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INSIDER No.404《SUB-PRIME》サブプライム問題ごときでなぜ世界がガタガタするのか?──電子的金融カジノのふしだらさ

 米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライム・ローン)の焦げ付きという些細な問題をきっかけに、全世界の資本・株式・為替市場がたちまち混乱に陥り、相乗的な下落スパイラルに填り込みかねない不安に晒されている。複雑系理論で言う「北京の蝶(が羽ばたくとニューヨークでハリケーンが起きる)」モデルを絵に描いたようなこの不思議な光景から透けて見えるのは、いきなり結論を言えば、電子化された金融カジノによって徒に消費と投資を煽るアメリカ帝国のみせかけの繁栄を、もはや世界がいつまでもアテにしているわけにはいかなくなってきたという大きな時代の流れである。

●消費の蟻地獄

 サブプライム・ローンの残高は約1兆3000億ドル(約147兆円)で、決して少ない額ではないが、それでも全米の住宅ローンの10%を占めるにすぎない。その焦げ付き比率が4年半ぶりに上昇して15%程度まで達したというのが今回の問題の発端で、それは確かに憂慮すべきことではあるけれども、世界を揺るがすような話ではない。サブプライム・ローンは元々、普通なら銀行にローンを組んで貰えない低所得者層や過去にクレジットの支払い遅延を起こしてブラックリストに載ってしまっている人たちに、無理矢理にでもマイホームを建てさせようという狙いで住宅金融会社などが通常よりも2〜4%高い金利で提供してきたもので、その金利の高さにすでにリスクの大きさが織り込まれている。しかも、最初から高金利では敷居が高いので、当初は5〜7%程度に金利を抑えて借り易くしておいて、3年後から10〜15%に跳ね上がるように設計してあって、当然それ以降に返済が続かない人が出てくることもまた想定内であったはずなのだ。

 米経済の好調を支えてきたのは旺盛な個人消費で、その推進力となってきたのは住宅建設である。その住宅建設ブームに低所得者層までも引っ張り込んでさらに住宅消費を掻き立てようとするための奸計がサブプライム・ローンであり、それが焦げ付き始めたというだけなら、まだ「住宅ローン問題」の範囲内である。しかし問題は、サブプライムが単に低所得者層の住宅消費への吸引口となっているだけではなく、さらにその住宅を担保にした別種のローンで使途自由な資金を手に入れて散財してしまうローン地獄への誘導路にもなっていることである。例えば「キャッシュアウト」は、住宅ローンを借り換える際に、残額を上回る融資を受けてその差額分を現金で受け取るもので、3000万円のサブプライムローンで建てた家があったとして、何年か経って半分返済して残額が1500万円になった時に、「これまで順調に返済してきたことだし、もう少し金利の有利なローンに乗り換えましょう。住宅価格が値上がりして担保価値も上がっているので、2000万円ご融資します。差額の500万円で、どうですか、新車を買ってご家族でメキシコ旅行でもなさったら」という話になる訳である。「ホーム・エクイティ・ローン」も似たようなもので、値上がりした住宅を担保にして、その時点での嵩上げされた査定価格から住宅ローン残高を差し引いた額の7〜9割に当たる使途自由の現金を融資されるもの。いずれも住宅バブルが続いていればこそ可能な、屋上屋を重ねるがごとき過剰融資で、こうした金融的な手品を媒介に住宅ブームが消費ブームに変換・拡張されて、「借りたいだけ借りて使いたいだけ使う」という米国式のふしだらな浪費癖が低所得者層まで巻き込んで膨張した。サブプライム問題は、米国的な過剰融資と過剰消費の相乗性の象徴なのであり、そこが躓くと米経済そのものが転びかねないのである。

●証券化=不可視化

 貸す方も借りる方もふしだらだが、金融側にはさらなるふしだらがあって、それがリスクを世界中に拡散させる。住宅金融会社は住宅ブームの行け行けドンドン気分の中で、それでなくとも危ないサブプライム・ローンの融資審査をますます甘くして顧客を増やし、しかもその取り立てに自ら責任を負うことなく、ローン債権を一括して証券会社などに売却してリスクを回避する。その時点で個々の顧客の顔は消え、従ってそれぞれのケースに応じたリスク対応策の必要性も失せて、リスクはあるが高利回り(であるはず)の抽象化された債権の塊となる。証券会社はサブプライムをはじめいくつかの住宅ローン債権を組み合わせて「住宅ローン担保証券(RMBS)」や、それを資産的裏付けとする「債務担保証券(CDO)」などのさらに抽象化された高配当の金融商品を世界中の投資家に販売するのだが、その高配当の元手はと言えば、大元のサブプライムの借り手が支払う利息であるけれども、それがどこでどうやって取り立てられるものなのかは既に誰にも見えなくなっていて、ただ高利回りの理論的可能性だけが売り買いされる。

