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2009年7月26日

密約問題が示す無法地帯と化した日本外交の現実

marugeki_433_kawabe.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第433回(2009年07月25日)
密約問題が示す無法地帯と化した日本外交の現実

プレビュー

 戦後の日本外交を象徴すると言っても過言ではない、核兵器の持ち込みをめぐる日米間の密約が、皮肉にも日本外交の実態を白日の下に晒し始めている。

 60年の日米安保改定時に、核兵器を搭載した米艦船の寄港や領海通過を日本が容認したとされる「密約」は、過去にライシャワー元駐日大使の証言や機密指定が解かれ公表された米公文書資料によって、その存在が何度となく取りざたされてきた。しかし、このたび村田良平元外務次官らが密約の存在を正式に認めたことで、密約の存在を否定し、非核三原則を国是として掲げてきた日本政府の外交政策の正当性が、いよいよ問われる事態を迎えている。なんと言っても日本は、唯一の被爆国として戦後一貫して核兵器に反対し、核軍縮に努めることを国内外に向けて高らかに謳ってきた国だ。にもかかわらず、その国が実は自国への核兵器の持ち込みを容認し、しかもその事実を50年間も隠し続けていたということになるからだ。

 日本政府は依然として、密約の存在も、核持ち込みの有無も言下に否定するばかりで、半世紀もの間、その存在を否定し続けてきた理由を説明しようとしない。そのため日本では、米軍の核持ち込みが容認されているという現実の上に立って、これからの安全保障を議論することすら、できないでいる。

 国益を守るためには、自国民や他の国に対して外交交渉のすべてを明らかにできない場合もあり得るだろう。その意味では、密約そのものを全面的に否定すべきではないかもしれない。ただし、それは一定の期間を経た後に、必ず事実が明らかにされ、その正当性が検証されることが大前提となる。この期に及んでも、密約の存在すら認められない日本政府や外務省の立場を見ると、そもそもこの密約が真に国益を守る目的で秘密にされてきたかどうかすら、怪しくなってくる。

 日本外交をウォッチしてきた愛知大学の河辺一郎教授は、日本は外交の舞台で核軍縮に関してイニシアチブをとったこともなければ、国連の核兵器に反対する議決に対しても、率先して反対もしくは棄権をしてきたのが現実だという。安全保障政策においてアメリカの核の傘に依存する日本にとって、核軍縮はもはや外交上の大きな関心事ではなかったのだ。むしろ、核の傘を提供してくれているアメリカの意向を慮ることこそが、日本外交にとっては唯一無二の重要課題であり、こと外交に関する限り、それ以外のことは真剣に考える必要すらなかった。

 つまりアメリカの核の傘に守られているからこそ、そしてそれが密約という形で担保されているからこそ、日本は表面上は非核三原則や核廃絶や平和主義を訴えることができたが、実際にその真贋が問われる外交交渉や国連決議の場では、実は日本外交は何度も馬脚を現していたということになる。知らぬは日本人ばかりなりということか。

 河辺氏は、日本の外務省が事実上法を超越した存在として、国会のチェックすら及ばない状態にあることに、日本外交が国民から乖離したり、暴走したりする原因があるとの見方を示すが、その一方で、その責任は外務省だけはなく、外交政策のチェックや検証を怠ってきた外交の専門家やジャーナリストにもあると指摘する。

 来る総選挙で民主党が勝利し、政権交代が実現した時、日本のチェック無き外交の病理を断ち切る千載一遇のチャンスがめぐってくる。しかし、今のところ外交政策や外務省のあり方が選挙の争点になる気配は全く見られない。残念ながらこれが今の日本の実情のようだ。

 今回は密約問題を入口に日本外交が抱える問題を河辺氏と議論した。また、国連の専門家でもある河辺氏に、民主党の国連中心主義への評価を聞いた。

今週のニュース・コメンタリー
・韓国国会がクロスオーナーシップ法をめぐり紛糾
・現実路線に軌道修正か。民主党が政策集を公表
・太陽光発電、買取制度の詳細が明らかに
・解散から総選挙まで41日?

