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2010年10月30日

5金スペシャル・マル激500回放送記念イベント
ただ今、一合目通過

藻谷浩介氏(日本政策投資銀行参事役)
マル激トーク・オン・ディマンド
第498回(2010年10月30日)
5金スペシャル・マル激500回放送記念イベント
ただ今、一合目通過

無料放送中

 5週目の金曜日に特別企画を無料放送でお届けする「5金スペシャル」。今回は、マル激トーク・オン・ディマンドの放送が500回目を迎えるのを記念し、国会前の憲政記念館で神保・宮台両キャスターによる公開生放送を行った。

 ビデオジャーナリストの神保哲生が「100年かけてジャーナリズムの金字塔を建てる」と宣言して始まったビデオニュース・ドットコムの看板番組として、マル激トーク・オン・ディマンドは2001年2月16日に第1回を放送して以来、その時々のニュースに深く関わるさまざまな問題を、独自の視点から分析・検証してきた。このたび10年の節目を迎えるにあたり、100年計画の10年目ということで、「ただ今、1合目通過」をタイトルとした。

 マル激が放送を開始した01年は、アメリカでブッシュ政権の誕生、そして9月の同時テロなどがあり、日本では小泉内閣が発足するなど、この後の時代に大きく影響する出来事が相次いだ年だった。それから10年、ブッシュの戦争、小泉改革、失われた10年+10年、中国の台頭、インターネット、日米の政権交代などを経験する中で、マル激は「メディア」「政治」「アメリカ」「中国」「検察」「沖縄」「憲法」「正義」「権力」「格差」などをテーマに、毎週多彩なゲストとともに番組をお届けしてきた。

 500回記念番組では、まず、そもそもなぜこのような番組を始めたのか、マル激の原点とは何だったのかを考えた。また、その後マル激が歩んできた10年を振り返りながら、世界や日本の政治、経済、社会、メディアがどう様変わりしてきたのかを議論した。そして、それを受けて、この次の10年日本や世界はどう変わっていくのか。そうした中におけるマル激の役割とは何なのかを、10年目を迎えた神保・宮台のコンビが語り合った。

今週のニュース・コメンタリー
•道警名誉毀損訴訟は"訴えの価値"を満たしているか
高田昌幸氏(道警名誉毀損訴訟被告・北海道新聞記者)に聞く

•この時期に「企業献金再開」を発表する民主党のセンス


関連番組

マル激トーク・オン・ディマンド 第400回(2008年11月29日)
400回放送記念特別番組 生コールイン
右も左もかかってこい Part2

出演:萱野稔人、鈴木謙介、斎藤貴男、武田徹、宮台真司、神保哲生

マル激トーク・オン・ディマンド 第300回(2006年12月22日)
マル激300回記念特別番組 2006年これだけは言わせろ!

マル激トーク・オン・ディマンド 第200回(2005年01月28日)
200回記念スペシャル・パート1
マル激の4年間、 日本は、世界はどう動いたか

2010年10月23日

データで見る日本経済の本当の病状

藻谷浩介氏(日本政策投資銀行参事役)
マル激トーク・オン・ディマンド
第497回(2010年10月23日)
データで見る日本経済の本当の病状
ゲスト:藻谷浩介氏(日本政策投資銀行参事役)

プレビュー

 経済学者でもない、政府系金融機関の地域振興担当者が書いた本がバカ売れに売れているという。日本政策投資銀行の藻谷浩介氏が書いた『デフレの正体』だ。

 藻谷氏の論点は明解だ。日本経済に影響を与える因子は数多あるが、少なくとも戦後一貫して日本経済に最も大きな影響を与えたファクターは、団塊の世代の動向だった。団塊の世代と団塊ジュニアの2つの大きな山が明らかにいびつな「人口の波」を形成している。そして、その波の動きが他のすべての要因を飲み込むほど激しい影響を日本経済に与えてきたこと、そしてこれからますます激しい影響を与えることを、データが雄弁に語っている。だからこそ、あらゆる経済対策はまず、その「人口の波」をいかに乗り切るかに主眼を置いたものでなければ、効果は期待できないというものだ。

 藻谷氏は日本経済について、実際のデータを読まず、現場を見ない人によって、不正確な指摘が行われている場合が多いと言う。そもそも診断が間違っているのだから、当然、処方せんも的外れなものになる。「人を減らして労働生産性を上げる」、「経済成長を達成する」、「ものづくり技術の革新」など、一見もっともらしい主張は、誤診からくる的外れな処方箋だとして、藻谷氏はこれらを一蹴する。

 誤診の典型として、藻谷氏は莫大な人口と安い労働力を持つ中国の経済成長が、日本の脅威となっているとする「中国脅威論」をあげる。これもデータを見れば一目瞭然だが、中国の経済成長によって日本の高級品を求める中国人富裕層人口が増え、日本からの輸出が増えたため、日本の対中貿易黒字は増加した。日中の経済関係は、中国が栄えれば栄えるほど、より日本が儲かる構造になっているのだ。そのため、中国の台頭は恐れることでも妬むべきものでもなく、むしろ日本はありとあらゆる手段を使って、中国でモノを売れる平和な関係を維持し、これからも億単位で増える中国の富裕層が欲しがる、ブランド力を持った商品を作ることに注力することが賢明だと、藻谷氏は言う。

