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INSIDER No.472《SOMALIA》ソマリア海賊を軍艦で制圧することが出来るのか?──国家再建と地域航行安全体制への支援が先決

 ソマリア沖の海賊による商船やタンカーの襲撃、その船舶と船員を人質に取った身代金要求の被害が深刻化する中で、国際社会共同の海上・陸上の軍事作戦によってこれを一気に制圧しようとする機運が高まっており、それに呼応して日本でも、海上自衛隊の艦船を派遣・参加させる方向で自民・民主両党の合意が形作られようとしている。しかし、この海域で海賊が跋扈する根本原因は、20年以上も続く内戦を通じてソマリアが国家も経済も崩壊状態に陥り、その下で仕事を失った漁民が止むに止まれず身代金稼業に転身したことにあるのであって、結果としての海賊行為を軍事力によって物理的に制圧しようとするだけでは、モグラ叩きのようになって何の解決にもならないのではないか。

●世界最大の海賊ポットとして急浮上

 世界の海賊出没の2大スポットは、マラッカ海峡を中心とする東南アジアとソマリア沖をはじめアフリカ大陸周辺で、近年の傾向として、東南アジアがASEAN諸国の対策が効を奏して減少し、その分アフリカ大陸が増加している。国際海事局のデータによると(外務省HP=海賊問題の現状と我が国の取組)、発生件数とその割合は次の通り。世界全体の件数に付した〈 〉内は日本船被害件数。


      2003  2004  2005  2006  2007  2008
                        (9月末まで)
--------------------------------------------------------------
東南アジア  170   158   102   83   70   41(件)
      38.2  48.0  37.0  34.7  26.6  20.6(%)
--------------------------------------------------------------
アフリカ   93   73   80   61   120   119(件)
      20.9  22.2  29.0  25.5  45.6  59.8(%)
--------------------------------------------------------------
うち     21   10   45   20   44   63(件)
ソマリア沖
--------------------------------------------------------------
世界全体   445   329   276   239   263   199(件)
      〈12〉  〈7〉  〈9〉  〈8〉 〈10〉  〈9〉

 04年には東南アジアが世界全体の半分近くを占めていたのが07年には2割まで減り、アフリカ大陸周辺が逆に2割程度から5〜6割程度に増え、その約半分がソマリア沖ということになる。ちなみに、アフリカ大陸ではナイジェリア沖がソマリア沖と同じくらい件数が多く、またタンザニア沖にも出る。ナイジェリアに軍艦を出そうかという話が起こらないのはどうしたわけなのか。

 ソマリアが世界最大の海賊スポットになった背景の第1は、同国の国家崩壊と経済壊滅である。

 ソマリアは、日本の約2倍の面積の国土に約800万人のソマリ人がバナナを中心とする農業と遊牧を糧にのんびりと暮らしてきたブラック・イスラム国である。1000年にもわたって6大氏族が共存しつつイスラム法に基づいて秩序を保ち、統一国家が形成されたことはなかった。が、約100年前に北部を英国が、南部をイタリアが侵略・支配し、1960年にそれぞれが英伊から独立した後、南北統合して無理矢理に「ソマリア共和国」を創建しようとして失敗したことが、長きにわたる内戦の遠因を作った。

 ソマリア共和国では、氏族や準氏族が60以上もの政党を結成してドロドロの政争を繰り返して政治的混乱が続き、それに乗じて69年に旧ソ連の支援を得たバーレ将軍がクーデターで政権を奪取、社会主義国家の建設をめざして強力な軍事独裁体制を敷いた。それなりのつかの間の安定が生まれたが、77年にバーレ政権が「大ソマリア主義」を掲げてエチオピアのオガデン地方に軍事侵攻、これをめぐってエチオピアの社会主義政権との関係を重視する旧ソ連と対立したため、バーレは一夜にして社会主義を放棄し、米国の軍事援助を受け入れた。バーレが自らの属するダロッド氏族による支配を目論見て他の氏族を抑圧したため、旧ソ連はじめエチオピア、リビアなどは他の氏族の武装抵抗を支援し、80年代を通じて入り乱れての内戦が広がった。

