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2010年5月29日

在沖米海兵隊の抑止力とは何なのか

孫崎享氏(元外務省国際情報局長)
マル激トーク・オン・ディマンド
第476回(2010年05月29日)
在沖米海兵隊の抑止力とは何なのか
ゲスト::孫崎享氏(元外務省国際情報局長)

プレビュー

 普天間飛行場の移設先として「最低でも県外」を公言してきた鳩山首相が、最後に「辺野古」を選ぶしかなかった理由としてあげた唯一の理由が、「米海兵隊の抑止力」だった。

 28日に日米間で合意した共同声明でも「沖縄を含む日本における米軍の堅固な前方のプレゼンスが、日本を防衛し、地域の安定を維持するために必要な抑止力と能力を提供すること」と明記され、米軍が沖縄に駐留することの必要性の根拠を抑止力に求めている。

 しかし、鳩山首相も日米共同声明も、抑止力の中身については、何ら具体的に明らかにしていない。

 日米の安全保障問題に詳しく、外務省ではもっぱらインテリジェンス(諜報)畑を歩んできた元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、米海兵隊の抑止力論を、「まったく的外れな主張」だとして一蹴する。

 海兵隊は有事の際に真っ先に戦闘地域に派遣される急襲部隊であり、「抑止力とは何ら関係がないというのは軍事の常識」だと孫崎氏は言う。また、鳩山首相が名指しであげた朝鮮半島情勢への対応についても、もともとその役割は在韓米軍が担うべきもので、沖縄に海兵隊を配置する理由になどならない。

 こう論じる孫崎氏は海兵隊のみならず、そもそも在日米軍自体が、今日抑止力を失っているとまで言う。

 軍の抑止力は、核兵器に対する抑止力と通常兵器に対する抑止力に分かれる。、しかし孫崎氏によれば、中国の軍事的な台頭によって、もはや米国が中国と一戦を構える意思を失っている以上、在日米軍は核に対する抑止力も通常兵器に対する抑止力も、いずれも提供できていない。仮に尖閣諸島などをめぐり日中間で紛争が生じてもアメリカ軍は動かないだろう。ましてや、米本土を核攻撃する能力を持つ相手に対して、他国をまもる目的でアメリカが核を使用することなどあり得ない。だから孫崎氏は在日米軍の抑止効果は、もはや存在しないも同然だと言うのだ。

 では、なぜアメリカは、抑止効果の無い海兵隊員を沖縄に配置し続け、新たな基地の建設を強硬に求めるのか。孫崎氏は、アメリカの海兵隊が沖縄にいることの最大の理由は、年間6000億円にものぼると言われる日本の米軍駐留費支援にあると言う。いわゆる思いやり予算だ。

 日本は海外に駐留するアメリカ海兵隊の99%を国内に抱え、しかも、在日米軍の駐留経費の75%を思いやり予算として負担している。ドイツの30%と比べてもこの数字は圧倒的に高い。つまり、アメリカは世界のどこの国よりも日本に海兵隊を置いた方が経済的に好都合であるという理由から、地域の抑止力などとは無関係に、単に世界中に海兵隊を派遣するためのホームベースとして、海兵隊の基地を日本に持ち続けたいというのが、アメリカの本音だと孫崎氏は言うのだ。

 こうなると普天間移設をめぐる迷走は、どうやらアメリカの言い分を鵜呑みにした鳩山政権の独り相撲の感が否めない。しかし、それでも孫崎氏は普天間問題はまだ終わっていないと言い切る。なぜなら、期せずして鳩山政権が沖縄県民の反基地感情に火をつけてしまったからだ。今後、辺野古移設計画を進めようにも激しい抵抗や妨害活動に遭い、基地の建設が不可能になる可能性は低くない。