 同じことが、韓国やシンガポールについても言える。また、アメリカ、イギリス、ドイツに対しても、日本は貿易黒字国である。

 しかし、一方で、日本が常に貿易赤字を抱える国がある。それがフランスとイタリアとスイスだと言う。日本はブランド力でこれらの国々が持つ超一流ブランドに勝つことができていない。つまり日本が目指すべき道は、中国などの新興国の安売り攻勢にコストカットで立ち向かうのではなく、新興国が富めば富むほどより多くの人に欲しがられる、シャネルやフェラーリやロレックスに匹敵するブランド力のある商品を開発することにある。藻谷氏は日本は「高級品ばかり売る宝石屋」だと言う。

 予断を持たずにデータを見ることが重要と説く藻谷氏が指摘する日本の大問題が、まさにこれから激動が始まる「人口の波」だ。1945~50年の5年間に、約1100万人の日本人が生まれた。いわゆる「団塊の世代」だ。日本経済の転機は、ほぼ例外なくこの世代の人々の行動によって引き起こされてきたことが、データから見て取れる。この世代が就労年齢に達し労働人口が一気に増えたことで高度経済成長が起き、この世代が家を持つ年齢に達した頃に住宅バブルが起きる。 そして、昨今の日本の経済停滞も、この人口の波の移動によって引き起こされていると藻谷氏は説く。02年~06年の戦後最長の好景気で日本は輸出を大幅に増やし、それによって高齢富裕層の個人所得は増加した。しかし、老後の不安を抱える高齢者は、積極的な消費は行わない。そのため輸出は増加するが、内需が一向に拡大しない。それが、大半の日本人が景気拡大の恩恵に浴することができない理由だったと藻谷氏は言う。

 消費が落ち込んでいるにもかかわらず過剰な生産が続くと、在庫が増え価格競争が激しくなる。その結果、商品やサービスの価格は下がる。そう考えると、今起きているのはデフレではなく「ミクロ経済学上の値崩れ」ではないか、これが、藻谷氏の主張する『デフレの正体』だ。

 景気の循環をも飲み込む「人口の波」は、今後も深刻な問題を引き起こし続ける。一番の問題は、今まさに団塊の世代が就労年齢を過ぎ、労働人口が急激に減ること。そして、それが近い将来、一斉に要介護年齢に達することだ。団塊世代の大半が要介護年齢に達する頃に、今度は団塊ジュニア世代が引退の年齢を迎え始める。その2つの大きな山を、それより遙かに少ない労働人口が支えていかなければならない。これが今日の日本経済が抱える最大の課題だと、藻谷氏は言う。

 そうした試練を乗り越えるための秘策として藻谷氏は、高齢者から若者への所得移転、女性の就労や経営参加の推進、外国人観光客や短期定住者の招来の3つをあげるが、果たして日本はそれを実現できるのだろうか。

 今週は藻谷氏をゲストに招き、宮台真司のピンチヒッターで登場の小幡績慶応義塾大学大学院准教授とともに、データから見た日本経済の実状とその処方箋を議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・日本で英のような歳出削減ができない理由
 解説:富崎隆氏(駒澤大学教授)
・米軍の同性愛者の待遇に違憲判決
・オバマ不人気に見る民主主義の宿痾
・取調べの部分可視化は可視化にあらず

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第477回(2010年06月05日)
鳩山政権は何に躓いたのか-新政権の課題
ゲスト:松井孝治氏(内閣官房副長官)、長谷川幸洋氏(東京新聞・中日新聞論説委員)、福山哲郎氏(外務副大臣)、山口二郎氏(北海道大学教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第469回(2010年04月10日)
なぜ日本はデフレを脱することができないのか
ゲスト:高橋洋一氏(政策シンクタンク「政策工房」会長、嘉悦大学教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第403回(2008年12月20日)
見えたり、金融資本主義の正体
ゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学大学院准教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第397回(2008年11月08日)
米大統領選挙スペシャル オバマのアメリカを展望する
ゲスト:古矢旬氏(東京大学大学院教授)、
杉浦哲郎氏(みずほ総研チーフエコノミスト)

<ゲスト プロフィール>
藻谷 浩介(もたに こうすけ)日本政策投資銀行参事役
1964年山口県生まれ。88年東京大学法学部卒業。同年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。94年コロンビア大学経営大学院卒業。経営学修士(MBA)。 97年情報・通信部副調査役、99年地域企画部調査 役などを経て03年より現職(地域企画部地域振興グループ参事役)。著書に、『実測!ニッポンの地域力』、『デフレの正体』など。

2010年10月16日

なぜ今、生物多様性なのか

井田徹治氏(共同通信科学部編集委員)
マル激トーク・オン・ディマンド
第496回(2010年10月16日)
なぜ今、生物多様性なのか
ゲスト:井田徹治氏(共同通信科学部編集委員)

プレビュー

 ひとたび超えてしまったら二度と元には戻らない、生物多様性の「転換点」(tipping point)が明日にも、迫っているかもしれない。

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が18日から、名古屋市で始まる。この会議は国連が主催する大規模な国際環境会議としては昨年12月のコペンハーゲンのCOP15以来のもので、日本で開かれる会議としては、京都議定書が採択された1997年のCOP3京都会議以来最大のものとなる。

 しかし、地球温暖化会議と比べて、今回の生物多様性会議はメディア報道も低調で、一般市民の関心も必ずしも高いとは言えない。その背景には、そもそも生物多様性とは何なのか、またなぜそれを世界の国々が一堂に会して話し合わなければならないほど重要なのかが、十分に理解されていない面がありそうだ。

