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2007年5月24日

ラーメンを食べてきたと言ったら上司と同僚から罵声が飛んできた…

「週刊朝日」6月1日号に、「厚労省『メタボ』副大臣武見敬三のダイエット秘話――『冷蔵庫を開けると妻と娘から罵声が飛んできた…』」が掲載されている。リードに「ちょっと太めの武見敬三副大臣(55)が厚生労働省のホームページ上でダイエット日記『メタボ退治』をスタートしたのは昨年12月。あれから半年――副大臣はマニフェスト(?)どおり、ついにダイエットに成功した。有限実行した今だから語れる、愛と涙と笑いの舞台裏」とあるように、内容はウエスト100.5㎝だった武見副大臣が専門家のアドバイスと家族の励まし(ときには罵声)によって5カ月でウエスト3.9㎝減に成功したというホノボノ記事なのだけど、前回レポートした「健康保険のメタボ連動制?」との関係でちょっと「?」の記述があったので、指摘したい。山口編集長どの、よろしく。

 ちょっと気になった「?」の記述は以下。

「厚生労働省は来年4月から保健指導や特定健診を実施することを決めた。これは40~74歳の被保険者を対象に、予防医療としてのメタボリックシンドローム等の該当者や予備軍が保健指導を受けられるというもの」

「受けられる」と、まるで保健指導や特定健診が被保険者にとっての「特典」であるかのようなニュアンス。前回ここに「さらに平成25年度からの実施をめどに、保険者別に健診達成率、メタボ改善率で後期高齢者医療費の支援拠出金が、加算・減算される」とさらっと書いてしまったのだが、やや詳しく書くと以下のような仕組み(といってもネットで調べた程度なので、間違っているかもしれません。誤りがあったらどしどしご指摘ください)。

まず特定健診や特定保健指導がはじまる来年度は「後期高齢者医療制度」スタートの年でもある。後期高齢者とは75歳以上。健保からも国保からも、その赤字の原因である老人医療が切り離される。医療費の本人負担は1~3割。もちろん、それで後期高齢者の医療費をまかないきれるわけがなく、残り7~9割のうち、1割を本人負担の保険料、約5割を公費(国4・都道府県1・市町村1)、残り約4割を「後期高齢者医療支援金」でカバーする。問題なのはこの後期高齢者医療支援金で、下記のメタボ対策目標値と連動して、保険者ごとに、この支援拠出金が加算・減額される。

1、特定健康診査の実施率(受診率)
 ・平成24年度の受診率が60%以上
 ・平成27年度の受診率が80%以上
2、特定保健指導の実施率
 ・平成24年度の対象者の45%以上
3、メタボリックシンドロームの該当者及び予備軍の減少率
 ・平成24年度のメタボ該当者・予備軍は平成20年度よりもメタボの該当者・予備軍よりも10%以上減
4、メタボ該当者とは、腹囲(ウエスト)男性85㎝以上・女性90㎝以上で、中性脂肪、血圧、血糖値のうち2項目以上が異常値の者。予備軍とは腹囲が基準以上で1項目が異常値の者。

加算・減額の幅はそれぞれ最大20%。もし特定健診、保健指導、メタボ該当者・予備軍の「目標値」が達成できなければ最大20%のペナルティを課されるわけで、そうなればメタボ該当者・予備軍はペナルティの元凶とみなされるわけだから、特定健診や保健指導は「週刊朝日」で書かれているような「受けられる」ニュアンスではなく「受けろ」に近く、「冷蔵庫を開けると妻と娘から罵声が飛んできた…」どころではなく、太めの社員が「昼飯にラーメンを食べてきた」などと言おうものなら上司や同僚(あるいは後輩)から罵声が飛んでくる事態が出来しかねないのである。

さらに各健康保険組合における、特定健診、特定保健指導のアウトソーシングや、健康保険組合と後期高齢者医療支援金をリンクさせるシステム開発もビッグビジネスということで、4月17日には日本IBM、インテル、シャープなどの企業や経産省商務情報政策局医療・福祉機器産業室長、厚労省健康局生活習慣病対策室長が参加して、「国際パーソナル・テレヘルス・シンポジウム」が開催されている。

