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2010年4月24日

交渉の全てを知る守屋元次官が語る
普天間移設問題の深淵

守屋武昌氏(元防衛事務次官)
マル激トーク・オン・ディマンド
第471回(2010年04月24日)
交渉の全てを知る守屋元次官が語る
普天間移設問題の深淵

ゲスト:守屋武昌氏(元防衛事務次官)

 普天間移設交渉のすべてを知る男が、ついに重い口を開いた。

 鳩山首相が5月末までの決着を約束した普天間移設問題は、依然迷走を続けているが、沖縄とアメリカの双方を満足させられる解決策が事実上あり得ない状況となった今、この問題が政権の屋台骨を根幹から揺るがす事態はもはや避けられそうにない。

 そもそもなぜこのような事態に立ち至ったのかについては、鳩山首相を含む与党民主党の未熟さやブレに非があったことは論を俟たない。

 しかし、自民党政権下で4年余の長きにわたり防衛事務次官を務め、そもそも普天間移設問題の発端となった1995年の沖縄少女暴行事件以来、最前線で沖縄とアメリカ政府との交渉に当たってきた守屋武昌氏は、昨年まで安全保障情報へのアクセスが制約される野党の座にあった民主党が、この問題の複雑さや怖さを理解できていなかったとしても、それを責めることはできないと同情的な立場をとる。それは、「防衛省の天皇」の異名を取るまでに日本の防衛のトップに君臨した守屋氏にさえ、「結局最後まで自分は沖縄に手玉に取られた」と言わしめるほど、この交渉がいかに複雑かつ手強いものだったかを、氏自身が身をもって知っているからに他ならない。

 10年以上も普天間移設交渉に関わってきた守屋氏は、交渉の困難さをしみじみと語るが、中でも驚愕の事実として氏があげるのが、一旦キャンプシュワブ陸上案で決まりかけていた普天間の移設案が、地元沖縄の自治体や経済団体がアメリカ政府を動かすことで、ひっくり返されてしまったことだった。

 守屋氏は当初から、沖縄県内に米軍基地を新設することなど、沖縄県民が許すはずがないとの前提に立ち、普天間の移設先は既存の米軍基地内しかあり得ないと考えていた。そして、嘉手納基地統合案、嘉手納弾薬庫案などを経て、キャンプシュワブ陸上案というものが浮上した。基地の新設にあたらず、しかも海の埋め立てによる環境破壊も伴わないもっとも合理的と思われたこの案で、日本側がほぼ固まりかけていたその時、突如守屋氏の元に、現在の辺野古沖案の元になる、海の埋め立てを前提とする別の案が、アメリカ側と地元沖縄からほぼ同時に提示されたという。

 いくら守屋氏と言えども、地元沖縄と米政府が共に推す案に反対できるはずがない。実はこの案は米軍基地との親交が深い沖縄の自治体や経済団体が、基地の司令官らを説得し、現場の司令官らの要望に応える形で、米政府が正式に推してきた。地元住民との融和を優先する米政府の弱みをついた見事な交渉術だったと守屋氏は苦笑するが、日本政府がベストと考えていたキャンプシュワブ陸上案は、このようにいとも簡単にひっくり返されたのだった。

 こうして、日本政府は困難が伴うことを知りながら、沖縄県の経済団体とアメリカ政府が推す辺野古沖案が、L字案、V字案などの変遷を経て、最終合意案となっていく。

 もともとこの案は埋め立て工事を伴うために、地元の土建業者が潤うという背景があることはわかっていた。、しかし、より大きな問題は、この「辺野古沖」案が、いくつもの無理筋を含んでいることだった。そもそもこれでは基地の新設になり、一般の沖縄県民の反発は必至だった。しかも、埋め立てを伴うため、環境団体などの反対運動に拍車がかかるのも目に見えていた。

 基地の新設にあたるこの案を、沖縄の一般市民が歓迎するはずもない。現行案への根強い反対運動と環境破壊への懸念は、当然のことながら、野党時代の民主党議員たちの耳に入ってくる。そして、この問題の怖さも底深さも知らない民主党は、政権獲得を前に「県外」などというナイーブな公約を打ち上げてしまう。

 鳩山政権が抱える難題の解決方法について「沖縄への思いは人一倍強い」と言う守屋氏は、本当の意味で沖縄の人の利益に叶う対応とは何かを今あらためて考えるべきだと言う。

 沖縄には基地で潤う人と基地に苦しむ人がいて、これまでは主に基地で潤う人が沖縄を動かしてきたと守屋氏は言う。しかし、氏の試算では年間6000億円を超えるという公共事業等を通じて彼らに配分してきたお金を、これからは基地で苦しんでいる個人に直接手渡すような政策が必要だと守屋氏はいう。