 そこで今週のマル激は、「生物多様性とは何か」の著者で科学ジャーナリストの井田徹治氏とともに、生物多様性の意味と、その重要性について考えた。

 たとえば、森林を伐採して農地を開拓した場合、われわれは木材を売り、農地から作物を得ることで経済的な利益を得る。しかし、森林を破壊すると、単に自然が破壊されるだけでなく、その下で生息する微生物や動植物など様々な生物が失われ、それらが作り上げている生態系そのものが破壊される。そして、たとえ後に植林をしたとしても、一度壊れたこの生態系は二度と元には戻らない。

 われわれ人類はほんの20年ほど前まで、そこで破壊された生態系の本当の価値を理解することができていなかった。井田氏は、環境破壊が悪いと言われていても、それが不可逆的な生態系の破壊に及ぶことまで、われわれ人類の知識や理解が及んでいなかったため、対応が不十分だったと話す。つまり、いったん森林を破壊すると、再び植林をするだけでは、不十分である可能性が高いというのだ。また、同じく森林破壊を例に取るならば、木材の売却や跡地利用から得られる価値よりも、元の生態系から得られる「生態系サービス」の価値の方が遙かにに大きいことも、次第に分かってきたという。

 1992年にブラジルのリオで開催された国連地球サミットで、後に京都議定書につながる気候変動枠組み条約と共に生物多様性条約が採択され、「生物多様性」という概念が共有されるようになった。その結果、人類は目先の利益のために、実は大きな損害を自らに課していることが、次第に明らかになってきたと井田氏は言う。

 自然の恵みの経済的価値を客観的に評価する取り組みも始まっている。たとえば、08年のCOP9の議長国ドイツが中心となって世界中の研究や論文をまとめた「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」の中間報告などでは、マングローブ林の保護や植樹のためのコストは、堤防の維持費用の節約になっているとした。値段をつけることに反対をする意見もあるが、大切なことは、これまで生態系サービスの価値がきちんと評価されていなかったことであり、それが生態系の破壊が進んだ原因のひとつになったと井田氏は話す。

 今年5月、生物多様性条約事務局などがまとめた報告書は、現在地球の生物多様性は「転換点(tipping point)」にさしかかっていると警告している。tipping pointとは、生物多様性への影響がある段階を超えると、再び元に戻ることが不可能で、不可逆的、かつ急激な崩壊が始まる地点のことをいう。井田氏は、個別にはすでにそのような現象が起きている事例が現れているという。たとえば、暫減を続けてきたカナダのタラがある日突然いなくなり、92年に商業捕獲を一時停止した。当時は数年捕獲を控えれば元に戻るだろうと考えられていたが、一向に回復せず、03年に無期限の捕獲禁止となったままだ。このような現象が、生態系のさまざまな部分で起きていると見られ、それが世界的に広がる可能性が懸念されていると井田氏は話す。

 しかし、そうした問題に対して、今回のCOP10で実効性のある合意に漕ぎ着けることは容易ではないと井田氏は言う。それは、地球温暖化の議論と同様に、生態系を利用し破壊してきた先進国と、今になって生態系を守れと言われては、発展の機会を奪われてしまうと主張する途上国の間の対立が、生物多様性問題でも先鋭化しているからだ。

 特に、生物多様性問題の中の重大な課題となるABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)に関する国際ルール作りは、これも地球温暖化と同様に、もっとも遺伝資源の利用で利益をあげているアメリカが、そもそもこの条約を批准していない。

 一方、海によって外界と隔絶されている日本は、世界に34ある生物多様性の「ホットスポット」の一つだ。それは、日本には豊かで貴重な生態系がある一方で、その多くが危機に瀕していることを意味する。井田氏は、途上国は生物多様性の貴重さを自覚していないとよく言うが、日本人もそのことを知らないと指摘する。

 地球上では有史以来5回、生物多様性の大崩壊がおき、そのたびに地球上の生物はそれを乗り越えて繁栄をしてきた。そのおかげで今、われわれ人類は存在する。井田氏は、現在進行中の生物多様性の急激な崩壊は、既に地球にとっては6度目の大崩壊となっているという。そして、今回の大崩壊と過去5回のそれとの最大の違いは、過去のそれが隕石の落下などの不可避な自然現象が原因だったのに対し、今起きている大崩壊は人類が人為的に起こしているものであるという点だろう。そして、人為的に起こしているものだからこそ、われわれには選択肢がある。

 今われわれはどのような選択をすべきなのか、井田氏とともに議論した。

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第409回(2009年02月07日)
世界の魚を食い尽くす日本人の胃袋
ゲスト:井田徹治氏(共同通信科学部編集委員)

COP15現地リポート (2009年12月19日)
首脳を巻き込んだ徹夜の交渉でも「留意」どまり。
コペンハーゲン協定は採択できずにCOP15が閉幕

ゲスト:井田徹治氏(共同通信科学部編集委員)

プレスクラブ (2010年10月07日)
小沢氏が離党・議員辞職を明確に否定

ニュース・コメンタリー (2010年10月09日)
小沢一郎氏に二度目の起訴相当議決
起訴便宜主義を残したままの強制起訴は問題

<ゲスト プロフィール>
井田 徹治(いだ てつじ)共同通信科学部編集委員
1959年東京都生まれ。83年東京大学文学部卒業。同年共同通信社入社。科学部記者を経て01年から04年まで、ワシントン支局特派員(科学担当)。08年より現職。著書に『ウナギ』、『生物多様性とは何か』など。