シンポジウムの主催者「コンティニュア・ヘルス・アライアンス」は米国の「インテル株式会社を始め20社ほどの企業が集まり、健康管理ソリューションのためのテクノロジー・スタンダードを策定する業界団体」。昨年11月に結成されたその「日本地域委員会」には、下記企業をはじめ、67社が参加しているという。

エー・ アンド・デイ、アストラゼネカ、Avita、バクスター、BodyMedia、ボストン・サイエンティフィック、シスコシステムズ、デル、GE ヘルスケア、IBM、iMetrikus、インテル コーポレーション、Kaiser Permanente、コナミスポーツ&ライフ、メドトロニック、Microlife、モトローラ、Nautilus、Nonin、オムロン ヘルスケア、オラクル、松下電器産業、Partners HealthCare、ファイザー、Polar Electro、ロイヤルフィリップスエレクトロニクス、Precor、プライスウォーターハウスクーパース、RMD Networks、ロシュ、サムスン電子、シャープ、シーメンス、テクノジム、Telus、The Tunstall Group、Welch Allyn、Zensys、テキサス・インスツルメンツ……

――メタボリックシンドローム関連市場規模は、予防、診断分野だけでも1兆円を超え、改善・治療分野を含めると7兆5000億円を超える(矢野経済研究所「メタボリックシンドローム関連市場に関する調査結果」2007年5月9日)。

 だれのための、なんのための、メタボ対策、特定健診、特定保健指導、後期高齢者医療制度か、もうおわかりですよね。

2007年5月21日

健康保険のメタボ連動制?

19日のこのコーナーに書いた「社会保険の食生活連動制」――「自治体ごとに、連動用の予算枠を設け、食生活のよい家庭の保険料の全部ないし一部を肩代わりする」「(食生活は)インターネットやデジタル・カメラで記録、虚偽をしないよう、抜き打ち的な監視を行政が担当し、通常の記録は消費者に負担させる」――について、小さな勉強会で話題にしたら、メンバーの一人が「それに類することで、すでに現実化しているものがある」と言うので驚いた。

それはいわば「健康保険のメタボ連動制」。「生活習慣病予防の徹底」の達成のためとして、来年(平成20年度)4月より厚生労働省が40歳~74歳までの年齢層への特定健診・特定保健指導を医療保険者(企業)に義務付けた(4月25日決定)。

特定健診とは、企業などの定期健診に、生活習慣病を招く「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)の診断基準となる腹囲(へそ回り)測定を追加すること。
 そして「要注意」のウエストサイズ(男性:85センチ、女性:90センチ以上)、
 かつ①中性脂肪またはHDLコレステロール②最大血圧または最小血圧③空腹時血糖値のうち2つがが一定値以上であれば「メタボリックシンドローム」とする。

そして標準化されたプログラムに基づき全医療保険者の責任で行なう特定保健指導を行なう。ただし、この指導は保険者が健診・事後指導の実施についてアウトソーシングすることができ、経団連は「積極的にアウトソースを選択し、病院、診療所や民間企業等が蓄積してきた技術・知識を活用することは、保険者が自ら事業を行なう場合と比べてより効果的・効率的な事業実施が見込める等、大きなメリットがある」などと歓迎している。特定健診・特定保健指導がビジネスチャンスになるととらえているのだ(経団連は平成17年9月、すでにオムロン、花王、味の素、三菱電機などからなる「ヘルスケア産業部会」を設置している)。さらに平成25年度からの実施をめどに、保険者別に健診達成率、メタボ改善率で後期高齢者医療費の支援拠出金が、加算・減算される。

まさに「アウトソーシングされた身体の国家管理」である。
それと同様、神門氏の「食の国家管理」が民間にアウトソーシングされ「特定食育指導プログラム」によって行なわれる日はすぐそこまで来ているのかもしれない。

鍼灸ジャーナリストの松田博公氏は「真の医療とは常に、人間の自ら癒す能力を不能化し、誇りを失わせ、消費者として医療産業に従属させる文化に対抗し、自ら癒し、生活を律し、暮らしを立て直す文化闘争であったはずである。現代医療の病院システムの崩壊に直面しているわたしたちは、その制度的弥縫策への虚しい期待にとどまることはできない」と指摘している(「江戸養生文化の奥深い世界――日本の医療はどこから再出発すべきか」週刊読書人07年1月26日号)。

消費者ではなく当事者としての「わたしたちレベル」での食文化闘争、医療文化闘争がなければ、食も、身体も、国家と企業の思うがまま「利益の源泉」にされてしまう。

2007年5月19日

社会保険料の食生活連動制?

