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2010年8月29日

デフレ不況と日本銀行の責任

田中秀臣氏(上武大学ビジネス情報学部教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第489回(2010年08月28日)
デフレ不況と日本銀行の責任
ゲスト:田中秀臣氏(上武大学ビジネス情報学部教授)

プレビュー

 一向に抜け出せないデフレ不況に加え、今月に入ってからの急激な円高が進む中、日本銀行に対する風当たりが日に日に強くなっている。

 書店には「日本銀行の大罪」「日銀デフレ」「日銀不況」といったタイトルの著書が所狭しと並び、政治家や評論家も容赦なき日銀批判を浴びせているようだ。

 一体、日銀の何が問題なのか。

 「デフレ不況 日本銀行の大罪」の著者で経済学者の田中秀臣上武大学教授は、過去10年あまりの間日本がデフレ状態にあった主たる責任は日銀にあるとして、日銀の責任を厳しく断罪する。

 田中氏は、昨年12月に政府が「デフレ宣言」を行うまで、日銀は日本がデフレ状態にあることを認めもしなかったと言う。そのため、唯一金融政策を実施することができる日本の中央銀行が、デフレを解消するために、金融緩和などの有効な手段をとらず、そのことが日本のデフレを継続させる結果となったと説く。

 デフレはモノの値段が下がるため一部には歓迎する向きもあるが、その破壊的効果は遙かにインフレを凌ぐ。また、デフレは失業率を高め、円高を招き、経済全体を疲弊させる。そのデフレを放置させた日銀の責任は重いと、田中氏は言う。

 それにしても、なぜ日銀はデフレを認めず、またそれに対する有効な施策をとろうとしないのか。

 日銀法によると、日銀の機能は「物価の安定」と「信用秩序の維持」と定められている。そのため本来はデフレを止めるのは日銀の役割のはずだ。

 田中氏は、現行の日銀法では何をもって「物価の安定」とするかについては、日銀独自の判断に任されているため、日銀は現在の緩やかなデフレ状態を「物価は安定している」と判断し、自らの責任を果たせていると考えている可能性が高いという。

 また、日銀は過去の経緯からインフレに対する警戒心が極度に強いため、緩やかなデフレ状態くらいがちょうどいいと考えているのではないかと田中氏は言う。つまり、田中氏を始めとする多くのエコノミストたちが批判する日本の過去10年あまりのデフレは、実は日銀が意図したものである可能性が高いと言うのだ。インフレターゲット(インフレ目標)論者を自任する田中氏は日銀の政策を「デフレターゲット」とまで酷評する。

 田中氏は日本の金融政策の決定権が日銀に独占されているために、日本はデフレ脱却のための有効な施策をとれていないとして、日銀法の改正を提唱する。それは、現行の日銀法が、先進国の中央銀行の中では異例とも言うべき、目標設定の独立性と手段の独立性の両方を日銀に対して認めているからだ。田中氏は、政府が物価目標(インフレ・ターゲット)を定め、日銀はそれを達成するための手段の独立性のみを認められるような形に日銀法を改正するべきだと主張する。既にみんなの党などが、次の国会で日銀法の改正案を提出する意向を明らかにしているが、大塚耕平金融担当副大臣によると、政府としてはまだ日銀法の改正は考えていないと言うことだ。

 また、経済ジャーナリストの町田徹氏は、日銀法の改正には慎重であるべきだと主張する。それは、政府が設定した目標に日銀が従わなければならなくなれば、放漫財政の政府が登場した時に、日銀は通貨の番人として金融引き締めなどの施策をとれなくなる恐れがあるからだと言う。

 日銀のどこに問題があるのか。また、一連の日銀批判は妥当なものなのか。経済不調における日銀の責任を、日銀批判の急先鋒に立つ田中秀臣氏と議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・小沢氏代表選出馬の深謀遠慮を読み解く
・チリ鉱山落盤事故で心配されること

