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2011年10月30日

今こそナショナリズムを議論の出発点に

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
550回(2011年10月29日)
今こそナショナリズムを議論の出発点に
ゲスト:萱野稔人氏(津田塾大学国際関係学科准教授)

プレビュー

 大震災からの復興や原発事故を受けたエネルギー政策の転換、国内における経済格差や財政赤字の増加、年金等の将来不安と少子高齢化、そしてTPPや沖縄の基地問題等々、今、日本はかつてないほど重大な問題に直面している。これらの問題はすべて、「日本とは何か」、「われわれとは誰か」、そして「われわれはどういう社会を希求しているのか」といった前提が共有されないかぎり議論さえ成り立たないものだ。その意味でこれらはいずれも「ナショナルな問題」であり、ナショナリズムを前提としなければ、議論さえ成り立たない。しかし、こうした議論にナショナリズムを持ち込むことに対して、総じて日本ではリベラルな言論人を中心に抵抗が強く、結果的に有効な議論ができていないのではないかと、津田塾大学の萱野稔人准教授は指摘する。

 日本では、ナショナリズムという言葉自体に偏狭性や排他性といったネガティブな意味合いが含意される傾向があるため、多くの人がナショナリズムを悪いもの、あるいは危ないものと考える傾向があるようだが、それは間違っていると萱野氏は言う。

 もともとナショナリズムとは、社会人類学者アーネスト・ゲルナーの「一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければならないと主張する一つの政治的原理である」のような中立的な原理で、国内の政治や社会問題を議論する際の枠組みであり前提となるものだ。むしろ、ナショナリズムを否定したままでは、ナショナルな枠組みで物事を考えることができなくなるため、上記のような諸問題を解決することが困難になると萱野氏は言う。

 たとえば、ナショナリズムを忌避する傾向が強いリベラルな知識人の多くが、日本における経済格差の広がりを問題視し、その原因となっているグローバル化を批判する。しかし、日本国内の経済格差を広げる原因となったグローバル化は、グローバルなレベルではむしろ新興国と日本の賃金の平準化をもたらすもので、先進国の日本と新興国の所得格差を縮める効果がある。つまり、グローバル化による格差が問題になるのは、格差問題を日本国内のナショナルな視点に限定した場合であって、ナショナリズムの視点がなければ、そもそも格差問題を認識することすらできない。萱野氏がナショナリズム自体を否定しながらこれらの問題に対処することはできないと主張する所以はそこにある。

 確かにナショナリズムは排他性や差別性を持つ傾向があるが、これについても萱野氏は、そのような傾向はそもそもナショナリズムが正常に機能していない時に起きるものであり、ナショナリズムが本来持つ性格ではないと指摘する。ナショナリズムが正常に機能していれば、「国家(政治的単位)」とその行為主体である「われわれ国民」の関係は共有されやすいが、ナショナリズムが機能不全に陥り、それが共有されなくなると、排除する対象を置くことで「われわれ」を定義しようとする傾向が強くなるからだ。 偏狭で排他的なナショナリズムは問題だが、ナショナリズムは本来、ナショナルな問題を考える上での議論のベースであり議論の枠組みを提供するものだ。そして、であるがゆえに、日本の諸問題の解決には、ナショナリズムが不可欠だと萱野氏は主張する。

 それでは現在の日本の諸問題にナショナリズムはどう答えてくれるのか。今こそナショナリズムの視点が必要と説く萱野氏と日本の諸問題をナショナリズムの視点から議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・エネルギー政策の転換には文明の視点が不可欠

<ゲスト プロフィール>
萱野稔人(かやの としひと)津田塾大学国際関係学科准教授
1970年愛知県生まれ。94年早稲田大学文学部卒業。2003年パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学大学院総合文化研究科21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師を経て、07年より現職。著書に『国家とはなにか』、『暴力はいけないことだと誰もがいうけれど』、『ナショナリズムは悪なのか』など。

2011年10月26日

「分かち合い」のための税制改革のすすめ

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第549回(2011年10月22日)
「分かち合い」のための税制改革のすすめ
ゲスト:神野直彦氏(地方財政審議会会長・東京大学名誉教授)

