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2010年12月31日

5金スペシャル 課題ははっきり見えてきた

神保哲生・宮台真司
マル激トーク・オン・ディマンド
第507回(2010年12月30日)
5金スペシャル 
課題ははっきり見えてきた

無料放送中

 年末恒例のマル激ライブ。今年も東京・新宿のライブハウス『ロフト・プラスワン』で、神保哲生、宮台真司が、1年を振り返るとともに、今年明らかになった来年の課題などについて議論した。

 2010年は民主党政権の迷走と沖縄米軍基地問題の泥沼化、前代未聞の検察不祥事、尖閣ビデオやウィキリークスに見られる国家や既存メディアの信頼の失墜など、既存の秩序の崩壊を実感させる出来事が相次いだ。

 また、社会に目を転じると、改善の兆しが見えない高い自殺率や格差問題に加え、今年は高齢者の所在不明事件や相次ぐ児童虐待など、社会の空洞化がもはや目を覆うばかりのところまで進んでいることを痛感させる1年でもあった。

 しかし、こうした一連の崩壊劇はある意味では、未来に向けた朗報と見ることもできる。なぜならば、これらはわれわれが2011年に何をしなければなければならないかを明確に示してくれているからだ。

 2010年はわれわれに、政権交代を実現させただけでは、日本が抱える諸問題が何ら解決するわけではないことを、あらためて教えてくれた。また、米軍基地の問題も、普段から日本の安全保障はアメリカにまかせっきりで、日本としてこれをどうすべきかついての真剣な議論を積み重ねてこなかったことが、アメリカの要求をそのまま呑む以外の選択肢を持てない原因であることがよくわかった。2010年はまた、検察という一行政機関にまかせておけば安泰と言えるほど、社会正義が簡単に得られるものではないことを、検察が自らの不祥事という形で身をもって示してくれた。さらに、2010年は、マスメディア報道を信じていれば、世の中の動きがわかるという神話が、もはや通用しないことも明らかにしてくれた。

 簡単に言えば、民主党政権にまかせていても問題は解決しないし、国の安保をアメリカに全面的に依存しているうちは、沖縄の基地問題の解決も難しいし、検察にまかせていても社会正義は守られないし、マスメディアにまかせていても、真実に迫ることはできないということだ。

 そうならばどうするのか。2011年、マル激は大テーマに「共同体の再構築・再発見」を掲げ、それをいろいろな角度から考えていくことを計画している。誰かにまかせておいても、問題は解決しないことが明らかになっていても、参加や働きかけの糸口が見つからなければ、われわれはどうすることもできない。その糸口を見つけるためのヒントが、手のとどくところにある共同体にあるのではないかと考えるからだ。

 2010年の最後を飾るマル激は、そのような問題意識を念頭に置きつつ、神保哲生と宮台真司が1年を振り返るとともに、次の1年の課題を議論した。

(本放送は12月の5金(5回目の金曜日)にあたるため、無料で放送いたします。尚、今週はニュースコメンタリーはお休みします。)

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プレビュー

 政権交代から1年3カ月。小沢一郎元代表の衆院政治倫理審査会(政倫審)出席をめぐる党内の対立が連日報じられる中、民主党への国民の期待は、日を増すごとに下がり続けている感が否めない。

 恐らく国民の疑問は次の一点に凝縮されるにちがいない。

 「民主党はどうなってしまったのか。」

 そこで、2010年最後のゲストに、鳩山内閣・第1次菅内閣で外務大臣を務め、今は党幹事長として与党を束ねる立場にある岡田克也幹事長を迎え、岡田氏が小沢元代表の政倫審への招致にこだわる理由や、民主党政権が必ずしも国民の期待に応えられていない理由など、まさに「民主党はどうなってしまったのか」の問いを、そのままぶつけてみた。