神門善久『日本の食と農 危機の本質』(NTT出版)という本を読んでいたら、著者ご本人が「ビスマルクが世界に先んじて年金制度を導入したような、社会的発明」と自賛する「社会保険料の食生活連動制」という「提言」があった。

どんな発明かというと、「子供の食生活を正すためには、まず大人(親)が食生活を正さなくてはならない」。

うん、それは私も正しいと思います。だから、「増刊現代農業」でも、『おとなのための食育入門』というのを出しましたし、先だっては鹿児島県で「鹿児島・大人のための食育セミナー」という催しも開かれるなど、「おとなの食育」の動きは広がっています。

「食育などでいくら情報を提供したとしても、食生活の改善は期待できない」。

えっ、じゃあ、どんな方法が……?

「現実的な対応としては、社会保険料(介護保険を含む)に食生活を連動させることを提唱したい。自治体ごとに、連動用の予算枠を設け、食生活のよい家庭の保険料の全部ないし一部を肩代わりするのである。場合によっては全額以上、つまり報奨金を払ってもよい。食生活がよければ健康を害する危険性が減る(看護や医療のための社会的負担が減る)わけだし、将来世代への恩恵にもなるから、この発想は理にかなっているだろう」

でも、どうやって各家庭の食生活を把握するんですか? 

「消費者に証明責任を分担させる必要がある。幸い、現代はインターネットやデジタル・カメラなど記録用の技術はずいぶんよくなっている。虚偽をしないよう、抜き打ち的な監視を行政が担当し、通常の記録は消費者に負担させる。証明責任を分担しない消費者には、高い保険料を払ってもらう」

その家庭の食生活がよいかどうかは、どう判断するんですか?

「食の安全・安心に万人が納得する基準がないのと同じように、何がよい食生活なのかも、人によって判断が異なるだろう。だからこそ、市民参加で討論をしていく必要がある」

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ちなみに神門氏は総合規制改革会議の農業班専門委員も務められた明治学院大学経済学部教授(農業経済学)。『日本の食と農』は「サントリー学芸賞受賞!」という帯がついているので、トンデモ本ではないようです?

2007年5月16日

それでも「農業改革 民間議員の提案を生かせ」か

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5月8日、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)のグローバル化改革専門調査会から第一次報告「グローバル化の活力を成長へ」なるものが発表された。その第一部は「EPAの加速、農業改革の強化」について。日経は「農地取得 株式と交換で」(8日)などとあたかも政府決定であるかのように伝えているが、あくまで同調査会の「EPA・農業ワーキンググループ」による「提案」である。また朝日は10日の社説「農業改革 民間議員の提案を生かせ」で、「高関税と競争制限で農産物の価格を高く保ち、消費者の負担で農業を保護してきた。それをやめ、代わりに財政資金で農業者の生活安定を図るのが、国際的にも認められる新しい農政だ。値下がりで消費者が受ける利益を具体的に示すなら、財政負担に理解を得やすい」などと持ち上げている。まるで善意の民間議員が「意欲と能力がある担い手」と「消費者」のために農業改革を提案しているような書き方で、そこにはEPAのEの字もない。

グローバル化改革専門調査会第一次報告

◇EPAとFTA
EPAは「経済連携協定」で、2国間または複数国間でルールを定め経済交流を緊密化する。関税撤廃による貿易自由化を中心とするFTA(自由貿易協定)に対し、EPAは投資や知的財産権保護のルール作りなど、幅広い分野の連携強化も含む。日本はタイなど6カ国とEPAを署名済みで、今年4月からは農産物輸出大国としては初の相手となる豪州との交渉が始まった(5月9日・毎日新聞)。

