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« INSIDER No.505《ELECTION》中央集権国家を止めるのか止めないのか?──総選挙の真の争点は「国家像」
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INSIDER No.506《ELECTION》「地域主権」こそ財政再建の決め手となる!──原点は松下幸之助の「無税国家」構想

 全国知事会が7日、自民・公明・民主3党代表を招いて各党の分権改革構想について公開討論会を開き、さらにそれを踏まえて翌日に各党マニフェストへの採点簿を発表したのは、まことに画期的な試みで、本来であれば、知事会に限らずさまざまな地域・経済・業界・職能・労働団体やNPO連合などが自分らの主要な政策的関心事についてこのような討論会を開いたり採点簿を公表したりして、参加の構成員はじめ世論に対して政権選択のための具体的な判断材料を提供するというのが、「政権交代のある政治風土」を涵養する上で不可欠のインフラの1つである。例えば米国では、労組が選挙のたびごとに、自分らに直接的に利害関係のある法律や間接的に関心がある法律について、(米国では原則として党議拘束がないので)上院6年、下院2年の任期中の全議員の投票態度を○×で一覧表にして全組合員に配付したりするし、さまざまの団体が似たようなことをするが、日本では、日本青年会議所が各地で全候補者を招いた討論会を開く努力を重ねて来たのを例外として、そのような政治文化はまだ形成されていない。

 その点では知事会の試みは評価されるべきであるけれども、中身となると結構お粗末で、そもそも、前稿で指摘した「地方分権」と「地域主権」の区別も定かならぬまま「地方分権型の国家像の明示」度を評価したり、それと大いに関連することだが、「地方消費税の充実」「地方交付税の増額」など地方財源の確保について不当とも言える高い評価を自民党案に与えたりしている。このことは、知事たち自身が、現行の中央集権国家が今後も続くという前提に立って地方の取り分を増やして欲しいと思っている発想から抜け出ていないことの現れである。また、この会議をリードした橋下徹=大阪府知事が特にこだわった、分権をめぐる「国と地方の協議機関設置」の明文化などはくだらない問題で、それで民主党がオタオタして急にマニフェストに書き加えることになったのは、なおさらくだらない。「地域主権国家に転換するのに、地方と緊密に議論するのは当たり前で、当たり前すぎるからマニフェストには書いていないだけだ」くらい言っておけばいいのである。

 知事会も「協議機関の設置」程度で満足するのでなく、むしろ新党日本がマニフェストの第1章「行政・財政改革」の「提案3」の中で言っているように、「参議院議員は全国比例区選出、並びに中央vs地方の不毛な二項対立を解消すべく、フランス等に倣って47都道府県と18政令指定都市の首長が兼務する構成に改める」という主張を積極的に評価して、フランス型(下院と全地方議員による間接選挙)かドイツ型(州政府による任命)か米国型(各州2名の直接選挙)かはともかく、「参議院を地方の意思を反映する場に根本的に変革しろ」くらいのことを言えばよかった。

●起点は『日本再編計画』

 さて、地方分権構想の歴史は古いが、今日問題の焦点となりつつある「地域主権」という言葉を明確に提起し、それを「中央集権」に置き換えられるべき対立概念と位置づけたその起点は、斎藤精一郎責任監修『日本再編計画』
(96年、PHP研究所)である。

 国民が重税に喘いでいるにもかかわらず財政赤字がますます増大し、急激な高齢化に伴う社会保障費の負担もどこまで高まるのか見当もつかない中で、このままでは日本が国家破綻に突き進んでいくことは避けられない。これを回避して社会に創造性と多様性に満ちたダイナミズムを取り戻す「賢者の道」は1つだけ残されていて、それは「地域主権」型行財政構造への転換である——としたこの斎藤プランは、当時政界にも大きな波紋を呼び、94年12月に結成されて1年半余りだった小沢=新進党も、96年9月に結成されたばかりの旧民主党も、これを大いに重視した。

 96年10月の総選挙で、新進党は突如として「消費税は3%に据え置き、所得税・住民税を半減して来年度から18兆円の減税を実施する」というマニフェスト(これが日本初の政党マニフェスト!)を掲げて人々を驚かせたが、これは実は、斎藤プランが97年度から地域主権国家に転換した場合「2000年には早くも18兆円の支出削減が可能」としていたことにヒントを得て打ち出したものだった。斎藤プランでさえ、一種の机上の空論であったものを、しかもいきなり来年度から巨額減税が実施可能であるかに言うのは、拙速というより粗暴で、これが一因となって同党は伸び悩んで「政権奪還」の目標を果たせなかったばかりか、その直後から党運営を巡るゴタゴタが始まって四分五裂に陥っていった。他方、旧民主党は初の総選挙となったこの選挙で52議席を確保する善戦で、その直後に熱海で開いた当選議員総結集の政策合宿で、第1番目の講師に斎藤を招いた。

