Calendar

2009年6月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

« グリーン革命に乗り遅れる日本
メイン
意味のある政権交代を実現するために »

Googleブック・サーチが問う出版の未来

marugeki_428_murase.jpgマル激トーク・オン・ディマンド
第428回(2009年06月20日)
Googleブック・サーチが問う出版の未来

プレビュー

 またまたGoogleという黒船が日本の扉を叩いている。街中を写真に収めて回るストリートビューや空から世界中が見えてしまうGoogleアースなど、これまであり得なかった画期的なサービスで物議を醸してきたGoogleが、今度はグーテンベルク以来の出版のあり方を根底から変えようとしている。

 Googleは契約した図書館の蔵書をスキャンしてデータベース化を進め、いずれは世界中の全ての本をデジタル化する方針を明らかにしている。そして、これは紙の著作物の流通で収益をあげてきた出版業界にとって、自らの存在を根底から覆しかねない大問題となっているのだ。

 このサービスは「Googleブック検索」と呼ばれるもので、アメリカでは04年、日本では07年に開始したもの。Googleが契約した図書館(米ハーバード大学図書館など。日本の慶應義塾大学が参加)の蔵書を片っ端からスキャンしてデータベース化したことで、既に利用者は本のページの画像をネット上で見ることができるようになっている。また、本の全文がテキスト化されデータベース化されているため、キーワード検察でその言葉を含む全ての本をリストアップすることも可能になった。本の全文がテキスト化されデータベース化されたことで、一般利用者は欲しい本を手に取ることなくネット上で見つけ、アマゾンなどで購入することができるようになっている。

 しかし、このサービスに対して、05年、米作家協会などが本の権利者の許諾を得ずに全文をスキャンすることは著作権侵害だとして、Googleを提訴した。Googleは米著作権法が定めるフェアユース(公正な利用)に基づいていると主張し、米作家協会らはスキャンは無許可の複製であると主張したが、昨年両者の間で和解が成立し、許諾なしにスキャンした書籍については1作品あたり60ドルをGoogleが支払うことや、このサービスから得られる収益の63%を権利者に支払うこと、版権登録機関の設立費用をGoogleが出すことなどが決まった。

 この和解の成立で、権利者(出版社、著者)は和解案に参加するか離脱するかを迫られることになったのだが、なんとこれが、日本の出版社や著者にも及ぶことが判明し、日本の出版界は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 そもそもこの和解は、アメリカで行われた訴訟が集団訴訟(Class Action)という形をとっていたため、そこで得られた和解や判決は原告のみならず、その被害を受けた人全員に効力を持っている。それでも普通であれば自分が関わっていない外国の裁判所の決定になど拘束されないものだが、こと出版に関しては、日本はベルヌ条約という著作権を相互に保護する国際条約に加盟しているため、アメリカで保護が決まった著作権はそれが自動的に日本にも適用されるという。そして、なんといってもGoogleは世界中からアクセスが可能なインターネットサービスであるが故に、否が応にも日本の出版物もそのまま和解案の対象となってしまうというのだ。

 そのため、日本の著者や出版社も、和解を拒否したい場合は申請が必要で、一定の期限までにその意思表示がない場合は、和解を受け入れたものとみなされてしまうという。何とも乱暴な話だが、それがインターネットの特徴であり、それがGoogleブック検索がまさに「黒船」である所以なのだ。
 出版業界と深い関係を持つ弁護士の村瀬拓男氏は、この和解案は出版業界のあり方を根底から覆すような、本質的な問題提起をしていると説明する。

 今回の和解案では、現在も市販されている本は目録情報や連動広告などのみが表示され、全文をネット上で読めるのは、絶版された本と、市販されていない本に限ることになっている。

