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2011年6月25日

正力松太郎はなぜ日本に原発を持ち込んだのか

有馬哲夫氏
マル激トーク・オン・ディマンド
第532回(2011年06月25日)
正力松太郎はなぜ日本に原発を持ち込んだのか
ゲスト:有馬哲夫氏(早稲田大学社会科学部教授)

プレビュー

 「原発の父」と呼ばれる正力松太郎は、独占的な通信網欲しさから原発を日本に持ち込み、田中角栄は利権目的で原発を利用した。こうして日本の原発は、その本来の目的とは乖離した、いわば不純な動機によって増殖を続け、そしていつしかそれは誰も止めることができないものとなっていた。

 正力松太郎に詳しい早稲田大学の有馬哲夫教授によると、読売新聞の社長で日本初の民間放送局日本テレビの社長でもあった正力の真の野望は、マイクロ波通信網と呼ばれる国内通信網の実現だった。これを手にすれば、当時将来有望な市場と目されていた放送・通信事業のインフラを自らの手中に収めることができる。正力はそのための資金としてアメリカからの1000万ドルの借款、それに対する日本政府の承認、そして通信事業に参入するための公衆電気通信の免許が必要だった。

 正力は野望実現のために、当時の吉田茂首相やアメリカとの交渉に奔走した。しかし、正力はほどなく一つの結論にたどりつく。それは、野望を実現するためには自らが最高権力者、すなわち日本の首相になるしかない、というものだった。そして、正力は同じく当時将来が嘱望されていた原子力発電は、そのための強力なカードになると考えた。しかし、正力の関心はあくまでマイクロ波通信網であり、原発そのものは正力にとってはどうでもいい存在だった。

 当初はアメリカも、弱小紙だった読売新聞を大新聞に育て上げた正力のビジネスマンとしての才能や政治的コネクション、そして何よりもそのアンチ共産主義的な思想を評価していたと有馬氏は言う。更にアメリカは、1953年のアイゼンハワーの国連演説以降、核の平和利用を推進し、その恩恵を西側陣営に広げることを対ソ戦略の柱の一つにしていた。アメリカにとって正力は十分に利用価値のある人物だった。

 日本で初の原子力関連予算が成立した翌年の1955年、正力は衆院議員に当選するやいなや、原発の導入を強力に推進する。新人議員ながら既に70歳と高齢だった正力は、限られた時間の中で、自らが首相になるための実績作りを急がなければならなかった。そのために読売新聞や日本テレビを使った大々的な原発推進キャンペーンを次々と打ち、当時第五福竜丸の被爆などで高まりつつあった反米、反原子力の世論の懐柔に奔走した。こうして正力は初代の原子力委員会委員長、同じく初代の科学技術庁長官の座を手にし、権力の階段を着実に登り始めたかに見えた。

 しかし、その頃までにアメリカは正力の権力欲を警戒し、正力から距離を置き始めていたと有馬氏は言う。それでも正力はあきらめず、遂に1957年8月、茨城県東海原発実験炉に日本で初めて原子力の灯がともった。しかし、正力の首相になる夢は叶わず、マイクロ波構想も通信・放送衛星の登場によって、意味のないものとなってしまった。

 夢のエネルギーであるかに思えた原子力発電にも問題が起きる。その年の10月、イギリスのウィンズケールの原子炉で大規模な事故が起こり、原発のリスクが顕在化したのだ。正力が科学技術庁長官並びに原子力委員長を退任した後の1961年、原子力賠償法が成立したが、その内容は事業者負担の上限を定め、それ以上は国が負担するといういびつな二重構造だった。ここにも、民間と言いながら実際は国が保証しているという原発の二重性の欺瞞を見て取ることができる。

 しかし、原発は正力の手を離れた後も著しい成長をみせた。1970年の大阪万博には敦賀原発から電力が送られ、未来のエネルギーとしてもてはやされた。オイルショックも原子力の推進を後押しした。そうした中で登場した田中角栄首相のもとで、1974年、電源三法が制定され、原発は高度経済成長の果実を得ていない過疎地の利権としての地位を得て、更に推進されることになる。

