INSIDER No.426《GASOLINE》蛇行するねじれ国会──「3月危機」は辛うじて回避?
衆参両院議長の斡旋を受けて与党が30日「つなぎ法案」強行採決という奇策を撤回したことから、国会は一転して正常化し、野党の審議拒否→国会空転→与党の強行採決→参院問責決議→解散・総選挙?という3月末に向かっての直進的な危機シナリオは取り敢えず回避された。とはいえ、政府・与党がガソリン税の上乗せ暫定税率について一歩も譲らないという姿勢を採り続ければ、再び紛糾し、参議院がこれを否決、「年度内に一定の結論を得る」(議長斡旋の微妙な言い回し)ことにならない可能性も残されている。それを打ち消すには、政府・与党が暫定税率上乗せ分のリッター当たり25円を20円とする(つまり5円だけの減税を実施する)といった修正を用意しなければならないが、野党が「いや15円にしろ」と主張して譲らないかもしれない。いずれにせよ、いつ何のきっかけで解散・総選挙に転がり込んでもおかしくない政局蛇行の基調はさほど大きく変わることがない。
●政局がらみの駆け引き
3月決戦・4月総選挙を狙う民主党=小沢一郎代表の戦略は、「ガソリン25円値下げ」を前面に出しながら、徹底審議の名による引き延ばしで上乗せ暫定税率を期限切れに追い込み、4月から国民に実際に25円値下げを体験させて、政府・与党がいくらあがいても今更旧に復する法案を通す訳にいかずに立ち往生する事態を作り出そうというものだった。3月末はまた、政府が公約した行方不明年金記録の整理を完了する期限でもあり、それについての福田内閣の無責任ぶりと合わせて問責決議案を出せば効果が大きい。
この小沢術策に填ったら地獄で、解散・総選挙で野党敗北、政権交代もありうると見た自民党が、その権力維持本能から思い付いた奇策が暫定税率を5月末まで2カ月間だけ暫定延長する「つなぎ法案」で、これを1月末までに衆院で通過させれば、仮に参院で否決されても「60日ルール」を適用して衆院で再可決し、4月1日から一旦ガソリンが25円値下げになることを避けることが出来る。そのようにして2カ月間の猶予を手にすれば、上乗せ税率を10年間延長することを含む租税特別措置法改正案の本体を3月末までに衆院で可決し、仮に参院で否決されても、再び「60日ルール」で5月末までに再可決することが出来る。
しかもこの法案を政府提案でなく議員立法で出すというのが、いかにも自民党らしい老獪さで、議員立法だと対政府質問を省略して1月末成立に間に合わせることが出来る上、それで国会が混乱しても政府提案でないので参院野党が福田康夫首相への問責決議案を提出しにくくなるという計算である。
どっちもどっちと言えるほどの党利党略の駆け引きだが、それにしても酷いのは与党の方で、第1に、税制関連のつなぎ法案というもの自体が、過去に4回の前例はあるものの、いずれも年末から春にかけて総選挙があって年度末までの成立が難しいという場合の緊急避難措置であって、野党の反対を封じるための手段として用いられた例はない。まだ予算案の審議が始まっていないのに、その予算の執行に関わる税制法案の成立を先に決めてしまおうというのだから、これは野党が言うとおり与党による審議拒否に等しい。第2に、暫定税率の10年間延長を決めるのに、それが簡単に野党と国民の納得を得られないからと言って、さらに2カ月の暫定期間を設定するという“暫定”の二段重ねというのは前例がない。第3に、つなぎ法案も本法案も、最初から「60日ルール」による衆院再可決を初めから予定しているという“再可決”の乱用もまた前例がない。
こんな出鱈目が罷り通るのであれば、野党が議場封鎖の実力行使や審議拒否などの強硬手段に訴えても、ある程度までは世論が支持するのは当然で、そのこじれ方次第では、解散・総選挙を避けるためのこの苦肉の策が、かえってそれを引き寄せる危険さえあった。その意味ではこれは奇策というより愚策で、議長斡旋でこれを撤回できたのは自民党にとってむしろ幸いだったろう。ちなみに、2つの委員会で強行採択した法案を本会議にかける前に撤回した例は過去に1つもない。このプロセスに国会の蛇行ぶりが如実に示されていると言える。
●“改革”の終わり?