 その一方で、防衛当局のトップを務めた守屋氏は、安全保障面でこの問題を甘くみてはいけないと警鐘を鳴らす。

 沖縄は東アジアからインド洋に至る、今やグローバル経済の中心とも言うべき大経済圏の中心的な位置にあり、周辺には数々の不安定な要素が存在する。そのどこかで紛争が起き、経済活動が影響を受けるようなことがあれば、世界経済が壊滅的な打撃を受けることは必至だ。95年に普天間返還を決定した当時、北朝鮮の核開発を東アジアにおける最大の脅威と考えていたアメリカは、9・11以降沖縄の地政学的重要性の認識を新たにしている。そのアメリカは、グローバルな安全保障のためにいち早く展開できる海兵隊を一定規模で沖縄に配備することが必要だと考えているし、それは、アジア全域が望むことでもあると守屋氏は言う。

 鳩山政権は泣いても笑っても5月末までには、一見解が存在しないかに見えるこの連立方程式の答えを出さなければならない。その難問を解くカギを、守屋氏との議論の中に探してみた。

今週のニュース・コメンタリー
・明石歩道橋事件で初の強制起訴
 検察役を務める安原浩弁護士に聞く
・郵政民営化法案のどこが問題なのか
 町田徹氏(経済ジャーナリスト)
・記者クラブアップデート
 検察が記者会見開放を決定

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第459回(2010年01月30日)
なぜ普天間問題がこじれるのか
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マル激トーク・オン・ディマンド 第465回(2010年03月13日)
マル激スペシャルウィークin沖縄

<ゲスト プロフィール>
守屋 武昌(もりや たけまさ)元防衛事務次官
1944年宮城県生まれ。69年東北大学法学部卒業。日本通運を経て71年防衛庁入庁。防衛施設庁施設部長、官房長などを経て03年事務次官に就任、07年退官。同年11月収賄罪などで逮捕・起訴され、08年11月東京地裁で懲役2年6ヶ月の実刑判決、最高裁に上告準備中。

2010年4月17日

職業政治家には日本は変えられない

河村たかし氏(名古屋市長)マル激トーク・オン・ディマンド
第470回(2010年04月17日)
職業政治家には日本は変えられない
ゲスト:河村たかし氏(名古屋市長)

プレビュー

 国政時代に度重なる民主党代表選への出馬などで話題を呼んできた河村たかし氏が、今度は名古屋でひと騒動を引き起こしている。昨年4月に歴代最多得票数で当選、市長に就任したかと思えば、市会議員定数と議員報酬の半減案や、市民税の10%減税、市の権限を地域住民に委譲する地域委員会の設立を定める条例案などを立て続けに提出し、市議会と真っ向から対立しているのだ。

 3月24日に閉会した名古屋市議会では、市長が提出した議員の定数と報酬を半減する条例案は73対1で否決された。賛成の一票は河村氏の元秘書だというから、市長の提案への事実上全会一致での拒否表明と言っていい。

 かと思えば、こうした議会の対応を不服とする市長は、支援者らとともに議会の解散請求(リコール)に必要な署名集めの意思を表明するなど、こちらもまた全面対決姿勢を強めている。

 そこで今週のマル激は、その河村たかし氏を名古屋市役所に訪ね、自らが「庶民革命」と名づける河村流改革の真意について話を伺った。

 かねてより議員のボランティア化が持論の河村氏は、そもそも議員が税金で身分保障されることに日本の民主主義が成熟しない根本原因があると主張する。議員は身分保障されると長く続けることが目的化し、いつまでも議員を辞めなくなる。新人が当選しにくい状況になるし、二世や三世や国会議員秘書、特定団体の出身者らが議会の多数を占めることになる。市民の政治参加への関心は失われ、投票率も下がる。それをいいことに、議会は民意を反映させるのではなく、自分たちが特権を享受するためのお手盛り予算を通し続けるようになる。つまり議員の職業化が、政治の腐敗を招くというのが、河村氏の主張だ。

 もともと国王のムダ遣いで重税をかけられるのを防ぐためにイギリスで議会が生まれたように、本来、議会の主要な役割は税金の使われ方をチェックすることだ。しかし、自分自身の身分が税金で保障され、特権化した議員は、税金をチェックする議員ではなく、チェックされる国王の側にいると河村氏は批判する。

