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それでも「農業改革 民間議員の提案を生かせ」か

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5月8日、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)のグローバル化改革専門調査会から第一次報告「グローバル化の活力を成長へ」なるものが発表された。その第一部は「EPAの加速、農業改革の強化」について。日経は「農地取得 株式と交換で」(8日)などとあたかも政府決定であるかのように伝えているが、あくまで同調査会の「EPA・農業ワーキンググループ」による「提案」である。また朝日は10日の社説「農業改革 民間議員の提案を生かせ」で、「高関税と競争制限で農産物の価格を高く保ち、消費者の負担で農業を保護してきた。それをやめ、代わりに財政資金で農業者の生活安定を図るのが、国際的にも認められる新しい農政だ。値下がりで消費者が受ける利益を具体的に示すなら、財政負担に理解を得やすい」などと持ち上げている。まるで善意の民間議員が「意欲と能力がある担い手」と「消費者」のために農業改革を提案しているような書き方で、そこにはEPAのEの字もない。

グローバル化改革専門調査会第一次報告

◇EPAとFTA
EPAは「経済連携協定」で、2国間または複数国間でルールを定め経済交流を緊密化する。関税撤廃による貿易自由化を中心とするFTA(自由貿易協定)に対し、EPAは投資や知的財産権保護のルール作りなど、幅広い分野の連携強化も含む。日本はタイなど6カ国とEPAを署名済みで、今年4月からは農産物輸出大国としては初の相手となる豪州との交渉が始まった(5月9日・毎日新聞)。

調査会の報告をひと言で言うと「アメリカやヨーロッパとのEPA締結のために、関税などの農産物の国境措置を撤廃しろ」ということ。そんなことをすればただでさえ低い食料自給率は限りなくゼロ%に近づくし、国内の農地は荒廃地だらけになるのは目に見えている。あからさまにそうは言えないから「農業の大規模化や株式会社の農業参入でコストの削減」「所有と利用の分離で耕作放棄地ゼロをめざす」などと粉飾しているにすぎない。

第一、「コメなど土地利用型の農業では、細切れの農地を意欲と能力がある担い手に集めれば、生産コストが下がって競争力が高まる」などとノー天気に書いている朝日の論説委員氏に言いたいのだが、インターネットで公開されている「EPA・農業ワーキンググループ議事要旨」くらい目を通した上で「社説」をお書きになったらどうか。

EPA・農業ワーキンググループ議事要旨

今年2月20日の第3回会議では、ゲストスピーカーとして招かれた、石川県の「株式会社ぶった農産」社長の佛田(ぶった)利弘さんがこんな発言をしている。ほかならぬ「株式会社」で「大規模」(24ヘクタール)に稲作を営む人の発言であることを念頭において、読んでいただきたい。

――コメの生産費の1時間当たりの労賃だが、15ヘクタールで1時間当たり1,600円である。4枚目の一番右側を見て頂くと分かるが、15ヘクタール以上で1俵当たり1万2,522円かかっている。つまり、1,600円の時給で2,000時間働くと、320万円しか所得が得られないわけである。政府が目標としている500万円なり700万円の場合、コメのコストはどうなるかというと、15ヘクタール以上でも1万5,000円ぐらいになる。現に私のところは1万5,500円かかっている。そのときに、この2枚目の中段にある直接所得補償を、国境措置をなくしたときにどれだけできるのか。多分、6,000円ぐらいの米価になるのではないかと推察しているが、そのとき1万円近い直接支払いが限りなくできるのかどうかという問題である。

――水田というのは水系社会だから、みんなで水路や農地基盤を莫大なボランタリーなエネルギーで管理している。それはお金に換算するととんでもない力で農地や水路を管理しているわけである。そういう人たちがいなくなったときに、我々のような専業経営だけでその莫大な面積を管理できるか。そうすると、またコストにはね返ってくる。それは、基本的には1万5,000円の中に含まれていない。それも含めて直接所得補償ができるのかどうかということだと思う。それがずっと続けてできるのであれば、やって頂ければ構わないが、私は、多分、財政上、非常に無理がある問題で、ある一定の国境措置は絶対に必要だと思う。

――経済学的に見ればそういうことかもしれない。しかし、現在において、今おっしゃった考えで誰が退出しなければならないかというと、それは私であるとか駒谷さんであろう。兼業経営が日本の稲作の大宗を占めている、もしくは人件費を無視した生産を行っている、もしくはコストを無視した生産を行っているという実態がある。(中略)だから、おっしゃるとおりにやれば、我々が先に退出してしまうことに対して、逆にご質問させてもらうが、どういうふうにしたらよいのか。手だてがないというのが実態だと思う。