そもそもこの上乗せ税率を含む道路特定財源は、故田中角栄元首相の“遺産”である。今から50年以上も前の1954年に、第1次道路整備5カ年計画のスタートに合わせて、それまでは一般財源に組み込まれていたガソリン税を独立させて道路建設のみに使途を特定し、それを旧大蔵省も事実上手が出せない旧建設省所管の独自財源とすることを思いついたのが、若き天才政治家=角栄だった。彼はそれを自らが主導した議員立法で実現し、以後同省は彼に頭が上がらなくなり、“聖域”となったこの財源に道路族議員が群がった。問題になっている上乗せ税率は、それから20年を経て、角栄がいよいよ権力の頂点に立って日本列島改造論を呼んで爆走していた時代に第7次道路整備5カ年計画を発動、もっとどんどん掘っくり返して道路を作り、バンバン車を走らせようという趣旨で「暫定措置」として追加されたもので(だから今になって政府・与党がガソリン消費を抑制する効果があるなどというのは詭弁にすぎない)、それによって聖域化がさらに進んだ。上乗せ分はその後も何度か値上げされ、現在の税率は93年に更に値上げして15年間維持することが決まったもので、それが3月末に期限切れを迎えようとしている。小泉内閣は道路公団改革に手は着けたものの、肝心の財源問題にまで踏み込まなかったために中途半端に終わり、その結果、安倍政権を通じて道路族の復活が始まり、福田内閣に至って、そんも期限切れを前にして「特定財源維持、10年間に59兆円の道路整備を」という大合唱が湧き起っている訳である。
そこで、これから始まる本格論戦の焦点は、第1に、政府が昨年末に決定した08年度から10年間に59兆円を費やすことになっている道路整備中期計画の見直しである。小泉改革の中では必要性と採算性に疑問が投げかけられた計画分も福田の下でいつのまにか復活していて、これについては国会で1つ1つ精査して国民にも情報公開して判断を求めるべきだろう。これ以上道路を整備しなくていいとは誰も言っていないので、まずは今後10年間にどういう道路をどういう優先順位で整備していくかについて、政府や役所が決めるのでなく国会と国民が決めるのでなければならない。第2に、道路整備のニーズがはっきりして初めて、それにどれだけの財源が必要かという話になるのが当たり前で、その話の一部として、問題の上乗せ暫定税率を廃止するのが妥当かどうかが確定する。
第3に、より根本的には、明治以来の中央官僚専横とその下での政官業癒着の象徴の1つである道路特定財源を存続するのか、それとも一般財源に組み入れるのかの議論である。政府・与党の主張は倒錯的で、現在の道路特定財源が続くのであればその分目一杯に整備計画を膨らまそうという発想に立っていて、これでは土建国家=ニッポンをいつまでも脱却することは出来ない。「すべての道路特定財源を一般財源化するという民主党の主張には理がある」と日本経済新聞31日付の社説も言っているほどで、世論の大勢はその方向に向かうだろうが、実は難しいのはその先で、ただ単に一般財源化するだけでは、半世紀前に旧建設省に奪われた道路財源を旧大蔵省が取り返すだけになり、その分が有効に使われるかどうかの保証はない。自動車業界が一般財源化に反対し、そうするくらいならその分を丸々減税しろと言っているのはその趣旨である。また自民党の中には、道路特定財源は維持するがそれを環境対策にも使えるようにして野党と妥協を図るという考え方もある。
第4に、道路特定財源を見直すと言うことになれば、当然、ガソリン税だけでなく、屋上屋を重ねて複雑怪奇の様相を呈している自動車の取得・所有・車検にまつわる9種類の税の改廃や税率も議論に上ることになろう。公明党は以前から自動車重量税の減税を主張している。また自動車取得税と消費税は2重課税で不当な負担を国民に強いている。
こうして、道路整備とその財源をめぐる議論だけでも気の遠くなるような時間が必要で、果たして国会は「年度内に一定の結論を得る」ことになるのかどうか。▲