 正力が「首相になるための道具」として日本に原発を導入してから、半世紀がたつ。一人の男の不純な動機で始まった日本の原発は、原発に利権の臭いを嗅ぎ取った希代の政治家田中角栄の手で、やはり本来の目的とは異なる別の動機付けによって推進されるなど、常に二重性の欺瞞に満ちているようだ。

 「原発の父」正力松太郎の生きざまを通じて、原発の歴史と今後のエネルギー政策へのヒントを、有馬氏と考えた。(今週の司会は武田徹、宮台真司の両氏です)

今週のニュース・コメンタリー
・再エネ法案は首相の延命策と言うが
・NPO法の改正は「新しい公共」の第一歩となるか
・福島報告
原発事故の長期化で高まる心のケアの重要性
報告: 藍原寛子氏(医療ジャーナリスト)

関連番組
特別番組 (2011年03月16日)
東日本大震災

特別番組
福島第一原発事故

マル激トーク・オン・ディマンド 第526回(2010年10月02日)
ゴジラ+鉄腕アトム+田中角栄=原発大国への道
ゲスト:武田徹氏(ジャーナリスト)

マル激トーク・オン・ディマンド 第474回(2010年05月15日)
「新しい公共」で国のカタチはどう変わるのか
ゲスト:松井孝治氏(元内閣官房副長官)

<ゲスト プロフィール>
有馬 哲夫(ありま てつお)早稲田大学社会科学部教授
1953年青森県生まれ。1977年早稲田大学第一文学部卒業。1980年東北大学大学院文学研究科修了。1984年同大学院英文学専攻博士課程単位取得。東北大学大学院国際文化研究科助教授、早稲田大学社会科学部助教授などを経て1999年から現職。著書に『「日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』『「原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史」』などがある。

2011年6月18日

原発震災を防げなかった本当の理由とは

古賀茂明氏
マル激トーク・オン・ディマンド
第531回(2011年06月18日)
原発震災を防げなかった本当の理由とは
ゲスト:古賀茂明氏(経済産業省大臣官房付)

プレビュー

 この震災、とりわけ原発震災は本当に防げないものだったのだろうか。また、仮に想定外の大地震と大津波によって原子炉の一部が破壊されたとしても、その後の被害がここまで拡大することを防ぐことはできなかったのだろうか。

 3月11日の震災以前から、日本では官僚のあり方がたびたび問題にされてきた。戦後復興から高度成長にかけての「欧米に追いつけ、追い越せ」の時代は、政府の意思決定を官僚に任せておけばよかった。しかし、その後日本が成熟社会への転換を図らなければならない局面を迎えた時、官僚が牛耳る「おまかせ政治」のままでは方向転換ができないと言われて久しい。

 一昨年の政権交代では、民主党が脱官僚を旗印に政権を奪取したが、その後の「政治主導」の迷走によって脱官僚のスローガンは大幅にトーンダウンしてしまった。

 今回の震災とその後の対応、とりわけ東京電力の賠償スキームなどを見る限り、官僚機構の問題点が何も解決されていないことは明らかだ。そうした中、この震災は、これまでわれわれが手をこまねいてきた政治や行政の問題点が、一気に吹き出したものであり、同じような悲劇を繰り返さないためには、国家公務員制度の改革が急務であると公言してはばからない現役官僚がいる。それが経済産業省の古賀茂明氏だ。

 古賀氏は今回の原発震災の背後に、官僚の前例踏襲主義、年功序列、そして天下りといった官僚機構特有の弊害があったことは否定できないと指摘する。専門家から原発の安全基準の脆弱性が指摘されていても、安全基準を強化することは先輩官僚のやってきたことの否定につながるからできない。脱原発は電力の自由化につながるため、無数の天下りポストを提供してくれてきた電力業界に対して、そのようなことを言い出せる官僚などいない。結果的に日本の原子力政策は、十分なチェックが入らないままここまで続けられてきた。そして、その結末が、今回の原発震災ということになる。