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第475回(2010年05月22日)
なぜ日本経済の一人負けが続くのか
ゲスト:野口悠紀雄氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第473回(2010年05月08日)
日本経済の現状とベーシック・インカムという考え方
ゲスト:飯田泰之氏(駒澤大学経済学部准教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第277回(2006年07月20日)
日銀がゼロ金利を解除した本当の理由とは
ゲスト:岩田規久男氏(学習院大学教授)

インタビューズ(2010年08月28日)
行き過ぎた日銀叩きには要注意
経済ジャーナリスト町田徹氏に聞く

<ゲスト プロフィール>
田中 秀臣(たなか ひでとみ)上武大学ビジネス情報学部教授
1961年東京都生まれ。96年早稲田大学大学院経済学研究科単位取得退学。同年、上武大学助教授に就任、07年より現職。共著に『昭和大恐慌の研究』、著書に『経済政策を歴史に学ぶ』。『デフレ大不況 日本銀行の大罪』など。

2010年8月22日

私のやろうとしたことは間違っていなかった

鳩山由紀夫氏(前内閣総理大臣・衆議院議員)
マル激トーク・オン・ディマンド
第488回(2010年08月21日)
私のやろうとしたことは間違っていなかった
ゲスト:鳩山由紀夫氏(前内閣総理大臣・衆議院議員)

プレビュー

 「やり方には至らない点も多々あったが、私がやろうとしたことの理念は間違っていなかったと思う。」

 これが鳩山前首相自身による鳩山政権8ヶ月の総括だ。

 国民の期待を一身に背負って政権の座についた鳩山内閣は、8ヶ月余の短命に終わった。そして、その後を継いだ菅内閣は、昨年の政権交代時に民主党が掲げた旗をことごとく降ろしてしまったかに見える。政治主導にしても然り、国家戦略室にしても然り、新しい公共にしても然りだ。

 しかし、その事に鳩山氏は大いに不満を感じていると言う。

 「政治家が理念を掲げ、国民と一緒になってそれを実現していく。(鳩山政権が)その道筋は付けたと思う。それだけは誰が何と言っても守っていきたい」。鳩山氏はこう語り、民主党が掲げてきた理念をここで降ろすべきではないと主張する。

 その理念とは、鳩山氏が好んで使う「友愛」の言葉に凝縮された「公平・公正・透明」な社会の実現であり、「機会均等」であり、「地域主権」であり、「共生社会」だ。そのような社会を実現するために民主党は政権交代を実現し、またその青写真を作るために「国家戦略室」を設け、政治主導確立法案を提出した。

 ところが、菅政権になって戦われた参議院選挙では、そうした理念が民主党のマニフェストからはことごとく影を潜めた。また、国家戦略室を政権の要に据えた上で、政府の意思決定のあり方や国のカタチを変えていくという当初の壮大な構想も、早々と諦めてしまったように見える。鳩山氏は菅政権のそうした姿勢に対する不満を隠そうとしない。

 実は鳩山政権が掲げた理念は、民主党が1998年に発足した際の結党宣言にほぼそのまま記されているものだ。いわば民主党のDNAと言ってもいい。なぜそれが、今になって出たり引っ込んだりするのか。これに対して鳩山氏は、「われわれはその理念を必ずしも常に党内で十分に確認をしてこなかった。だからそれが党内に浸透していなかったかもしれない」と、反省の弁を述べる。いずれにしても、自らが掲げた理念の正しさには揺るぎない自信を見せる鳩山氏だが、それを実現する手法には数々の問題があったことは率直に認める。

 まず、政権交代前の準備不足だ。総選挙の1ヶ月ほど前から政権移行チームを発足させたが、議員の大半は選挙に駆り出されていたため、十分な議論も準備もままならないまま内閣を発足させることになってしまった。