調査会の報告をひと言で言うと「アメリカやヨーロッパとのEPA締結のために、関税などの農産物の国境措置を撤廃しろ」ということ。そんなことをすればただでさえ低い食料自給率は限りなくゼロ%に近づくし、国内の農地は荒廃地だらけになるのは目に見えている。あからさまにそうは言えないから「農業の大規模化や株式会社の農業参入でコストの削減」「所有と利用の分離で耕作放棄地ゼロをめざす」などと粉飾しているにすぎない。

第一、「コメなど土地利用型の農業では、細切れの農地を意欲と能力がある担い手に集めれば、生産コストが下がって競争力が高まる」などとノー天気に書いている朝日の論説委員氏に言いたいのだが、インターネットで公開されている「EPA・農業ワーキンググループ議事要旨」くらい目を通した上で「社説」をお書きになったらどうか。

EPA・農業ワーキンググループ議事要旨

今年2月20日の第3回会議では、ゲストスピーカーとして招かれた、石川県の「株式会社ぶった農産」社長の佛田(ぶった)利弘さんがこんな発言をしている。ほかならぬ「株式会社」で「大規模」(24ヘクタール)に稲作を営む人の発言であることを念頭において、読んでいただきたい。

――コメの生産費の1時間当たりの労賃だが、15ヘクタールで1時間当たり1,600円である。4枚目の一番右側を見て頂くと分かるが、15ヘクタール以上で1俵当たり1万2,522円かかっている。つまり、1,600円の時給で2,000時間働くと、320万円しか所得が得られないわけである。政府が目標としている500万円なり700万円の場合、コメのコストはどうなるかというと、15ヘクタール以上でも1万5,000円ぐらいになる。現に私のところは1万5,500円かかっている。そのときに、この2枚目の中段にある直接所得補償を、国境措置をなくしたときにどれだけできるのか。多分、6,000円ぐらいの米価になるのではないかと推察しているが、そのとき1万円近い直接支払いが限りなくできるのかどうかという問題である。

――水田というのは水系社会だから、みんなで水路や農地基盤を莫大なボランタリーなエネルギーで管理している。それはお金に換算するととんでもない力で農地や水路を管理しているわけである。そういう人たちがいなくなったときに、我々のような専業経営だけでその莫大な面積を管理できるか。そうすると、またコストにはね返ってくる。それは、基本的には1万5,000円の中に含まれていない。それも含めて直接所得補償ができるのかどうかということだと思う。それがずっと続けてできるのであれば、やって頂ければ構わないが、私は、多分、財政上、非常に無理がある問題で、ある一定の国境措置は絶対に必要だと思う。

――経済学的に見ればそういうことかもしれない。しかし、現在において、今おっしゃった考えで誰が退出しなければならないかというと、それは私であるとか駒谷さんであろう。兼業経営が日本の稲作の大宗を占めている、もしくは人件費を無視した生産を行っている、もしくはコストを無視した生産を行っているという実態がある。(中略)だから、おっしゃるとおりにやれば、我々が先に退出してしまうことに対して、逆にご質問させてもらうが、どういうふうにしたらよいのか。手だてがないというのが実態だと思う。

「駒谷さん」とは、同じくゲストスピーカで招かれた、北海道長沼町で100ヘクタールの農場で米のほか、ジャガイモ、カボチャなどを栽培する駒谷農場の駒谷信幸さんである。これまで「細切れの農地を集めて」大規模化してきた「意欲と能力のある」佛田さんや駒谷さんが、国境措置が撤廃されると兼業農家より先に退出してしなければならない事態になることについて、「逆にご質問させてもらうが、どういうふうにしたらよいのか」と質問しているのである。

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この国境措置が撤廃されたら、日本の農業はどうなってしまうのか、農水省はつぎのように試算している。

○国内農業生産の減少 ▲約3兆6千億円
(農業総産出額の約42%に相当。とくに米は現在2兆円程度の算出額のうち、1兆8200億円が外国産に置き換わってしまう)

