10月9日に北朝鮮が地下核実験を強行し、北東アジアの安全保障問題がにわかに世界の大テーマとなった。
北朝鮮の核疑惑が注目され始めたのは、旧ソ連邦が崩壊し冷戦に終止符が打たれた1991年以降のことである。当時のアメリカはおよそ半世紀にわたる冷戦体制が終わったことで、世界がどう変わるのか、新しい世界を構築するために何をすべきかを徹底議論していた。
「国会TV」ではアメリカの議会専門チャンネルC-SPANの映像素材を使い、連邦議会やシンクタンクの議論を「冷戦後のアメリカは何を議論してきたか」と題して放送している。
今回はその中から北朝鮮の核問題についてアメリカがこれまでどのような議論を積み重ねてきたのかを紹介したい。
冷戦の時代とは米ソの核競争の時代であり、核の抑止力によって熱い戦争は回避されてきた。しかし旧ソ連が崩壊したことでソ連の管理下にあった核物質や核技術が拡散する恐れが出てきた。一方、世界で一箇所だけ冷戦が終わっていない朝鮮半島では、実験用原子炉を使って北朝鮮がどのような核開発を行っているのか、実態はまったく秘密のベールに包まれていた。アメリカにとって北朝鮮の核が大きな懸念となった。
1991年11月25日、アメリカ連邦議会上院外交委員会公聴会
■ゲーリ-・ミルホリン(発展途上国の核拡散を監視している非営利法人「ウィスコンシン核兵器管理プロジェクト」会長)
「この4年間で北朝鮮は核爆弾2発から5発分のプルトニウムを抽出している。それをレーガン政権は何もせずに放置してきた。5年前に対応しておくべきだった。査察を北朝鮮に認めさせるべきだ。認めなければ経済制裁を行う。軍事行動は韓国と日本に放射能被害を与えるのでやるべきでない」
■ジョセフ・チャーバ(国際安全保障評議会会長)
「北朝鮮が査察に応じても安心はできない。抜け道はある。北朝鮮が核を持てばこ の地域は不安定になる。北朝鮮がプルトニウムを抽出しているのは中東のテロ国家に核兵器を売却する目的があるからだ。アメリカと北朝鮮の関係改善はうまく行かない。国交正常化は誤りだ。北朝鮮に外交交渉は通用しない。イスラエルがイラクに対して行ったように先制攻撃以外に有効な手段はない。兵器製造施設、生産施設、ミサイル発射台を先制攻撃できる権利を有すると宣言すべきだ。放置すれば危険が増して先制攻撃はできなくなる」
■ジェレミー・ストーン(米国科学者連盟会長)
「北朝鮮は極端な経済不振で、国民は満足に食べられない。したがって経済制裁でも十分に効果が期待できる。軍事行動は韓国に被害を与えることになり賛成できない。金日成が核開発を断念すれば、韓国から核兵器が撤去され、アメリカは北朝鮮承認に傾き、日本からは経済援助が供与されることをわからせるべきだ」
この公聴会の1ヶ月後、南北政府は朝鮮半島の非核化に合意し、北朝鮮は核拡散防止条約の保障措置協定に調印した。IAEA(国際原子力機関)の査察も受け入れることになり、事態は好転したかに思われた。ところが1994年、IAEAの査察が始まると北朝鮮はこれに協力せず、最終的にIAEAを脱退する。3月に板門店で行われた南北会談で北朝鮮代表が「ソウルを火の海にする」と発言し、北朝鮮有事が現実的な問題となる。
1994年6月9日、アメリカ連邦議会下院外交委員会公聴会
■ゲーリー・アッカーマン外交委員長(民主・ニューヨーク州)
「北朝鮮は何故査察を拒否したのか」
■ロバート・ガルーチ(政治・軍事担当国務次官補)
「北挑戦は核を持っているにしろ、いないにしろ、曖昧にしておくことが最良の戦略だと思っている」
■トム・ラントス下院議員(民主・カリフォルニア州)
「日本は国連の制裁に消極的という記事がニューヨーク・タイムスに出ている。25万人にのぼる在日北朝鮮人の存在が北朝鮮への送金停止などの制裁を難しくさせるのではないか」
■ロバート・ガルーチ(政治・軍事担当国務次官補)
「韓国、日本とアメリカは堅固な提携関係を築いており、両国ともクリントン政権の制裁方針に反対していない」
■ゲーリー・アッカーマン外交委員長(民主・ニューヨーク州)
「マケイン上院議員は北朝鮮の原子炉が停止中の今こそ、攻撃するのが一番良いと主張している」
■ロバート・ガルーチ(政治・軍事担当国務次官補)
