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「分かち合い」のための税制改革のすすめ

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第549回(2011年10月22日)
「分かち合い」のための税制改革のすすめ
ゲスト:神野直彦氏(地方財政審議会会長・東京大学名誉教授)

 増税論議が喧しい。東日本大震災以前から、膨張の一途を続ける財政赤字にどう対処するかは主要な政治課題だったが、この震災によって復興のための財源が必要になったため、財政・税制改革がより急務な課題として浮上してきた。

 日本の財政状況は、「ワニの口」に例えられるように1990年代以降、歳出と税収の開きが年々広がっている。最近では毎年の予算を見ると、90兆円超の歳出に対して税収が40兆円前後にとどまり、赤字分を公債で埋めている。毎年の予算の半分以上を借金で賄っていることになる。

 そうした中、特に野田政権になって以降は、増税が現実味を帯びつつある。しかし、昨今の増税論議は単に「足りない部分を穴埋めする」ための増税になっている感が否めない。これでは負担を強いられる国民が納得しないのも当然だろう。

 そもそも財政が今日のような極端な歳入不足にに陥った原因は、バブル崩壊以降の相次ぐ減税に直接の原因があったと東京大学名誉教授で財政学の権威である神野直彦氏は指摘する。バブルが崩壊した1990年代以降、政府は景気回復と国際競争力の向上という目的のため所得税と法人税を減税し続け、その一方で、やはり景気対策の名のもとに、公共事業支出を増やした。その結果、税収は急速に落ちていった。日本にとって「失われた10年」というのは「減税の10年」でもあったと神野氏は言う。減税が所得税、法人税、資産税に集中していたため、減税の恩恵を受けたのが富裕層に偏り、それが経済格差が広がる原因にもなった。2000年代に入ってからは公共事業費は削減されたが、その分、高齢化にともなう社会保障費が膨らみ、ワニの口は広がる一方だ。

 日本では所得税・法人税の増税への反発が強いようだが、実は現在の日本の所得税は主な他の先進国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)と比べると、かなり低い。他国の租税負担率が10%前後(スウェーデンに至っては15%近く)であるのに対し、日本は5%程度に過ぎない。法人税についても、日本は税率が高いと言われ続けてきたが、90年代以降、負担率は年々下がっており、現在は国際水準並み(3%程度)だ。しかも、こうした減税を行ってきたにもかかわらず、景気は依然として回復していない。減税だけでは景気が回復しないことを、われわれは早く認識すべきだと神野氏は言う。

 このように、相対的に所得税が低いことが、日本の税制を富裕層に有利ないびつなものにしているという事実があるにもかかわらず、昨今の増税論議は消費税増税ばかりに論議が集中しているのはなぜか。消費税は所得逆進性があるため、現在の歪んだ所得税制をそのままにして消費税率を上げれば、その歪みは更にひどいものになってしまう。税の再配分機能が更に弱まり、格差がより広がることが避けられないということだ。

 税金は誰でもいやなものだ。その税金を払ってもらうためには、どのような社会を作っていくのかというビジョンや方向性が明示され、それに合意、あるいは合意しなくても、納得していなければならない。しかし、日本はどのような社会を指向すべきかについて国民的な合意が形成されていないため、税制のあるべき姿をめぐっても、コンセンサスを得ることが難しいのだ。

 スウェーデンは所得税も消費税も他国に比べて租税負担率は高いが、高負担・高福祉による「分かち合い」の必要性について国民の同意が得られている。反対に、小さい政府を指向するアメリカは、連邦レベルの消費税もない上、租税負担率も低いが、その分、「自己責任」の原則が徹底されている。

 ひるがえって日本は、どんな社会を目指すのか。アメリカのような「小さな政府+自己責任」路線か、スウェーデンのような「大きな政府+分かち合い」路線か。

 誰もが公平感を共有できる税制を築くためには、依って立つ哲学や思想が必要だ。神野氏は、スウェーデン語の「Omsorg(オムソーリ)」と「Lagom(ラーゴム)」という二つの概念を日本が税制を考える上でのヒントとして提案する。これが日本が今、失ってしまった共同体の相互扶助や社会の絆を再構築する上で重要なカギを握ると神野氏は言うのだ。

 「分かち合いの経済」を提唱する神野氏と、日本が目指すべき社会改革とそれを支える税制のあるべき形を議論した。

今週のニュース・コメンタリー
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<ゲスト プロフィール>
神野直彦(じんの なおひこ)東京大学名誉教授・地方財政審議会会長
1946年埼玉県生まれ。69年東京大学経済学部卒業。78年同大学大学院経済学研究科修士号取得。81年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。大阪市立大学助教授、東京大学教授などを経て、2008年地方財政審議会会長。09年より東京大学名誉教授。著書に『「分かち合い」の経済学』、『システム改革の政治経済学』、共編著に『脱「格差社会」への戦略』など。

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神保哲生様

TPPを前にしてこの論議が不足しているというか、論議が進んでいないような気がします。まさにこれからの日本をどのような方向に向かわせたらよいかの国民的結論が出ないうちに、アメリカンスタイルが色濃く表れてくるTPPにのめり込むことは、フェアな正しい対応とは言えない。

基本的な問題は、社会的構造転換を促すTPPにたいし、国内で簡単に結論が出ないからアメリカという外圧に依存することによって引き起こされる副作用です。競争原理が強く作用し日本の構造を完全に転換させかねない金融経済によって実物経済が交代していくことです。

