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2009年12月27日

INSIDER No.526《HATOYAMA》日米間のどこでどうやって情報が歪められるのか?──駐米日本大使とクリントン長官の「異例の会談」

 《THE JOURNAL》上の二見伸明ブログへのコメント欄でも話題になっているが、藤崎一郎駐米日本大使が21日、クリントン米国務長官から「異例の呼び出し」を受け、普天間基地移設を現行案通り履行するよう迫ったという日本での報道は、相当大きく事実とかけ離れており、在米大使館・外務官僚とマスコミが結託した"情報操作"の疑いが濃い。

 新聞によってニュアンスの違いがあるのは当然だが、1つの典型として産経ワシントン特派員の記事をMSN産経ニュース22日付から全文引用する。

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●駐米大使にクリントン長官から異例の呼び出し 普天間問題で米国の立場は不変

 【ワシントン=有元隆志】クリントン米国務長官は21日昼(日本時間22日未明)、藤崎一郎駐米大使を国務省に呼び、日米関係の現状についての米政府の見解を伝えた。焦点の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり、キャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)への移設という日米合意の早期履行を求める米政府の立場を伝えたとみられる。日本の駐米大使が国務長官から急遽会談を求められるのは異例だ。

 藤崎大使は会談後、記者団に対して「(鳩山由紀夫首相や岡田克也外相に)報告する必要がある」として会談内容を明らかにしなかったが、普天間移設問題に関し、現行計画を推進する米政府の立場に変化はなかったとの認識を示した。米側の危機感の表れかとの質問に対しては、「重く受け止めている」と語った。

 藤崎大使によると、クリントン長官からは21日朝に会談の要請を受け、約15分間会談した。長官は「日米関係を重視する立場から、日米関係全般についての考え方を伝えたい」と述べたという。

 会談にはキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)らが同席した。米側から会談に関する発表はなかった。

 クリントン長官は17日夜(日本時間18日未明)に国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に出席した際、鳩山由紀夫首相と晩餐会で隣席となり、意見交換した。この席で、首相は普天間移設問題について、現行計画に代わる新たな選択肢を検討するとの方針を説明するとともに、「(結論を)しばらく待ってほしい」と要請した。

 首相は記者団に対して、「(クリントン長官に)基本的に理解してもらった」と述べたが、米政府内には結論先送りへの不満は強い。このため、クリントン長官は改めて米政府の立場を藤崎大使に伝えたとみられる。

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 まず1つはっきりしていることは、コペンハーゲンでの鳩山発言は軽率で、黙っていた方がよかった。恐らくクリントンとの宴席での会話で鳩山は、「普天間移設の現行案だけでなく新たな選択肢を含めて時間をかけて検討していきたい」と述べ、長官は「米政府としては現行案がベストだという考えは不変だが、交渉を継続することには同意する」というようなことを言ったのだろう。それはそれとして胸に収めておけばいいことで、最高指導者がブラ下がり会見的な立ち話で口にすべきことではない。案の定、日本のマスコミが「本当にクリントンが"理解"を示したのか?」という調子でこれを伝え、余計なハレーションを引き起こした。

 21日のワシントンでの出来事の真相はもちろん分からない。恐らくは、キャンベルが鳩山発言がそのような形で報じられたことについて、藤崎大使に電話で「どういうことなんだ?」くらいのことを言ったので、藤崎が慌てて「ではこちらから説明に伺いましょう」ということになったのではないか。それでキャンベルの部屋に行くと、「今長官も在席だから一緒に話をしよう」ということになり、恐らく藤崎は「鳩山総理は普天間移設を捨てている訳ではない。それを含めてあらゆる選択肢を検討する協議を続けていきたいというのが真意だ」というようなことを弁解口調で説明した。すると長官らは「米政府としてはあくまで現行案がベストだという考えに変わりはないが、今後とも協議には応じる。ただし出来るだけ早く結論を得たい」と言っただろう。

 藤崎は、公的には鳩山政権の立場を表明しなければならないが、私的には「米国を怒らせたら大変」と思っている旧式外務官僚の典型である。その矛盾をナイフでこじ開けるようにして、記者が「米側の危機感の表れか?」と質問し、藤崎が「重く受け止めている」と答えると、記者側はたちまち「クリントンが怒り狂って大使を呼びつけた」というフィクションを描き上げてしまう。

 さて翌22日のクロウリー次官補(広報担当)の定例記者会見では、この日本での報道ぶりが話題となった。米国務省HPで公開されている会見の様子は次の通りである。

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●クロウリー次官補の12月22日定例記者会見の該当部分の全訳

質問 昨日の国務長官の日本大使との会談について何か資料があるか。長官が普天間について話し合うために大使を呼んだと聞いているが。

クロウリー 日本大使がカート・キャンベル次官補代理に会うために立ち寄り(came by)、クリントン長官のところにも立ち寄った(stopped by)のだと思う。この会談を通じて、大使は我々に、基地合意に関連する問題で折り合いをつけるにはなお時間が必要だという考え(indication)を伝えた。我々は依然として、現行案が最善の道だと信じているが、この問題について日本との議論を続けて行くつもりである。

質問 「立ち寄った(stopped by)」とおっしゃった。彼は呼び出されたのではないと言うのか。

クロウリー はい、私は...。

質問 その日は役所は閉まっていて...。

クロウリー 彼は、つまり、呼び出されたのではないと思う。実際は、彼が我々に会いに来たのだと思う。

質問 日本の新聞に出たいくつかの記事では、[鳩山]総理がコペンハーゲンで行った発言に対して長官が異議を唱えたのだろうとされている。総理は、普天間問題について[の総理の考えに]長官が理解、もしくは基本的な理解を示したというようなことを言った。確認できますか?

クロウリー 私は長官と共にコペンハーゲンに行った。長官が総理と接触したのは、2人が会議場に移動する間の廊下でと、デンマーク女王主催の晩餐の席でだと思う。2人の議論がどのようなものだったのかについて、私は特に承知していない。明らかなことは、この問題は我々にとって引き続き重要であり、我々は今後も日本政府と検討作業を続けて行く(continue to work with)ということである。

[中略]
質問 (聴取不能)すいません、普天間についての質問(聴取不能)...。(聴取不能/日本政府は、か?)米国にとって適切な期限までに普天間問題の決定を下すと思うか。

クロウリー 何度も言ってきたように、日本側は昨日も含めてこの間、この問題に折り合いをつけるのに若干の追加的な時間が必要であると主張してきた。そして我々は彼らとの議論を続けるつもりである。

質問 そうすると、(聴取不能)米日関係は?

クロウリー つまり、日本には新政権が誕生した。政権移行に困難が伴うであろうことは我々は理解している。我が国も政権交代したばかりだ。そこで、我々は日本との検討作業を続けて行くつもりである。そして明らかに、現行案の履行期限がやってくることのインパクトについては我々は潜在的には懸念を抱いているが、しかし我々は、それ[現行案]が持っている問題を解決することを助けるために日本と緊密に検討作業を続けて行くつもりである。

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 見るとおり、大使は呼び出されてはいない。私の推測では、キャンベルが電話で何かを言ったので大使が吹っ飛んで行ったというようなことはあるかもしれないが、少なくとも長官が大使を呼びつけたというのは事実に反する。

 鳩山とクリントンの対話も、藤崎とクリントン及びキャンベルとの会談も、おそらく中身は同じで、クロウリーが説明しているようなことである。繰り返すが、日本側は普天間移転の現行案を捨てている訳ではないが、グアム全面移転を含めてあらゆる選択肢を時間をかけて検討したいという立場であり、それに対し米側は、現行案で早期決着することがベストであるという考えに変わりはないが、交渉には応じるという立場であって、ここで重要なのは、米側が現行案に固執していることではなくて(それは立場上当たり前だ)、それでもなお「交渉を続ける」ことに同意しつつあるという事実である。ところが、産経を典型とする新聞は、前者だけを強調して後者は無視する。何が何でも現行案で強行せよと日本の報道が米国政府を煽っている形となる。

 だから、上に全文を引用したクロウリーの22日の会見についての報道も、おかしなことになっていく。これは23日付の読売新聞記事である。

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●「現行案の期限内実施に懸念」米国務次官補

 【ワシントン=小川聡】クローリー米国務次官補は22日の記者会見で、米軍普天間飛行場移設問題をめぐる日本政府の決着先送り方針について、「現行案の期限内の実施に悪影響を及ぼしかねないと懸念する」と述べた。

 ただ、「日本自身が疑問を解決する手助けを緊密に続ける」とも述べた。

 21日のクリントン国務長官と藤崎一郎駐米大使の会談については、「もう少し時間がかかるとのメッセージを伝えられた」と説明した。

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 上のクロウリー会見は間違いなく全文だから(言い間違いや言い直しも含めてそのまま載せているし、録音で聴取不能だった個所はそのように断りを入れている丁寧さである)、一体どこからどうやってこの記事が導き出されるのか。明らかにクロウリー次官補は、繰り返し「日本と検討作業を続けて行くつもりである」ことを強調していて、そこが"ニュース"であるというのに、「懸念」という一言だけを捉えて見出しを立てる見え見えの作為である。何も知らずにこれらを読んだ国民は、間違いなく「クリントンは鳩山に怒り狂っている」という印象しか抱かない。危機なのは日米関係でなくマスコミの報道姿勢である。▲

