Calendar

2009年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

« 今の霞ヶ関では日本をパンデミックから守れない
メイン
最高裁国民審査を審査する »

裁判員法廷の傍聴席はメディアに独占されていた

ビデオニュース・ドットコム
2009年8月7日
神保哲生・宮台真司のニュース・コメンタリー
裁判員法廷の傍聴席はメディアに独占されていた

 裁判員裁判が8月3日から4日間にわたって開かれ、メディア各社もこれを大きく報じた。東京地裁前には日本の司法史上初の裁判員裁判を傍聴するために、傍聴希望者たちが長蛇の列を作った。しかし、50席あまりの一般傍聴券を抽選で勝ち取るために並んだ2000人からの傍聴希望者の中に、報道機関が傍聴券を得るために派遣会社を通じて雇ったアルバイトが多数含まれていることが、ビデオニュース・ドットコムの取材でわかった。
 それによると、現場では派遣会社のスタッフと見られる男性が、集まったアルバイトたちを整列させた上で、傍聴券の抽選の列に並ばせ、抽選券を取得後、それを回収するシーンが見られた。
 アルバイトの若い男性は、自分は裁判を傍聴する予定はないと言い、別の男性はアルバイト料は抽選のあたりはずれにかかわらず、1日1500円であることを明かした。
 神保哲生・宮台真司両キャスターは、メディアのこうした行為によって、本来は一般市民に開かれているはずの傍聴席が、大手報道機関によって事実上独占されてしまった可能性があるとして、市民の司法参加という裁判員制度の趣旨を歪める行為と批判した。

神保(ジャーナリスト): 結局、一般の市民が裁判員裁判そのものを見ることは、ほとんど不可能だったことになる。
 私が問題だと思ったことは、傍聴券のためにバイトを並ばせているメディアは、大手のテレビ局や新聞が多い。しかし、テレビや新聞は司法クラブに入っているので、もともと各社それぞれ傍聴席を一席ずつもらっている。法廷の傍聴席には、白いカバーがついた席があり、それは記者クラブ用の席なのだ。その残りの席を何とか一般市民のために開放しているのに、それをまた派遣会社やバイトまで動員して傍聴券を手に入れようとしているのだから、あの日の法廷はほぼメディア関係者のみで埋め尽くされていた可能性が大きい。記者クラブで一席もらっていながら、バイトを使って更に何席も獲得している社もあった。
 個人で並んで当たった人は、とても強運な人だ。なんと言っても50人に一人しか当たらないのだ。しかも、下手をするとその大半はメディア関係者だ。
 傍聴にはいろいろな意味があるだろうが、裁判自体を法律の専門家や法律を勉強中の人に見てもらったり、いつ自分が裁判員になるかもしれない一般市民に見てもらうことも、重要なことだ。それが、某ニュース番組のMCの「今日裁判員裁判が開かれ、私も傍聴してきました」という一言だけのためにメディアによって傍聴席が独占さられてしまっているというのは、ちょっとどうかと思う。事件も取材していない、司法制度に通じているわけでもない某MCに裁判を傍聴してもらっても、一般市民には何の価値もない。

宮台(社会学者): 新しいシステムを導入させればいい。要するに、傍聴券が当たった人に特殊な塗料を手につけ、その当たった人以外は絶対に法廷に入れないなどだ。代理ではくじを引けないようにすればいいわけだ。

