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INSIDER No.459《POLITICS》本当の争点はどこにあるのか?──自民党総裁選を巡るマスコミの浮かれ具合への疑問

 自民党総裁選は10日告示され、本命視されている麻生太郎幹事長に対して他の4人が挑戦する賑やかな図式となって、「総裁選を派手にやってくれ」という無責任男=福田康夫首相の“遺言”は満たされることになったものの、それにまたマスコミが軽々しく同調している有様はいかがなものか。

●2度あることは3度あるのでは?

 第1に、5人の候補者にまず問われるべきことは、自民党の総理・総裁が2代続けて、わずか1年でプッツンして職務放棄をするという、世界と国民に対する前代未聞の恥さらしをどう総括するのか、である。それを抜きにして、総選挙での負けを少なくするにはどの「顔」がマシかとか、どの政策が受けそうかとかいった浮ついた視点で総裁選を仕組んでも、人々には不真面目なショーとしか映らない。

 御厨貴=東大教授は9月9日付日経「経済教室」欄への寄稿でこう述べている。

「『失敗も2度繰り返せば、そこには構造がある』という名せりふもある。2度にわたる首相の職務放棄は、この国の政治の崩壊が構造化されていることを露呈させたといってよい」

「折からの自民党総裁選がにぎにぎしく行われようとも、先人2人の失敗を十分に吟味しない限り、宴の後に『2度あることは3度ある』事態がこないとは限らない」

 その通りで、この2度のプッツンは、2人の資質の問題もあるけれども、それ以上に自民党そのものの構造的劣化の問題であり、そこに正面切ってメスを入れて自己切開するのでなければ、誰が出て来ようと同じことになって、国民生活と日本の国際的信用にまたも大打撃を与えることになりかねない。

 INSIDERが繰り返し述べてきたように、この構造的劣化問題のポイントは次の3つである。

▼本質論的次元——自民党は明治以来100年超の「官僚政治」体制の随伴物の最後の形態であり、まさにその官僚政治体制を克服する全面的な改革を進めなければこの国が陥っている閉塞を打破出来ないという時代の中心課題の担い手とはなり得ない。1889年に明治憲法が出来て翌年に第1回衆院選が行われてからこの100年間、政治は薩長藩閥政治29年間、大正政党政治14年間、昭和前期軍部政治13年間、戦後過渡期10年間、自民党単独政権38年間、(細川・羽田政権の10カ月を挟んで)自民党中心の連立政権14年間と変遷してきたが、そのすべてを通じて、中央官僚体制が実質的に政策や予算を決定し、政治家はその周りをうろついて利権を漁ることにばかり関心を注いできたことに変わりはない。この政治の官僚への従属を根本的に転換しない限り、この国がどんな問題も解決できないということが、例えば社保庁のデタラメ、道路特定財源の肥大化やガソリン税の値下げ・再値上げ、日銀総裁人事の迷走、後期高齢者医療制度の酷薄、政治家の金権腐敗といった形で全線にわたって吹き出して、総理を立ち往生させるのである。

▼実体論的次元——しかしそうは言っても、政治家が予算を分捕って地元や関係業界にバラ撒くという古い自民党政治が成り立つ余地は急速に狭まってきて、同党の伝統的支持基盤は崩壊に瀕している。それに代わってこの9年間、自民党の選挙を実質的に支えてきたのは公明党との選挙協力であり、今や自民党の最大の支持基盤は創価学会であるという珍妙なことになっている。93年に自民党最後の単独政権だった宮沢内閣が崩壊、自民党分裂、総選挙敗北、細川反自民改革政権の成立というドラマティックな転換があり、本来であればそこで自民党は、予算に触れない野党の立場に身を沈めて徹底的な自己改革に取り組んで近代的な保守政党として再生することを目指すべきだったのに、その我慢が出来ず、細川・羽田政権を10カ月で陰謀的に転覆して、以後、社会党、さきがけ、自由党、保守党など野党がバラバラであることを利用して次々に連立に引き込んでは食いつぶし、さらには新進党や郵政造反組などから一本釣りで復党させて補充するなどして政権の延命を図ってきた。が、03年に小沢=自由党が民主党と合流して野党バラバラ状態がほぼ解消されて2大政党制的な構図が出来てきたことによって、自民党が食らいつけるのは公明党だけになった。これが自民党にとっては罠で、公明党はこれまでの小政党とは違って食いつぶせず、逆にそれが自民党の体質を一層蝕んでいくことになる。福田辞任はその1つの結末である。

▼現象論的次元——自民党政治は本当は宮沢政権で終わっていたし、その後の連立による延命も森政権で終わっていた。それをさらに延命させたのは、小泉・田中真紀子の“変人”コンビによる政治のワイドショー化で目前の01年参院選を乗り切ろうという奇策の成功である。こんな大芝居を打てる役者は小泉以外になく、その意味で、当時INSIDERが指摘したように、小泉は自民党にとって「最後の切り札」だった。奇策の後に奇策はなく、最後の切り札の後にさらに隠された最後の最後の切り札があるわけもなく、だから安倍も福田も人格崩壊するしかなかった。

 とすると、次の自民党総裁候補は少なくとも、官僚政治の打破という大課題を担う覚悟と方策を語り、公明党中毒を脱して自民党を再生させる道筋を示し、単なるショーでない真面目な総裁選を演じなければならない。そうなっているかどうか、またマスコミはそのような歴史的=構造的視点を持って報道しているかを国民は見極めなければなるまい。

●景気と消費税は争点か?

