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崩壊国家ソマリアから考える国家本来の役割とは何か

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第543回(2011年09月10日)
崩壊国家ソマリアから考える国家本来の役割とは何か
ゲスト:遠藤貢氏(東京大学大学院教授)

プレビュー

 深刻な食料不足のために人口の半分にあたる400万人が飢餓状態に陥っているソマリアの飢饉は、国連食糧農業機関(FAO)が5日、緊急援助がなければ向こう4ヶ月で75万人が餓死する恐れがあると発表するなど、依然として深刻な状態が続いている。飢餓は新たに南部地域にまで拡大しており、毎日100人を越える子どもが命を落としているとFAOはいう。

 今回のソマリアの飢饉は少なくとも3つの複合的な要素に起因すると言われる。まずは、60年ぶりとも言われる大干ばつ。今年は雨期、東アフリカ地域には、ほとんどまったく雨が降らなかった。灌漑システムの完備されていないアフリカでは、農作の大半は雨水に依存している。雨が降らなければ作物は収穫できない。

 そして、国際的な食料価格の高騰。干ばつのために自力で食料が作れなければ、人々は食料を購入するしかないが、世界的に食料価格が高騰していることもあり、ソマリアでは店に食料が置いてあっても、ソマリアの人々の所得ではそれを買うことができない状態にあるという。食料価格高騰の原因については、ソマリアの干ばつに代表される世界各地での気候変動の影響やエタノール燃料需要の高まり、そして株安債券安で行き場を失ったマネーによる投機的な商品取引の横行などが指摘されているが、どうやら食料価格の高騰は一時的なものではなく、恒常的なものとの見方が強くなってきている。

 確かに干ばつと食料価格高騰の2点が重要な要素であることは間違いないだろう。しかし、干ばつが襲ったのはソマリアばかりではない。実際、東アフリカ全域が深刻な干ばつに襲われているし、他にも世界各地で大干ばつに襲われる地域は近年増えているが、だからといって直ちにソマリアのような危機的な状況を生んでいるわけではない。もちろん、食料価格の高騰もソマリアのみならず、世界各国に影響が及ぶ問題だ。

 南部アフリカ研究を専門とする遠藤貢東京大学大学院教授によると、今回のソマリア危機には3つめの要因があり、それがソマリア固有の問題として重要になると指摘する。それは、ソマリアが国家としての体を成していない「崩壊国家」状態にある点だ。国家機能が崩壊しているため、食料難民が出ても援助することができない。援助ができないばかりか、外国から援助を受けるための受け皿となることもできない。更に悪いことに、国家が国土を掌握できていないため、各地に部族や武装勢力が勃興し、国連を始めとする国際的な支援努力の邪魔をしたり、場合によっては危害を加えたりするため、支援物資を届けることもできない。ソマリアの首都モガディシュでは、海外からの援助物資が大量に盗まれ、横流しされていたことも、明らかになっている。

 実際、現時点でソマリアの暫定政府が実効支配できている地域はソマリアのほんの一部に過ぎない。南部の大半はアルシャバーブと呼ばれるイスラム武装勢力の支配下にある一方で、北部のソマリランドやプントランドは勝手に独立宣言を出し、自治政府を樹立してしまっている。国土はあってもそれを実効支配する政府が存在しない状態を遠藤氏は「崩壊国家」と呼ぶが、この状態では飢餓にも対応できないし、海賊が外国船を襲うことを押さえることもできない。

 ところで、現在のソマリアの崩壊国家状態は、一見安定している民主主義国家の日本とは無縁の話のように聞こえるかもしれないが、どうしてどうして、現在の日本の政治・社会状況を考える上で、実は興味深い鏡を提供してくれているかもしれない。

 確かに日本は政府が国土を実効支配できていて、ソマリアのような崩壊国家とは正反対の状態にあるかのように見える。しかし、ソマリアは制度としての政府は崩壊しているが、その中で人間が人と人との関係のみで生活を営み、社会を回している。政府とは無縁に社会が動いている状態と言ってもいいだろう。無論それは、大規模な飢饉などに対してはいたって脆弱となるが、そのような状態が続くことで恩恵を得ている人も大勢いるはずだ。

 翻って現在の日本は、あまりにも社会のシステムが確立しているため、むしろシステムが自立化して、政治が無力化された状態にある。人が自分の意思で何かをやろうとしても、システムがあまりにも硬直化しているために、人の意思で何かを変えることが著しく困難だ。つまり、崩壊国家の正反対にあるが故に、逆にシステムの想定を越えた問題に対応することが非常に難しくなっているとみることができる。それが過去20年にわたる経済政策の失政であったり、原発事故への対応の拙さに象徴されていると言えるのではないか。 ソマリアの問題は人道的な観点から緊急の援助を行い迅速に対応することが肝要だ。しかし、日本はそれを単に「遠いアフリカの地に可哀想な人たちがいる問題」としてとどめておくべきではないのではないだろうか。