 91年にバーレ政権が崩壊するとますます無政府状態が酷くなり、北部の旧英領ではソマリ国民運動が「ソマリランド共和国」として分離・独立を宣言した。00年にエチオピアはじめ他の周辺諸国の支援で「暫定連邦政府」が作られたが、06年それに反発するイスラム原理主義に立つ聖職者たちの「イスラム法廷会議」が一時、首都モガデシュを制圧、それをまたエチオピアの後ろ盾を得た暫定政府軍が奪回、07年1月まで南部を一応平定したことになってはいるものの、氏族単位の武装集団による抵抗は鎮まらず、また北部ソマリランドの分離・独立問題は未解決のままである。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、現在、国内避難民37万人が重大な人道的懸念の対象となっているほか、国外難民は43万人を数え、少なくとも25万人がケニアやイエメン、ジブチ、エチオピアなどの近隣諸国で暮らしている。

 このように、古くは英伊の植民地支配、冷戦時代を通じては米ソの利害対立によってズタズタにされた挙げ句に放り出された格好になっているのがソマリアで(アフガニスタンとイラクの将来を暗示!)、もはや打つ手がないような状況の中で、1隻当たり1〜数億円の身代金を要求し今年だけでも20〜30億円が転がり込んだと推計される海賊ビジネスがほとんど唯一の「地場産業」(『選択』11月号の表現)となっているのである。

●海賊の実態は仕事を失った漁師

 もう1つの背景は、91年の政府崩壊に伴って、ソマリアの3300キロもあるアフリカ諸国で最長の海岸線とその沖の200カイリ経済水域を守衛する沿岸警備隊が消滅し、またそれをいいことに沿岸を支配する軍閥などが“漁業権”を外国漁業会社に切り売りしたために、マグロやエビをはじめ水産資源の豊富な漁場であるソマリア沖海域が外国の大型漁船団による乱獲に晒され、その結果、地元の零細漁民や漁業会社が収入源を失ったという事情がある。また、欧州諸国などによる違法な廃棄物の投棄も問題になっており、国連環境計画(UNEP)スポークスマンによると「欧州国内で1トンの廃棄物を処理するのに1000ドルかかるのに対して、アフリカの角に投棄すれば2.5ドルで済む」とされる。化学物質や放射性廃棄物が投棄されている疑いも指摘されている。

 ここ数年で急増した海賊は、漁業会社が手持ちの漁船と船員を使いって転業したケースがほとんどで、失業した元沿岸警備隊員を雇ってリーダーに仕立て上げているケースもある。各漁港を本拠に数グループ約300人がこれに携わっているという。陸上には、かつて米ソが競って提供した自動小銃やロケット砲が溢れかえっていて安く入手出来るし、最近は奪った金を元にGPS機器を備えた高速モーターボートを購入して高速・俊敏に行動するグループも出現しつつあるという。

 驚くべきことに、有力なグループの中には衛星電話を窓口に外国メディアの取材に応じる“広報担当者”を置いているところもある。11月15日付朝日新聞がインタビューを掲載したスグレ・アリと名乗る広報担当者はその1人で、T72型戦車33台など武器を満載したウクライナ船を20人の船員ごと乗っ取って中部の漁港ホビョで拘束し続けているグループの所属である。「どういう集団なのか?」と問われてアリはこう語っている。

「みんな漁師だった。政府が機能しなくなり、外国漁船が魚を取り尽くした。ごみも捨てる。我々も仕事を失ったので、昨年から海軍の代わりを始めた。海賊ではない。アフリカ一豊かなソマリアの海を守り、問題のある船を逮捕して罰金を取っている。ソマリア有志海兵隊(SVM)という名前もある」

 海賊行為を働いているのは外国船団であり自分らはそれに対する自警団であるとする彼の主張を、盗人の開き直りと切り捨てるのは恐らく大きな間違いで、むしろここに、ソマリアの内戦終結と政府再建、無政府状態につけ込んだ先進国を含む外国の船団の乱獲や違法投棄の中止、現地漁民らの生活条件の確保こそが根本的解決であることが示唆されている。