2009年12月19日

INSIDER No.525《HATOYAMA》普天間問題は「常時駐留なき安保」への扉である──10年前の沖縄への想いを振り返る(その1)

 毎日新聞が12月16日から3回連載した「迷走の13年/普天間移設の構図」は、第3回だけが面白い。3回それぞれ担当記者が違っていて、第1回と第2回は「米の不信、拡大必至」とか「場当たり的な首相」とか、マスコミに溢れかえっている平凡なトーンに終始しているが、影山哲也ほかが執筆した第3回はちょっと違っていて、「(普天間見直しを)『常駐なき安保』への出発点に」「(鳩山は米国との)不協和音に動じず」という見出しで、普天間問題を日米安保体制の抜本的見直しへの突破口にしようというのが鳩山の本音の狙いであることを的確に指摘している。要旨はこうだ。

▼鳩山は96年旧民主党結成で代表に就いた直後に『文芸春秋』に発表した「私の政権構想」で「北東アジア非核地帯化のための安保対話システム確立と経済協力推進の努力を通じ、極東有事が発生しない北東アジア情勢を作り出す。その進度に応じて沖縄・本土の米軍基地の整理・縮小・撤去と『常時駐留なき安保』への転換を図る」と述べていた。

▼それから13年、鳩山は16日「常時駐留なき安保」について「首相という立場」を理由に「封印」を宣言したが、自民党の石破茂政調会長はそれが彼の本音であることに変わりないとして、「常時駐留なき安保」は「非武装中立か独自防衛かの二者択一」に行き着くと述べた。

▼沖縄県副知事だった吉元政矩は「鳩山の東アジア共同体構想や安全保障に関する考え方は『常駐なき安保』に向かっている」「13年前に描いたビジョンが現実になりつつある。普天間問題は出発点にすぎない」と指摘する。

▼吉元は96年1月に、2015年まで3段階に分けて沖縄米軍基地の全面返還を実現する「基地返還アクションプログラム」をまとめた。それが土台となって生まれたのが同年9月結成の旧民主党の「常時駐留なき安保」政策で、それには95年の沖縄少女暴行事件が大きなインパクトとなっていた。

▼横路孝弘=現衆議院議長は「旧民主党のスタートは常駐なき安保」と断言し、小沢一郎が第7艦隊ぐらいあればいいと言うのもそれと同じだと言っている......。

 この大筋は正しい。鳩山は96年以来、終始一貫、「常時駐留なき安保」論者である。16日にそれを「封印」すると言ったのは当然で、この論は現民主党の綱領的合意となっている訳ではないし、まして政府の公式路線としてまとめ上げている訳でもないから、総理としてどうなのかと問われれば封印すると答えざるを得ない。が、個人の思いとしては、石破に言われるまでもなくそれが本音で、彼の普天間問題への対応の底に流れているのもそれである。

 ちなみに、この記事中で石破が、常時駐留なき安保、すなわち在日米軍の削減は「非武装中立か独自防衛の二者択一」を意味すると言っているのは、全くド素人の意見である。同じ記事中で横路が「冷戦後、国際的環境は変わったのだから、(米軍が退いた分だけ)日本の軍事力を強化するという話にはならない」というのが本当である。

●2つの前提

 旧民主党が掲げた「常時駐留なき安保」論には2つ前提がある。1つは、「脅威の見積もり」に関わることで、冷戦時代には在日米軍は基本的に、旧ソ連の脅威、具体的には旧ソ連極東配備の陸軍機械化師団が大挙渡洋し北海道に上陸陸侵攻する事態に対処することを第1目的とし、北朝鮮・中国による「第2の朝鮮戦争」と中国による「台湾武力侵攻」に備えることを第2目的として駐留を続けてきた。冷戦後、旧ソ連の脅威は大局的には消滅したが、米日政府は北朝鮮の(主としては核の)脅威と中国の(主としては海軍力増強の)脅威をことさらに強調して、冷戦時代と同じ量と質の"脅威"が日本を取り巻いているかのような幻想を国民に植え付けてきた(これを私は「脅威の横滑り」と呼んできた)。日本側には「米国に見捨てられては大変」という冷戦思考が色濃く残っていて、他方米国にしてみれば、それを利用してこれまでの在日基地を既得権益として確保して、アジアからインド洋、中東に至るまでの展開のための一大戦略拠点として活用できればこんなにうまい話はない。このため、冷戦後の日本が本当のところどのような軍事的脅威に直面しているのかという「脅威の見積もり」は一度として冷静に分析されることのないまま、「北が危ない、中国が怖い」という情緒的な恐怖幻想に置き換えられてきた。

 だから、石破はじめ自民党の「米軍がいなくなればその分日本が独自防衛力を増やさなければならない」という議論はド素人なのである。冷戦時代と"脅威"の量も質も同じであれば、日米両軍の戦力合計を同じ水準に保たなければならないが、その量が減じ質も変わっているのであればそれに応じてむしろ戦力を縮減し配置も見直す必要が生じて当然である。同じく岡田克也外相が18日の会見で「海兵隊は日本にとって必要な存在。海兵隊の抑止力に期待するなら、日本の外に出て行ってくれというのは余り通用しない」と語ったのもド素人の証拠である。「抑止力」というのはオマジナイではないのであって、(1)見通しうる将来について日本がどこからのどういう様態の脅威に直面する危険があって、(2)それを未然防止する抑止力としては日本の防衛力ではどこがどの程度足りなくて、(3)その分を在日米軍が補ってくれるとして、そのうち海兵隊の役割はどういうものであって、(4)それは在沖の海兵隊が全部グアムに移転して統合配備され、かつ最新のMV-22垂直離着陸輸送機を主力ヘリとして採用して格段に機動力と航続距離を伸ばした場合と比べても、どうしても沖縄に居続けないと果たせないものなのか----ということを、これから米国と交渉しなければならないという時に、外相がこんなことを言っていてはお話にならない。

 もう1つの前提は、毎日の記事が鳩山文春論文を引用している個所で理解されるとおり、「常時駐留なき安保」の実現は、20世紀的な敵対的軍事同盟の遺物である日米安保条約を、21世紀的な地域集団安全保障体制としての「東アジア共同体」の枠組みが形成されるまでの経過措置であって、後者が機能するに連れて常時駐留なき安保が深まって行って最終的に前者に行き着いていくものと想定されている。

 このあたりのことは、私としては13年前にほとんど議論し終えていることで、今更の感もあるのだが、世の中全般はそうでもないので、今後何回かに渡って当時のINSIDERから関連の論説や記事を再録して参考に供することにする。

 第1回は、安保論の理屈ではなく当時の私の沖縄への想いを表している喜納昌吉との長い長い対談である。これは当時CSチャンネルに存在した「ドキュメンタリー・チャンネル」の特番のために収録したVTRを文章に起こしたものである。喜納はその後民主党参議院議員となり現在は同党沖縄総支部代表である。

-----沖縄への想い(1)---INSIDER19981月1日号より--------------

世紀末誇大妄想対談/喜納昌吉vs高野孟

高野(T) 1853年、今から144年前に米国のペリー提督が「黒船」で浦賀を訪れて日本を大砲で脅して開国を迫った訳ですが、実はその時ペリーは往きと帰りに琉球に寄って、やはり石炭の貯蔵庫を作らせろとか要求した。それから144年、今度は「白船」を仕立てて、武器で脅すのではなく楽器を載せて逆コースで米国に乗り込もうという飛んでもないことを考えた人がいて、それがこの方、喜納昌吉さんです。

喜納(K) よろしくお願いします。

T いやあ、この発想には参った。

K ありがとう。つい思いつきで言ってしまったんですが。でも、大事なことだと思います。

T その話は後でゆっくり聞くとして、この場所は「チャクラ」、那覇の国際通りの真ん中にあって、なかなかいいライブスペースですが、もう長くやっているんですか。

K 仲間と一緒に作って3年です。元々私は27年前からコザで「ミカド」をやっていたので、自分のスペースで音楽をやるのが安心する。

●元祖ワールド・ミュージック

T 喜納さんと言えば、去年のアトランタ五輪の開会式にアジア代表として乗り込んで行った。これは僕らには驚きでした。そもそも向こうがどういうセンスで喜納さんを選んだんだろう、本当に分かって選んだのならすごいなあと思いましたよ。

K 何で喜納昌吉を選んだのか、日本にはもっと有名なミュージシャンがいるのにおかしいんではないかという抗議の電話が殺到したようです。だから、そういう高野さんのアプローチは珍しいですね。

 僕の音楽は、通の人たち、ミュージシャンが聞くミュージックと言われた。実際、ワールド・ミュージックも原点を辿れば私にブチ当たるということがあるみたいです。それから3〜4年前に東大寺でやった「グレート・ミュージック・エクスペリエンス(GME)」が世界中に放映されて私が注目された。その後また私は、ワシントンDCで「ウォーク・フォー・ジャスティス(正義の行進)」でアメリカ先住民の前でコンサートをやり、続いてニューヨークのセントラル・パークでもコンサートをやって、みんなが私の音楽に狂ってしまい、そのことが『ニューヨーク・タイムズ』で紹介された。その時に「喜納さんは何で来たんですか」と聞かれて、「ペンタゴンに行って、武器を作るのでなく楽器をつくることを勧めたい」と言ったら、拍手喝采だった。

T アメリカ人はそういうせりふが好きだからね。

●「象の檻」で歌って

K そいうことから段々アトランタに導かれることになったんでしょう。

T しかし実際にアトランタに行ったら、なかなか思い通りではないような状態があったようですね。

K あれはねえ、最初の頃はあらゆる新聞から私に取材申し込みもあって非常によかったんですが、急に基地問題が沸騰してしまって、これはやばいという形になって──「アメリカと沖縄は戦争をしている」というジョークがあったくらいだから。それからまた私が「象の檻」に入ってしまったものでねえ、オリンピックとしてはテロ対策があるし、先入観として何かそういう......。

T 反戦派だと。

K という考え方が出たんでしょう。

T それは沖縄の中でもあった?