○国内総生産(GDP)の減少 ▲約9兆円

○就業機会の喪失 ▲約375万人

○食料自給率の低下 40% → 12%

○耕地面積の減少 272万ヘクタール(約6割)の減

この試算に対して、EPA・農業ワーキンググループメンバーの反応はすさまじい。
たとえば同グループ主査で早稲田大学大学院教授の浦田秀次郎氏の意見。

――(自給率は)きのうの試算だと12%まで下がる。その数字の信憑性はともかくとしてかなり下がるだろう。これに対して、余り昨日は正面から向かって議論しなかったが、いかがか。それでもいいのだという意見ももちろんある。一方、だからこそEPAをやるのだ、つまり、食料供給源を多角化して、自分たちの仲間をつくって安定供給をしてもらえるような関係をつくるのがEPAだろうという考え方もある。

――自由化が行われれば、生産が減る、それにより所得も減る、雇用機会も減るということである。ただ、自由化の効果はある程度の期間を持ってみないといけない。確かに雇用機会が失われる人は出てくるだろう。ただ、その人はずっと雇用機会を失われているわけではなく、例えば訓練とか教育を受ければ、今日本の農業従事者に高齢者が多いのは問題であるが、理論的に言えば、そういう人たちも新たな雇用機会は与えられる可能性がある。つまり、1年後にはこの人たちは失業していないかもしれない。

自給率の低下なんて知ったことではない。それより海外とのネットワークで安定供給してもらったほうがよい。離農した農家も、失業した食品産業の労働者も、1年くらい訓練、教育を受ければ、「失業していないかもしれない」と突き放す。

それからグループメンバーで東京大学大学院教授の本間正義氏の意見。

――それから、農地の証券化。これはみんながやる必要はないのであり、株式会社が入って株券で渡すから農地をよこせと言えばいい。だから、そのような動きがもっと出てくればいい。しかもうちの企業は今後農業をやってもうかるよと。そうすると、今渡した株券が上場でもすれば価値が出てくるというような動きの中で、株式会社の導入等を含め、個別の企業が株と交換に農地を取得するような動きがどんどん出てくればよい。

「株を渡すから農地をよこせと言えばいい」と言ってのける感性――こんな人間観、職業観の持ち主のみなさんがつくった「農業改革」案である。それでも朝日のように「農業改革 民間議員の提案を生かせ」でいいのか。上記お二方のホンネは「自由貿易促進のためには日本に農家も、農業も、農村もいらない」であろう。それでも「生かせ」と言えるのか。たった7、8人のメンバーが、わずか2時間×9回=18時間の会合でまとめた案に、食と農の未来がゆだねられるのか。

また、宮城大学事業構想学部教授、大泉一貫氏の意見にいたっては、農水省提出資料の誤読が根拠になっているようだ。

―― 農林水産省の資料は、国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響についてということだった。中身は3兆6,000億円の農業生産額が減少し、食料自給率が40%から12%へ減少し、担い手は構造改革によってマキシマムで42万経営が想定できるという話だった。ただ、この3兆6,000億円の減少に関していうと、実は1990年から2005年までの、およそ15年の間に3兆円の産出額が、現実に減少している。ここで考えなければならないのは、国境措置のあるなしにかかわらず、構造改革の遅れにより、今後3兆円強の産出額の減少は十分に可能性があるということである。

――構造改革の目標を考える際、農林水産省試算で私が注目しておきたいのは、この減少額ではなく、4兆9,000億円残るという推計の方である。 農林水産省は総産出額を8兆5,000億円で試算されているが、実際は統計を見ると8兆9,000億円ぐらいある様なのだが、農林水産省の先週のデータ8兆5,000億円をベースに試算すると、8年後に42万経営で4兆9,000億円の―シェアは8割と言っているので―8割を担うとすれば、1経営当たり933万円の産出額になる。

――8割ではなくて10割だとすると、1,167万円になる。マクロでの現状の農業産出額を確保するとすれば、構造改革により、40万経営の産出額を倍、つまり1経営2,000万円に高める必要がある。とすると、全産出額は8兆円になり、それが8割のシェアだとすると、国全体では9兆円強の産出額になる。食料自給率もはたまた国内総生産も就業機会も、いずれも向上することになる。