 孫崎氏は、地元の反対が非常に強い場合、アメリカは辺野古への基地建設をごり押しはしないだろうと言う。なぜならば、アメリカは、反基地感情を刺激し過ぎることで、それが嘉手納など、アメリカ軍の海外戦略の生命線にまで飛び火することを最も恐れているからだという。嘉手納などに比べればアメリカにとって普天間問題は小さな問題であり、それが少しこじれたくらいで日米関係が損なわれることもないし、問題が他の基地へと波及することは、アメリカは決して望んでいないからだ。

 8ヶ月前にマル激に出演した際に孫崎氏が持論として展開した「日米関係において日本はすでにアメリカに対して対等以上の関係にある」と考え合わせると、結局今回の普天間移設をめぐる迷走は、交渉巧者のアメリカにしてやられたというだけのことだったのかもしれないという気さえしてくるではないか。

 日本がアメリカを失いたくない以上に、アメリカは日本を失いたくないと主張する孫崎氏と、米海兵隊の抑止力や、それを理由に辺野古への移設に踏み切った鳩山政権の意思決定のあり方などについて議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・インターネットを政府の規制下に置く放送法改正が衆院を通過

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第471回(2010年04月24日)
交渉の全てを知る守屋元次官が語る普天間移設問題の深淵
ゲスト:守屋武昌氏(元防衛事務次官)

マル激トーク・オン・ディマンド 第440回(2009年09月12日)
シリーズ・民主党政権の課題2
「対等な日米関係」のすすめ

ゲスト:ゲスト:孫崎享氏(元外務省国際情報局長)

プレスクラブ(2010年05月28日)
鳩山首相、普天間移設問題で28日夕に会見

しばらくお待ちください:プレスクラブ(2010年05月28日)
北沢防衛相記者会見、福島社民党党首記者会見

特別企画
迷走する普天間基地移設問題

<ゲスト プロフィール>
孫崎 享(まごさき・うける)元外務省勤務・元防衛大学校教授
1943年旧満州国生まれ。66年東京大学法学部中退、外務省入省。英国、ソ連、米国、イラク、カナダ勤務を経て、ウズベキスタン大使、国際情報局長、イラン大使などを歴任。02年防衛大学校教授に就任、09年3月退官。著書に『日米同盟の正体 迷走する安全保障』、『情報と外交』など。

2010年5月22日

なぜ日本経済の一人負けが続くのか

野口悠紀雄氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第475回(2010年05月22日)
なぜ日本経済の一人負けが続くのか
ゲスト:野口悠紀雄氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

プレビュー

 08年の金融危機から世界経済が着実に回復へと向かう中、日本だけが取り残されている。経済危機の震源地だったアメリカが、2007年から2011年までの間に3.6%の成長を見込む一方で、日本はその間2.7%ものマイナスの成長となっている。これは他の先進国と比べても特に低く、日本一人負けの様相と言ってもよい。

 かねてより日本経済の構造問題を指摘してきた早稲田大学大学院ファイナンス研究科の野口悠紀雄教授は、この最大の理由は、日本経済が依然として輸出依存型製造業中心の古い構造から抜け出せてないからだと言い切る。

 たしかにリーマンショック後の金融危機における日本企業の傷み方は、アメリカ以上に大きかった。企業利益の落ち込みは、米国企業が3割だったのに対し、日本は7割以上にも及んだ。

 2002年以降の日本の好景気は、アメリカの消費拡大に伴う自動車などの輸出増に大きく依存していた。そして、アメリカの自動車販売の好調ぶりは、経済危機の原因とされたサブプライムローンなどの住宅ローンと密接に関係していた。多くのアメリカ人が、住宅価格が値上がりを続ける中で、住宅を担保にしたローンで自動車を購入していたからだ。これは住宅価格が暴落すれば一気に萎むバブルに過ぎなかったと野口氏は言う。

 経済危機は各国を等しく襲うが、製造業の占める割合が高い日本は、経済危機で輸出が冷え込むと、たちまち設備過剰となる。しかし、製造業の設備過剰は簡単に解消することができないために、日本経済の回復が遅れているのだと野口氏は指摘する。