2010年10月 9日

追悼特別番組
巨人、逝く 小室直樹が残した足跡

清水美和氏(東京新聞論説主幹)
マル激トーク・オン・ディマンド
第495回(2010年10月09日)
追悼特別番組
巨人、逝く 小室直樹が残した足跡

ゲスト:橋爪大三郎氏(東京工業大学教授、社会学者)

プレビュー

 「近代とは何であるか」を問い続けた稀代の学者小室直樹氏が、先月4日、この世を去った。大学など研究機関に属さず、「在野」の研究者としてわれわれ一般市民に向けて語り続けた小室氏の功績は、余人をもってしても代えがたい。また、小室氏は、マル激の司会者宮台真司が最も大きな影響を受けた学者でもある。そこで今回マル激では、追悼特別番組として、小室氏のもとで学んだ社会学者の橋爪大三郎東京工業大学教授と宮台真司の両名とともに、小室氏の追悼特別番組をお送りする。

 橋爪、宮台の両氏が師と仰ぐ小室直樹氏とは、いったい何者だったのか。一般には、1980年に出版した『ソビエト帝国の崩壊』でソ連崩壊を10年以上も前から正確に予測したことや、ロッキード事件で世間の大バッシングを浴びた田中角栄元首相を一貫して擁護する論陣を張ったことが広く知られている。

 しかし、小室氏を語る上で特筆すべきことは、非常に多岐にわたる学問を修めていることだと、橋爪、宮台両氏は言う。京都大学で物理学と数学を学んだ後、大阪大学大学院で経済学を学び、フルブライト留学生として渡米して当時の第一線の研究者のもとで、計量経済学、心理学、社会学を学び、帰国後は東京大学大学院で法学博士号を取得している。これらすべての学識を集めて、分析を行った。

 小室氏をここまで学問へと突き動かしたものは、小室氏が12歳で迎えた敗戦があると、橋爪氏は話す。敗戦時、まだ若い小室氏が「世界がガラガラと崩れたような感覚」を覚え、その後、敗戦の屈辱を噛みしめながら、近代の基本原則を熟知する以外に欧米諸国に対する捲土重来を果たせる手段はないと考えたことが、小室氏をもっぱら学問の道へと向かわせたという。

 小室氏は一貫して田中角栄を訴追した特捜検察や裁判所を批判したが、そこには高級官僚たちが「主人であるはずの市民を甘く見ている」ことへの怒りがあったと橋爪氏は言う。汗水垂らして働き、日本を支えている市民に民主主義を理解させ、ツールとしてその使い方を伝えることが、小室氏の仕事だった。「社会の構造への怒りを、学問で解決」(宮台氏)しようとした人生だった。

 小室氏の軌跡を辿りながら、いま起きている検察事件を小室氏はどう見るかを、小室氏の薫陶を受けた橋爪、宮台両氏とともに議論した。


■故・小室直樹氏には、2005年4月24日に番組にご出演いただき、貴重なお話をお伺いしました。ここに謹んで深く哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りします。


関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第212回(2005年04月24日)
日本人にはまだ憲法は書けない
ゲスト:小室直樹氏(政治学者)

プレスクラブ (2010年10月07日)
小沢氏が離党・議員辞職を明確に否定


<ゲスト プロフィール>
橋爪 大三郎(はしづめ だいさぶろう)東京工業大学教授、社会学者
1948年神奈川県生まれ。72年東京大学文学部卒業。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、89年東京工業大学助教授、95年より現職。06年より同世界文明センター副センター長を兼務。著書に『冒険としての社会科学』、『はじめての言語ゲーム』など。

2010年10月 2日

<尖閣沖中国漁船衝突事件>
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策

清水美和氏(東京新聞論説主幹)
マル激トーク・オン・ディマンド
第494回(2010年10月02日)
<尖閣沖中国漁船衝突事件>
船長の逮捕・釈放は中国の進路を誤らせる大失策

ゲスト:清水美和氏(東京新聞論説主幹)

プレビュー

 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、船長を逮捕・勾留した日本に、中国は強く反発した。船長を釈放したことでとりあえず中国の報復は収束しつつあるようだが、中国の国内事情を最もよく知る一人である東京新聞論説主幹の清水美和氏は、今回日本政府がとった行動は日中関係のみならず、今後の中国の国内政治や外交姿勢に大きな、そして恐らくそれはマイナスな影響を及ぼすだろうと、その責任の重大さを強調する。今回の一連の出来事は、単なる日本外交の失態で済まされる問題ではないと言うのだ。

 元々尖閣諸島が日本固有の領土であることは国際法上疑いのないところではあるが、日中両国が領有権の主張しているため、日中間ではこれを「棚上げ」、つまり領有権問題は無理に決着させないまま、共同開発などの経済的関係を深める高度に政治的な手法が採られてきた。これは尖閣諸島を実効支配する日本にとっては有利な取り決めとも言えた。棚上げされている限り、日本の実効支配が続くことを意味するからだ。