 そのため、何よりも最初に実現すべきだった国家戦略室の局への格上げ、そのための設置法の作成が遅れた。鳩山氏は、「結果的にそこにいろいろつけ込まれたと思う」と、準備不足が最後まで祟ったことを悔やみ、その隙をついて官僚たちは「束になってかかってきた」とも語り、激しい官僚の抵抗に遭ったことを認める。

 そうした自らの失敗を顧みた上で、「たとえ2、3ヶ月政治の機能が止まったとしても、今からでも政権の仕組みを根本から練り直す作業をやるべきだ」と主張する。

 9月の民主党代表選については、「2~3ヶ月、あるいは1年に2人も3人もトップがかわるのは良いことではない」として、基本的には菅代表を支持する意思を示している。だが一方で、「この政権が果たしてどういう理念を持っているのかが、あまり見えてこない」ことが問題であり、「私はこの代表選が理念のぶつかり合いの中で行われることに期待したいし、そうなる可能性が出てきている」と、菅代表に対する対立候補擁立の可能性に初めて言及した。

 鳩山政権はなぜ自らが掲げた理念を実現できなかったのか。政権の前に立ちはだかったものは何だったのか。鳩山氏とともに鳩山政権の8ヶ月を総括し、その反省を民主党は今後どのように生かしていくべきかを議論した。

今週のニュース・コメンタリー
•グラウンドゼロ近くのモスク建設計画が憲法論争に発展
•虐待防止法要件緩和と同時に議論すべきこと
•ビデオニュースに鳩山前首相がやってきた

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第28回(2001年09月14日)
同時テロはなぜおきたのか-あえてこの時期に言っておきたいこと

マル激トーク・オン・ディマンド 第202回(2005年02月10日)
誰のための憲法改正か
ゲスト:鳩山由紀夫氏(衆議院議員)

マル激トーク・オン・ディマンド 第471回(2010年04月24日)
交渉の全てを知る守屋元次官が語る
普天間移設問題の深淵

ゲスト:守屋武昌氏(元防衛事務次官)

マル激トーク・オン・ディマンド 第474回(2010年05月15日)
「新しい公共」で国のカタチはどう変わるのか
ゲスト:松井孝治氏(内閣官房副長官)

マル激トーク・オン・ディマンド 第477回(2010年06月05日)
鳩山政権は何に躓いたのか-新政権の課題
ゲスト:松井孝治氏(内閣官房副長官)、長谷川幸洋氏(東京新聞・中日新聞論説委員)、福山哲郎氏(外務副大臣)、山口二郎氏(北海道大学教授)

<ゲスト プロフィール>
鳩山 由紀夫(はとやま ゆきお)前内閣総理大臣・衆議院議員
1947年東京都生まれ。69年東京大学工学部計数工学科卒業。76年スタンフォード大学大学院博士課程修了(工学博士)。81年専修大学経営学部助教授などを経て、86年衆院初当選(自民党)。93年自民党を離党、新党さきがけ結成に参加。細川内閣で官房副長官。96年旧民主党結党、菅直人氏と共同代表に就任。98年新民主党結党。09年第93代内閣総理大臣に就任。10年6月に辞任。当選8回(北海道9区)。

2010年8月15日

EV(電気自動車)時代到来の予感は本物か

舘内端氏(自動車評論家、日本EVクラブ代表)
マル激トーク・オン・ディマンド
第487回(2010年08月14日)
EV(電気自動車)時代到来の予感は本物か
ゲスト:舘内端氏(自動車評論家、日本EVクラブ代表)

プレビュー

 電気自動車(EV)時代の本格到来か。

 ここにきてEVが次々と一般ユーザー向け市場に投入され始めている。今年3月に三菱自動車が、量産車としては世界初となるEV『i-MIEV』の一般ユーザー向けの販売を開始し、今年末には日産も『リーフ』の販売を始めるそうだ。2012年にはホンダもEVを発売する計画を明らかにしている。エコカーとしてはやっとハイブリッドカーが普及し、次は充電可能なプラグインハイブリッド車の時代かと思いきや、時代はそれを通り越して、一気に本格的EV時代に突入しそうな気配がする。

