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ミツバチが知っていて人間が知らないこと

marugeki_431_nakamura.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第431回(2009年07月11日)
ミツバチが知っていて人間が知らないこと

プレビュー

 今年の春、農作物の花の受粉に使用されるミツバチの不足が全国各地で伝えられた。花粉交配用ミツバチは、特にイチゴやメロンなどのハウス栽培作物に欠かせないため、海外から繁殖のための女王蜂を輸入することで安定供給を図っていたが、輸入の8割を占める豪州産女王蜂に伝染病が発生し、輸入が止まったため需給に混乱が生じたことが、どうやら今回の日本におけるミツバチ不足の直接の原因だったようだ。

しかし、ミツバチの大量死や減少は、日本だけでなく、世界各地で多発している。特に米国では、蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれるミツバチが巣箱から突然消えていなくなる現象が3年前から各地で発生し、農業生産に大きな打撃を与えている。

 ミツバチの消滅や大量死の原因には諸説あるが、ミツバチ研究の第一人者である中村純玉川大学ミツバチ科学研究センター主任教授は、全米で起こったCCDについては、人間がミツバチを農業用の資材として酷使したことで、ミツバチに過度なストレスがかかったことに原因があったとの見方を示す。アメリカでは花粉交配用のミツバチは農業生産に欠かせない家畜として、開花の時期に合わせて巣箱ごと全米各地をトラックで長距離移動させられる。しかも、単一作物が植え付けられた広大な農地での受粉作業は、ミツバチにとって栄養バランスの悪い食事以外の何ものでもない。移動の疲れに栄養不足など過重なストレスがかかったミツバチが、ダニ、ウイルス、農薬など既知の外敵への抵抗力を低下させていた可能性も否定できない。実際、アメリカではミツバチの栄養と衛生状態を改善した結果、今年はCCDの発生はほぼ治まっているという。

 ミツバチの大量死が顕著だったアメリカには、そのような特殊な事情があったと見られる一方で、アメリカほどではないものの、やはりミツバチに不足や減少が発生している日本や欧州では、ネオニコチノイド系農薬に原因の一端があるとの見方が有力だ。ネオニコチノイド系農薬は、人体に有害な有機リン系農薬に代わる新種の農薬として開発され、近年その使用が急激に増えている。人体への影響はないが、昆虫の神経系に打撃を与える特徴を持つとされる。欧州ではネオニコチノイド系農薬を使用した農地の周辺でミツバチの大量死が報告されたため、現在フランスやオランダなどでは全面禁止され、EU全体でも禁止の方向に向かっているという。

 日本ではカメムシ被害によってコメの等級が下がることを避けるために、稲田でネオニコチノイド系の農薬が広範に利用されるようになっている。カメムシ被害に遭った稲は、コメに微少な斑点がつく。しかし、食味上何の影響もない斑点米の僅かな混入でコメの価値が下がってしまうことを避けるためにネオニコチノイド系農薬が大量に使われ、ミツバチを含む生態系に多大なストレスを与えている現状は、果たして合理的と言えるだろうか。また、科学的には人体には影響しないとされるネオニコチノイドでも、一定量を超えて使用されれば、影響があるとの指摘もある。

 このように世界的なミツバチの大量死は、単純な因果関係で説明できないが、一つはっきりしていることは、農業が産業化し、ハウス栽培などでミツバチを工場の機械の一つのように扱うようになったことと無関係ではないことだ。アメリカでのミツバチの酷使はもとより、ネオニコチノイドについても、ミツバチの受粉期は農薬の散布を避けるなどの小さな工夫で、ミツバチへの影響を最小限に抑えられる可能性はある。昨今のミツバチ大量死は、農業においても生産性と効率のみを追求するあまり、ミツバチを農業資材としか見なくなった人間が、その程度の配慮さえできないまでに利己的になっていた現実を、訴えかけている。