 今週のマル激では崩壊国家に詳しい遠藤氏と、中国出張中の宮台真司氏に代わって司会を務める哲学者の萱野稔人津田塾大准教授とともに、今世紀最大の飢饉に喘ぐソマリアの現状を検証した上で、国家の基本機能が崩壊しているソマリアが意味じくも浮き彫りにする「そもそも国会の機能とは何なのか」を議論し、それを現在の日本に投影してみた。

今週のニュース・コメンタリー
・電力使用制限令は必要だったのか
・9・11から10年で世界はどう変わったか

<ゲスト プロフィール>
遠藤貢(えんどうみつぎ)東京大学大学院教授
1962年秋田県生まれ。87年東京大学教養学部教養学科卒業。89年東京大学大学院総合文化研究科修士課程専攻修了。97年英国ヨーク大学南部アフリカ研究センター博士課程修了。南部アフリカ研究博士(PhD)。93年東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻助手を経て2007年より現職。編共著に『日本の国際政治学3 地域から見た国際政治』、共著に『アフリカ国家を再考する』など。

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神保 様

人口の半分400万人が飢餓状態にあり、この数カ月の間に75万人が餓死する状況は、想像を絶し筆舌に尽くしがたい。

国家が崩壊状態で、わずかに保たれている絆は、人間が生きていく基本根本である家族であり、親族であり、村社会であることをお聞きし、「生きていくために必要なものは何か」を気づかされます。

衣食住が昔から生活の基本と言われていますが、お話にある飢餓からの脱出を図るためには、食糧の確保が不可欠です。今ソマリアに求められていることは、当然のことながら食糧の自給体制でしょう。

現在日本では、一部の利権追求者がアメリカの求めるTPPに参加すべきだと主張する人たちは、このソマリアの現状即ち食糧問題を直視してほしいと思います。

現代の文明社会は確かに高度に発達したシステム情報社会にあり、一部地域の不具合があっても、また、たとえ政治家がボンクラであっても、システムの不具合は時間の長短はあっても、見事に修復し元のシステム情報社会を回復し、技術開発によって、さらに高度化を図っていきます。

ただ今回明らかになったことは、人間が自在にコントロールできる存在現象、事象は問題ないが、恒常的な活動を続けるエネルギーをコントロールできる技術を持ち合わせていないし、今後も持ち合わせることなどできないことが明らかになりました。

恒常的なるものに対する恐れを感じない傲慢さから抜け出せることのできない愚かな人々は、毎年繰り返される天候異変による災害すなわちエネルギーの変化変動に対処できないことに気づくべきだと痛感しています。

<模索を続けるしかないのでは?>
人間社会が生まれて、様々な歴史的経緯を踏まえて各地に国家なるものが存在しています。
そして、各国の統治のありようも千差万別です。
どんな統治形態が望ましいのかはその国の発展段階や国民性にもより一概には言えないと思います。
私は現在のアメリカ、中国、日本を対比して考えてみました。
まず、アメリカは市民の契約によって作られたまさに民主主義国家です。個人の自由と権利が最大限に尊重され、国民の多数決で物事が決定されます。
従って、個人の判断を左右するメディアの流す情報がその鍵を握り、これが事実上、国の進路や政策を決定してしまう。従って、アメリカはメディアを握るユダヤ資本の意向に沿う政策しかできないでしょう。
一方、現代の中国はエリートの集まりである中国共産党という官僚組織の完璧な統治下にあります。これは長い歴史を持った中国人の知恵ではないかと最近思うようになりました。それはあの華僑が実権を握るシンガポール政府も共産党ではありませんが、反対党の存在を許さず、非常に強権的な政権運営を行っているからです。しかし、国民が豊かになるような政策を思い切って行っています。
この両者に共通していることは、権力内部の不正や腐敗には極めて厳しく対処していることです。さらに官僚集団ですから政権内部で主導権争いがあったとしても、一定の枠の中での争いであり、次期代表も事前にきちんと決定し、安定した政権の継承を行っていることです。日本の官僚組織でも2,3代先までトップが内定しているといわれています。極論すれば日本と違って、中国には政治家なるものがいないのです。
問題は日本の統治形態です。建前は国民主権であり、従って、選挙で代表者が決められます。ということはメディアが大きな影響力を持つことになります。
ところが、実質的に日本の統治権は完全に官僚にあります。許認可権、課税権を掌握し、どこからもその身分を奪われることの無い官僚はメディアをコントロールすることは極めて容易です。
官僚統治に都合が悪い政策を打ち出す政治家には先ずサボタージュ、次にメディアを使った悪評の流布を行えば、その政治家を容易に排除できてしまいます。
弟四の権力と言われるメディアを動かせるものが今日では実質的に統治権を持つのです。
冷戦終結後の民主主義国と称される欧米や日本の衰退はメディアのあり方とも深く関わっているように思えてなりません。
同じ官僚が支配しても、責任だけは政治家にとらせるシステムが出来て腐敗・堕落が許される日本とそれを許さない中国では勝敗の帰趨は明らかではないでしょうか。

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神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

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