 まず岡田氏は、「大きな期待を背負ってスタートした民主党政権が、政治とカネの問題でつまずいたのは痛恨事」だったと、小沢氏や鳩山元首相の政治資金問題が政権運営に大きな影響を及ぼしたことを率直に認めた。そして、小沢氏にも法的な責任とは別に政治的な説明責任があるとして、政倫審には小沢氏本人が自主的に出席して説明をすべきとの考えを改めて強調した。

 しかし、民主党政権が何も成果を出していないとの批判に対しては、民主党政権に混乱や経験不足があったことは認めたうえで、高校授業料の無償化、農家戸別所得補償、事務次官会議の廃止、記者会見の開放、沖縄密約の解明など、自民党政権ではなし得なかった数々の成果をあげていると、岡田氏は反論する。特に、記者会見のオープン化や沖縄密約の解明については、岡田氏自身が主導した施策として、その成果に自信のほどを見せた。

 しかし、仮に民主党政権がそのような成果をあげているとしても、それが広く国民に理解され、評価されないのはなぜか。その問いに対して岡田氏は、民主党が「考え方の転換」をしようとしていることが国民に伝わっていなかったと、説明不足があったことを率直に認める。

 例えば、子ども手当は義務教育と同じように「子育ては社会全体で行う」という考えに基づいた施策であったにもかかわらず、それが十分に理解されていなかったために、バラマキ批判に晒され、結果的に所得制限などに議論の焦点がずれてしまったと、岡田氏は残念がる。そして、説明不足の原因の一端が、政府与党の一元化にこだわるあまり、党からの発信が止まっていたことにあるとして、党の発信機能の回復を急ぐ意向を明らかにした。

 一方、菅政権が厳しい批判に晒された尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件での対応については、前外相として、また現幹事長として、「現政権を批判する気はまったくない」と前置きをした上で、中国があそこまで激しい対抗措置を取ってくることを、日本政府は予想していなかったのではないかとの認識を示した。

 民主党政権の浮沈を握るキーマンの一人であり、ポスト菅の最右翼とも目される岡田氏に、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、民主党のこれまでとこれからを問うた。

今週のニュース・コメンタリー
•外交文書の公開
 沖縄密約と6500万ドルの意味
•参院改革西岡議長試案
 選挙制度を変える前に考えておくべきこと

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<ゲスト プロフィール>
岡田 克也(おかだ かつや)衆院議員・民主党幹事長
1953年三重県生まれ。76年東京大学法学部卒業。同年旧通産省入省。90年衆院初当選(自民党)。93年自民党離党。新進党、民政党を経て、98年民主党に合流。党政調会長、幹事長、代表などを歴任。鳩山内閣、第1次菅内閣で外相、10年9月より現職。当選7回(三重3区)。

2010年12月18日

物への執着を捨てる「断捨離」という教え

やましたひでこ氏(クラター・コンサルタント)
マル激トーク・オン・ディマンド
第505回(2010年12月18日)
物への執着を捨てる「断捨離」という教え
ゲスト:やましたひでこ氏(クラター・コンサルタント)

プレビュー

 ダンシャリアンが巷に溢れているそうだ。
 欲望を断ち、精神的な執着を手放すためのヨガの哲学「断行・捨行・離行(だんぎょう・しゃぎょう・りぎょう)」の頭文字を取った言葉に、断捨離というものがある。ダンシャリアンとは、不要な物を次々と捨てて、必要最小限の物しか持たず、自ら断捨離を実践する人の通称だという。

 断行・捨行・離行はヨガの世界では古くから使われてきた言葉だが、物も情報も溢れかえるこの時代に、最低限必要な物だけを抱える生き方の教えとして、新たに脚光を浴びているのはなぜか。

 18万部を超えるベストセラーとなった『新・片づけ術 断捨離』の著者でクラター(ガラクタ)・コンサルタントを名乗るやましたひでこ氏は、気がつけば物も情報も何でも抱え込んでしまう現代にあって、今、自分に本当に必要な物だけを取捨選択する力を付けていく必要性を感じ、ヨガの教えを元に新しい片付け術として断捨離を考案したと言う。