「駒谷さん」とは、同じくゲストスピーカで招かれた、北海道長沼町で100ヘクタールの農場で米のほか、ジャガイモ、カボチャなどを栽培する駒谷農場の駒谷信幸さんである。これまで「細切れの農地を集めて」大規模化してきた「意欲と能力のある」佛田さんや駒谷さんが、国境措置が撤廃されると兼業農家より先に退出してしなければならない事態になることについて、「逆にご質問させてもらうが、どういうふうにしたらよいのか」と質問しているのである。

kokkyou.jpg

この国境措置が撤廃されたら、日本の農業はどうなってしまうのか、農水省はつぎのように試算している。

○国内農業生産の減少 ▲約3兆6千億円
(農業総産出額の約42%に相当。とくに米は現在2兆円程度の算出額のうち、1兆8200億円が外国産に置き換わってしまう)

○国内総生産(GDP)の減少 ▲約9兆円

○就業機会の喪失 ▲約375万人

○食料自給率の低下 40% → 12%

○耕地面積の減少 272万ヘクタール(約6割)の減

この試算に対して、EPA・農業ワーキンググループメンバーの反応はすさまじい。
たとえば同グループ主査で早稲田大学大学院教授の浦田秀次郎氏の意見。

――(自給率は)きのうの試算だと12%まで下がる。その数字の信憑性はともかくとしてかなり下がるだろう。これに対して、余り昨日は正面から向かって議論しなかったが、いかがか。それでもいいのだという意見ももちろんある。一方、だからこそEPAをやるのだ、つまり、食料供給源を多角化して、自分たちの仲間をつくって安定供給をしてもらえるような関係をつくるのがEPAだろうという考え方もある。

――自由化が行われれば、生産が減る、それにより所得も減る、雇用機会も減るということである。ただ、自由化の効果はある程度の期間を持ってみないといけない。確かに雇用機会が失われる人は出てくるだろう。ただ、その人はずっと雇用機会を失われているわけではなく、例えば訓練とか教育を受ければ、今日本の農業従事者に高齢者が多いのは問題であるが、理論的に言えば、そういう人たちも新たな雇用機会は与えられる可能性がある。つまり、1年後にはこの人たちは失業していないかもしれない。

自給率の低下なんて知ったことではない。それより海外とのネットワークで安定供給してもらったほうがよい。離農した農家も、失業した食品産業の労働者も、1年くらい訓練、教育を受ければ、「失業していないかもしれない」と突き放す。

それからグループメンバーで東京大学大学院教授の本間正義氏の意見。

――それから、農地の証券化。これはみんながやる必要はないのであり、株式会社が入って株券で渡すから農地をよこせと言えばいい。だから、そのような動きがもっと出てくればいい。しかもうちの企業は今後農業をやってもうかるよと。そうすると、今渡した株券が上場でもすれば価値が出てくるというような動きの中で、株式会社の導入等を含め、個別の企業が株と交換に農地を取得するような動きがどんどん出てくればよい。

「株を渡すから農地をよこせと言えばいい」と言ってのける感性――こんな人間観、職業観の持ち主のみなさんがつくった「農業改革」案である。それでも朝日のように「農業改革 民間議員の提案を生かせ」でいいのか。上記お二方のホンネは「自由貿易促進のためには日本に農家も、農業も、農村もいらない」であろう。それでも「生かせ」と言えるのか。たった7、8人のメンバーが、わずか2時間×9回=18時間の会合でまとめた案に、食と農の未来がゆだねられるのか。

また、宮城大学事業構想学部教授、大泉一貫氏の意見にいたっては、農水省提出資料の誤読が根拠になっているようだ。

―― 農林水産省の資料は、国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響についてということだった。中身は3兆6,000億円の農業生産額が減少し、食料自給率が40%から12%へ減少し、担い手は構造改革によってマキシマムで42万経営が想定できるという話だった。ただ、この3兆6,000億円の減少に関していうと、実は1990年から2005年までの、およそ15年の間に3兆円の産出額が、現実に減少している。ここで考えなければならないのは、国境措置のあるなしにかかわらず、構造改革の遅れにより、今後3兆円強の産出額の減少は十分に可能性があるということである。

――構造改革の目標を考える際、農林水産省試算で私が注目しておきたいのは、この減少額ではなく、4兆9,000億円残るという推計の方である。 農林水産省は総産出額を8兆5,000億円で試算されているが、実際は統計を見ると8兆9,000億円ぐらいある様なのだが、農林水産省の先週のデータ8兆5,000億円をベースに試算すると、8年後に42万経営で4兆9,000億円の―シェアは8割と言っているので―8割を担うとすれば、1経営当たり933万円の産出額になる。

――8割ではなくて10割だとすると、1,167万円になる。マクロでの現状の農業産出額を確保するとすれば、構造改革により、40万経営の産出額を倍、つまり1経営2,000万円に高める必要がある。とすると、全産出額は8兆円になり、それが8割のシェアだとすると、国全体では9兆円強の産出額になる。食料自給率もはたまた国内総生産も就業機会も、いずれも向上することになる。