 ことほど左様に、斎藤プランは、新進党から後に自由党を経て民主党に合流した小沢を含めて、今日の民主党が総意として「地域主権国家への転換」を掲げるに至る起点をなしていたのである。

 因みに、この斎藤プランづくりのプロジェクトを取り仕切ったのが、当時はPHPの副社長だった江口克彦で、同プロジェクトの終了後も、『地域主権論/関西独立のすすめ』(92年)、『脱中央集権国家論』(02年)、『地域主権型道州制』(07年)、『日本を元気にする地域主権』(前原誠司ら民主党議員との地域主権研究会の討論のまとめ、08年)、『国民を元気にする国のかたち』(08年)、『地域主権型道州制がよくわかる本』(09年)などを精力的に出版、このテーマに関する伝道師の役目を果たしている。ただし、斎藤プランでは「12州257府(基礎自治体)」に再編するものの「州はあまり強い権能を持ちえず、広域的な公共事業、危機管理、警察などの仕事に限られるとしていたが、江口はその後次第に強く「道州制」を主張するようになってきたようだ。

●松下幸之助の“遺言”

 斎藤プロジェクトは正式には「『無税国家』研究プロジェクト」と名付けられていた。「『無税国家』とは20年以上も前に、故松下幸之助が提案したアイディアである。このアイディアをひとつのベースに、これからの日本の目指す国家像を検討してきた。そして、大胆な国家の再編によって生み出した資金を、基金として積み立てるという、いままでの国家運営にはない発想を編み出した。それが『日本再建計画』である」(同書まえがき)。

 松下はそのアイディアをいろいろな形で語ったようだが、同書に参考資料として再録されている79年11月読売国際経済懇話会での講演「私の無税国家論」では、要旨次のように言っている。

▼今、高率の税金で非常に国民は苦しんでいて、にもかかわらず政府は財政窮迫して赤字国債を発行して国費に充てているという非常に前途暗澹たる状態である。それでは困るので、今から120年という期間をとって、まずその研究準備に入り、21世紀の初めから無税国家への道を歩んでいきたい。
▼日本では、国家予算は全部使い切りだが、これを、原則として予算の1割は余らせて、それを年々積み立てていく。明治の初年からそうしておったならば、今日まで110年間に、今日の貨幣価値にして500兆円前後もの積立金が出来て、それを年5分で運用するとそこから25兆円、本年度の国家予算の約6割に相当する余剰金が出て、税金はもうあまり要らないということになる。もしそれが1000兆円であれば50兆円が浮き、本年度予算の36兆円は全部利子収入によって賄うことが出来る。
▼今は、(企業や個人が)儲けてもかなりの大部分が税金になってしまう。しかし、なんぼ儲けても税金が要らないということになれば、これは面白いということで、大いに働くだろう。そういう1つの目標を立てそれに邁進していくことを、政治の各面に注入して、成果をあげるようにもっていくと考えたらどうか……。

 ここにはもちろん「地方分権」も「地域主権」も出て来ない。松下が89年に亡くなって後、彼の秘蔵っ子だった江口がこの“遺言”を本当に実現可能にする鍵は地域主権への転換ではないかとの想定の下、主査の斎藤はじめ本間正明(大阪大学教授)、曽根泰教(慶応大学教授)ら10人の経済・行政・財政・税制の専門家を集めて93年1月にこのプロジェクトを発足させ、3年半をかけて出版にこぎ着けたのだった。

 松下の原初アイディアはいささか突拍子もないものと映るし、斎藤らのプランも机上シミュレーションの域を出ないが、問題はその細部を突き回すことではなく、「地域主権(国家)」という言葉が最初に広く知られるようになった出立の時から、財政再建というにとどまらず、さらにその先、限りなく無税に近づいて行きながら財政を豊かにし経済と地方を元気にしていくための決め手となる逆転の発想として打ち出されてきたものであることを、しっかりと認識することである。マスコミがこのことを知らないのは仕方がないとして、最近なり立ての政治家や知事もそこまで勉強が行き届かず、さらに当の民主党もそこをきちんと説明しきれないまま、皆が皆、一知半解のような状態で議論しているのは非生産的と言うしかない。

