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INSIDER No.517《OBAMA》アフガン戦争で苦境に陥るオバマ政権(その2)──増派か戦略修正か撤退か......

 ムハマッド・カシム・ファヒムは北部のカザフ人部族を基盤とした最有力の軍閥の主で、01年の米英軍の空爆開始と同時に「北部同盟」を率いて首都カブールに進撃を開始、タリバン政権を打倒する上で中心的な役割を果たした。この作戦を企画し資金を提供したのは米CIAであり、米国の傀儡=カルザイが暫定政府議長に就くと同時にファヒムが国防相に任ぜられたのは自然の成り行きだった。02年1月にはカルザイとファヒムはホワイトハウスに招かれ、ブッシュ大統領から賞賛の言葉と共に、「アフガン軍」の創設と訓練のための莫大な援助金を贈呈された。

 ファヒムがアフガン開戦前から有力な麻薬財閥の1つであることは知る人ぞ知る事実だったが、彼は米国から流れてくる資金を流用して、ロシア製の貨物機を購入してロシア経由でのヘロイン輸出ルートを開拓するなどビジネスを拡大し、一気に文字通りの麻薬王へとのし上がった。困ったのはCIAで、この事実が露見すれば麻薬取引者に対する直接援助を禁じた対外援助法違反で告発されることにもなりかねない。かと言って、ファヒムへの資金提供を止めれば、彼を支柱とするカルザイ政権は崩壊するかもしれない。ブッシュ政権トップの秘密会議が何度も開かれたがいい知恵はなく、結局、ラムズフェルド国防長官らが「とにかくタリバンを叩き潰すのが先決だ」と押し切って援助は継続されることになった。ただし、援助はファヒム個人にでも国防相にでもなく彼の部下に手渡すことにして、対外援助法違反を回避することにした。

 しかし、この決定はアフガン戦争の戦略的な失敗の大きな原因の1つとなった。ファヒムが米国のバックアップで麻薬王にのし上がり、カルザイ政権の支柱になっていることはアフガニスタンでは誰でも知っていることであり、民衆の「米国=カルザイ=ファヒム」への不信はますます増大した。他の軍閥指導者も「麻薬で儲ければ出世できるのか」とばかりそれぞれに麻薬で荒稼ぎしてます世は乱れ、その間隙を縫ってタリバンが大復活を遂げた。ところがカルザイは、今年8月の第2回大統領選挙でも、当初はファヒムを副大統領候補にしようとし、米国の強い反対で断念したものの、そのようなカルザイ政権の腐敗は民衆から見抜かれていて、それを押して当選を確保するには大規模な選挙不正に頼るしかなかった。

 米国とカルザイは、当初、不正選挙について、おざなりのサンプル調査だけに止めて隠蔽しようとしたが、国内からの相次ぐ告発と日欧などの国際監視団の指摘で、800カ所の架空投票所で数十万票のカルザイ票があったかに装うなど、不正が大規模のものだったことが判明して、隠し果せなくなった。そのため11月7日に2位のアブドラ前外相との決選投票が行われることになったものの、早ければ今月末から降り始める雪の影響に加えて、「どうせまた不正が行われるに決まっている」という民衆のウンザリ気分、タリバンによる投票所などへの攻撃の危険、約6000カ所の投票所のほんの一部しかカバーできない監視団の制約などからして、これによってカルザイ政権が正統性を得られるかどうかは疑問である。

 このように、肝心のカルザイ政権が半壊状態に陥ってしまっては、なおさら米国は進むことも退くことも出来ない。

●米政権内部の亀裂

 事態をますます混迷させているの第3の要因は、オバマ政権内部に生じている亀裂である。9月中旬以降、正副大統領、安保担当補佐官、国務・国防両長官らを中心にすでに数回開かれてきたアフガン戦略会議では、特にバイデン副大統領が兵員増派に反対し、戦略目標を「アフガニスタン国内でのタリバンの反乱鎮圧」から「パキスタン国内でのアル・カイーダの壊滅」へとシフトするよう主張している。各種報道を総合すると、バイデンの言い分は次の通り。

▼アフガニスタン国内の米軍は増派するのでなくむしろ削減すべきだ。
▼今は米軍の主任務はタリバンの反乱からアフガン国民を防護することに置かれているが、それよりもむしろ、主としてパキスタン北部の村々に潜むアル・カイーダを無人偵察機によるミサイル攻撃と特殊部隊の突入によって壊滅させることに集中すべきだ。
▼米国の安全保障上の利益はパキスタンにかかっているというのに、米国はパキスタンに注ぐ戦費の30倍もの戦費をアフガニスタンで使っている......。