 一方、危機の震源地のアメリカの回復が早かった理由は、アメリカがすでに産業構造の改革に成功しているためだ。野口氏によれば、アメリカは70年代、80年代に日本の工業製品が大量に入ってきたことで、脱製造業化を余儀なくされた。その過程で貿易摩擦や失業などの痛みは伴ったが、現在は製造業の比率が日本の半分ほどしかない脱工業化経済を達成している。組合が強く政治力のある自動車産業だけは、構造改革に失敗したため、金融危機で致命的な痛手を受けているが、脱工業化の結果生まれてきた金融業やIT産業など世界の先端産業の成長が、アメリカ経済の回復を支えている。製造業を守り、経済構造改革に失敗した日本と、既にそれを完了していたアメリカの差が、ここに来て両国経済の明暗を大きく分けていると野口氏は言う。

 90年代以降、韓国、台湾、中国などの新興国が次々と工業化し、賃金の安いそれらの国と製造業で競争しても勝負にならないことは明らかだった。ちょうど日本から攻め込まれたアメリカが脱工業化を図ったのと同じように、そこで日本は脱工業化・産業構造の転換を図る必要があったが、日本は金融緩和、円安、緊縮財政で輸出依存型の製造業を保護する政策をとった。要するに古い産業構造を延命させたということになる。その間政権の座にあった小泉内閣は、構造改革政権と呼ばれることが多いが、野口氏はこれを言下に否定する。小泉・竹中路線は構造改革などではなく、むしろ旧来の産業構造を守る政策だったと、これを一蹴する。

 日本経済が復活するためには、真の産業構造改革が必要だが、それはまさにアメリカが経験したような、厳しい痛みを伴うと野口氏は言う。日本人が自らの手で痛みの伴う構造転換を図れないのなら、日本は一度廃虚にならなければ、新しいものは生まれない。 そう言う野口氏が提言する、日本経済復活のための処方箋は苛烈だ。しかし、将来世代のためにもいま大転換をしなければ、日本の未来はないと言い切る。

 日本経済が生き返るためには何をすべきか、日本の進むべき道はどこにあるのか、構造改革論の大御所と称される野口氏と議論した。

<今週のニュース・コメンタリー>
口蹄疫は適正な対策でも感染拡大が止まらない異例の事態
小沢一郎氏に再度不起訴処分で意義が問われる検審制度
ネット選挙運動解禁議論は依然迷走中

<関連番組>
マル激トーク・オン・ディマンド 第473回(2010年05月08日)
日本経済の現状とベーシック・インカムという考え方
ゲスト:飯田泰之氏(駒澤大学経済学部准教授)
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PIGS問題は本当に対岸の火事なのか
ゲスト:井堀利宏氏(東京大学大学院経済学研究科教授)
ニュース・コメンタリー (2010年05月01日)
小沢一郎氏に検察審査会が起訴相当の判断
ゲスト:郷原信郎氏(元検事・弁護士)

<ゲスト プロフィール>
野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
1940年東京都生まれ。63年東京大学工学部卒業。72年エール大学経済学博士号取得。64年大蔵省(現財務省)入省。主計局、一橋大学教授、東京大学先端工学研究センター長などを経て01年退官。スタンフォード大学客員教授などを経て05年より現職。著書に『1940年体制』、『経済危機のルーツ』、『世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか』など。

2010年5月15日

「新しい公共」で国のカタチはどう変わるのか


飯田泰之氏(駒澤大学経済学部准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第474回(2010年05月15日)
「新しい公共」で国のカタチはどう変わるのか
ゲスト:松井孝治氏(内閣官房副長官)

プレビュー

 党のトップ2人を巻き込んだ政治とカネの問題や、迷走を続ける普天間基地移設問題などで、支持率低下に喘ぐ鳩山政権。しかしこの政権が最重要課題として地道に取り組んできた課題がある。「新しい公共」だ。