 ここで言う棚上げとは、互いに軍事力や過剰な警察権などを行使せず、何か問題が起きれば実効支配する日本側は取り締まりは行うが、仮に中国人が逮捕されたとしても、外交上の配慮からすぐに強制送還することで、日本の国内法で処罰まではしないというものだった。対中強行派だった小泉政権でさえも、中国人活動家が尖閣諸島に上陸した際、彼らを強制送還することで、国内法で処罰まではしていない。

 しかし、今回日本がこれまでの「棚上げ」を返上し、船長を刑事訴追する意思を明確に示した。これに危機感を覚えた中国は、これを日本の政策転換と受け止め、必ずしも事の重大さを理解していない日本側からは「過敏」とも思える報復に打って出てきた。

 89年の天安門事件を現地で取材、香港特派員、北京特派員、中国総局長を務めてきた清水氏は、今回の日本政府の対応は、日本が外交上の権威や尖閣諸島の実効支配という優位な立場を失ったことにとどまらない可能性が高いと言う。今回、形の上では日本が喧嘩を仕掛け、それに報復した中国に対して最終的に船長の釈放という形で屈服する形になったことで、今後ますます大国化していく中国の進路を誤らせる重大な契機を日本が作ってしまった懸念があると言うのだ。これを機に、中国の共産党内や中国国内に、今や強国となった中国はより強硬な対外路線をとった方が、より多くの国益を得ることができると主張する勢力が台頭してくる可能性が大きいからだ。

 現在中国は、南シナ海で領有権をめぐりASEAN各国と対立するなど、これまでにない強硬外交を展開し始めている。ただし中国国内にはこうした強硬路線を諫める勢力もあり、胡錦濤国家主席は必ずしも強硬外交一辺倒の立場ではなかった。しかし、今回の事件で、中国が強く出れば日本のような大国でさえ屈服させることができるという誤ったメッセージを、日本は中国政府や中国国民に見せつけることになった。このことが、アジアの軍事大国となり、経済成長を遂げ、これまでにない高揚感のただなかにある中国を、国力や軍事力を存分に使ってやっていけば良いという方向に向かわせることになったのではないかと、清水氏は懸念する。

 一党独裁の中国共産党は一枚岩と見られることが多いが、実際は歴史的にも党内闘争が激しく、胡錦涛政権の権力基盤も盤石とは言えない。今回、胡錦涛政権が、日本から売られた喧嘩を買い激しい報復に出なければ、政権の権力基盤を揺るがしかねないほど、領土問題は一般の中国人にとっても、中国共産党にとっても、そのアイデンティティに関わる重大な問題だと清水氏は言う。

 胡錦涛政権は06年に、それまで5年間中断していた首相の訪中を受け入れ、その後日中共同声明を発表、尖閣諸島の領有権問題を棚上げにして東シナ海の共同開発で合意をするなど、対日外交の進展に前向きに取り組んでいた。しかし、この東シナ海の共同開発合意をピークに、中国国内で胡錦涛政権が日本に対して弱腰であることへの猛烈な反発が起き、一党独裁の中国共産党の最高指導者である胡錦濤氏をもってしても、対日強硬論を抑えることができなかったと清水氏は話す。

 こうした中国の複雑な国内事情を、菅政権はまったく分析できていないのではないかと、清水氏は指摘する。前述した中国の国内事情を考えれば、今、日本が国内法の拡大適用という形で領土問題をエスカレートさせれば、中国から猛烈な反発が起きることは、少しでも中国の政治を知るものにとっては常識だった。「政治主導」のために官僚から必要な情報が上がってきておらず、中国を少しでも知る人なら当たり前にわかることを踏まえないまま、政治決定が行われた可能性が高いと、清水氏は言う。

 たとえば、12日深夜に戴秉国(たいへいこく)国務委員が、丹羽駐中国大使を呼び出したことに対して、仙谷官房長官は深夜に大使を呼び出すとは失礼であるとして、「日本政府としては遺憾だ」と話している。しかし、戴秉国氏は胡錦濤氏の側近中の側近だ。彼が出てきたことには非常に重要な政治的な意味が込められており、中国もこの問題を決着させるために真剣であることを示そうとしたと考えるのが妥当だと清水氏は言う。また、中国では深夜、他の用事を気にしない時刻に相手に会うことは、親密さを表す文化だという。その程度の基本的な情報さえ、官房長官に上がっていなかったのではないかと清水氏は推測する。

 また、今回の事件発生直後には、他にも、中国から問題を大きくさせないための数々のシグナルが送られてきていたと清水氏は言う。しかし、日本はそのシグナルを受け止められる知中派が政権内にいないため、それを全てスルーしてしまった。結果的に中国はそれを日本の政策転換と受け止め、船長の勾留が延長されたのを境に、激しい報復に出てきたということになる。

 今回の日本政府がとった行動が、中国からはどう受け止められていたのか、また、なぜ中国があそこまで強硬な姿勢をとったのかなどを、中国の政治事情や国内事情に詳しいジャーナリストの清水氏に聞いた。


今週のニュース・コメンタリー
・不適格な検事をチェックできない検察官適格審査会の意味とは
・尖閣沖中国漁船衝突事件 政治判断の不在が招いた日中外交の危機
・難民受け入れで第三国定住制度始まる

関連番組
インタビューズ (2010年10月01日)
国際法上は尖閣の領有権に疑問の余地はない
横田洋三中央大学法科大学院教授に聞く


インタビューズ (2010年09月30日)
政府の判断ミスで日本が失ったものは大きい
孫崎享元外務省国際情報局長に聞く

インタビューズ (2010年09月30日)
腰砕け日本と強硬路線中国の国内事情
興梠一郎神田外語大学教授に聞く

マル激トーク・オン・ディマンド 第212回(2005年04月24日)
日本人にはまだ憲法は書けない
ゲスト:小室直樹氏(政治学者)

