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<尖閣沖中国漁船衝突事件>
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策

清水美和氏(東京新聞論説主幹)
マル激トーク・オン・ディマンド
第494回(2010年10月02日)
<尖閣沖中国漁船衝突事件>
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策

ゲスト:清水美和氏(東京新聞論説主幹)

プレビュー

 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、船長を逮捕・勾留した日本に、中国は強く反発した。船長を釈放したことでとりあえず中国の報復は収束しつつあるようだが、中国の国内事情を最もよく知る一人である東京新聞論説主幹の清水美和氏は、今回日本政府がとった行動は日中関係のみならず、今後の中国の国内政治や外交姿勢に大きな、そして恐らくそれはマイナスな影響を及ぼすだろうと、その責任の重大さを強調する。今回の一連の出来事は、単なる日本外交の失態で済まされる問題ではないと言うのだ。

 元々尖閣諸島が日本固有の領土であることは国際法上疑いのないところではあるが、日中両国が領有権の主張しているため、日中間ではこれを「棚上げ」、つまり領有権問題は無理に決着させないまま、共同開発などの経済的関係を深める高度に政治的な手法が採られてきた。これは尖閣諸島を実効支配する日本にとっては有利な取り決めとも言えた。棚上げされている限り、日本の実効支配が続くことを意味するからだ。

 ここで言う棚上げとは、互いに軍事力や過剰な警察権などを行使せず、何か問題が起きれば実効支配する日本側は取り締まりは行うが、仮に中国人が逮捕されたとしても、外交上の配慮からすぐに強制送還することで、日本の国内法で処罰まではしないというものだった。対中強行派だった小泉政権でさえも、中国人活動家が尖閣諸島に上陸した際、彼らを強制送還することで、国内法で処罰まではしていない。

 しかし、今回日本がこれまでの「棚上げ」を返上し、船長を刑事訴追する意思を明確に示した。これに危機感を覚えた中国は、これを日本の政策転換と受け止め、必ずしも事の重大さを理解していない日本側からは「過敏」とも思える報復に打って出てきた。

 89年の天安門事件を現地で取材、香港特派員、北京特派員、中国総局長を務めてきた清水氏は、今回の日本政府の対応は、日本が外交上の権威や尖閣諸島の実効支配という優位な立場を失ったことにとどまらない可能性が高いと言う。今回、形の上では日本が喧嘩を仕掛け、それに報復した中国に対して最終的に船長の釈放という形で屈服する形になったことで、今後ますます大国化していく中国の進路を誤らせる重大な契機を日本が作ってしまった懸念があると言うのだ。これを機に、中国の共産党内や中国国内に、今や強国となった中国はより強硬な対外路線をとった方が、より多くの国益を得ることができると主張する勢力が台頭してくる可能性が大きいからだ。

 現在中国は、南シナ海で領有権をめぐりASEAN各国と対立するなど、これまでにない強硬外交を展開し始めている。ただし中国国内にはこうした強硬路線を諫める勢力もあり、胡錦濤国家主席は必ずしも強硬外交一辺倒の立場ではなかった。しかし、今回の事件で、中国が強く出れば日本のような大国でさえ屈服させることができるという誤ったメッセージを、日本は中国政府や中国国民に見せつけることになった。このことが、アジアの軍事大国となり、経済成長を遂げ、これまでにない高揚感のただなかにある中国を、国力や軍事力を存分に使ってやっていけば良いという方向に向かわせることになったのではないかと、清水氏は懸念する。

 一党独裁の中国共産党は一枚岩と見られることが多いが、実際は歴史的にも党内闘争が激しく、胡錦涛政権の権力基盤も盤石とは言えない。今回、胡錦涛政権が、日本から売られた喧嘩を買い激しい報復に出なければ、政権の権力基盤を揺るがしかねないほど、領土問題は一般の中国人にとっても、中国共産党にとっても、そのアイデンティティに関わる重大な問題だと清水氏は言う。

 胡錦涛政権は06年に、それまで5年間中断していた首相の訪中を受け入れ、その後日中共同声明を発表、尖閣諸島の領有権問題を棚上げにして東シナ海の共同開発で合意をするなど、対日外交の進展に前向きに取り組んでいた。しかし、この東シナ海の共同開発合意をピークに、中国国内で胡錦涛政権が日本に対して弱腰であることへの猛烈な反発が起き、一党独裁の中国共産党の最高指導者である胡錦濤氏をもってしても、対日強硬論を抑えることができなかったと清水氏は話す。

