だけをやってきた。だから国会が開かれる度に審議拒否を行ってきたのである。審議拒否によってほとんどの法案は議論のないまま成立することになり、そのうち審議復帰を促すために与党の国対から金が流れるようになった。それが55年体制末期の国会の姿である。社会党を野党と呼んできたメディアもお粗末だが、それを信じてきた国民も愚かだったと言うことになる。

 90年代に入って政治改革が急務となり、やっとこの国にも政権交代を目指す野党が現れた。ところがその野党が今度の問題では国会冒頭から審議拒否に入ってしまったのである。おそらく国民がみな怒っていると読み違えて勝負に出たのだろう。後になって民主党の小沢代表は「もっと女性が怒ると思ったのに」と国民の方に不満をぶつけたが、むしろ世の中の空気が読めていなかったことを反省すべきではないか。政権を取るためには自分たちの周辺だけでなく、全国津々浦々の空気を読めなければならないのだから。

 審議拒否以上に驚いたのは、この問題で愛知県知事選挙と北九州市長選挙が著しく影響を受けるという話である。一体、地方政治と柳沢発言がどう関係するというのだろうか。
 
 政党にとって選挙は党利党略そのものだから、政党が柳沢発言を利用しようとするのは理解できる。しかしメディアがそれで大騒ぎするのは、何を考えているのだろうと思ってしまう。地方選挙に柳沢発言を利用しようとする党利党略をやんわり批判するとか、茶化してみせるなら分かるが、地方政治のことは全く触れずに、ひたすら柳沢大臣の首が飛ぶか飛ばないかの一点での報道振りにはあきれ返るしかなかった。

 選挙の結果は与野党1勝1敗に終わった。柳沢発言が発覚する以前に予想されていた通りで、形の上での影響はなかったが、野党は予想以上に票を伸ばした。
 
 メディアの大騒ぎの結果、仮に与党が愛知県知事選挙を落としていたら、おそらく柳沢大臣は責任をとって自ら辞表を出したと思う。それを機に安倍総理は小幅な改造人事を行い体制固めを図っただろう。選挙の敗北と主要閣僚の辞任は安倍政権にとって絶体絶命の危機となり、自民党内には安倍降ろしの風が吹き荒れることになったかもしれないが、それは安倍政権が総主流体制のぬるま湯から抜け出て背水の陣をしく事を意味し、逆に政権の緊張感と強さを高めたかもしれない。
 
 しかそうはならずに安倍政権はこれまで通りの体制で通常国会と統一地方選挙、参議院選挙に突き進むことになった。諸々の火種と不安材料を抱えたままの政権運営である。こちらの方が苦労の道といえるかもしれない。

 一方の小沢代表は、柳沢大臣が辞任しなかったことで、内心にんまりしているかもしれない。辞任していれば一過性で終わった話が、これから何度も使えることになる。
 
 国会冒頭で審議拒否という第一波の揺さぶりをかけ、野党に不利になる直前にそれを終わらせ、今度は次の揺さぶりのタイミングを見計らっているに違いない。ボディ・ブローのような戦法だ。
 
 しかし小沢代表のなりふり構わぬ選挙至上主義は、ともすると党内や国民の批判を招きかねない。審議拒否など「普通の国」ではありえない異常な手段なのだから、あまり策を弄しすぎると、策士策に溺れることにもなる。

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2月13日(火)の夜9時から「政治ホットライン」に民主党の大塚耕平参議院議員が出演します。
利上げを見送った日銀の金融政策。安部政権の「上げ潮戦略」。愛知県知事選挙の内実など話して貰います。

2007年2月 9日

国会TVダイジェスト『政局放談』2月2日放送

今回は民主党衆議院議員の馬淵澄夫氏をお迎えし、柳沢発言で揺れる国会の舞台裏、民主党の対応について、お聞きしました。

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国会TVの視聴は年額¥10,500・月額¥945<税込>です。
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2007年2月 3日

国会TVダイジェスト『政局放談』12月20日放送

今回は1月23日に生放送した、『言いたい放題金曜ナイト』をダイジェストでお送りいたします。ゲストはNY私立大学教授の霍見芳浩氏をお迎えし、アメリカの政治状況について、お話をうかがいました。

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Profile

田中良紹(たなか・よしつぐ)

-----<経歴>-----

1945年宮城県仙台市生まれ。
1969年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年(株)東京放送(TBS)入社。
ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。
1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。
2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

BookMarks

日本初の政治専門チャンネル!
↓ ↓ ↓
国会TV
http://kokkai.jctv.ne.jp/

-----<著書>-----


『裏支配─いま明かされる田中角栄の真実』
2011年1月、電子書籍


『メディア裏支配─語られざる巨大マスコミの暗闘史』
2005年3月、講談社

-----<編書>-----


『憲法調査会証言集─国のゆくえ』
2004年7月、現代書館

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