マル激トーク・オン・ディマンド 第143回(2003年12月12日)
なぜ日本は難民を受け入れたがらないのか
ゲスト:渡辺彰悟氏 (弁護士)

プレスクラブ (2010年09月28日)
検事証拠改ざん事件の本質は
無実の人を逮捕し訴追し続けた「職権の濫用」
元検事の郷原信郎氏が講演


<ゲスト プロフィール>
清水 美和(しみず よしかず)東京新聞論説主幹
1953年愛知県生まれ。77年京都大学経済学部卒業。同年中日新聞社入社。東京本社社会部、同特別報道部などを経て、90年香港特派員、91年北京特派員、95年コロンビア大学東アジア研究センター客員研究員、99年中国総局長などを経て、02年編集委員、06年より論説委員。10年10月より現職。著書に『「中国問題」の内幕』、『「中国問題」の核心』など。

2010年10月 1日

<尖閣沖中国漁船衝突事件>
国際法上は尖閣の領有権に疑問の余地はない
横田洋三中央大学法科大学院教授に聞く

横田洋三中央大学法科大学院教授
インタビューズ
(2010年10月01日)
<尖閣沖中国漁船衝突事件>
国際法上は尖閣の領有権に疑問の余地はない
横田洋三中央大学法科大学院教授に聞く

無料放送中

 尖閣諸島周辺の海域で操業する中国漁船が、日本の海上保安庁の巡視船と衝突した事件が日中両国間で大きな外交問題に発展したことで、日本政府が「領土問題は存在しない」と言い切っている尖閣諸島の領有権問題が、日中両国のみならず、国際社会でも俄にクローズアップされた。

 しかし、純粋に国際法に則った時、日中両国が自国の領土であると主張する尖閣諸島の領有権はどのような扱いになるのだろうか。また、今回の事件での日本政府がとった行動は、法的に正しかったのだろうか。

 国際法の専門家で領有権問題にも詳しい、中央大学法科大学院の横田洋三教授は、国際法上は尖閣諸島が日本の領土であることに疑いを差し挟む余地はないと話す。

 国際法ではある領域の帰属は、「領域権原」と呼ばれる、領有権の証を有する国に帰属するとされている。領域権原とは、その領域で主権を行使することができることを示す根拠を指すもので、先占、割譲、併合などがある。ある地域がそのいずれかに該当することを証明できれば、それはその国の領土と法的に認められる。

 尖閣諸島の場合は、1895年に日本が領土に編入するまで、どこの国にも属さない無主地だったところを、日本がどの国よりも先に実効支配したことが、領域権原の一つの「先占」に当たる。

 さらに国際法で帰属を確実なものとするためには、先占で取得した領域を、その後実効支配しているん必要があるが、日本政府は尖閣諸島を常に監視し、不法に上陸した人を逮捕するなどの対応を行ってきた。これは日本が尖閣諸島を実効支配をしてきたことを示す十分な根拠になると横田氏は言う。

 一方、中国は尖閣諸島の領有権を主張はしているが、明確な国際法上の根拠を示していないと、横田氏は言う。尖閣諸島が中国大陸の大陸棚の上にあるというのが、中国側の領有権主張の根拠だとみられるが、これは国際法上の領域権原には当てはまらないからだ。

 そのような理由から、横田氏は少なくとも国際法上は、尖閣諸島が日本の領土であることに議論の余地はないと説明する。

 しかし、正当な根拠の有無にかかわらず、中国が尖閣は自国の領土だと主張し、両国政府間で合意ができていない以上、何らかの合意なり調停なりが成立しない限り、その地域は不安定な状態に置かれ、紛争の火種となり続ける。本来はこうした領土問題の調停の場として国際司法裁判所があるが、日本は「領土問題は存在しない」という立場なので、調停には後ろ向きだし、もう一方の中国は、そもそも国際司法裁判所の強制管轄権を認めていない。

 唯一の超大国である米国は、この問題は日中間の問題として、あくまで静観の立場をとっているため、第三国による調停も期待ができない。となると結論としては、中国が尖閣の領有権を主張する限り、日本は実効支配を続ける、つまりこれまで通り海上保安庁などを使って領海や領域の侵犯を排除し続けることで、いずれ中国側が諦めるなり方針を転換するのを待つしかないというのが、横田氏の考えだ。

 今回の漁船衝突事件について横田氏は、国際法上明確に日本の領土である尖閣周辺の水域は日本の領海であり、そこで主権を行使して船長を逮捕・勾留したこと自体は、法的には何の問題もなかったと言う。また、日本の検察には起訴便宜主義に基づく不起訴、起訴猶予などの権限が法的に認められているため、検察の判断で船長を釈放することも、法的には問題はなかった。