 古賀氏の論理は明快だ。政治家は選挙で、一般企業は消費者や株主などから常に厳しいチェックを受けているが、役所は外部からチェックを受けることがない。そのため内向きの論理が働き、優秀な官僚ほど省益のために働くようになる。省の人事を省自身が握っている以上、国民益ではなく省益に尽くした官僚が出世するのも当然のこととなる。そこで言う省益とは、天下りポストの増設であり、予算の拡大でもある。

 天下りを含めて約50年、自分の一生を保証してくれる組織に忠誠を誓い、省益の拡大に尽力すれば、自らの官僚人生は安泰だ。しかし、一方で、一旦これに歯向かえば、破滅的な災いがその人の官僚人生に降りかかる。そのような条件のもとで、一体誰が正論や改革などを訴えようか。

 踏み込んだ改革を訴えたために、大臣官房付なる待ちポストに1年半も留め置かれている古賀氏は、この仕組みの中にいると少しずつ感覚がマヒし「普通ならおかしいと思うことが普通に思えてくる」と話す。そのような仕組みの下では、どんな正論が出てこようが、官僚たちにとってこれだけ旨味のある原発が、止まるはずもなかった。

 脱官僚を訴えて政権の座についた民主党は、個々の政治家の能力の低さと経験の無さ故に、財務省の力を借りなければ予算一つを通すこともできず、結果的に民主党政権はことごとく財務省に取り込まれてしまったと古賀氏は指摘する。その財務省は、経済成長など全く念頭に無く、財政再建の名の下にもっぱら増税の機会を狙っている。今の公務員制度では、真に日本の国民に奉仕する官僚は生まれてこないし、今の民主党政権のままでは、政治主導など夢のまた夢だと古賀氏は言う。

 では、これから日本をよくするためにどのような国家公務員改革をすべきか。それには官僚が国民のために働く仕組み作りが必要となる。内閣人事局による幹部人事の一元管理、幹部職員の身分保障の廃止、民間人の登用など、自民党政権下で公務員制度改革に取り組んできた古賀氏は多くの案を出すが、その要諦は官僚が省のためではなく、国民のために働く仕組みを作ることと、若い人たちが活躍できる仕組みに変えることだと古賀氏は訴える。

 震災発生以前から日本は危機的な状況にあった。財政赤字、長引く経済の停滞、機能不全に陥る政府と1年と持たない政権、少子高齢化に対応できない社会保障等々、日本はいつ政府閉鎖が起きてもおかしくないほど状況は深刻だった。更にその上に、今回の震災の負担がのし掛かってくると古賀氏は危機感を募らせる。

 二度と同じ不幸を繰り返さないために、今われわれが真剣に取り組まなければならないことは何かを、古賀氏と考えた。

今週のニュース・コメンタリー
•首相が進退を賭けるも前途多難な再エネ促進法案の見通し
•コンピュータ監視法で捜査当局が得た権限と懸念
解説:指宿信氏(成城大学法学部教授)

関連番組
特別番組 (2011年03月16日)
東日本大震災

マル激トーク・オン・ディマンド 第526回(2010年10月02日)
ゴジラ+鉄腕アトム+田中角栄=原発大国への道
ゲスト:武田徹氏(ジャーナリスト)

マル激トーク・オン・ディマンド 第478回(2010年06月12日)
脱・脱官僚のすすめ
ゲスト:中野雅至氏(兵庫県立大学大学院准教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第467回(2010年03月27日)
霞ヶ関文学入門
ゲスト:岸博幸氏(慶應義塾大学大学院教授)

ニュース・コメンタリー(2011年06月04日)
警察のネット監視力を強化するコンピュータ監視法案が衆院通過
解説:石井徹哉氏(千葉大学法経学部教授)