 確かに、絶版され、市場で入手できない本がデジタル化されてネット上で読むことが可能になれば、従来、紙の本が持っていた物理的制約から解放される。しかし、紙の本を出版し、それを流通させることでビジネスを成り立たせてきた出版業界にとって、書籍の全文がデジタル化され、ネット上でそれが入手が可能になることは、自分達のレゾンデートルを脅かす大問題となる。なぜならば、Googleブック検索で全文を読むことができるのは、現時点では絶版された本に限られるが、これがいずれは全ての本に拡大していくのは、時間の問題と考えられるからだ。しかも、このサービスによって、利用者にとっては全面的に利便性が高まることになり、また、著者も63%という十分な利益配分を受けることができるため(現行の著者印税は通常10%!)、出版業界の利害のみを理由にして、この流れを一概に否定することも難しい。

 しかし、その一方で、Googleという米国の一企業が世界中の書籍のデジタルデータを独占することへの懸念もある。Googleが私企業であるがゆえに、この事業が未来永劫続く保障はどこにもないからだ。仮に全ての書籍データがデジタル化され、紙の出版が消滅してしまった後に、Googleが何らかの理由で倒産したり、経営上の理由からサービスの廃止を打ち切った場合、人類の英知が蓄積された本が、この世から消えてしまうことさえあり得ないとは言い切れない。

 その他にも、日本語はアルファベットに比べ、デジタル化した際の漢字認識の精度に問題がある。著者と編集者が力を合わせた結果として現在の書籍のクオリティがあるが、Googleブック検索では、日本人は間違いだらけのテキストデータで検索を行うことを強いられる可能性もある。

 本の売り上げは年々減少し、雑誌も相次いで休刊している中、時折繰り出すミリオンセラーでなんとか持ちこたえている瀕死の状態にある書籍業界にとって、今回Googleが突き付けた選択はあまりにも重い。今後出版業界はどう変わっていくのか。利用者にとっては一見いいことずくめにも見える書籍のデジタル化に、落とし穴はないのか。村瀬氏とともに議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・鳩山邦夫氏辞任の真相(電話出演:上杉隆氏)
・臓器移植法改正A案推進派が議場でビラ配布
・沖縄密約訴訟 裁判長が不存在の理由説明を国に要求
・西松事件初公判は誰を裁く裁判なのか
・米最高裁 DNA再鑑定不許可の理由とは

関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第371回(2008年05月10日)
著作権は誰のためにあるのか
ゲスト:福井健策氏(弁護士)

<ゲスト プロフィール>
村瀬 拓男(むらせ たくお)弁護士
1962年大阪府生まれ。85年東京大学工学部卒業。同年新潮社入社。週刊新潮編集部等を経て05年退社。06年弁護士登録。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/4347

この一覧は、次のエントリーを参照しています: Googleブック・サーチが問う出版の未来:

» 「郵貯の真実」 社長が問題なんじゃない!会社自体が問題なんだよ 送信元 ラ・ターシュに魅せられて
マンション管理に関する 「お問い合わせ」 が続いております。皆さん、結構 「お悩みなんだな」 とつくづく思いますね。 「管理状態が資産価値... [詳しくはこちら]

コメント (6)

■コメント投稿について編集部からのお願い

いつも《THE JOURNAL》にご参加いただき、ありがとうございます。

他のサイトでは見られない質の高い真剣なコメントに、ブロガーや編集部はもちろん、ジャーナリストを含む多くの方が参考にしているとの声が寄せられています。

今後もこの意義ある場を維持してゆくため、コメント投稿者の方々には、以下のことを厳守いただくようお願いいたします。

投稿は原則として本名で行ってください。本名での投稿が難しい場合は、名前として不自然でない名称でお願いします。これは、理由のない安易な偽名・匿名の乱用は、《THE JOURNAL》のコメンテーターと読者が本当の意味で責任ある議論の場を育てていくことにマイナスであるとの高野孟の信念に基づく考え方です。

また、編集部が記事に対する批判コメントを削除することはありませんが、「誹謗中傷」「常識に反するワードの使用」「日本語として理解不能」「記事内容との関連性がうすい」「匿名や複数ハンドルネームでの投稿」など、このコミュニティの発展を阻害する投稿については削除させていただきます。そのほか、議論の展開のなかで投稿者同士が感情的な応酬になりそうな場合、編集部の独断で該当のコメントを削除する場合もあります。最低限のマナーを守って投稿していただければ、いかなる内容のコメントでも、こちらの好みで削除することはありません。