●軍艦では海賊はなくならない

 国連安保理は繰り返し、ソマリア沖の海賊横行への懸念を表明し、その取り締まりのために各国が「あらゆる措置」をとるよう決議している。そのように安保理を促しているのは主として米国とフランスで、両国はその「あらゆる措置」とは即ち軍艦の派遣であるという立場を採っていて、NATOを動かして大規模な海上軍事作戦に打って出る準備を急いでいる。ロシアもすでに軍艦を派遣し、また12月18日付NYタイムズによると中国の国営メディアも同国が近くこの海域に軍艦を送り出す方針であると伝えている。ロシアや中国の意図は、一応国連の旗の下に行われるこのような国際行動に象徴的なプレゼンスを示すことで中東地域に重大な関心を抱いていることを印象づけることにあるのだろう。

 特に米国が軍事作戦に熱心なのは、06年に一時ソマリアを支配したイスラム原理主義勢力が海賊を操っていて、海賊を装ったテロリスト集団がタンカーを沈めるなどして年間2万隻が通過するこの最重要の海路を遮断する「海の9・11」を狙っているのではないかと想定しているからである。しかし、それはあくまで推測にすぎず、現にイスラム原理主義が首都を支配して一時的に治安が回復した06年にはむしろ海賊は減っている。前出のアリ広報担当も「イスラム系武装勢力の資金源との指摘があるが」という問いに対して、

「関係ない。金は船の維持や、武器購入、仲間の給料に使っている。国を守って給料を貰えるこの仕事に誇りを持っている」

 と答えている。実際、海賊たちはこれまでのところ、船員を殺すような真似は一切していないし、乗っ取った船と共に交流した船員はむしろ大事な人質として厚遇しており、食事は専用のレストランで提供し、時には一緒にトランプをして遊ぶなど「人間として接している」(アリ)という。もちろん、海賊にテロリストが紛れ込む可能性が絶無とは誰も言い切れないとしても、海賊を直ちにテロリストと同一視して軍事的に壊滅しようとするのは過剰な対応になりかねない。

 もっと言えば、本誌が繰り返し主張しているように、テロは(どんなに被害が甚大でも)基本的に犯罪であり、それを軍事力で、しかも国家間戦争の形で対処しようとしても、テロをなくすことが出来ないばかりか、テロの温床となっていると米国が判断したアフガニスタンもイラクも国家崩壊してどうにもならないことになってしまった。海賊も犯罪であり、それを軍艦でたたきつぶそうとしても原理的に無理で、かえってソマリア問題の根本的な解決を遠ざける危険がある。従って、「海賊に軍艦を」という米国主導で国連をも巻き込んだ国際社会の対応が正しいかどうか、戦略論の次元で極めて疑問である。

 また戦術論の次元でも、幅が平均50キロ、長さ1500キロに及ぶアフリカの角の海路を軍艦を並べて物理的に防護しようとするのは無茶である。通常のフリゲート艦などより僅かながらでも高速で、機動性に富み、この海域を熟知して航海術にも長けた操縦者を乗せた海賊船は、神出鬼没的で、襲われた船から知らせを受けて急行した軍艦が遙か水平線上に姿を現したとたんに逃げ出すであろうから、数十隻程度の軍艦が海域を哨戒したところで防ぐことも捕まえることも難しい。しかも、最初から船を撃沈したり船員を殺したりする意図が明白ではないので、近づいてきたからといっていきなり攻撃して撃沈したりすれば、国際法的に過剰防衛になったり誤認攻撃を犯して無実の漁船に被害を与えたりする危険も大きい。さらに、首尾よく海賊を捕まえた場合も、ソマリアにはそれを裁く法律がなく、また関係国と犯人引き渡し協定も結んでいないので関係国が犯人を本国で裁くことにも疑問が生じる。『選択』の記事によると、現にデンマーク艦が9月に初めて海賊船を拿捕するお手柄を上げたがソマリア政府はそれを裁く国内法がないという理由で犯人を釈放した。またフランス船を乗っ取った海賊を仏特殊部隊が急襲し実行犯を逮捕したが、被告側の弁護人はフランス本国で裁くのは違法と主張しているという。

 たぶん現実的なのは、犯罪には主として警察的手段によって対処する——この場合、海賊という犯罪行為には海上警察もしくは沿岸警備の強化によって対処する——という極めて常識的な原則に立ち返って、なおかつ、地域的な脅威はまずもって域内各国の協力体制を強化することを通じて取り除き、それで手に負えない場合にのみ国連や先進国が乗り出すが、それまでの間、先進国は地域的努力を資金面・技術面から惜しみなく支援することに徹するという(私に言わせればであるが)21世紀型の安保原理に従って、対処すべきである。

