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INSIDER No.480《ANPO》小沢一郎発言「在日米軍は第7艦隊で十分」の見識・その1──脅威の見積もりなしに行われる議論の不思議

 在日米軍再編に関連して小沢一郎民主党代表が「第7艦隊がいれば十分だ」と発言したことが波紋を呼び起こしている。

●小沢発言

 小沢の発言は次の通りである。

▼ただ米国の言う通り唯々諾々と従っていくということでなく、私たちもきちんとした世界戦略を持ち、どういう役割を果たしていくか。少なくとも日本に関係する事柄は、もっと日本自身が役割を分担すべきだ。そうすれば米国の役割は減る。この時代に前線に部隊を置いておく意味はあまりない。軍事戦略的に第7艦隊が今いるから、それで米国の極東におけるプレゼンスは十分だ。あとは日本が極東での役割をしっかり担っていくことで話がつくと思っている(24日、奈良県香芝市で記者団に)。

▼(米空軍などは)いらないと言っているのではなく、日本もきちんとグローバル戦略を米国と話し合って役割分担し、その責任を今まで以上に果たしていかなければいけないという意味で言っている。日本も米国におんぶに抱っこになっているから。自分たちのことは自分たちでやるという決意を持てば、米軍が出動部隊を日本に置いておく必要はない。ただ、どうしても東南アジアは不安定要因が大きいので、米国のプレゼンスは必要だ。おおむね第7艦隊の存在。あとは日本の安全保障、防衛に関連することは日本が、自分のことなんだから果たしていくということだ(25日、大阪市で記者団に)。

●それへの反応

 これに対して政府・与党側や在日米外交筋からは25〜26日にかけて一斉に反発が湧き起こった。

▼「日本の周りには核実験をし、搬送手段を持ち、日本を敵国かのごとく言っている国が存在する。その時に同盟国である米国が海軍だけ。あとは空軍も海兵隊も陸軍もいらないと。防衛に少なからぬ知識がある人はそういう発言はしないのではないか」(麻生太郎首相)
▼「自前の防衛予算を3倍から5倍にでもしようかという勢いかもしれないが、暴論以外の何ものでもない」(町村信孝元官房長官)
▼「(小沢発言は)日本の軍備増強でカバーしていく発想。民主党の旧社会党系、共産党、社民党の方々がよくご一緒に行動しておられるなと思う」(伊吹文明元幹事長)
▼「日米同盟にひびが入る。民主党政権が実現すると、我が国の安全保障は根底から覆される。次期総選挙の争点だ」(山崎拓元防衛庁長官)
▼「極東における安全保障の環境は甘くない。空軍や海兵隊などの必要性が分かっていない」(ケビン・メア駐沖縄総領事)

 また本来的に反安保の社民党・共産党からは戸惑いのコメントがあった。

▼日本は世界全体が軍縮に向かうイニシアチブを取るべきだ。軍拡の道を進むことで(米国の)イコールパートナーになるのは間違っている(志位和夫共産党委員長)
▼「軍備拡張にはとにかく反対だ」(福島瑞穂社民党党首)

●何が問題か

 第1に、このような議論が全体として不毛なのは、冷戦が終わって旧ソ連の脅威が基本的に消滅した後で、この国がいかなる現実的・潜在的な軍事的脅威に直面しているのかという冷静な「脅威の見積もり」(という防衛論の大前提)を欠いたまま行われていることである。

 そもそも旧ソ連の対日脅威というのも、実体的には、戦闘爆撃機によるエアカバー(爆撃等による制空)の下での空挺部隊や特殊部隊の降下は可能であっても、主力の機甲師団の渡洋上陸による本格的な侵攻は、ウラジオストック港への渡洋上陸艦の集結が行われていない状況では全くの潜在的脅威に止まっていた。ところが当時マスコミは、潜在的と現実的の区別など(意図的に?)無視して脅威が差し迫っているかに煽り立て、とりわけ週刊誌などは「ある日突然、札幌のあなたの家の庭先にソ連軍の戦車が!」などと面白おかしく書き立てた。そういう無責任な記事のために、青森の女性が稚内の男性に嫁ぐ縁談が女性の親の反対で破談になったという笑えない実話さえ生まれたほどだった。