 断捨離は基本的には物を捨てることから始まる。まず、今自分に必要な物以外は全て捨てることで(捨)、必要な物と不要な物を見分ける力を養い、不要な物を抱えなくなる(断)。そして、最終的には物への執着を捨て去ることができるようになることで(離)、より自由な人生を勝ち取ることができるというもの。

 ポイントは物の視点から自分の視点に立ち返ることと、それが「今」必要かどうかという時間軸を価値判断に含めることだと、やました氏は話す。いくらその物が使用可能だったり、まだ一定の価値があるとしても、それが今の自分にとって過剰だったり不適だと判断した場合は、潔く手放すのが、やました氏が説く断捨離のルールだ。それができないために、家はガラクタで溢れかえり、息もできないような狭い空間に自らを閉じ込めてしまっている人は、決して少なくないのではないか。

 しかし、現実の世界では「そのうち読まなければと思って買った本」や「使っていないけど壊れていないマグカップ」など、潔く捨てるには決心がつかない物が多い。その時われわれが頭に浮かべるのは、決まって「もったいない」という言葉だ。

 しかし、これに対しやました氏は、そもそも「もったいない」とは物を愛し、愛おしむ気持ちだと説き、たとえば着用していない洋服をまったくケアをせずタンスに押し込んでおくことこそが「もったいない」のではないかと問う。

 低成長時代に入り、豊かさを物に求めることの限界が見えてきた今、物より絆、量より質というように、人々の価値観は変わり始めている。物を所有することへの執着を断つ断捨離が広く人々から注目を集めているのは、時代が一つの変わり目にあることの証なのかもしれない。

 物過剰・情報過多の時代にあって、断捨離の教えは何を意味しているのか。物への執着を捨てることで心の平安を得る教え、断捨離の意義を、やました氏と議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・諫早の上告を断念した菅政権の次の課題
・改正青少年健全育成条例が成立
 健全審の健全化が次の課題

関連番組
ニュース・コメンタリー (2010年12月11日)
保坂展人の諫早、青少年条例、八ッ場報告
報告:保坂展人氏(ジャーナリスト)

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自業自得のメディア規制

マル激トーク・オン・ディマンド 第7回(2001年04月16日)
談合がメディアをダメにする

<ゲスト プロフィール>
やました ひでこクラター・コンサルタント
1954年東京都生まれ。74年早稲田大学文学部卒業。00年からクラター・コンサルタントとして「断捨離セミナー」を全国各地で開催。著書に 『新・片づけ術 断捨離』、監修に『断捨離のすすめ』。

2010年12月12日

税制改革で国のカタチをどう変えるか

森信茂樹氏(中央大学法科大学院教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第504回(2010年12月11日)
税制改革で国のカタチをどう変えるか
ゲスト:森信茂樹氏(中央大学法科大学院教授)

プレビュー

 政権交代の真価を問う税制改革議論が、大詰めを迎えている。政府は来週にも、平成23年度税制改正大綱を閣議決定する予定だ。税制は政府が提供する防衛や警察、教育や社会福祉など公共サービスの財源をいかに賄うかを規定すると同時に、社会の再分配機能を司る。その制度を大きく変更するということは、その国や社会のあり方を根本から変えることを意味すると言っても過言ではないだろう。民主党政権は13年ぶりとなる税制の抜本改革を通じて、日本をどう変えようとしているのか。

 財務省OBで税制のエキスパートの森信茂樹・中央大学法科大学院教授によると、1997年の税制改革以来、経済のグローバル化が進み、格差・貧困・社会的排除が社会問題になる中で、税制も改革を迫られていた。そこに昨年政権交代があり、民主党は自らが考える税制改革を今まさに実行に移そうという段階にある。