神保: 要するに、代理があるからそれができてしまうと。

宮台: 代理を防ぐシステムは簡単に作れる。

神保: メディアがこうやって裁判を私物化することは、単に普通に並んでいる一般傍聴希望者に対してアンフェアであるという問題もあるが、もう一つ深刻な問題がある。それは、これが傍聴という制度の目的を完全に歪めていることだ。裁判員制度の開始をお祭り騒ぎにして商売のネタにしているメディアの人間しか裁判そのものを見ていないとなると、本当にきちんと市民監視が行き届いているかという点で不安になる。要するに裁判員裁判の法廷で何が起きていたかを、つぶさにみているのはメディアだけということになる。みなさんはそこまでメディアを信用して大丈夫ですか、ということだ。
 記者会見なども、かつては多くの人がメディアを信用して記事を読んでいたが、インターネットが登場し、ビデオニュース・ドットコムのような新しいメディアが、記者会見そのものをノーカットで流すようになると、これまでのメディア報道がいかにいい加減なものだったかが明らかになった。裁判にもそういう面が無いとも限らない。
 日本の裁判はアメリカのようにテレビカメラが入らないので、傍聴者しか直接監視はしていない。そこに、裁判をネタとしてしか見ていない人たちしか入っていないような状態で本当に大丈夫なのか。
 もう少し傍聴席を広げるなど様々な手があるとは思う。賛否はあると思うが、傍聴をこういう形で歪めるのであれば、法廷にテレビカメラを入れることも、検討すべきかもしれない。
 メディアが傍若無人に振る舞い、いろいろな問題を起こすたびに、本来は機能するように作られている制度が無力化され、新しい規制が導入されるようなことが繰り返されている。

【出演者プロフィール】

神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。15歳で渡米、コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て93年に独立。テレビ朝日『ニュースステーション』などに所属した後、99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるのか?』、『ツバル-温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境、開発経済、メディア倫理。
 
宮台 真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。博士論文は『権力の予期理論』。著書に『制服少女たちの選択』、『14歳からの社会学』、『日本の難点』など。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/4356

コメント (10)

■コメント投稿について編集部からのお願い

《THE JOURNAL》では、今後もこのコミュニティーを維持・発展させていくため、コメント投稿にルールを設けています。はじめて投稿される方は、投稿の前に下記のリンクの内容を必ずご確認いただきますよう、お願いします。

http://www.the-journal.jp/contents/info/2009/07/post_31.html

なお、投稿されたコメントは、このサイトを構築するシステムの関係上、「毎時5分と35分」に自動更新されるよう設定されています。投稿されてもすぐに反映されませんが、上記の時刻になれば自動で書き込まれます。

ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

宮台さん頭いい!腕に識別塗料を塗って入口に鑑識装置を設置すれば当たり券の回収は不可能になります。ただ塗るときに係員が膨大に並んだ人の間をうろうろする必要がありますが。
 いずれにしてもたいた手間もカネもかかりません。競馬場なんかの特別席の入場チェックはそうしていますよ。
 抽選にする意味は機会の均等化でしょ。
 日当もらった派遣を並ばすなんてのはカネの力による市民の権利の破壊です。
 ただ裁判は国家権力の暴力を背景に個々人が裁かれる場であり、真剣な戦い、葛藤、の場でもあります。のぞき見的いい加減差さは気持ちのいいものではありません。
 最後に私は裁判員制度をはじめとする司法「改革」には厳しい目を向けています。招請状が来ても絶対応じません。

世間で注目されている裁判は、地方にある○○ホールだの、△△会館だので行って、500~3千人ぐらいの傍聴席を確保すれば良い。
地方にあるこういった施設は稼働率が非常に低いので有効利用になると思いますよ。
ジョークですが…。

wacwac 様
私は裁判員制度を今の状態で運営されれば、冤罪マシーンになると見ています。

もし、私が制限年齢になる前に裁判員に指名されたら、喜んで参加します。
そして裁判になったら「検察は常に冤罪・でっち上げを専門としている」と考え、その私が納得できるかを検察に問います。
そのことが裁判に参加する意義だと、思っています。

wacwac 様もそういう立場で召集令状が来たら、参戦してみませんか?
そう言う立場の人が増えないと、いまはまだしも裁判員裁判が常態になったときに、冤罪が差し込まれる可能性があります。

やっぱりそういうことでしたか。
思った通り、メディアのメディアによるメディアのための裁判員報道だったのですね。

裁判員の箸の上げ下ろしまで事細かに伝えていたはずのメディアが、このことにだけは全く触れていませんでした。

メディアの正体見えたり。

ビデオニュースさんありがとう。

そもそも無料の傍聴券を、メディアが多数のバイトを雇って得ようとする行為自体、東京都の迷惑防止条例に抵触する可能性も考えられるのでは(ダフ屋に似た行為なのでは)?