 しかし、もし本当に日中の友好関係に配慮するのであれば、この問題が明らかに外交問題としての要素をはらんでいる以上、検察に判断を委ねるのではなく、政府が総合的な見地から、最終判断をすべきだたっと横田氏は言う。具体的には、仮に船長を釈放をするのであれば、検察、外務省などの意見を踏まえて、最終的には政府が、良好な日中関係を保つために釈放を決定した形にすべきであったと横田氏は言う。その場合、法務大臣の検察に対する指揮権の発動が必要になるが、「良好な日中関係を保つために」は十分に指揮権発動の根拠となりうる。そうしておけば今回の衝突事件は、日本が尖閣領域での主権、つまり実効支配の継続を証明しながら、その一方で、対中関係にも十分配慮している姿勢を見せられる好機となり得たのではないかと、横田氏は残念がる。

 中国漁船衝突事件と尖閣諸島の帰属問題を、純粋に国際法の観点からどう考えるべきかについて、神保哲生が聞いた。

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尖閣漁船衝突事件を読み解く

<プロフィール>
横田 洋三(よこた ようぞう)中央大学法科大学院教授
1940年米ニューヨーク生まれ。64年国際基督教大学教養学部卒業。69年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。74年世界銀行法律顧問、79年国際基督教大学教授、95年東京大学教授などを経て04年より現職。国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会委員長などを兼務。著書に『国際社会と法』、『国連による平和と安全の維持』など。

<尖閣沖中国漁船衝突事件>
政府の判断ミスで日本が失ったものは大きい
孫崎享元外務省国際情報局長に聞く

孫崎享元外務省国際情報局長
インタビューズ
(2010年09月30日)
<尖閣沖中国漁船衝突事件>
政府の判断ミスで日本が失ったものは大きい
孫崎享元外務省国際情報局長に聞く

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 現在、国会で中国漁船衝突事件をめぐる集中審議が行われている。中国人船長を釈放した際の政府の政治介入の有無が主要な争点になっているようだが、元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、そもそも今回船長を逮捕・勾留したことが、政府の重大な判断ミスだったとの考え方を示す。

 1972年の日中国交回復以来、日中両国政府は両者の言い分が食い違う尖閣諸島の領有権問題は「棚上げ」にすることを申し合わせてきたという。これは尖閣を実効支配する日本にとって、支配が継続することを意味する有利な取り決めであり、事実上、中国が日本の実効支配を認める取り決めだった。その「棚上げ」合意に基づき、日本は尖閣を自国の領土と主張しつつも、周辺海域で国内法を適用することはしなかったし、同じく中国側も表向きは領有権を主張しつつも、政府として目立った行動は取ってこなかった。そのような微妙なバランスの上に実質的には日本が実効支配したまま、両国ともにこれを大きな外交問題としない範囲で慎重に扱ってきたのが、これまでの尖閣問題だったと孫崎氏は説明する。

 しかし、今回中国の船が海保の巡視艇に衝突したという事故があったにせよ、尖閣周辺の海域で国内法を適用し船長を逮捕・勾留するという、明らかにこれまでよりも踏み込んだ対応を日本政府がとったことで、両国が尖閣諸島の領有権を声高に主張してぶつかり合う事態を招いてしまった。そもそも中国国内や軍は、「棚上げ」には反対をしており、船長の逮捕によって、日本政府がそれに火をつけてしまった。これは、せっかく日本に有利な形で「棚上げ」されていた尖閣問題を、このような形で再燃させることで、かえって日本に不利な状況が生まれる可能性が出てきてしまったことを意味するという。

 しかも、一旦は勾留を延長して、船長を裁判にかける意思を明確にしておきながら、中国側から数々の報復を受けたとたんに釈放という腰砕けな結果に終わったことにより、国際的にはこれまで均衡していると見られていた日中のパワーバランスが、今や明らかに中国が優位に立っているとの認識が、国際的に広がってしまったというおまけまでついたと孫崎氏は言う。

 アメリカは尖閣諸島が「係争地」であることを認めているが、今回の船長の逮捕劇では、中国脅威論で日本やASEAN諸国と連携していきたいと考えているアメリカにとっては、得るものが多い出来事だった。また、日本国内で中国脅威論が高まることで、鳩山政権下でこじれた在日米軍の基地問題も進展する可能性が高いと孫崎氏は指摘する。

 その意味で、日本政府の対応は、鳩山政権でこじれた日米関係の修復を図ることに寄与したとも言えるが、日中関係や国際的な評価において日本が得たものは非常に少ないというのが孫崎氏の見立てだ。

 外交情報分析の専門家である孫崎氏に、中国漁船衝突事件の見方を神保哲生が聞いた。

<プロフィール>
孫崎 享(まごさき うける)元外務省国際情報局長
1943年旧満州国生まれ。66年東京大学法学部中退、外務省入省。英国、ソ連、米国、イラク、カナダ勤務を経て、ウズベキスタン大使、国際情報局長、イラン大使などを歴任。02年防衛大学校教授に就任、09年3月退官。著書に 『日米同盟の正体 迷走する安全保障』、『情報と外交』など。

<尖閣沖中国漁船衝突事件>
腰砕け日本と強硬路線中国の国内事情
興梠一郎神田外語大学教授に聞く

興梠一郎神田外語大学教授
インタビューズ
(2010年09月30日)
<尖閣沖中国漁船衝突事件>
腰砕け日本と強硬路線中国の国内事情
興梠一郎神田外語大学教授に聞く