 森信氏は税制を評価する上で、2つのポイントを挙げる。1点目は、経済や社会の変化に適合した「望ましい税制とは何か」。これは法人税や所得税を中心とする議論で、政府が誰から税を取り、誰に配るのかという、政府の統治の基本的な考え方が凝縮される。そして2点目は、政府の大きさをどう規定するか。特に社会保障で受益と負担のバランスをいかに取り、セーフティネットをどこまで張り巡らせるのか、そして、そのうちどれだけを税で賄うのかという規模の視点だ。これは、最終的には消費税率をどうするかの議論となる。

 自民党政権下では、97年に消費税率を3%から5%に引き上げて以来、世論の反発を恐れて、消費税に手を付けられなかった。そのため、もう一方の「望ましい税制」の議論も先送りされてきた。その間、世界各国が税制改革を進める中、日本では大きく変化した経済や社会に合わない税制が放置されてしまったと、森信氏は言う。

 民主党は昨年の税制改正大綱で「公平」、「透明」、「納得」の3つの理念を掲げ、具体的には「控除から給付へ」「税・社会保障共通番号制の導入」「租税特別措置の廃止」などを提唱している。こうした一連の措置は、抜け穴が多い上に高所得者に有利な控除を廃止して、現金給付や手当に移行することで、控除の恩恵を受けにくい低所得層に配慮するとともに、抜け穴をふさぐことで課税ベースを広げることを主たる目的としている。総じて、よりフェア(公正)な形で課税ベースを広げることで、法人税などの税率を引き下げても、税収中立を維持できる税制を志向しているのが特徴だ。

 しかし、今の日本にとって最大の課題が、森信氏が挙げた2つのポイントの後者に当たる、消費税の増税にあることは論を俟たない。97年に消費税率を3%から5%に引き上げた時は、所得税を先行減税したため、税収中立、つまり、実質的には増税にはならないよう配慮されていた。しかし、政府が一般歳出の半分も税収で賄えていないという現実を前に、今回の税制改正では、戦後初めて消費税による「増税」に踏み込まなければならない。その点が、過去の税制改革とは本質的に異なる点になると森信氏は指摘する。

 民主党政権は仕分けなどを通じて、無駄省きの努力は継続しているが、それでも消費税増税には依然として有権者の強い抵抗が予想される。民主党が理念の一つに掲げる「納得」を得るためには、まず、政府がどのような社会保障制度(サービス)を行うのかを提示し、その値段(消費税率)を提示するといった、納得のいく説明が必要になる。参院選で菅首相がいきなり10%と言い出した時は、メニューも渡されていないのに値段を提示されたようなものだったので、国民が反発して当然だったと、森信氏は言う。

 果たして民主党は、長年自民党が手を付けられなかった税制の抜け穴を埋め、課税ベースを広げることで、よりフェアな税制を確立することができるのか。そして、消費税増税で国民の納得を得ることができるのか。森信氏とともに、いま日本にどのような税制改革が必要なのかを、神保哲生と萱野稔人津田塾大学准教授が議論した。

今週のニュース・コメンタリー
•保坂展人の諫早、青少年条例、八ッ場報告
ゲスト:保坂展人氏(前衆議院議員)
•ウィキリークスが問う国家機密のあり方


関連番組
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税制をゼロベースで見直し、公正な税制に
古川元久 民主党税制調査会副会長

マル激トーク・オン・ディマンド 第501回(2010年11月20日)
内部情報流出の時代
ゲスト:菅原出氏(国際政治アナリスト)

マル激トーク・オン・ディマンド 第52回(2002年03月07日)
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ゲスト:山本夜羽氏(漫画家)

ニュース・コメンタリー (2010年03月20日)
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隠されたヒ素汚染と公共事業中止の対価

ニュース・コメンタリー (2010年12月04日)
都が青少年健全育成条例改正案を再提出

<ゲスト プロフィール>
森信 茂樹(もりのぶ しげき)中央大学法科大学院教授、ジャパン・タックス・インスティチュート所長
1950年広島県生まれ、73年京都大学法学部卒業。同年大蔵省入省。主税局税制第2課長、主税局総務課長、東京税関長、財務総合政策研究所長などを経て06年退官。07年より現職。東京財団上席研究員を兼任。法学博士(租税法)。著書に『給付つき税額控除』、『日本の税 何が問題か』など。