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第256回(2006年02月23日)
日米偽装同盟はここから始まった
ゲスト:西山太吉氏(元毎日新聞記者)
プレスクラブ (2009年07月13日)
核密約を否定した政府答弁は修正を
河野太郎 衆院外務委員長記者会見

プレスクラブ (2009年03月17日)
西山太吉さんらが密約文書の開示を求めて提訴

<ゲスト プロフィール>
河辺 一郎(かわべ いちろう)愛知大学現代中国学部教授
1960年鳥取県生まれ。85年東京都立大学人文学部卒業。新聞資料センター主宰、愛知大学助教授などを経て、06年より現職。著書に『日本の外交は国民に何を隠しているのか』、『国連と日本』など。

2009年7月18日

やっぱり日本にも保守政党が必要だ

marugeki_432_sugita.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第432回(2009年07月18日)
やっぱり日本にも保守政党が必要だ

プレビュー

 自民党政権が、いよいよ土壇場を迎えているようだ。

 東京都議選の惨敗で、このままでは次期衆院選での敗北が必至という状況を迎えながら、自民党内ではいまなお内輪揉めが続き、窮余の一策さえ打ち出せないでいる。そこにはもはや、半世紀にわたり日本を治めてきた長期政権政党の姿は見いだせない。

 しかし、より深刻なのは、自民党が自らの政党としてのアイデンティティを見失っているかに見えることだ。この期に及んでも、党内から聞こえてくる声は、誰の方がより人気があるかといった表層的な議論ばかりだ。政権交代のチャンスをうかがう民主党は政策面、とりわけ安全保障政策面での党内不一致が取り沙汰されることが多いが、自民党に至っては伝統的保守政党なのか、小泉改革に代表される新自由主義政党なのか、はたまた何か別の物なのかさえ、定かではなくなってしまっている。これではもはや政党の体を成していないと言っても過言ではないだろう。

 1955年の保守合同で保守勢力としての歩みを始めた自民党だが、そもそも自民党が政治的な意味で保守政党だったと言えるかどうかは再考を要する。再配分を主張する勢力は政治学的にはリベラルもしくは社民勢力と呼ばれ、保守の対局に位置づけられるが、政治学者の杉田敦法政大学法学部教授は、自民党は自らが政治基盤を置く農村への再配分を主軸とした政策を実行してきた政党であることから、世界でも特殊な「再配分保守」という位置づけになるという。

 戦後直後の日本はまだ農村社会であり、自民党は農村に政治的基盤を置き、農村開発を通じて再配分を行うことで国民の広汎な支持を獲得してきた。その後、高度経済成長とともに、自民党は池田内閣の所得倍増計画に見られるような、市場重視の伝統的保守主義に軸足を移していくが、市場経済がもたらす利益は公共事業によって農村に還元するという再配分政策だけはその後も続いた。政治思想的には伝統的保守を標榜しながら、実際は再配分政党であり続けたことが、自民党の特色だった。

 しかし、農産物の自由化や大型店舗法改正などアメリカからの規制緩和要求が強まる中で、農村の疲弊は避けられないものとなる。その後1990年代の低成長時代に入ると、そもそも地方に最配分するための財源が底をつき始め、自民党型再配分政治の統治モデルがいよいよ立ち行かなくなる。

 そこに登場したのが自民党をぶっ壊すをスローガンに颯爽と登場した小泉元首相だった。国民の高い支持に支えられた小泉政権は、自民党の伝統的な利益再配分政治を一掃し、新自由主義へと舵を切った。それが功を奏し、自民党は少なくとも一時的に農村政党から都市政党への脱皮に成功したかに見えた。しかし、小泉政権の新自由主義的政策は、それまでの再配分で「一億総中流」と言われるほど所得の平準化が進んでいた日本で所得格差を急拡大させ、公的補助の削減によってセーフティネットからこぼれ落ちる困窮層を急拡大させた。小泉政権以後の自民党政権では、改革の負の面が一気に吹き出し、構造改革路線も立ち行かなくなる。しかし、かといって今更農村政党に戻ることもできず、自民党は政策的には「八つ裂き状態」(杉田氏)に陥ってしまう。

 その間隙をついて、それまで必ずしも方向性が定まっていなかった民主党は、小沢一郎代表のもと、再配分に主眼を置いたリベラル政党としての方向性を固めていく。また、農家の戸別所得補償制度などを主張することで、小泉改革の下で自民党が置き去りにした農村票を丸々奪うことに成功する。

 しかし、自民党が迷走するのも無理からぬ面があった。保守というからには保守すべき対象が問われる。冷戦下の保守勢力が保守すべき対象は日米同盟であり、自由主義経済であることは自明だった。しかし、今日の日本の保守勢力が保守すべき対象が何であるかについてコンセンサスを得ることは、決して容易ではない。