 またネオニコチノイドも、「人体に影響がない」との能書きで近年一気に利用が広がっているが、仮に人体への影響がないことが100%本当であったとしても、それだけで大量使用することは、生態系の他の生物のことを全く無視しているとの誹りは免れない。それがミツバチに打撃を与え、更にそれが農業生産に影響を与えることで、結果的に回り回って人間に大きな不利益をもたらしていることになる。

 社会性動物であるミツバチは、女王蜂を中心に一つのコロニーを形成し、コロニー内では数千から数万の働き蜂が、それぞれ明確に決められた自分の役割分担を果たす。ミツバチはまた、高度なコミュニケーション能力を持ち、例えば8の字ダンスは良い蜜の在り処を他の蜂に伝える伝達手段なのだという。人間はそのような高度に進化したミツバチさえも、効率的農業生産の道具としてしか見られなくなっているようだ。

 地球の生態系では、被子植物の多くがミツバチの受粉に頼って生きている。互いが互いを必要とする生物相互関係の中でミツバチも植物も進化を遂げ、動的平衡が保たれてきた。その精妙なバランスを身勝手な論理で人間が崩したことが、ミツバチ消滅が起きた真の原因と考えるべきかもしれない。

 しかし、ミツバチの生態の逞しさや複雑さを見ていると、環境に対して開かれているが故に環境の影響を受けやすいミツバチよりも、環境を克服するために環境から自らを隔離し、生態系との相互関係を失ってしまった人間の方が、なぜか脆弱な存在にすら思えてくる。中村氏は、だからこそ人間はミツバチの視座を持つことが大切だと説く。人間を中心に据えるのではなく、他の生き物の立場に立って生態系のあるべき姿を再考すれば、生物多様性の本当の意味が自ずと見えてくるはずだと言うのだ。

 今世界でミツバチに起きていることや、ミツバチの類い希な習性や生態から、われわれ人間は何を学ぶべきかを、ミツバチ博士とともに考えた。
今週のニュース・コメンタリー
・児童ポルノ法改正: 行政の裁量拡大に無警戒な政治の惨状
・なぜ今、供託金引き下げなのか

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第405回(2009年01月07日)
だから男はみんなできそこないなんだ
ゲスト:福岡伸一氏(青山学院大学理工学部教授)

<ゲスト プロフィール>
中村 純(なかむら じゅん)玉川大学ミツバチ科学研究センター主任教授
1958年岐阜県生まれ。81年玉川大学農学部卒業。93年玉川大学大学院博士課程修了。日本配合飼料勤務、青年海外協力隊のネパール派遣(養蜂指導)、玉川大学農学部助手、玉川大学学術研究所講師などを経て、04年より現職。農学博士。

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農業再生については減反による価格維持政策の見直し=米の自由化がクローズアップされ、大規模化や集約化が解決策として提示されることが多い。
一方、キューバなどでは有機栽培の技術開発が進み、脱農薬、脱単一作付けで生産性を向上させている。

この問題は、どちらか一方という選択ではなく、両方をミックスした解決策が模索できるのではないかと思います。

本気で農業再生に取り組む気があるのなら、農水省や農協は「農業で生計を立てている本物の農家のため、どうすればいいのか」を、政府与党は「農村で暮らす人の生活」を、考えていただきたい。

すみません。ちょっと気になったところがありあます。

「カメムシ被害によってコメの等級が下がることを避けるために、稲田でネオニコチノイド系の農薬が広範に利用されるようになっている」との記述です。

むしろウンカ防除などのために使われていると思うのですが。

ウンカは享保の大飢饉を引き起こした害虫とも言われているようで、いもち病とともに稲作農家を悩ませています。

それから、言葉尻を捉えるようで申し訳ありませんが、「農業の産業化」という表現は、言いたいことは何となく分かりますが、やはり気になります。

人類は、生態系がぎりぎり許してくれるところで、人間に都合が良いように自然を作りかえ、動植物を利用し、食料を生産してきました。それを数千年にわたって持続させてきたのが産業としての農業だと思うからです。