K それはだって、私は革新県政のあり方に少し物を言って、非常に煙たがられていた時期があったから、そうすると保守勢力が喜んで応援しようということになって、お金も集めるということで態勢も出来上がっていたのに......。

T あれはとにかくエイサーの踊り手を含めて170人から連れて行こうという大計画だったわけだから、相当なスポンサーが集まらないと出来なかった。

K そうそう。そのときに知花さんが「喜納さん、ぜひ象の檻に入ってほしい」と言うわけね。「私は運動を変えなくてはいけないと思っている。象の檻で歌をうたって踊りたいんだ」と。ああ、それは素晴らしいと思って受け入れた。確かに頭の中では、受け入れたらこれはスポンサーが逃げるなあということがあったけれど、これで避けるようなスポンサーなら仕方がないと。案の定、みんな逃げてしまった(笑)。

T 行く前にこっちでそういうことがあって、行って向こうでも最初企画した
通りにはならなかった。

K 本当は僕は2回、夜に演奏する予定だったけど、何か異常な警戒心が働いていて、会うべき人が会いに来ないし、私に触れるのを避けている。「象の檻」の衝撃が凄かったんでしょう。それにエイサー隊が150人もいるからそこにテロ集団がいるんじゃないかということがあったんでしょう。それで、夜にするはずが昼に持ってこられて、次の日になったら朝になって、しかも2回が1回になって......。頭に来たけど全部呑み込んで来た。意味があるんだろうと思ってね。しかし今考えると、2回やっていたらあの広場で起きた爆弾テロが私を直撃したかもしれない。

●アトランタ五輪の精神構造

T でもまあ、行っていいこともあったでしょ?

K それなりに努力しているのは窺えるんですが、しかし最後は計算が政治的にならざるを得ない。政治というのは当然、軍事が背景にあるが、その政治と経済の癒着の今の構造が資本主義の名の下で暴走していることは確かだった。

 なぜかというと、マルチン・ルーサー・キングが非常に持ち上げられたでしょう。ゴスペルを歌って、キングの栄えある歴史的業績を讃える画面を出して、最後はモハメッド・アリが出てくる。少し歴史を振り返ると、ファラカンの100万人大行進があった。ファラカンはイスラム教徒でキリスト教国の脅威でしょう。そうすると、昔は黒人にはキリスト教も許されなかったのに、キリスト教のキングを一度持ち上げておいて、なおかつイスラムのモハメッド・アリというヒーローを持ち出してきて曖昧にしてしまうという、非常に巧妙な......。

T 手が込んでいるというか。

K アメリカのパワー・ポリティックスの原理が働いていたことが窺える。それを超えるようなオリンピックではありえなかった。

T あの演出をそこまで読んでいる人はいなかった。あなたのような人だと現場で見て感じてしまう。

K 目の前にアメリカの精神構造が見えてしまう。だから今後アメリカと対話していく上でいい経験をさせて貰ったと思っている。

●日本人のトラウマ

T そのアトランタの経験が「白船」に繋がったのか。

K もしあそこで私が満足していれば、たぶん錦を飾って......しかし、あそこでそういう仕打ちを受けたことによって、欲求不満が残ってアメリカで何かをしなければならないようになってしまった。そこから試行錯誤しながら考えると、沖縄の基地問題が特別措置法改正という形に終わって、あの少女の悲劇、涙というものが報われずに経済的な条件闘争に変わってしまった。

T 「いくら」という話に......。

K あの55億円(の沖縄振興費)という訳の分からない話で、結局は1兆円かけてヘリポートを作るという──基地に反対する運動だったのがなぜ基地を作る方向に行ってしまったのか、私は不思議でならない。アメリカのオリンピックの精神構造と、沖縄が体験している構造がまったく同じで、日本国自体がそういう構造の中に押し流されてしまっている。そしてそれは、新たなる「琉球処分」という話があるけれども、実は「日本処分」でもある訳です。自ら日本処分を下さざるを得なかったという......。

T そうなんだ。日本人はそのことに気が付いていない。

K だからそれが不幸なんで、沖縄は傷が深いから、もう気が付いてしまった。本土はまだ気が付かない。

T 沖縄だけのローカルの問題だと思っている訳よ。

K ところが時間を延ばして考えると大きなシッペ返しが来ることをわれわれは見てしまう。その中で沖縄とヤマト、そしてアメリカを考えたとき、どんな方法が一番いいか。

 そこでフイと、この一体、歴史的トラウマ──何でこれほどビクビクして行動しなければならないのか、これだけ経済的な力を持って世界に貢献しようと思えばいくらでも行動出来る頭脳を持っている日本人が、何で稼いだお金を訳の分からないバブルの崩壊で持って行かれたり、馬鹿なことをしでかすんだろうか。

 そう思いながら、第2次大戦、廃藩置県、島津の侵攻と沖縄の歴史を遡った時に、ああ、黒船が来たんだ、と。そこからアメリカとの因果関係が始まった。そして不思議なことに、この黒船は沖縄にも来た。さらに不思議なことに、そのときアメリカの3名の水夫が少女を暴行している。その船の提督がペリーなのよ。先日の暴行事件が起きたときの国防長官はその孫だか曾孫だかでしょう。あまりに因果関係が出来すぎていて、私はビリビリと来て、「よし、黒船の代わりに白船、武器の代わりに楽器を載せて、戦争の代わりに祭りをやればいいんだ」と。

●内戦状態のアメリカ

K そして、アメリカが唯一解決できない先住民問題を解決してあげようじゃないか、と。先住民と黒人、そして白人に手を握らせれば、本当に世界は安心する。あれだけの武器を持って力を持っている国が毎日、内戦のように人殺しをしている。他国と戦争して死ぬ数よりも身内の事件で死んでいる人の方が多いんじゃないですか。まさに内戦状態ですよ。これは法則性があって、あんまり外側で戦争を起こすとその反動が来て内側で殺し合いになってしまう。そういうことをアメリカに目覚めさせたいという思いがありますね。

T 実際には「白船」は来年出る?

K 11月1日。船は1万何千トンで550名が乗れるのを借り切って。しかし1人で乗るとどうしても2カ月間拘束されて、100万円かかってしまうので、何とか交渉してもう少し安くするとしても、かなり無理は避けられないですね。それで、沖縄から出発するとして、先々の寄港地である部分を30万円くらいで乗れるというやり方をしようと。

T 「ピースボート」なんかもそういうやり方をしてますよ。区間乗りがあれば一番効率的に埋められるし、それから人によって興味がある場所が違う場合もあるし。

K あ、そうですか。みんな考えることは同じだ。「ピースボート」はベ平連の流れもあって80年代に始まって、私も力を入れたんですよ。また合体してやれればいいと思っているんですが。

●60年代の反逆を超える

K 歴史のトラウマに対してカウンターという形で動き出したのが60年代から70年代だった。言葉は悪かったかもしれないが「革命」ということで。その手段や方法論は無理があったと思うんですが、しかしあの頃の若い人たちは未来を見ていた。ヒッピーは「フリーダム」、マルクス主義者たちは「ユートピア」とかで、それはソ連よりもアメリカの影響を受けていた。

 しかし沖縄が返還されて目的を失ってしまって、「80年代は消えた」と言われた。それは、それぞれが自分の哲学を持つための1つの試練だった。決して今度は麻薬とか暴力とかではなく、それで敗北したんですから、その2つを超えるものを提供しなければいけない。それは、日本がずっと育んできた「祭り」というもの──神流(かんながれ)というのは自然の循環でしょう、そういう循環の祭りが西洋文明にはないから、それをルネッサンスとしてアメリカに持ち込むという、壮大な夢を僕は見てるんです。

T 黒船に始まって、西洋文明をいいものだと思って受け入れるばかりの長い年月があって、60年代、70年代というのは感性的にそれに反発するということでひと盛り上がりがあって、そしておっしゃるようにドラグだヴァイオレンスだ内ゲバだということで拡散してしまった。そこで本当の意味で西欧文明との出会いの100年を超えていくものは何かということになって来て、逆に言うと西洋の側でもそれを求めている。東洋への憧れというか、禅ブームだったりタオイズムであったり形はいろいろだけども東洋を見直そうとことがあって、これが世紀の変わり目での世界の1つの流れですよね。