 来る総選挙の結果、民主党政権が誕生した場合、日本では事実上初めてのリベラル政権の誕生ということになる。人間の理性を過度に信じ、正しい政策を行えば必ず社会は良くなると過信する傾向があるリベラル政権には、対抗勢力として、伝統や慣習の中に蓄積された叡知を信頼する保守政党が必要だ。自民党が保守政党として再興し、民主党政権の暴走をチェックするとともに、有権者に別の選択肢を提示することは、日本の議会制民主主義の安定のためにはどうしても不可欠だ。

 政権交代がいよいよ現実味を帯びてきた今、日本の保守政党に求められる条件とは何かを、杉田氏と考えた。

今週のニュース・コメンタリー
・河野外交委員長 密約で政府答弁の変更求める
・都内タクシー 車載カメラの映像を警察に提供へ

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第391回(2008年09月27日)
自民党システムの終焉
ゲスト:野中尚人氏(学習院大学教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第331回(2007年08月03日)
データから見えてくる「やっぱり自民党は終わっていた」
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マル激トーク・オン・ディマンド 第307回(2007年02月16日)
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ゲスト:西部邁氏(評論家・秀明大学学頭)

<ゲスト プロフィール>
杉田 敦(すぎた あつし)法政大学法学部政治学科教授
1959年群馬県生まれ。82年東京大学法学部卒業。東京大学法学部助手、新潟大学法学部助教授、法政大学法学部政治学科助教授などを経て、96年より現職。著書に『政治への想像力』 、『境界線の政治学』など。

2009年7月12日

ミツバチが知っていて人間が知らないこと

marugeki_431_nakamura.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第431回(2009年07月11日)
ミツバチが知っていて人間が知らないこと

プレビュー

 今年の春、農作物の花の受粉に使用されるミツバチの不足が全国各地で伝えられた。花粉交配用ミツバチは、特にイチゴやメロンなどのハウス栽培作物に欠かせないため、海外から繁殖のための女王蜂を輸入することで安定供給を図っていたが、輸入の8割を占める豪州産女王蜂に伝染病が発生し、輸入が止まったため需給に混乱が生じたことが、どうやら今回の日本におけるミツバチ不足の直接の原因だったようだ。

しかし、ミツバチの大量死や減少は、日本だけでなく、世界各地で多発している。特に米国では、蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれるミツバチが巣箱から突然消えていなくなる現象が3年前から各地で発生し、農業生産に大きな打撃を与えている。

 ミツバチの消滅や大量死の原因には諸説あるが、ミツバチ研究の第一人者である中村純玉川大学ミツバチ科学研究センター主任教授は、全米で起こったCCDについては、人間がミツバチを農業用の資材として酷使したことで、ミツバチに過度なストレスがかかったことに原因があったとの見方を示す。アメリカでは花粉交配用のミツバチは農業生産に欠かせない家畜として、開花の時期に合わせて巣箱ごと全米各地をトラックで長距離移動させられる。しかも、単一作物が植え付けられた広大な農地での受粉作業は、ミツバチにとって栄養バランスの悪い食事以外の何ものでもない。移動の疲れに栄養不足など過重なストレスがかかったミツバチが、ダニ、ウイルス、農薬など既知の外敵への抵抗力を低下させていた可能性も否定できない。実際、アメリカではミツバチの栄養と衛生状態を改善した結果、今年はCCDの発生はほぼ治まっているという。

 ミツバチの大量死が顕著だったアメリカには、そのような特殊な事情があったと見られる一方で、アメリカほどではないものの、やはりミツバチに不足や減少が発生している日本や欧州では、ネオニコチノイド系農薬に原因の一端があるとの見方が有力だ。ネオニコチノイド系農薬は、人体に有害な有機リン系農薬に代わる新種の農薬として開発され、近年その使用が急激に増えている。人体への影響はないが、昆虫の神経系に打撃を与える特徴を持つとされる。欧州ではネオニコチノイド系農薬を使用した農地の周辺でミツバチの大量死が報告されたため、現在フランスやオランダなどでは全面禁止され、EU全体でも禁止の方向に向かっているという。

 日本ではカメムシ被害によってコメの等級が下がることを避けるために、稲田でネオニコチノイド系の農薬が広範に利用されるようになっている。カメムシ被害に遭った稲は、コメに微少な斑点がつく。しかし、食味上何の影響もない斑点米の僅かな混入でコメの価値が下がってしまうことを避けるためにネオニコチノイド系農薬が大量に使われ、ミツバチを含む生態系に多大なストレスを与えている現状は、果たして合理的と言えるだろうか。また、科学的には人体には影響しないとされるネオニコチノイドでも、一定量を超えて使用されれば、影響があるとの指摘もある。