 鳩山首相が、昨年10月の所信表明演説や今国会の施政方針演説の中で打ち出した概念で、これまで政府や行政が独占的に担ってきた公共的な機能を、民にまで広げ、何でも政府に頼るのではなく、市民同士が協力し、支え合っていける社会を構築しようというもの。

 鳩山首相のスピーチライターとして、首相の一連の国会演説を起草した松井孝治官房副長官は、国会演説を用意するにあたり、首相自身が一番訴えたいことは何かと問うたところ、迷わずに「新しい公共」と「地域主権」の答えが返ってきたという。

 松井氏は「新しい公共」を、国家よりも社会を重視する「民主党のDNA」とも呼ぶべき基本理念だと説明する。また自身も官僚出身でありながら、一部のキャリア官僚だけが公共を担い、それを議論しうるといった官僚のエリート意識や特権意識には現役時代から疑問を抱いてきたと言う。官僚を頂点とする明治以来の中央集権体制に基づく日本の統治構造を根底から変えたいという思いが、鳩山首相にも松井氏自身にもあると松井氏は言う。

 近代以前には、人々は国家に依存することができなかったために、様々な形で自助の仕組みを構築していた。しかし、近代に入り、とりわけ後発工業国だった日本は、市民を国家に帰属させるために、得てして市民社会から自助機能を奪い、国家が公共的な機能を独占するようになった。つまり「新しい公共」とは、長年「官」が独占してきた「公」の機能を、その本来の持ち主である「民」へ奉還することを意味していると松井氏は説明する。

 また「公」の「民」への奉還には、行政のスリム化というメリットもある。何でもかんでも政府が担うことで肥大化した行政組織から、本来は民が果たすべき「公」の機能を切り離すことで、より効率的な政府に生まれ変わる一助ともなると松井氏は言う。

 では、「民」と一言で言っても、誰が「新しい公共」の担い手となるのか。松井氏は、それはNPOであり、地域社会であり、企業であり、一人ひとりの個人であり、そして政府でもあると答える。これまで政府や行政の中に偏在していた公共領域が、担い手と担い手の間にまたがり、お互い役割を分担し、協力しながら担うのが、松井氏が説く「新しい公共」の姿だ。 

 とはいえ、これからの新しい公共の担い手の中心的な存在となることが期待されるのは、NPOなどの市民セクターを置いて他には考えられない。しかし、日本はこれまでこの分野への手当てが明らかに先進国としては後手に回っていた。

 NPO先進国の英米では、政府も顔負けの慈善事業や公益事業を行うNPOの活動を個人や企業から幅広く集められる巨額の寄附金が支えている。個人寄附のみをとっても、米国は20兆円、英国は1.5兆円で、2600 億円という日本のそれを大きく上回る。

 新しい公共のあり方を話し合うために今年1月から首相官邸で定期的に開かれている「新しい公共円卓会議」では、既にNPOへの寄附に対する優遇税制措置の拡充が合意され、政府税調でも2011年度から認定されたNPOに寄付をした個人に対しては、50%の税額控除を認める方針が決定している。

 こうした優遇税制は、税金の使い道を一定の範囲内で個人に委ねるという税制政策の大きな転換を意味している。伝統的に寄附文化の弱い日本で、税制を優遇するだけで本当に寄附が増えるのかという疑問も少なからずある。また制度が悪用されたり、税収が減ることのディメリットも考えられる。しかし、松井氏は多少のハードルやリスクがあったとしても、公益的な活動をする市民セクターを支援することの意義は、それを大きく上回ることを強調する。

鳩山政権の「新しい公共」は、国のかたちや私たちの社会をどう変えることになるのか。「新しい公共」の思想的背景から具体的事例まで、官房副長官としてこのテーマを担当する松井氏と議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・そもそも杭打ち桟橋方式は本当に環境に優しいのか
・パロマ元社長の有罪判決は妥当だったのか