●神仏の基底にあるもの

K だから世界が欲求している、そのポイントが日本なんです。それに日本人は目覚めてほしい。なぜかというと、日本の歴史を見ると、まず奈良・京都という古都があって、そこには聖徳太子以来の仏教がありアジアがある。一方、東京には明治維新の廃仏毀釈によって神道があり、それによって西洋文明が開花した。この両者の間に断層があって、それを埋めることが出来ないから今あらゆる事件が起きている。顕著なのは神戸で起きた酒鬼薔薇の事件で、本来、日本に文化力があるなら、ホラー映画とか西洋から来た悪魔的な文化を消化して返してやる力があった訳よ、新陳代謝の能力が。

T 浄化能力ね。

K ね、それがもうなくなってしまって、ちょうど明治維新の廃仏毀釈、第2次大戦中の政祭一致の中で、確かに不完全な仏教や不完全な神道があったかもしれないけれども、その下の純粋の神道も純粋の仏教もあるはずで、そこまでみな犠牲にしてしまった。だから西洋から来た精神文化に対して適応能力を失ってしまった。その狭間にあの神戸の事件がある。本来なら大人が守るべき子供たちを失った。そのことなくしてあの事件の答えは出せない。

T なるほど。

●縄文は生きている

K だから、仏教と神道を融合するところに、われわれがやり残してきたことがある。それは何かと言えば、われわれは弥生文化を受け入れたが、それは縄文の悲劇に基盤がある訳ね。縄文は決して過去ではない。北にアイヌが現在いるんだから。アイヌ新法を制定するという課題が起きているが、これは中途半端に終わっている。二風谷の件で先住民権を問われながら、アイヌ新法では先住民権がないという、このそもそも曖昧な論法──沖縄の基地問題もそう。沖縄の心は理解できると言いながら特措法を改正するという。在日(コリアン)の参政権問題も同じ。日本の民族史の中で、この3つの民族だけは官僚制が文化的に消化できなかった。

 これを消化するたくましい日本の新しい精神が出来上がったとき、神道と仏教が新たに融合し、そして西洋と東洋が──だって、日本ほど西洋のマテリアリズムがピークに達しているところはないでしょう。日本ほど東洋のスピリチュアリズムがピークに達しているところはないでしょう。この2つを融合させて、世界に人類は1つ、地球は1つという手応えを感じさせる唯一のところが日本なんだ。この21世紀を目前にして。

●金芝河のペレストロイカ観

T 韓国の抵抗詩人、金芝河も同じようなことを言っている。それはペレストロイカという話の中で、ペレストロイカというのは彼に言わせれば、単にソ連国内の話ではなくて、大量生産・大量浪費の産業文明が、形は資本主義にせよ社会主義にせよどっちにしたって産業主義なわけで、そういう時代がもういよいよ限界に来て、それをどう超えていくかというのが広い意味でのペレストロイカで、たまたまソ連でゴルバチョフが始めたが、それが東欧に広がり、西欧にも影響が及び、中南米にも民主化の波が荒れ狂って、ずっと世界一周して、結局、世界的なペレストロイカは東洋において完結すると彼は言う。

K なるほどですねえ。

T 彼の場合は韓国だから「東学党の乱」が出てきて、そういう東洋の精神文明が世界をリードするんだと。日本や韓国にはそれを実現する役割があるんだと言う。

K ああ、いいですねえ。私は、それを選民意識からやるのではなくて、これまで受けた恩恵を返さなくてはならない時期に来ている、そういう役割としてやればいいと思う。その意味でいま日本が置かれている一番大変なことは北朝鮮の"脅威"論でしょう。38度線の問題は決して韓国・北朝鮮の問題ではない。アジアの不安定の問題であり、世界の不安定の問題でもある。だから北朝鮮が水害で苦しんでいるのなら、拉致事件を取り上げるのもいいけれども、勇気を持って米を送るべきでしょう。そういうところから始まる。

●北朝鮮への怒りの歪み

T 確かに、北朝鮮の飢えは相当ひどいです。

K もし拉致事件を取り上げるなら、なぜ沖縄の少女が拉致・強姦されて日本は気をつかってアメリカのために55億円も出して、なぜ本土の人が拉致されたらこんなに怒るんですか。アメリカに怒ることが出来ない分まで北朝鮮に怒っているんじゃないですか。私は怒ることは否定しないけれども、怒るのにも理性が必要で、その理性が21世紀に基づいた理性でなければわれわれは間違いを起こしてしまう。そういうことがあるなら、日本は堂々と北朝鮮と外交し、韓国と外交し、中国と外交し、アメリカと外交する自信を持ってほしい。

T だってね、拉致事件は事実かもしれないですよ。しかしそれがあったから国交を結ばないとか、食料援助をしないとかいう話とは違う。それは解明しなければいけないけれども、例えばじゃあ沖縄の少女が1人ひどい目に遭ったからアメリカと国交断絶かと。北朝鮮にああ言うんだったらアメリカにもそう言わなくては辻褄が合わないけれども、その気迫はない。

K 筋を通すという考え方が日本から消えてしまった。力の強いアメリカにはハイハイと言い、ちょっと弱そうなところには偉そうな顔をするという......。

●沖縄を針の先にして

T それは「いじめ」の構図なんですよ。政府がやっていることがそういうことなんだから、学校教育が問題だとか言ってもうまく行くわけがない。この国の指導者がやっているのがそんなことなんだもの。

K 基地特措法が9:1で可決されるなんて「いじめ」そのものでしょう。指導者がそういうことをすれば下部にも流れて行くわけです。そこに政治のモラルがあるはずでしょう。政治家だけでなく、経済界、文化界、宗教界のリーダーたちは何を恐れているのか。21世紀を目前にしてこれだけホットな場所はない。沖縄を地球的・人類的な規模で使ったらどうですか。アメリカが国連の分担金を出さないと言うのなら、沖縄が国連の面倒をみればいいじゃないですか。基地の運営資金を少し回せばいいんですから。あるいは尖閣列島に石油や鉱物資源があるというなら、それを国連に委託して人類の福祉のために有効に使えばいい。大体、石油を持った国なんていつも戦争に......。

T ろくなことにならない。20世紀の戦争なんてほとんど石油のために起きたようなものだから。第1次大戦は結局、中東の分割。第2次大戦で日本はインドネシアの石油を取ろうとした。ベトナム戦争も海底油田を誰が取るかという話だった。石油の世紀イコール戦争の世紀という20世紀をどう総括するかですよ。

K 石油資源が国力の象徴となって常に争いの元になってきて、未だかつて自分のエネルギー利権を人類福祉のために投げ出した国はないでしょう。沖縄が最初にやればいいのよ。そして沖縄が唯一、人類の非武装地帯になって、国境線──金属疲労を起こした国家という金縛りから独立する。

●新しい独立論の論理

T 国境から独立するという独立論。

K そう。沖縄がもし独立論を唱えるなら、人類が歩むべき方向に沖縄が歩むことが重要だと思われたときに独立運動を起こすべきだと思う。バルト3国のように、すぐ国家を持とうとして独立運動を起こして、国家を持つと、より大きい国家から潰されてしまう。そういうことになってはいけない。沖縄に知性があるならば、21世紀に応えるような独立運動でなければ行けない。

T いままでの独立論は「独立して自分たちの国家を持とう」だよね。別の国家をもう1つ作ろうだよね。それじゃダメだと。

K ダメダメ。それは新たなる沖縄の権力構造を生むだけだ。

T 今度は宮古が独立すると言いだしたりね(笑)。国境を超えていく。それは、自分たちが実際にやっていることが勝手に国境を超えて行ってしまうということでいいじゃないかという......。

K 単に国境をなくして制約をなくせばいいかというとそうではないんで、21世紀にそぐわないものは受け付けないということだけであって、もし武器を持っている者は入れない、ドラッグを持ってくる者は入れない、犯罪をする者は入れないという......。

T じゃあ米軍はみんなダメじゃないの(笑)。

K そうそう。21世紀の道徳から考えればいいの。そして世界の人々を受け入れますと、右も左もありませんと。そういう大きな度量をもったほうがいい。案外そういうのは実現するかもしれませんよ。人間は理想としたものに向かうという本能・習性がありますからね。だからもっと堂々と、国連は沖縄の嘉手納基地に持って来なさいと。そこから地球的規模のアクションを起こそうじゃないかと。

 なぜなら、チェルノブイリの事故でも国境を超えてしまうし、オゾンの問題も熱帯雨林の問題も酸性雨の問題も全部国境を超えている。国境を超えた病に対し、治療は国家単位でやっているから間に合わない。そのためにも、この沖縄を針の先にして、地球規模の運動、プロジェクトに値する場にしていけばいい。それを日本の技術や知恵や財力で推し進めれば、日本は人類史上に輝く国になりうる。

 湾岸戦争に何で120億ドル送る必要があるんですか。あれ以来でしょう、日本に戦争肯定論が出てきたのは。何であれだけの平和思想を持っていた国民が、やれ北朝鮮だ中国だ、教科書がどうだ、核を持たなければいけない......何のためにわれわれには広島・長崎の経験があるんですか、沖縄地上戦の経験があるんですか、東京大空襲があったんですか。それが何一つ生かされていない。

 私は、人類非核宣言サミットを広島・長崎・沖縄でやるべきだと思う。それでオリンピックもやれば素晴らしいんじゃないですか。本当に平和を願う人たちがそういう祭典を担ったときに素晴らしいものになりますよ。