 増税論議が喧しい。東日本大震災以前から、膨張の一途を続ける財政赤字にどう対処するかは主要な政治課題だったが、この震災によって復興のための財源が必要になったため、財政・税制改革がより急務な課題として浮上してきた。

 日本の財政状況は、「ワニの口」に例えられるように1990年代以降、歳出と税収の開きが年々広がっている。最近では毎年の予算を見ると、90兆円超の歳出に対して税収が40兆円前後にとどまり、赤字分を公債で埋めている。毎年の予算の半分以上を借金で賄っていることになる。

 そうした中、特に野田政権になって以降は、増税が現実味を帯びつつある。しかし、昨今の増税論議は単に「足りない部分を穴埋めする」ための増税になっている感が否めない。これでは負担を強いられる国民が納得しないのも当然だろう。

 そもそも財政が今日のような極端な歳入不足にに陥った原因は、バブル崩壊以降の相次ぐ減税に直接の原因があったと東京大学名誉教授で財政学の権威である神野直彦氏は指摘する。バブルが崩壊した1990年代以降、政府は景気回復と国際競争力の向上という目的のため所得税と法人税を減税し続け、その一方で、やはり景気対策の名のもとに、公共事業支出を増やした。その結果、税収は急速に落ちていった。日本にとって「失われた10年」というのは「減税の10年」でもあったと神野氏は言う。減税が所得税、法人税、資産税に集中していたため、減税の恩恵を受けたのが富裕層に偏り、それが経済格差が広がる原因にもなった。2000年代に入ってからは公共事業費は削減されたが、その分、高齢化にともなう社会保障費が膨らみ、ワニの口は広がる一方だ。

 日本では所得税・法人税の増税への反発が強いようだが、実は現在の日本の所得税は主な他の先進国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)と比べると、かなり低い。他国の租税負担率が10%前後(スウェーデンに至っては15%近く)であるのに対し、日本は5%程度に過ぎない。法人税についても、日本は税率が高いと言われ続けてきたが、90年代以降、負担率は年々下がっており、現在は国際水準並み(3%程度)だ。しかも、こうした減税を行ってきたにもかかわらず、景気は依然として回復していない。減税だけでは景気が回復しないことを、われわれは早く認識すべきだと神野氏は言う。

 このように、相対的に所得税が低いことが、日本の税制を富裕層に有利ないびつなものにしているという事実があるにもかかわらず、昨今の増税論議は消費税増税ばかりに論議が集中しているのはなぜか。消費税は所得逆進性があるため、現在の歪んだ所得税制をそのままにして消費税率を上げれば、その歪みは更にひどいものになってしまう。税の再配分機能が更に弱まり、格差がより広がることが避けられないということだ。

 税金は誰でもいやなものだ。その税金を払ってもらうためには、どのような社会を作っていくのかというビジョンや方向性が明示され、それに合意、あるいは合意しなくても、納得していなければならない。しかし、日本はどのような社会を指向すべきかについて国民的な合意が形成されていないため、税制のあるべき姿をめぐっても、コンセンサスを得ることが難しいのだ。

 スウェーデンは所得税も消費税も他国に比べて租税負担率は高いが、高負担・高福祉による「分かち合い」の必要性について国民の同意が得られている。反対に、小さい政府を指向するアメリカは、連邦レベルの消費税もない上、租税負担率も低いが、その分、「自己責任」の原則が徹底されている。

 ひるがえって日本は、どんな社会を目指すのか。アメリカのような「小さな政府+自己責任」路線か、スウェーデンのような「大きな政府+分かち合い」路線か。

 誰もが公平感を共有できる税制を築くためには、依って立つ哲学や思想が必要だ。神野氏は、スウェーデン語の「Omsorg(オムソーリ)」と「Lagom(ラーゴム)」という二つの概念を日本が税制を考える上でのヒントとして提案する。これが日本が今、失ってしまった共同体の相互扶助や社会の絆を再構築する上で重要なカギを握ると神野氏は言うのだ。

 「分かち合いの経済」を提唱する神野氏と、日本が目指すべき社会改革とそれを支える税制のあるべき形を議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・なぜ日本ではデモが起きないのか


