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2011年7月 8日

節電の夏は本を読んでしのぐのだ。

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 うんざりする。何もかにも。

 「3/11」は、私たち日本人にとって「9/11」どころではない「切断点」=世界が変わった日、だと思っていた。この巨大な悲劇の、重さが、汲み取るべき教えが、意味が、人間の営みへの謙虚な自省が、社会が、経済が、文化が、地域が、土着が、歴史が、矜持が、戦後が、何もかも恐ろしい勢いで「空無化」されていく。<戦後>から<災後>へと時代が変わったのではなかったのか。この期に及んで、何という情況だ。

 誠実であろう。身近な大切なひとと話をしよう。時間をもっと大事にしよう。そして、本を読もう。さいわい「3/11」以降、よい本にめぐりあえた。

 在米の日本人が書いた<戦後>に関する2冊。青木富貴子さんの『昭和天皇とワシントンを結んだ男』(新潮社)は、元「ニューズウィーク」東京支局長、コンプトン・パケナムの日記を入手した筆者の執念の戦後史の裏面を追った調査報道の素晴らしい成果だ。パケナムを軸に、ハリー・カーン、昭和天皇の側近・松平康昌、鳩山一郎、岸信介らの織りなす点と線を丹念に追う情熱に舌を巻く思いだ。

 この本とは対照的な文体で書かれた室謙二の『天皇とマッカーサーのどちらが偉い?』(岩波書店)も、実に面白いエピソードにあふれた戦後史本だ。べ平連というユルい市民組織に所属していた室さんが、自分史を追うことで戦後の一側面が浮かび上がってくる。室さんはその後、アメリカ人になった。In-betweenの視点というものが、ものごとを考えるときにどれだけ自由を与えてくれるか。そのことをこの本は証明してくれている。Rigidではなく、歴史を語ること。この本にも大いに魅了された。

 「3/11」を共有した私たちが「この神話的な破壊を叙述することばをさっぱりもちあわせていない」と喝破したのは作家の辺見庸だった。その「3/11」に向き合った、あるいはあらかじめ向き合っていた本にも出会った。とりあえずの3冊。

 『津波と原発』(講談社)は何ともベタなタイトルだが、ノンフィクション作家・佐野眞一の「3/11」に対峙する思いは、突き抜けている。その通りだ、現場にも行かずに何がジャーナリストだ。「今回の大災害を論評する連中の言葉には、被災者たちの沈黙に匹敵するだけの重みも深みもなかった」(本書より)。この怒りを原点に現場に突き進み等身大の言葉を紡ぎだす佐野の姿勢に、ひとまず、負けてたまるか、とも思う。対照的に、辺見庸の『水の透視画法』(共同通信社)は、故郷・石巻の壊滅的被災の状況を、遠く離れた場所から、体の不自由さを抱えながら、時事刻々と知り、ただただ慟哭するしかなかった筆者の、あらかじめの向き合いと、その後の向き合いの書である。「その前後」で、かくも一貫した人間がいることを示した書物があるだろうか。福島市在住の高校国語教師、和合亮一の『詩の黙礼』(新潮社)は、圧倒的な破壊の現実に対して、ただただ「黙礼」するしかない人間の言葉が連なる。「黙礼。 祈るしかない。 見えない津波」(本書より)。これは詩だろうか。いや、詩なのだ。

 上記の本を読み連ねる間に、僕はカズオ・イシグロの『私を離さないで』(ハヤカワepi文庫)を読んでいた。僕にとって「3/11」後の現実に、ひょっとして最も釣り合っていたと感じたのは、この本だったのかもしれない。

 ふたたび、現実へ。僕の横にあるテレビが言っている。「・・・・・・原発再稼働への不安から、電力会社株が軒並み値を下げています・・・・・・」

Profile

金平茂紀(かねひら・しげのり)

-----<経歴>-----

1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりアメリカ総局長としてニューヨーク勤務。コロンビア大学東アジア研究所の客員研究員。2010年9月に帰国。10月より同局「報道特集」キャスター兼TBSテレビ執行役員。

BookMarks

-----<著書>-----

ブログが本になりました!
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『NY発 それでもオバマは歴史を変える』
2010年11月、かもがわ出版


『報道再生 グーグルとメディア崩壊』
2010年12月、角川書店


『報道局長業務外日誌』
2009年6月、青林工藝舎


『米原万里を語る』
2009年5月、かもがわ出版、共著


『テレビニュースは終わらない』
2007年7月、集英社

人気のWeb日誌、出版!
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『ホワイトハウスから徒歩5分』
2007年6月、リトル・モア


慶應義塾大学出版会、部分執筆


『ジャーナリズムの条件4』
2005年5月、岩波書店、部分執筆


『従軍のポリティクス』
2004年7月、青弓社、部分執筆


『二十三時的』
2002年11月、スイッチパブリッシング

『電視的』
1997年12月、太田出版

『ロシアより愛をこめて』
1995年3月、筑摩書房

『世紀末モスクワを行く』
1994年12月、パルコ出版

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