「マケイン上院議員は施設だけでなく使用済み核燃料も破壊しようと主張しているが、破壊できる保証もないし、そのことが核分裂や何らかの副産物を生み出さない保証もない。話し合いで北朝鮮を国際社会に復帰させる可能性があるうちは最善をつくす。現時点での軍事行動は行き過ぎだと思う」
6月15日、カーター元大統領が電撃的に北朝鮮を訪問、金日成主席と会談を行い、軽水炉を提供する見返りに核開発計画の凍結で合意する。北朝鮮の暴発はいったん回避されたが、カーター訪朝には批判の声が上がった。
1994年6月21日、ヘリテージ財団シンポジウム
■カール・ジャクソン(元国家安全保障会議アジア局長)
「金日成は朝鮮戦争を仕掛けたごろつきで、カーター元大統領が考えるような紳士ではない。核武装することで安全と生き残りを得ようとする北朝鮮軍部に対して、核武装は存続を危うくすると思わせる必要がある。そのためには何らかの軍事行動が必要だ。クリントン政権は核拡散問題が来世紀にも影響する決定的に重要な問題であることを国民に示すべきだ」
■リチャード・アレン(元国家安全保障会議議長)
「北朝鮮を支えているのは中国からの石油と食料、それに日本からの資金の流入である。日本は厳しい経済制裁には及び腰になるのではないか」
■ラリー・ニクシュ(議会調査局アジア担当)
「日本の協力が得られない場合、将来日本が安全保障上の危機に瀕した場合、アメリカの支援は得られないと日本側にはっきり伝えるべきである。今こそ日本は腹をくくるべきだ」
■カール・ジャクソン(元国家安全保障会議アジア局長)
「最も危険なのは核爆弾の存在ではなく、北朝鮮首脳部がアメリカは直接行動に出ないと思い込むことだ」
94年7月8日、カーター訪朝から1ヶ月もたたないうちに金日成主席が死去した。米朝枠組み交渉や韓国の金泳三大統領との南北首脳会談の直前の急死により金正日が後継者となったが、南北首脳会談は流れた。
1994年7月12日、「共和党の未来プロジェクト」シンポジウム
■ドナルド・グレッグ(元駐韓大使)
「金日成-カーター会談で金日成から南北首脳会談の申し入れがあったことは重大な意味がある。直前の6月7,8日には大変危険な兆候があった。しかし危機は回避された。金正日がどんな人物かはわからないが偉大な人物が二代続くことはない。しばらくは金日成の路線が続くはずだ。我々はそれを利用すべきだ」
■ジョン・マケイン上院議員(共和・アリゾナ州)
「私はその考えに反対だ。金日成が核を持とうとしている目的は一つ。金王朝の存続だけだ。ルーマニアのチャウシェスク体制が崩壊したのを見て恐ろしくなり核武装を考えた。核燃料は現在冷却水の中にあってしばらく動かせない。今攻撃すべきだ。戦争になる危険性があるというが、イスラエルがイラクの核施設を攻撃したときにもその危険性はあった。しかし世界中があの攻撃に感謝しているではないか」
1994年10月7日、AEIシンポジウム
■ニコラス・エバースタット(AEI客員研究員)
「アメリカはかつては北朝鮮に核拡散防止条約の全面実施を求めていたが、今では軽水炉の建設を支援し、50万トンの重油を提供しようとしている。そして北朝鮮は核拡散防止条約加盟国なら当たり前のことを求められているだけだ。これでは北朝鮮にアメリカの意図を読み違いさせる危険性がある。朝鮮戦争は金日成がアメリカの介入はないと読み違えて賭けに出た。その結果400万人が犠牲になった。金正日はロシアにおける共産主義の崩壊を一時的なものと見ており、西側の真似をして改革を受け入れたのが原因だと思っている。湾岸戦争でも北朝鮮はアメリカが戦争に踏み切るとは思っていなかった。北朝鮮はこれからますます読み違いをする可能性がある」
1994年9月からジュネーブを舞台に行われた米朝の交渉は、北朝鮮が核開発計画を凍結する見返りに、アメリカが2基の軽水炉建設に資金を提供し、軽水炉が完成するまでの間、毎年50万トンの重油を提供することで合意に達し、10月21日米朝枠組み合意が調印された。
1994年に勃発した朝鮮半島の危機は、米朝枠組み合意によって解決されたかに見えたが、問題が解決されることは全くなかった。やがて新たな危機が訪れる。