関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第515回(2011年02月26日)
TPPは「社会的共通資本」を破壊する
ゲスト:宇沢弘文氏(東京大学名誉教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第512回(2011年02月05日)
TPPに見る「自由貿易の罠」
ゲスト:中野剛志氏(京都大学大学院助教)

マル激トーク・オン・ディマンド 第503回(2010年12月04日)
TPPは農業へのショック療法となり得るのか
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マル激トーク・オン・ディマンド 第464回(2010年03月06日)
PIGS問題は本当に対岸の火事なのか
ゲスト:井堀利宏氏(東京大学大学院経済学研究科教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第402回(2008年12月13日)
WTOと日本の農業政策を再考する
ゲスト:山下一仁氏(経済産業研究所上席研究員)

マル激トーク・オン・ディマンド 第401回(2008年12月06日)
後期高齢者医療制度は必要だ
ゲスト:土居丈朗氏(慶應義塾大学准教授)

<ゲスト プロフィール>
神野直彦(じんの なおひこ)東京大学名誉教授・地方財政審議会会長
1946年埼玉県生まれ。69年東京大学経済学部卒業。78年同大学大学院経済学研究科修士号取得。81年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。大阪市立大学助教授、東京大学教授などを経て、2008年地方財政審議会会長。09年より東京大学名誉教授。著書に『「分かち合い」の経済学』、『システム改革の政治経済学』、共編著に『脱「格差社会」への戦略』など。

2011年10月15日

iPS細胞は何がそんなにすごいのか

マル激トーク・オン・ディマンド
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第548回(2011年10月15日)
iPS細胞は何がそんなにすごいのか
ゲスト:八代嘉美氏(東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任講師)

 10月3日にノーベル医学・生理学賞が発表されたが、iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授は最後まで最有力候補として名前が挙がっていながら今回は受賞に至らなかった。しかし、山中教授の功績が、医療界のみならず世界の人々の価値観を揺るがすほどの大きな衝撃を与えたことはまちがいない。そもそも、山中教授が開発した「iPS細胞」のどこがそんなにすごいのか。

 iPS細胞は「induced Pluripotent Stem cells」の頭文字を取ったもので、日本語で「人工多能性幹細胞」もしくは「誘導多能性幹細胞」と訳される。「幹細胞」とは、自分と異なる機能を持つ細胞を作り出す能力(分化能)と分化する能力を保ったまま、自分と同じ性質の細胞を増やす能力(自己複製能)の2つを併せ持った細胞のこと。ただし、iPS細胞は胚(受精してから胎児になる前の段階の細胞)を構成する一部の細胞は作り出せないことが、「万能性(あらゆる細胞を作り出せる能力)=omnipotent」ではなく「多能性(万能性よりやや能力範囲が限定される)=pluripotent」と称される所以となっている。要するに、一部の例外を除き、生物のあらゆる臓器や器官を構成する細胞組織を作ることができるのがiPS細胞ということになる。

 生物のあらゆる組織を作ることができるとは、どういうことなのか、また、iPS細胞はどのようにして臓器や器官によって千差万別な組織を作りだすのだろうか。

 iPS細胞や再生医療に詳しい東京女子医科大学先端生命医科学研究所の八代嘉美特任講師によると、細胞と細胞の間には様々な蛋白質や分泌物が存在し、それらが出すシグナルにより、どのような細胞に分化していくかが決まってくる。したがって、培養皿上でiPS細胞にそれらの蛋白質を加え、何を加えたらどういう細胞に分化するかを観察することにより、求める組織を作り出す条件を決定することができる。組織の種類によって作りやすさの難易度は変わるが、現在ではかなり多くの種類の組織がiPS細胞から作り出せるようになっているという。

 iPS細胞を開発した京都大学の山中教授は、もともとES細胞の研究を行っていたが、奈良先端科学技術大学院大学に在籍中に、ES細胞から分化多能性を決定づける4種類の遺伝子を特定することに成功した。そして、その4種類の遺伝子を大人の皮膚の細胞に導入することで、ES細胞と同等の性質を持つiPS細胞を作り出せることを発見した。ES細胞は受精卵の細胞の一部で、ES細胞を作製するには受精卵を取りだし壊さねばならないため、倫理的・宗教的な問題があった。しかし、iPS細胞がそのハードルをクリアしたために、再生医療の限界が一気に広がった。当時、ES細胞と同等の性質を持ちながらES細胞の欠点を克服する方法を世界中の研究者が探す中、ユニークな発想で世界に先駆けてそれを実現した山中教授は天才だったと、八代氏は言う。