経団連は、韓国に市場を奪われると愚かな子供騙しのようなことを言っているが、現在海外に進出できる企業はすでに海外に進出し、次の段階に入りつつあるのです。中国からベトナムというように大きく海外生産拠点の状況変化は極めて流動的なのです。

お話のように、
1.自己責任競争による小さな政府
2.手厚い保障による大きな政府
の異なった方向付けが考えられます。

自己責任の政府は、アメリカの現在の全国的デモに見られるように手厚いセイフティネットを確保しなければ、路頭に迷う貧民の群れと絶え間ない暴動を覚悟しなければならないでしょう。

社会保障の充実した政府は、EU諸国に見られるように、競争が排除された無気力な社会ができやすく、財政の健全化はいつもチェックし続けないと、ギリシャのように国家破綻に至ってしまう。

日本の場合は、「わかちあい」の精神に基づく社会を創造しようとすれば、国家単位で考えることなく、地域が主体となって、地域住民の納得できる地域社会を作り出していくべきであり,画一的社会の国家的強制は排除しなければならないような気がしています。

今までの大量生産大量消費のマスプロダクションが社会を形成し、国家的事業とする時代は終わったのであるが、前例でしか物事が進められない官僚機構に変わるシンクタンクによって討議審議していく以外には、また、新しい日本を求める意識改革なしには、日本の明日はないと言える。

TPPは今の時点では、よい悪いの判断以前の問題が横たわっていて、日本人自身のディスカスが求められている時はないと考えたい。早急に進めるべきものでないことは確かです。

私は、経済学に詳しくない。
メディアによく登場する経営学者のほとんどが、経済が停滞している時には、財政出動が必要だと一様に唱える。
確かに今夏の震災や戦後のように民間に資金能力がない場合は、誰かが資金を提供しなければならないだろうと思える。
けれど、経済がある意味円熟し、経済が停滞している時に、財政出動が有効な手立てなのかと最近思える。
単に、市場に余剰資金を蔓延させ、その資金が逆に不良資産と化していると思えるのである。
分かち合いのための税制改革に異論は無い。
小泉改革を私はある面で評価している。規制改革により、財政出動無く経済を活性化させたからである。ただ、同時に一律緊縮財政により、余裕のあるものと余裕の無いものに格差が生じた。
その後、構造改革せずに財政出動したが故に更に格差拡大、多大な負債額を生む結果となっていると思えるのである。
今、何を最初にしなければならないのか?
震災復興を除けば、大胆な構造改革である。
先日の某BS番組の堺屋氏の発言から、その一番手は、霞ヶ関の解体である感を強くする。
極論ですが、復興庁と外務省、防衛省を除き、すべて解体し、主要な権限以外は、地方自治に任せる。
企業のリストラと同様に、霞ヶ関の人員を大幅にリストラする。
天下りの数が、増大しようが、政府関係以外の民間企業に再就職していただく。
民間であれば、民間並みの給与、更に優秀な方々である。民間に活力も生まれよう。
財政負担を少なくし、経済効果も大いに期待できる。
【財政赤字による人員削減法案】の提出、これくらいの度量のある人物がいればと・・・。
税制改革より、先に【元から立たねば・・・】である。

バブルの崩壊以後システム的に大変変った事がある。一つは民間の労働形態が変った事にある。派遣労働である。上手いコメント(ボディーコピー等)にさそわれてあれよあれよという間に増えていったが、少し立ち止まって見ると派遣とは企業倫理でしかなく、グローバル化という言葉にも弄ばれて生活できないくらいの報酬に晒されている現実。(例えばバブル前までは500万円の年収のあった30歳代の男性正社員がバブル崩壊後のリストラでの派遣によりその年収は250万円以下に成っている現実。)また、デジタル革命により個人で職を持っていた者が次々とデジタルに取って代わられ職としての仕事が成り立たなくなった現実。(デジタル革命前はデザイン、イラスト等1点10万円で請け負っていたものがデジタル革命後1点1万円以下になっている事。仕事には成っていない職種が増えている。)これらを踏まえて国家としての手当として減税(公務員等高額所得者用の所得減税等)が有ったにも関わらず生活に窮している民間人に対しての基本的な国民健康保険税や公共と付く名のインフラ料金が一つも下がっていない。また、バブル崩壊後公務員等税金で飯を食っている人達や法に守られた報酬で飯を食っている人達に対してその所得はバブル崩壊後もデジタル革命後も何も変っておらず年々人事院勧告とやらで上がっていたのではないか。これは不公平極まりない。税金は少ないと言われる方もおられるかもしれないが現実は税金が形を変え名前を変え国民から徴収していると思う。増税も結構だが先ずは全ての職において一線(保険や年金も一つにする等。)にしてから行うべきではないかと思う。税金等公で飯を食っている人達と税金等公で飯を食っていない人達の不公平はここに極まっている。(強者は弱者を喰う。)また、未だに税務署に対する質問等は直接の電話での問い合せと税務署に国民が足を運んで税務署内での対応を常としている。簡単な質問についてもである。デジタルでのメール対応は何のためにあるのだろうか・・・。何時まであっても税務署とそこにいる職員の対応はアナログである。(各地域の国税局は別対応とは思うが・・・)これも、税務調査等で国民に対する強制調査権を有する成せる技なのか・・・。これらの是正がまず先である。

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Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

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『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
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『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


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2008年10月、春秋社、共著


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2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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