なお、コメントは、このサイトを構築するシステムの関係上、「毎時5分と35分」に自動更新されるよう設定されております。投稿されてもすぐに反映されませんが、上記の時刻になれば自動で書き込まれます。

以上になりますが、ご理解・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

神保哲生様

この記事を読んで、とても気持ちが重くなりました。
アナログで育った世代の人間にとって、書店は「知」の宝庫のような場所です。
口酸っぱく娘達には「本を読め。本屋さんに足を運べ。」と言い続けていますが、既に彼女たちにとっての「知識の素」はネットの中にあります。
注意深く見ていると、娘達の物事の検索法はあまりにもイージーで画一的なもので、その危なっかしさに、瞬時に私も思わず怒鳴り声をあげてしまうのですが、もうそんな監視も追いつかない状況です。

自分が若い頃に感じた大人への抵抗を考えると、娘達に対し時代の変化を嘆いても意味がないのかもしれませんが、この書籍のデジタル化には、心底嫌悪を感じます。

紀元前3000年のパピルスに始まり、蔡倫による紙発明の偉業は、人間英知の革命だと私は断言するのですが、人はその後もっと賢くなり、それがデジタルへと移行していったのでしょうが、果たして本当にそれが進化かどうかは疑問です。
映画界然り、CG 技術が急速に進んだ現在、人はストーリーを追う事より、視覚刺激を求めるようになりました。それは、書籍も「読みやすい」本しか売れない現状へと繋がります。本当に嘆かわしいことだと思います。
書き手にとっても、コピーライトを守ろうと思っても、一旦ネットに流れてしまうと、阻止しきれないスピードと量で、イタチごっこに疲弊してしまうのは目に見えます。

ネットというこの便利な世界は、作り手と読者間のインフラを完全に狂わせてしまっています。本がこの世から消えてゆく様を想像するだけで胃が痛くなり、一種恐怖すら覚えます。

私はグーグルの書籍のデジタル化に賛成ですし、期待しています。

たとえば、絶版になった書籍は、買うことはできないのだから、デジタル化をして読んでもらうことに何の問題もないと思います。

日本の作家たちが何故反対しているのか理解できません。
たとえデジタル化が進んでも、書籍で読みたい人は結構いるとおもいます。

ベルヌイ条約そのものは、著作権保護において、有効なものです。

わが国でも国会図書館を中心として、著作物のデジタル化が検討されていますので、デジタル化自体の問題ではなく、紙媒体時代における著作権がデジタルメディア時代にどう変遷するのか、それ自体の議論がなされないまま、グーグルが実行に移し、著作権の隙間領域に踏み込んでしまったことに問題があります。
 著作権者に何%のロイヤリティが入るからいい悪いの話ではないはずです。

神保様
お久しぶりです。
最後にご勇姿を拝見したのが、10年近く前ですので、最近の「復活」(?)ぶりを心より歓迎しております。
あの時、貴殿から問われた言葉は今でも鮮明に覚えています。
「あなたは、現在の日本の総理大臣は誰だかご存知ですか?」と問われました。
不愉快さを隠しもせず答える私に、貴殿は、「なぜ、その新聞やテレビの報道をあなたは信じるのですか?」と再度問いました。
最近になって、貴殿の「言いたいこと」がやっと理解出来ました。
世界最強起業 Googleを「やる」のでしたら、設立時の「スポンサー」をあたるのが、適当かと思いますが、いかがでしょうか。
更なるご活躍をお祈りしております。