 ジョーンズ安保担当補佐官も次第にバイデンの考えに近づいていると言われるが、クリントン国務長官は、タリバンを完全にやっつけて2度とアフガニスタンで権力を握ることがないようにしなければ、同国は再びアル・カイーダの巣窟になるとして、これに反対している。オバマ自身はもちろん増派を公約しており、アフガニスタンを半ば放棄するに等しいバイデン案を簡単に呑めるはずがないが、しかし彼も、8月大統領選挙の惨憺たる結末には落胆しており、アフガニスタンに信頼するに足る正統性を持った政府が存在しないまま増派に踏み切ることには強いためらいを感じている。増派は、それが2万であろうと4万であろうと、「ブッシュの戦争」が「オバマの戦争」に転化することを意味しており、それでタリバン掃討の成果を上げられなければ彼の内外での評価は失墜する。

 この議論を睨みつつ、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は「アフガニスタンの厳しい選択肢」と題したNYタイムズへの寄稿で、要旨次のように述べて整理を図っている(インタナショナル・ヘラルド・トリビューン10月5日付)。

▼現在のアフガニスタン戦略は、古典的な反乱鎮圧方式に基礎を置いている。すなわち、中央政府を作り、その政府が国民生活改善に取り組めるよう関与し、さらにその政府自身の軍隊が我々の訓練計画によってその任務を取って代われるようになるまでの間、我々の軍隊がその国民を防護する、ということである。
▼ところが現地司令官のマクリスタル将軍は現在の兵力ではその使命を果たすには不十分であると言っている。となると、選択肢は3つである。
▼第1に、今の兵力水準を増やさないことである。これは、マクリスタル将軍が提唱している戦略を止めるということであり、米国がアフガンから撤退する第一歩と受け止められるだろう。
▼第2の選択は、現在の兵力水準を維持するが、反乱鎮圧よりもテロ撲滅に焦点を絞った新戦略に移行することである。この考え方によれば、タリバンはグローバルではなくローカルな存在であって、主要な打倒目標ではないので、彼らと交渉してアル・カイーダを孤立させるというのだが、これはアフガンからの全面撤退の別の形となる。私のようないわゆるリアリストでも、タリバンと協力するという考えには吐き気を覚える。
▼第3は、兵力を増派して、内乱を鎮圧して国民を防護するという戦略を続けることである。安易な戦略転換は不信と混乱の元になるのでそれが望ましい。が、今まで通りにやっていけばいいというのはなく、政治的な環境整備に重点を移す必要がある。ゲリラとの戦いでは、国土の100%を時間的に75%支配することよりも、75%の地域を100%支配することが重要で、それには地域の部族や民兵とも手を組んで地域を抑えることに最大の努力を注ぐべきだ。
▼また、国際テロに脅威を感じている近隣諸国との協力は不可欠である。パキスタンはアル・カイーダに、インドはジハド主義や特定のテロ集団に、中国は新疆のシーア派原理主義のジハド主義に、ロシアは不安定な南部イスラム地帯に、イランでさえもスンニ派タリバンの原理主義者に、それぞれ脅威を感じている。これらの国々がNATO諸国も加えて一堂に会して、アフガニスタンの難問解決のため協力する態勢をとるべきである......。

 米外交政策マフィアのドンといえども名案はなく、公約通りに兵員を増派するけれども、もっと地域部族との連携を巧くやれないか、という程度の話である。

●軍事的解決はない

 しかし、タリバンが国土の約半分を実効支配するまでに復活してきた最大の要因は、それが掲げる「全外国軍隊の撤退」という目標が民衆ばかりでなく部族首長や軍閥指導者の間で説得力を持っているからである。タリバンの原理主義的な統治には反感はあるものの、少なくとも米軍が入ってくる以前には、これほどまでに国が乱れて生活に困窮することはなかったし、村人がミサイルやロケットで無差別に爆殺されることもなかった。米軍は民衆を防護すると言うが、米軍が無差別殺人を行い、それに対する報復として自爆テロをはじめゲリラ攻撃が起きているのであって、米軍がいなければそのどちらも起こらない。この状況では、米国は4万どころか10万を増派しても、キッシンジャーの言う「75%の地域を100%支配する」ことは出来ないだろう。

 それに比べれば、パキスタン北部でアル・カイーダ退治に専念するというバイデンの案は、多少とも合理的と言えるが、すでにアル・カイーダはそれを想定して、パキスタン中部から南部にまで分散して、ローカルな過激派と連携してイスラマバードを脅かしている。つまり、軍事力による解決はないということである。

 この苦悩の選択に直面して、そもそも軍事的には何の意味もないインド洋での日本自衛隊の給油活動を続けるかどうかなど、オバマ政権にとってはどうでもいい枝葉末節であって、「止めたいなら勝手に止めてくれ」というのが本音である。▲

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