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国境措置撤廃でも、生き残った40万経営が4兆9000億円をシェアすれば1000万円農家が誕生し、産出額を倍にすれば9兆円の産出額を回復するというご意見。それもまさに机上の数字合わせにすぎないと思うが、あれ、農水省試算「国境措置が撤廃されたら」のどこに「42万経営」と書いてあったかと思って探したが、どこにもない。それがあるのは、(農水省が)「目指す農業の姿」という資料の中の「目指す農業構造の姿」――「現在、10数万程度と推定される、農業所得が他産業並みの経営体を10年後には集落営農経営や法人経営もあわせて40万程度に増やすことを目指している」。そこは国境措置撤廃を前提にした箇所ではない。つまり大泉氏は、「国境措置が撤廃されたら」の資料と、「国境措置の存在が前提」のデータをごちゃまぜにして、「生き残った40万経営が4兆9000億円をシェアすれば1000万円農家が誕生」と計算しておられるようだ。

おまけに、ごていねいにもこんなことまで言っておられる。

――4兆9,000億円を農林水産省の試算だと40万の経営体で担うわけである。1経営体1,200万円強の産出額になる。では、そこからどうやって増やすかということを考える農政をやれば楽しい農政になるのではないかと思う。

別に農水省の肩を持つわけではないが、誤読を論拠に「楽しい農政になるのではないかと思う」と言われてもなあ……。

ただ見過ごせないのは「およそ15年の間に3兆円の産出額が、現実に減少している。ここで考えなければならないのは、国境措置のあるなしにかかわらず、構造改革の遅れにより、今後3兆円強の産出額の減少は十分に可能性があるということである」とのご発言。この15年の間に、何があったのかは本来農業経済学ご専攻の大泉氏ならばご存知のはず。95年には食管法が廃止され、同年にウルグアイラウンドによるミニマムアクセス米の強制輸入が始まり、98年からは自主流通米の値幅制限が撤廃されるなどの「市場原理的改革」により、米の生産者価格が半分近くまで下落し、一俵あたり約1万円の減収になって、近代化・規模拡大した稲作農家ほど苦しんでいるというのが現状ではないか。むしろ構造改革、市場原理の導入によって、農業の産出額は減少してきたのではなかったか(その逆境の15年間に、全国で1兆円近い売り上げを実現してきた女性・高齢者による農産物直売所のたたかいは、むしろ「半商品」の原理で市場経済に風穴をあけるものだった)。

3月5日のこのコーナー「田んぼを、米を、農家を、あきらめない」で紹介した「鳴子の米プロジェクト」。それは、地域のみんなで1俵2万4000円で米を買い支え、農家には1万8000円を保証し、差額6000円で、後継者を育成したり米にまつわるさまざまな仕事を開発していこうというもの。1俵2万4000円は、一膳24円。

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一膳24円と同額の食べもの

――一膳24円の米を高いと言う心がある限り、日本の米、農業はよくなりませんよ。

「鳴子の米発表会・春の鄙の祭り」のとき、総合プロデューサーの結城登美雄さんが言った言葉である。ワーキンググループの議論は、「11円にします」「6円にしろ」「いや5円だ」というようなもの。耕し、種をまき、育て、刈り取る人への感謝と敬意はどこにもない。それでいて「5年で耕作放棄地ゼロを目指す」という。それが「EPAの加速、農業改革の強化」報告である。それでも「農業改革 民間議員の提案を生かせ」と言えるのか。

Profile

甲斐良治(かい・りょうじ)

-----<経歴>-----

1955年宮崎県生まれ。
九州大学経済学部卒。
社団法人・農山漁村文化協会(農文協)「増刊現代農業」編集主幹。
『定年帰農 6万人の人生二毛作』『田園住宅 建てる借りる通う住まう』『田園就職 これからは田舎の仕事が面白い』『帰農時代 むらの元気で「不況」を超える』の「帰農4部作」で、1999年農業ジャーナリスト賞受賞。
その後も『青年帰農』『団塊の帰農』『若者はなぜ、農山村に向かうのか』などの「帰農シリーズ」で新しい農的生き方を追究するとともに、「地元学」(ないものねだりではなく、あるもの探し)による各地の地域づくりにかかわる。
都市と農山漁村の共生・対流推進会議運営委員、100万人のふるさと回帰支援センター・里山帰農塾講師。
建築家・石山修武氏、民俗研究家・結城登美雄氏と「21世紀型農村研究会」05年に結成。

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