 また、河村氏は無駄を無くすためには減税がもっとも効果的だと説く。民間企業と違い、競争相手のいない行政には、よりいいものを少しでも安くという競争原理が起こらない。そのため減税で人為的に下降圧力をかけない限り、いつまでたっても無駄は無くならないというのだ。

 しかし、河村氏の庶民市長としての真骨頂は、減税で市民に還元された税金がどう使われるかについての考え方だ。河村氏は、市民の手元に戻ってきた税金が、NPOなどの公益的な事業に使われることを期待しているという。

 政治のボランティア化も市民税還元も、最後は「自分たちの地域は自分たちでつくる」という、河村氏が考える地域主権の理念に結びつく。そして、その根幹を成すのが、地域委員会だという。地域委員会とは名古屋市を小学校区単位に分け、各地域の市民から選挙で選ばれた委員が市から割り当てられた予算を使って地域の運営を行う制度だ。すでに市内8つの地区でモデル事業が実施されているが、これをさらに拡大しようと市長が提出した条例案を議会は否決している。

 地域主権は「国のかたちを変える」と宣言して政権の座に就いた民主党が掲げる、重要な政策理念でもある。そして、民主党国会議員から名古屋市長に転じた河村氏が今、名古屋で直面している壁は、もしかすると今後日本が地方分権を進める際に、避けては通れない壁なのかもしれない。河村市長に名古屋プロジェクトの現状を聞いた。

関連番組
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ゲスト:河村たかし衆議院議員(民主党)

マル激トーク・オン・ディマンド 第169回(2004年06月18日)
誰がインターネット選挙の実現を邪魔しているのか

<ゲスト プロフィール>
河村 たかし(かわむら たかし)名古屋市長
1948年愛知県生まれ。72年一橋大学商学部卒業。家業の河村商事勤務を経て93年衆院初当選(日本新党)。新進党、自由党を経て98年民主党入党。衆院法務委員会野党筆頭理事、党税制調査会副会長などを歴任。09年より現職。著書に『この国は議員にいくら使うのか』、『名古屋から革命を起す!』など。

2010年4月10日

なぜ日本はデフレを脱することができないのか

高橋洋一氏(政策シンクタンク「政策工房」会長、嘉悦大学教授)
マル激トーク・オン・ディマンド
第469回(2010年04月10日)
なぜ日本はデフレを脱することができないのか
ゲスト:高橋洋一氏(政策シンクタンク「政策工房」会長、嘉悦大学教授)

 現在日本が直面する最大の課題を問われれば、迷わずデフレの脱却と答える人が多いのではないか。雇用不安も財政赤字も、その根底には1990年代から始まったとされるデフレがある。しかし、なぜ鳩山政権はこの単純な命題を、一向に実現できないのだろうか。

 元財務官僚で、現在は自ら立ち上げた政策シンクタンク「政策工房」の会長を務める高橋洋一氏は、その原因はもっぱら日銀の無策とそれを放置する鳩山政権にあると言う。日本経済が明らかな需給ギャップを抱えているにもかかわらず、日銀は金融政策という最も基本的な施策を実施しようとしない。そして、鳩山政権はそれを放置している。鳩山首相はどうも、政府は日銀に対してそうした注文を一切つけてはならないものだと官僚から思い込まされているようだと、高橋氏は言う。

 他にも「官僚の書いた作文をそのまま出しただけ」(高橋氏)の成長戦略や、展望もないまま国営回帰を図る郵政改革法案など、ここまで鳩山政権が打ち出してきた政策、とりわけ経済政策には、疑問符がつくものが多い。高橋氏自身は子ども手当や高校無償化など、自民党時代の公共事業を通じた再配分から家計への直接給付の政策転換には一定の評価を与えると言うが、その大前提だったはずの予算の総組み替えも実現できていない。その結果が、戦後最大となる92兆円の予算であり、1946以来となる国債発行額が税収を上回るという異常事態だった。

 高橋氏は鳩山政権のこうした体たらくを、政治主導が実現できていないために、官僚に手玉に取られている結果だと指摘する。

 そもそも鳩山政権が、総選挙で勝利した直後に「政権移行チーム」を作らなかったことが、ボタンの掛け違いの始まりだったと高橋氏は言う。いざ政権が発足すれば、日常の公務に忙殺されることはわかりきっていた。政権移行チームはそうなる前に、新政権の意思や優先すべき政策を明確に打ち出し、それに協力する意思のある官僚を枢要な地位に就ける意味がある。政権発足後に政務三役で役所に乗り込んでいっても、多勢に無勢で勝負にならないからだ。

