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INSIDER No.518《HATOYAMA》「新しい公共」への価値転換の呼びかけ──理念重視の鳩山所信表明演説

 鳩山由紀夫首相の初めての所信表明演説に対する明日のマスコミの論評は、読まなくても判っていて、「抽象的なことばかりで具体性に乏しい」という基調に立って、あれが足りない、これも甘いと、ないものねだりを並べ立てるに決まっている。しかし、この混沌の時代にあってはとりわけ、政治家の第一の仕事は、たとえ「夢みたいなことを言って」と腐されようとも、自らの信念に従って愚直に大理念を語ることであって、その意味ではこれは、旧政権時代には慣例となっていた官僚的な文脈と用語を一切排除して、国と社会の進むべき道筋を自分の言葉で国民に語りかけた画期的な演説だったと言えるのではないか。以下、注目すべきキーワードを拾う。

●無血の平成維新

「日本は、140年前、明治維新という一大変革を成し遂げた国であります。現在、鳩山内閣が取り組んでいることは、いわば、『無血の平成維新』です。今日の維新は、官僚依存から国民への大政奉還であり、中央集権から地域・現場主権へ、島国から開かれた海洋国家への、国のかたちの変革の試みです」

 小沢一郎も鳩山も、「明治以来100年余の官僚主導体制を打破する革命的改革」こそが政権交代の意義であることを繰り返し語ってきたが、それがここでは「無血の平成維新」という表現を与えられている。このように捉えることが、一個の歴史観の提示であり、それに基づく自分らの政権の歴史上での位置づけの宣言である。

 その維新は、当面、「これまでの官僚依存の仕組みを廃し、政治主導・国民主導の新しい政治へと180度転換させよう」とする一連の体制づくりの下での「戦後行政の大掃除」として始まった。その大掃除は2つの面があり、「1つめは組織や事業の大掃除」である。行政刷新会議を中心に「政府はすべての予算や事務・事業、さらには規制のあり方を見直し......税金の無駄遣いを徹底して排除するとともに、行政内部の密約や省庁間の覚え書きも世の中に明らかにしてまいります」

「もう1つの大掃除は、税金の使い途と予算の編成のあり方を徹底的に見直すこと」で、国家戦略室を中心に「縦割り行政の垣根を排し、戦略的に税財政の骨格や経済運営の基本方針を立案していかなければなりません」

●人間のための経済

 その「経済運営の基本方針」はこれから立案するのだろうが、骨格となる考え方はすでにここに示されている。

「私は、『人間のための経済』への転換を提唱したいと思います。それは、経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済を捉えるのをやめようということです。経済面での自由な競争は促しつつも、雇用や人材育成といった面でのセーフティネットを整備し、食品の安全や治安の確保、消費者の視点を重視するといった、国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済、そして社会へ転換させなければなりません」

 これは、米国流やその小泉亜流の行きすぎた市場主義への批判を含むと同時に、それだけでなく、それこそ過去100年余りの官僚主導による「追いつき追い越せ」の成長至上主義への批判をも含んでいるように見える。別のところで鳩山は「大きな政府とか小さな政府とか申し上げるその前に、政治には弱い立場の人々、少数の人々の視点が尊重されなければならない」と言い、さらに別のところでは「国民生活の現場においては、実は政府の役割は、それほど大きくないのかもしれません。政治ができることは、市民の皆さんやNPOが活発な活動を始めたときに、それを邪魔するうような余分な規制、役所の仕事と予算を増やすためだけの規制を取り払うことだけかもしれません」とも言っている。

 そこですぐに聞こえてきそうな批評は、「大きい政府なのか小さい政府なのか、どっちなんだ」というものだが、欧州ではとっくに、そしてオバマ政権になってからの米国でもすでに、そのような「政府の介入か市場の自由か」という二者択一的な問題設定は過去のものとなっており、その両者の最適ミックスを求める"第3の道"の探究こそが政治の役割となっている。それが日本でも始まったということではないか。