 iPS細胞は再生医療に加え、病気の原因解明、新薬の開発などの分野で、その活躍が期待される。再生医療というと、「臓器が作れる」と真っ先に考えてしまうが、それは若干先走った考えで、現段階では「細胞や組織レベルでの再生」への期待が大きいと八代氏は言う。たとえば、糖尿病の患者にインスリンを作る細胞を補充するなどの活用の仕方だ。

 臓器を作るということは、決まった大きさ・形のものを作り出すということなので、三次元的に体内と同様の環境を設定する必要があるが、そのような環境を整えることは現在の技術では難しいと、八代氏は現時点でiPS細胞がただちに「臓器を作れる」とはならない理由を説明する。

 病気の原因解明では、たとえばアルツハイマー病のような変性疾患に対して有効とされる。変性疾患は、遺伝・環境・加齢という3つの要因が複雑に影響し合い発病すると考えられるが、iPS細胞は既に分化が行われた細胞を、その前の状態にリセットする能力を持っているため、変性疾患3要因のうち、環境と加齢という要因を排除できるという。

 しかし、iPS細胞を実際の医療に応用するためには、まだ課題は多い。一つは、iPS細胞の作製にあたって、遺伝子を組み込む際のガン化のリスクをどう低減するか。二つ目は、初期化の問題。生物は細胞が分化される過程で、使わない遺伝子には「カギ」がかけられるようになっており、そのカギを外して何にでもなれる細胞までリセットさせることを初期化という。iPS細胞は、この初期化という作業を通じて作製されるため、作製後、再びそのカギが外れるリスクが高まることが指摘されている。そして三つめは、iPS細胞そのものが持つガンの発現リスクをいかに減らすか。この3つの課題をクリアすることが、iPS細胞を再生医療に適用する上での鍵となると八代氏は言う。

 また、上記のような技術的な課題に加え、iPS細胞のような先端医療には、常に技術が暴走するリスクも伴う。再生医療の技術が向上することで、臓器や四肢の再生が可能になり、事実上の不老不死の実現が現実味を帯びてくると、「そもそも人間とは何か」、「生とは何か」といった根源的な問いが、倫理的・宗教的な立場から出てくることは避けられない。そうした問題に科学は今後どう答えていくのか。

 iPS細胞のすごさとその可能性、そしてそれが投げかける人間や生への根源的な問いについて、八代氏と議論した。
(今週はジャーナリストの武田徹、社会学者の宮台真司両氏の司会でお送りします。)

今週のニュース・コメンタリー

・原発事故の存在を無視した委員会審議に違和感
 インタビュー:大島堅一氏(立命館大学国際関係学部教授)

<ゲスト プロフィール>
八代嘉美(やしろ よしみ)東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任講師
1976年愛知県生まれ。2003年名城大学薬学部卒業。05年東京大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了。09年同大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻博士課程修了。医学博士。慶應義塾大学総合医科学研究センター・生理学教室特任助教を経て、11年より現職。著書に『増補 iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』、共著に『再生医療のしくみ』 など。

2011年10月 8日

そしてアメリカは変わったのか

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第547回(2011年10月08日)
そしてアメリカは変わったのか
ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)

プレビュー

 9月に小規模に始まったウォール街のデモは、1万人規模にまで膨らみ、一向に収束の兆しを見せていない。様々な理由から若者を中心に老若男女が全米から金融の中心地に結集している平和的なデモだが、その底流にあるのはそれぞれが持つアメリカの政治、経済、社会の現状に対する不満だ。