●沖縄の3層の階級構造

T ところで私が最初に喜納さんに会ったのは「朝まで生テレビ」でした。隣にいて、番組の中身はまあまあというようなものだったけれども、終わって食堂でビールを飲んで、そのときに喜納さんが凄いことを言ったんだよね。沖縄の3層構造という話をした。これは僕はウーンという感じで、今も強烈に覚えている。横の差別構造というのか、アメリカがありヤマトがあり沖縄があり、さらに沖縄の中でも奄美の問題があり、宮古や八重山の問題もあるという地域的な構造があることは知っていたけれども、縦の構造があるというのは結構ショックだった。

K 一番顕著なのは台湾の構造で、あそこには高砂族がいて自ら「原住民」と称している。この言葉には差別の垢がついているが、彼らはそれを知ってわざとそう言っている。それから福建省から行った本省人がいて、さらに毛沢東と蒋介石の争いの結果、台湾に逃げざるを得なかった外省人がいて、実権は彼らが握ってきた。

 中国が台湾を呑み込もうという時に、原住民は殺されても台湾から動かない。本省人はある程度逃げる人もいるかもしれないが大方は残る。外省人は残る人もいるかもしれないが大方は逃げるだろう。彼らの持っている利権をどこに移すかとなると、インドネシアは宗教が違うし。マレーシアはちょっとやばい。一番自分たちと同じ血が生きているこの沖縄が近いし楽だということになる。

 実際また沖縄には、1609年の島津の侵略を巧く島津と妥協して生き延びたのは中国から渡ってきた「久米三十六姓」の人々で、要するにその人たちが現在の沖縄の権力なり経済を動かしている。その人たちは深いところで生き残ることを考えた。明の時代に来たから、島津が来たときには清の時代になっていて帰る場所がないので、大方はそこに落ち着いてしまった。

●久米村の人々の今

T なるほどねえ。

K 沖縄を搾取したのは島津だけではない。

T むしろ島津のほうが後なんだ。

K そう。島津が沖縄を侵略して、福建省の福州に昆布を持って行って......不思議なことに昆布を採っているのはアイヌで、その昆布を日本の中で一番食べているのが沖縄なんだよね。

T 縄文文化だ。

K 福州で昆布を売って麝香(じゃこう)を買って、それを富山に売って、それで財源と情報を集めて島津は明治維新を起こしたという訳だ。その時に福州から来た荷物は沖縄に下ろして、久米の人たちがいいものをを分け前として取って、残りを島津に渡した。儲かったのは島津だけではない。不思議なことに、今の沖縄を見ても、表の世界から闇の世界まですべてそこの出身者が支配している。基地問題が起きて、交渉しているのもこの人たちで、沖縄振興費が出てもそれは沖縄の人たちには下りないですよ。そこに問題がある。

T さっき話が出たように、少女の涙が「いくら」という話にすり替わった。

K 私は決して民族浄化運動なんてボスニアのような馬鹿なことは言わない。みんなが仲良くするには、あの事件を計算づくの条件闘争にするやり方がいけないということなんです。少女の問題から始まった基地の痛みの問題は痛みの世界に返っていく。それとこれとは別問題であるということで通さないと。

T そこが簡単にすり替わって、そこで特措法改正に至る情けない決着があった。別だということで突っ張り切らなければいかなかったね。

K そのことを私はずっと言っていた。

T そういう沖縄の上層部とは何者であるかという歴史的アイデンティティというのは面白い問題ですね。それで、その次に島津系がある?

K 大きい企業は島津系、鹿児島系が多い。

●歴史のリアリティー

T 今まで漠然と沖縄は縄文系と思っていたのに、そういう3層構造があるという話をあなたが酔っぱらってペロッと言って、僕はビリビリ来たんだ。

K 歴史をリアルに見る視点ですね。歴史の不始末は現在という仮面を被って暗躍する。それが利権の正体ですね。だから現在あることは、基地があることも含めて、過去に生きた人たちの不始末を負の遺産として受け継いでいることなんです。素晴らしい未来を提供しようとするなら、勇気をもってその不完全な世界をクリアにしていく流れが現れないとダメですね。

 アメリカも中国もそういう問題を抱えている中で、その間に挟まっている日本がいち早く21世紀に向かって国民単位で抜けられる資質を持っていると思う。知的水準というか、ある中枢でそうなんだと言えば隅々まで分かる知的な教育がなされているし、なおかつ自分が思ったことを成功させる経済力を持っている。

 こういう国というのは考えてみるとあんまりないんだよね。アメリカはどんなに国家力を持っていたとしても、またいい意味で多民族国家にしてしてしまったということは可能性を持っているとは思うけれども、それを統合するという意味では日本ほどではない。だから日本がどういう形で自分の歴史・文化を消化する方向に向かえるかですよ。

●日本文化の深層心理

K よく沖縄には文化があるけれども日本には文化がないという人がいる。私は、アレアレアレー、日本にはたくさん文化があるじゃないか、と。ただひとつだけ反省しなくてはいけない点がある。というのは、日本は「神の国」であると言いながら神風が吹かずに戦争に負けた。これはどこで負けたかというと精神的ではない、物質で負けた。だから今度は物質を持てば拮抗しうる力を持てる。だから経済だ、と。

T 物質主義。

K で、今度は経済で大政翼賛会になっちゃった。

T 何でも総動員なのよ。

K ね。それで一番犠牲になったのは文化。日本はたくさん文化があるけれども、それを統合する力を失ってしまった。経済で全部、力を使い果たしてしまって。だから、バブルが崩壊して、バブルがどこで底をつくかを考えなくてはいけない訳ね。1300兆円だか資産があってそこに金融ビッグバンの思惑がある訳だが、そういうものに引っかからないようにするためには、日本がバブルの底で、経済力を文化に転化する必要がある。その文化は何に根ざしていたかをよく考えなくちゃいけない。

 仏教、神道......もし沖縄がヤマトと協力することが出来るとすればそれはエイサー。これは袋中上人という方がいて、これは念仏の法然の弟子。法然は浄土宗の開祖で貴族仏教を大衆化した。貧乏人であろうと金持ちであろうと関係ない、念仏を唱えれば阿弥陀の慈悲は誰にでも注がれていると説いた。その弟子の袋中という人が来て、念仏踊りを沖縄の神道であるシャーマニズム、大衆芸能と融合させてエイサーというものを作ってしまった。そこに神道と仏教が和合し、また精神と物質が合体してルネッサンスを起こす可能性がある。バブルが底をつくというのはそういうことだ。

●伊良部はダブルである

K いま野球で頑張っている伊良部は、ハーフでなくてダブルなのよ。だって沖縄とアメリカの血が入っているからね。21世紀はそういうプラスの思考に持って行かなくてはダメなのよ。だから日本人は、縄文とハイって来た弥生とのミックスだという......。

T その後もいろいろ入って来て重なっているし、日本くらい多民族の国家はないんですよ。

K そうそう。しかもそれを1つにまとめる力があった民族なのよ。だから人類がなしえなかった融合──権力によってではなく本当に精神的に和合するという意味の融合をなしうる最初の民族かもしれない。

T そのためには、たぶん、明治から100年のこの何でもかんでも総動員という仕掛けを一回壊さないとダメだね。明治時代の日本は人口の8割が農村にいる貧しい農業社会で、大正時代になってもまだそうだった。そこから地租(農地税)という形で税金を取り立てて全部東京に集めて、最も効率的な形で運用するという総動員体制というのが、明治国家から100年の日本だった。

 それはある意味で巧く行ってここまで来たのだけれど、文化や宗教や精神までその国家目標のために動員してしまうという仕掛けの下で歪められたり窒息させられたりしてきた。地方も、方言をしゃべるのはいけないことだみたいな──近代国家を作るというのはまずみんな共通の言葉をしゃべって、命令一下、鉄砲を撃つとか、同じスピードでネジを回すとかいうことだから、そうやってローラーをかけるみたいにしてきた。

 それが今、来るところまで来て、その総動員体制を一回を壊さないと次が始まらない。その壊す鍵は、それは私の思い込みで有り難迷惑かもしれないが、やっぱり沖縄なのよ。沖縄が突出することが、その仕掛けが壊れていく重要なきっかけになるんですよ。

●祭りのエネルギーの逆噴射

K いいポイントですね。その意味でも「祭り」ということが今後......その総動員体制の頂点にあるのは東京でしょう、それを逆流させるには東京にそのエネルギーを逆噴射させる。東京の真ん中でアイヌの方々を呼んで、沖縄の方々を呼んで、在日の方々呼んで、なおかつ神道や仏教を含めて爆発を起こして、それでアメリカに行ってね......(笑)。

T 普通の人が聞けば誇大妄想だね(笑)。

K やっぱりねえ。アハッ。

T そういうふうにワールドワイドに超えて行こうというのがあなたの発想だ。

K 一挙にワールドワイドにジャンプして、そこに一回意識を飛ばして足下にメスを入れる。飛ぶだけだとまた気違い扱いされるから(笑)、バランスとってやらないと。タイトロープですよ。

T このあなたの『すべての武器を楽器に』という新しい本の帯に「私は提案する。日本は沖縄を世界にプレゼントしなさい」と書いてある。

K いいんじゃないですかね。私は何も皮肉を言ったのではなく、その方が本当の協力が出来るということです。

●ヘリポート阻止が出発点

T そこでやっぱり面白いのは「白船」計画だ。これから実際どうやって進めていくのか。

K 一番大事なのは基地問題。基地返還アクションプログラムでは2015年までに基地をなくすと言っている。ところがいま名護に何千億円も使ってヘリポートを作ろうとしている。平和の仮面の裏で利権の争奪が行われている。平和も願うけれどもお金もほしいというのは騙しですよ。その欺瞞性にみな気づいてきている。それでヘリポートの絶対阻止運動が住民サイドから起きている。われわれは世界に訴えてこれを阻止して、その魂を白船に乗せてアメリカに持って行く。

T しかもアメリカの専門家に聞くと、ヘリポートを実際に作り始めて何年もかかって出来たときには、海兵隊はいないという。

K 大田知事のアクションプログラムではね。

T いやアメリカの専門家がたぶんいないと言っている。

K ということは自衛隊が使うことになる?

