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日本の漁業は2つの危機を乗り越えられるか

マル激トーク・オン・ディマンド
マル激トーク・オン・ディマンド
第544回(2011年09月17日)
日本の漁業は2つの危機を乗り越えられるか
ゲスト:勝川俊雄氏(三重大学生物資源学部准教授)

プレビュー

 いま、日本の漁業は、2つの大きな危機に瀕している。

 一つ目の危機は言うまでもなく、東日本大震災による目の前の危機だ。

三陸の漁業が壊滅的なダメージを受けた上に、福島第一原発事故で大量の放射性物質が海に流れだし、魚、貝、海藻などを広範囲に汚染してしまった。漁船や漁港、水産加工施設などが壊滅的な打撃を受けた岩手、宮城、福島の3県では徐々に復旧作業が進んでいるが、将来の日本の水産業をどうするかについてのグランドデザインが描けていないため、補助金はもっぱら漁船や漁港などのインフラ整備に充てられ、水産業全体の復興の兆しがなかなか見えてこない。

 また、放射能汚染については、海洋や魚介類の調査が進んでいないため、今のところどの程度汚染が広がっているかを把握することが困難な状態だ。9月9日に日本原子力研究開発機構が、事故発生以来、海に流出したヨウ素131、セシウム134、セシウム137の総量が、これまでの推定の3倍を超える1万5000テラ・ベクレルにのぼるとの試算を発表しているが、これが今後、汚染された海域で捕獲される魚介類にどのような影響を及ぼすかは、今のところわからない。固唾を飲んで見守るしかない。

 しかし、仮に日本の漁業が今回の地震・津波の被害を克服し、放射能汚染を乗り越えることができたとしても、次なる問題が待ち受けている。それが2つ目の危機とも言うべき、日本漁業の構造的な問題だ。

 日本の漁業は震災前から衰退の一途を辿ってきた。乱獲による資源の減少が進む中で、漁業の売上は減少し、漁業従事者の高齢化も深刻だ。

 日本漁業の再生のための政策提言を行ってきた三重大学の勝川俊雄准教授は、すでに震災前に閉塞状態に陥っていた日本の漁業が、この震災を機に数々の構造問題にメスを入れることができるかどうかが、再生の鍵を握ると指摘する。

 震災で壊滅的な打撃を受けた三陸の漁業は、その復旧過程ですでに構造的な問題を露呈していると勝川氏は言う。例えば、復旧のための補助金は漁協の政治力によってもっぱら漁船や漁港などのインフラ整備に充てられ、水産加工や流通業者には資金が下りてこない。そのため、水産加工の拠点だった宮城県では、加工・流通設備の復旧が進まないために、漁船の復旧で魚の水揚げが始まっても、それを買う加工業者がいない状態にある。それもこれも水産業全体をどうするかについてのグランドデザインが無いためだという。

 勝川氏はまた、旧来の漁業・水産行政のもとでは日本の漁業が乱獲と安売り競争を繰り返す中で自滅してしまうことが必至だと言う。漁協ごとに縄張りを定め、その中で魚を獲りたいだけ獲らせている現在の漁業法の下では、資源が完全に枯渇するまで乱獲はやまない。資源を育てることをしない限り、日本の漁業は利益があがらず、若い人も入ってこない。持続的な漁業を守るためにはこれまでの漁業・水産行政を転換し、漁獲量を制限した上で、資源を育成する体制を整えない限り、日本の漁業を儲かる産業に転換していくことはできない、と勝川氏は主張する。

 魚の放射能汚染の現状を検証した上で、今後、日本の漁業が2つの危機を乗り越えるために必要な改革と、われわれが消費者として考えなければならないことは何かを、勝川氏とともに考えた。(今週は神保哲生、萱野稔人の司会でお送りします。)

今週のニュース・コメンタリー
・鉢呂大臣の辞任は脱原発人事の発動直前だった
・フランスが原発にこだわる理由とは

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<ゲスト プロフィール>
勝川俊雄(かつかわとしお)三重大学生物資源学部准教授
1972年東京都生まれ。95年東京大学農学部水産学科卒業。97年東京大学海洋研究所修士課程修了。農学博士。東京大学海洋研究所助教を経て2009年から現職。著書に『日本の魚は大丈夫か』、監訳に『魚のいない海』など。

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コメント (2)

