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2011年11月21日

メディアが権力に屈する時

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第553回(2011年11月19日)
メディアが権力に屈する時
ゲスト:高田昌幸氏(ジャーナリスト)

 北海道警察の裏金問題を追及し、数々のジャーナリズム賞を受賞してきた道新のエース・高田昌幸氏が、この6月、北海道新聞を退職した。高田氏は退職の理由をあくまで一身上の都合としているが、一度は警察の不正を徹底的に追及していたはずの道新が、やがて警察と手打ちを行い、攻めの姿勢を失っていったことに対する落胆を、高田氏は隠そうとしない。

 道警裏金事件とは、架空の捜査協力者に対する謝礼を報償費として計上し、それをプールした資金を幹部らが私的に流用していた事件で、その金額は道警だけで少なくとも4億5千万円にのぼるとみられている。捜査を口実に国民の税金を騙し取る、悪質な横領行為に他ならない。当時、北海道以外でも、全国の警察で裏金がプールされていたことが明らかになっていたが、その中でも道新の道警に対する追及は厳しく、2003年11月に裏金問題が発覚してから、道警がその存在を認めるまでの約1年の間、道警の裏金問題は道新の紙面を飾り続けた。その間、道新が裏金問題を扱った記事の数は1000本にのぼると高田氏は言う。

 高田氏はデスクとして、裏金問題の取材班の陣頭指揮に当たっていた。同じ頃、各地で警察の裏金問題が報道されていたが、その多くは警察がその事実を否定し、それ以上メディアによる追及が行われないまま、事件が収束していた。しかし、高田氏を始めとする道新の記者達は、自分たちだけは警察がその事実を認めるまで徹底的に不正を追及し続ける意気込みでこの問題に挑んでいったと高田氏は言う。

 しかし、ある時期を境に、他の地域と同様、道新の報道姿勢も変わっていく。

 そもそも通常の日本の警察報道は、大手マスメディアが記者クラブを通じて警察からの非公式な情報提供を受けることで成り立っている。メディアが警察の不正を追及するのは、異例中の異例と言っていい。道新が警察の裏金問題を追及していた約一年間、道新は警察からのリーク情報をほとんどもらえなくなっていたと高田氏は言う。そして、その中には事件や事故に関する基本的な警察情報も含まれていた。つまり、日本の報道機関は警察から情報をもらえなくなると、報道機関としての基本的な機能を果たしていくことができない欠陥構造があるということになる。

 道新は幹部の人事交代を機に、警察との関係修復に乗り出す。道警の元総務部長が道新を名誉毀損で訴えた裁判の過程で、道新と道警の幹部が36回にもわたり関係修復のための会談を繰り返していた事実が明らかになった。また、高田氏は自身の処遇については多くを語ろうとしないが、未曾有の警察不正を暴き、2004年の日本新聞協会賞以下、ジャーナリズムの賞という賞を総なめにした取材班を率いたエースの高田氏に対して、道新はその後警察とは一切関係のない部署を転々とさせている。退職時の高田氏の役職は本社運動部次長だった。

 警察との関係が修復されるのに呼応して、道新の攻めの報道姿勢は失われていったと高田氏は言う。

 これは警察に限ったことではないが、行政機関の内部にジャーナリズムが取材拠点を持つことは、市民社会が権力を監視する上での大きな財産となり得るものだ。しかし、現実の記者クラブでは、それが権力との癒着を生み、記者の取材力を低下させるなど、本来の目的とは逆に作用している。高田氏はこの問題を改善するためには、記者クラブの取材拠点を維持しつつ、それをより開かれたものにしていく必要があると提言する。

 裏金問題をめぐる道新と道警の関係の推移を通じて権力とメディアのあるべき関係を、当事者としてそれをつぶさに見てきた高田氏と考えた。

今週のニュース・コメンタリー
•予防原則の常識を根底から覆すイレッサ逆転無罪判決
•エネルギー関連有識者会議続報
 架空の未来を前提とした議論で溝埋まらず

関連番組
ニュース・コメンタリー(2010年10月30日)
道警名誉毀損訴訟は"訴えの価値"を満たしているか
高田昌幸氏(道警名誉毀損訴訟被告・北海道新聞記者)に聞く