T たぶんそうでしょう。地元としては誰が使おうと大規模な土木工事で潤うのだから。

K 自衛隊さんももっと堂々として貰いたいね。沖縄に基地が必要ならはっきりとそう言って議論をすればいいじゃないですか。それを、アメリカを隠れ蓑にして、いなくなった後に居座るという論法では、また新たな歴史への欺きではないですか。

●海兵隊は時代遅れ

T そもそも海兵隊そのものが時代遅れになったという議論が海兵隊の中にもある。あれは、敵前上陸という作戦が有効だった時代の遺物で、上陸してから目標までまた歩いて行ったりするわけで、それよりも陸軍空挺部隊をポンと落とした方がいい。だから海兵隊はいらないという話が起きているけれども、まだいるだろうと言っているのは、朝鮮に何かあるかもしれないという北朝鮮脅威論による。しかしこれは1〜2年中に急速に脅威ではないという状況が作られますよ。

K そこでまた中国脅威論に持っていくのかもしれない。結局は、産軍複合体の循環が戦争なくしては維持できないという構図が出来上がっているからそういうことになる。そういうものは21世紀的じゃないということをはっきり言わなくてはならない。日本はそういう構造には与しない、まったく新しい価値観を提供する、というようになってほしい。だから自衛隊は武器ではなく楽器を持って......。

T 全部、軍楽隊にしちゃう。

K 世界の楽隊を集めて祭りの先頭に立てばいいじゃないですか。国連がそれを主催してやれば楽しいじゃないですか。自衛隊の人が言ってました。「喜納さんねえ、われわれが一番、平和主義者ですよ。だって戦争が始まったらわれわれが最初に行かなければならないんですから」と。

T それで船の中では、ドンチャカやったり、勉強会や討論会をやったりしながら、行った先々でお祭りをやる。喜納さんのイメージでは、その時に各地の先住民の人たが......。

K 重要な役割を果たす。船の中でエイサーを教えたり三味線を教えたり、さらにエコロジーや平和や人権の問題でシンポジウムをしたり、学習しながら渡って行きたい。

T それで、黒船が出発したノーフォークまでどのくらいかかる?

K 往復で2カ月です。まあ来年から具体的に呼びかけを始めて、各地で力のある人が名乗りをあげて実行委員会を作ってほしいですね。そうやっていくうちにわれわれもイメージが固まっていくでしょう。祭りは楽しくやらなくちゃ。アメリカという国のネガティブな世界に、日本がアジアの明るいものを持ち運んでいく。21世紀は争うのでなく和合することが大事で、キリスト教であろうが仏教であろうがあらゆる宗教が出会えるという覚醒した意識で集約していく必要がある。だから、破壊のスピードを創造のスピードが追い抜くことが出来れば、コントロールする力が出てくる。その境目にいま立っている。

T そういう入れ替わりがあちこちで起きながら21世紀が明けるなら、新世紀にふさわしい幕開けになる。

●先祖の魂を総動員する

K まあ、夢と片づけられるかもしれないが、新しい出来事は夢から始まる。現実に存在するものはすべて夢から出発したんです。

T そういう意味では、戦後の日本は物質主義というか、カネカネカネの世界で50年もがいて来て、夢を持つ人、語る人が少なくなってしまったんだね。

K もう一度、日本は先祖をね──生きている人間だけでは絶対に世の中は変えられない。死んだ人たちの力を借りないと。だっていま生きている50何億人でしょう。死んだ人間はその40倍、2000億人もいる。その2000億の魂に総動員をかけないと、われわれは権力の総動員体制には勝てない。

T 面白い。そこに歌というものの意味もある、と。どうも長い時間ありがとうございました。▲

2009年12月12日

INSIDER No.524《HATOYAMA》米国は日本国民と沖縄県民を"脅迫"するのを止めろ!──海兵隊のグアム全面移転を最後まで探究すべきである

 7日付の毎日新聞は第1面で「米本国は怒っている/普天間、首相の布石空振り」という大見出しを掲げた。4日の日米閣僚級作業部会でルース駐日米大使は岡田克也外相と北沢俊美防衛相に「本国は怒っている。鳩山由紀夫首相は11月の日米首脳会談でオバマ大統領に『私を信じてほしい』とまで言ったではないか。なぜこうなるのか。このままでは普天間は固定化する」と詰め寄ったというのである。

 9日付の日本経済新聞は、同社と米ジョージタウン大学の戦略国際問題研究所(CSIS)の共催によるシンポジウムの要旨を掲載したが、そこではリチャード・アーミテージ元国務副長官、マイケル・グリーン元大統領補佐官、リチャード・マイヤーズもと統合参謀本部議長ら冷戦思考と対日植民地支配意識むき出しの"昔の名前"の日米安保マフィア連中を並べて、普天間の辺野古移転の「現行の移転案に基づき早急に解決を図るべきだ」との大合唱を演じさせている。 

 日本の新聞は一体どこを向いて物を言っているのか。「怒っている」のは日本国民と沖縄県民である。

 敗戦と占領から64年も経ち、冷戦が終わってからでも20年が経っているというのに、未だに全国29都道府県に(自衛隊との共用を含めて)135施設、10億2700平米の基地を米軍に提供し、約5万人の兵士と5万人近いその家族を日米地位協定により特権的な地位を与えて駐留させ、なおかつピーク時で年間2500億円、78〜06年累計で3兆円に及ぶ「思いやり予算」(間接的な負担も入れればその倍)を振る舞って「駐留して頂いている」ような独立国など、世界のどこにもありはしない。そのことを「怒っている」のは日本国民であり、とりわけ(米軍専用施設に限れば)基地面積の74%を押しつけられている沖縄県民である。沖縄発行の琉球新報と沖縄タイムズを除けば、一度も「沖縄県民は怒っている」という大見出しなど掲げたこともない本土の新聞が、どうして米国の走狗となって「米国は怒っている」などと日本国民への"脅迫"の片棒を担ぐのか。

 米国が怒っている? 怒らせておけばいいではないか。いま我々は初めて、沖縄県民はじめ日本国民の怒りの側に立って過酷な米軍基地の存在を根本から問い直そうとする政権を得たのである。「米国を怒らせたら大変」というこの外交・防衛官僚とその追随者であるメディアの植民地根性を克服するのが鳩山政権の「対米自主外交」である。

 佐藤優は『文芸春秋』1月号「岡田外相"密約開示"が暴く外務省の恥部」で、普天間問題について、岡田が嘉手納だと言い、北沢が日米合意重視、防衛通の前原が国外・県外を唱え、鳩山が「私を信じてくれ」、そして小沢は沈黙を守ったままで、「つまり皆がバラバラであるために、結果的に、諸外国は日本の真意を探りかね......とりあえずは鳩山総理を交渉相手とするほかなく、やはり結果として、鳩山総理の外交的プレゼンスは上昇している。逆説的に響くようだが、これが海外の外交関係者から見た、現在の日本外交の姿なのである。その証拠に、......ゲーツ国防長官のようなコワモテが、公式儀礼もすべて拒否して、民主党政権を一喝し、沖縄基地問題にケリをつけようとやってきたにもかかわらず、最終的には鳩山総理の『私を信頼してほしい』が結論となった形になっている。鳩山総理がどこまで意識しているかは分からないが、これは相当な外交的成果といっていい」と述べているが、その通りである。

 前にも書いたが、メディアは「インド洋での給油を止めるなどと言ったら米国が怒り狂う」と散々書いてきた。しかし、オバマ大統領は文句の1つも言わずにそれを受け入れたではないか。これは鳩山の外交的成果の第1号だが、メディアは前言を訂正することもなく口をつぐんでいる。

●海兵隊のグアム移転

 前回の論説で、『週刊朝日』に表れた伊波洋一=宜野湾市長の「海兵隊は辺野古でなくグアムに返せる!」という主張が「面白い」と書いた。この週刊誌記事も、本サイトのどこかで誰かのコメントが言及していた「きっこの日記」12月5日付ブログの記述も、元になっているのは同市長が11月26日に衆議院で行った与党国会議員に対するプレゼンテーションである。

 そのプレゼンテーションの概要は、宜野湾市ホームページに搭載されているので、それを参照して頂きたい。

※宜野湾市:http://www.city.ginowan.okinawa.jp/
※基地渉外課:http://www.city.ginowan.okinawa.jp/2556/2581/2582/1963.html
※市長レジュメ:http://www.city.ginowan.okinawa.jp/2556/2581/2582/37840/37844.html
※プレゼン資料PDF:http://www.city.ginowan.okinawa.jp/DAT/LIB/WEB/1/091126_mayor_1.pdf

 その要点は前回に書いたので繰り返さない。要は、06年の「日米ロードマップ」合意後、米軍には一貫してヘリ部隊を含めて在沖海兵隊のほぼ全部をグアムに移転する案があって、11月に公表された「グアムと北マリアナ群島の部隊移転に関する環境影響評価書ドラフト」もそれに沿った内容となっているということである。

※環境影響評価書ドラフト:http://www.guambuildupeis.us/documents

 そうだとすると、ルース駐日米大使はじめ米側は、そもそも無理があるからこそ自民党政権ですら強行するのをためらってきた06年「日米ロードマップ」合意を、何が何でも実行しろと脅迫的な態度で迫るのを止めて、グアム全面移転の可能性を含めて交渉のテーブルに乗せて、よりマシな合理的解決策を淡々と話し合うべきである。

●朝鮮半島有事という幻想?