しかし、農業の工業化とも言えるコスト優先で、持続性に大きな限界を抱えていることは、大きな問題と考えています。

降水量を上回る灌漑農業に頼るアメリカ農業は、遠からず限界に達するのではないか、と思っています。

こんにちは

みつばちの減少の原因ですが、電磁波の影響とどこかで見ました。

携帯電話の普及で電磁波だらけ、飛んでいく方向感覚が狂わされて、あられもない方向にいってしまい行方不明、
だがこれだけ普及している携帯電話をいまさらやめるわけにはいかず
携帯電話産業の圧力で事実が隠蔽されている…

この仮説には説得力があるように思えますがどうでしょうか。


「ミツバチの生態の逞しさや複雑さを見ていると、環境に対して開かれているが故に環境の影響を受けやすいミツバチよりも、環境を克服するために環境から自らを隔離し、生態系との相互関係を失ってしまった人間の方が、なぜか脆弱な存在にすら思えてくる。中村氏は、だからこそ人間はミツバチの視座を持つことが大切だと説く。」

記事ではこの視点になるほどと思いました。

「その精妙なバランスを身勝手な論理で人間が崩したことが、ミツバチ消滅が起きた真の原因と考えるべきかもしれない」

というのは、ちょっと違和感があります。農薬やミツバチを農業資材のように扱うやり方は、人間の反省する部分として頷けるのですが、ネオニコチノイドを使っていなかったり、在来のニホンミツバチを自然の形で使っていてもCCDは起きているとも聞きます。もうそうなると、人間の罪を再確認する類いの問題を越えていると考えるべきのように思います。
もちろん、前例のない不自然な現象に、自然バランスの狂いは考えられ、そういうケースにほとんど人間の手が加わっているのも事実ですが、毎度他人事のように「人類の傲慢」を訴えても、ここにきては問題のすり替えにも聞こえてしまいます。

ミツバチを派遣労働者に置き換え
読ませて頂きました。
なんでもかんでも、効率一辺倒では成り立たないとゆう天からの知らせでしょうか。

ミツバチの減少が農薬が原因という事なら、もっと他の虫も減少してもよいのではないだろうか。何の根拠もないが、私が個人的に疑っているのは、遺伝子組み換え植物の氾濫が原因ではないかと思っている。最近、よく不思議に思う事が有るのだが、プランターや鉢植えの新品種の園芸用の花には、ミツバチや蝶が蜜を吸う光景が見られない。私はものぐさなので、草もむしらず、放っておくと、種から種で新しく生えた雑草や昔から生えている原種の花には、たくさんの虫がとまっている。しかし、付近の鉢植えの美しい花の周りを蝶が徘徊する姿がないのである。何年か前から、こういう事象には違和感を感じていたのだが、こういう思いつきに至ったのは、最近ジャーナルでも紹介されていた、浜田氏「食糧争奪戦」の中にアグリビジネスに関する記述が有ったからだ。食糧関係の種子以上に、二世代を作らせないための園芸市場は、遺伝仕組み変えに関して無防備なのではないか。何故なら、口に入らないという前提が有るからだ。そういった環境の中で、みつばちがいくら農業のために巣箱を移動させられるとはいえ、全く遺伝子組み換えの花に関わらないとは言い切れないのではないか。人間が自然環境を自分たちの都合で変え、植物や動物の絶滅種は年々増加している中、神の領域にまで足を踏み入れてしまった人間が、農薬問題よりミツバチのストレスより恐ろしい事をしでかした可能性がないとは、誰も言い切れないような気がしている。私は、研究者はあらゆる可能性を考えるべきだと思う。有吉佐和子氏の「複合汚染」をこういう問題が提起されるたびに思い起こすのは、私だけではないと思う。

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Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

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『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
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2006年11月、春秋社、共著


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『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
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『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
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