 マスコミは総じて、自民党がそのような歴史的=構造的な次元で問われているということに触れずに、いきなり各候補の景気対策や消費税アップの賛否などを争点に仕立て上げている。例えば10日付日本経済新聞の一面トップは「自民党総裁選/景気・財政規律が争点」と言うが本当なのか。

 麻生が「景気対策重視」で、そのためには「消費税増税」はもちろん「2011年基礎財政収支の黒字化」の小泉政権以来の目標を先送りすることも辞さずという路線であるのに対し、与謝野は「財政規律重視」で、それには「消費税増税」の議論を避けるべきでなく、ましてや基礎収支均衡目標を棚上げにするなどとんでもないという立場で、そこには確かに1つの対抗軸が形成されてはいるけれども、それは本質的には、選挙前にはともかくも目先のバラマキをするしかないという麻生と、そうは言っても無闇なバラマキは無理だという財務省の代弁者的な与謝野との、古い自民党体質の枠内での伝統的な対立図式であって、麻生とて、選挙後にはたちまち「消費税増税」賛成に回りかねない安易さを含んでいる。

 それに対して、小泉=中川秀直流の「構造改革重視」の立場に立って「消費税増税」より前に構造改革を通じた行政改革と支出削減を先行させるべきだという路線は、一応、石原伸晃と小池百合子に体現されているのだが、ならばその路線を体系的に表明している中川自身が出馬しないで、なぜその陣営から石原と小池の2人が、しかもいずれも自分の言葉としてその路線を語らないまま、出てくるのかは理解不能である。そこに働いているのは、「差し迫る総選挙でどの顔を立てて戦えばより負けが少なくて済むか」というショー化の原理でしかない。結果的には出なかったけれども、山本一太のような誰が考えても今の日本の総理大臣たり得ない連中までが、出てみようかと思ってしまい、またマスコミがそれをもてはやすところに、ショー化の不真面目さが露出している。

●民主党は小沢一本化で当然

 その自民党の空疎なにぎにぎしさに比べて、民主党の代表選は早々に小沢一郎の無投票再選が決まって、それが何か「民主的でない」かのような論評が罷り通っているのもおかしなことである。田中良紹が《THE JOURNAL》のブログで書いているように、そもそも政党の党首選が頻繁に行われなければならない理由はなく、また党首選をやらなければ党内の政策論争が活発化しないという理由もない。民主党が政権奪取の絶好の機会を目前にして、代表選のショー化を選ばすに小沢再選で一本化したのはむしろ当然と言える。

 第1に、これもINSIDERが書いてきたように、小沢は、積極面で言えば、政治の面白さも怖さも熟知した練達の政治家であり、また選挙とは何かを身にしみて知っていて、その政治的凶器性は他の者で補うことは出来ない。消極面で言えば、菅直人がかつて言ったように「代表に置いておかないと大連立とか小連立とか何をするか分からない」から代表にしておいて政権獲りの先頭に立たせておいた方がいい。逆に見れば、小沢のいい面も悪い面も分かった上で民主党が彼を使いこなすという成熟した暗黙の了解が成り立っているということである。

 第2に、小沢は93年に自民党を割って出て細川政権を作り、政権交代ある政治を目指して小選挙区制度を作った張本人であるし、またその細川政権を崩壊させ、野党の四分五裂を招き、結果として自民党の連立による延命を許してきた最大の責任者である。その「政治における空白の15年」に責任をもって終止符を打つのは、彼が負っている宿命のようなものであり、それを自覚しているからこそ彼は誰よりも激しく政権交代に賭けるのであって、それを民主党が活用しない手はない。

 第3に、マスコミの報道は焦点がボケているけれども、小沢が無投票3選が決まった9日の会見で語ったことの核心は次の言葉である。

「私は『革命的改革』という言葉を使っている。明治以来百数十年の官僚機構を変えるという、決死の思いを表現しているつもりだ。官僚諸君は自分たちが政治・行政すべてをやってきたかのような錯覚とうぬぼれに囚われてきたが、最近は行政官と政治家の役割が違うことを認識してきている。我々が明確なビジョンと政策を示せば、心ある官僚諸君は必ず理解し、共に仕事をしてくれると自信を持っている」

 それを実現する具体的な手段として、代表選公約では、「国民自身が政治を行う仕組み」として、(1)国会審議は国民の代表である国会議員だけで行う、(2)与党議員を100人以上、副大臣、政務官などとして政府の中に入れる、(3)政府を担う議員が政策・法案の立案、作成、決定を主導する、を盛り込んでいる。

 小沢は、上に「本質論的次元」として述べた官僚政治の革命的転覆こそ時代の中心課題であることを理解し、その具体策も提起している。民主党代表選と自民党総裁選は両々相俟って秋の総選挙の言わば予備選であり、小沢が先行してこの本質的議論を提起したのに対して自民党の5人の候補者はそれにどう応えるのか。そこに現在の論戦の本当の争点があるのであって、経済政策のディテールなどどうでもいいとは言わないけれども、副次的な争点でしかない。▲

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