●地域主権改革

「『人間のための経済』を実現するために、私は、地域のことは地域に住む住民が決める、活気に満ちた地域社会をつくるための『地域主権』改革を断行します」

 官僚主導体制とのせめぎ合いは、当面、国家戦略室を司令塔とし行政刷新会議を前線部隊として始まっていく。が、本論説や私と斎藤精一郎教授との対談で触れてきたように、それはしょせんは過去の中央集権国家の下での空中戦であり、出来ることもあれば出来ないこともある。政権の最初の4年間に、その成果と限界を国民の眼前に晒しながら、4年後の次期総選挙もしくはダブル選挙では、民主党は、「だから、これ以上の改革を進めるには中央集権国家の廃絶と地域主権国家の創設が必然なのだ」と言い放って、その具体的プログラムを示して国民合意を求めることになるだろう。

 今は、国会=政治家と官僚体制との空中戦的せめぎ合いとして始まった変革が、それでは完結せずに、地域主権国家への転換という形で地上戦に持ち込まれなければならず、ということはどういうことかと言えば、国民が自ら本当の意味の主権者としてこの国を治める意思を形成できるのかどうかがこの政権の消長を決めるということである。

「いかなる政策にどれだけの予算を投入し、どのような地域を目指すのかは、本来、地域の住民自身が考え、決めることです」

「こうした改革の土台には、地域に住む住民の皆さんに、自らの暮らす町や村の未来に対する責任を持っていただくという、住民主体の新しい発想があります」

 大変なことを鳩山は国民に求めている。「大きな政府か小さな政府か」というのは、政府はどれだけのことを国民にしてくれるのかという旧来型の発想の下での程度問題にすぎない。そうではなくて、地域住民である国民が自分の地域と国とアジアと世界をどうしたいのかがまずあって、中央と地方の政治家が出来ることはそれを政策立案や制度設計や立法技術のプロとして幇助することしか出来ませんよ、ということを言っているのである。

 こんな大変なことを、4年間でこの国民が学び取れるのかどうか、私はかなり悲観的で、民主党政権が倒れるとすれば、「そんなしんどいことを求められるより、政府が何をしてくれるかを待つほうがマシだ」と思って自民党政権への待望が広がった時である。

●新しい公共

「私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う『新しい公共』の概念です。『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』おいわれる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です」

 この後に、先に引用した「実は政治の役割はそれほど大きくないのかも」という文章が続く。

 官と民、公と私を縦横座標軸にとると、これまで100年余りの時代には、「公」は無条件に「官」の専有物であって、「民」はしょうもない「私」的利益を追求するだけの存在だった。それが「官にお任せ」のイデオロギーを蔓延らせた錯覚の大元だった。「公」の担い手を「官」に委ねることは、発展途上国=日本としては必要悪のようなことではあったけれども、この国が1980年に前後して、経済実態としては成熟先進国の仲間入りをして、本当はそこで発想転換をして、「公」は「官」の専有物ではなくむしろ「民」が「公」を担う時代になったことを自覚し、日本型の市民社会の創出に励むのでなければならなかったのだが、それがうまく成し遂げられない間に、「官」は天下りに象徴される「私」的利益だけを死守する退嬰へと堕落していった。

「新たな国づくりは、決して誰かに与えられるものではありません。政治や行政が予算を増やしさえすれば、すべての問題が解決するというものでもありません。国民一人ひとりが『自立と共生』の理念をはぐくみ発展させてこそ、社会の『絆』を再生し、人と人との信頼関係を取り戻すことができるのです」

「私は、国、地方、そして国民が一体となり、すべての人々が互いの存在をかけがえのないものだと感じあえる日本を実現するために、また、一人ひとりが『居場所と出番』を見いだすことのできる『支え合って生きていく日本』を実現するために、その先頭に立って、全力で取り組んでまいります」

 繰り返すが、鳩山は大変なことを我々に求めている。お前らが平成維新という革命の主体なんだ、と。この4年間にそれを悟って、お前らが自ら世直しのために行動し始めなければ、この政権は潰れて、再び長い暗黒が訪れるのだ、と。▲

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