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INSIDER No.515《OBAMA》アフガン戦争で苦境に陥るオバマ政権(その1)──増派か戦略修正か撤退か......

 イラクからは早期に撤退するが、アフガニスタンには兵員を増強してでも必ず勝利を達成するというのがオバマ大統領の選挙公約だが、その公約を取り下げざるを得ないのかどうか、同大統領は苦悩に満ちた選択に直面している。就任当初は圧倒的だった支持率は、10カ月後の今は50%前後で低迷していて、その少なくとも半分は、アフガン戦争の泥沼化を目の当たりにして米国民の間に厭戦気分が広がりつつあることが原因と見られている。それを押して公約通り増派に踏み切るのか、逆にアフガン内戦への関与を事実上放棄してパキスタン北部での対アル・カイーダ掃討に目標を限定するのか、それともその中間の折衷案を採るのか----それ次第で政権の浮沈が左右されかねない重大局面を迎えている。オバマの決断の期限は今月末である。

●深まる泥沼化

 10月7日で米英軍のアフガンニスタン空爆開始から丸8年を迎えた現地の状況はますます芳しくなく、泥沼化はむしろ深まっている。AP通信などによると、米兵の戦死者数は7月44人、8月45人と過去最悪を更新し続けており、また民間団体の集計によると、NATO軍などを含めた全外国人兵士の今年の死者は8月末で301人で、昨年1年間の294人をすでに上回った。10月3日には東部ヌリスタン州で、国際治安支援部隊(ISAF)の基地をタリバン・ゲリラ約300人が攻撃して激しい交戦となり、米兵8人とアフガン特殊部隊員2人、警察官1人の計11人が死亡した。一度に米兵8人が死亡したのは過去1年間で最悪。また別の米兵1人も3日、東部で起きた爆弾の爆発で死亡した。さらに国連アフガニスタン支援団によると、民間人の死者も昨年は2000人を突破、今年前半で1013人に達した。

 ペンタゴン首脳でさえ「極めて深刻」と認めているこの事態をもたらしている第1の要因は、タリバン勢力の全土における目覚ましいまでの復活である。

 そもそも、テロを撲滅するのにアフガニスタンを相手に国家間戦争を仕掛けるというブッシュ前大統領とネオコンの戦略設定そのものが根本的に間違っていたことは、今は措こう(それについては高野著『滅びゆくアメリカ帝国』
を参照)。

 それにしても、戦争を仕掛けるについて、紀元前6世紀から始まるこの地域の宗教や歴史、それに基づく社会構造への米国の無知は覆いがたいものがあって、タリバンのような反民主的な宗教独裁は人々から恨まれているに相違なく、軍事的に一撃を加えればひとたまりもなく引っ繰り返って、タリバンに保護されたアル・カイーダもたちまち掃討できると錯覚した。ところが実際には、数千年の歴史を持つ部族社会がこの国の基本構造であり、その上に「軍閥」による地方分割支配が成り立っていて、タリバンというのはその軍閥と部族社会にある種の統合原理を提供したのであって、それに対してたかだか230年の歴史しか持たない米国が物理的軍事力に物言わせて挑むのは無謀なことだった。

 加えて、その部族社会の中心勢力でありタリバンもまたそれに基礎を置くパシュトゥン人は、170年間に4度にわたって白人超大国と戦って1度も負けなかったことに自信と誇りを持っている。英国は1838〜42年の第1次アフガン戦争では1万6000の東インド会社軍を全滅させられ、1878〜81年の第2次アフガン戦争では戦況膠着のまま面子だけ守って撤退を余儀なくさせられ、1919年の第3次アフガン戦争でもアフガン軍のインド越境攻撃に手を焼いて、結局アフガニスタンに完全独立を認めざるを得なくなった。また旧ソ連はアフガンの傀儡政権に対するイスラム武装勢力の反乱を鎮めようと1979年に10万を超える陸軍師団を投入したが、10年間の悪戦苦闘の末に惨めな撤退を強いられた。19世紀の超大国が3度戦って1度も勝てず、20世紀の2つの超大国の1つが10年間も戦って勝てなかったのは何故かを顧みることもせずに、残されたもう1つの(そして最後の)超大国が同じ轍を踏んでいるのは、悲劇を通り越して喜劇に近い。

 タリバンの軍資金は豊富で、その源は、一般に信じられているように、年間7000万ドルと推計される阿片密輸収入だけではない。米誌『タイム』9月7日号が報じたところでは、世界各国から復興支援のために寄せられた莫大な援助金は、国連や各国援助機関を通じて現地の建設会社などに流れるが、脅迫、身代金目当ての誘拐、事業の安全を保証する代わりに取り立てるみかじめ料もしくはショバ代などの形で上前を撥ねているのがタリバンである。そう言うと聞こえは悪いが、タリバン側から見れば、国土の半分以上を実効支配している地方権力として秩序維持のために徴収している"税金"という位置づけである。その金が、例えば自爆テロ1件につき報酬750ドル(経費は別途支給、米兵が何人死んだかを示す証拠ビデオを残せばさらに割り増し----もっとも受け取るのは遺族だが)という相場でバラ撒かれるので志願者が後を絶たない。あるいは、ドイツの援助機関の下請けをしている契約業者の一例では、軍事攻撃の対象としないという約束を取り付けるためのみかじめ料は現金で1万5000ドルだった。

 治安が回復しないどころかますます悪化して事実上の内戦状態にあるのに、もはや内戦は終わったかの架空の前提で無理矢理に民生支援を始めてしまった結果、援助金がタリバンの軍資金に吸い上げられて治安悪化を助長するという悪循環に陥っているのである。

●カルザイ政権の腐敗

 事態を深刻化している第2の要因は、肝心のカルザイ政権の腐敗・堕落である。ハミード・カルザイは、96年にタリバン政権によって駐国連大使に任命されたこともあったが、タリバンとイスラム過激派の結びつきが強まったことに反発して反タリバンの立場に身を移し、それを理由の1つとして有力部族長だった父親を殺されている。一時は米石油開発会社ユノカルのコンサルタントとして、中央アジアからアフガニスタンを縦断してインド洋まで石油パイプラインを敷設する計画を推進していた。軍事攻撃の裏で素早く石油利権を確保するというチェイニー副大統領(当時)らネオコンの好みにピッタリの人物として、まさに米国の傀儡として01年12月、アフガン暫定政府の議長に押し立てられ、04年10月の戦後初の大統領選挙で当選して大統領に就任した。

 しかし、アフガニスタン再建の主軸となるには余りに無力で、首都カブールの治安はおろか自分自身の身辺警護さえ米軍に頼るような有様が続いてきた。しかもカルザイは、軍閥や部族を味方に引きつけるために利権をバラ撒き、あるいは半ば公然たる麻薬密売組織のボスを政府高官に就けるなど、自らの政権を腐食させてきた。その象徴が、前国防相のムハマッド・カシム・ファヒムで、彼は最も有力な麻薬財閥のオーナーだが、こともあろうにカルザイは今年8月の第2回大統領選挙に当たって、このファヒムを2人の副大統領候補の1人に指名しようとしてオバマ政権の決定的不信を買った。(続く)▲

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