 18年前からEVの開発を手掛けてきた自動車評論家の舘内端氏は、欧州や米カリフォルニア州の排出ガス規制の強化や、EVの性能を左右する充電池の高性能化や低価格化によって、確かにEVがここにきて一気に普及する前提が整ってきていることは確かだと言う。

 実際にカリフォルニア州では2012年からZEV(zero emission vehicle=ゼロエミッション車)規制によって一定台数の無公害車(EVまたは燃料電池車)を販売する義務が自動車メーカーに対して課される。また、欧州でも、2012年にはリッターあたり19.4kmに満たない燃費の車を製造したメーカーに対して罰金が課せられるようになるという。そうした中で、走行段階では全く温室効果ガスを排出しないEVの存在価値が、これまでになく高まっていることは紛れもない事実だろう。

 また、走行距離が短い、充電に時間がかかる、充電施設が少ないといったEVにまつわる様々な問題点も、技術的にはほとんど実用可能なレベルまで解決されてきた。特に家庭用電源でも充電が可能になったことで、多くのハードルはクリアされた感がある。

 しかし、それでも舘内氏は、「モノ(EV)は来たが精神がまだついてきていない」と、昨今のEVブームに注文をつける。それは、EVが決して無公害車ではないからだ。

 確かにEVは走行段階ではCO2を排出しないゼロ・エミッション車だが、その動力源となる電気を発電するためには火力発電所で大量のCO2が排出され、原子力発電所で放射性廃棄物を発生させている。EVも決して無公害車とは言えないのだ。

 舘内氏は、真のEV時代が到来するためには、単にEVが現在の自動車にとって替わるのではなく、これまでのような人や物の長距離の移動を前提とする20世紀型のライフスタイル自体が、変わる必要があると言う。走行距離や充電施設の普及が問題になっているうちは、本当の意味でのEV時代など到来しないというのが、日本でいち早くEVの開発に関わってきた舘内氏の主張だ。

 実際にEVに試乗してその実用性を検証するとともに、昨今のEVブームがどれほど本物なのかを、EVの権威である舘内氏と神保哲生、武田徹が議論した。

今週のニュース・コメンタリー
•改正脳死臓器移植法の下で脳死者の自己決定権は守られているか

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第424回(2009年05月23日)
臓器移植法に改正が必要な理由
ゲスト(PART1):河野太郎氏(衆議院議員)、阿部知子氏(衆議院議員)
ゲスト(PART2):ぬで島次郎氏(東京財団研究員)

マル激トーク・オン・ディマンド 第288回(2006年10月06日)
私が脳死移植に断固反対する理由
ゲスト:小松美彦氏(東京海洋大学教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第421回(2009年05月02日)
自動車文明の終焉
ゲスト:下川浩一氏(東海学園大学経営学部教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第373回(2008年05月24日)
自動車産業が日本から消える日
ゲスト:土屋勉男氏(明治大学政治経済学部客員教授)

<ゲスト プロフィール>
舘内 端(たてうち ただし)自動車評論家、日本EVクラブ代表
1947年群馬県生まれ。72年日本大学理工学部卒業。72年ベルコ・レーシング入社。77年同社を退社し、フリーのエンジニアとしてレーシングカーの設計等に携わる。94年日本EVクラブを設立し代表に就任。80年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『3年後に生き残るクルマ』、『エコカー激突!』など。

2010年8月 7日

日航ジャンボ機事故はまだ終わらない

美谷島邦子氏(8・12連絡会事務局長)
マル激トーク・オン・ディマンド
第486回(2010年08月07日)
日航ジャンボ機事故はまだ終わらない
ゲスト:美谷島邦子氏(8・12連絡会事務局長)