 ソマリアの沿岸警備が機能しなくなって以降、アフリカの角の海上警備は専ら対岸のイエメン沿岸警備隊が担当している。同隊は総勢2300人で、今年9月にはオーストラリアから調達した16隻の高速艇にそれぞれ60名の訓練された海兵を乗せた海賊防止専門の部隊も新たに創設した。しかしそれでカバーできるのは同国の海岸線1200キロのせいぜい3分の1が精一杯で、イエメン沿岸警備隊のアルマフディ作戦局長が11月に来日して、基地5カ所の増設と高速艇10隻の調達に資金援助を要請した。このイエメンの努力を中核として、さらに東隣のオマーンや紅海に面するサウジアラビアやエジプトも協力して地域的な共同対処の体制を作り上げ、米欧日印中ASEANなどアデン湾の安全航行に利害が懸かっている諸国が資金や技術、人員訓練などで全面的にバックアップするという仕組みを作るべきではないか。特にエジプトは、アデン湾の不安のためにスエズ運河の航行量が減って経済的に打撃を受けており、地域協力を推進することに大きなメリットがあるはずだ。

 アルマフディ局長は朝日新聞11月15日付朝日新聞で、日本が検討している海自艦艇の派遣について、

「高い効果は期待できず、必要ない。むしろ我々の警備活動強化に支援をしてほしい。……日本から自衛艦を派遣すれば費用がかかるはず。現場をよく知る我々が高性能の警備艇で取り締まった方が効果が上がる」

 と語っている。その通りである。

●馬鹿げている自衛艦派遣

 このように、問題の本質と現実的に有効な対策を自分の頭で考えることなく、「米国から言われたから」「国連もやれと言っているから」と、押っ取り刀でいきなり自衛隊の派遣の是非論に突入していくという短絡的なパターンは、アフガニスタン沖への海自艦派遣やイラク“復興支援”への陸自・空自派遣ですでにお馴染みのものであるけれども、今回は民主党が前のめりになって、11月18日には同党の長島昭久=衆院議員が自民党の中谷元=元防衛庁長官と一緒に麻生太郎首相を官邸に訪ね、海自艦のソマリア沖派遣促進を申し入れたりしていて、なおさら国を挙げて馬鹿げた間違いを犯す危険が高まっている。

 自民党が検討を急いでいるのは、自衛艦が海賊取り締まりのために武器を使用することが憲法が禁じる武力行使に当たらないかという法匪的な問題で、これまでのところ「違憲ではない」という見解に達しているようである。相手が国や国に準じる組織であればそれを攻撃すると「武力行使」となり違憲だが、海賊は私的集団だから攻撃しても武力行使とは言えないが、その場合の攻撃は、内閣法制局によれば、「海上警備行動が発令された場合に、自衛官が警察官職務執行法の範囲内で行う武器使用であれば合憲」なのだそうだ。この議論が法匪的なのは、相手が国家すなわち軍隊でないのに軍艦が出て行くのはいかがなものかというそもそもを論じることなく、出て行って武力をふるった場合に合憲か違憲かという話に流れていく点である。

 民主党はこの罠に嵌れば、せっかくの政権獲得の絶好機を前に国民の信頼を損なうことになろう。同党がこの問題に関してなすべきなのは、繰り返すが、第1に、ソマリアの内戦終結と政府再建、無政府状態につけ込んだ先進国を含む外国の船団の乱獲や違法投棄の中止、現地漁民らの生活条件の緊急確保など、漁民たちが海賊をやらなくて済むような環境をどうしたら作り出すことが出来るかのそもそも論を、国連はじめあらゆる国際舞台を通じて巻き起こすことであり、第2に、イエメンを軸とした紅海・アデン湾岸の海上航行安全確保のための地域協力体制の樹立とそのための率先した資金・技術の提供について積極的な提案を打ち出すことである。日本は、ロシアや中国のように、軍艦派遣によってではなく知恵のある外交でこの地域への存在感を示すのでなければならない。▲

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