今回の裁判員裁判に限らずずっと以前から話題の裁判はいつもこの状態でしょ。

バイトを並ばせているのは前からだけど、派遣業者を使ってバイトを仕切らせているという話は初めて聞いたよ。

こうなると明らかにやり過ぎだ。

 佐木隆三氏など、何人かの名の知れた人物が、「裁判を傍聴した識者」との触れ込みでテレビなどにその発言を紹介されていた。

 報道によると、傍聴席が50程度、傍聴券を手にするために列を作った人が2千人。ざっと倍率40倍。それなのに、こんなに何人も何人も「裁判を傍聴した識者」がいるとは? そんなにこの「識者」たちはくじ運が強いというのだろうか?

 絶対これは、マスコミがバイトを動員して、傍聴券を組織的に「確保」し、それを「識者」用に使ったのだろう、と思っていた。本当にそうだとすると、容易に想像できる通り、その「識者」は、メディアの意に沿うような「発言」しかできないことになる。どの「識者」が、ということはもちろんわからないが。

 騒ぎ立てるターゲットさえ見つければ、あとさきのことも考えず暴走する。その繰り返し。因果な商売だ。そのくせ、裁判員制度の問題の本質に斬りこんで、司法制度のあり方についてきちんと考えようという姿勢はほとんど見られない。
 いったい、この国のメディアは、どこまで公益を毀損すれば気が済むのだろうか?

マスコミによる、この「傍聴券争奪人海戦術」は知っている限り十数年前から敷かれた方法です。一審を例にすれば、全国各地の地裁(県庁所在地)毎に動員を束ねる「ブローカー」が存在し、その「ブローカー」はマスコミの支局からの依頼を受けて連絡先を確保している学生や主婦などに下請けを出します。支局記者は自分の傍聴席を持っているので、獲得した傍聴券は本社の司法担当記者やテレビ局の場合は本社の報道番組・情報番組(ワイドショー等)の分として準備します。
テレビニュースでは大きな裁判の項目で「傍聴券を求める列○千人」という原稿が読まれますが、自作自演もいいところです。
法定内の被告の似顔絵も「法廷絵師」という専門家が描きますが、その傍聴券も同じ方法で確保されていると思います。

尚、こういった「バイト」とは別に「傍聴マニア」といった類の傍聴人もいます。
特に法科の学生とか司法試験受験生だけではなく、裁判研究を趣味にしている人とか法廷ドラマを見るように傍聴する人とか。
中には一番クジ(抽選立会人に任命される)狙いの常連もいるようです。

傍聴席は傍聴券を元に入れ替わり可能です。
判決が出たときに、息せき切って第一報を速報し、その後主文の認定内容など続報を「バトンタッチ」で入れ替わり立ち替わりレポートしますが、傍聴席内はそうした記者達の出たり入ったりの雑音で肝心の裁判長の声も聞き取りにくかったりします。

裁判報道に対して、マスコミ諸氏(特にテレビ)は速報性だけではなく真摯で慎みのあるマナーが必要ではないかと思います。

裁判員制度とは必ずしもリンクしませんが、「裁判の可視化」というものを念頭にするなら過去の慣習のままでいいのか?という議論があって然るべきです。
「撮影・録音の禁止」を検証すると共に、例えば一般人原告や被告、裁判員の映像をぼかした上でモニター傍聴も可能にするとか、ネット配信するとかの手段も検討に値するのではないでしょうか?
衆人の耳目に晒されていれば、冤罪などの予防にも寄与します。
報道機関は公判の奥にある真実を検証することで情報開示とは別の役割を担うべきです。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.