プレビュー

 25年前の1985年8月12日、羽田空港を飛び立った満席の大阪伊丹空港行き日本航空123便ボーイング747は、離陸から12分後に後部左側ドアの異常を知らせる警告灯が点灯。直ちに操縦不能な状態に陥ると、そのまま32分間迷走を繰り返した後、群馬県上野村の高天原山の尾根に激突して炎上した(この場所は後に御巣鷹の尾根と命名された)。この事故で乗客乗員524名のうち、520名が死亡した。単独飛行機事故としてはいまだに史上最悪の惨事だった。

 その520名の中に、日航機事故の被災者家族の会「8・12連絡会」を事務局長として25年間引っ張ってきた美谷島邦子氏の二男で小学校3年生の美谷島健君(当時9才)もいた。健君は、夏休みの水泳教室で25メートルを泳げたことのご褒美として、仲良しの従兄弟たちが住む大阪に向け、生まれて初めての一人旅に旅立ったばかりだった。

 この事故の原因については、運輸省(現国土交通省)に事故調査委員会が設けられ、墜落の7年前の伊丹空港での尻もち事故の際に破損した圧力隔壁の修理に不備があり、それが金属疲労によって悪化したために、飛行中に破裂を起こしたことが、事故の直接の原因だったと結論づける報告書がとりまとめられた。

 しかし、美谷島氏を始めとする多くの遺族たちは、事故から四半世紀が過ぎた今もまだ、事故原因については納得ができていないという。それは、日本では飛行機事故に限らず、公共の交通機関などで大きな事故が発生した際に、原因の究明を最優先させる法的な制度が整備されていないため、事故調が発表した事故原因には数々の疑問点が残っているからだ。

 事故調の調査結果では、圧力隔壁の破損によって後部垂直尾翼の上半分と油圧系統が破損し、操縦が不能になり墜落に至ったと結論づけられている。あくまで修理ミスに第一義的な原因があったという立場だ。しかし、その後ボーイング社は同型機の油圧系統に安全弁をつけるなどの改善を行っている。4つある油圧系統が圧力隔壁の直下で1本化されていることが、機が全くの操縦不能に陥ったことの直接の原因だったとすれば、少なくとも当時のボーイング747には構造上の欠陥があったということになる。多くの遺族たちが事故調の調査結果に納得できず事故原因の再調査を望んでいるのも、そのような疑問点がまだ残ったままになっているからだ。

 また、事故原因を明らかにする上では、制度面でも遺族にとって納得のいかない理由があった。国交省の事故調は法的な強制力を持っていないため、あくまで事故の当事者たちの協力を得られない限り、調査ができない。しかし、その一方で、日本で強制力を持つ事故調査を行うためには、事故の責任者を刑事告訴することで、警察や検察による強制捜査に頼るしかない。日本にはアメリカのような、事故の当事者に刑事免責を与えた上で、原因究明に全面的に協力させる司法取引の制度が存在しない。そのため、仮に当事者が事故調には協力をしたいと考えていても、いつ自分が刑事告訴を受けるかもしれない立場にある以上、刑事裁判で自らを不利な立場に置く可能性のある情報を自ら積極的に出すことは難しい。

 特に、日航123便の事故の場合、航空機を製造したメーカーがアメリカのボーイング社で、尻もち事故の修理を行ったのもボーイング社の技術者だった。そのため、被害者たちが刑事告訴をする場合、ボーイング社の修理担当者もその対象に含める必要があり、そのためにはボーイング社の協力が不可欠だった。しかし、航空機事故で個人が刑事訴追されることなどあり得ないと考えているアメリカの航空機メーカーが、自社の社員を刑事訴追に追い込むような捜査に協力するはずもなく、結果的にこの事故の原因究明の努力は二国間の司法制度の壁にも阻まれることとなった。