神保さま
こんにちは。
書籍がデジタル化されるのは、どんなに感情的に嫌だと思っても、多分止められない事なのだと思います。しかしこの問題は、著作者側、商売上それに付随する法律からしか論議されていないのでは有りませんか?非常に抽象的な事ではありますが、私は読者としての観点から、全ての書籍のデジタル化は賛成しかねます。私の読書傾向はかなり偏りが有りますので、多くの方は賛成しかねると思いますが。私は現在はもっぱら古文、古典を読んでいますが正直これがデジタル化されたら読むことが、かなりきつくなるように思います。こうしてコメントを書きコメントを読むくらいの文章量ならネットでもかまいませんが、古い時代の長編小説や古典は、デジタルで読むには、非常に目の負担、体力の負担になります。また、字体についても、古典は古典のまま原典で読む以上漢字や旧仮名など補完されないものが多いのではないでしょうか?また文芸作品の創作という観点から、携帯小説のような程度のものならいざ知らず、それなりの質量のある作品を求めるなら、書籍のデジタル化は決して良い文芸作品を生み出してゆく土壌としてはプラスにはならないと思うのです。わたしは、この問題で作家さん達が、著作権の話ばかりして、作品論や芸術的観点から話をしないのがむしろ不思議で仕方有りません。正直言って、文芸は衰退していると私は感じています。それはLEEさんがおっしゃっているように、読みやすい本しか読めない(私はあえてこう表現します)読者が増えたがゆえに、読みやすい作品しかかけない作家がたくさん出ているからではないかと思います。おそらく、書籍のデジタル化になれば、ますますその傾向は増えると思います。作品を消失から守るためのアーカイブとして、絶版から守るという意義からも、デジタル化を全面否定する気はありませんが、短絡的に、書籍というペーパーをなくしてデジタル化するという事は、なにか間違っているような気がしますし、グーグル一社がこういう事を行うのは正しい事とは言えません。文芸作品は歴史の風雪に耐え抜いた名作は、ある種、人類の知的財産だと私は思います。しかし、そういったもののデジタル化することが一見、公共財として世界に敷衍する仕組みであるかのように見せかけて、実は、一つのツールが、作品を独占してしまう方策になりかねないという裏側を良く考えるべきだと思います。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

神保哲生(じんぼう・てつお)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。
15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。
クリスチャン・サイエンス・モニター記者、AP通信記者を経て独立。
ビデオジャーナリストの草分けとして、日米の放送局に映像リポートやドキュメンタリーを多数提供。
2000年1月、世界初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を立ち上げ代表に就任。
2001年4月より『ビデオニュース・ドットコム』で宮台真司氏と人気ニュース番組「マル激トーク・オン・ディマンド」のキャスターを務め、現在にいたる。
2005年4月より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
2008年4月より、早稲田大学ジャーナリズム大学 院非常勤講師を兼務。
専門は地球環境問題、開発経済、メディア倫理、日米政治関係。

BookMarks

ビデオニュース・ドットコム(有料会員登録制)
http://www.videonews.com/

ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ
http://www.jimbo.tv/

マル激!メールマガジン
↓ ↓ ↓


-----<著書>-----

新刊!
↓ ↓ ↓

『格差社会という不幸』
2009年12月、春秋社、共著


『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』
2009年7月、ダイヤモンド社


『オルタナティブ・メディア―変革のための市民メディア入門』
2008年12月、大月書店、翻訳・解説


『教育をめぐる虚構と真実』
2008年10月、春秋社、共著


『ツバル―地球温暖化に沈む国』
2007年7月、春秋社、増補版


『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』
2006年7月、明石書店


『中国―隣りの大国とのつきあいかた』
2007年6月、春秋社、共著


『アメリカン・ディストピア―21世紀の戦争とジャーナリズム』
2003年9月、春秋社、共著


『天皇と日本のナショナリズム』
2006年11月、春秋社、共著


『ネット社会の未来像』
2006年1月、春秋社、共著

『粉飾戦争―ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』
2004年3月、インフォバーン、監訳

『プロパガンダ株式会社―アメリカ文化の広告代理店』
2004年8月、明石書店、解説

『漂流するメディア政治―情報利権と新世紀の世界秩序』
2002年10月、春秋社、共著

『地雷リポート』
1997年11月、築地書館

『ビデオジャーナリストの挑戦』
1995年11月、ほんの木

『重要政策全比較―シリウス・日本新党・平成維新の会』
1993年7月、ほんの木

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.