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INSIDER No.408《ABE》捨て身なのか、自暴自棄なのか──安倍“退陣カード”の唐突

 安倍晋三首相が9日シドニーで、インド洋での海上自衛隊の給油活動の継続に「職を賭して取り組んでいく」、それが出来なければ「職責にしがみつくことはしない」と、内閣総辞職の可能性にまで踏み込む発言をしたのは、本人にしてみれば自ら退路を断って重大決意を示す小泉流の捨て身のパフォーマンスのつもりに違いないが、それにしては準備不足と言うよりもむしろ発作的で、期待ほどのメッセージ効果を生むに至らなかった。

●小泉亜流の失敗

 まず第1に、「職を賭して」はいいとして、「職責にしがみつく」というのは日本語としておかしい。職責は全うするか投げ出すかであって、しがみつくものではない。しがみつくなら「地位」だろう。首相が総辞職を示唆するのはまさに最高度の重大決意であり、それを口にするには練りに練った表現をしなければならないが、その最大の見せ場で日本語を誤用してしまうところに準備不足の程度が表れている。

 第2に、タイミングが悪い。日経新聞11日付「春秋」欄は、「これまでは何があろうと“職責”を全うしてきたのに、ずいぶん唐突に退陣カードを切ったものだ。……成算のない危険なけ賭けに打って出た、との声も聞こえる。前首相はここぞという場面でポーズを決めた。それに比べると、安倍さんは見得の切りどころを心得ていないと言ったら失礼か」と述べたが、その通りで、見得にとって一番大事なのは切りどころであって、それを外すと滑稽にさえなってしまう。

 加藤紘一は「決意は伝わるが、表明するタイミングの善し悪しという問題はある」と言い、町村派のベテラン議員も「参院選の直後に言うべきだった」と指摘している(11日付日経)が、これまたその通りで、参院選敗北の直後にも、シドニー発言の翌10日の所信表明演説でも、「この改革を止めてはならないという一心で続投を決意した」と言っていながら、他方でテロ特措法の延長が出来なければその改革の職責は投げ出すと言うのでは、タイミングの問題としても、内容的な整合性や優先順位という観点からも、錯乱的と言わざるを得ない。

 町村派議員が言うように、それだったら参院選直後に、「この結果は私の不徳の致すところであり、これによってテロ特措法の延長や改革の課題の達成は一層の困難が予想されるが、ここで政権交代に時を費やすよりも、私がその困難をも敢えて引き受けて職責を全うし、その結果をも含めて国民の評価を仰ぎたい」というようなことを言っておけばよかったのだ。

 さらに、シドニー発言の趣旨は翌日の所信表明演説に盛り込んで、さらに詳しくその覚悟を訴えるべきだった。が、実際には演説原稿は先に出来ていてマスコミにも事前配布済みだったので、「はじめに」で「改革を止めてはならないという一心」で続投を説明し、後半の「主張する外交」のところで触れるという全体構成を変更する暇もなかった。そのため余計に唐突感だけが残ることになった。

 第3に、これも準備不足の問題の一部だが、根回しがなかった。与謝野馨官房長官や麻生太郎自民党幹事長にとっても「寝耳に水」だったようで、麻生は「しっかりやれよという言葉と取った。総辞職という話には聞こえなかった」と、また別の自民党3役の1人は「APECで外国首脳と会って気が大きくなったのだろう」と、いずれも間延びした反応を示して、首相の決意を自民党挙げて支えていくのだという機運を作り出すことに失敗した。公明党ももちろん聞かされておらず、「自衛隊を海外に出すという判断を、一院だけで行うのは本来、好ましくない」(同党幹部)と戸惑いを隠さなかった(発言はいずれも11日付朝日)。与党幹部でさえこうなのだから、自民党内では「総辞職」という言葉だけが浮遊して、「政権末期」「解散・総選挙か」と浮き足立つ気分が流れ出している。

 こうして、小泉亜流の演出はほとんど失敗に終わった。

●拉致問題の影

 この安倍の唐突な態度の裏には、拉致問題の影がちらついている。安倍が本当のところ自分の政権の最重要課題だと思っているのは、改革でもインド洋給油でもなく拉致問題であり、その問題でどうにもならない窮地に追い込まれつつあることが、彼の心情を攪乱しているものと推察される。

 一方で安倍は、改めて保守派からの「拉致問題に真剣に取り組め」というプレッシャーに直面している。安倍応援団の1人である中西輝政京都大学教授は『諸君』10月号の論文でこう叱咤している。

