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INSIDER No.405《NEW CABINET》「自民党をブッ壊さない」がメッセージ?!──安倍新内閣の顔ぶれ

 一見すると、「エッ、こんな政治家いたっけ」という無名閣僚が1人もいない、ベテラン実力派揃いの、適材適所とは言い切れないもののそれなりに安定感のある閣僚・党人事で、これでトップが安倍晋三首相でなければ「なかなかいい内閣じゃないか」と言われたことだろう。御厨貴=東大教授が「本来なら一番取り替えなければいけない人が上に座っている」(28日付朝日)と言っているのは、その通りである。ということは、これは安倍の求心力の表れというよりも、むしろ逆で、トップが空虚であり、その下で近々総選挙を迎えて政権を失うことになりそうな切迫した危機感の中で派閥の論理が大復活して、派閥代表者会議のような内閣ができたのである。その意味では、「ポスト小泉なんか誰もやりたくない」という自民党全体を覆う無気力状態の中で、ほぼ満場一致のようにして安倍が総裁に選ばれた1年前の状況は、本質的に変わっていないどころか、一層深刻化して、何があろうとせめて我が派閥だけは生き残らなくてはという古い自民党の派閥政治の岩盤のようなものが露呈してきた姿と言える。

●消えた安倍カラー

 この人事が世間に発しているメッセージを一言で言えば、「自民党をブッ壊さない」ということである。元々安倍が、小泉改革路線の後継者であるかどうかは疑わしい。それでも彼は彼なりにこの1年間、憲法改正を真正面に掲げ、それへの地ならしと言える教育基本法の改定や国民投票法の成立を成し遂げ、また公務員制度改革にも取り組むなど、政治偏重でしかもタカ派色の濃い方向ではあったけれども、安倍流の改革イメージを打ち出そうと腐心してきた。その辛うじての安倍カラーも、それを担った「チーム安倍」がほぼ解体されたのに伴って消え失せて、後に立ち現れたのは森政権以前の古い自民党でしかなかった。

 本誌が何度も指摘してきたように、小泉純一郎前首相が自民党総裁でありながら「自民党をブッ壊す」と言い放ったのは、小渕・森両政権を通じてそうでも言わなければもはや国民の支持を繋ぎ止めようもなくなった同党のどん詰まりの中での禁じ手の発動だった。実際に小泉がやったことはと言えば、自民党そのものではなく宿敵=旧田中派(現津島派)の道路や郵政にまつわる利権構造を叩き壊すことでしかなかったけれども、「改革だ!」という全体ビジョン不明のままの空疎な呼号と、局面局面を戦術的な過激さで乗り切っていく派手なパフォーマンスを散りばめることで、それは確かに一定の効果を発揮した。しかし、それで本当に自民党が生まれ変わった訳でも何でもない以上、次に出てくる者は、小泉と同じ手法は無理としても、何らかの方法で「自民党は変わりうるのだ」という印象ないし幻想を与え続ける以外に政権を長続きさせることは出来ないはずだった。

 本当に安倍カラーを押し出すなら、事前に取り巻きの右翼学者らが主張していたように、昨年秋の例大祭に正々堂々と靖国公式参拝を断行して旗幟鮮明にすべきだったろう。しかし現実には、小泉との違いを際だたせるための中川秀直前幹事長の苦心の演出による就任早々の韓国・中国訪問があったために、公式参拝どころか靖国のヤの字も口に出来ないディレンマに陥った。それでも気を取り直して、今年初め頃には「憲法改正を正面に掲げて参院選を戦う」と意気込んではみたものの、トラブル続きの政権運営でそれどころではなくなって、憲法のケの字も言わずに参院選に突入。「生活第一」を主張した民主党に惨敗して、「参院選の結果は、中央と地方の格差の問題に政治がもっと配慮すべきだという教訓だ」(27日会見)と、政治偏重へのブレを自ら否定せざるをえなくなった。この一言で、それでなくとも中途半端だった政治的な安倍カラーは死んだのである。

 読売28日付1面の論説は、「憲法改正よりも生活が大事。それが参院選で示された国民の意思だ、というまことしやかな解説がある。そんなことはない。……世界の大きな潮流も見据え、あるべき社会や国家の姿を示すのは政治の責任である。憲法改正はその重要な柱である」と、改憲路線放棄への危惧を露骨に表明しながら安倍を煽ってはいるけれども、それは悔し紛れというもので、朝日同日付社説の見出しのように「“脱安倍色”で、さて何をする」というのが、むしろ安倍自身の心境に近いに違いない。