 このように世界的なミツバチの大量死は、単純な因果関係で説明できないが、一つはっきりしていることは、農業が産業化し、ハウス栽培などでミツバチを工場の機械の一つのように扱うようになったことと無関係ではないことだ。アメリカでのミツバチの酷使はもとより、ネオニコチノイドについても、ミツバチの受粉期は農薬の散布を避けるなどの小さな工夫で、ミツバチへの影響を最小限に抑えられる可能性はある。昨今のミツバチ大量死は、農業においても生産性と効率のみを追求するあまり、ミツバチを農業資材としか見なくなった人間が、その程度の配慮さえできないまでに利己的になっていた現実を、訴えかけている。

 またネオニコチノイドも、「人体に影響がない」との能書きで近年一気に利用が広がっているが、仮に人体への影響がないことが100%本当であったとしても、それだけで大量使用することは、生態系の他の生物のことを全く無視しているとの誹りは免れない。それがミツバチに打撃を与え、更にそれが農業生産に影響を与えることで、結果的に回り回って人間に大きな不利益をもたらしていることになる。

 社会性動物であるミツバチは、女王蜂を中心に一つのコロニーを形成し、コロニー内では数千から数万の働き蜂が、それぞれ明確に決められた自分の役割分担を果たす。ミツバチはまた、高度なコミュニケーション能力を持ち、例えば8の字ダンスは良い蜜の在り処を他の蜂に伝える伝達手段なのだという。人間はそのような高度に進化したミツバチさえも、効率的農業生産の道具としてしか見られなくなっているようだ。

 地球の生態系では、被子植物の多くがミツバチの受粉に頼って生きている。互いが互いを必要とする生物相互関係の中でミツバチも植物も進化を遂げ、動的平衡が保たれてきた。その精妙なバランスを身勝手な論理で人間が崩したことが、ミツバチ消滅が起きた真の原因と考えるべきかもしれない。

 しかし、ミツバチの生態の逞しさや複雑さを見ていると、環境に対して開かれているが故に環境の影響を受けやすいミツバチよりも、環境を克服するために環境から自らを隔離し、生態系との相互関係を失ってしまった人間の方が、なぜか脆弱な存在にすら思えてくる。中村氏は、だからこそ人間はミツバチの視座を持つことが大切だと説く。人間を中心に据えるのではなく、他の生き物の立場に立って生態系のあるべき姿を再考すれば、生物多様性の本当の意味が自ずと見えてくるはずだと言うのだ。

 今世界でミツバチに起きていることや、ミツバチの類い希な習性や生態から、われわれ人間は何を学ぶべきかを、ミツバチ博士とともに考えた。
今週のニュース・コメンタリー
・児童ポルノ法改正: 行政の裁量拡大に無警戒な政治の惨状
・なぜ今、供託金引き下げなのか

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第405回(2009年01月07日)
だから男はみんなできそこないなんだ
ゲスト:福岡伸一氏(青山学院大学理工学部教授)

<ゲスト プロフィール>
中村 純(なかむら じゅん)玉川大学ミツバチ科学研究センター主任教授
1958年岐阜県生まれ。81年玉川大学農学部卒業。93年玉川大学大学院博士課程修了。日本配合飼料勤務、青年海外協力隊のネパール派遣(養蜂指導)、玉川大学農学部助手、玉川大学学術研究所講師などを経て、04年より現職。農学博士。

2009年7月 5日

世論という名の魔物とのつきあい方

marugeki_430_sugawara.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第430回(2009年07月04日)
世論という名の魔物とのつきあい方

プレビュー

 世論という魔物が、政界はおろか、日本中を跋扈しているようだ。

 支持率の低迷で、自民党内からも公然と退陣を求める声が上がるなど、麻生降ろしが本格化し始めている。もともと国民的人気が高いという理由から、選挙の顔として擁立されたはずの麻生首相だが、今は人気の無さを理由に、首相の座から引きずりおろされようとしている。これも世論らしい。

 かと思うと、宮崎県で圧倒的な人気を誇る元タレントの東国原知事の国政進出をめぐり、自民党の大幹部が右往左往するなど、いつ来てもおかしくない総選挙を控え、政界は「人気がすべて」の様相を呈し始めている。これも世論だそうだ。