 実際に現地の指揮官などと個人的に議論すれば、現実的な脅威が差し迫っている訳ではなく、もしそうならすでに自衛隊も迎撃のために臨戦態勢に入っていなければならないが、そういう事態とは認識していない旨明言する。しかし、防衛省や政府・与党にしてみれば、脅威が迫っていることにしておいた方が防衛予算も通りやすいので、そのような報道の過熱を放置するどころか、恐ろしげな情報をリークするなどして裏から火に油を注ぐような真似さえする。

 そのように、脅威は元々大げさに扱われやすいもので、その最悪の事例の1つが、「サダム・フセインが大量破壊兵器を隠していて、それが今にもテロリストに手渡されようとしている」というイスラエル情報機関が流した偽情報にブッシュ前大統領が引っかかってイラク戦争を始めてしまったことである。

 さて、冷戦が終わって旧ソ連の脅威は潜在的なレベルでさえもほぼ消滅し、それならばそれを主敵として組み上げられてきた在日米軍と自衛隊の兵力・装備・配置、さらに両軍の日本防衛のための共同作戦計画も大幅に縮小する方向で徹底的に再検討されなければならなかった。が、不思議なことにそういう動きは一切起こらず、例えば陸上自衛隊は3000両の戦車を北海道に配置して旧ソ連の上陸強襲作戦に備えるという構えを、今日に至るも基本的には崩していない。そうこうする内に今度は北朝鮮のミサイルが脅威だということになり、それでも足りないとなると、中国の海軍力の増強が著しいことが盛んに採り上げられた。北のミサイルは米国による“先制攻撃”を抑止しつつ外交交渉の切り札としても活用することが狙いであり、また中国の海軍増強は、米第7艦隊と少なくとも緒戦において張り合えるだけの力を持たないと「いざとなれば台湾を武力解放する」という建前が維持できないからである。いずれも米国との関係の上で企図されていることであり、日本に軍事攻撃を仕掛けることは特に予定されていない。ところがそんなことはお構いなしで、北が怖い、中国が危ないという世論操作が罷り通る。民主党の前原誠司元代表が米国で演説して「中国の軍拡は日本にとって現実的な脅威だ」と言ったのは、明らかに防衛省の情報操作に乗せられたもので、彼が防衛に関して素人であることを露呈したものだった。

 こうして、冷戦時代からポスト冷戦20年を経た今日まで、この国は本当のところ、どこからの、どういう種類の、どのくらい大きな脅威に直面しているのか、正確な認識を持ったことがない。その状況をそのままにして、在日米軍にせよ自衛隊にせよ、その兵力・装備・配置が適正であるかどうかを議論すること自体が珍妙である。

 もちろん、上述のように旧ソ連の脅威が元々過大に言われていて、その脅威の相手を北朝鮮と中国に“横滑り”させながら基本的に冷戦時代と変わらない態勢を維持してきた訳で、どちらにしても日本防衛の目的からして在日米軍は過大であるに違いなく、小沢が言うのは正しい。ただし彼も、日本が晒されているのはどういう脅威であって、だから第7艦隊の象徴的存在で十分なのだということを説得的に説明する必要があるだろう。また、第7艦隊を含む在日米軍は、日本防衛の約束のためだけに居るのではなく、西太平洋からインド洋、ペルシャ湾までの地球の半分での米軍事戦略の展開の最重要拠点として日本を利用しているという側面があり、それを日本としてどこまで許容するのかという問題もある。

 それに対して政府・与党側の批判は総じて、自分の頭で脅威の性質と適正な日米兵力の水準について考えたことのない人の発言で、つまりは「米国が必要だとおっしゃっているのに、なんて小沢は失礼なんだ」ということに尽きる。こういう思考が日本のあるべき防衛の姿を見えなくしてきたのである。[続く]▲

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コメント (1)

防衛大臣の人選を考えると、民間人起用しかないのか?とがっかりします。

「冷戦が終結した今、他国から侵略される戦争が起こる確率は皆無に近い」という事は皆分かっている。分かっているのに、相手とコミュニケーションをとる努力を怠っている。だから、相手の考えが読めず不安になるのだ。
前原氏は高坂先生の「国際政治」を読んで政治家を志したと聞く。先生が「抑止力」について述べられていた事を、もう一度思い出して頂きたいものだ。
「頻繁な政権交代や内閣改造で量産される素人大臣によるリスク」というシビリアン・コントロールの逆説が、日本では特に顕著に現れている。
自衛隊の現実派は米国のアドバイスを参考に、不毛な政治を待たずに先行し始めているが、やはり、文民統制の縛りによる限界は守っている。命がけの職業である自衛官に対し、本当に報いる事は、政治が大人になる事だ。

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