<ゲスト プロフィール>
高田昌幸(たかだ まさゆき)ジャーナリスト
1960年高知県生まれ。85年法政大学法学部政治学科卒業。86年北海道新聞社に入社。本社報道本部次長、ロンドン支局、東京支社国際部次長、本社運動部次長などを経て、2011年からフリー。共著 に『権力 VS 調査報道』、『日本の現場 <地方紙で読む>』など。

2011年11月13日

区長になって見えてきたこと

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第552回(2011年11月12日)
区長になって見えてきたこと
ゲスト:保坂展人氏(世田谷区長)

プレビュー

 福島第一原発で退っ引きならない状況が続くさなかの今年4月、東京の世田谷区に明確に反原発を掲げる候補者が、保守系の候補を破って区長に当選した。教育ジャーナリストから社民党の代議士を3期務めた保坂展人氏だ。地方の大都市並の80万超の人口を抱える世田谷区は保坂氏の就任前、保守系の区政が9期36年続いていた、都内でも最も保守色の強い地域だった。そのような地域で反原発を掲げて当選した保坂氏は、世田谷で市民を巻き込んだ新しいタイプの区政を実現したいと抱負を語る。

 衆院議員を落選浪人中だった保坂氏がこの4月、急遽、区長選に出馬したきっかけは、東日本大震災と福島第一原発事故だった。未曾有の非常事態に直面しながら政府の対応が後手後手に回る中、速やかに支援物資の提供を行ったり避難民を受け入れるなど、国の対応を待たずに独自の対応を行う自治体が相次いでいた。それを東京の杉並区や福島県の南相馬市で目の当たりにした保坂氏は、国政よりも自治体の長の決断が市民生活にはより大きな影響を及ぼしていることを痛感し、区長選への挑戦を決心したという 。

 しかし、保坂氏は区長就任時の区職員への挨拶の場で、これまでの区の方針の95%は継承することを明言している。これは5%は大胆に変えさせてもらうという意思表示でもあるが、あえて5%という控えめな数字を提示したのは、国会議員時代の経験に基づいているという。何かを急激に変えようとしても、かえって強い抵抗に遭い結果的に何も変えられなくなる。既存の政策を活かしながら、5%の改革で住民参加型の自治体を実現したいというのが保坂氏の戦略だと言うが、区長就任半年あまりで、5%改革はどこまで進んでいるだろうか。

 保坂氏の住民参加型区政の片鱗が明らかになったのが、先月、3マイクロシーベルトを超える高い放射線のホットスポットが区内の住宅街で見つかった時だった。これはもともと区内の市民団体が自ら測定したデータが、ツイッターを通じて保坂氏のもとに届けられたものだった。結果的にこの事件は家屋の床下にラジウムが入った瓶が放置されていることが原因だったが、区内にも独自に放射線量を測っている市民や市民団体は多い。その一方で、そうしたデータとは全く無関係に国や都、自治体が独自の測定を行っている。それらのデータを連携させることができれば、より充実した線量マップができるはずだと保坂氏は言う。

 保坂氏の反原発区長としての真価が発揮されるのは、現在保坂氏が模索する「選べる電力」だろう。保坂氏はまだ詳細を明らかにしないが、世界で電力を選べないのは日本だけだと保坂氏は繰り返し発言している。地方自治体でもできる脱原発政策を世田谷から全国の自治体に向けて発信していきたいと言う保坂氏の次の一歩に期待がかかる。

 保守の世田谷に誕生した反原発区長の保坂氏に、市民を巻き込んだ地方政治を実現するための戦略を聞いた。

今週のニュース・コメンタリー
・野田首相のTPP交渉への参加表明が煮え切らないもう一つの理由
 エネルギー関連有識者会議続報
・現実離れしたデータを前提とした結論にどれほどの意味があるか

<ゲスト プロフィール>
保坂展人(ほさか のぶと)世田谷区長
1955年宮城県生まれ。都立新宿高校定時制中退。教育ジャーナリストを経て96年衆院初当選(社民党)。当選3回(比例東京ブロック)。2009年総務省顧問。11年より現職。著書に『年金を問う―本当の「危機」はどこにあるのか』、共著に『どうなる!?高齢者の医療制度』など。