 こうした中国の複雑な国内事情を、菅政権はまったく分析できていないのではないかと、清水氏は指摘する。前述した中国の国内事情を考えれば、今、日本が国内法の拡大適用という形で領土問題をエスカレートさせれば、中国から猛烈な反発が起きることは、少しでも中国の政治を知るものにとっては常識だった。「政治主導」のために官僚から必要な情報が上がってきておらず、中国を少しでも知る人なら当たり前にわかることを踏まえないまま、政治決定が行われた可能性が高いと、清水氏は言う。

 たとえば、12日深夜に戴秉国(たいへいこく)国務委員が、丹羽駐中国大使を呼び出したことに対して、仙谷官房長官は深夜に大使を呼び出すとは失礼であるとして、「日本政府としては遺憾だ」と話している。しかし、戴秉国氏は胡錦濤氏の側近中の側近だ。彼が出てきたことには非常に重要な政治的な意味が込められており、中国もこの問題を決着させるために真剣であることを示そうとしたと考えるのが妥当だと清水氏は言う。また、中国では深夜、他の用事を気にしない時刻に相手に会うことは、親密さを表す文化だという。その程度の基本的な情報さえ、官房長官に上がっていなかったのではないかと清水氏は推測する。

 また、今回の事件発生直後には、他にも、中国から問題を大きくさせないための数々のシグナルが送られてきていたと清水氏は言う。しかし、日本はそのシグナルを受け止められる知中派が政権内にいないため、それを全てスルーしてしまった。結果的に中国はそれを日本の政策転換と受け止め、船長の勾留が延長されたのを境に、激しい報復に出てきたということになる。

 今回の日本政府がとった行動が、中国からはどう受け止められていたのか、また、なぜ中国があそこまで強硬な姿勢をとったのかなどを、中国の政治事情や国内事情に詳しいジャーナリストの清水氏に聞いた。


今週のニュース・コメンタリー
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・尖閣沖中国漁船衝突事件 政治判断の不在が招いた日中外交の危機
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<ゲスト プロフィール>
清水 美和(しみず よしかず)東京新聞論説主幹
1953年愛知県生まれ。77年京都大学経済学部卒業。同年中日新聞社入社。東京本社社会部、同特別報道部などを経て、90年香港特派員、91年北京特派員、95年コロンビア大学東アジア研究センター客員研究員、99年中国総局長などを経て、02年編集委員、06年より論説委員。10年10月より現職。著書に『「中国問題」の内幕』、『「中国問題」の核心』など。

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コメント (4)

民主党の「政治主導」のかけ声の愚かさはそれを選んだ国民の愚かさでもあるからいまごろジャーナリストがそれを嘆いても仕方ありません。

それはともかく、
ここでのポイントはかっての自民党のような対応で中国の強硬派はこれまで通り静まる環境にあったのか、あるいは今後もあり得たのかというところの見極めで、今回の「逮捕」の評価が違ってくるでしょう。