 9日付日経によると、「沖縄に米軍を前方展開することを重視するのはなぜか」との問いにマイヤーズはこう答えている。

「第1に言えるのは地理的条件だ。前方展開戦力は潜在的に『問題』の存在する地域にいることが肝要だ。朝鮮半島有事の際には素早く対応したい。日本から遠い場所に米軍を置けば、その地域の重要性を低く見ていることになる」

「前方展開戦力を遠い場所に置いたとして、有事にどう対応するのか。それは潜在的敵性国家から見れば、ある種の『機会』を与えられたことを意味するだろう」

 この限りでは、在沖海兵隊の主力8000人がグアムに撤退した後も居残る予定の第31海兵遠征隊の主任務は「朝鮮半島有事」への即応であり、「潜在的敵性国家」とは北朝鮮のことである(英文は単数なのか複数なのか----複数なら中国も敵性とみなしていることになるが)。

 そこで、鳩山政権がまず第1に米政府に問いただすべきことは、米軍の「朝鮮半島有事」シナリオと軍事配置の歴史と現状である。

 米陸軍は現在10個の師団と4個の独立した部隊(旅団・連隊)から成っている。それぞれの師団は標準編成として、4個の戦闘旅団、1〜2個の航空旅団、1個の火力(砲兵)旅団、1個の支援旅団から構成される。旅団は、かつては2個連隊以上で構成されたが、今では2個大隊でかつての歩兵連隊規模と同じで、それに補給、衛生、宣撫などの兵科を加えて「旅団戦闘団(Brigade Combat Team)」というユニットを作っている。

 10個師団・4個部隊のうち、海外に「前方展開」しているのは、第2歩兵師団(韓国)と第173空挺旅団(イタリア)の2つである。

 在韓の第2歩兵師団3万7000人は、第8軍指揮下にあって、朝鮮戦争以来長きにわたって、北朝鮮の再侵攻に備えて38度線とソウルとの間にまさに前線配備されてきたが......、

▼2004年に師団を構成する2つの旅団のうち1つがイラクに派遣された後、そのまま韓国には戻らずに米本土に帰還したことから、第1重旅団戦闘団とそれに付随する火力旅団、航空旅団など1万2500人が駐留するのみとなった。

▼2008年以降、北による大規模陸上侵攻の可能性が著しく低減したこと、38線南部の過密な米軍駐留への韓国国民の反感が強まっていることを考慮して、ソウル以南の平澤、大邱、釜山近辺への移駐が進められた。

▼その結果、今では在韓米陸軍第8軍と言っても、実際に韓国に居るのは第1旅団のみであり、他の第2〜第5の4つの師団は米本土の基地にいる。

▼このように事実上"空洞化"している在韓米軍の実態に合わせて、2012年には、朝鮮戦争以来、国連軍司令部という形式で米軍が実質的に握っていた米韓両軍に対する戦時作戦統制権を韓国軍に移管することが決まっている。それに伴って、米第8軍司令部はハワイの太平洋陸軍司令部に統合される。

 つまり、米軍は「第2次朝鮮戦争はない」という考えに立って在韓米軍の縮小を進めているのである。

●在沖海兵隊の実態

 一方、在日米陸軍は、座間にある第1軍団(前方)=在日米陸軍司令部傘下の通信・情報・補給など要員約2000人で、戦闘部隊の常時駐留はすでに行われていない。

 さて、米海兵隊の全体は現在3個の遠征軍から成っており、そのうち第1と第2は米本土に基地があり、海外に「前方展開」しているのは、在沖の第3だけである。遠征軍(MEF=Marine Expenditionary Force)の標準編成は、1個の海兵師団とそれを支援する航空団、兵站群から成っており、師団(Division)は必要に応じて中規模の海兵旅団(MEB=Marine Expenditionary Brigade)やさらに小規模の海兵遠征隊(MEU=
Marine Expenditionary Unit)を編成する。

 在沖の第3海兵遠征軍は、第3海兵師団とそれとは相対的に独立した第31遠征隊を中心に1万3000ないし1万6000人が「常駐」していることになっているが、第3師団について言えば、実態は常駐というにはほど遠く、司令部や支援部隊の機能は沖縄に常駐しているものの、戦闘部隊や砲兵部隊は平常は米本土にあって、その中から必要に応じて順繰りに選ばれた部隊が「部隊配備プログラム(UDP)」に基づいて6カ月程度のサイクルで交代で沖縄に派遣され射撃訓練やジャングル戦訓練を施されてまた本土に帰って行く。UDPで送り込まれる海兵隊員には、高校出でリクルートされたばかりの新兵も多く、日本や沖縄の文化に無知のまま酒を飲んで暴行事件などの犯罪に走る者が後を絶たない。

 「日米ロードマップ」合意は「約8000名の第3海兵機動展開部隊[海兵遠征軍のこと]の要員と、その家族約9000名は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する。移転する部隊は、第3海兵機動展開部隊の指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部及び第12海兵連隊司令部を含む」とされていて、これを日米の官僚は「司令部機能だけが移転する」かのように説明してきたが、司令部機能だけで8000人もいる訳がなく、これは間違いなく本体の師団そのものが移るのである。とは言え、8000人というのはあくまでUDPの定員枠であって、それだけの数の固定した部隊があってそれが丸ごとグアムに引っ越す訳ではない。だから「司令部機能だけ」という言い方が出てくることになる。

 もともと第3海兵師団は「朝鮮半島有事」に備えて「前方展開」されていたもので、まず在韓の第2歩兵師団が第1線で北の侵攻を受け止めて、数日〜1週間以内に在沖の海兵師団が急行して第2線を形成する手はずになっていた。ところが肝心の在韓歩兵師団が定員を3分の1に縮小した上、第1線を韓国軍に譲って後ろに退き、司令部も遠くハワイに移すのだから、在沖の第2線用の海兵師団も「前方展開」を続ける理由がなくなって、司令部ごとグアムに撤退するのである。

●なぜ遠征隊が残るのか?

 そこまではいいとして、だとすると、沖縄に残留する第31海兵遠征隊は何のために「前方展開」を続けるのか。全部をグアムに下げるのはさすがに心配なので小部隊は残しておきたいということなのか。朝鮮半島に大規模陸上戦闘は起きそうにないが、対テロ作戦や特殊作戦を得意とする遠征隊の出番はまだあるという判断なのか。いずれにせよ、マイヤーズが言うように「朝鮮半島有事」が遠征隊を沖縄に残す主な理由だとするなら、どのような「有事」シナリオを想定して同隊をどう運用するつもりなのか、、米国政府は日本国民=納税者にきちんと説明しなければならない。

 それで仮に日本国民を納得させられたとしても、まだ残る議論は、遠征隊本隊と訓練場とヘリ部隊を沖縄に置き、戦闘機と給油機を岩国に置き、ヘリ空母艦隊を佐世保に置き、司令部機能をグアムに置いて、4カ所に股裂き状態になりながら運用するのと、すべてをグアムに移して一体的に配備するのと、どちらが米軍にとって便利かという現実的な問題である。確かに、釜山から沖縄本島までは1000キロ、沖縄本島からグアムまでは2400キロあるので距離がだいぶ遠ざかるというデメリットはあるが、反面、日常から一体的に駐留している分だけむしろ即応力は強化されるというメリットもあるとは考えられないか。

 米側は、グアムでは遠いから日本に中継点が必要だと言うかもしれない。もし嘉手納はじめ在日米軍基地では足りないというのであれば、自衛隊基地でも関空でも有事に使えるよう予め協定を結んでおけばよい。それこそ、旧民主党の「常時駐留なき安保」の実現の第一歩となる。ただし、それもこれも、「朝鮮半島有事」に海兵隊が出動するというシナリオがまだ米側にあるのであればの話であるけれども。

 専門家の中には沖縄は台湾にも近いと言う人がいるが、台湾海峡危機に即応するのは第7艦隊であって、海兵隊が真っ先に飛び出して突入するという作戦シナリオはあり得ない。

 こういったことを時間をかけて双方納得するまで話し合って、グアム移転の環境影響評価の最終報告書が半年後に出るのを待って、結論を下したらどうか。その間、宜野湾市民は普天間の騒音と墜落の危険に悩み続けなければならないが、全面国外移転という最善の結論を追求するために必要な今しばらくの辛抱である。昔のCIAなら、ヘリを小学校の校庭にでも墜落させて、「ほら、鳩山が先延ばししたからこんなことになった」と非難囂々を掻き立てて政権を潰すくらいの陰謀を企むだろうが、今はそんな力量はない。▲