2011年11月 6日

TPPで食の安全は守れるのか

マル激トーク・オン・ディマンド
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第551回(2011年11月05日)
TPPで食の安全は守れるのか
ゲスト:藤田和芳氏(大地を守る会会長)

プレビュー

 野田政権の重大な政治課題となっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、実際は農業や貿易以外にも多くの分野に影響を及ぼす包括的な経済協定であることが、日に日に明らかになっているが、その中には食の安全基準も含まれる。現在の日本の食の安全基準には遺伝子組み換えの表示義務や狂牛病(BSE)の全頭検査など、国際標準よりも厳しいものが多いが、日本がTPPに参加した場合、これが非関税障壁とみなされ、安全基準の緩和を強いられることになる可能性が高い。

 無農薬・減農薬食材の宅配事業の草分け的な存在である大地を守る会の藤田和芳会長も、それを心配する一人だ。藤田氏は、昨今のTPPをめぐる論争は目先の利益、不利益に振り回され、日本の食の安全保障をどうしていくのかという大きな視点が欠けていると指摘する。

 TPPに参加すると、現行の日本国内の食品安全基準は他の協定加盟国と平準化される。この分野では総じて他国より食品の安全基準が厳しい日本が最も大きな影響を受ける。

 今や日本では当たり前になっている、食品の原産地表示の義務づけや残留農薬基準、遺伝子組換え食品の表示義務、食品添加物規定とその表示義務、牛肉の全頭検査などは、いずれも安全な食品を求める消費者達の努力によって、時間をかけて確立されてきた、いわば日本社会の財産だと藤田氏は言う。しかし、これらの基準が他国のものに平準化されると、消費者は従来の食品を選ぶための基準を失うことになる。それはこうした基準を通じて日本の消費者と生産者との間に築かれてきた信頼関係をも破壊する。

 この問題は農業従事者のみならず、全ての消費者が影響を受ける重大な問題でもあるにもかかわらず、今のTPPをめぐる議論では、こうした安全基準を失う危険性についてほとんど議論がなされていない。そこに藤田氏は危機感を覚えるという。

 食品の安全基準と同時に、食料安全保障も脅威にさらされる。現在の日本のカロリーベースでの食料自給率は40%と先進国中最低水準にあるが、TPPに参加することでそれが14%まで下がる可能性があることを農水省が試算している。今後、世界人口の増加や気候変動などが原因で世界的な食料不足に見舞われた時、14%の自給率で日本は食料安全保障を守れるのか。そのような問題がほとんど議論さえされていない状態で、政府が性急にTPPへの参加を決めようとしていることには大いに問題があると藤田氏は言う。

 食の安全と自由貿易は果たして両立できるのか。生産者、消費者の両方の立場を尊重しながら食の安全をビジネスとして実現させてきたソーシャルビジネスの先駆者である藤田氏と議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・政府高官が記者会見で放射能汚染水を飲んでみせる国
・なぜTPP参加をめぐる対立は先鋭化するのか

関連番組

マル激トーク・オン・ディマンド 第515回(2011年02月26日)
TPPは「社会的共通資本」を破壊する
ゲスト:宇沢弘文氏(東京大学名誉教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第512回(2011年02月05日)
TPPに見る「自由貿易の罠」
ゲスト:中野剛志氏(京都大学大学院助教)

マル激トーク・オン・ディマンド 第503回(2010年12月04日)
TPPは農業へのショック療法となり得るのか
ゲスト:鈴木宣弘氏(東京大学大学院教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第402回(2008年12月13日)
WTOと日本の農業政策を再考する
ゲスト:山下一仁氏(経済産業研究所上席研究員)

マル激トーク・オン・ディマンド 第262回(2006年04月07日)
それでもあなたは食べますか
ゲスト:安部司氏(添加物アドバイザー・『食品の裏側』著者)

<ゲスト プロフィール>
藤田和芳(ふじた かずよし)NGO大地を守る会会長、株式会社大地を守る会代表取締役
1947年岩手県生まれ。70年上智大学法学部卒業。出版社勤務を経て、75年NGO大地を守る市民の会(現・NGO大地を守る会)を設立。83年より現職。著書に『畑と田んぼと母の漬けもの―「大地を守る」社会起業家の原風景』、『有機農業で世界を変えるーダイコン一本からの「社会的企業」宣言』など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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