 ところが鳩山政権の下、首相官邸を始め各省庁で働く秘書官や補佐官らは、いずれも自民党政権当時のままだ。これでは政権交代の真価は発揮できないし、政治主導など実現できるはずがない。

 もともと民主党はそのような状況に陥らないために、100人以上の国会議員を政府に送り込むことを公約していた。しかし、政権の枠組みを決める場所になる政権移行チームが作られなかったため、そのために必要となる国会法や内閣法の改正準備がまったく進まなかった。その結果が、「古い道具のまま新しいことをしようとする」(高橋氏)ようなことになってしまった。

 政権発足時の準備不足が全ての悪循環を生んでいると指摘する高橋氏は、その解決策として、民主党の若手に比較的多い官僚OBの政府への登用を進言する。彼らなら官僚の手口を熟知しているし、法案作成のノウハウも持っているため、官僚の策略を未然に防げるし、官僚に依存せずに法案の作成が可能になるというのがその理由だ。法案さえ作ることができれば、国会で過半数を持っている連立与党の立場は強い。

 とは言え、これとて小沢一郎幹事長の意向次第で、実現の可能性はおぼつかない。どうやら鳩山政権が抱えるガバナンス欠如の問題は、民主党という組織のガバナンスの欠如に、直接の原因があるのかもしれない。

 デフレを脱するための処方箋から政権運営のあり方まで、鳩山政権発足後の半年間に噴出した諸問題を高橋氏と総ざらいした。

今週のニュース・コメンタリー
・なぜ日本人がスペースシャトルに乗っているのか
・地裁が密約文書の開示を命令
 沖縄密約訴訟で原告全面勝訴
・中国による邦人の死刑執行と日本の人権外交の限界

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第464回(2010年03月06日)
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民主党マニフェストと霞ヶ関埋蔵金
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マル激トーク・オン・ディマンド 第383回(2008年08月02日)
われわれはどれぐらい本当の中国を知っているのか?
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<ゲスト プロフィール>
高橋 洋一(たかはし よういち)政策シンクタンク「政策工房」会長・嘉悦大学教授
1955年東京都生まれ。78年東京大学理学部数学科卒業、80年東京大学経済学部卒業。07年千葉商科大学大学院政策研究博士課程修了。80年大蔵省入省後、理財局資金企画室長、98年~01年プリンストン大学客員研究員、06年内閣参事官などを経て、08年退官。東洋大学経済学部教授を経て、09年政策シンクタンク「政策工房」を立ち上げ会長に就任。10年4月嘉悦大学教授に就任。著書に『日本経済「ひとり負け!」』、『この金融政策が日本経済を救う』など。

2010年4月 4日

密約は本当に必要だったのか

春名幹男氏(ジャーナリスト・外務省密約有識者委員会委員)
マル激トーク・オン・ディマンド
第468回(2010年04月03日)
密約は本当に必要だったのか
ゲスト:春名幹男氏(ジャーナリスト・外務省密約有識者委員会委員)

 これこそが政権交代の最大の成果なのかもしれない。
 岡田外務大臣は、自らの肝いりで立ち上げた日米密約に関する有識者委員会が、核の持ち込み、朝鮮有事の際の日本からの米軍の出撃、沖縄返還時の現状回復費の肩代わりの3つの密約が、日米間で交わされていたとする検証結果を、3月9日、発表した。

 特に日米安保条約改定時の核の持ち込みと、沖縄返還時の原状回復費の肩代わりの2つの分野では、「広義」との条件付きながらも、過去の自民党政権がその存在を言下に否定してきた密約の存在を政府が正式に認めたことは、戦後史の中でも特筆すべき出来事と言っていいだろう。

 有識者委員会のメンバーとして、密約の検証作業に携わったジャーナリストの春名幹男氏は、核持ち込みの事前協議に対する認識が密約に当たるかどうかをめぐり、委員の間にも意見の相違はあったが、春名氏自身は、これは事実上核の持ち込みを容認するものであり、明確な密約だったとの認識を示した。

 今回の検証作業で新たに発見された引き継ぎ文書などによれば、事前協議に対して日米間の認識に違いがあることは初めから双方とも理解しており、あえてその違いを「お互いに深追いしない」ことが記録されていたという。核兵器の存在を「肯定も否定もしない」アメリカのNDCD政策を知りながら、核の持ち込みついての事前協議の申し入れがないので、核の持ち込みはないと言い切ることが密約そのものであり、日本は国際的には非核三原則を謳いながら、実際は核の寄港や通過は黙認する非核2.5原則だったと春名氏は言う。