このご意見には異論がある一人です。
確かに、加工流通設備が整わないと被災地の漁業復旧とはいえないが、そうした設備が復旧できない理由について、言及がない。
港湾堤防などのインフラ設備が優先されている帰来はあるが、加工流通設備は、少しずつ復旧していると当事者でない私にもわかる。まず、製氷設備である。
これがないと、鮮度を保つことができない、少しずつであるが流通されていることから、この設備も復旧段階にあると推察できる。
他の設備に関しては、旧来の建物が残っていても、その場所で再開できる見通しの立たないことが大きな理由であると思える。地盤沈下による冠水被害は、未だ解消されたとはいえないし、建築規制もある。再度被害を受ければ、それこそ立ち直れない、それ故二の足を踏む経営者の心理があると思える。1000年の被害と言わないまでも、10年、100年の被害はないという確証がないと、決断することが難しい経営者サイドの心理を理解しているか疑問である。地盤沈下対策などようやく青写真ができてきた段階であり、これが確証的になるまでは、加工流通関係者は動けないのが、実情でないかと思う。
次に乱獲問題ですが、確かにそういう時期があり漁獲量が減ったことは間違いはない。それ以外にも漁獲量減少の要因があると思えるが、後述します。
もうすでに、獲る漁業から育てる漁業に変貌している事実を見逃しておられる。50年以上前から少しずつ普及し、今や全国的な動きにすでになっている。
稚魚や稚貝の放流、禁漁期間や収獲制限(大きさや年数)、漁礁やあおもなどの海藻類による漁場整備、更には森の植林運動まである。豊かな海は森を育み、森は海を育てる。そうした理念から、漁師自らが、森に植林しているなどこうした動きを見過ごしてはいけない。
定置網漁も一網打尽に獲ると思いがちですが、非常に理に適っており、網の目の大きさで対象魚の大きさを選別できる機能もある。
もはや、乱獲は遠い昔の話と私は感じている。
漁業関係者でない私が言うのもおこがましいのですが、漁業関係者が、何もしていないのでなく、影ながら日々努力している。ただそれが広く伝わっていないだけでないかとも思える。
漁獲量が減った理由のひとつに海水温が、以前と比べて上がっていると聞く。
魚介類にも適温があり、そのため回流域・生育域が異なり、産卵にも影響があると聞く。その他にも国内を問わず海外などの違法操業が後を絶たないとも聞く。単に乱獲だけをクローズアップするのはいかがかと思える。
海水温の上昇は、近年の異常気象ともいえるものに顕著に現れてきている。台風の迷走や北極の氷面積の減少など、近海と言うより地球規模に異変が現れていることからも推察できる。そうした意味では、日本だけの問題でないはずである。
更に言えば、育てる漁業については、日本は世界の最先端であると自負してもよいと思える。

神保 様

原発の冷却は順調に進み100度以下に保つことができるようになったようである。しかし、底抜け汚染水の話をマスコミは何も話題にしていないうえに、地下水の汚染、海水の汚染にどのように関わっているかの情報が全くなく大変心配しています。

勝川氏が指摘するように、魚類に対する汚染状況を国民に知らせる義務があるが、どうなっているのであろうか。汚染調査が遅れているというより、対策がとれていないので、見て見ぬふりをしているような気がしています。

将来の漁業資源の枯渇と、後継者の問題を指摘されている。具体的表現は避けておられるようである特区構想と関連があるのでしょうか。

先日のテレビで、サンマ漁に出掛けるため、三重県から漁船を借り、サンマ漁ができるよう鉄工所の手助けを得ながら修繕し、出港後根室の花咲港で大漁な収穫をあげている様子がでていた。出港前と大漁な収穫をあげた時の顔の表情に大きな差があり、大変印象深く覚えています。

確かに漁船とか漁港などインフラ整備は進んでいることが理解できますが、加工、流通設備の問題は始めて知ったが、特区構想が絡んでいると、一筋縄では解決できないのではないか。

漁業関係者の村社会を大転換するような、村社会を破壊しかねない特区構想であれば、話し合いが進むわけがありません。漁業の村社会を維持しながら少しずつでも改革していく息の長い改革を進める構想を立てられないのでしょうか。

漁業が衰退しては、特区構想者も漁業関係者も、望むところではないはずであり、何とか話し合いが円満に進められないのでしょうか。

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Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
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ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
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新刊!
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『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


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2007年7月、春秋社、増補版


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2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


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2006年11月、春秋社、共著


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2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

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1997年11月、築地書館

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1995年11月、ほんの木

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1993年7月、ほんの木

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