2010年5月10日

日本経済の現状とベーシック・インカムという考え方

飯田泰之氏(駒澤大学経済学部准教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第473回(2010年05月08日)
日本経済の現状とベーシック・インカムという考え方
ゲスト:飯田泰之氏(駒澤大学経済学部准教授)

プレビュー

 先月ワシントンで開催されたG20(20ヶ国地域財務大臣中央銀行総裁会議)で「世界経済の回復は予想以上に進んでいる」という共同声明が採択された。世界各国が金融危機に端を発する世界不況からようやく抜け出そうとしているのに、日本だけは依然として深刻なデフレが続くなど、一人負けの感が日増しに強くなっている。

 マクロ経済学が専門でインフレターゲット論で知られる「リフレ派」の論客として注目を集める飯田泰之駒沢大学経済学部准教授は、日本経済が長期低迷を続ける理由は政策的な失敗だと指摘する。

 政府が行う経済政策には主に、生産力を向上させる成長政策、景気を正常化させる安定化政策、最低限度の生活を保障する再分配政策の3つがあり、それらを巧みにポリシーミックスして最善の政策パッケージを探るのが経済政策の成否の鍵を握る。しかし、日本の歴代の政権では3つの内の1つだけが重視されたり、それを実行すべき時期を外してきたりしてきたことが、結果的に有効な経済政策につながらなかったと飯田氏は言う。

 飯田氏は中でもただちに着手すべき経済政策として、安定化政策、とりわけ金融政策をあげる。新たな投資を必要とする成長政策や財源の確保が不可欠な再分配政策にとっては、まず経済状態の安定が前提条件だからだ。したがってデフレを真っ先に解消するために、まずは金融緩和などでインフレ状態を起こすべきだというのが、リフレ派飯田氏の主張だ。

 そうした中で今注目を集め始めているのが、ベーシック・インカムという新しい社会保障の考え方だ。

 ベーシック・インカムとは、すべての国民が最低限以上の生活を送れるように、一定額の現金を無条件で支給する制度のこと。生活保護とは異なり、所得調査も行わず、すべての国民、もしくは日本に住むすべての人が無条件で給付の対象となる。このたび民主党が所得に関係なく実施する子ども手当は、かなりベーシック・インカムに近い考え方だが、これを15歳未満の子どもだけではなく、対象をすべての人に広げたものがベーシック・インカムだ。

 ベーシック・インカムには最低限の生活水準が保障される他にも、社会保障制度の簡素化や行政コストの削減、景気浮揚効果など、さまざまな経済効果があるとされているが、ベーシック・インカムの提唱者として知られる飯田氏によると、今日ベーシック・インカムが注目されるようになった背景には、生活保護のカバー率の低迷があるという。現在、生活保護の有資格者の8割が、何らかの理由から給付を受けていないとみられる。

 確かにベーシック・インカムは貧困対策として社民主義的な立場から主張されることも多いが、しかし、元々この考え方は、ミルトン・フリードマンに代表される新自由主義者が提唱した制度だという。それは、政府がお仕着せで施す社会保障よりも、現金を配りそれを個人の選択で自由に使わせる施策の方が好ましいという自由主義的発想に根ざしているからだ。ベーシック・インカムの提唱者としても知られる飯田氏も、すべての人に市場競争に参加する機会を与えるという理由で、自由主義的な立場からこの制度を支持していると言う。

 しかし、働かなくても政府からお金がもらえることになるベーシック・インカムには、人々の労働意欲を損ねるなどの批判や懸念も多い。飯田氏は、一人あたり月5万円から7万円程度、つまりそれだけで生活するにはぎりぎりで少し足りないくらいの金額に設定するのが好ましいと語るが、何よりも問題は財源だ。仮に国民全員に月7万円を支給した場合、年間80兆円の財源が必要になる。現在の財政状況では望むべくもない。しかし飯田氏は、まず「納税者背番号制」の導入や「負の所得税」などを実施し、10年から30年の時間をかけて段階的にベーシック・インカムを実現させていくことは十分に可能だと主張する。