 1959年から1960年当時、安保条約改定交渉をめぐって国内は騒然としていた。国会は紛糾し、デモも毎日のように起きていた。とてもではないが、核兵器を搭載した艦船の日本への寄港を公然と容認できるような政治状況ではなかった。

 また、そもそも日米では核に対する感情や考え方が180度異なっていた。その原点は広島・長崎への原爆投下にあるとの見方を春名氏は示す。日本人の誰もが核の恐怖を脳裏に焼き付けた原爆投下は、米国にとって兵器としての核の有効性を確認するものだった。それ以後アメリカは、戦後の軍事戦略を核兵器を中心に組み立てていった。

 日本国民の核アレルギーは簡単に取り除けるものではない。しかし、冷戦下において東西両陣営の核開発競争が進む中、日本の安全保障の確実なものにするためには核兵器を戦略の中心に据えるアメリカの加護を受けるしかない。密約はそう判断した当時の政権の苦渋の決断であり、密約そのものは合理的なものだったと春名氏は言う。

 しかし、国会や国民のチェックを受けないばかりか、事実上国民を騙すことになる密約の妥当性を判断するためには、後世まで記録が保存され、それが一定の期間と条件の下で開示されることが不可欠となる。今回の密約騒動も、まずアメリカ側で機密が解除された密約文書が見つかったことがきっかけだった。

 ところが日本側の調査では、密約の証拠を裏付ける重要文書の多くが破棄されるなどして行方不明になっていることが判明した。3月19日の衆院外務委員会では東郷和彦元条約局長が、自らが整理し後任に引き継いだはずの密約ファイルのうち、最も重要な文書のいくつかが消えていることを明らかにしている。また、外務省が大量の文書を廃棄していたという情報を東郷氏が証言している。

 外務省は何を隠したかったのか。春名氏によると、情報施行前の文書大量廃棄は、各省庁でも起きており、外務省に限らないとはいうが、特に外交密約は文書が破棄されてしまえば、真実は永遠に闇の中に葬られてしまう。脱官僚、政治主導を標榜する民主党政権の岡田外相が、外交文書の保存・公開基準を定める省令の制定を急いでいることは評価に値するだろう。

 また、今回の密約調査で、政と官の関係にも問題があったことが明らかになった。高度な政治判断だったはずの外交密約が、いつの間にか官僚の引き継ぎ事項となってしまったために、説明責任を負いたくない官僚が、その証拠を隠滅するというようなことが起きてしまったからだ。仮に密約を認めるとしても、なぜそれが政治家から政治家へと引き継いでいくことができなかったのかは検証を要するはずだ。 戦後史上初めて明らかになった密約の内容とその妥当性を、委員の1人として実際の検証作業にあたった春名氏とともに議論した。


今週のニュース・コメンタリー
国松長官狙撃事件に見る公安警察の劣化
 報告・青木理氏(ジャーナリスト)

自殺について警察資料から見えてきたもの
 解説・清水康之氏(ライフリンク代表、内閣府参与)

普天間移設問題におけるアメリカの真意
 解説・神浦元彰氏(軍事ジャーナリスト)

記者会見オープン化調査への疑問


関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第465回(2010年03月11日)
マル激スペシャルウィークin沖縄
沖縄密約と普天間移設問題の接点
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マル激トーク・オン・ディマンド 第446回(2009年10月24日)
シリーズ・民主党政権の課題5
今、自殺対策は政治の出番だ
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マル激トーク・オン・ディマンド 第433回(2009年07月25日)
密約問題が示す無法地帯と化した日本外交の現実
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マル激トーク・オン・ディマンド 第256回(2006年02月23日)
日米偽装同盟はここから始まった
ゲスト:西山太吉氏(元毎日新聞記者)

ビデオニュース・オン・ディマンド (2009年12月03日)
歴史の事実を伝えることが日本の将来に有益
吉野元アメリカ局長が沖縄密約の存在を法廷で証言

プレスクラブ (2009年07月13日)
核密約を否定した政府答弁は修正を
河野太郎 衆院外務委員長記者会見

<ゲスト プロフィール>
春名 幹男(はるな みきお)ジャーナリスト・外務省「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会」委員
1946年京都府生まれ。69年大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。同年共同通信社入社。本社外信部、ワシントン支局長、特別編集委員などを経て07年退社。同年名古屋大学大学院国際言語文化研究科教授に就任。10年3月退官し、4月より同特任教授。著書に『秘密のファイル-CIAの対日工作』、『ヒバクシャ・イン・USA』など。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
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-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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