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国境措置撤廃でも、生き残った40万経営が4兆9000億円をシェアすれば1000万円農家が誕生し、産出額を倍にすれば9兆円の産出額を回復するというご意見。それもまさに机上の数字合わせにすぎないと思うが、あれ、農水省試算「国境措置が撤廃されたら」のどこに「42万経営」と書いてあったかと思って探したが、どこにもない。それがあるのは、(農水省が)「目指す農業の姿」という資料の中の「目指す農業構造の姿」――「現在、10数万程度と推定される、農業所得が他産業並みの経営体を10年後には集落営農経営や法人経営もあわせて40万程度に増やすことを目指している」。そこは国境措置撤廃を前提にした箇所ではない。つまり大泉氏は、「国境措置が撤廃されたら」の資料と、「国境措置の存在が前提」のデータをごちゃまぜにして、「生き残った40万経営が4兆9000億円をシェアすれば1000万円農家が誕生」と計算しておられるようだ。

おまけに、ごていねいにもこんなことまで言っておられる。

――4兆9,000億円を農林水産省の試算だと40万の経営体で担うわけである。1経営体1,200万円強の産出額になる。では、そこからどうやって増やすかということを考える農政をやれば楽しい農政になるのではないかと思う。

別に農水省の肩を持つわけではないが、誤読を論拠に「楽しい農政になるのではないかと思う」と言われてもなあ……。

ただ見過ごせないのは「およそ15年の間に3兆円の産出額が、現実に減少している。ここで考えなければならないのは、国境措置のあるなしにかかわらず、構造改革の遅れにより、今後3兆円強の産出額の減少は十分に可能性があるということである」とのご発言。この15年の間に、何があったのかは本来農業経済学ご専攻の大泉氏ならばご存知のはず。95年には食管法が廃止され、同年にウルグアイラウンドによるミニマムアクセス米の強制輸入が始まり、98年からは自主流通米の値幅制限が撤廃されるなどの「市場原理的改革」により、米の生産者価格が半分近くまで下落し、一俵あたり約1万円の減収になって、近代化・規模拡大した稲作農家ほど苦しんでいるというのが現状ではないか。むしろ構造改革、市場原理の導入によって、農業の産出額は減少してきたのではなかったか(その逆境の15年間に、全国で1兆円近い売り上げを実現してきた女性・高齢者による農産物直売所のたたかいは、むしろ「半商品」の原理で市場経済に風穴をあけるものだった)。

3月5日のこのコーナー「田んぼを、米を、農家を、あきらめない」で紹介した「鳴子の米プロジェクト」。それは、地域のみんなで1俵2万4000円で米を買い支え、農家には1万8000円を保証し、差額6000円で、後継者を育成したり米にまつわるさまざまな仕事を開発していこうというもの。1俵2万4000円は、一膳24円。

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一膳24円と同額の食べもの

――一膳24円の米を高いと言う心がある限り、日本の米、農業はよくなりませんよ。

「鳴子の米発表会・春の鄙の祭り」のとき、総合プロデューサーの結城登美雄さんが言った言葉である。ワーキンググループの議論は、「11円にします」「6円にしろ」「いや5円だ」というようなもの。耕し、種をまき、育て、刈り取る人への感謝と敬意はどこにもない。それでいて「5年で耕作放棄地ゼロを目指す」という。それが「EPAの加速、農業改革の強化」報告である。それでも「農業改革 民間議員の提案を生かせ」と言えるのか。

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コメント (1)

バイオ燃料の原料に品種改良された砂糖米のような種が日本の水田自然環境を継続させていけるかもと。」
砂糖キビと稲の遺伝子組替え種。か 交配種がいにきまってるが交配できるかな

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甲斐良治(かい・りょうじ)

-----<経歴>-----

1955年宮崎県生まれ。
九州大学経済学部卒。
社団法人・農山漁村文化協会(農文協)「増刊現代農業」編集主幹。
『定年帰農 6万人の人生二毛作』『田園住宅 建てる借りる通う住まう』『田園就職 これからは田舎の仕事が面白い』『帰農時代 むらの元気で「不況」を超える』の「帰農4部作」で、1999年農業ジャーナリスト賞受賞。
その後も『青年帰農』『団塊の帰農』『若者はなぜ、農山村に向かうのか』などの「帰農シリーズ」で新しい農的生き方を追究するとともに、「地元学」(ないものねだりではなく、あるもの探し)による各地の地域づくりにかかわる。
都市と農山漁村の共生・対流推進会議運営委員、100万人のふるさと回帰支援センター・里山帰農塾講師。
建築家・石山修武氏、民俗研究家・結城登美雄氏と「21世紀型農村研究会」05年に結成。

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