無料放送中

 巡視船に追突した中国漁船の船長を逮捕・起訴したかと思えば、突然釈放してしまう日本政府と、一人の漁船船長の逮捕に過剰とも思える激しい反応を見せる中国政府。

 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した「漁船追突事件」から、約3週間が経った。日本では、今回の事件を尖閣諸島の領有権問題と結びつけ、激しく報復を繰り返す中国の強硬な態度に対する怒りと、一旦は強気の姿勢で逮捕・起訴まで行いながら、途中で腰砕けになり船長を釈放してしまった菅政権に対する不満で世論は沸騰気味だ。一方、中国でも、反日運動が盛り上がりを見せていることが伝えられている。

 今回の事件を日中関係の専門家はどう見ているのか。中国の国内事情に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、今回の事件の展開は民主党政権が中国との付き合い方を十分に熟知しないために起きたものとして、日本にとっては必ずしも好ましくない結果をもたらしたと辛口の評価を下す。

 日中両国政府はこれまで、各々が尖閣諸島の領有権を主張する一方で、周辺海域では問題がエスカレートしないように細心の注意を払ってきた。実際は多くの中国漁船が日本の領海内で操業しているが、日本の海上保安庁はそれを見つけては追い払うというような形式的な対応で済ませることで、お互いに尖閣問題が日中間の外交問題に発展することを避けてきた。また、実際に中国人が尖閣周辺の海域で何か違法な行為を行った場合も、日本の国内法を適用して裁判にかけるのではなく、強制送還することで、外交問題化を避けてきた経緯がある。

 しかし、近年、中国からの尖閣諸島周辺への圧力が強まっていた。4月には、中国海軍の艦艇10隻が沖縄本島と宮古島の間の公海を南下し、中国のヘリが2回も監視中の海上自衛隊の護衛艦に接近する事態なども起きていた。

 そうした中で、今回の漁船衝突事故で日本政府は、船長を逮捕し日本の法律に基づいて処罰する強い意思を見せた。一見、犯罪者に対する当然とも思えるこの対応も、こと尖閣諸島周辺の海域については、日本の政策転換と見ることができると興梠氏は言う。少なくとも中国側はそう受け取った可能性が高い。

 中国政府は当初、冷静に対処しようとし、デモも封じ込めていた。しかし、船長の勾留延長を機に、中国の態度が一変した。勾留の延長によって、日本が本気で船長を裁判にかけ、日本の国内法に基づいて罰しようとしていることが明らかになったからだ。興梠氏は既に汚職や格差の拡大で不満が募る中国社会の世論が、これを容認するはずがないと言う。中国共産党政権は独裁政権だからこそ、逆に極度に世論を気にする。また、中国共産党は歴史的な経緯から領土問題へのこだわりがことさらに強い。

 船長の勾留延長でこうした中国の国内事情に火がついてしまった。中国政府は一気に強硬姿勢に転じ、禁輸措置など次々とカードを切り始めた。そして、欧米から批判をされても、明らかな報復措置として、日本人の逮捕にまで踏み切った。興梠氏は中国政府にとって日本の路線転換も想定外なら、日本政府にとって中国のこの豹変ぶりも、想定外だったのではないかという。

 「尖閣諸島は日本固有の領土」。これが日本政府の一貫した主張であり、この点は今も何も変わらない。しかし、「国内法に基づいて粛々と法手続きをとる」は、少なくとも尖閣諸島周辺の海域に関する限り、これまでの日本政府の政策スタンスの変更を意味する。だからこそ当初中国は面喰い、それが本気であることがわかると、途中から激しく報復をしかけてきた。

 さて問題は、これが日本政府の戦略的な判断に基づく、勝算あっての政策変更だったのかどうかだ。興梠氏は、おそらく日本政府は落とし所も考えずに「政治主導」でやってしまったのではないかと、冷ややかに分析する。後先を考えずに船長を逮捕をしてみたところ、中国側が炎上してしまい、あわてて釈放をしたという見立てだ。また、これまでの経緯も中国との付き合い方の難しさも熟知している外務省が、勝算もなく今回のような政策変更を行うとは考えにくいとも言う。

 一連の経緯は今後国会などで明らかになってくるだろう。しかし、最終的に今回の事件で日本は何を得たのか。興梠氏は、今回、尖閣諸島周辺海域での日中間の「トラブル」が大きくなったことで、国際的にそこが「contested area(領有権争いのある地域)」であることを既成事実化させてしまった可能性が大きいという。今回の事件における日本政府の対応の拙さは、中国政府の行動パターンや中国共産党政権の「家庭の事情」を十分に熟知しないままに対応を決めていることに起因しているように見えると、興梠氏は言う。

 もし、日本が得たものがあるとすればとの問いには、「日米安保が強固なものになった」と興梠氏は皮肉交じりに言う。中国脅威論が台頭することで、鳩山政権下の基地問題で傷ついた日米関係は修復に向かう可能性が高い。問題は、ここぞとばかりに在日米軍基地の充実や思いやり予算の増額を求めてくる裏で、アメリカは中国ともしっかりと手を結んでいることも忘れないことだ、と興梠氏は警告する。

<プロフィール>
興梠 一郎(こうろぎ いちろう)神田外語大学外国語学部教授
1959年大分県生まれ。82年九州大学経済学部卒業。同年三菱商事入社。86年カリフォルニア大学バークレー校大学院修士課程修了。89年東京外国語大学大学院修士課程修了。96年外務省専門調査員(香港総領事館)、00年神田外語大学助教授、02年外務省国際情報局分析第二課専門分析員などを経て、06年より現職。著書に『中国激流 13億のゆくえ』、『現代中国 グローバル化のなかで』、『中国 巨大国家の底流』など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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