「安部政権とは拉致問題によって生まれた政権であることを、もう一度明確に意識しなおす必要がある。……いま安部政権の命運は、国民にとっての政治家・安倍晋三像を確立できるかどうかの一事にかかっている。それには何が必要か、もう一度自らの原点である“拉致”に立ち返ること以外にない。拉致問題に立ち戻り、徹底したこだわりを見せる必要がある」

 そこで発憤した安倍は、9月5〜6日ウランバートルで開かれた6者協議の日朝作業部会では、日本側から「不幸な過去の清算」の問題を俎上に乗せることで「誠意」を示し、それと引き替えに拉致問題で何らかの進展を引き出すことを目論んだが、具体的な成果は得られなかった。それどころか、2日までジュネーブで開かれた米朝部会の後、北朝鮮の外務省報道官は、年内に北の核施設を無能力化することで合意し、それを受けて米国が北に対する「テロ支援国家」指定を解除し、さらに対敵国通商法による経済制裁を全面解除することになると発表した。もちろん米国務省筋は「今すぐにということではない」と言いはしたものの、米朝間で核無能力化と引き替えに解除が行われることは合意済みであることに疑いはない。

 本誌NO.405(7月14日号)で指摘しておいたように、日本政府およびマスコミが米国の「テロ支援国家」指定の条件の1つに日本人拉致問題が入っている、もしくは入れて貰いたいと思っているのは願望にすぎず、米国が北をそう指定している国内法的に根拠のある要件は「ハイジャック犯人の保護」の一点だけである。だからこそウランバートルの日朝協議で北は「よど号乗っ取り犯の扱いについて日本政府と関係者の協議する場を用意する」という話を持ち出した。これについて7日付朝日が「リップサービスとの見方が強い」と書いているのは完全にトンチンカンで、同日付読売が「テロ支援国家指定の解除に向け、実質的なカードを切り始めた」と解説しているのが正しい。

 平壌に37年間在留してきたよど号犯らは以前から帰国希望を表明し、北当局もそれには反対しない態度を採ってきていて、それを改めて持ち出してきたのは、米国との打ち合わせに基づいて指定解除の条件を整えるためであって、「リップサービス」どころの話ではない。日本は、指定解除に反対する立場からは「引き取らない」と言わざるを得ないが、そうなれば第三国に出国させてでも北は条件を整えようとするだろう。しかし、日本としては、お尋ね者を引き渡すと言っているのに「結構です」とは言えるはずがない。とんでもないディレンマに直面することになるのである。

 いよいよ追い詰められた安倍は、シドニーでの日米首脳会談で、「日米関係を犠牲にしてまで米朝関係が進むことはない」という確認をブッシュ大統領から取り付けることに全力を挙げ、事前の両国事務レベルの準備ではそのように段取りされていたにもかかわらず、ブッシュはウサマ・ビンラーディンの最新映像がテレビで映し出されたことを取り上げて「世界がいかに危険かを改めて示している」とまくし立て、日本がインド洋での給油活動を継続するよう強く要請、結局、指定解除の問題は話題にもならなかった(11日付日経)。

 恐らく安倍は、「拉致はテロであるというのが日本の立場である。ブッシュさん、あなたが“テロとの戦い”に全力を傾注する以上、その日本の立場を理解して、北のテロ支援国家指定を解除するのは止めて貰いたい」と言うつもりだったのだろう。ところがブッシュはそれを言う暇を与えず、「“テロとの戦い”にとって日本の給油活動は必ず続けてくれ」ということだけを言った。もしその話になれば、「安倍さんの気持ちは理解するが、拉致はテロ支援国家指定の法的要件ではない。“テロとの戦い”の正面はアフガニスタンとイラクの2戦域であり、いま北朝鮮と事を構える訳にはいかないというのが米国の立場である」と言ったかもしれない。空振りに終わった安倍は、これでさらにテロ特措法が延長できなければ、拉致問題を置き去りにして米国が北と融和していく流れは押しとどめようもなくなる——という危機感にとらわれて、翌日、ほとんど衝動的に退陣カードを切ってしまったのである。

 もちろん、テロ特で失敗すれば対米関係は最悪事態に陥って、拉致置き去りは決定的となるだろう。しかし、テロ特で頑張れば拉致置き去りが避けられるという保証は何もない。テロ特を衆院一院で強引に押し通しても、それで国内世論的にも自民党内的にも安部政権はズタズタになるが、辛うじて安倍は退陣しなくて済むかもしれない。が、そのとたんに米国が指定解除に進めば、それは十分に安部退陣の理由となる。安倍の退陣カードが「成算なき捨て身」と言われるその成算のなさは、実はそこに潜んでいると言える。▲

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