やり過ごしてよかったのかどうなのか。


あるいは「逮捕」したがゆえに、外交のまずさはあってもかえって民主国家の目を覚まさせたという効果も少なからず生まれているかもしれません。

中国の強硬派とて、それに気づかぬとも限りません。

外交としてはお粗末でも、怪我の巧妙、ということもあり得ます。

清水様
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失態ではなく、日本の進路を決めた大英断とマスコミはほめそやしています。真実は国民にとれば日本の進路を誤らせた大失態です。日本が仕掛け、日本が先に政策変更したのです。ごまかさないでください。
東京新聞まで中国悪質論、脅威論を取るのですか、マスゴミですか。
日本は完全に政策転換したのです。漁業協定棚上げ論を捨て去って御心配の通り、領有権を危機にさらし、政治家・マスコミ一体となって、国民を煽りたてています。
間違いなく政策の変更です。それも言明なしの政策変更だから始末が悪いです。
海上保安庁が漁船乗組員を逮捕して13時間の空白の時間に前原大臣と外務省、官邸が検討しており、前原大臣の棚上げ論国内法で裁くという発言に外務省は、問題はないと答えたとされています。この瞬間完全に政策変更が行われ、その後中国からのメッセージに対して無視を決めたと考えます。仙石も当然従米派で前原発言に乗ったのです。管は空き缶何の意見もなかったのではないか、あっても仙石に牛耳られ、事後承認するだけである。
しかし、仙石は外交音痴、米国や中国の内情は知らない、前原は知っていて行ったという違いは両政治家の実力差である。但し姑息な策を講じるのは天下逸品である。
しかし、今回は策士策にはまったといえる。前原の策にはまったのであるが、仙石は自分の策にうぬぼれ大満足しているが、国民は仙石を見捨てつつある。
今の米中関係から当然の事態として米は日中良く話し合えという発言は当然であり、前原はわかっていたが、棚上げ論に突っ走り、仙石が折れて船長釈放するのを見越して米の要望に応え、管の弱腰外交を国民に植え付ける一方、中国の悪質論・脅威論を国内で煽りたてる作戦に出たとみています。是非マスコミで検証してください。
今のところ悪質論・中国脅威論は大成功で、これで米軍の沖縄撤退など、まして小沢氏の第七艦隊だけという正論は完全消滅です。
この勢いなら普天間国外を叫ぶ沖縄県民は国賊となりそうです。
更に枝野発言なら悪しき隣人中国への進出は自己責任論ということでこれも国賊扱いです。
欧米は大喜びではないか、円高で日本の経済を潰し、中国国賊論で自滅する日本を横目に、輸出で経済成長するドイツや、したい米国にとって大笑いです。日中摩擦で日米安保の強化に思いやり予算の増額を求め、更に経済的恩恵を受けるのである。米国にとっては前原様、外務省様である。但し前原は報道2001で中国との戦略的互恵関係を語り、APECで自由貿易推進による国力のかさ上げを訴えて枝野との違いを見せている。
外務省が棚上げ論にいやいやなら鳩山の時同様大臣や総理を無視する行動に出るが、唯々諾々と従っているということは外務省自体棚上げ論賛成で従米路線派が完全復活ということの証明である。当分中国との緊張関係は覚悟の上である。
前原は今回の件で閣内でも政敵つぶしを行っている。
最高権力者仙石は小沢つぶしや党内闘争には圧倒的に強くても法律論争と裏こそだけで外交音痴政治家ということが露見して総理候補から完全消滅、管はリーダーシップもなく、信念もなく、外交もできない無能総理の烙印を押され、前原が次期総理として急浮上してきた。確かに失敗も多いが、羽田に国際線乗り入れといった思い切った政策実行も行う。
アジア欧州会議に出席しても華々しく主役を演じる中国の首脳と違い、日本は刺身のつまで、首脳外交は3ケ国だけ、肝心の中国からはソッポを向かれたままの管総理は内心意気消沈して帰国するのではないか。欧州も領土問題に首を突っこむはずはないのである。まして日本のマスコミが捏造記事でいくら国民を洗脳しようが喚こうが、各国は多国間連携などするはずがない。管・仙石に代わって前原が今後の内閣を仕切りそうである。
報道2001での発言は経済政策に関しては小沢と同じ自由主義政策であり、違いは、小沢氏は地方に重点があり、前原は東京に重点ということである。
今後検察審議会の議決次第で前原は仙石と袂を分かち、小沢と連携するのではないか。
問題は普天間であるが、これは米国自体の問題であり、前原が折れれば何の問題もなく、グアム移転が実現する。小沢氏との連携がなければ中国との関係はとても戦略的互恵関係は確立できないことは前原氏が一番知っているはずである。
清水様にお願いします。繰り返しますが、船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失態ではなく、日本の進路を決めた大英断とマスコミはほめそやしています。真実は国民にとれば日本の進路を誤らせた大失態です。日本が仕掛け、日本が先に政策変更したのです。このことを報道して今後の日本について検証をお願いします。

中国の政治体制の矛盾を露見させた尖閣諸島問題の軋轢は劉暁波氏平和賞受賞をさらに関心高いものにするのに役立っており良い眼鏡を与える効果があったと思います。
怪我の巧妙とはいえ、自民党政権ではこれは起こり得なかった。

それはそうでしょう
東アジア共同体構想など言っているわけです。いまや食から何にしてもあの国はオッカナイですよ。

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神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

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『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
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2008年10月、春秋社、共著


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2006年11月、春秋社、共著


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『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

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