プレスクラブ (2011年06月16日)
再生可能エネルギー促進法成立が退陣の条件
菅首相が市民集会で表明

<ゲスト プロフィール>
古賀 茂明(こが しげあき)経済産業省大臣官房付
1955年長崎県生まれ。1980年東京大学法学部卒業。同年通産省入省。経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長などを歴任の後、2008年福田政権下で国家公務員制度改革推進本部審議官に就任。2009年12月より現職。著書に「日本中枢の崩壊」がある。

2011年6月13日

領土問題と日本の国益

孫崎享氏
マル激トーク・オン・ディマンド
第530回(2011年06月11日)
領土問題と日本の国益
ゲスト:孫崎享氏(元外務省国際情報局長)

プレビュー

 2010年9月の尖閣沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件の後、同年11月にロシアのメドヴェージェフ大統領が北方領土を訪問し、先月末には韓国の国会議員3人が国後島を訪問するなど、にわかに日本の領土問題が騒がしくなっている。

 巷では、一昨年9月の政権交代の後、普天間問題などで日米関係が不安定になった間隙をついて、ここぞとばかりに各国が領有権の係争地を押さえにきたとの指摘が多いが、外務省で国際情報局長などを歴任した孫崎享氏は、こうした見方に疑問を呈する。孫崎氏はむしろ話は逆だと言うのだ。

 それは、そもそも北方領土や尖閣問題が拗れた背景にはアメリカの意向があり、今回の尖閣をめぐる一連のできごとも、背後にはアメリカの陰が見え隠れしていると、孫崎氏は分析しているからだ。孫崎氏は、日本政府は日本の国益とは関係なく、もっぱらアメリカ自身の利害得失の計算に基づいて、これまで領土問題に対するスタンスを変更してきたというのだ。そして、そのような無理な立場を正当化するために、政府は領土問題をめぐる二国間の交渉の経緯や国際法上の位置づけなどを、日本の国民に正しく説明してこなかったとも言う。

 まず、孫崎氏は戦後の領土問題を正確に理解するためには、1945年のポツダム宣言から1951年のサンフランシスコ講和条約までの流れを理解する必要があると指摘する。ポツダム宣言第8項には「日本国の主権は本州、北海道、九州、四国及吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」と定められ、島の帰属については連合国、とりわけアメリカの意向が重大な影響を持つことが定められている。

 そして、サンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄している。これは国後、択捉両島についても当時の吉田茂首相や外務省が歴史的経緯からも千島列島に含まれるとの認識を示しているため、少なくとも国後・択捉の両島は日本が国際社会に復帰するきっかけとなるサンフランシスコ講和条約で、明確に放棄した対象に含まれているのだ。

 ではなぜ北方領土が領土問題になったのか。そこには東西冷戦下でソ連と対峙していたアメリカが、日ソの接近や日本の共産化を懸念し、日ソの平和条約締結を阻止するための工作を行ったからだと孫崎氏は言う。具体的には、1956年日ソ共同宣言を踏まえ、日本が歯舞と色丹の2島返還で平和条約を進もうとした際に、その旨を報告に来た鳩山一郎政権の重光葵外相に対して、アメリカのダレス国務長官が、国後、択捉をソ連に与えるのであれば、われわれも沖縄は返さないと恫喝して、国後、択捉の放棄を断念させたことなどがあげられる。

 日本を東アジアの対ソ拠点とし、基地を持ち続けたいアメリカは、日ソの接近を警戒していた。そして、それを推し進めようとする鳩山首相も嫌っていた。日ソを平和条約締結へと進ませないために、アメリカは沖縄を人質に取ることで、日本に4島返還を要求するよう仕向けたというのだ。