 不起訴処分が決まった後、前橋地検の山口悠介検事正は原告の遺族たちに、異例の説明会を開催しているが、その場で山口氏は「検察は航空機の専門家ではないから、本当の事故原因はわからない」、修理ミスを犯したボーイング社職員を嘱託尋問しなかった理由については、「事故原因をぎりぎりまで追及すれば戦争になる」など、驚くような発言を連発している。要するに、現在の司法制度のもとでは、航空機の専門家の集まりである事故調の調査には強制力がなく、強制力のある調査が行える警察や検察には航空機の専門的知識はないために、真の事故原因を究明が困難であること、この事故はボーイング社というアメリカの基幹的な防衛企業が関わる問題であるため、日本政府の力ではこれ以上の原因究明が不可能なことを、捜査にあたった検事自らが、認めているのだ。

 8・12連絡会を立ち上げ、25年間その世話役を務めてきた美谷島邦子氏は、航空機を含む乗り物事故の原因究明のあり方については、いまだに25年前の課題が改善されていないことを残念がる。その後の25年間に数々の乗り物事故が発生しているが、そのたびに本当の意味で被害者や遺族が納得できる原因究明が必ずしも行われていない理由は、25年前に日航機事故の原因究明を阻んだものと同じ理由なのだ。

 しかし、その一方で、美谷島氏は自分たちが25年間地道に行ってきた活動が、いろいろいなところで実を結んでいると感じているとも言う。例えば、この事故の刑事告訴はアメリカから捜査協力を得られないことを主な理由に不起訴処分となったが、その後検察審査会が不起訴不当の議決を行ったため、前橋地方検察局は再度捜査を行った上で、あらためて不起訴処分としている。当時の検察審査会には強制的に起訴をする権限はなかったために、結局この事故は刑事事件とはならず、美谷島氏ら遺族らが強く求めてきた相模湾に落下した垂直尾翼上部の引き上げなどは行われなかった。しかし、今年から法が改正され、検察審査会の議決のみで強制起訴が可能になった。今、日航機事故が検察審査会にかけられていたら、結果は違っていたかもしれない。

 「誰かを刑務所に入れたいと思ったことはない」と美谷島氏は言うが、と同時に、「真の事故原因の究明と再発の防止こそが遺族の共通した願い」であるとも言う。日本が事故調査制度のあり方を根本的に改革しない限り、本当の事故原因を突き止めるために日本では刑事裁判に訴えることが唯一の方法であるとの遺族の思いは強い。

 不幸にも事故が起きてしまった以上、もう元には戻らない。しかし、残されたわれわれにできることは、持てる力の全てを使って事故の原因を突き止め、同じような原因で同じような悲しい思いをしなければならない人を一人でも作らないようにすることのはずだ。しかし、美谷島氏が指摘するように、25年前の事故がわれわれに残した課題を、いまだにわれわれは解決できていない。

 日航機事故から25年目となる8月12日を迎えるにあたり、この事故が残した多くの課題に取り組んできた美谷島氏とともに、この事故を風化させないためにわれわれにできることが何かを考えた。

今週のニュース・コメンタリー
・高齢者の所在確認に個人情報保護法の壁?
・虐待防止のために行政の権限を強化すべきか

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第228回(2005年08月06日)
日航機事故20周年特別企画 飛行機は安全になったのか―
規制緩和の中で揺れる公共交通機関の安全性

ゲスト:戸崎肇氏 (明治大学商学部教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第264回(2006年04月21日)
これでいいのか、 個人情報保護法の現状
ゲスト:村千鶴子氏(弁護士)

<ゲスト プロフィール>
美谷島 邦子(みやじま くにこ)8・12連絡会事務局長
1947年生まれ。精神保健福祉士、栄養士。85年の日航ジャンボ機墜落事故で次男を亡くす。同年、同事故の遺族らと「8・12連絡会」を設立し事務局長に就任。著書に『御巣鷹山と生きる』、『いつまでも いっしょだよ』など。

