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2012年5月20日

エネルギーデモクラシーのすすめ

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第579回(2012年05月19日)
エネルギーデモクラシーのすすめ
ゲスト:植田和弘氏(京都大学大学院経済学研究科教授)

 今夏に予定されるエネルギー基本計画の見直しを控え、新しい日本のエネルギー政策のあるべき姿を議論している総合資源エネルギー調査会基本問題委員会の議論が大詰めを迎えているが、どうも様子がおかしい。エネルギー政策の大きな枠組みを議論するはずのところが、従来の枠組みの中で電源種別のシェアをいかに微調整するかの議論に終始しているようにしか見えないのだ。

 エネルギー基本計画は日本のエネルギー政策の基本的な枠組みを決めたもので、現行の計画は2010年6月に閣議決定されていたが、2030年にエネルギー需要の50%を原発で賄う目標などが含まれていたことから、先の原発事故を受けて基本問題委員会が組織され、抜本的な見直しが行われていた。

 この委員会の大きな目的は、エネルギーを通した新たな日本の社会像を議論することだった。しかし、委員会は委員長と事務局側によって定量的な議論に押し切られ、その未来像をどう描くか、という議論に踏み込むには至っていない。

 経済学者で、同委員会の委員長代理を務める京都大学大学院の植田和弘教授は、「基本問題委員会の基本問題」を指摘し、現在の委員会の議論への不満を隠さない。

 植田氏は、そもそも日本はエネルギー政策の決め方を議論しなければならなかった。これまでのエネルギー政策の決め方には透明性がなく、市民が議論に参加できるような枠組みも存在していなかったからだ。これはエネルギー政策に限った問題ではないが、とりわけエネルギー政策は原発を続けるかどうか、節電をどこまで求めるかなど、市民生活への影響がとても大きな分野だと言っていい。それだけ自分たちに大きな影響を与える分野の政策に、その当事者である市民が全くと言っていいほど関与できないのはおかしいと植田氏は指摘する。

 基本問題委員会にしても、そもそも委員の構成もあらかじめ経済産業省によって委員長の三村明夫新日鉄会長をはじめとするエネルギー関係の利益代表によって大半が占められているため、植田氏や環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長らが議事進行の進め方や議題の設定方法に異議を申し立てても、多勢に無勢で押し切られてしまっている。

 日本では長らく、電力を大量に消費する重厚長大型の産業の発展こそが豊かさをもたらすという、新興工業国的な発想が支配的だった。実際にそれで高度経済成長を達成することもできた。しかし、経済が成熟期に入り、脱工業化が求められる時代になっても、高度成長の成功体験があまりにも強かったためか、特に官界、財界はその発想から抜けることができないでいる。そのため、次の時代のエネルギーのあり方を議論する基本問題委員会においても、原子力産業の利益代表や重厚長大産業の利益代表らが議論を支配してしまっている状態なのだ。

 産業型の大規模な電力供給システムを構築したことで、産業は安定的な電力を享受できたかもしれないが、一般の市民は、電気というものは、料金さえ払えば無尽蔵に出てくるものとの錯覚を持つようになってしまった。植田氏はそもそも有限な資源であるエネルギーは、宇沢弘文氏が言うところの「社会的共通資本」であることを前提に考えるべきだと言う。有限な資源を公平・公正、かつ安定的に配分するためには、入会地や漁場のように市民が自治的に参加する「コモン・プール」として管理される必要があると植田氏は言うのだ。公共性が高いという理由で電力を国策に委ねると、官僚統制や情報独占が生まれ、その結果、利権が生まれて非効率になるし、市民の側にも電力を自分の問題として受け止めることができないため、例えば節電のような発想が自主的には生まれてこなくなる。

 また、次の時代の電力を考える上では、持続可能性、世代間の公平性、地域の再生の3つの条件を原則とすべきだと植田氏は言う。自ずと、再生可能エネルギーを中心とした小規模分散型ネットワークの構築が柱となるが、そこでもこれまでのように政府や企業に「お任せ」にするのではなく、地域の住民が参加する形で新しい仕組みを構築していくことが重要だと植田氏は強調する。

 原発事故を契機に、日本社会では少しずつではあるが、市民がエネルギー問題を自分の問題として捉えるエネルギーデモクラシーの息吹が見られる。次世代のエネルギー政策の枠組みを議論している総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員長代理の植田氏を迎え、日本がエネルギーデモクラシーを達成するために今何をしなければならないかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)

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ゲスト:宇沢弘文氏(東京大学名誉教授)

<ゲスト プロフィール>
植田 和弘(うえた かずひろ)京都大学大学院経済学研究科教授
1952年香川県生まれ。75年京都大学工学部卒業。83年大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。経済学博士。京都大学経済学部教授などを経て97年よ り現職。総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員長代理、調達価格等算定委員会委員長、国家戦略室需給検証委員会委員、大阪府市エネルギー戦略会議座長を務める。著書に『環境と経済を考える』、共著に『国民のためのエネルギー原論』など。

2012年5月12日

大統領選でフランスが選んだものとは

マル激トーク・オン・ディマンド
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第578回(2012年05月12日)
大統領選でフランスが選んだものとは
ゲスト:山田文比古氏(東京外国語大学教授)