2009年12月 4日

INSIDER No.523《HATOYAMA》あくまでグアム全面移転で押すべきだ──普天間移転問題の年内決着回避は正しい

 普天間の海兵隊ヘリポートの移転問題について、日米の外交・防衛官僚が従来合意通り辺野古への移転で年内にも決着をつけるよう圧力をかけ続けてきたのに対し、鳩山内閣は2日、それを回避し、結論を来年1月以降に先延ばしする方針を決めた。連立内部の国民新党と社民党の「県外移転」へのこだわりに配慮した形をとっているが、これは一種の口実で、鳩山自身は本音は一貫して「国外」を含む「県外」への移転を実現するのが沖縄県民の心情に応える道筋だという信念を持っていて、そのための対米交渉のきっかけを掴むための時間稼ぎである。この方針は正しい。

 これは、かつて55年体制下で、自民党政権が米国の過大な要求に対して「そんなことを受け入れたら社会党が怒り狂って国会が麻痺し政権が保たない」とか言ってワシントンを説得してきたのと大同小異で、連立の戦術的効果である。マスコミがこれを真に受けて、例えば4日付読売が「首相、日米より内政」「日米関係は大きな打撃を受けることになる」などと書いているのは何も分かっていない証拠である。自民党政権が問題が浮上してから13年間、辺野古移転で合意してからでも3年間、専ら内政上の都合で実行を先送りしてきたことが「日米関係に大きな打撃」を与えてきたのであり、それを民主党政権は、より望ましい方向で、数カ月内という極めて短期間に、決着させようとしているのであって、褒められることがあってもケチをつけられる筋合いなどどこにもない。

 そうは言っても、ただ時間稼ぎをしていても仕方なく、官僚レベルの表の折衝はともかくとして、そろそろ本気で水面下の対米交渉を進めるべき時で、そこではあくまで沖縄駐在の米海兵隊全部のグアム移転の実現で押しまくるべきである。

●『週刊朝日』が面白い

 その点で、今週の『週刊朝日』(12月11日号)の「海兵隊は辺野古でなくグアムへ返せる!」は面白い。それによると、普天間基地の地元である宜野湾市の伊波洋一市長は、独自の調査を通じて入手した公開・非公開資料や米軍高官との会談を元に、米軍自身が在沖海兵隊の全面的なグアム移転を構想している事実を明らかにし、11月26日にはそれを資料を添えて鳩山にも伝えている。

▼日米2+2の06年5月の「米軍再編実施のための日米ロードマップ」発表の2カ月後の同7月、米太平洋軍司令部は「グアム統合軍事開発計画」を策定したが、その中で「海兵隊航空部隊とともに移転してくる最大67機の回転翼と9機の特別作戦機(オスプレイ)用格納庫の建設、ヘリコプターのランプスペースと離発着用パッドの建設」を明記しており、普天間のヘリ部隊をグアムに移転させるつもりであることが示されている。

▼伊波市長が07年夏に移転先=グアムのアンダーセン空軍基地と「グアム統合計画室」を訪れた際、現地の米軍高官は「65〜70機の航空機と1500名の海兵隊航空戦闘部隊員が来る予定」と説明した。

▼米海軍グアム統合計画室が11月に発表した「グアムと北マリアナ群島の部隊移転に関する環境影響評価書」では、在沖海兵隊が司令部機能だけでなくヘリ部隊を含めて一体的に移転することを前提に、ヘリ基地の新設、アプラ軍港の増強、テニアン島の射撃訓練場の建設などを環境評価の対象としている。

●引き留めているのは日本?

 そうであれば、辺野古移転は何の必然性もない。防衛担当記者は、「米国側からすれば、日本が辺野古に基地を作ってくれるというのに断る理由はない。海兵隊がグアムに移れば、沖縄に残る陸軍が代わりに使えばいいだけのこと。『思いやり予算』がついてくる新基地をみすみす手放す必要はない」と同誌に語っているが、その通りで、日本が金を出してまで辺野古に居てくれと言うから、「そうまで仰るなら」と米国は辺野古移転に同意しているというのが実態である。

 本論説は11月19日付「普天間移転は見直しが当然」で、公開資料と若干のインフォーマル情報を元に、すでに発表・合意されている限りにおいても、これは主力の第3海兵師団がグアムに撤退して突端的な第31海兵遠征隊が(日本側の好意に甘えて)居残るということであって、日本政府が国民に印象づけたがっているように「司令部機能を中心とするごく一部のグアム撤退」ではないのでははないかと解析し、さらにそんな風に中途半端に遠征隊を残して、沖縄のキャンプと訓練場とヘリポート、岩国の戦闘機と空中給油機の基地、佐世保の艦艇基地を股裂き状態で運用しようとするよりも、全部をグアムに移転してまさに一体的に運用する方が米軍にとっても便利なのではないかと米国を説得すべきだ、という視点を提起しておいた。

 『週刊朝日』による宜野湾市長の指摘は、一部推測交じりだった本論説の主張を裏付けるもので、まことに心強い。

 米軍自身は、東アジアの戦略環境の変化(とりわけ朝鮮半島での大規模陸上戦闘の可能性の低減)、イラク・アフガニスタン両戦争の負担の増大、技術面のプロジェクション(遠隔投入)能力の向上などを背景に、日本と韓国に前進配備した軍隊を大幅に削減・撤退させようとしている。それがいわゆる「米軍再編計画」の本質である。韓国政府はそれに乗じて、陸軍師団を中心とする在韓米軍の撤退を視野に入れた「韓米同盟未来ビジョン」を提起して対米"対等"外交を実践しつつあるが、冷戦思考と対米従属根性を引き摺ったままの日本の外交・防衛官僚は、米軍が削減・撤退すれば日米同盟が弱まるという時代錯誤の危機感に囚われて、むしろ「思いやり予算をもっと出しますから」とか「辺野古に新しい基地を作りますから」とか言って、何とかして米軍を引き留めようとしているのである。

●核の傘を維持する工作

 1つの例は、青森県三沢の米空軍基地からのF-16戦闘機の撤退問題である。本論説が9月17日付「普天間基地のシュワブ移転は中止か?」で述べたように、米国は今年4月の段階で、三沢基地に配備しているF-16約40機をすべて早ければ年内に撤収させること、沖縄県嘉手納基地のF-15約50機の一部を削減させることを日本側に打診したが、これを報じた共同通信の表現によると、「日本側」は「北朝鮮情勢や在日米軍再編への影響を懸念し、いずれにも難色を示して保留状態」にした上で「日米同盟関係への影響などから秘匿性の極めて高い情報として封印」したという。「日本側」とは当時の麻生内閣ではなく、外交・防衛官僚であると見て間違いない。このようにして官僚が政治・外交を操ってきたのがこれまでである。なお、この嘉手納のF-15の一部削減とは半分の25機で、F-16が老朽化に伴って全面撤退した後に三沢に配備されるものであることが後に明らかになった。

 もう1つの例は、これも共同通信が11月24日に伝えた麻生政権下での対米「核の傘」堅持の要請である。「核なき世界」を目指すオバマ政権の下で急激な核兵器削減が始めるのではないかと危惧した米議会は、ペリー元国防長官ら有識者を集めて中期的な核戦略を検討する「戦略態勢委員会」を設置、同盟諸国の意見も聴取するなどして今年5月に報告書をまとめた。その中で、同委員会は2月末に在米日本大使館から意見聴取したが、日本側は「潜水艦発射の核巡航トマホークの退役は事前に協議してほしい」「核の傘の信頼性を高めるため、現在は米国が保有していない『低爆発力・地中貫通型の小型核』を開発・保有することが望ましい」などと申し出ていた。

 トマホークは2013年に退役することになっているが、米議会保守派はそれが核戦略を弱体化させるとして延期を求めている。日本大使館の言い分は、その主張におもねたもので、それがむしろ保守派の動きを勢いづける結果となった。「核なき世界」という目標を日米が共有する中で、しかし現実の問題として日米安保条約下での"核の傘"を日本自身の戦略問題としてどう考えるかを政権として検討した上で米国に意見を述べるのであれば(内容の是非はともかく)まだしも、恐らくこれは出先の大使館が本省と相談の上で勝手に意見具申したものに相違なく、ここにも官僚が政治を無視して国策を動かしている有様が現れている。

 こうした文脈で考えれば、普天間基地の辺野古移転案も、日本の官僚体制による米海兵隊の全面撤退計画に対する引き留め工作にすぎないことは明らかである。この問題こそ、外交・防衛政策における脱官僚主導体制の試金石であり、鳩山政権としては、あくまで海兵隊のグアムへの全面撤退を主張し、それが直ちに実現できない場合の緊急避難的な時限措置として、橋下徹大阪府知事が言い出している関西空港、鳩山の地元の苫小牧東地区などの「県外」、もしくは「県内」にはなるが嘉手納空軍基地への統合など、莫大な費用をかけずに、しかも自然環境を破壊せずに済む方策を見いだすべきである。▲

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