2010年12月11日

ウィキリークス問題への一考察

ビデオニュース・ドットコムのマル激Nコメで、ウィキリークス問題について少し踏み込んだ話をする機会がありましたので、趣旨をこちらにも転載します。


ウィキリークスが問うこれからの国家機密のあり方
 内部告発サイト「ウィキリークス」による米外交公電の流出が続き、波紋は広がる一方だが、ウィキリークスの創設者のジュリアン・アサンジ氏が、強姦容疑でイギリスで逮捕されてから、ウィキリークスに対する風当たりがより一層、強まってきているように見える。今週だけで、ネット課金代行業者のペイパルがウィキリークスへの課金サービスを停止したほか、クレジットカード会社も、ウィキリークスへの課金を停止するなど、ウィキリークスへの包囲網が着々と形成されているようだ。

 確かにウィキリークスの機密公開は、複数の国内法に違反する行為だったのだろう。その意味で当局が法に則り、ウィキリークスを追求するのは当然かもしれない。しかし、われわれ市民としては、単にそれに一喜一憂している場合ではない。なぜならば、今回のウィキリークスによる機密情報の公開は、これまでわれわれが、本来であれば最も警戒しなければならない問題でありながら、なかなか問いたくても問う機会を持てなかった重要な問題を再考する絶好の与えてくれているからだ。

 それは、国家の機密権限は今のままでいいのか、という問題だ。

 そもそもウィキリークスが違反したとされる法律の多くは、その性格からして、妥当性を問うことが不可能なものばかりだった。それが今回のウィキリークスによる機密情報の漏洩で、その法律の妥当性を問うことが可能になっているということだ。

 機密というのは、一旦機密に指定されてしまえば、そのことの妥当性を問うことができないという特質をもっている。機密は機密なので、主権者であるわれわれがその中身を確認し、為政者がそれを機密に指定したことの妥当性を問うことができない。(例のカギのかかった箱の中のカギ問題です)つまり、為政者にとって機密指定の権限は、オールマイティな権限と言っていい。逆に言えば、情報を機密に指定する権限ほど、権力によって濫用される危険性が高い権限はないということだ。

 アメリカでは今回アサンジ氏やウィキリークスへの協力者に対して、スパイ活動防止法違反や国家反逆罪の適用を求める声も上がっているようだ。しかし、アメリカがスパイ活動防止法(Espionage Act)を可決したのは1917年、国家反逆罪にいたっては17世紀の法律だ。(厳密にはイギリスの1695年Treason Actに当たる国家反逆罪というものはアメリカ法には存在しない。最もそれに近いものは前述のEspionage Act of 1917の他、Alien and Sedition Acts of 1798(外国人治安妨害禁止法)がある。)国と国が侵略を繰り返したり、ナチスドイツや共産主義などと国家体制をめぐる熾烈な争いをしていた時代に、その戦いに負けないためには多少の濫用の危険性はあっても、できるだけ広く外交機密を認めようという考え方はコンセンサスが存在したかもしれないが、はたして今日時代はそういう時代だろうか。

 実際に今回ウィキリークスが流出させた情報によって、アメリカ政府が数々の外交問題について、外国政府のみならず、自国民に対しても、嘘の説明を行ってきたことが白日の下に晒されている。また、こうした情報が流出することで国益が損なわれるとの指摘は多いが、ペンタゴン・ペーパー事件で機密情報をニューヨークタイムズに持ち込んだダニエル・エルスバーグ氏は「国益を損ねるって?話が逆だ。むしろ今回の情報流出によって、アメリカ政府がいかに国益を損ねる外交を行ってきたかが明らかになっているではないか」と米メディアで語っている。