 フランスの新しい大統領が決まった。10人が立候補した4月22日の第1回投票では過半数を獲得する候補者が出なかったため、5月6日に上位2候補による決選投票が行われた結果、第1回投票でも1位だった社会党のオランド氏が現職のサルコジ大統領の得票を上回り、当選を決めた。フランスでは故ミッテラン大統領以来、17年ぶりの社会党政権の誕生となった。

 大局的に見れば、今回のフランスで起きた政権交代劇は、リーマンショックに端を発する世界金融危機後、先進各国で新自由主義的政策を掲げていた現職ないし政党が敗れたのと同じ構図の中にあると見ることができるだろう。しかし、元駐仏公使で東京外国語大学教授の山田文比古氏は欧州、特にフランスの特殊事情として、もう一つの危機の存在の影響が大きかったことを指摘する。

 フランスは2008年の第1の金融危機については、他の先進諸国と比べると、大きな政策変更や構造改革を行わずに乗り切ることができた。サルコジ大統領の新自由主義政策の下で、企業の社会保障費負担の軽減や年金の支給開始年齢引き上げといった社会のセーフティネットが削られる前に金融危機に見舞われたことで、従来からフランス社会に存在していた分厚い社会保障制度が危機の経済的影響を一部吸収することができたからだ。

 その後、ギリシャの財政問題に端を発する欧州経済危機がフランス社会を襲ったため、二度目の危機でフランスは大きなダメージを受けたと山田氏は指摘する。

 第2の危機の後、ドイツのメルケル首相と緊密な連携をとりながら緊縮政策へと大きく舵を切ったサルコジ政権の評価をめぐっては、フランス国内外で違いがあると山田氏は言う。市場を含む外部の目は、サルコジ政権の構造改革が不十分だったと見る。しかし、今回の大統領選挙を通してフランス国民が示した意思は、構造改革・緊縮財政政策自体への反発だったと山田氏は指摘する。フランス国民が「古き良き時代のフランス社会モデル」への回帰を望み社会党のオランド候補を後押ししたと言うのだ。

 社会党政権の誕生と同時に、今回の大統領選挙では、第1回投票で「極右」「極左」政党候補が大健闘し、合わせて3割を超える票を得て、3位、4位に入った。これらの候補者への支持は、社会党と国民運動連合という左右の2大政党を支持しない社会層の存在を示唆する。特に「極右」と言われるマリアーヌ・ルペンの躍進は、フランスの右派の間で、国家や主権を対外的に強く主張する伝統的ドゴール主義的主張が弱まっていることと関係しており、金融危機などで痛手を受けた反サルコジ派の低学歴若年層などが、こうした「極右」候補の下に結集する傾向があるのだと言う。

 サルゴジ大統領の緊縮政策を批判して政権を奪取したオランド新大統領ではあるが、ほどなく現実路線に転換し緊縮策を進めざるを得なくなるだろうと山田氏は見る。しかし、その一方で、そのような政権運営を行った場合、右派のみならず左派の間でもオランド氏への不満や失望が拡がる可能性もある。いずれにしても、難しい政権運営が待っていると言えそうだ。

 常に米英のアングロサクソン的グローバル化路線とは一線を画してきたフランスが、先の大統領選で何を選択したのかを、社会学者の宮台真司と哲学者の萱野稔人が山田氏とともに考えた。

(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)


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<ゲスト プロフィール>
山田 文比古(やまだ ふみひこ)東京外国語大学教授
1954年福岡県生まれ。80年京都大学法学部卒業。83年フランス国立行政学院(ENA)外国人特別課程卒業。80年外務省入省、外務省欧亜局西欧第一課長、駐フランス公使などを経て2012年退官。08年より現職。著書に『フランスの外交力』、共著に『ヨーロッパの政治経済・入門』。

2012年5月 5日

神保哲生のチェルノブイリ報告
終わりなき原発事故との戦い

マル激トーク・オン・ディマンド
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第577回(2012年05月05日)
神保哲生のチェルノブイリ報告
終わりなき原発事故との戦い

プレビュー

 史上初のレベル7原発事故からこの4月で26年目を迎えたチェルノブイリの最新情報を、神保哲生が取材報告する。

 チェルノブイリ原子力発電所では、今も事故を起こした4号機から放射能が漏れ続け、それを押さえ込むための懸命の作業が26年経った今も続いていた。石棺はコンクリートが経年劣化を起こし、放射能が外部に漏れる恐れがあると同時に、巨大な石棺自体に倒壊の恐れが出てきたため、今度は更に巨大なドームで石棺を上から覆う工事が計画されていると言う。

 しかし、爆発炎上した4号機の核燃料は依然として取り出すことができていない。損傷を受けた原子炉から核燃料を取り出し、安全な場所に保管しない限り、本当の意味で原発事故は収束したとは言えないのだ。

 また、チェルノブイリから飛散した放射性物質による健康被害も、26年経って、むしろ原発事故由来の疾病の発生が増えているという。しかも、ウクライナでは事故の4年後から子供の甲状腺ガンの発生が始まったが、驚いたことに事故から26年が経っても、まだガンの発生が年々増え続けているという。

 更に、四半世紀が経っても、食の放射能汚染が収まる気配を見せない。原発周辺の村では、今でも1万ベクレルを超えるキノコや野生動物の肉が発見されているという。

 26年目を迎えたチェルノブイリの今を、神保哲生が現地の取材映像とともに報告する。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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