 しかし、1990年代に入ると、アメリカは今度は民主化を進めようとするゴルバチョフやエリツィンを支援するようになり、そのために日本の資金が必要になった。1990年以降、再び北方領土問題が日ソ(日露)間の争点として浮上した背景には、アメリカが、日ソ関係を改善することで日本の資金をロシアの民主化につぎ込ませたいがゆえに、領土問題での縛りを解き放ったことがあった。

 ところが、1956年以降、日本政府、とりわけ自民党政権は、サンフランシスコ講和条約の合意を無視した4島返還要求を正当化するために、北方領土問題で大々的なPRキャンペーンを通じて国民を煽動してきたため、アメリカの都合が変わったからといって、今さら2島返還などと言い出せる状態にはなかった。

 事実上日本の対ソ(対露)外交を規定してきたアメリカの縛りがなくなっても、4島返還という自らが蒔いた種が刈り取れなくなっているのが、現在の北方領土問題の現状だと、孫崎氏は言う。しかも、2000年以降、強硬路線をとるプーチン体制ができあがったため、2島の返還さえ非常に難しくなってしまっている。

 そして、今、日本は尖閣問題でも、同じ過ちを繰り返そうとしていると、孫崎氏は言う。 昨年の尖閣沖の漁船衝突事件への対応を見る限り、アメリカの影響が強く働いていることは明らかだからだ。

 そもそも、尖閣の扱いについては1972年の日中国交正常化の際に田中角栄と周恩来両首相の間で「棚上げ」が合意され、それ以降、一環して両国は尖閣には触れずに二国間関係を強化する路線を歩んできた。これはいわば、アメリカ抜きの平和的枠組だった。しかし、その枠組みをアメリカの意向を強く受けた当時の前原国交相が崩したと、孫崎氏は指摘する。

 「棚上げ」は尖閣を実効支配している日本がそのまま実効支配を続けることになり、日本に有利な取り決めだった。しかし、アメリカは尖閣問題で日中間を緊張させることで、日本が日米同盟の重要性を再認識し、政権交代後のアメリカ離れの流れに歯止めをかけ、基地問題などでも有利な決着を図りたい思惑を持っていたと孫崎氏は分析する。

 孫崎氏はこれを「トリガーインシデント(引き金となる事件)」で外交に影響を及ぼすメイン号、アラモ砦、パールハーバー以来のアメリカ外交の伝統的な手法の一環だったと説明する。

 要するに、日ソ(日露)、日中と言いながら、実際のところはアメリカの手のひらの上で踊らされてきた日本外交ということになるが、しかし孫崎氏は日本人が対米関係で重要な点を見落としていると指摘する。それは、日米安全保障条約があるから、万が一日本がロシアや中国と紛争になれば、必ずアメリカが安保条約を発動して、助けてくれるはずだと思っていることが、実は間違いだということだ。

 その理由はこうだ。まず、日米安保条約はその5条で、日本の施政下にある地域が対象だと書かれている。その意味では北方領土はダメだが、現状では尖閣は対象になる。しかし、同時に2005年の2プラス2(日米安全保障協議委員会)合意で、日本の島嶼防衛は第一義的に自衛隊が担うことが定められている。いったん尖閣で軍事衝突が起きれば、まずは日本の自衛隊が防衛をしなければならない。自力で防衛ができればそれでいい首尾よしとなるわけだが、万が一そこで中国に尖閣を取られれば、その瞬間に尖閣は日本の施政下にはないことになり、日米安保の対象から外されることになる。よって在日米軍は出てこない。要するに、日米安保は尖閣などの島の防衛にはまったく役に立たないということになる。

 しかも、安保条約の第5条は、アメリカが軍事行動をとる前提として、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」との条文を含んでいる。これは、アメリカでは宣戦布告を決定する憲法上の権限が議会にあることから、「議会の承認を得て」と解することができると孫崎氏は言う。しかし、例えばNATO条約ではそのような条件付けは行われていない。この条文は日本が外敵からの攻撃にあった場合でも、アメリカが無条件で軍事参加をするわけではないことを明記していると読むことができると、孫崎氏は指摘する。対ソ(対露)、対中ともにアメリカの言うとおりにやってきても、最後はアメリカが助けてくれない可能性があるということになる。