 ベーシック・インカムに実現可能性はあるのか。21世紀の公正な社会のあり方を私たちはどう考えるのか。今週は日本経済の長期低迷の原因とベーシック・インカムの2つの論点で、アメリカ取材中の神保哲生に代わり武田徹と宮台真司が、飯田氏と議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・オバマ政権が原油流出事故の対応に躍起になる理由
・イギリス総選挙に見る2大政党制の終わり
・野中「機密費」発言の波紋が広がる

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第464回(2010年03月06日)
PIGS問題は本当に対岸の火事なのか
ゲスト:井堀利宏氏(東京大学大学院経済学研究科教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第460回(2010年02月06日)
日本経済の復活のための処方箋
ゲスト:池尾和人氏(慶應義塾大学経済学部教授)

マル激トーク・オン・ディマンド 第437回(2009年08月22日)
権力が移動する時首相官邸で起きていること
ゲスト:武村正義氏(元内閣官房長官・蔵相)

<ゲスト プロフィール>
飯田 泰之(いいだ やすゆき)駒澤大学経済学部准教授
1975年東京都生まれ。98年東京大学経済学部卒業。03年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。駒澤大学経済学部専任講師を経て07年より現職。財務省財務総合政策研究所客員研究員。著書に『考える技術としての統計学』、共著に『経済成長って何で必要なんだろう』など。

2010年5月 1日

5金スペシャル 映画特集
豊かな国日本がかくも不幸せなのはなぜか

5金スペシャル
マル激トーク・オン・ディマンド
第472回(2010年04月30日)
5金スペシャル 映画特集
豊かな国日本がかくも不幸せなのはなぜか

ゲスト:寺脇研氏(映画評論家、京都造形芸術大学教授)

無料放送中

 5週目の金曜日に特別企画を無料放送でお届けする恒例の5金スペシャル。今回は、映画評論家の寺脇研氏をゲストに迎え、映画特集を生放送でお送りした。

 番組の前半で取り上げたのは、今年の米アカデミー賞で元夫婦監督による対決が話題を集めた『アバター』(ジェームズ・キャメロン監督)と『ハート・ロッカー』(キャスリン・ビグロー監督)。アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏も電話出演で参加し、片や最新3D技術を駆使した戦争アクション、片やドキュメンタリータッチのイラク戦争映画を通じて、そこに描かれる反省的なアメリカのセルフイメージを読み解きながら、傷ついたアメリカがどのように自己回復を図ろうとしているかについて語った。

 後半のテーマは打って変わって今の日本が抱える問題について議論。現在公開中の日本映画『ソラニン』(三木孝浩監督)に見る、日本の若者たちの閉塞感、先の見えない不安感はどこから来るものなのか。韓国映画の『息もできない』(ヤン・イクチュン監督)とメキシコ映画の『闇の列車、光の旅』(キャリー・ジョージ・フクナガ監督)と対比しながら、日本映画の貧しさを通して、社会が豊かになることで失われていくものについて考えてみた。

今週のニュース・コメンタリー
・独法の仕分けは前回よりも慎重に行った
 仕分け人を務めた尾立源幸参議院議員に聞く
・小沢一郎氏に検察審査会が起訴相当の判断
 ゲスト:郷原信郎氏(元検事・弁護士)
 
<ゲスト プロフィール>
寺脇 研(てらわき けん)映画評論家、京都造形芸術大学芸術学部教授
1952年福岡県生まれ。75年東京大学法学部卒業。同年文部省(現文部科学省)入省。広島県教育委員会教育長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを経て06年退官。07年より現職。著書に『韓国映画ベスト100 「JSA」から「グエムル」まで』、共著に『コンクリートから子どもたちへ』。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
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-----<著書>-----

新刊!
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『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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