 例えば、パリバの「高利回りですよ」との営業トークに誘われて金融商品を買ったフランスの投資家が、その商品を構成する多様な証券の中身など理解しているはずもない。パリバが運用するファンドは時価総額3600億ユーロ。そのうち米国の債務担保証券を組み込んだファンドは3種類、総額20億ユーロで、同証券の組み込み比率は3割程度にすぎず、その中でサブプライムが占める比率はさらに少ないだろうから、パリバの全ファンドの中でサブプライムは0.1%にも満たないはずである。それでも「サブプライムが危ない」と報道されただけで解約が殺到、同行は一時解約を凍結しなければならず、それが引き金になって欧州全体に不安が広がり、欧州中央銀行が緊急に流動性供給に走る事態にまで発展した。世界中の銀行やファンドが米国の高利回り証券をアテにしてカネを回しているから、ちょっとした不安が湧いただけで短期市場の銀行間資金調達からM&Aのための巨額な資金調達までがたちまち危なくなって、それが株式の下落や為替の変動にまで繋がっていくのが、金融資本主義の爛熟形態としての“ファンド資本主義”である。

 しかもその爛熟は、80年代に始まった金融の電子化とそれを通じた世界的一体化が、インターネットの普及とコンピューター技術のハード・ソフト両面の高速化・精緻化によって極限まで進んだ。70年代までは、カネは基本的にモノの取引の決済手段であって、世界の貿易総額の1割増程度の国際金融取引があったにすぎなかった。それが今では、モノの取引の何十倍ものカネが世界中に溢れかえって、しかも札束をスーツケースに入れて運搬する必要すらなくて、ただひたすら電子空間を数字が飛び交うだけでとてつもない利益や損失が刹那的に生まれたり消えたりしている。ディーラーのキーボードを叩く指の一瞬の遅れが何億ドルもの損失をもたらしたりするような、この万人参加の電子的金融カジノでは、「北京の蝶」などとシャレた言葉を使わなくとも、日本に昔からある「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざどおりの疑心暗鬼の思惑の神経衰弱症的な交錯が日常茶飯となる。

●世界政府?

 余談ながら、小学館『ことわざ大辞典』によると、この意味は「思いがけないところに影響が出ることのたとえ。また、あてにならないことを期待することのたとえ」で、原型は桶屋でなく箱屋だった。「今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば、世間にめくらが大ぶん出来る。そこで(盲人は三味線を習って身を立てるから)三味線がよふ売れる。そうすると猫の皮がたんといるによって世界中の猫が大ぶん減る。そふなれば鼠が暴れ出すによって、おのづから箱の類をかじりおる。そこで箱屋をしたらば大ぶんよかりそふなものじゃと思案は仕だしても、是も元手がなふては埒明ず」(『浮世間学者気質』)——これはサブプライム問題での世界中大慌ての様子そのものである。

 問題の根源は、モノから切り離されたカネが、その本来の無政府性を解き放たれて、際限もなく肥大化ながら奔放に世界中を駆けめぐって、銀行やファンドはもちろん各国の政府・中央銀行の誰もそれをコントロールすることが出来なくなっていることである。12日の「サンデー・プロジェクト」は第3コーナーで、中原伸之=元日銀審議委員、水野和夫=三菱UFJ証券チーフエコノミストをゲストに迎えて「世界同時株安」を論じたが、核心に触れ始めた辺りで時間切れとなってしまった。それで、終了後の化粧落としの間に私とゲストの間で交わされた禅問答風の会話。

高野「結局、サブプライム問題というのは単なる住宅ローン問題でなく、アメリカ経済の放埒の象徴なんですよね」
水野「そうです。カネ、カネ、カネの欲望がどこまでも広がる」
高野「マネーの無政府性が解き放たれて誰も制御できない」
水野「だから、世界中央銀行が必要なんですね」
中原「いや、そうなると税もやらないと」
高野「あ、世界政府ですか」
中原「そう」

 世界政府は究極のソリューションには違いないが、それが出来るまでの間、世界は米国を頼りにせずに生きる術を身につけなければならない。▲

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