INSIDER No.477《ASO》麻生施政方針演説は「落第点」──“負の求心力”だけが政権の支え?
28日行われた麻生太郎首相の施政方針演説は、与党内からも「迫力も力強さもない」(自民党閣僚経験者)、「国民に訴える力、明るさ、さわやかさという点からすると、落第だ」(公明党幹部、いずれも読売新聞29日付による)と酷評される体のもので、「政権浮揚のきっかけにしたい」という事前の意気込みとはほど遠い中身の薄いものになり終わった。
29日付各紙の社説も「信なき人の言葉の弱さ」(朝日)、「“麻生シナリオ”がうつろに響く」(毎日)、「“政府の役割”を着実に果たせ」(読売)、「首相は百年に一度の危機への構想を示せ」(日経)など、総じて低い評価しか与えていない。
朝日は「内閣支持率が低迷する中で、解散はしたくない。さりとて9月までにはある政治決戦をにらめば、(野党に)妥協もしたくない。演説には、そんな首相の苦境が色濃く表れていた」と指摘した。その通りで、解散・総選挙を唯一の使命として与えられながら敗北が怖くて解散に打って出られない主体的な矛盾を、「100年に一度の経済危機」が襲っている時に解散どころではないだろうがという論法で客観的な矛盾にすり替えることで自分の弱さを糊塗し、しかしそうすればするほど、景気対策で人気を挽回しようとしてバラマキ的になって、改革すなわち官僚権力専横の打破という時代の課題からは遠ざかり、かえって国民の信を失うという、どうにもならないディレンマに填り込んでいるのが麻生である。
●支持率も危機ラインへ
内閣支持率も軒並み2割を切って、その数字だけから見れば、いつ政権が崩壊してもおかしくない状態である。1月の報道各社調査による内閣支持率・不支持率は次の通り。支持率の低さもさることながら不支持率の高さが特徴的で、国民の約7割が麻生の退場を求めていることになる。
調査日 支持率 不支持率
読売 9〜11日 20.4 72.3
時事 9〜12日 17.8 64.0
朝日 10〜11日 19 67
産経 10〜11日 18.2 71.4
共同 10〜11日 19.2 70.2
日経 23〜25日 19 76
毎日 24〜25日 19 65
にもかかわらず与党内は驚くほど平穏で、公然たる造反は今のところ渡辺喜美衆議院議員の自民党離党のみ。消費税増税の時期を来年度税制改正法案の付則に明記するかどうかをめぐっての中川秀直ら“上げ潮派”の反対も、決定的な対立にまでは至らず、むしろ早々に玉虫色の表現で折り合いをつけるのに忙しかった。また海上自衛隊のソマリア沖派遣問題では、反対のはずの公明党があっさりと麻生の方針に同調し、その理由について同党幹部は「今は首相の足を引っ張るわけにはいかない」と語った。
公明党幹部の言葉が象徴するように、与党内を支配しているのは、それでなくとも首に縄が掛かっているに等しい麻生の足を引っ張るような揉め事を起こせば、弾みで内閣崩壊、解散・総選挙、大敗で自分も落選、政権喪失という急坂に転がり込んで行きかねないという恐怖心である。麻生が日々淡々として艶々した顔に笑みさえ浮かべて職務に励んでいるのは、「お前ら、俺と一緒に地獄に堕ちてもいいのか」という開き直った恫喝が利いているからで、その意味でこの内閣を支えているのは与党全員の恐怖心に付け込んだ“負の求心力”だけである。
●塩崎らの動きに注目
とはいえ、この恐怖の均衡はいつまでも続かない。自民党執行部は、渡辺喜美の離党が意味のない単独行動であると印象づけようとしていて、事実、渡辺の言う「国民運動」は今のところ無所属の江田憲司議員の合流を得たに止まっているものの、蟻の一穴という言葉の通り、近い将来自民党に大惨事を引き起こす導火線になるかもしれない可能性を持っている。
注目される動きの1つは、塩崎恭久元官房長官、茂木敏充元金融相ら衆参の中堅・若手49人が渡辺離党の3日後、1月16日に「速やかな政策実現を求める有志議員の会(速やか議連)」を結成、経済危機対応の提言を発表したことで、それを一言で言えば、麻生に対して小泉以来の「改革」路線への復帰を迫るものである。
「経済危機対応特別予算勘定10兆円の創設」と題したその提言は、この経済危機に直面して「各省庁の施策を積み上げた従来型の景気対策は無力」だと麻生流の景気対策をはっきりと批判し、「今こそ政治主導により、バラマキではない、未来を見据えた積極投資の前倒しによって日本経済を果敢に再生し、内需拡大、雇用創造を急ぐべき時」だとして、通常予算とは別枠で10兆円規模の「経済危機対応特別予算勘定」を創設し、内閣に「経済危機・緊急雇用対策本部」を設置して官民の英知を結集して「新たな国のかたち」に向けて未来投資をすべきだとしている。
小泉時代から(実績はともかく)その後継を標榜した安倍時代にかけて引き立てられた“改革派”が中心で、塩崎は政局絡みで興味本位に捉えられるのを嫌って「反麻生と考えたことは一度もない」と言いつつも、渡辺喜美に関して「1998年の金融危機以来の仲間だ。国を良くしたいという志は同じで、連携もあり得る」と語っている(17日付読売)。50人近い麻生批判グループの出現は馬鹿にしたものではなく、今後の成り行き次第では渡辺が点火した導火線から引火して爆発する可能性を秘めている。
ここで彼が「1998年の金融危機以来の仲間」と言い、また提言の中で「党内ヒラバ議論の復活(例:98年『金融再生トータルプラン調査会』)」と述べているのは1つの大事なポイントで、小渕政権が発足した直後の同年秋の「金融国会」では、野党=民主党と自民党内の塩崎、渡辺、茂木、石原伸晃(現自民党幹事長代理)ら政策通の若手からなる同調査会とが事実上、手を組んで改革的な法案を次々に繰り出して小渕政権を追い詰めた。その意味では塩崎や茂木は、小泉登場以前からの筋金入りの改革派であり、麻生の反改革姿勢に我慢できなくなったのも当然と言える。
3月から4月にかけて予算とその関連法案の審議が山場を迎えた時に彼らが爆発すれば、加藤紘一、山崎拓ら長老級や中川秀直らベテラン組の反麻生勢力が一気に燃え上がって連動する場面があり得ると見ておくべきだろう。▲