 また、リベラル派の論客でMITのノーム・チョムスキー教授も、情報流出でアメリカ人の命が危険に晒されているとの指摘に対して、そのような具体例はまだ一つも示されていないことを指摘した上で、「アメリカ政府がいかにアメリカ人の命を危険にさらすような外交を行ってきたかが明らかになった。」と、アメリカでは流出の意義を強調する立場をとる知識人も決して少なくない。

 特にエルスバーグ氏の指摘は、流出した情報が、情報を流出させる行為そのものに対する国民の認識を変える力を持っている場合があることを指摘している点で、示唆に富んでいる。それは、エルスグバーグ氏自身がその経験者であり実践者だったからに他ならない。情報が流出する直前まで国益と考えられていた行為や政策でも、市民がその情報を得た瞬間に、実はそれが全く国益に反する政策であったことが明らかになる場合があり得る。そうすると、それを暴露する行為は、直前まで「国家反逆的な行為」だったはずのものが、突然「最も国益に資する行為」に変わってしまう可能性があるということだ。情報は国民の「何が国益か」に対する認識を変える力を持っている場合があるということなのだ。

 恐らくこれは、最後には誰が国益を定義する権限を持つかと言う問題に帰するのだろうが、仮にわれわれは日常的にそれを為政者に委ねているとしても、それは不断のチェックを受けなければならないし、最終的な決定権者が主権者たる国民でなければならないことは論を俟たない。そのチェックがほとんど不可能だったのが、この「機密」問題の特徴であり問題であった、と。

 その意味で、今回のウィキリークスによる情報流出で、政府の情報管理の強化や、機密情報の漏えいに対する厳罰化の流ればかりが強調されることには注意を要する。また、日本でも尖閣ビデオの流出を機に、仙谷官房長官を中心に機密情報管理の強化や情報流出の厳罰化が議論されているようだが、わざわざそのような検討会を設けて議論をするのであれば、そもそも機密化の権限をこれまで通りに放置しておいていいのかという根本問題についても、再検討するべきだ。

 繰り返すが、情報を機密化する権限が、濫用や暴走の危険性を内包していることは、子どもでもわかる自明なことだ。しかし、諸般の事情から、その危険性を承知の上で、われわれはこれまで為政者に対して、その特権を委ねてきた。機密情報の(例えば25年後の)公開基準さえ定められていない日本では、事実上の白紙委任と言っていい。恐らく、国家体制を守るためであれば、それくらいの危険性はやむを得ない、ということなのだろう。あとは、一旦、機密権限を渡してしまえば最後。自分たちがどれだけ騙されているかもわからないのだから、騙されているともわからず、こちらはお気楽なものである。

 「その危険性を承知を上」と書いたが、それは論理的に承知しているだけであって、実際にその危険性が顕在化していても(つまり、本来は為政者の権力維持目的や、国益を損ねる形で情報が隠蔽されていたとしても)、それをわれわれが知ることができないのが、この特権の最大の特徴なのだ。(実は騙されていても、それを知らされなければそれはそれで幸せじゃないかという考え方はありなのか。夫が浮気をしていても、ばれなければ許すという良妻の鑑とされる話と同類なのか違うのか!)

 しかしながら、今回の情報流出のおかげで、その是非についてまで再考する機会を得た。ウィキリークスにしても尖閣にしても、流出させた当人の素性や意図とは無関係に、われわれは多くのことを考える必要がありそうだ。

 個人的には、機密指定については明確に法律でその基準を(これもできる限り限定的にすべきだと思います)定めた上で、濫用の余地をできる限り限定する。また、その遵守状況を確認するために、機密情報でも情報の内容に応じて、5年後、10年後、25年後には必ず開示しなければならない開示義務を課す。また、公益的な内部告発の余地を残す意味で、現在の内部告発者保護法を強化した上で、情報漏洩、とりわけ直接人命や人権(プライバシー)に関わる情報の漏洩に対しては、罰則を強化して抑止を図る、といったところが考えられるのかな、と思いますが、これは思いつきレベルなので、一案程度に考えておいてください。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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