 戦後日本は、とりわけ領土問題では、アメリカの意向を最大限に尊重することで、国民に正確な情報が提供せずに歪んだ外交政策を継続してきた。それが本当に国益にかなった行為だったかどうかを含め、今こそ真摯な検証が必要だ。

 領土問題の本質と日本の国益について、孫崎氏と考えた。

今週のニュース・コメンタリー
•5月の自殺者が急増
懸念される震災の影響
ゲスト:清水康之氏(内閣府参与・ライフリンク代表)
電話解説:広瀬弘忠氏(東京女子大学名誉教授)
•福島報告
独自に放射線対策に乗り出す自治体
県内では一人一台線量計を持つ時代に
解説:藍原寛子氏(医療ジャーナリスト)
•利益相反が止まらない

関連番組
特別番組 (2011年03月16日)
東日本大震災

マル激トーク・オン・ディマンド 第494回(2010年10月02日)
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策
ゲスト:清水美和氏(東京新聞論説主幹)

マル激トーク・オン・ディマンド 第446回(2009年10月24日)
今、自殺対策は政治の出番だ
ゲスト:清水康之氏(自殺対策NPO法人ライフリンク代表)

マル激トーク・オン・ディマンド 第422回(2009年05月09日)
北方領土問題は終わっている
ゲスト:中村逸郎氏(筑波大学大学院教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第381回(2008年07月19日)
李明博の韓国はどこへ向かっているのか
ゲスト:木宮正史氏(東京大学大学院准教授)

スペシャルリポート(2011年06月09日)
IAEA報告書は原発を継続するためのもの

<ゲストプロフィール>
孫崎 享(まごさき うける)元外務省国際情報局長
1943年満州・鞍山生まれ。1966年東京大学法学部中退。同年外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任の後、09年定年退官。著書に「日米同盟の正体」、「日本人のための戦略的思考入門」、「日本人が知らないウィキリークス」、「日本の領土問題」など。

2011年6月 4日

東京電力をどうするか

町田徹氏
マル激トーク・オン・ディマンド
第529回(2011年06月04日)
東京電力をどうするか
ゲスト:町田徹氏(経済ジャーナリスト)

プレビュー

 東日本大震災発生からまもなく三ヶ月が過ぎようとしているが、福島第一原子力発電所の事故は大量の放射性物質をまき散らしながら、いまだ収束の兆しが見えない。人々の不安や怒り、そしてやりきれない思いは、事業者であり事故を起こした当事者でもある巨大企業、東京電力に向けられる。経済ジャーナリストの町田徹氏は競争のない地域独占、発送電の垂直統合、すべてのコストを電気料金で吸収することが許される総括原価方式など、電力会社が与えられた民間企業としてはあり得ないような特権の数々が、どんでもない「怪物」を生み出してしまったと話す。

 優良企業の典型とされてきた東京電力も、震災前と比べ株価は5分の1以下に落ち込み、5月20日発表された2011年3月期の決算では1.2兆円という日本の事業会社として史上最大の赤字を計上した。しかも、これは今回の原発事故の賠償金を一切含まない金額だ。来期以降も巨額赤字が見込まれ、企業としての存続すら危ぶまれている。

 政府は5月半ばに東電の被害者への賠償を支援するための賠償スキーム(枠組み)を発表した。これは政府、電力会社、金融機関が出資し賠償機構を設置して、同機構が東電の経営を監視しながら、必要に応じて融資していくというもので、東電の存続を前提としている。

 しかし、このスキームは多くの問題をはらむと町田氏は指摘する。まず、そもそも法的な根拠に疑問がある。閣議決定すらされておらず法的拘束力がないうえに、内閣法制局から財産権の侵害で憲法違反のおそれがあるとの指摘も受けているという。