 アメリカ研究が専門の渡辺靖慶応大学教授は、デモの直接的な背景には、高い若者の失業率や多国籍企業に牛耳られた経済体制などに対する不満があると分析する。

 実際、アメリカでは失業率が高止まり状態にあり、19歳から25歳の失業率は4割を超えると言われる。1980年から続く「小さな政府」の流れで経済格差は広がり、多国籍企業や富裕層がますます肥える一方で、貧困層の人口が急増している。豊かなアメリカを象徴する、30歳までに庭付きの家に住み、複数の自動車を所有し、子供を全員大学に送れる「分厚い中間層」は、もはや古き良き時代になりつつあると言っていいだろう。

 しかし、そうしたデモや格差や失業率があっても、アメリカの保守化の流れはまだしばらくは止まらないだろうと、渡辺氏は見る。現在の保守化傾向は、大恐慌後の50年続いた左派によるニューディール政策の後、レーガン政権の誕生とともに始まった保守化がまだ続いているもので、オバマ大統領が支持率を下げている理由の一つは、そのリベラルな政策が今のアメリカの潮流と合致していないためだと言うのだ。

 むしろアメリカの保守化の流れは、9・11以降、アメリカ人のセキュリティに対する考え方の変化に如実に現れている。何よりも自由とプライバシーを重んじるはずのアメリカ人が、空港で顔写真の照合や指紋の採取に唯々諾々と従い、図書館での図書の借り出し情報をFBIに収集されても文句一つ言わないのは、テロの脅威を排除するためにはそうした施策が不可欠だと考えているからだ。

 こうして考えていくと、もはや今のアメリカには、最大の魅力だった豊かな中間層も、最大の美徳だった自由を重んじる国民性も失われつつあるようにも見える。

 しかし、渡辺氏は今のアメリカの状況をアメリカ凋落の始まりと見るのは、過ちだろうと言う。これまで歴史上何度となくアメリカ衰退論が語られてきたが、そのたびにアメリカは誰もが予想しなかった形でそれを跳ね返してきた。

 9・11以降、アメリカの何が変わり、何が変わらなかったのか。先週4本のアメリカ映画を通して見た「自分探しするアメリカ」は、これからどこへ向かおうとしているのか。更に、アメリカの復元力を日本も模することはできないのか。気鋭のアメリカウオッチャー渡辺氏と、アメリカの今とこれからを議論した。

今週のニュース・コメンタリー
•小沢裁判から見えてきたもの
•だから日本はエネルギー政策を転換できない

関連番組

マル激トーク・オン・ディマンド 第510回(2011年01月22日)
アメリカはどこへ向かうのか
ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)

<ゲスト プロフィール>
渡辺靖(わたなべ やすし)慶應義塾大学環境情報学部教授
1967年北海道生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。92年ハーバード大学大学院東アジア地域研究科修士課程修了。97年同大学大学院人類学部博士課程修了。社会人類学博士。ケンブリッジ大学、英オックスフォード大学、ハーバード大学客員研究員などを経て、06年より現職。著書に『アメリカン・センター アメリカの国際文化戦略』、『アメリカン・デモクラシーの逆説』など。

2011年10月 1日

5金スペシャル
自分探しを始めたアメリカはどこに向かうのか

マル激トーク・オン・ディマンド
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第546回(2011年10月01日)
5金スペシャル
自分探しを始めたアメリカはどこに向かうのか

ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)

無料放送中

 今回の5金は久々の映画特集。ゲストに町山智浩氏を迎え、「ウインターズ・ボーン」「アザー・ガイズ」「フェアゲーム」「カンパニーメン」の4本のアメリカ映画を通じて見えてくる、アメリカの今とその向かう先を議論した。

 1本目は宮台氏イチオシのウインターズ・ボーン。アメリカの山岳地帯に今も残るヒルビリーと呼ばれる人々が住む隔絶された部族社会の中で、17歳の少女が家族を守るために、村の掟に背いて姿を消した父を捜し求め、戦い続ける姿を感動的なタッチで描いたもの。叩かれても叩かれても挫けない少女の逞しさに、現在の経済的な逆境に立ち向かうアメリカの意気込みが重なる。 2本目はアザー・ガイズ。一見、刑事モノのドタバタ喜劇のようだが、よく見ると随所に既存の刑事映画の揶揄がちりばめられていたりする。TVの人気お笑い番組「サタデーナイト・ライブ」の名コンビであるアダム・マッケイ監督と主演のウィル・フェレルによる一段上の笑いを誘ってくれる作品だが、悪者には拳銃をぶっ放しておけば事が済んでいたこれまでのアメリカからは、一皮剥けた、あるいは一皮剥けようとしている印象が伝わる。