 この考え方を独自に発展させたものとして、前志木市長で現在はNPO「地方自立政策研究所」を主宰する穂坂邦夫らの『地方自治自立へのシナリオ』(08年、東洋経済新報社)がある。埼玉県と草加市をモデルとしてとの全事業を吟味して仕分けし、その結果を全国に適用したところ、総額で地方財政全体の規模83兆円のうち17%に当たる14兆円を削減できることが明らかになった。国の事務事業については「予算委員会にも具体的な予算資料が提出されていないため……同様の仕分けができませんでしたが」地方分の削減額に対応させると「少なくとも9兆円ぐらいが国にも削減余地はありそう」で、「そうすると少なくとも地方と国を合わせた削減可能額は22〜23兆円になるのではないでしょうか」(江口・前原『日本を元気にする地域主権』での穂坂の発言)。

 地域主権国家への転換によって、斎藤プランでは年30兆円、穂坂試算では22〜23兆円が削減可能で、穂坂によれば「こうした視点から抜本改革を進めるには、やはり政権交代をするしかない」。逆に、民主党の立場からすれば、地域主権国家への転換に踏み切れさえすれば財源などいくらでもあるのであって、中央集権国家が続くという前提での個々の政策への財源対策などどうにでもなることだと言い切ればいいのである。小沢も鳩山も菅もそこが基本的には分かっているが、クソ真面目な岡田が分かっていないのがまずい。

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《参考・斎藤「地域主権」プランの概略》
 『日本再編計画』はもはや絶版なので、参考までにその要点をまとめておく。繰り返すが、その細部ではなく、国家像を考える発想の仕方を学ぶことが地域主権論の入門編となる。

【地域主権の3原則】
(1)住民と行政との距離を近づける——住民になるべく近い単位に意思決定の中心を置く。新たに誕生する257の府(基礎自治体)が住民に身近な行政を独自に展開できる姿を目指す。州は広域行政にかかわる仕事のみに特化し、あくまで府の自主的運営を側面から補助する役割に徹する。「限りなく一層制に近い二層制」を指向する。
(2)税金を通じた住民参加と選択——「行政主導」ではなく「住民主役」の行政制度を作る。地域が税率や税目、行政サービスの内容や水準をメニュー化し、住民がそれおを比較・選択することが望ましい。
(3)行政の意欲と活力の向上——国が補助金(アメ)と機関委任事務(ムチ)を使って地域を管理している構造を断ち切り、地域が自主性と自己責任にもとづいて行政運営を行っていく構造に変えていく。

【国の4つの役割と5庁制】
国民生活への過剰な介入を行う「大きく、複雑で、愚かな」国から、国民全体の利益に関わる分野や、高度な政治的判断が求められる分野以外は一切関与しない「小さく、簡素で、賢明な」国へと方向転換していく。具体的には次の4つの役割となる。
(1)外交・防衛(国際公共財の提供)
(2)医療・年金(国民基盤サービス)
(3)ルール設定・監視(検察・裁判所の運営管理、消費者保護や金融システム維持を含む)
(4)調査・高等学術研究

これらの機能を担うのは、法務庁、対外関係庁、歳入庁、生活環境庁、総合行政庁の5庁で、総合行政庁は防衛庁を含む各種委員会を統括する。

【12州の創設】
現行の都道府県を再編し、新たに10州プラス2特別州を創設する。州は府の後見役として府単独では出来ない仕事や広域に及ぶ仕事、具体的には公共事業、危機管理、警察などの行政事項のみ担当する。したがって、州はあまり強い権限は持ち得ない。

【首相公選制】
国の政治制度は、総理大臣を直接選挙で選ぶ「首相公選制」を採用する。衆議院は将来的には府を1小選挙区として定数257とする。参議院は州を選挙ブロックとして各4名を選出し(定数48)国政に対して州の意向を反映させる。

【税源体系の改革】
所得税・個人住民税の3分の2、固定資産税は「府税」、
法人税・法人住民税・法人事業税、消費税は「州税」、
所得税・個人住民税の3分の1、相続税、たばこ・酒税、関税は「国税」とする。
これによって国と地方の税源配分は現在の6:4から2:8に転換する。不可避的に生じる過度の地域間格差は、国が財源を保障する「垂直的調整」ではなく、州相互が助け合うドイツ型の「水平的調整」のメカニズムによって是正する。

【歳出30兆円削減】
国レベルでは、産業振興費廃止、郵政など民営化効果、行革効果、事務移転などで(制度革新後10年後に)20兆円、地方レベルでは、市町村再編効果、産業振興費廃止、財政調整、事務移転などで10兆円、計年々30兆円の支出を削減し、その余剰金を「21世紀活力基金」として積み立て、その蓄積と運用益を以て増税に代わる福祉財源、公債の返済、活力維持のための減税に利用する。2020年には所得税ゼロも可能になる。▲

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