 しかし、それ以上に問題なのは、このスキームが誰のためのものなのかが、不明なことだ。この仕組みで一体誰が得をするのか。それは東電、関連メーカー、天下りを続けてきた経産省など「東電ファミリー」と東電に融資している金融機関であり、損をするのが料金の値上げの影響を受ける一般の電気利用者となると町田氏は言う。

 とは言え、東電が支払うべき賠償金額とは一体どのくらいになるのだろうか。シンクタンクの日本経済研究センターの試算によると、福島県の原発20キロ圏内だけで賠償金は5兆円から20兆円とされる。しかし、これは20キロ圏内だけで、海洋汚染の影響やその他の事業者からの損害賠償請求の可能性は含まれていない。また、放射能が飛散した海外から訴訟を受ける可能性もあるが、これも全く想定されていない。他にも被害を挙げればきりがなく、最終的に賠償がどれほどの金額になるのかは、現時点では誰にも見当すらつかない。

 確かに、被害者は速やかに補償されなければならない。何よりも、今この瞬間も避難生活を強いられる被害者の補償が、最優先されて然るべきだろう。しかし、そのためにどうしても東電を存続させなければならない理由があるのだろうか。財務省や経産省などは電力債の日本経済に与える影響や安定した電力供給の名のもとに、東電の存続を図ろうと躍起だが、町田氏はそれらはすべて欺瞞だと斬り捨てる。既得権益側にいる人間は誰しも、電力という最も巨大でおいしい利権を、失いたくないのだ。

 東電は今年3月時点で現金約2兆円、核燃料処理費用として1兆3千億円、株主資本として1兆6千億円などの資産を保有し、発電所や送電網などを含めた総資産は約14兆円にものぼるとみられる。町田氏は、まずはこれらをすべての資産を賠償に充ててから、それでも足りない時に初めて政府が支援をすべきであり、その資産を活用した基金の設立こそが賠償金支払いの有効な方法と主張する。例えば、総資産のうち10兆円で基金を設立し、そこから賠償金を支払っていくというもので、2010年にメキシコ湾原油流出事故でBP社が200億ドルの賠償用の基金を設立した例を参考にすべきだという。

 しかし、再生可能エネルギーの増大にも寄与するとの理由から待望論がある発電と送電の分離について町田氏は、「今はそのタイミングではない」と、慎重な姿勢を見せる。今、発送電の分離にまで手を付けると、東電以外の電力会社や電力利権の恩恵を受ける既得権益からの激しい抵抗が予想され、結果的にそれが被災者の補償の遅れにつながる恐れがあるからだ。しかし、その一方で、この事故を奇禍としなければ、発送電の分離などといった大事業は、そう容易く実現できないことも事実だ。

 これまで電力の安定供給の名のもとにあまりにも多くの特権を与えてきた東京電力を、われわれは今、どうすべきか。東電のみならず、電力事業のあり方を抜本的に変えるためには、今、われわれは何をしなければならないのか。りそな銀行や日本航空などの取材を通じて企業の破綻処理にも詳しい町田氏と、東電問題を考えた。


今週のニュース・コメンタリー

•警察のネット監視力が強化するコンピュータ監視法案が衆院通過
解説:石井徹哉氏(千葉大学教授)

•不信任案否決劇の裏側
鳩山氏のオーナー意識を利用して延命を図った首相
解説:角谷浩一氏(政治ジャーナリスト)

関連番組
特別番組 (2011年03月16日)
東日本大震災

ニュース・コメンタリー (2011年04月23日)
東電賠償スキームで電気料金は大幅値上げへ
解説:町田徹氏(経済ジャーナリスト)

プレスクラブ(2011年04月13日)
東京電力清水社長記者会見

<ゲスト プロフィール>
町田 徹(まちだ てつ)経済ジャーナリスト
1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社記者を経て、2004年からフリー。2010年より甲南大学マネジメント創造学部外部講師を兼務。著書に「日本郵政ー解き放たれた巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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