 3本目はカンパニーメン。日本語に訳せば「会社人間」。アメリカでも10年ほど前から、日本に負けないほど仕事漬けの会社人間が多くなったと言わるようになった。典型的な会社人間だったベン・アフレック演じる37歳の会社人間ボビーが、リーマンショックの煽りを受けて会社をリストラされたことで、これまでの人生の価値観を根本から見直す必要に迫られるという設定。と聞くと、月並みなストーリーに聞こえそうだが、この映画で特筆される点は、その主題の一つが「会社は誰のものか」という問い。日本でも何年か前にしきりとこの議論が交わされたことがあったが、少なくともここ最近までアメリカでは、「会社は株主のもの」がコンセンサスであり常識であるとさえ言われた。しかし、リーマンショックを経てアメリカも、会社が持つ社会的な機能や社員やその家族との関係などを見直す必要に駆られているようだ。

 そして4本目のフェアゲームはブッシュ政権下で現実に起きた「プレイム事件」を映画化したもの。プレイム事件とは、ヴァレリー・プレイムという女性がCIAの工作員(エージェント)であることがマスコミに暴露された事件のこと。CIAのエージェントの身分を公開することは、他の工作員の命を危険にさらす恐れがあるため、アメリカでは法律で禁じられている。

 9・11の同時テロ直後、当時のブッシュ政権は同時テロを、悲願だったイラク攻撃の格好の口実にできると考え、イラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているとの情報をしきりと流布した。しかし、プレイムの夫の元外交官ジョー・ウィルソンはそれが事実無根であることを知り、政府批判を始める。そして、チェイニー副大統領のスクーター・リビー首席補佐官やブッシュ大統領のカール・ローブ補佐官らは、その報復としてジョーの妻のバレリーがCIAの工作員であることをマスコミに漏洩し、この夫婦を潰しにかかる。

 禁猟期間が明けた時に標的となる獲物を「フェアゲーム」と呼ぶそうだが、ジョー・ウイルソンとバレリー・プレイムの夫婦が、政府から狙われる標的となったという意味で、このタイトルが付けられているそうだ。

 アメリカは8年間続いたブッシュ政権の下でのテロとの戦争に疲弊し、また映画の主題ともなった無理なイラク攻撃を強行した挙げ句の果てに泥沼にはまり、多くのアメリカ人の若者が命を失った。また経済面では、リーマンショックによって、命綱だった金融部門が痛手を受ける中で、これまでの「ネオコン」路線を修正すべく変革を旗印に掲げるオバマ政権が2008年に誕生した、はずだった。しかし、そのオバマ政権も政権発足から3年経った今、支持率は低迷し、アメリカでは草の根保守のティーパーティ運動が勢いを増している。アメリカの自分探しは、まだしばらく続きそうだ。

 政治、経済、社会の各方面でいま懸命に自分探しをするアメリカの姿を浮き彫りにする4作品を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、映画評論家の町山智弘氏と語り合った。(今週は5金(5回目の金曜日)に当たるため、特別番組を無料で放送します。ニュース・コメンタリーと福島報告はお休みします。)

関連番組

マル激トーク・オン・ディマンド 第485回(2010年07月31日)
5金スペシャル 「カジノジャック」と「インセプション」に見る米国の今と昔とこれから
ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)

マル激トーク・オン・ディマンド 第387回(2008年08月30日)
5金スペシャル
映画とイラク戦争と大統領選挙

ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)

<ゲスト プロフィール>
町山 智浩(まちやま ともひろ)映画評論家
1962年東京都生まれ。86年早稲田大学法学部卒業。同年宝島社入社。『宝島』、『別冊宝島』、『宝島30』を経て、95年洋泉社に出向、『映画秘宝』の創刊に携わる。96年同社を退社。97年より現職。米国・カリフォルニア州オークランド在住。著書に『映画の見方がわかる本』、『USAカニバケツ』、『新版底抜け合衆国~アメリカが最もバカだった4年間』、『トラウマ映画館』など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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