●経済路線も行方不明

 経済路線で安倍カラーと言えるものがあったとすれば、小泉〜竹中〜中川(秀)が敷いた改革→経済成長→消費税引き上げ先延ばしのいわゆる「上げ潮戦略」である。甘利明=経済産業相と大田弘子=経済財政相、渡辺喜美=金融行革相の留任は一応、その継続を図る意味をなのだろうが、キーマンの中川が消えて、その中川が強く反対した与謝野馨が官房長官に、また選挙中に「安部政権は経済成長戦略を修正すべきだ」と公然と主張していた額賀福志郎が財務省に就いたことで、この面での安倍カラーもまた風前の灯となった。与謝野は、小泉政権末期の党政調会長として、財務省サイドに立って消費税アップによる財政再建優先論を主張、竹中・中川と激しく論争した経緯があり、その与謝野を霞ヶ関との調整の要である官房長官に据えた安倍の意図は理解不能で、推測するに、路線などもうどうでもよくて、党内安定重視という安倍の心境の現れではないか。ともかくも財務省は与謝野の官邸入りを大喜びしている。

 また与謝野はリベラル派で、拉致議連を名指しこそしないが「偏狭でコントロールの利かないナショナリズムには気を付けないといけない」と、アジア近隣と徒に敵対する安倍の取り巻きへの不快感を露わにしているし、さらに靖国についても靖国神社が自主的にA級戦犯を分祀すべきだという持論を持っていて、安倍とは全く相容れない。この面でも与謝野の官房長官起用は政治面での安倍カラーの自己否定にもなるだが、それについて安倍がどう考えているのかは不明である。

 増田寛也=前岩手県知事の総務相登用はかなり大胆な人事で、舛添要一の厚労相起用と並んでこの内閣の数少ない“攻め”の人事である。それは、「中央と地方の格差への配慮」という安倍の参院選結果への教訓に直結してのことではあるのだろうが、増田が改革派知事としてこれまで主張してきた補助金の廃止と地方への税源移譲を実行しようとすれば、公共事業費や地方への補助金の削減に反対する額賀=津島派はじめ古い自民党と真っ向対決することにならざるをえない。そこを安倍がどう捌くつもりなのかもこの人事からは見えてこない。

 安部政権はこの秋にも、消費税アップを含めた税制改革論議を煮詰めることを公言しているが、それをどういう方向に導こうとしているのかはこの人事では見えてこない。

●拉致問題で頓死も

 外相に町村信孝、防衛相に高村正彦という、いずれも外相経験者で派閥の長でもある2人を持ってきたのは、テロ特措法の延長期限が11月1日に迫っている中での精一杯の配置である。しかしこの問題は、日米同盟重視=集団的自衛権解禁論か国連中心主義=集団的自衛権制約論かという原理的な次元のものであり、小沢=民主党と安易な妥協など成り立つ訳がなく、この2人を以てしても合意は不可能だろう。参議院が同法の延長を否決もしくはサボタージュして安倍政権が対米関係上で立ち往生することは大いに考えられる。

 さらに重大なのは、マスコミは余りそのことに言及していないが、安倍の拉致問題最優先の立場が対米関係を行き詰まらせる可能性である。本誌がこれまでも述べてきたように、米国のブッシュ政権は北朝鮮との核問題の決着を急いでいて、この秋にも「テロ支援国家」のレッテル貼りを解除するだろう。そうなれば、5月訪米でそのことをお願いしに行ったはずの安倍のメンツは丸潰れで、それだけでも内閣総辞職の事由になりかねない。北の核問題のグローバルなテロとの戦いの緊急性を重視することなく、専ら心情的な拉致問題のドメスティックな心情に依拠して人気を作り出してきた安倍にとって、これは致命傷となる公算大で、これは町村外相としても防ぎようがないのではあるまいか。

 こうして、安倍改造内閣は何が何だか分からないような政権である。根本的には、小泉政権がそもそも自民党にとって“最後の切り札”であったのに、その後にもう1枚、最後の最後の切り札なぞあるはずがなかったという状況の中で何とか足掻かざるをえなかったのが安倍政権であり、それが遠からず終わって次の総選挙で民主党政権が実現することで、それが何ぼのものであるかは別として、日本の民主主義は一歩前進することになるのえある。▲

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