2010年8月 1日

5金スペシャル
「カジノジャック」と「インセプション」に見る米国の今と昔とこれから

町山智浩氏(映画評論家)
マル激トーク・オン・ディマンド
第485回(2010年07月31日)
「カジノジャック」と「インセプション」に見る米国の今と昔とこれから
ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)

無料放送中

 5回目の金曜日に普段のマル激とはひと味異なる特別企画を無料放送でお届けする5金スペシャル。今年2回目となる5金は来日中の在米映画評論家・町山智浩氏と映画特集をお届けする。

 今回取り上げた作品は、まず1本目が町山氏イチ押しのドキュメンタリー映画『カジノジャック』。アメリカで伝説のロビイストとして知られるジャック・エイブラモフの栄光と転落を通じて、カネとロビイストに牛耳られたワシントン政治の実情を鋭く暴いた社会派作品で、日本での劇場公開は未定ながら、現在公開中のアメリカでは既に高い評価を得ているという。

 町山氏はエイブラモフ事件を、アメリカの政治が1980年大統領選でのレーガン当選以来、事実上ワシントンを支配してきた共和党保守派による保守革命の終焉を象徴する歴史的なできごとと位置づける。

 しかし、ニューディール時代の大きな政府の腐敗を批判し、綱紀粛正を主張しつつ、規制緩和によって小さな政府を実現することが強い経済と社会を再現すると主張してきたエイブラモフら保守派の重鎮たちが、なぜいとも簡単にその影響力をカネで売るようになってしまったのかについては、より詳細な検証が必要だろう。

 2本目は今日本でも公開中の『インセプション』を取り上げた。レオナルド・ディカブリオ扮するコブが、人の夢の中から企業秘密を盗み出すことを専門とする産業スパイという設定で、人の夢に入り込み秘密を盗み出したり、それを守るために夢の中でガードマンを雇ったりと、ややSF的な設定。

 初っ端に映画素人を自認する神保哲生が、SFとは言えあまりに現実味のないストーリー設定に「子供騙しとしか思えない」と酷評したところ、宮台真司、町山智浩の2人が口を揃えて大反論。なぜストーリーを意図的に荒唐無稽にしているかや、「夢の中の夢の中の夢」という概念の奥深さなどを説き、全面的にこの作品を擁護する一幕も。

 今回の5金映画特集は、この2作品を入り口にアメリカ政治の現実とオバマ当選の意味、そして本当の現実とは何か(今、自分が現実だと思っているものが、本当に現実であるという証拠はあるのか)などについて、町山智浩氏と語り合った。

今週のニュース・コメンタリー
•死刑廃止論者の千葉法相が死刑執行を命じたことの意味
•政権の方向性を示さない菅氏
リーダーシップ欠如に不満の声相次ぐ

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第472回(2010年04月30日)
5金スペシャル 映画特集 豊かな国日本がかくも不幸せなのはなぜか
ゲスト:寺脇研氏(映画評論家、京都造形芸術大学教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第387回(2008年08月30日)
5金スペシャル 映画とイラク戦争と大統領選挙
ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)

マル激トーク・オン・ディマンド 第335回(2007年08月31日)
5金スペシャル映画特集 マイケル・ムーアは終わったのか
ゲスト:森達也氏(ドキュメンタリー作家)

プレスクラブ(2010年07月29日)
民主党両院議員総会

<ゲスト プロフィール>
町山 智浩(まちやま ともひろ)映画評論家
1962年東京都生まれ。86年早稲田大学法学部卒業。同年宝島社入社。『宝島』、『別冊宝島』、『宝島30』を経て、95年洋泉社に出向、『映画秘宝』の創刊に携わる。96年同社を退社。97年より現職。米国・カリフォルニア州オークランド在住。著書に『映画の見方がわかる本』、『USAカニバケツ』、』、『新版 底抜け合衆国 ~アメリカが最もバカだった4年間』など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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