 確かに人気は民意を推し量るバロメーターの一つかもしれない。しかし、人気が政治を支配するようになると、何か大切なものが失われるような思いを禁じ得ない。そもそも私たちが「人気」と呼んでいるものに、実態はあるのだろうか。

 人気を測るツールの一つに世論調査というものがある。民主政治を機能させる目的で戦後直後に新聞社によって始められた世論調査は、今や毎月のように頻繁に行われるようになったが、少なくとも当初の世論調査は「輿論(よろん=public opinion)」を知るための手段と考えられており、現在のような単なる「大衆の気分」を意味する「世論(=popular sentiment)」の調査ではなかったと言われる。世論調査を報じる新聞記者たちの間にも、「輿論を聞け、世論には惑わされるな」という意識が共有されていたそうだ。

 しかし、いつしか「輿論」は「世論」に取って代わられ、政治は変質を始める。もともと代議制は、世論の政治への影響を緩和するための間接民主主義としての意味を持つが、人気に振り回されている今のポピュリズム政治は、事実上直接民主制と何ら変わらないものになっている。

 現在の政治はこの世論の動向に敏感に反応し、世論が政策決定にも大きな影響を及ぼすようになっている。政府は長期的には重要であることが分かっていても、短期的に不人気になる政策を実行することがとても難しくなり、外交や死刑制度といった国民の生活に関係する問題も、いわば俗情に媚びた決定を繰り返すようになった。

 世論調査に詳しい政治学者の菅原琢東京大学特任准教授は、そうした傾向の中で、ポピュリズム政治の代名詞と見られることが多い小泉政権こそが、最近ではもっとも世論をうまく利用した政治のお手本だったとの見方を示す。そしてそれは小泉首相が、人気取りをしなかったところに、そもそもの勝因があると言うのだ。

 確かに、日朝会談や郵政選挙など、小泉政権を代表する政策は、必ずしも当時の国民の間で人気の高い政策ではなかった。しかし、小泉首相は次々と大胆な改革を断行することで世論を味方につけ、高い内閣支持率を支えに、さらに次の改革を打ち出すことで、長期にわたり高い国民的人気を維持することに成功した。政策の中身の是非はともかく、小泉政権の高い人気が、結果的に過去の政権が成し遂げられなかった多くの施策の実現を可能にしたことは紛れもない事実と言っていいだろう。

 しかし、その後の自民党政権は、逆に人気ばかりを気にするあまり、思い切った政策を打ち出すことができなくなっている。一時的に人気のある人を首相に据えても、政策的に無策なため、たちまち支持率が低迷し、ますます大胆な政策が打てなくなる悪循環に陥っている。高い人気に後押しされて大きな成果をあげた小泉政権と、人気を気にし過ぎるが故に、大胆な施策を打てない安倍政権以後の政権のあり方は、実に対照的だ。

 一方、財源問題を抱える民主党も、支持率低下を恐れて、消費税は絶対に上げないことを公約するなど、明らかな人気取りに走っている。政権を取るためにはやむを得ない選択との指摘もあるが、小泉政権とそれ以後の政権の対比から、政治は何も学んでいないのだろうか。 しかし、泣いても笑っても、天下分け目の総選挙は近い。有権者の中にも、世論調査や選挙予想を気にしながら、そろそろお目当ての候補者を見定め始めている人も多いはずだ。また、各党の人気取り合戦の方も、いよいよ熱を帯びてきている。

 政治に限らず、我々の周りには人気投票やランキングであふれかえっている。そうしたものに振り回されないで生きるためには、我々は何を支えに、どのような視座で「人気」というものを考えればいいのだろうか。

 今週は世論調査を入り口に、「輿論」と「世論」の違いや「人気」との付き合い方を議論した。

今週のニュース・コメンタリー
鳩山故人献金問題 釈明だけでは不十分だと考えるこれだけの理由
・政府は核密約をどこまで否定し続けるつもりなのか

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第331回(2007年08月03日)
データから見えてくる「やっぱり自民党は終わっていた」
ゲスト:森 裕城氏(同志社大学法学部准教授)
プレスクラブ (2009年06月30日)
『報道の指摘は基本的に事実』
鳩山民主党代表が自身の献金問題について会見

<ゲスト プロフィール>
菅原 琢(すがわら たく)東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
1976年東京都生まれ。01年東京大学法学部卒業。06年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。東京大学先端科学技術研究センター特任助教授などを経て、07年より現職。法学博士。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
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-----<著書>-----

新刊!
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『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

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